解説記事2025年02月17日 SCOPE 内縁の夫からの高額な金員、婚姻費用分担義務の履行と認定(2025年2月17日号・№1063)
贈与税決定処分取消しで納税者逆転勝訴
内縁の夫からの高額な金員、婚姻費用分担義務の履行と認定
原告(控訴人)が内縁の夫から受領した金員が贈与に当たるか、あるいは婚姻費用分担義務の履行に当たるかが争われた事案で、一審では、住宅賃料を除き贈与に当たるとの判決が下されていたが、東京高裁第7民事部(水野有子裁判長)は令和6年12月12日、一転、婚姻費用分担義務の履行に当たるとして、贈与税決定処分等を取り消した。
高裁、金員移転の経緯や使途から不相当に高額又は目的外給付とはいえず
本件は、原告(控訴人)名義の口座に内縁関係にあるA氏から入金された金員が、贈与税の課税対象になるか否かが争われた事案である。
原告は、本件各金員は婚姻費用分担義務の履行として受領したものであり、仮にそうでなくとも、扶養義務者相互間における生活費又は教育費に充てるためにした贈与に係る贈与税の非課税財産を定めた規定(相法21の3①二。以下、本件非課税規定)が適用されると主張していた。
一審の沼津地裁は、A氏及び原告らの住居の各賃料に関しては、賃貸借契約の当事者であるA氏本人が支払義務を負うから、A氏が控訴人に対し各貸主への振込みを委託したにすぎないとして、本件各年分の贈与税の課税価格から除くべきとして、課税処分を一部取り消した。
ただし、それ以外の本件各金員については、婚姻費用分担義務の履行と認めるには、交付者が被交付者に対して内縁関係に基づく婚姻費用分担義務を負っており、かつ、移転財産額が同義務の範囲内であること及び交付者が実際に同義務の履行として当該財産を移転したことを認めるに足りる特別な事情があることを要すると判示。その上で、A氏は、原告の連れ子であるB及び原告との間の血縁上の子であるCと養子縁組又は認知をしておらず、子供達の扶養義務を負っていないから、子供達の養育費の支払いが婚姻費用分担義務の履行と認められる余地はなく、また、A氏自身の具体的な収入額等が不明であるなど婚姻費用分担義務の具体的内容が不明であるから、本件各金員の入金が婚姻費用分担義務の履行として行われたものと認めることはできず、上記特別の事情は認められないとした。

夫婦間の財産移転には租税回避の懸念あり
控訴審では、上記住宅賃料を除く本件各金員が、贈与により取得した財産であるか否かが争点となった。
東京高裁はまず、内縁の成立には、婚姻の意思と夫婦共同生活が存在することが必要であるとした上で、A氏が反社会的勢力から狙われていることを懸念して、住民票を移動せず、子供達と養子縁組や認知をしていないことをもって、控訴人との間の婚姻の意思に疑義を生じさせるものとはいえず、また常に同一の住居で共同生活をしていなければ夫婦共同生活に欠けるものともいえないとして、控訴人とA氏の内縁関係を認めた。
続いて、内縁関係についても法律婚と同様に婚姻費用分担義務の規定(民法760条)が準用されるとした上で、内縁関係にある夫婦間の財産の移転が婚姻費用分担義務の履行に該当するか贈与に該当するかは、当該財産の移転に至る経緯や当該財産の額・移転の頻度、夫婦それぞれの収入や資力、当該移転に対する認識、当該移転後の使途等に基づいて判断するのが相当であるとした。
特に、内縁関係を含む夫婦間における財産の移転には、租税回避の手段として利用される危険性があることから、上記について個別に判断し、仮に、外形上、婚姻費用分担義務の履行としての体裁を採っていたとしても、不相当に過大である又は目的外で給付がされたものと認められる場合には、贈与に該当すると判断するのが相当との考えを示した。
その上で、本件については、一般的な婚姻費用分担額として非常に高額であることは否めないとしながらも、本件各処分当時、控訴人は収入がなく特段の資産があることもうかがわれないのに対し、A氏は少なくとも50億円超に近い資産を有していること、控訴人が、出産後、病気で、相当期間、日常生活を送るのが困難な状態が続いていたことなどから、本件各金員の入金の経緯として、不自然、不合理があるものとはいえないとした。
また、本件各金員の使途をみても、A氏と控訴人の収入や資産等によって定まる暮らしぶりに応じた婚姻費用の概念から格別に外れるものがあるとはいえないとし、控訴人による生活費等の各支出の合計額が、本件各金員の合計額とほぼ一致していることなども指摘した。
加えて、その具体的な金額や内容は明らかではないものの、本件各金員の相当部分は預金口座を開設できないA氏のために使用されたものと推認され、これらを勘案すれば、婚姻費用分担の合意に基づく義務の履行として不相当に過大である又は目的外で給付がされたものと認めることはできないとして、本件各金員は、婚姻費用分担義務の履行として支払われたものであると結論づけた。
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