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解説記事2024年11月25日 ニュース特集 理由付記の不備による新たな更正処分は適法(2024年11月25日号・№1052)

ニュース特集
審判所、課税の公平からの当然の権限行使
理由付記の不備による新たな更正処分は適法


 更正処分等を行った後、処分の理由の不備により改めて更正処分等が行えるかが争点となった裁決で、国税不服審判所は、原処分庁が理由付記に不備のあった第一次更正処分を是正するため、第二次更正処分によりこれを取り消して、改めて処分理由を追完した更正処分を行ったことは、適正な課税の確保を図るために行った課税の公平の見地から当然の権限の行使であるとして請求人の請求を棄却した(高裁(諸)令5第5号)。理由付記の趣旨は、行政の適正化を図るものであり、理由付記の不備により更正処分を取り消した後、新たに正しい理由を付記して更正処分ができないとするものではないことから、本件更正処分は違法とはいえないと判断した。

通則法の改正で処分の理由を記載も、原処分庁と争うケースが

 平成23年12月の国税通則法の改正により、税務署長等が、更正又は決定などの不利益処分や納税者からの申請を拒否する処分を行う場合には、すべての処分について、その通知書に処分の理由を記載することになった。制度も定着し、原処分庁が提示した処分の理由に不備があるケースは稀といえるが、更正通知書に記載された処分の理由に関して納税者が原処分庁と争うケースは少なくない。本誌1032号(2024年6月24日号)では、原処分庁が提示した処分の理由の提示に不備があるとの理由で、更正処分等が全部取り消された裁決事例(令和5年12月15日裁決)を紹介しているが、この場合、課税当局側が改めて更正処分を行うことが可能であるため、納税者からすれば酷な状況に陥ることにもなりかねないとの問題点を指摘していた。
 今回紹介する裁決事例は、当初の更正処分等の理由に不備があり、その後、更正処分を取り消し、改めて正しい理由を付して更正処分を行ったもの。原処分庁は、納税者の二度目の審査請求の前に理由の不備を是正したものとなっているが、審判所は、改めて更正処分が可能であるとの判断を行っている。納税者側は二度審査請求を行い、その後、訴訟を提起していることを考慮すれば、課税当局においてより一層慎重な対応が求められよう。以下、本件についてみてみることにする。

最初の更正処分では相続人の課税価格に加算と判断した理由なし

 本件は、原処分庁が、請求人以外の相続人を契約者とする生命保険契約に関する権利について、みなし相続財産に当たるとして更正処分等(第一次更正処分等)を行った後、①更正処分等で増額した納付すべき本税額等と同額を減額する更正処分等(第二次更正処分等)を行い、②改めて判断した理由を追記し、原処分等(本件更正処分等)を行ったことに対し、請求人が、各処分は違法であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
 事案の経緯は表1のとおりだが、第一次更正処分等に係る通知書の「処分の理由」欄には、調査によって把握された生命保険契約に関する権利について、請求人以外の相続人(弟)の課税価格の合計額に加算すべき金額の記載はあるが、当該金額を当該相続人の課税価格の合計額に加算すべきと判断した理由(判断の根拠となった事実関係及び法令)についての記載はなかった。

【表1】事案の経緯

・被相続人が死亡。
・相続人である請求人及び弟は法定申告期限までに相続税申告書を提出。
・遺産分割調停を行い、その結果、請求人の課税価格が増加し、弟の課税価格が減少したことから相続税の修正申告書を提出。なお、請求人及び弟のいずれも新たに納付すべき税額は生じなかった。
・税務調査により、相続開始時において、被相続人が保険料の全額を負担していた生命保険契約に関する権利が相続財産に含まれていなかったことが分かり、申告書の課税価格等に誤りがあるとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われた(第一次更正処分等)。
・請求人は第一次更正処分等の取消しを求めて審査請求。
・原処分庁は、請求人に対し、相続税を減額する更正処分及び相続税の過少申告加算税を減額する変更決定処分を「相続税の更正通知書及び加算税の変更決定通知書」により行った(第二次更正処分等)。なお、第二次更正処分等によって、請求人の相続税の納付すべき税額は、申告書の納付すべき税額と同額となり、相続税の過少申告加算税の額は零円となった。
・原処分庁は、請求人に対し、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った(本件更正処分等)。なお、更正処分等による請求人の課税価格及び納付すべき税額並びに過少申告加算税の金額は、第一次更正処分等における金額といずれも同額である。
・審判所は、第二次更正処分等がされたことにより、請求人が第一次更正処分等の取消しを求める利益は失われたことから、審査請求は不適法なものであるとして却下した(高裁(諸)令4第7号)。
・請求人は、本件更正処分等に不服があるとして審査請求。

 なお、本件更正処分に係る通知書の「処分の理由」欄には、原処分庁が、生命保険契約に関する権利は請求人以外の相続人(弟)が相続により取得したものとみなされる財産として、当該相続人の課税価格の合計額に加算すべきと判断した理由が記載されている。

更正処分を取り消し、改めて更正処分ができないとする法令はなし

 審判所は、原処分庁が更正処分を取り消し、改めて更正処分ができないとする法令の規定はなく、原処分庁は適正な課税の確保の実現を図るため、更正処分の瑕疵を発見したときは、当該瑕疵が実体的なものであれ手続的なものであれ、課税の公平の見地から当然の権限の行使として、これを取り消して新たに更正処分ができるものと解すべきであるとした。
 本件では、原処分庁は第一次更正処分等に係る理由付記に不備があると自認し、第一次更正処分等に係る納付すべき税額及び過少申告加算税の金額とそれぞれ同額を減額する第二次更正処分等を行ったものと認められ、第二次更正処分等のわずか2日後に行われた本件更正処分等は、判断した理由を追記して改めて行われたものであり、理由付記に不備のあった第一次更正処分等(瑕疵ある処分)を是正したものと認められるから、第二次更正処分等は、本件更正処分等の前提としてなされたものであるとした。
手続的な不備がある処分を是正
 審判所は、第二次更正処分等は「相続税の更正通知書及び加算税の変更決定通知書」により行ったとしても、本件更正処分等に先立ち、第一次更正処分等を実質的に取り消すことを目的としていることが一連の手続から客観的にも認識でき、更正処分を取り消す方式について別段の規定のない現行法の下においては、少なくとも第一次更正処分等の取消し効力を有するものと認められると指摘。
 したがって、原処分庁が、判断した理由が付されていない第一次更正処分等を是正するため、第二次更正処分等によりこれを取り消して、改めて判断した理由を追記した本件更正処分等を行ったことは、適正な課税の確保を図るために行った課税の公平の見地からの当然の権限の行使であり、手続的な不備(瑕疵)がある処分を是正したものにすぎないと認められ、違法な処分とは認められないと判断した。
納税者の負担を重くする意図がない限り
 請求人は、第二次更正処分等をすることで実質的に第一次更正処分等を取り消し、改めて理由を書き直した更正処分等ができるとするなら、繰り返し理由の付替えができることになると主張したが、審判所は、原処分庁が適正な課税の確保を図るために正しい更正処分を行う必要があるのであれば、処分の繰り返しによって不当に納税者の負担を重くする意図の下になされたなどの特別の事情がない限り、新たに更正処分を成し得るものと解すべきであるとした(表2参照)。

【表2】請求人の主張に対する審判所の判断

請求人の主張 審判所の判断
 本件更正処分等及び本件更正処分等の前提となる第二次更正処分等は、通則法26条に規定する調査に基づいて行われたものではない。  通則法26条に規定する「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を含む極めて包括的な概念であり、「調査」の方法、時期等その具体的な手続については、法令に定められた事項を除き、課税庁の合理的な裁量に委ねられているものと解され、納税者本人等に対する質問検査権の行使などのいわゆる外部調査のほか、質問検査等を行うことがない机上調査等の課税庁内部における調査も「調査」に含まれると解される。原処分庁がすでに収集した資料等を基にして内部において検討することも「調査」に含まれる。
 第二次更正処分等は、原処分庁が通則法26条に規定する「更正又は決定をした税額等が過大又は過少であることを知った」との事実がないにもかかわらず行われたものであるとして、違法なものである。  第一次更正処分等における税額等が、第一次更正処分等に係る通知書の「処分の理由」欄に記載された理由に対応したものとなっておらず(第一次更正処分等における税額等について判断した理由が記載されていない)過大となっていることについて、原処分庁自らがこれを認めて、第一次更正処分等を実質的に取り消すことを目的として第二次更正処分等が行われたものと認められる。
 第二次更正処分等をすることで実質的に第一次更正処分等を取り消し、改めて理由を書き直した更正処分等ができるとするなら、繰り返し理由の付替えができることになり、処分の理由を相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるとの理由付記の趣旨を没却し、恣意的な処分がまかり通ることになり、いかなる方法によっても後の追完が認められるものではない。

 理由付記の趣旨は、行政庁の恣意抑制と、処分の理由を名宛人に知らせ不服申立ての便宜を与えることと解される。しかし、かかる趣旨は、それにより行政の適正化を図ることを目的としていることから、理由付記の不備により更正処分が取り消された後、新たに正しい理由付記による更正処分ができないとするものではない。
 もっとも、新たな更正処分等ができるといっても、不当に納税者の負担を重くするような意図の下に、更正処分を繰り返すことは許されないことからすると、瑕疵ある理由付記により更正処分が取り消された後、原処分庁が適正な課税の確保を図るために正しい更正処分を行う必要があれば、処分の繰り返しによって不当に納税者の負担を重くする意図の下になされたなどの特別の事情がない限り、新たに更正処分を成し得るものと解すべきである。

理由付記とは
 国税に関する処分に係る理由を提示する趣旨は、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあるととされている。
 このため、処分を行う場合には、いかなる事実関係に基づき、いかなる法令(処分基準が公表されている場合にはその基準を含む)を適用して処分したのかを、納税者がその記載自体から了知し得る程度に記載する必要がある。また、処分の相手方が処分の理由となるべき事実を知っていたとしても、理由提示義務の程度が緩和されることはなく、理由付記を欠く処分は違法となり、理由付記が不十分な処分は取消し原因たる瑕疵を有する処分になるとしている。
 実際の理由付記に当たっては、その処分の性質、根拠法規の趣旨・目的及びその処分に係る法令上の要件などを総合勘案し、処分理由の記載内容を検討する必要がある。具体的には、その段階までの証拠や事実を適切に記載した「争点整理表」を基に記載されることになるが、①処分の要件が法令に具体的に規定されている場合には、事実関係の記載として、客観的事実を法令の要件に沿って記載すれば足りるのに対し、②抽象的な要件(「隠蔽」「仮装」「所得税の負担を不当に減少させる」など)に基づき処分する場合には、事実関係や事情等を具体的に提示し、その事実関係等を評価として、抽象的な要件が充足されていることを付記する必要がある。この場合、複数の事実をもって一つの要件の充足性を証明することもあり、例えば、隠蔽という評価の根拠は、どのような事実に基づくのかについて記載しなければならないとされている。

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