解説記事2025年06月02日 SCOPE CFC税制、明細書添付漏れで配当の控除が認められず(2025年6月2日号・№1076)
東京地裁、当初申告要件に合理性ありと判断
CFC税制、明細書添付漏れで配当の控除が認められず
外国子会社合算税制の適用を巡り争われた事案で、東京地裁民事38部(鎌野真敬裁判長)は令和7年5月16日、課税処分は適法との判決を下した。
原告は、控除明細書の添付という当初申告要件を満たさなかったために、特定外国子会社等が「子会社」から受けた配当等の金額を基準所得金額の計算上控除することが認められず、これを不服として争ったが、東京地裁は、外国子会社合算税制の目的等から、当該当初申告要件には合理性があり、政令への委任の範囲を逸脱するものではないと結論づけた。
外国子会社配当益金不算入制度では撤廃も、CFC税制には当初申告要件必要
事案の概要は図のとおり。持株会社である原告は、処分行政庁から、特定外国子会社等であるCIS社及びCIL社等の課税対象金額に相当する金額が原告の益金の額に算入されるべきなどとして法人税等の更正処分等を受けたため、処分の一部取消しなどを求めて訴訟を提起した。

図のとおり、本件では、原告の特定外国子会社等であるCIS社及びCIL社がそれぞれ「子会社」から配当を受けているが、当該配当の額は、基準所得金額計算上、控除される(措令39条の15①四)。ただし、当該規定の適用により控除を受けるためには、控除の対象となる配当等の額を記載した控除明細書を確定申告書に添付する必要がある(措令39条の15⑨。以下「本件規定」)。原告は、法人税等の申告において、課税対象金額に相当する金額を益金の額に算入しておらず、控除明細書の添付もしていなかったため、控除を受けることができなかった。
本件訴訟では、本件規定が、適用対象金額の算定の基礎となる基準所得金額について政令で定める基準により計算する旨を規定した本件委任規定(措法66条の6②四)の委任の範囲を逸脱しているか否かが争点となった。
不申告のインセンティブも問題視
東京地裁はまず、本件委任規定の目的は統一的な基準を定めることにあり、基準所得金額の具体的な計算の基準については、優れて技術的かつ細目的な事項であるため、内閣の専門技術的な裁量に委ねられているとの解釈を示した。
その上で、本件規定は、控除明細書の添付により、内国法人の控除を受ける意思を明らかにさせるとともに、課税庁が、控除の可否やその額の判断の根拠となる資料を内国法人から早期かつ確実に収集し、適正かつ迅速に上記判断をすることを可能にするとした。
また、外国子会社合算税制の下では、特定外国子会社等の存在自体を課税庁に申告しないというインセンティブが働きやすい点を指摘。当初申告要件を規定せず、確定申告の際に特定外国子会社等の存在を申告しなくても、後に課税庁からその存在の指摘を受けた後に、修正申告書や更正請求書とともに控除明細書を提出すれば配当等の額の控除を受けられるとすると、不申告のインセンティブをさらに助長させるおそれがあるから、当初申告要件を設けることには合理性があるとの考えを示した。
原告は、本件委任規定の文言に照らせば、政令には「金額の計算」についての技術的かつ細目的な事項しか規定できないと解すべきであり、本件規定のように課税要件を加重する手続規定を定めることはできないと主張した。
これに対し東京地裁は、外国子会社合算税制の目的等に照らせば、本件委任規定は、基準所得金額の具体的な計算の基準につき、どの時点までに提出されたどのような資料等に基づいて計算するかといった点も含めて、我が国の法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準じて行う基準を定めることを委任する趣旨の規定であるとの考えを示した。
外国子会社配当益金不算入制度との違い指摘
原告は、本件規定は、外国子会社配当益金不算入制度の当初申告要件に「準ずる」ものとして規定されているところ、平成23年12月税制改正により、当該制度の当初申告要件が撤廃された以上、本件規定はその存立の基礎が失われたとも主張した。
東京地裁は、原告の指摘に対し一定の理解を示しながらも、平成23年12月税制改正は、当初申告要件が設けられている規定のうち、その目的・効果や課税の公平の観点から事後的な規定を認めても問題がないものについて当初申告要件を撤廃するものであり、個々の制度や条文の目的等に照らして当初申告要件が必要であるものを撤廃することまでを内容とするものではないとの考えを示した。
また、①外国子会社配当益金不算入制度は、その適用があると納税者である内国法人に有利となるから、そもそも納税者に不申告のインセンティブが働きにくいという点で、外国子会社合算税制と異なる、②措置令39条の15第1項4号において控除される特定外国子会社等がその「子会社」から受ける配当等の額は、納税者である内国法人の損益計算書には記載されておらず、課税庁による資料収集の容易さといった点にも、外国子会社配当益金不算入制度とは違いがあるなどと指摘し、平成23年12月税制改正によって外国子会社配当益金不算入制度において当初申告要件が撤廃されたとしても、本件規定の合理性が失われるものとはいえないとした。
このほか東京地裁は、添付できなかったことにつきやむを得ない事情があったなどの原告の主張も排斥し、課税処分は適法との判決を下した。
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