カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2020年03月30日 未公開判決事例紹介 税理士法人職員の不法行為による税賠事件(2020年3月30日号・№828)

未公開判決事例紹介
税理士法人職員の不法行為による税賠事件
東京地裁、税理士法人に約60万円の損害賠償責任

 今号10頁で紹介した税理士賠償責任事件の判決全文について、仮名処理した上で紹介する。

○税理士法人(被告)の職員による不法行為により、原告の信用が毀損されて無形の損害等を被ったとして、使用者責任に基づき約243万円の損害賠償を求めた事件。東京地方裁判所(齊藤学裁判官)は令和2年1月30日、被告の税理士法人に約60万円の損害賠償を命じる判決を下した。(令和2年1月30日、一部認容)。

主  文
1 被告は、原告に対し、60万円及びこれに対する平成30年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。


事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、243万2000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 原告は、被告との間で税理士顧問契約を締結していたところ、同契約の終了後に、被告の職員が、原告の確定申告書類を偽造し、これを取引先の紹介を依頼してきた金融機関に提出するといった不法行為を行った。
 本件は、原告が、被告に対し、上記不法行為により原告の信用が毀損されて無形損害等の損害を被ったとして、使用者責任に基づき、損害合計243万2000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める事案である。
1 前提事実(掲記の証拠等により容易に認められる事実。証拠等の記載のない事実は当事者間に争いがない。証拠は枝番号を含む。)
(1)原告は、平成22年4月14日、被告との間で税理士顧問契約を締結し、被告の職員であるM(以下「M」という。)が原告の担当として同契約にかかる業務を行っていた。
  なお、Mは、平成14年に税理士試験に合格しているものの、現在に至るまで税理士登録をしたことはない。(甲2、乙4、12、弁論の全趣旨)
(2)原告は、平成26年10月14日、被告に対して税理士顧問契約の解除の意思表示をし、解約予告期間を経て、平成27年4月14日に、同契約が終了した。
  もっとも、上記解除の意思表示を受けたのはMであり、Mは、被告に対し、原告との契約が終了した事実を秘していた。そして、Mは、契約終了の事実が露見することを防ぐため、その後も、原告に断ることなく、根拠のない数値を用いてその確定申告書類を作成し続け、原告代表者からの承認を受けているなどとの虚偽の説明をした上で、税理士である被告代表者から、これらの書類への署名、押印を得ていた。(甲2、乙6、8、弁論の全趣旨)
(3)被告は、平成29年12月頃、取引先である株式会社R銀行(以下「R銀行」という。)N支店のY氏から、新規取引先を紹介することを頼まれた。Mは、原告の意向を確認することのないまま、原告を紹介することとし、同月13日頃、Y氏に対し、上記(2)の経緯で作成していた原告の平成29年9月期の決算報告書の写しを交付した。その後、Mは、Y氏から、原告の直近3年分の確定申告書類の提出を求められ、平成30年1月12日頃、同様の経緯で作成するなどしていた偽造にかかる3年分(平成27年9月期、平成28年9月期、平成29年9月期)の確定申告書類の写しをY氏に交付した(以下、Mによる原告の確定申告書類の偽造ないし交付行為を「本件不法行為」という。)。
  もっとも、R銀行はC支店において既に原告と取引関係があったことから(取引開始は平成29年5月頃)、Y氏が受領した書類に不審な点があることが間もなく発覚した。平成30年1月19日にはR銀行C支店の支店長らが事実確認のために原告を訪れるなどし、その結果、上記書類がMによって偽造されたものであることなどが確認された。(甲1ないし5、乙4、8、弁論の全趣旨)
(4)原告は、平成30年3月2日、被告の代表者に宛てて、本件不法行為等に関する事実関係を明らかにすることを求める書面を内容証明郵便で送り、被告は同書面を同月5日に受領した。もっとも、同書面の発送を原告から聞いていたMがこれを隠匿したため、被告において、原告との契約関係が終了していた事実や本件不法行為が発覚したのは平成30年7月ないし8月頃のことだった。(甲7、乙6、8、弁論の全趣旨)
(5)原告は、上記(4)の書面に対する被告からの回答がなかったため、平成30年8月24日、本件訴訟を提起した(訴訟提起日につき、当裁判所に顕著)。
  また、原告は、これと前後し、いずれも弁護士に委任した上、同年7月26日に、財務大臣に対し、本件不法行為等を懲戒事由として被告を懲戒することを求める申立てをし、同年10月30日には、警視庁T警察署長に対し、本件不法行為の告発を行った(甲8ないし10、弁論の全趣旨)。
2 争点
(1)選任監督上の過失がなかったといえるか否か(争点(1))
(2)損害の有無、程度(争点(2))
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(選任監督上の過失がなかったといえるか否か)について
(被告の主張)

  被告は、月に1度行われる数時間に及ぶ全体会議など、様々な会合ないし報告の場において、内部的にチェックする機会を設けていたが、Mはその際に真実を述べることはなかった。また、R銀行N支店に原告を紹介するに際しては、被告代表者は、Mに対し、原告の同意を取るように指示している。被告は、全取引先に対して、毎月事務所便りを発送してもいる。
 よって、被告には、Mが本件不法行為を行ったことに関して選任監督上の過失はなく、使用者責任を負わない。
(原告の主張)
  内部的にチェックしていたとの被告の主張は抽象的なものにとどまるし、原告を紹介することについて原告の同意を取るように指示をしたというが、原告の同意が得られたのか否かなどについて、一切裏付け確認はされていない。取引先に事務所便りを送付することがMの選任監督にいかなる影響を与えるのかは不明である。
  そもそも、被告は、税理士資格を有しないMに税理士としての業務を行わせており、Mに対する選任、監督上の注意義務が何ら果たされていなかったことは明らかである。
(2)争点(2)(損害の有無、程度)について
(原告の主張)

  原告は、本件不法行為により以下の損害を被った。
ア 信用毀損による無形損害  200万円
  本件不法行為は、原告の信用に多大な影響を及ぼし、その経済活動に致命傷を与えかねない重大なものである。被告は、従業員であるMがこのような重大な行為をしたにもかかわらず、いまだに謝罪すらなく、悪質性は顕著である。原告に信用低下に伴う損害が発生したことは明白であり、原告が被った無形損害は200万円を下らない。
  なお、被告の主張アは言語道断である。本件不法行為の以前に原告が粉飾決算等を疑われていたなどといった事実は一切ない。
イ 弁護士費用  43万2000円
  原告は、本件訴訟の提起のほか、捜査機関への刑事告発手続や税理士会に対する懲戒請求を余儀なくされた。これらの弁護士への委任費用は43万2000円を下らず、同額の損害を被った。
(被告の主張)
  原告の主張は否認し、争う。
ア 信用毀損による無形損害について
  原告は、本件不法行為の以前に、R銀行C支店との取引を開始するに際して提出していた確定申告書の内容の真実性等について、既に銀行から疑いをもたれていた。よって、本件不法行為によって原告の信用がさらに毀損されることはなく、損害は発生していない。
イ 弁護士費用について
  原告は、本件について、被告との間で事前に協議を行っていれば、本件訴訟提起や懲戒請求の申立て等に及ぶ必要はなく、弁護士費用は発生しなかった。よって、原告の請求は理由がない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(選任監督上の過失がなかったといえるか否か)について

 被告は、Mによる本件不法行為に関し、選任監督上の過失はなかったと主張する。しかしながら、被告は、原告との税理士顧問契約が解除されたことが露見するのを防ぐためにMが隠ぺい工作を行っていた旨を種々主張するものの、Mに対する監督の方法については、上記のとおりの抽象的な主張をするにとどまっている。被告代表者は、原告の決算書類をR銀行N支店に開示することについては、原告の同意を得るようにMに指示したというが、当該指示をしたのみでは、十分な監督が行われたものとはいえない。被告の主張は採用できない。
2 争点(2)(損害の有無、程度)について
(1)信用毀損による無形損害について

  本件不法行為は、営利企業である原告の内容虚偽の決算書類を、原告の取引先銀行に交付するという悪質な行為であって、これにより原告の信用が相当程度毀損されたことは明らかである。そして、原告は、信用回復のために、本来であれば不要な労力を費やして、R銀行への説明対応等を余儀なくされていること(甲1)も考慮すると、原告は、本件不法行為により一定の無形損害を被ったものと認めることができる。
  もっとも、本件証拠上、Mが、R銀行が原告の取引先であると認識していながら、敢えて本件不法行為に及んだとまでは認められない。また、本件不法行為の事実は間もなく発覚し、偽造書類の提出先は取引先であるR銀行一行にとどまっているし、原告による説明の結果、R銀行の疑念は払拭されて信用は概ね回復している(甲1、弁論の全趣旨)。本件不法行為により原告の経済活動に何らかの影響が生じた様子もうかがえない(原告もこの旨主張するものではない。)。
  そこで、これらの事情のほか、本件で現れた一切の事情を考慮し、本件不法行為によって原告が被った無形損害を金銭評価した場合の金額は、30万円とするのを相当と認める。
  以上に対し、被告は、原告は本件不法行為の以前から決算内容の真実性を疑われるなどしており、本件不法行為によってさらに信用が毀損されることはないなどと主張するが、これを裏付けるに足る証拠はなく、採用の限りではない。
(2)弁護士費用について
  上記(1)の検討結果に照らし、本件訴訟の提起を余儀なくされたことによる弁護士費用の損害は10万円とするのを相当と認める。また、原告は、本件不法行為により、Mにかかる刑事告発や被告の懲戒請求申立てを余儀なくされており、これらに要した費用は本件不法行為と相当因果関係のある損害と認められるべきであるところ、その金額は、これらの手続き及び本件訴訟にかかる弁護士への着手金の金額が40万円であること(甲8)を考慮し、合計20万円(各10万円)とするのが相当である。
  被告は、事前の協議がされていないなどとして損害の発生を争う。しかしながら、原告は、平成30年3月に被告に対して釈明を求めたにもかかわらず、これに何らの応答もなかったことなどから本件訴訟の提起等に至っている。原告において、被告の代表者に宛てた内容証明郵便をMが隠匿することまで予見して行動する義務はなく、被告の主張は採用できない。
(3)なお、被告は、原告が税理士顧問契約の終了の事実を被告に的確に告知していないことを理由に、過失相殺がされるべきであるとの主張をするものと解される。しかしながら、原告において、Mが本件不法行為に及ぶことを予見することは困難といえ、仮に、上記契約が終了した事実が平成30年7月ないし8月頃に至るまで被告に発覚しなかったことにつき原告に何らかの非があったとしても、これを理由に被告が負担すべき損害賠償額を減額するのが相当であるとは認められない。
  したがって、以上で検討したとおり、原告の主張は、60万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

第4 結論
 よって、原告の請求は60万円及びこれに対する平成30年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認め、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第5部
裁判官 齊藤 学

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索