解説記事2025年01月27日 SCOPE インサイダーで株式を売買、課徴金納付命令は無効にあらず(2025年1月27日号・№1060)
東京高裁、処分時に重大かつ明白な瑕疵なし
インサイダーで株式を売買、課徴金納付命令は無効にあらず
インサイダー情報に基づき株式を売買したとして金融庁から課徴金納付命令を受け、課徴金を納付した者(控訴人)が、その一部は無効であるとの確認を国(被控訴人)に求めた裁判で、東京高等裁判所(舘内比佐志裁判長)は令和6年12月18日、原審に引き続き、無効確認を求める部分を却下するとともに、その余の請求も棄却した(令和6年(行コ)第208号)。裁判所は、行政処分が無効であるというためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないが、重要事実が発生していなかったことが処分時に外形上客観的に明白であったとは認められないとした。
増減率が−30%以上と公表する事実はない
本件は、控訴人(原告)が、友人で上場会社の取締役からインサイダー情報を受け、当該株式を売買したとして金融庁から1,380万円の課徴金納付命令を受けたが、納付済みの課徴金のうち703万円が無効であることを確認するとともに、国(被控訴人、被告)に対し、不当利得返還請求権に基づく利得金の返還等を求めたものである。
控訴人は、マザーズ(現在はプライム市場)に上場するSHIFTの取締役であった高校時代の友人Fから情報を受け、①同社の株式分割に関する決定の公表前に同社の株式を買い付け、②同社グループの平成28年8月期の純利益に関し、公表した直近の予想値と会社が新たに算出した予想値において、投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じたこと(重要事実)の公表前に同社の株式を売り付けたというもの。控訴人は、重要事実の伝達を受けたとされる平成27年12月30日の直近に開催された取締役会では、増減率が−29.73%であることを前提に協議がされ、増減率につき−30%以上の具体的な数値をもって公表する旨の了承がされた事実はないから、控訴人が重要事実の伝達を受けたことはないなどと主張した。事案の経緯は表のとおりである。

重要事実が発生していなかったことが明白とは認められず
裁判所は、行政処分が無効であるというためには当該処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から誤認であることが、外形上、客観的に明白であることをいうとした。
本件については、①取締役会前日(平成27年12月21日)に会社の役員に周知されたアジェンダ(資料)には、増減率が−34.25%であることが記載されていたこと、②取締役会の議事録にもアジェンダが添付された上で、Fがアジェンダに基づき説明を行った旨が記載されていたこと、③Fは、取締役会の時点で、増減率が−30%を下回っていたことや、−29.73%のシートを作成したことを説明しなかったことからすると、重要事実が発生していなかったことが処分時に外形上客観的に明白であったとは認められないとした。したがって、裁判所は、原審の東京地裁の判決(令和5年(行ウ)第237号)に引き続き、無効確認の訴えは不適法であるから却下し、その余の請求も棄却している。
なお、仮に例外的事情基準に従ったとしても、本件対象処分は無効とはいえないとしている。控訴人は、Fとの個人的つながりを利用して、Fから自ら進んで会社のインサイダー情報を聞き出し、それに基づいて株式の売買を行っていたものであり(株式分割事案)、予想値事案についても、同様に情報を得た上で、インサイダー取引規制に抵触し得ることを認識しながら、損失回避の目的で、株式の売付けを行ったものであると裁判所は指摘。Fからインサイダー情報を聞き出した時点では、会社内部での増減率の見通しは−29.73%であり、金商法所定の重要事実には該当しなかったとはいえ、その差は僅少であり、控訴人において、重要事実に該当しないとの認識の下で株式の売付けを行ったわけではないとしている。
インサイダー情報を伝えた友人Fは裁判で課徴金納付命令が取消し
上場会社の取締役だった友人Fについては、インサイダー情報を控訴人に伝えたとして金融庁から351万円の課徴金納付命令を受けたが、その後の裁判で平成27年12月30日以前に重要事実が発生した事実はないとして課徴金納付命令が取り消されている(本誌955号4頁参照)。
裁判では、12月22日の取締役会における業績予想修正の了承により重要事実が発生したか否かが問題となったが、東京高裁は、純利益の予想値に係る業績予想修正についての意思決定が、少なくとも、増減率が基準値以上となることにつき具体的な根拠に基づいて行われたと認められることを要するべきであると指摘した上で、取締役会においては、純利益の予想値に係る増減率が−29.73%であることを前提に協議がされ、この時点において増減率につき−30%以上の具体的な数値をもって公表する旨の了承がされた事実は認められないとの判断を示している。
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