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解説記事2020年04月06日 ニュース特集 別の税理士に乗り換えられて解任、税理士報酬はどこまで請求できる?(2020年4月6日号・№829)

ニュース特集
相続税に係る税務代理委任を受けた際のトラブル
別の税理士に乗り換えられて解任、税理士報酬はどこまで請求できる?


 長年、税理士業務を行っていれば、残念ながら顧客とトラブルになってしまうこともあるだろう。なかには訴訟にまで発展するケースもあるが、本特集では、税理士報酬をめぐる2つの事件を紹介する。1つ目は相続税の申告直前に別の税理士が作成した相続税申告書の方が相続税を少なく申告することができるとの理由で解任されたものであり、2つ目は相続税申告の際の税理士の発言が問題になったもの。裁判所は、いずれの事件も税理士側に軍配を上げているが、よくあるトラブルともいえるだけに税理士としては留意しておくべき判決といえそうだ。

「別の税理士の方が相続税額を下げられる」と委任契約を解約

 1つ目に紹介する事件は、相続税に係る税務代理の委任を受けた際のトラブルだ。原告である税理士は、被告(納税者)から相続税に係る税務代理等の委任を受けたが、受任業務をほぼ遂行した状況で被告が委任契約(表1参照)を解約したもの。被告は、別の税理士の方が相続税額を約1,000万円下げられるという理由で委任契約を解約したものであった。

【表1】委任契約書の主な内容

ア 次の業務を委任する。
 ① 本件相続に係る相続税の税務代理、税務相談、税務書類の作成
 ② 本件相続に係る税務調査の立会い
イ 報酬金額は400万円(別途消費税)とし、うち中間金は200万円とする。
ウ 中間金は遺産分割協議書作成の日から10日以内に支払うものとし、残金は相続税申告書を作成した日から10日以内に支払うものとする。
エ 正当な理由がなく本契約を破棄した場合に限り、違約金を請求することができる。ただし、その範囲は報酬金額を限度とする。

【表2】当事者の主張

原告(税理士) 被告(納税者)
 原告は、平成29年6月29日には相続税申告書や相続税延納申請書を作成し、所轄税務署に提出すれば足りる段階まで業務を遂行しており、本件委任契約による原告の受任業務を全て遂行したといえる状況であった。そして被告らは、原告に何ら責めがないのに、本件委任契約を解約した。したがって、原告は、被告らに対し、残報酬金全額の232万円の報酬請求権を有する。
 原告の受任業務に税務調査の立会業務があるが、原告は所轄税務署とも協議しながら、相続財産に遺漏なきよう計上した上、相続税申告書に税理士法33条の2第1項に規定する添付書面を添付した。同書面は、関与税理士が申告書の内容は正確であり、納税者が信頼に値するとして、税務署に対する保証書に類する文書であり、かかる文書が添付されている場合、税務調査がされることはほとんどない。したがって、原告は、被告らから受任した業務を全て遂行したか、少なくとも95%遂行したといえる。
 本件委任契約は、①相続税の税務代理、②税務相談、③税務書類の作成、④税務調査の立会いを委任するものであるが、原告が処理をしたのは、③の一部のみである。また、原告が被告に相続税について説明したのは平成29年6月29日の1回のみであり、委任契約書に署名して以降、進行状況について何ら説明することなく、見込み相続税額を伝えることもなく勝手に進めた。そして、原告がこれ以上は難しいと言っていた納税額を下げられることが判明したのであるが、後任税理士が作成した相続税申告書は適法であり、原告はこのような処理の方法が複数存在することを説明しなかった。原告は委任の本旨に従った行動をせず、委任契約に反する行為を行ったため、被告らは後任税理士に税務代理を委任することを理由に委任契約を解約したのである。したがって、報酬請求権は発生せず、仮にこれが発生するとしても、被告らは原告に対して既に200万円を支払っており、同額を超えた報酬請求権は存在しない。

業務の履行割合に応じて報酬の支払義務
 東京地裁(中村さとみ裁判官)は、本件委任契約において原告が受任した業務は、相続に係る相続税の税務代理、税務相談及び税務書類の作成並びに税務調査の立会いであるところ、原告の税理士は委任契約に基づき、相続税申告に必要な相続財産に係る資料の収集、現地調査、税務署等への問い合わせなどを行い、相続税申告書及び相続税延納申請書を作成し、これを所轄税務署に提出すれば足りる段階まで受任契約を遂行していたことが認められると指摘。被告は、その段階で委任契約を解約したものであるが、解約の理由は相続税額を少しでも低く抑えたいというものにすぎず、原告が作成した相続税申告書の内容に誤りがあるなど、委任契約の中途終了が税理士の責めによるものであるとは認められないとした。
 また、被告は原告が納税額を下げられる処理の方法が存在することを説明しなかったなどと主張するが、税理士は、納税額等を説明し、仮の評価明細書を送付した上で、本件相続に係る相続税申告書を完成させていることが認められるとしたほか、後任の税理士の相続財産の把握・評価の方法と差異が生じた主要な部分は、A社に対する1,000万円の貸付金の計上の有無に係るものであり、これは被相続人からの借入金であることから税理士として相続財産として計上すべきと判断したものであるとしている。
 その上で東京地裁は、被告は原告に対し、業務の履行の割合に応じて報酬の支払義務を負うとした。この点、原告は相続税申告に必要な相続財産に係る資料の収集や現地調査等を行い、相続税申告書等を所轄税務署に提出することができる段階まで受任業務を遂行していたが、当該相続税申告書について被告らと打合せ等を行い、税務署に提出し、税務署からの問い合わせがあればこれに対応し、税務調査が行われた場合には立会いを行う業務が残っており、これらを履行するに至っていなかったことを考慮すると、被告らが委任契約を解約した段階における履行の割合は、委任契約における原告の業務の85%であったと認めるのが相当であると判断した。以上によれば、委任契約に定められた報酬額432万円(消費税含む)の85%である367万2,000円の支払請求権を取得するところ、被告らは中間金として既に200万円を支払っていることから残報酬金額は167万2,000円になるとした(平成31年3月14日判決)。

「税務署との対応は全て税理士が行う」との発言がトラブルに

 2つ目に紹介する事件は、相続税の修正申告に関するトラブルだ。被控訴人(税理士)が控訴人(納税者)から受任した相続税の修正申告に関する事務の報酬相当額が32万4,000円であるなどとして報酬の支払いを求めたもの。原審の立川簡易裁判所では、税理士である被控訴人の主張を全部認容していた。
 控訴人は、税理士が「相続財産が1億円を超えたら絶対に税務署が来ます。そのときは何かお土産を持たせることになります。これに署名すれば税務署との煩わしい対応を全て税理士が行います」と発言していたことから、契約書に記載された金額に修正申告費用も含まれるものと認識していたなどと主張した。
旧税理士報酬規定での報酬額よりも低額
 東京地裁(竹内努裁判長)は、契約書には修正申告の内容が独立して記載されているものではないが、修正申告は相続税の申告後に税務署の判断等により必要となる事務であり、相続税の申告に付随して行われるものであること、契約書において修正申告書の作成報酬は記載された報酬額に含まれない旨の注記がされていると指摘した。税務署との煩わしい対応を全て税理士が行う旨の被控訴人の発言が認められるとしても、修正申告が必要となった場合について費用が発生しない内容とはいえないとした。
 その上で東京地裁は、報酬相当額については旧税理士報酬規定(表3参照)を持ち出して判断を示している。具体的には、被相続人の遺産総額は3億8,290万7,000円であり、4人の相続人がいることから、旧税理士報酬規定によると、基本報酬10万円に遺産総額に応じた報酬である110万円を加算した額に、相続人1人当たり10%相当額の4人分である44万円を加算報酬として加算した合計164万円の50%である82万円が修正申告書の作成報酬額になると指摘。原告が請求した金額(32万4,000円)と旧税理士報酬規定によった場合の修正申告書の作成報酬についてのみ比較しても、著しく高額であるとうかがわせる事情も認められないことからすれば、修正申告の報酬相当額は32万4,000円であると認められるとの判断を示した(平成31年3月27日判決)。

【表3】平成14年3月廃止前の旧税理士報酬規定

ア 相続税の税務代理報酬
 基本報酬額10万円に、遺産の総額が3億円以上5億円未満である場合には、110万円を加算する。
  共同相続人が1人増えるごとに、1人当たり10%相当額を加算する。財産の評価等の事務が著しく複雑な場合は、基本報酬額を除き、100%相当額を限度として加算することができる。
イ 相続税の納税申告書、修正申告書の作成報酬
 前記アに定める金額の50%相当額

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