解説記事2024年09月30日 第2特集 Q&Aで読み解く改正リース会計基準(2024年9月30日号・№1045)
第2特集
税制改正なら中小企業にも影響あり
Q&Aで読み解く改正リース会計基準
企業会計基準委員会(ASBJ)は9月13日、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等を公表した。改正リース会計基準等は、国際的な会計基準との整合性の観点から、ファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースについて資産及び負債に計上することになる。2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされている(早期適用可)。対象は上場企業や会社法上の大会社となる。ただし、連結財務諸表だけでなく、個別財務諸表にも適用されるため、現行の税務上の取扱いが見直される可能性があり、この場合には中小企業にも影響を及ぼすことになる。このため、本特集では、改正リース会計基準等の概要をQ&A形式で解説する。
すべてのリースを資産及び負債に計上
Q
改正リース会計基準等が公表されましたが、現行の基準と大きく異なる点を教えてください。
A
現行の基準では、借手の場合、ファイナンス・リース取引であれば売買取引に準じた会計処理が行われ、リース資産及びリース債務を計上する。一方、オペレーション・リース取引の場合は、賃貸借取引に準じた会計処理が行われ、発生時に費用計上することができる。
改正リース会計基準等では、借手のリース費用配分の方法として、IFRS第16号「リース」と同様、すべてのリースを金融の提供として捉えて、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデルを採用。これにより、原則として、すべてのリースについて、ファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産及びリース負債として計上することになる。オペレーティング・リースとしてこれまで費用計上していたものについても使用権資産として計上することになるため、貸借対照表の金額が大きくなる可能性がある。
また、貸手の会計処理については、一部を除き、これまでと同様、リースの分類に応じて会計処理することになる。
収益認識会計基準との整合性からいわゆる第2法は廃止に
Q
貸手の会計処理は、一部を除き現行の基準と同様とのことですが、変更した部分について教えてください。
A
借手の会計処理については、基本的に現行基準の定めが踏襲されているが、①リースの定義及びリースの識別、②企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」との整合性を図る部分については変更されている。
①については、借手の会計処理と合わせることとしており、②については、ファイナンス・リースの収益計上の方法としていわゆる第2法(受取リース料を各期において売上高として計上し当該金額からリース期間中の各期に配分された利息相当額を差し引いた金額を売上原価として処理する方法)を廃止。また、オペレーティング・リースのフリーレント(契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)の使用料については、例えば、契約期間にわたり定額法で計上することとしている。
リース会社が行うソフトウェアリースはリース会計基準の適用可
Q
リース会計基準の適用範囲を教えてください。
A
現行の基準では、典型的なリース取引(通常の保守等以外の役務提供が組み込まれていないリース取引)や不動産に係るリース取引の会計処理しか示されていないが、改正リース会計基準等では、①公共施設等運営権の取得、②貸手による知的財産のライセンス供与、③鉱物、石油、天然ガス等を探査する又は使用する権利の取得に該当する場合を除くリースに適用することとされている。
なお、②に関しては、例外として、リース業等の貸手が行う知的財産のライセンス供与(ソフトウェアのリース)については改正リース会計基準の適用を認めることとしている。この点はIFRS第16号と異なる点である。
現行よりもリースが増加する可能性あり
Q
これまでリースとして認識していなかった取引がリースになるかもしれないとのことですが、どうしてですか。
A
現行の基準では、リースの識別に関する定めはなかったが、改正リース会計基準では、リースの識別の判断に当たっては、「契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースに含む」とされており、これまではリースとして会計処理されていなかった契約がリースに含まれる可能性がある。
この場合、特定された資産の使用期間全体を通じて、①顧客が特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している、②顧客が特定された資産の指図する権利を有していることの2つの要件を満たす場合には、当該資産の使用を支配する権利が移転することになるとしている。
原則はリースを構成する部分としない部分に分けて会計処理も選択適用可
Q
リースを構成する部分と構成しない部分は分けて会計処理するとのことですが、例外的に分けずに会計処理することは認められないのでしょうか。
A
借手及び貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うこととされているが、借手は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択することができるとされている。
また、貸手は、リースを含む契約についてリースを構成しない部分が収益認識会計基準の適用対象であって、かつ、①リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分の収益の計上の時期及びパターンが同じである、②リースを構成する部分がオペレーティング・リースに分類される−−との2つの要件を満たす場合には、契約ごとにリースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分を合わせて会計処理の単位として取り扱うことができることとされている。この点は、米国会計基準のTopic842と同様の取扱いである。
貸手のリース期間は、現行基準とIFRS第16号の取扱いとの選択可
Q
リース期間については、公開草案から変更された点がありますか。
A
リース期間に関しては、借手のリース期間はIFRS第16号の定めと同様に、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定することとしている。
一方、貸手のリース期間は、公開草案では、現行の基準を踏襲し、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(事実上解約不能と認められる期間を含む)にリースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えて決定する方法とされていたが、これに加えて、借手のリース期間と同様に決定する方法についても選択適用できることとなった。これは、IFRS第16号と整合的な方法となる。
短期リースに購入オプションは含まず
Q
短期リースに購入オプションが含まれている場合、短期リースに該当するのでしょうか。
A
購入オプションは含まれないので、該当しない。短期リースは、「リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリース」と定義された。公開草案から取扱い自体は変更されていないが、明確化された点である。
少額リース、300万円基準とIFRS第16号の選択適用可
Q
IFRS任意適用企業ですが、少額リースについて、IFRS第16号と同じく、新品時に5千米ドル以下程度の価値の原資産のリースを対象とすることはできますか。
A
対象とすることができる。少額リースについては、重要性が乏しい減価償却資産や、①企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース、又は②新品時の原資産の価値が少額であるリースについては、借手はリース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用計上を認めている。
この②の新品時の原資産の価値が少額であるリースは、IFRS第16号と同様の取扱いであり、IFRS第16号の結論の根拠で示されているIFRS第16号の開発当時の2015年において新品時に5千米ドル以下程度の価値の原資産のリースを念頭に置いたものである。
実務への混乱が生じないよう300万円基準の取扱いを追加
Q
少額リースの300万円基準について、実務への配慮から取扱いの明確化が図られたとのことですが、どのような点でしょうか。
A
前述した①の企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリースとは、現行基準のリース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下であるかどうかにより判定する方法を踏襲したものだ。この300万円基準に該当すれば、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる。
ただし、300万円基準の適用が難しいとの意見を踏まえ、①リース契約1件当たりの金額の算定の基礎となる対象期間は、原則として借手のリース期間とするが、借手のリース期間に代えて、契約上、契約に定められた期間とすることができる、②借手のリース料から維持管理費用相当額の合理的見積額を控除することができる、③リース契約に複数の単位の原資産が含まれる場合については、契約に含まれる原資産の単位ごとに適用することができるとの取扱いを追加し、実務の混乱が生じないようにしている。
借地権は減価償却も非償却も可
Q
改正リース会計基準等では、旧借地権又は普通借地権の設定に係る権利金等は借手のリース期間にわたり減価償却するとのことですが、これまでは減価償却はしていません。どのように取り扱えばよいですか。
A
改正リース会計基準等では、借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行うことになる。
ただし、これまで減価償却してこなかった実務があることを踏まえ、①改正リース会計基準の適用初年度の期首に存在する権利金等及び改正後に新たに計上される普通借地権の設定に係る権利金等の双方(なお、経過措置により適用初年度の期首に存在する権利金等のみ減価償却しないことも可)、又は②改正リース会計基準の適用初年度の期首に旧借地権及び普通借地権の設定に係る権利金等が計上されていない場合、改正リース会計基準等の適用後に新たに計上される普通借地権の設定に係る権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことができる。
セール・アンド・リースバック取引はIFRS第16号と差異あり
Q
セール・アンド・リースバック取引については、どのような点でIFRS第16号と異なっているのでしょうか。
A
セール・アンド・リースバック取引については、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から資産をリース(リースバック)する取引と定義。会計処理は、IFRS第16号の取扱いとは異なり、米国会計基準のTopic842を参考としている。具体的には、①収益認識会計基準などの他の会計基準等に従うと売手である借手による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない又は②収益認識会計基準などの他の会計基準等に従うと売手である借手による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するが、リースバックにより、売手である借手が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる−−のいずれかを満たすときは、売手である借手は、当該セール・アンド・リースバック取引について資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理(売却処理を行わない)を行うことになる。
一方、セール・アンド・リースバック取引に該当する場合に①及び②を満たさないときは、売手である借手は、資産の譲渡について収益認識会計基準などの他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについて改正リース会計基準等にしたがい借手の会計処理を行うこととしている。
なお、IFRS第16号では、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」により収益が認識されると判断される場合、買手である貸手に移転された権利部分については権利の譲渡に係る利得又は損失を譲渡時に認識し、リースバックにより売手である借手が継続して保持する権利部分については権利の譲渡に係る利得又は損失を繰り延べることとされている。
転リースは現行基準の取扱いと同じ
Q
現行の基準による転リースの取扱いは、もう認められないのでしょうか。
A
サブリース取引については、IFRS第16号と同じくヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行うこととされている。
ただし、転リース取引の取扱いに関しては、主に機器などのリースについて仲介の役割を果たす中間的な貸手の会計処理として実務に浸透していることから、サブリース取引の例外として、現行基準を変更せずに認めることとしている。
注記事項は大幅に拡充
Q
注記事項は現行の基準に比べて増えることになるのでしょうか。
A
注記事項に関しては、基本的にIFRS第16号と整合的なものとなっており、現行の基準に比べて大きく拡充されている。リースに関する注記における開示目的を達成するため、借手の場合は、①会計方針に関する情報、②リース特有の取引に関する情報、③当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報、貸手の場合は、①リース特有の取引に関する情報、②当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報を新たに注記することになった。例えば、借手の会計方針に関する情報では、借地権の設定に係る権利金等に関する会計処理の選択など、さらに詳細な注記事項が定められている。
実務への適用が困難な場合はASBJに問題提起を
Q
新たにリースを識別しなければならず、会計システムの構築にも時間を要するため、強制適用時期までに改正リース会計基準等を適用することに不安があります。このような場合はどうしたらよいでしょうか。
A
改正リース会計基準等は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用(2025年4月1日からの早期適用も可)される。しかし、会計システムの構築や税制への対応といった懸念の声を踏まえ、企業会計基準委員会では、リース会計基準の実務への適用を行う過程で、リース会計基準における定めが明確であるものの、これにしたがった処理を行うことが実務上困難な状況が市場関係者により識別され、その旨を同委員会に提起された場合には、別途の対応を図るかどうかを検討するとしている。
なお、収益認識会計基準の適用の際には、電気事業連合会等より、決算月に実施した検針日から決算日までに生じた収益の見積りが実務的に困難であるとの理由で、廃止された検針日基準を代替的な取扱いとして認めて欲しいとの提案を受け、検討を行った経緯がある。
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