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解説記事2020年03月09日 未公開判決事例紹介 法人税法132条の2を巡る控訴審判決も納税者が敗訴(2020年3月9日号・№826)

未公開判決事例紹介
法人税法132条の2を巡る控訴審判決も納税者が敗訴
東京高裁、組織再編税制の基本的考え方を重視

 読者からの反響が大きかった本誌816号(2019.12.23)84頁(及び今号8頁)で紹介した法人税法132条の2による否認を巡る事件の判決全文について、仮名処理した上で紹介する。

○法人税法132条の2による否認の是非が争われた事件。控訴人(納税者)は「完全支配関係下の適格合併には事業継続要件が法令上要件とされていない」点を強調して新たな主張を展開したが、東京高裁(深見敏正裁判長)は、原審の東京地裁と同様、「完全支配関係下の適格合併にも、組織再編税制の基本的な考え方から事業の継続が想定されている」という地裁判決と同様の判断を示し、納税者の控訴を棄却した。(令和元年12月11日、棄却)

主  文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 処分行政庁が控訴人に対して平成27年6月26日付けでした、①控訴人の平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額0円を超える部分、納付すべき税額マイナス6460万3514円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金5億2375万2652円を下回る部分、並びに②過少申告加算税賦課決定処分を、いずれも取り消す。
3 処分行政庁が控訴人に対して平成27年6月26日付けでした、①控訴人の平成22年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額21億7343万5852円を超える部分、納付すべき税額3億1843万3800円を超える部分、並びに②過少申告加算税賦課決定処分のうち87万7000円を超える部分を、いずれも取り消す。

第2 事案の概要(略語は、新たに定義しない限り、原判決の例による。以下、本判決について同じ。)
1 事案の要旨

(1)本件は、控訴人が、合併の効力発生日を平成22年3月1日として、その完全子会社である◎◎◎◎株式会社(平成2年3月20日設立。自動二輪車用アルミホイール製造事業〔本件事業〕を営んでいた。旧T社)を被合併法人とする適格合併(平成22年法律第6号による改正前の法人税法2条12号の8。本件合併)を行い、旧T社が有していた未処理欠損金額(本件未処理欠損金額)を同法57条2項の適用により控訴人の欠損金額とみなして損金の額に算入し、法人税の確定申告をするなどしたところ、処分行政庁から、本件未処理欠損金額を控訴人の損金の額に算入することは控訴人の法人税の負担を不当に減少させる結果となるとして、同法132条の2の適用により、平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度(平成22年3月期)に係る法人税の更正処分(平成22年3月期更正処分)及び同年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度(平成23年3月期)に係る法人税の更正処分(平成23年3月期更正処分)並びにこれらの各更正処分(本件各更正処分)に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)を受けたことから、上記の損金算入を認めなかったことは違法であると主張して、これらの処分(本件各更正処分等)の一部の取消しを求める事案である。
  なお、本件では、平成22年2月16日に◎◎◎◎株式会社(新T社)が設立され(本件設立)、本件合併に伴い、控訴人は、同年3月1日付けで、旧Tの従業員を新T社に転籍させ(本件転籍)、旧T社から承継した本件事業に係る棚卸資産等を新T社に譲渡し(本件譲渡)、また、控訴人が旧T社から承継した本件事業に係る製造設備等を新T社に賃貸する(本件賃貸借)などした。さらに、控訴人は、同日付けで、新T社との間で取引基本契約を締結して取引品の価格改定(本件単価変更)を実施する旨を通知し、仕入数量に応じた仕入単価の決定方法を導入することとした。
(2)原審は、法人税法は、個別的な否認規定である同法57条3項の適用が排除される適格合併についても同法132条の2が適用されることを予定しているものと解されるところ、本件では、本件合併とともに本件設立、本件転籍、本件譲渡及び本件賃貸借により、実態としては、旧T社が営んでいた事業はほぼ変化のないまま新T社に引き継がれ、控訴人は、旧T社の有していた本件未処理欠損金額のみを引き継いだに等しいから、本件合併は、通常想定されない組織再編成の手順や方法に基づき、実態とは乖離した形式を作出するものであって、その態様が不自然なものであること、本件未処理欠損金額の引継ぎによって控訴人の法人税の負担を減少させること以外に本件合併を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事情があったとは認められないことからすると、本件合併は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであり、同法57条2項の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものであるから、同法132条の2所定の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるということができるなどとして、本件各更正処分等は適法であるとし、控訴人の本件請求をいずれも棄却した。
  これに対し、控訴人が本件控訴を提起した。
2 関係法令の定め、前提事実、本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被控訴人の主張、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決7頁23行目の「同社」を「新T社」と改め、原判決別紙2の原判決65頁16行目末尾に改行の上、本判決添付の「別紙」のとおり付加し、同頁17行目の「3」を「4」に改め、当審における当事者の主張を後記3のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2・1及び2、第3並びに第4(原判決2頁18行目から40頁19行目まで。別紙2及び別紙3並びに別表1、別表21及び別表22を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における当事者の主張
(1)争点(1)(特定資本関係が合併法人の当該合併に係る事業年度開始の日の5年前の日より前に生じている場合に法人税法132条の2を適用することができるか否か)について
(控訴人の主張)

ア 本件合併のように、特定資本関係(いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係)が合併法人の当該合併に係る事業年度開始の日の5年前の日より前に生じているという要件(特定資本関係5年超要件)を満たす適格合併であり、かつ、損金算入する未処理欠損金額がいずれも特定資本関係成立後に生じたものであり、さらに、被合併法人が、発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係(完全支配関係)下にある間に発生した未処理欠損金額を損金算入する場合については、経済実態上、法人税法132条の2が適用される類型とはいえない。特に経済実態については、未処理欠損金額の引継ぎは、合併法人が従前負担してきた過大な課税所得に基づく法人税の負担を、本来負担すべきであった適正な法人税額へと調整することを意味するにすぎない。
イ 法人税法57条3項は、グループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であり、同条2項による未処理欠損金額の承継の否認とその例外の要件を全て書き尽くし、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたものである。このことは、平成13年度税制改正における組織再編税制の検討過程、欠損金の繰越期間の延長にもかかわらず、5年の要件が維持されたことからも明らかである。仮に、文理上の問題を措くとしても同法57条3項の趣旨及び構造に照らして、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併が未処理欠損金額の引継ぎを否認すべきでない類型であることは明らかである。
ウ 特定資本関係成立後の未処理欠損金額の引継ぎを否認する規定は法人税法57条の2のみであり、これが適用されない場合に、特定資本関係成立後の未処理欠損金額の引継ぎをも制限するような形で同法132条の2を適用することはおよそ想定されていない。同法57条の2が適用されないような類型が、一般に未処理欠損金額の引継ぎを否認すべきでない類型であることも明らかである。
エ 法人税法57条2項は、組織再編成に係る未処理欠損金額の引継ぎについて、適格要件による規律を行っており、適格合併の要件を規定する同法2条12号の8イによれば、合併法人と被合併法人の間に完全支配関係がある場合は、その他の場合とは異なり、事業継続要件は必要とされていない。完全支配関係が継続していることは、そのことのみをもって未処理欠損金額の引継ぎを利用した租税回避のおそれがない類型であることを意味するから、同法132条の2の適用はない。
オ 本件は、法人税法132条の2の適用を認め、未処理欠損金額の引継ぎを否定した最高裁平成27年(行ヒ)第75号同28年2月29日第一小法廷判決・民集70巻2号242頁(平成28年最判)と事案を異にし、① 特定資本関係5年超要件という客観的な数値で明瞭に定められた未処理欠損金額承継のための要件を充足し、② 完全支配関係も5年超の間充足し、③ 損金算入した未処理欠損金額は、控訴人・旧T社間に完全支配関係が成立して以後、経済的に完全に一体であった控訴人向けの製品販売によって発生したものであり、要するに、控訴人は、経済的に自己と一体である完全子会社で発生した未処理欠損金額を利用したにすぎない。本件の経済実態に照らせば、法人税法132条の2の適用は排除されるべきである。
カ また、本件合併による未処理欠損金額の引継ぎは、従前、旧T社の控訴人に対するアルミホイール販売価格が控訴人に過度に有利に設定されていたために控訴人が負担した過大な課税所得に基づく法人税の負担を、本来、控訴人が負担すべきであった適正な法人税額へと調整することを意味する。
(被控訴人の主張)
ア 法人税法132条の2の規定上、組織再編成に係る特定の行為又は計算につき、特定の場面を同条の適用対象から除外する定めはない。組織再編成に係る租税回避行為は、その複雑性、多様性から、全てを防止する規定を個別に設けることは不可能であり、法人税法132条の2が税負担の公平を維持する目的で包括的租税回避防止規定として設けられたことからすると、同条の解釈として、同条の適用が排除されるべき類型を一般論的に観念することも相当でない。
イ 個別的否認規定である法人税法57条3項の要件に該当しない特定資本関係5年超要件を充たす適格合併について、法人税法132条の2の規定の文言上、その規定の適用を除外する規定は設けられておらず、その立法趣旨等からしても、前記適格合併に同条の適用が排除されると解すべき理由はない。
  法人税法57条3項は、典型的な租税回避行為として個別具体的に想定し得たグループ外の法人が有する未処理欠損金額等を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であり、未処理欠損金額等を利用したあらゆる租税回避行為を前提とした規定ではない。
ウ 法人税法57条の2は、欠損金を有する法人を買収した上で利益の見込まれる事業をその法人に移転することによって課税所得を圧縮するという、定型化し、かつ多発化してきた租税回避行為を防止するために設けられた個別的否認規定であり、これに該当しない限り、特定資本関係発生後に生じた未処理欠損金額の引継ぎ等を常に容認することを認めた規定ではないから、同条に該当しないことは、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併に対する同法132条の2の適用を排除する効果を有するものではない。
エ 控訴人の主張する「経済的、実質的に完全に一体」というものが、どのような事実状態をいうのか、その意義は明らかではなく、また、そのようにいえることで、なぜ、完全支配関係が継続していることのみをもって未処理欠損金額の引継ぎを利用した租税回避のおそれがないといえるのかも定かではない。法人税法132条の2は、独立した納税義務者である個別の法人の法人税の負担につき「不当に減少させる結果となると認められる」か否かを問題とする規定であり、別個に独立した各法人の課税関係について、明確な法令上の根拠もなく「一体」とすることは許されない。
  組織再編税制の基本的考え方は、完全支配関係がある場合の適格合併であっても、合併前後で「経済実態に実質的な変更がない」ことを前提としており、合併により被合併法人の事業が合併法人へ移転し、当該合併後に当該合併法人において引き続き営まれることを前提にしていることは明らかである。したがって、法人税法132条の2の適用については、基本的考え方を踏まえ、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かといった観点から判断すべきである。
オ 法人税法132条の2の適用の有無は、一事例である平成28年最判の事案との個別事情の差異によって判断されるものでもない。
カ 控訴人は、本件合併による未処理欠損金額の引継ぎは、適正な法人税額への調整である旨主張するが、そもそも納税者において「適正な法人税額」を恣意的に設定し、当該「適正な法人税額」に整合するように減額調整すること自体、租税回避そのものであり、租税の公平負担の見地から許されない。控訴人と旧T社は、基本契約に基づいて取引を行い、これによって生じた利益の額に基づき計算された法人税額を適正なものとして法人税の確定申告を行っていたのであるから、控訴人の法人税が過大であったと認める根拠はなく、何をもって適正な法人税額とするのかも明らかではない。
(2)争点(2)(本件合併が法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか否か)について
(控訴人の主張)

ア 平成28年最判と本件では事案を異にし、本件合併による未処理欠損金額の引継ぎは、控訴人が負担してきた過大な課税所得に基づく法人税の負担を本来控訴人が負担すべきであった適正な法人税額へと調整することを意味するにすぎず、このような経済実態に鑑みれば、控訴人が本件合併により本件未処理欠損金額を引き継ぐことは、法人税の負担を不当に減少させるものではない。
イ そもそも法人税法は、組織再編成に係る課税関係のうち、① 組織再編成を行う法人における移転資産等に係る譲渡損益に対する課税繰り延べの可否、② 組織再編成の対価を受ける株主におけるみなし配当課税の有無などについて、法人が行った組織再編成が一定の要件(税制適格要件)を充足するか否かによって規律をし、同法57条2項は、適格合併が行われた場合には、同条3項の適用がない限りは、被合併法人の有する未処理欠損金額の引継ぎを認めている。そして、適格合併について定める同法2条12号の8では、合併法人と被合併法人間に完全支配関係がある場合は、被合併法人の株主等に合併法人株式以外の資産が交付されないことという要件(金銭等不交付要件)のみを充たせば足りるものとされ(同号イ)、従業者引継要件及び事業継続要件は必要とされない。これは、立法過程において、完全支配関係がある場合には、「資産の移転が独立した事業単位で行われること」及び「組織再編成後も移転した事業が継続すること」との要件を緩和することも考えられるとされ、そのように適格合併の要件が立法化されたことによる。したがって、完全支配関係での合併では、金銭等不交付要件が唯一の税制適格要件とされているのであるから、完全支配関係での合併では、「移転資産に対する支配の継続」及び「事業の継続」は求められていないと解するほかない。仮に、完全支配関係での合併における未処理欠損金額の引継ぎにつき、「移転資産に対する支配の継続」及び「事業の継続」が求められていると解しても、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間の組織再編成では、元々、合併当事者は経済的、実質的に完全に一体であったから、金銭等不交付要件を充たせば、「移転資産に対する支配の継続」及び「事業の継続」も充足されるとの解釈で税制適格要件が定められたものといえる。
  完全支配関係にある法人間の合併について、他の類型の合併と同様に、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定する解釈は、前記の立法過程と整合しない上、支配関係において明文で税制適格要件として定められている事業継続要件について、完全支配関係においてもこれを充たすことが必要であるという解釈は、課税要件明確主義に反し、納税者の予測可能性を著しく害するものであって妥当でない。法人税法は、経済的実質的に完全に一体であった法人間の合併については、金銭等不交付要件の充足で足りることして税制適格要件を定めたと解するのが、税制適格要件に係る条文の解釈及び立法過程に照らして自然である。
ウ 本件合併が不自然なものであるかどうかを検討するには、その全体像が考慮されなければならない。また、本件単価変更については、本件合併によって新T社を本件製造設備等の減価償却費の負担から解放しようとしたものの、新T社の従業員をして原価率を意識させ生産効率を保つ目的で本件賃貸借が行われることとなったため、本件賃貸借による損失負担のリスクから新T社を解放するために実施された施策である。前記経緯と本件単価変更の内容を併せれば、本件単価変更は、本件合併そのものの効果を維持するための施策である。そして、一般的否認規定である法人税法132条1項と同様、同法132条の2における「不当」性の判断においても、会社の経営判断に基づく行為又は計算が相応の経済的合理性を有する方法と認められる限りはこれを尊重すべきであるから、税務署長が立ち入って検討することは、課税要件の明確性や予測可能性を害し、適法な経済活動を委縮させるおそれを生じさせるものである。
  また、本件単価変更により、実質的には控訴人が旧T社の従業員を雇用し、本件製造設備等の減価償却費を負担したのと変わらない上、本件合併により、旧T社から、事業にとって重要であり資産合計額の90%を占める製造設備や固定資産等を承継し、その減価償却費、固定資産税及び減損損失を負担することとなった。これは、本件合併に伴う諸施策によってもなお控訴人が本件事業の赤字リスクを負担していることを意味する。
  そして、本件各更正処分等は、法人税法132条の2により否認する場合に必要となる適切な引直しをしていない。被控訴人は、本件合併及び一連の施策と同一の結果となるより迂遠ではない手段を明らかにせず、本件合併及び一連の諸施策が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法であることの十分な主張立証もしていない。
エ 本件合併には、当初から、本件事業の損益状況の改善を図るという合理的な事業目的が存し、これが達せられなくなった事実はない。本件では、本件賃貸借によってもなおこれを達成できるよう、本件単価変更を行った経緯があり、新T社に本件製造設備等の減価償却費相当額を実質的に負担させる方針が採用されたことはない。控訴人の経営陣による経営判断の合理性に税務署長が容喙するのは相当でない。
オ 以上のとおりであるから、本件合併は法人税の負担を不当に減少させるものとはいえない。
(被控訴人の主張)
ア 法人税法132条の2の不当性要件については、考慮要素(原判決第4・3(1)ア)を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当であり、平成28年最判の事案との個別事情の差異によって判断されることではない。
イ 納税者において「適正な法人税額」を恣意的に設定し、当該適正な法人税額に整合するように減額調整することが許されるという発想自体誤っている。控訴人は、旧T社と基本契約を締結し、これに基づいて取引を行っていたのであり、控訴人は、当該取引によって生じた利益の額に基づき計算された法人税額を適正なものとして法人税の確定申告を行っていたのであって、更正請求もしていないから、控訴人の法人税が過大であったとは認められない。別個独立した法人の課税関係について、明確な法令上の根拠もなく、一体として捉えて法人税法132条の2の当てはめをすることは許されない。控訴人と旧T社との取引により旧T社に損失が生じていたとしても、当該損失又はこれに起因した欠損金を直ちに控訴人のものとして法人税額を計算する法的根拠はなく、これをもって控訴人が負担すべきであった適正な法人税と評価すべき根拠もない。
ウ 完全支配関係下の適格合併について事業継続要件(法人税法2条12号の8ロ(2))が付加されていないのは、元々経済的に同一であったものを合体するにすぎないとの考え方から、「事業の継続」の程度として、発行済株式等の総数の100分の50を超え、かつ、100分の100に満たない数の株式を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係(支配関係)がある場合の適格合併と同じ要件は求められていないことを意味するにとどまる。適格合併に係る要件の形式的な比較によって、組織再編前後で「経済実態に実質的な変更がない」場合(被合併法人の営む「事業の継続」がある場合)に課税関係の引継ぎを認めるという組織再編税制の基本的考え方が当てはまらないという解釈を導くことはできない。従業者引継要件(法人税法2条12号の8ロ(1))及び事業継続要件(同号ロ(2))は、個別具体的な要件であって、組織再編税制の基本的な考え方を余すところなく表現して規定したものではないから、完全支配関係がある場合の適格合併の要件が、支配関係がある場合の適格合併の要件よりも緩和されたものであっても、「合併により被合併法人の事業が合併法人へ移転すること」が従前の課税関係の引継ぎの前提であることに変わりはない。
エ 前記のとおり、組織再編前後で経済実態に実質的な変更がない場合(被合併法人の営む「事業の継続」がある場合)に課税関係の引継ぎを認めるという組織再編税制の基本的な考え方は、完全支配関係がある場合の適格合併にも当てはまる上、法人税法132条の2の適用に係る濫用の有無の判断に当たっては、行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したか否か(租税回避の意図)、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様か否か(趣旨目的からの逸脱)も検討されるから、その関係者にとって、組織再編税制に係る各規定が適用されるべき事案か否かは、その行為自体により明らかに認識し得るものであり、予測可能性や法的安定性の確保を害するものでもない。
  本件合併は、通常想定されない組織再編成の手順方法に基づくものであり、実態とは乖離した形式を作出するもので、態様が不自然であり、かつ、旧T社の未処理欠損金額の引継ぎによって控訴人の法人税の負担を減少させること以外に合理的な理由といえるような事業目的その他の事情があったとは認められないから、租税回避の意図の存在が推認される。また、旧T社及び控訴人の担当者、役員においても、メールや会議資料で節税効果に言及されていたから、控訴人の経営陣において租税回避に係る認識も十分にあった。よって、同法132条の2を適用したとしても、予測可能性や法的安定性の確保を害するものではない。
オ 本件では旧T社の未処理欠損金額の引継ぎのために旧T社の合併を必須のものとするからこそ、合併によって生ずる控訴人の不都合(旧T社の従業員に係る人件費の増加)を解消し、その解消手段によって生ずる更なる不都合等(新T社が経営責任を負わなくなることや同社の損益が改善しないこと)を解消するために、一連の施策が、順次付加されたものにすぎず、損益構造の改善等を目的として行ったとはいえない。
  本件単価変更後も、製造現場では、生産の効率の変動により新T社に損益が帰属することになるから、本件事業が控訴人において継続しているとはいえない。控訴人が負担していると主張する赤字のリスクも判然とせず、そのことで本件合併が事業の移転及び継続という実質を備えているともいえない。
  法人税132条の2の不当性要件を充足した場合に、その効果として行われる税務署長による法人税の課税標準等の計算とは、税負担の不当な減少を排除するために必要な限度で行うことと解される。よって、控訴人の法人税の課税標準等は、本件未処理欠損金額の引継ぎを認めず、控訴人の欠損金額とみなすことなく計算することになり、本件各更正処分等及び原判決の課税標準等の計算に誤りはない。
カ 「本件事業に係る損益構造の変更」は、控訴人と旧T社との間で本件単価変更と同様の単価変更を行うことにより達成することができたから、これを本件合併の主たる目的ということはできず、主たる目的は、本件未処理欠損金額の引継ぎにあったとみるのが相当であり、税負担の減少以外に本件合併を行うことの合理的理由となる事業目的その他の事業目的が存在するとは認め難い。
  また、税務署長は、会社の経営判断による行為計算が、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、法人税法132条の2に基づき、当該行為計算を否認できるというべきである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原判決と同様、本件各更正処分等は適法であるから、控訴人の本件請求はいずれも棄却すべきものと判断する。
  その理由は、原判決51頁18行目の「しかしながら、」の次に「証拠(乙27ないし29)によれば、」を加え、原判決56頁7行目の「組織再編成税制」を「組織再編税制」と改め、当審における当事者の主張に対する判断を後記2のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第5・1ないし4(原判決40頁21行目から60頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1)争点(1)について

ア 控訴人は、本判決第2・3(1)(控訴人の主張)アのとおり、本件合併のような合併は、法人税法132条の2が適用される類型とはいえないとし、同イのとおり、法人税法57条3項は、同条2項による未処理欠損金額の承継の否認とその例外の要件を全て書き尽くしたものであり、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたものであるなどと主張する。
  しかしながら、本判決で付加訂正の上引用する原判決(以下「原判決」という。)が第5・2(1)で判示するとおり、法人税法132条の2の文言上、組織再編成に係る特定の行為又は計算を否認の対象から除外する定めはないこと、同条が、租税再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものであり、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものと解されること(平成28年最判参照)からすると、本件合併のような合併について、およそ法人税法132条の2の適用がないとする控訴人の主張は理由がない。
  また、原判決第5・2(2)で判示するとおり、法人税法57条3項自体、グループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であるにとどまり、未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為を前提として網羅的に定めたものとはいえないことや、同法57条3項において、その適用の有無を区別する特定資本関係5年超要件が、直ちに一般的否認規定の適用の有無に帰結するものとも解されないことからすると、同法57条3項が、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたと解することは困難である。控訴人は、税制改正の経緯において、特定資本関係5年超要件が欠損金額の繰越期間の延長にかかわらず維持されたことなども主張するが、税制改正に係る説明資料等(乙27ないし29、32)に照らし、前記改正の経緯において、同要件の検討が不可欠であったと認めることはできず、控訴人の主張を採用することはできない。
イ 控訴人は、特定資本関係成立後の未処理欠損金額の引継ぎを否認することができる法人税法57条の2が適用されない場合に、特定資本関係成立後の未処理欠損金額の引継ぎをも制限するような形で同法132条の2を適用することはおよそ想定されていないなどと主張する。
  しかしながら、前記2(1)アで判示した法人税法132条の2の組織再編成に係る租税回避を包括的に防止するという趣旨に加え、法人税法57条の2が、欠損金の繰越控除の仕組みを利用して、欠損金を有する法人を買収した上で利益の見込まれる事業をその法人に移転することで課税所得を圧縮するという類型の租税回避行為を防止する規定であるにとどまり、これに該当しない場合には常に未処理欠損金額の引継ぎ等を認めるものとはいえないことからすると、同法57条の2についても、これが一般的否認規定を未処理欠損金額の引継ぎに適用しない趣旨を明確にしたと解することはできない。よって、控訴人の主張を採用することはできない。
ウ 控訴人は、適格合併について、完全支配関係がある場合は、事業継続要件が必要とされていないから(法人税法2条12号の8イ、ロ(2)参照)、未処理欠損金額の引継ぎを利用した租税回避のおそれがない類型として、同法132条の2によって未処理欠損金額の引継ぎは否認されないなどと主張する。
  しかしながら、完全支配関係下の適格合併において事業継続要件(同法2条12号の8ロ(2))が求められていないのは、元々経済的に同一であった被合併法人と合併法人が合併する場合であるからであることを意味するにすぎず、また、証拠(乙21、23)によれば、組織再編税制の立案担当者も、適格合併においては、組織再編成前に行われていた事業が組織再編成後に継続することを前提にしている旨を説明していたことが認められるのであって、完全支配関係下の適格合併について、法人税法57条2項の趣旨において、およそ事業の継続が考慮されていないものと解することは困難であるものと考えられる。また、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止するという法人税法132条の2の前記の趣旨からすると、完全支配関係の金銭等不交付要件のみを充たせば、同法57条3項により個別に否認されない限り、同条2項により未処理欠損金額の引継ぎが認められると解することや、完全支配関係による適格合併が、一律に租税回避のおそれがない類型に当たると解することもできないというべきである。よって、控訴人の主張を採用することはできない。
エ 控訴人は、本件の経済実態は、平成28年最判と事案を異にしており、経済的に自己と一体である完全子会社で発生した未処理欠損金額を利用したにすぎず、また、当該引継ぎは、控訴人が負担した過大な課税所得に基づく法人税の負担を、本来、控訴人が負担すべきであった適正な法人税額へと調整することによる公正妥当な税務処理であるなどと主張する。
  しかしながら、法人税法132条の2は、平成28年最判も指摘するとおり、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものであるから、平成28年最判と事案を異にすることで、直ちに法人税法132条の2の適用を免れることにはならないことはいうまでもない。また、控訴人と旧T社は、本件合併前は独立した別法人として存在し、個別に納税義務を負担していたものであり、そうした法形式を選択したのも控訴人である以上、本件合併前にこれを一体的に捉えて過大な課税所得を負担したとする立論は、理由がない。以上の事実によれば、控訴人の主張は採用することはできない。
(2)争点(2)について
ア 控訴人は、本件は、平成28年最判と事案を異にしており、経済実態に照らせば、本件合併による未処理欠損金額の引継ぎは、控訴人が負担してきた過大な法人税の負担を適正な法人税額へと調整することを意味するにすぎないなどと主張する。
  しかしながら、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止するという法人税法132条の2の前記の趣旨に照らすと、本件が、平成28年最判と事案を異にするとしても、そのことから直ちに法人税法132条の2の不当性要件が否定されるものとはいえないことは前判示のとおりである。また、原判決第5・3(1)及び(2)が説示するように、同条の不当性要件の有無については、平成28年最判の判示する「租税回避の意図」の有無及び「各規定の趣旨目的からの逸脱」の有無の観点から検討すべきであり、後者の観点は、本件合併が、適格合併における未処理欠損金額の引継ぎ等について定める法人税法57条2項の趣旨目的から逸脱しているか否かの観点から検討するのが相当というべきである。
  なお、控訴人は、経済実態に照らせば、本件合併による未処理欠損金額の引継ぎは、過大な法人税額を適正なものへと調整するものであるなどとも主張するが、先にも判示したとおり、控訴人と旧T社とは、本件合併以前には独立した法人として存し、納税義務を負担していたのであり、これを一体として捉えて本件合併前の法人税額が過大であるとすべき法的根拠は明らかでなく、また、控訴人が主張する本件合併後の法人税額が適正であることについても、その根拠は明らかではないのであって、控訴人の主張は理由がない。
イ 控訴人は、法人税法57条2項は、組織再編成に係る未処理欠損金額の引継ぎについて、適格合併が行われた場合には、同条3項の適用がない限りは、引継ぎを認めており、適格合併では、完全支配関係がある場合は、金銭等不交付要件のみを充たせば足りるものとして、従業者引継要件及び事業継続要件を必要としていないから、これらを実質的に充足することを求めることは予測可能性を著しく害するなどと主張する。
  確かに、完全支配関係にある法人間の適格合併については(法人税法2条12号の8イ)、支配関係にある法人間の適格合併におけるような従業者引継要件及び事業継続要件(同条12号の8ロ)の定めは設けられていない。しかしながら、原判決第5・3(2)が説示するように、組織再編税制は、組織再編成の前後で経済実態に実質的な変更がなく、移転資産等に対する支配が継続する場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べで従前の課税関係を継続させるということを基本的な考え方としており、また、先に組織再編税制の立案担当者の説明を引用して判示したとおり、組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される。加えて、これも原判決が第5・3(2)で説示するとおり、支配関係にある法人間の適格合併については、当該基本的な考え方に基づき、前記の従業者引継要件及び事業継続要件が必要とされているものと解され、殊更に、完全支配関係にある法人間の適格合併について、当該基本的な考え方が妥当しないものと解することはできないから、当該適格合併においても、被合併法人から移転した事業が継続することを要するものと解するのが相当である。そして、これらの基本的な考え方等を踏まえれば、完全支配関係にある法人間の適格合併について、法人税法132条の2の適用の有無に関し、その不当性要件に係る租税回避の意図があるか否か、同法57条2項の趣旨目的から逸脱しているか否かについては、関係者において、当該行為自体から認識し検討することが可能というべきである。よって、完全支配関係にある法人間の適格合併について、事業の移転及び継続を含め検討すべきものとしても、納税者の予測可能性を害するものとはいえず、控訴人の主張を採用することはできない。
ウ 控訴人は、本件合併については、その全体像が考慮されなければならず、本件単価変更は、本件賃貸借による損失負担のリスクから新T社を解放し、本件合併そのものの効果を維持するための施策であって、経済的合理性のある経営判断を尊重すべきであるなどと主張する。
  しかしながら、原判決第5・1及び3(3)アによれば、本件合併においては、本件合併とともに、新T社の設立(本件設立)、旧T社の従業員の新T社への転籍(本件転籍)旧T社から控訴人が承継した本件事業に係る棚卸資産等の新T社への譲渡(本件譲渡)、旧T社から控訴人が承継した本件事業に係る製造設備等の新T社への賃貸借(本件賃貸借)がされたことがそれぞれ認められる。加えて、控訴人は、新T社との間の取引品につき本件単価変更を実施しているものの、原判決第5・3(3)アで判示したとおり、本件製造設備の所有権は控訴人に帰属したものの、減価償却費相当額は賃借料の名目で新T社が負担することになっており、本件単価変更は本件賃貸借による損失負担のリスクから新T社を解放するために実施された施策であるというべきである。このことを踏まえ、これを前記各方法と併せ考慮したとしても、本件単価変更を含む一連の施策が適格合併において通常想定される方法であるものといえるのか疑義があることからすると、本件事業が旧T社から控訴人に移転し、控訴人において、本件事業を継続しているものと評価することは困難であって、旧T社の本件事業は、ほぼ変化のないまま新T社に引き継がれ、控訴人は旧T社の本件未処理欠損金額を引き継いだのみに等しいという本件合併の実質が否定されることにはならない。そうすると、本件合併は、経済実態において実質的な変更がなく、移転資産等に対する支配が継続するものということはできないから、適格合併において通常想定されない手順や方法に基づくものであり、実態とは乖離した形式を作出するもので、不自然なものといわざるを得ず、控訴人の主張を採用することはできない。控訴人は、経営判断を尊重すべきとも主張するが、合理的根拠に基づくものとはいえない。
エ 控訴人は、本件各更正処分等は、法人税法132条の2により否認する場合における適切な引直しをせず、かつ、本件合併等と同一の結果となるより迂遠ではない手段も明らかにしていないから、本件合併等が、通常は想定されない手順や方法であることの立証をしていないなどと主張する。
  しかしながら、税務署長において、法人税法132条の2に基づき、組織再編成に係る行為又は計算を否認する場合には、当該行為又は計算により不当に減少している税負担の部分を排除するために必要な限度で課税標準等の計算を行えば足りるものと解されるから、本件では、本件未処理欠損金額の引継ぎを認めずに控訴人の法人税の課税標準等を算定すれば足りるというべきであり、控訴人の主張を採用することはできない。
オ 控訴人は、本件合併には、当初から、本件事業の損益状況の改善を図るという合理的な事業目的が存し、事実の全体像を捉えれば、本件賃貸借の実施にかかわらず、本件合併の目的は達せられる状況にあったが、合理的な経営判断により本件賃貸借及び本件単価変更が実施されたのであって、経営判断の合理性に、税務署長が容喙するのは相当でないなどと主張する。
  しかしながら、原判決第5・1及び3(3)イのとおり、本件合併、本件設立、本件転籍、本件譲渡、本件賃貸借及び本件単価変更等に係る一連の検討経過に照らすと、本件合併の検討においては、当初から会議資料やメールなどで本件未処理欠損金額の引継ぎによる節税効果が「メリット」、「ねらい」などとして指摘されていたこと、本件事業の損益状況の改善を図ることは、控訴人と旧T社間の取引品の単価を変更する等、本件合併以外の方法によることも可能であったと考えられることなどからすると、本件合併の主たる目的は本件未処理欠損金額の引継ぎにあり、そのこと以外に本件合併の一連の経過を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由の存在を認めることはできないといわざるを得ない。また、経営判断により本件賃貸借及び本件単価変更が実施されたとしても、税務署長が法人税法132条の2に基づき本件未処理欠損金額の引継ぎを否認することが許されないものということはできず、控訴人の主張は理由がない。
3 小括
 以上によれば、本件合併は、租税再編税制に係る法人税法57条2項を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると解され、税務署長は、同条に基づき、本件未処理欠損金額を控訴人の欠損金額とみなして損金の額に算入する計算を否認することができるというべきであり、本件各事業年度における法人税の額及び過少申告加算税の額の算定に違法な点も認められない。したがって、本件各更正処分等は適法であり、本件請求はいずれも理由がない。そして、その他、控訴人は種々主張するが、本件記録を検討しても、上記認定判断を左右するに足りる事由は認められない。

第4 結論
 よって、本件請求をいずれも棄却した原判決は、相当であり、本件控訴は理由がないから、棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 深見敏正
裁判官 菊池絵理
裁判官 齊藤充洋

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