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解説記事2020年03月02日 特別解説 IFRS第16号「リース」に基づく開示~IFRS任意適用日本企業の事例~(2020年3月2日号・№825)

特別解説
IFRS第16号「リース」に基づく開示
~IFRS任意適用日本企業の事例~

はじめに

 2019年1月1日以後に開始する事業年度から、いよいよIFRS第16号「リース」の適用が開始された。本稿では、IFRS第16号を早期適用した数少ない日本企業であるサッポロホールディングス(株)の2018年12月期の有価証券報告書における開示を中心に、具体的な開示内容を見ていくこととしたい。

IFRS第16号「リース」の概要

 まず、IFRS第16号の概要を見てみたい。IFRS第16号は、リースの借手及び貸手におけるリース契約の認識、測定、表示および開示の原則を定めた基準書である。IFRS第16号においてリースの借手は、現行の基準であるIAS第17号「リース」において定められていたファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分をせず、単一の会計モデルを使用することになる。借手はリースの開始日において、リース料に係る支払債務(リース負債)と対応するリース期間にリース資産を使用する権利を表す使用権資産を認識する。なお、IFRS第16号では、企業はリース期間を、リースの解約不能期間に、リースを延長するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使することが合理的に確実である場合)とリースを解約するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使しないことが合理的に確実である場合)を加えたものとして決定しなければならないとされている(第18項)。その後、借手はリース負債から生じる利息費用と、使用権資産から生じる減価償却費を個別に認識する。ただし、短期リース又は少額リースである場合は、IFRS第16号の要求を適用しないことを選択することができる。貸手の会計処理は、現行のIAS第17号における貸手の会計処理と実質的に同じであり、貸手は、すべてのリースをIAS第17号における原則に基づいて分類して、オペレーティング・リース又はファイナンス・リースの2つのタイプに区分する。また、IFRS第16号において、借手と貸手はIAS第17号と比較してより多くの開示が求められる。なお、IFRS第16号により、リースの定義や契約がリース又はリースを含んだものであるかどうかについての判定も変更されている。IFRS第16号は2019年1月1日以降に始まる事業年度より適用され、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を適用する場合においては早期適用が認められる。また、IFRS第16号は、開示されるすべての期間に遡及的に適用する方法(完全遡及法)又は同基準の適用による累積的影響額を、適用日において認識する方法(修正遡及法)のいずれかにより適用される。

IFRS第16号が要求する開示事項

 IFRS第16号が要求する開示事項を借手と貸手に分けて示すと、次のとおりである。なお、表中の番号は、IFRS第16号の項番号である。

(借手に要求される開示)

開示領域 要求事項の概要
リースに関する定量的情報(一般的に表形式で) ・ 原資産の種類別の使用権資産の減価償却費(53(a))
・ リース負債に係る利息費用(53(b))
・免除規定を選択した場合の少額及び短期リース(1か月以内のリースを除く)に係る費用(53(c)(d))
・ 開示した費用が年度末のコミットメントとは異質なリースのポートフォリオを反映している場合の短期リースに関するコミットメント(55)
・ リース負債に含まれない変動リース料に係る費用(53(e))
・ サブリースからの収益(53(f))
・ リースに関するキャッシュ・アウトフロー合計(53(g))
・ 使用権資産の増加(53(h))
・ セール・アンド・リースバック取引による利得又は損失(53(i))
・報告期間の末日現在における原資産の種類別の使用権資産の帳簿価額(53(j))
・ リース負債の満期分析(58)
・ 投資不動産である又はIAS第16号に基づいて再評価される使用権資産に関する追加的な情報(56,57)
開示目的を満たすために必要な追加の定性的情報及び定量的情報(59) ・ リース活動の性質(59(a))
・以下から生じるエクスポージャーを含め、借手に発生する可能性がある将来キャッシュ・アウトフローのうち、リース負債に反映されていないもの:(59(b))
 ・変動リース料(59(b)(i))
 ・延長及び解約オプション(59(b)(ii))
 ・残価保証(59(b)(iii))
 ・まだ開始していないリース(59(b)(ⅳ))
・ リースにより課される制限又は特約(59(c))
・ セール・アンド・リースバック取引(59(d))

(貸手に要求される開示)

開示領域 要求事項の概要
ファイナンス・リース(一般的に表形式で) ・ 販売損益(90(a)(i))
・ 正味リース投資未回収額に係る金融収益(90(a)(ii))
・ 正味リース投資未回収額の測定に含まれていない変動リース料に係る収益(90(a)(iii))
・正味リース投資未回収額の著しい変動に関する定性的及び定量的な説明(93)
・ リース債権の満期分析(94)
オペレーティング・リース(一般的に表形式で) ・ 指数又はレートに応じて決まらない変動リース料に関する収益を区分して開示しているリース収益(90(b))
・ 原資産について該当がある場合、以下の基準における関連する開示
 ・種類別に分解した有形固定資産のリースについてはIAS第16号「有形固定資産」(95)
 ・ IAS 第36 号「資産の減損」、IAS 第38 号「無形資産」、IAS 第40 号「投資不動産」及びIAS第41号「農業」。(96)
・ リース料の満期分析(97)
・ 開示目的を満たすために必要なリース活動に関する以下の追加的な定性的情報及び定量的情報が含まれるが、これらに限らない(92):
 ・リース活動の性質(92(a))
 ・原資産に対して保持している権利に関連したリスクをどのように管理しているか(92(b))

サッポロホールディングス(株)が2018年12月期の有価証券報告書で行った開示

 サッポロホールディングス(株)が2018年12月期の有価証券報告書で行った開示は、次のとおりであった。

・使用権資産
 使用権資産の内訳は、以下のとおりであります。

・使用権資産に関連する損益
 使用権資産に関連する損益は、以下のとおりであります。

・変動リース料(借手側)
 グループ中の不動産リースの一部は、店舗から生み出される売上高に連動する支払条件を含んでおります。変動支払条件は、支払賃料を店舗のキャッシュ・フローと連動させ、固定費を最小限にするために使用されております。店舗ブランド別の固定賃料及び変動賃料(グループ外からの賃貸等)は以下のとおりであります。
(前連結会計年度分は省略)

・延長オプション及び解約オプション(借手側)
 当社グループにおいては、各社がリース管理に責任を負っており、リース条件は個々に交渉され、幅広く異なる契約条件となっております。延長オプション及び解約オプションは、主に店舗及び倉庫に係る不動産リースに含まれており、その多くは、1年間ないし原契約と同期間にわたる延長オプション、また、6か月前までに相手方に書面をもって通知した場合に早期解約を行うオプションとなっております。なお、これらのオプションは、リース契約主体が不動産を事業に活用する上で、必要に応じて使用されております。

・残価保証(借手側)
 当社グループは、自動販売機及び工場設備をリースしております。これらのリースについては、契約期間の終了時に使用権資産の残存価額を保証しております。残価保証による支払予定額は、以下のとおりであります。

・セール・アンド・リースバック取引(借手側)
 当社グループは、保有資産の有効活用の観点から、当連結会計年度において国内酒類事業における群馬工場(木崎)の土地及び建物を売却することで資金化し、土地の一部について10年間ないし50年間、建物について10年間リースバックする取引を実施いたしました。契約期間終了時の再購入オプションはありません。当該セール・アンド・リースバック取引から生じた利得又は損失は重要ではありません。

・ファイナンス・リース(貸手側)
 正味リース投資未回収額に対する金融収益及び変動リース料に係る損益は、以下のとおりであります。

・満期分析(貸手側)
 当社グループは、主に不動産をリースに供しております。
 リース料債権の期日別残高及びオペレーティング・リース取引におけるリース料の満期分析は、以下のとおりであります。
(移行日及び前連結会計年度分に係る開示は省略)

・リスク管理戦略(貸手側)
 物件の原状回復費用の確実な回収のために敷金を受け入れております。

Jフロントリテイリング(株)が2019年2月期第一四半期の四半期報告書において行った開示

 Jフロントリテイリング(株)が2019年2月期第一四半期の四半期報告書において行った開示は、以下のとおりである。

 前連結会計年度末現在でIAS第17号を適用して開示したオペレーティング・リース契約と連結財政状態計算書に認識した適用開始日現在のリース負債の調整表は、以下のとおりであります。

 また、当社グループは、IFRS第16号を適用するにあたり、以下の実務上の便法を使用しております。
・減損レビューを実施することの代替として、リースが適用開始日直前においてIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」を適用して不利であるかどうかの評価に依拠
・適用開始日から12か月以内にリース期間が終了するリースについて、短期リースと同じ方法で会計処理
・当初直接コストを適用開始日現在の使用権資産の測定から除外
・延長又は解約オプションが含まれている契約について、リース期間を算定する際などに、事後的判断を使用

 なお、IFRS第16号における実務上の便法は、上記の4つに加えて、「特性が類似したリースのポートフォリオに単一の割引率を適用する。」の合計5つが規定されている(C10項)。
 さらに、「重要な会計上の見積り及び判断」の開示として、Jフロントリテイリング(株)は、以下のような記載を行っている。

・使用権資産のリース期間
 当社グループは、リース期間について、リースの解約不能期間に、延長することが合理的に確実である期間、及び、解約しないことが合理的に確実な期間を加えた期間を加味し決定しています。具体的には、リース期間を延長又は短縮することによる賃借料の変動、解約違約金の有無、重要な賃借物件の造作設備等の投資回収期間を考慮の上、リース期間を見積っております。
 百貨店事業における借手の不動産リースについては、各店舗ごとに、次回の大規模改装計画発生時又は次期中期経営計画決定時等にリース期間の見直しを行う可能性があります。リース期間の見直しが必要となった場合、翌期以降の連結財務諸表において認識する金額に重要な影響を与える可能性があります。

 なお、Jフロントリテイリングが適用開始日現在の連結財政状態計算書に認識しているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均は、1.8%と開示されている。追加借入利子率の加重平均は1%中盤から後半と開示している企業が多いが、日本たばこ産業(4.0%)や日本製鉄(0.5%)のような事例もあり、企業によってかなりのばらつきがみられた。

(株)トリドールホールディングスとユニー・ファミリーマートホールディングス(株)が行った開示

 (i)適用開始日の直前の事業年度の末日現在でIAS第17号を適用して開示したオペレーティング・リース約定(C8項(a)に記述した適用開始日現在の追加借入利子率で割引後)と(ii)適用開始日現在の財政状態計算書に認識したリース負債の差額が特に大きかったトリドールホールディングスとユニー・ファミリーマートホールディングスは、それぞれの第一四半期報告書において、以下のような開示を行っていた。

(株)トリドールホールディングスが行った開示(2020年3月期第一四半期)
 リース負債を測定する際に、当社グループは、2019年4月1日現在の追加借入利子率を用いてリース料を割り引きました。適用した追加借入利子率の加重平均は、0.58%です。

ユニー・ファミリーマートホールディングス(株)が行った開示(2020年2月期第一四半期)
 前連結会計年度末現在でIAS第17号を適用した開示したオペレーティング・リース契約と連結財政状態計算書に認識した適用開始日現在のリース負債の調整表は以下のとおりであります。

 差異の最大の原因となっている「行使することが合理的に確実な延長又は解約オプション」や「解約可能オペレーティング・リース契約等」の具体的な内容(決定した方法)については特に開示されていなかった。

終わりに

 今後、IFRS任意適用日本企業による2019年12月期、及び2020年3月期の有価証券報告書が公表されることになる。四半期報告書の場合には、年度の有価証券報告書と比べると要求される開示項目が限られることから、特に本稿で取り上げた各社が、今後公表する有価証券報告書において、リースに関連してどのような開示を行うのか、そして、四半期報告書での開示よりも、どの程度より詳細な開示がなされるのかといった点にも注目したい。

参考文献
太陽有限責任監査法人 IFRSニュース特別号 2016年2月 「グローバルなリース会計の大規模な改革」

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