解説記事2025年06月23日 税制改正解説 令和7年度における所得税関係の改正について(上)(2025年6月23日号・№1079)
税制改正解説
令和7年度における所得税関係の改正について(上)
内田夏美
宮本大二朗
物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点からの所得税の基礎控除の控除額及び給与所得控除の最低保障額の引上げ並びに特定親族特別控除の創設を行うとともに、成長意欲の高い中小企業の設備投資を促進し地域経済に好循環を生み出すための中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度の拡充並びに国際環境の変化等に対応するための防衛特別法人税の創設及びたばこ税の見直しを行うほか、納税環境の整備、租税特別措置の見直し等所要の措置を講ずることを内容とした「所得税法等の一部を改正する法律」は、国会における審議を経て令和7年3月31日に参議院本会議で可決・成立し、同日に関係政省令とともに公布され、原則として4月1日から施行されている。
以下これらの改正内容について概要を説明する。
第一 所得税の見直し関係の改正
1 基礎控除の改正(所法86等関係)
(1)改正の内容
① 基礎控除の引上げ
イ 基礎控除について、合計所得金額が2,350万円以下である個人の控除額を10万円引き上げることとされた。
ロ 上記イの改正に伴い、給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)及び賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の見直し並びに公的年金等に係る源泉徴収税額の計算の際に公的年金等の金額から控除される金額の引上げ等を行うこととされた。
② 令和7年分以後の各年分の基礎控除等の特例の創設
イ 令和7年分以後の各年分において、居住者のその年分の合計所得金額が655万円(令和9年分以後の各年分にあっては、132万円)以下である場合には、基礎控除の控除額に次に掲げる年分の区分に応じそれぞれ次に定める金額を加算することとされた。
(イ)令和7年分及び令和8年分……次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
ⅰ その居住者のその年分の合計所得金額が132万円以下である場合……37万円
ⅱ その居住者のその年分の合計所得金額が132万円を超え336万円以下である場合……30万円
ⅲ その居住者のその年分の合計所得金額が336万円を超え489万円以下である場合……10万円
ⅳ その居住者のその年分の合計所得金額が489万円を超える場合……5万円
(ロ)令和9年分以後の各年分……37万円
ロ 上記イの措置は、年末調整において適用できることとされた。
ハ 上記イの措置の創設に伴い、令和8年以後の各年における公的年金等に係る源泉徴収税額の計算の際に公的年金等の金額から控除される金額の引上げ等を行うこととされた。
③ 令和7年における公的年金等に係る源泉徴収税額の充当・還付
居住者に対し、特定公的年金等の支払者が令和7年12月1日以後その年最後に特定公的年金等の支払をする場合において、特定公的年金等に係る所得税の額の合計額が、同日以後その年最後に特定公的年金等の支払をする時の現況により計算した一定の基礎控除の引上げを加味した税額に比し超過額があるときは、その超過額は、同日以後その年最後に特定公的年金等の支払をする際徴収すべき所得税に充当しなければならないこととされ、なお充当しきれない超過額(過納額)があるときは、その支払者は、その過納額を還付することとされた。
(2)適用関係
① 上記(1)①イの改正は、令和7年分以後の所得税について適用し、令和6年分以前の所得税については従前どおりとされている。
② 上記(1)①ロの改正は、令和8年1月1日以後に支払うべき給与等及び公的年金等について適用し、同日前に支払うべき給与等及び公的年金等については従前どおりとされている。
③ 上記(1)②イの改正は、令和7年分以後の各年分について適用される。
④ 上記(1)②ロの改正は、令和7年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年12月1日以後であるものについて適用し、同年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年12月1日前であるものについては従前どおりとされている。
⑤ 上記(1)②ハの改正は、令和8年1月1日以後に支払うべき公的年金等について適用し、同日前に支払うべき公的年金等については従前どおりとされている。
⑥ 上記(1)③の改正は、令和7年12月1日から施行される。
2 給与所得控除の改正(所法28等関係)
(1)改正の内容
① 給与所得控除について、55万円の最低保障額を65万円に引き上げることとされた。
② 上記①の改正に伴い、給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表及び年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表等について所要の改正が行われた。
(2)適用関係
① 上記(1)①の改正は、令和7年分以後の所得税について適用し、令和6年分以前の所得税については従前どおりとされている。
② 上記(1)②の改正のうち、給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)及び賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表に係る改正については、令和8年1月1日以後に支払うべき給与等について適用し、同日前に支払うべき給与等については従前どおりとされ、年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表に係る改正については、令和7年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年12月1日以後であるものについて適用し、同年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年12月1日前であるものについては従前どおりとされている。
3 特定親族特別控除の創設(所法84の2等関係)
(1)改正の内容
① 居住者が特定親族(生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の一定の親族等で、合計所得金額が123万円以下であり、かつ、控除対象扶養親族に該当しないものをいう。以下同じ。)を有する場合には、特定親族特別控除として、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その特定親族1人につき、その特定親族の合計所得金額に応じ、次のとおりの控除額を控除することとされた。

② 上記①の特定親族特別控除は、特定親族の合計所得金額が100万円以下の場合には、給与等に係る源泉徴収の際に適用できることとされた。また、特定親族の合計所得金額が85万円以下の場合には、公的年金等に係る源泉徴収の際に適用できることとされた。
③ 上記①の特定親族特別控除は、年末調整において適用できることとされた。
(2)適用関係
① 上記(1)①の改正は、令和7年分以後の所得税について適用される。
② 上記(1)②の改正は、令和8年1月1日以後に支払うべき給与等及び公的年金等について適用し、同日前に支払うべき給与等及び公的年金等については従前どおりとされている。
③ 上記(1)③の改正は、令和7年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年12月1日以後であるものについて適用し、同年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年12月1日前であるものについては従前どおり(改正法附則9②)。
4 基礎控除の改正等に伴う所得税法関係の改正(所法2等関係)
(1)改正の内容
① 雑損控除
雑損控除の対象となる資産を有する親族に係る総所得金額等の要件を58万円以下(改正前:48万円以下)に引き上げることとされた。
② ひとり親控除
ひとり親に該当するかどうかの判定におけるその者と生計を一にする子に係る総所得金額等の要件を58万円以下(改正前:48万円以下)に引き上げることとされた。
③ 勤労学生控除
勤労学生の合計所得金額要件を85万円以下(改正前:75万円以下)に引き上げることとされた。
④ 配偶者控除
同一生計配偶者の合計所得金額要件を58万円以下(改正前:48万円以下)に引き上げることとされた。
⑤ 扶養控除
扶養親族の合計所得金額要件を58万円以下(改正前:48万円以下)に引き上げることとされた。
⑥ 災害減免法の徴収猶予
徴収猶予限度額等の算定をする場合には、特定親族特別控除の額の見積額も加味することとされた。
(2)適用関係
① 上記(1)①から⑤までの改正は、令和7年分以後の所得税について適用し、令和6年分以前の所得税については従前どおりとされている。
② 上記(1)⑥の改正は、令和7年12月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用し、同日前に生じた災害により被害を受けた場合については従前どおりとされている。
第二 金融・証券税制の改正
1 所得税法等の規定による本人確認方法の改正(所規7等関係)
(1)改正の内容
所得税法等の規定による本人確認の方法について、署名用電子証明書を送信する方法に代えて、カード代替電磁的記録を送信する方法によることができることとされた。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、令和7年4月1日から施行されている。
2 信託に係る所得の金額の計算の改正(所法67の3関係)
(1)改正の内容
法人課税信託が特定法人課税信託であるときは、その受託法人の信託財産に属する特定株式については、その特定株式を受益者等が指定されて法人課税信託に該当しなくなった時における価額(その価額が帳簿価額相当額に満たない場合には、その帳簿価額相当額)により取得したものとみなして、居住者の各年分の各種所得の金額を計算するものとし、その特定株式のその帳簿価額相当額は、その居住者のその取得した日の属する年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないこととされた。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、令和7年4月1日以後に効力が生ずる特定法人課税信託について適用される。
3 個人の告知手続等に関する改正(所令336等関係)
(1)改正の内容
① 預貯金口座付番制度の創設に伴う個人の告知手続の整備
イ 利子等又は配当等の支払等を受ける個人が告知等をする場合において、その告知等を受ける者が、その個人に係る特定通知等を受けて作成されたその個人の個人番号その他の事項を記載した帳簿を備えているときは、その個人は、その告知等を受ける者に対しては、個人番号の告知等を要しないこととされた。
ロ 国外送金等をする一定の個人がその告知書等の提出をする場合において、その告知書等の提出を受ける者が、その個人に係る特定通知等を受けて作成されたその個人の氏名、住所及び個人番号を記載した帳簿を備えているときは、その個人は、その告知書等の提出を受ける者に対しては、本人確認書類の提示等を要しないこととされた。
② 非上場有価証券特例仲介等業者の除外
国外送金等をする者の告知書の提出を要しない公共法人等の範囲から、非上場有価証券特例仲介等業者が除外された。
(2)適用関係
① 上記(1)①の改正は、令和7年4月1日から施行されている。
② 上記(1)②の改正は、金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律の施行の日(令和7年5月1日)から施行されている。
4 所有株式に対応する資本金等の額の計算方法の改正(所令61関係)
(1)改正の内容
通算法人が行った分割型分割及び株式分配(以下「分割型分割等」という。)により調整対象通算法人の株式等を分割承継法人に移転し、又は現物分配法人の株主等に交付する場合のみなし配当等の額の計算の基礎となる所有株式に対応する資本金等の額について、その分割型分割等に係る調整対象通算法人の株式等の帳簿価額については修正前帳簿価額及び修正帳簿価額により調整した金額を用いて計算することとされた。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、令和7年4月1日以後に行われる分割型分割及び株式分配について適用し、同日前に行われた分割型分割及び株式分配については、従前どおりとされている。
5 特定受益証券発行信託の元本の払戻しがあった場合の受益権の取得価額の計算規定の創設等(所令114等関係)
(1)改正の内容
① 居住者が、その有する特定受益証券発行信託の受益権(以下「旧受益権」という。)に係る特定受益証券発行信託の元本の払戻し(その特定受益証券発行信託に係る信託の終了若しくは一部の解約又は信託の分割によるものを除く。以下同じ。)により金銭の交付を受けた場合における旧受益権1口当たりの取得価額の計算方法等が定められた。
② 株式等の譲渡の対価の受領者等の告知及び支払調書の対象となる償還金等の範囲に、特定受益証券発行信託の元本の払戻しにより交付を受ける金銭が追加された。
③ 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等の適用を受けた特定受益証券発行信託の受益権について、国外転出の時後にその受益権に係る特定受益証券発行信託の元本の払戻しにより金銭の交付を受けた場合における国外転出時評価額等の調整計算の方法が定められた。
(2)適用関係
① 上記(1)①及び③の改正は、令和8年4月1日以後に行われる特定受益証券発行信託の元本の払戻しについて適用される。
② 上記(1)②の改正は、令和8年4月1日以後に行われる償還金等の交付について適用される。
第三 その他の改正
1 減価償却資産の範囲の改正(所令6関係)
(1)改正の内容
減価償却資産の範囲に、無形固定資産として二酸化炭素の貯留事業に関する法律の試掘権が追加された。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、令和6年11月18日から施行されている。
2 退職所得課税の見直し(所令70等関係)
(1)改正の内容
① 老齢一時金(確定拠出年金法の老齢給付金として支給される一時金をいう。以下同じ。)以外の退職手当等の支払を受ける年(以下「受給年」という。)の前年以前9年内に老齢一時金(令和8年1月1日以後に支払を受けたものに限る。)の支払を受けた場合には、その老齢一時金については、退職所得控除額の計算における勤続期間等の重複排除の特例の対象とされた。
② 令和8年1月1日以後に支払を受けるべき老齢一時金に係る退職所得の受給に関する申告書(以下「退職受給申告書」という。)の保存期間が10年(改正前:7年)とされた。
③ 退職手当等の支払をする者は、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等について、退職手当等の支払を受ける全ての居住者に係る退職所得の源泉徴収票を税務署長に提出しなければならないこととされた。
(2)適用関係
① 上記(1)①の改正は、令和8年分以後の所得税について適用し、令和7年分以前の所得税については従前どおりとされている。
② 上記(1)②の改正は、令和8年1月1日以後に支払を受けるべき退職手当等について受理する退職受給申告書について適用し、同日前に支払を受けるべき退職手当等について受理する退職受給申告書については従前どおりとされている。
③ 上記(1)③の改正は、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等について提出し、又は交付する源泉徴収票について適用し、同日前に支払うべき退職手当等について提出し、又は交付した源泉徴収票については従前どおりとされている。
3 国庫補助金等の総収入金額不算入制度の改正(所令89関係)
(1)改正の内容
対象となる国庫補助金等に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が交付する鉱工業技術に関する研究開発の成果の企業化に必要な事業活動に要する資金に充てるための補助金が追加された。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、個人が令和7年4月1日以後に交付を受ける助成金及び補助金について適用される。
4 家事関連費等の必要経費不算入等の改正(所法45関係)
(1)改正の内容
スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律の制定に伴い、居住者が納付する同法の課徴金及び延滞金の額は、必要経費に算入しないこととされた。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律の施行の日から施行される。
5 リース会計基準の変更に伴う所要の措置(所令120の2等関係)
(1)改正の内容
① リース資産の減価償却について、次の改正が行われた。
イ 所有権移転外リース取引に係る賃借人が取得したものとされるリース資産の償却費の額の計算上選定することとされるリース期間定額法の計算の基礎となるリース資産の取得価額について、その所有権移転外リース取引に係る契約が令和9年3月31日後に締結されたものにあっては、その取得価額に含まれる残価保証額に相当する金額を控除しないこととされた。
ロ 所有権移転外リース取引の要件のうち割安購入権に関する要件について、賃借人に対しリース期間終了の時又はリース期間の中途において目的資産を買い取る権利が与えられており、かつ、その権利が割安購入権であることその他の事情によりその権利が行使されることが確実であると見込まれるものであることとされた。
② リース譲渡に係る収入及び費用の帰属時期の特例は、廃止された。
(2)適用関係
① 上記(1)①イの改正は、令和7年4月1日から施行されている。
② 上記(1)①ロの改正は、個人が令和7年4月1日以後に締結する所有権移転外リース取引に係る契約について適用し、個人が同日前に締結した所有権移転外リース取引に係る契約については従前どおりとされている。
③ 上記(1)②の改正は、令和7年4月1日前にリース譲渡を行った個人の令和7年分以前の所得税については従前どおりとされている。
6 公益の増進に著しく寄与する法人の範囲の改正(所令217関係)
(1)改正の内容
特定公益増進法人の範囲に、国立健康危機管理研究機構が追加された。
(2)適用関係
上記(1)の改正は、国立健康危機管理研究機構法(令和5年法律第46号)の施行の日(令和7年4月1日)から施行されている。
7 確定申告書の添付書類に関する改正(所法120関係)
(1)改正の内容
小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除又は地震保険料控除の適用を受ける者は、次に掲げる書類(以下「控除証明書」という。)の添付又は提示に代えて、控除証明書の記載事項を記載した明細書を確定申告書の提出の際に添付できることとされた。この場合において、税務署長は、確定申告期限等から5年間、控除証明書の提示又は提出を求めることができることとし、その求めがあったときは、これらの控除の適用を受ける者は、その控除証明書の提示又は提出をしなければならないこととされた。
① 小規模企業共済等掛金控除の証明書
② 生命保険料控除の証明書
③ 地震保険料控除の証明書
(2)適用関係
上記(1)の改正は、令和9年1月1日以後に令和8年分以後の所得税に係る確定申告書を提出する場合について適用される。
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