解説記事2025年07月07日 税制改正解説 令和7年度における納税環境整備に関する改正について(2025年7月7日号・№1081)
税制改正解説
令和7年度における納税環境整備に関する改正について
甲田圭人
はじめに
令和7年度税制改正では、物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策、成長意欲の高い中小企業の設備投資を促進し地域経済に好循環を生み出す等の観点から、個人所得課税、資産課税、法人課税、消費課税、国際課税、納税環境整備等について所要の措置が講じられ、関係法令の改正が行われた。
このうち納税環境整備関係の改正では、電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の見直し、添付書面等記載事項等のスキャナ読取り等の要件の見直し等によるe-Taxの利便性の向上等の改正が行われた。
以下では、これらの法令改正の主な内容について説明することとする。
一 電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の見直し
1 改正前の制度の概要
(1)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存
所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者(以下「保存義務者」という。)は、電子取引を行った場合には、次の要件(保存要件)に従って、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととされている(電子帳簿保存法7、電子帳簿保存法規則4①)。
① 次に掲げる措置のいずれかを行うこと。
イ その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、その取引情報の授受を行うこと(電子帳簿保存法規則4①一)。
ロ 次に掲げる方法のいずれかにより、その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すこと(電子帳簿保存法規則4①二)。
(イ)その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことをその取引情報の授受後、速やかに行うこと。
(ロ)その電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことをその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(その取引情報の授受からその記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。
ハ 次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムを使用してその取引情報の授受及びその電磁的記録の保存を行うこと(電子帳簿保存法規則4①三)。
(イ)その電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
(ロ)その電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
ニ その電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、その規程に沿った運用を行い、その電磁的記録の保存に併せてその規程の備付けを行うこと(電子帳簿保存法規則4①四)。
② その電磁的記録を保存する場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと(電子帳簿保存法規則2②二、4①)。
③ その電磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限ります。)を確保しておくこと(電子帳簿保存法規則2⑥五、4①)。
イ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(記録項目)を検索の条件として設定することができること。
ロ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
ハ 2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
④ 自社開発のプログラムを使用する場合には、電磁的記録の保存に併せて、その電磁的記録に係る電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付けを行うこと(電子帳簿保存法規則2②一イ、2⑥六、4①)。
(2)猶予措置
保存義務者が、電子取引を行った場合において、災害その他やむを得ない事情により、保存要件に従ってその電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明したとき、又は納税地等の所轄税務署長が保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、その保存義務者が国税に関する法律の規定によるその電磁的記録及びその電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示若しくは提出の要求に応じることができるようにしているときは、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする、いわゆる「猶予措置」が設けられている(電子帳簿保存法規則4③)。ただし、その事情が生じなかったとした場合又はその理由がなかったとした場合において、その保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったと認められるときは、この猶予措置の適用を受けることができない(電子帳簿保存法規則4③ただし書)。
(3)電磁的記録に係る重加算税の加重措置
保存要件に従ってスキャナ保存が行われている国税関係書類に係る電磁的記録(電子帳簿保存法4③前段)若しくはその保存要件に従ってスキャナ保存が行われていない国税関係書類に係る電磁的記録(電子帳簿保存法4③後段)又は保存義務者により行われた電子取引の取引情報に係る電磁的記録(電子帳簿保存法7)に記録された事項に関し期限後申告書若しくは修正申告書の提出、更正若しくは決定又は納税の告知若しくは納税の告知を受けることなくされた納付(以下「期限後申告等」という。)があった場合の重加算税の額については、通常課される重加算税の金額に、その重加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実(申告漏れ等)でその期限後申告等の基因となるこれらの電磁的記録に記録された事項に係るもの(隠蔽仮装された事実に係るものに限る。以下「電磁的記録に記録された事項に係る事実」という。)以外のものがあるときは、その電磁的記録に記録された事項に係る事実に基づく税額に限る。)の10%に相当する金額を加算した金額とされていた(旧電子帳簿保存法8⑤)。
2 改正の内容
取引の相手から受領した書類等については、その取引内容を証する原始記録であり、各種の帳簿作成・税務申告の基礎となるものであることから、確認書類としての現物性が確保されていることの要請は強いものと考えられるが、この書類等が電子的に保存されている場合、すなわち、国税関係書類に係る電磁的記録のスキャナ保存又は電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存が行われている場合には、紙によってその書類等を保存する場合と比して、複製・改ざん行為が容易であり、また、その痕跡が残りにくいという特性にも鑑みて、こうした複製・改ざん行為を未然に抑止する観点から、上記1(3)の電磁的記録に係る重加算税の加重措置が設けられている。
近年、会計システム等の開発が進み、請求書等がデータ連携に適したデジタルデータ(電子取引の取引情報に係る電磁的記録)で送受信される場合に、人の手を介することなく授受及び保存を行うことが可能な会計ソフト等が流通しており、こういった会計ソフト等を使用している場合については、必ずしも電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を行うことのみをもって、紙によってその書類等の保存を行う場合と比して、複製・改ざん行為が容易とはいえない状況にある。
このような会計ソフト等を使用して送受信されたデジタルデータについては、事業者の事務負担の軽減等だけでなく、税務の観点からもその保存や記帳の適正性が確保されたものと認められ、上記1(3)の電磁的記録に係る重加算税の加重措置の制度趣旨に鑑みても、その措置の適用対象から除外することが適当と考えられることから、今回の改正においては、上記1(3)の電磁的記録に係る重加算税の加重措置の対象から、電子取引の取引情報に係る一定の電磁的記録であって、その保存が国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たしている場合におけるその電磁的記録を除外する措置(以下「除外措置」という。)が講じられた。
なお、令和6年度与党税制改正大綱(令和5年12月14日自由民主党・公明党)において、「取引に係るやり取りから会計・税務までデジタルデータで処理することで、納税者側の事務負担の軽減等及び適正・公平な課税・徴収の実現を図る観点を踏まえることとする」とされており、この「取引に係るやり取りから会計・税務までデジタルデータで処理すること」(デジタルシームレス)を推進していくことが検討課題とされていたが、今回の改正により、事業者において、こういった会計ソフト等の利用が進むこととなれば、これまで以上に事業者のデジタルデータの保存等に係る事務負担の軽減につながるほか、適正な納税申告が確保されることが期待される。
以下では、この改正の内容について説明することとする。
(1)除外措置の概要
上記1(3)の電磁的記録に係る重加算税の加重措置の対象から、電子取引の取引情報に係る電磁的記録であって、その保存が国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たしている場合におけるその電磁的記録が除外された(電子帳簿保存法8⑤)。
また、本除外措置の適用を受けるためには、その保存義務者によりその電磁的記録の保存が行われた日以後引き続きその要件を満たしてその電磁的記録の保存が行われている必要がある(電子帳簿保存法8⑤)。これは、該当する電子取引を行った後、保存期間を通じてその要件を満たして保存が行われていない電磁的記録や調査時にその要件を満たしていないことが判明した電磁的記録については、適切な保存が行われているとはいえないことから、本除外措置の対象外とされたものである。
なお、電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、上記1(1)の保存要件に従って保存が行われたもの又は上記1(2)の猶予措置による保存が行われたもの(以下「特定電磁的記録」という。)である必要があるが、本除外措置の対象となるものは、この特定電磁的記録に限ることとされている。これは、本来はこういった特定電磁的記録以外の電磁的記録の存在は望ましくはないが、実態としては納税者の手元に存在し得る中で、こういった電磁的記録については、本除外措置の対象とならないことが明らかにされたものである。
(2)除外措置の対象となる特定電磁的記録の保存の要件
上記(1)の「国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件」とは、次に掲げる要件に従って特定電磁的記録の保存を行うこととされている(電子帳簿保存法規則5⑤)。
① 特定電子計算機処理システムを使用した真実性の確保(改ざん防止の確保)
次に掲げる要件のいずれかを満たす特定電子計算機処理システムを使用して電子取引の取引情報(特定電磁的記録に係るものに限る。以下「特定取引情報」という。)の授受及びその特定電磁的記録の保存を行うこと(電子帳簿保存法規則5⑤一)。
イ その特定電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
(注)上記の要件については、上記1(1)①ハ(イ)と同様であるが、具体的には、電磁的記録の記録事項を直接に訂正又は削除を行った場合には、訂正前又は削除前の記録事項及び訂正又は削除の内容がその電磁的記録又はその電磁的記録とは別の電磁的記録(訂正削除前の履歴ファイル)に自動的に記録されるシステム等が該当する(電子帳簿保存法取扱通達7−6参照)。
ロ その特定電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
② 記帳の適正性確保
上記①の特定電子計算機処理システムが次に掲げる要件のいずれかを満たすものであること(電子帳簿保存法規則5⑤二)。
イ その特定電子計算機処理システムを使用して保存が行われた特定電磁的記録の記録事項(金額に係るものに限る。ロにおいて同じ。)を訂正又は削除を行った上で国税関係帳簿に係る電磁的記録又は電子計算機出力マイクロフィルムに記録することができないこと。
ロ その特定電子計算機処理システムを使用して保存が行われたその特定電磁的記録の記録事項を訂正又は削除を行った上で国税関係帳簿に係る電磁的記録又は電子計算機出力マイクロフィルムに記録した場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
③ 特定取引情報に係る電磁的記録と国税関係帳簿に係る電磁的記録等との相互関連性の確保
特定取引情報(取引に関して受領し、又は交付する一般書類に通常記載される事項を除く。)に係る電磁的記録の記録事項とその特定取引情報に関連する国税関係帳簿に係る電磁的記録又は電子計算機出力マイクロフィルムの記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこと(電子帳簿保存法規則5⑤三)。
④ 特定電子計算機処理システムを使用した保存等の確認
特定電子計算機処理システムを使用して特定取引情報の授受及び特定電磁的記録の保存を行ったことを確認することができるようにしておくこと(電子帳簿保存法規則5⑤四)。
(3)特定電子計算機処理システムの意義
上記(2)の「特定電子計算機処理システム」とは、電子計算機処理システムで国税庁長官の定める基準に適合するものをいう(電子帳簿保存法規則5⑤一)。これは、取引から会計・税務までがシームレスに処理されるためには、システム間における相互運用性を一定程度確保することが重要であることを踏まえ、こういった相互運用性を一定程度確保するため、本除外措置の適用に当たり、電子取引の取引情報の授受及びその電磁的記録の保存に使用する電子計算機処理システムを国税庁長官の定める基準に適合するものに限定することとされるものである。
なお、この「国税庁長官の定める基準」については、具体的には、次に掲げるいずれかの電磁的記録で特定電磁的記録に該当するものに係る保存を上記(2)の要件を満たして行うことができる機能を有していることとされている(令7年国税庁告示第2号)。
① 仕入明細書(消法30⑨三)又は適格請求書(消法57の4①)に記載すべき事項に係る電磁的記録の仕様としてデジタル庁が管理するものに従って提供された電子取引の取引情報に係る電磁的記録
② 金融機関等のいずれかに預金口座又は貯金口座を開設している預金者又は貯金者の委託を受けて、その金融機関等が行うその預金口座又は貯金口座に係る資金を移動させる為替取引の取引情報に係る電磁的記録
(4)除外措置に係る届出
本除外措置の適用を受けようとする保存義務者は、あらかじめ、特定電磁的記録に記録された事項に関し期限後申告等があった場合には上記1(3)の電磁的記録に係る重加算税の加重措置の適用を受けない旨等を記載した届出書(以下「不適用届出書」という。)を納税地等の所轄税務署長に提出している必要がある(電子帳簿保存法規則5⑥)。
なお、保存義務者は、電磁的記録に係る重加算税の加重措置の適用を受けないことをやめようとする場合には、あらかじめ、その旨等を記載した届出書(以下「取りやめ届出書」という。)を納税地等の所轄税務署長に提出しなければならないこととされており(電子帳簿保存法規則5⑦前段)、その取りやめ届出書の提出があったときは、その提出があった日の属する課税期間以後の課税期間については、不適用届出書は、その効力を失うこととされている(電子帳簿保存法規則5⑦後段)。そのため、その取りやめ届出書を提出した日の属する課税期間以後の課税期間について、電磁的記録に係る重加算税の加重措置の適用を受けないこととする場合には、改めて不適用届出書を提出する必要がある。
また、保存義務者は、不適用届出書に記載した事項の変更をしようとする場合には、あらかじめ、その旨等を記載した届出書を納税地等の所轄税務署長に提出しなければならないこととされている(電子帳簿保存法規則5⑧)。
3 適用関係
上記2の改正は、令和9年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用され、同日前に法定申告期限等が到来した国税については従前どおりとされている(改正法附則61)。したがって、例えば、所得税については令和8年分から、法人税については10月決算法人の場合には令和8年10月決算期分から、それぞれ適用される場面が生じ得ることとなる。
二 その他納税環境整備関係の改正
1 添付書面等記載事項等のスキャナ読取り等の要件の見直し等によるe-Taxの利便性の向上
(1)改正前の制度の概要
① 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による申請等
イ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う者は、その申請等につき規定した法令の規定において書面等に記載すべきこととされている事項(以下「申請書面等記載事項」という。)並びに税務署長から通知された識別符号(ID)及び暗証符号(パスワード)を入力して、その申請等の情報に電子署名を行い、その電子署名に係る電子証明書と併せてこれらを送信することにより、その申請等を行わなければならないこととされている(国税オンライン化省令5①)。
ロ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う者は、上記イにより申請書面等記載事項を入力して送信する方法につき国税庁の使用に係る電子計算機において用いることができない場合には、税務署長から通知された識別符号(ID)及び暗証符号(パスワード)を入力して、申請書面等記載事項を次に掲げる要件を満たすようにスキャナにより読み取る方法その他の方法により作成した電磁的記録に記録された情報に電子署名を行い、その電子署名に係る電子証明書と併せてこれらを送信することにより、その申請等を行うことができることとされていた(旧国税オンライン化省令5②)。
(イ)解像度が一般文書のスキャニング時の解像度である25.4mm当たり200ドット以上であること。
(ロ)赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上であること。
② 添付書面等記載事項の提供方法
電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う者は、その申請等につき規定した法令の規定に基づき添付すべきこととされている書面等(以下「添付書面等」という。)に記載されている事項又は記載すべき事項(以下「添付書面等記載事項」という。)を次に掲げる方法(上記①ロの申請等を行う場合には、ロに掲げる方法)により送信し、又は提出することをもって、その添付書面等の提出に代えることができることとされている(国税オンライン化省令5③)。
イ 添付書面等記載事項をその申請等に併せて入力して送信する方法
ロ 添付書面等記載事項をスキャナにより読み取る方法その他の方法により作成した電磁的記録(上記①ロ(イ)及び(ロ)に掲げる要件を満たすように読み取り、又は作成したものに限る。)をその申請等と併せて送信する方法(上記イに掲げる方法につき国税庁の使用に係る電子計算機において用いることができない場合に限りる。)
ハ 一定の添付書面等記載事項が記録された電磁的記録であって、添付書面等を交付すべき者から提供を受けた一定のものをその申請等と併せて送信する方法
ニ 一定の添付書面等記載事項の電磁的記録(その電磁的記録をスキャナにより読み取る方法その他の方法により作成した場合にあっては、上記①ロ(イ)及び(ロ)に掲げる要件を満たすように読み取り、又は作成したものに限る。)を記録した光ディスク又は磁気ディスクを提出する方法
③ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による申請等のファイル形式
申請書面等記載事項又は添付書面等記載事項を送信し、又は提出する場合におけるその送信又は提出に関するファイル形式については、国税庁長官が定めることとされており、上記①ロ並びに②ロ及びニのスキャナにより読み取る方法その他の方法により作成した電磁的記録(以下「イメージデータ」という。)のファイル形式は、PDF形式とされていた(国税オンライン化省令5④、旧平成30年国税庁告示第14号)。
(2)改正の内容
上記(1)のとおり、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行う申請等のうち、イメージデータを送信し、又は提出する場合には、そのイメージデータは、「赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上(カラー)であること」との要件を満たすように作成する必要があり、そのファイル形式については、PDF形式とされていた。
また、e-Taxには、イメージデータで送信することができるデータ容量の制限(1送信当たり最大14.0メガバイト)やイメージデータの送信回数の制限(最大11回)がある。
そのため、カラーであることの要件を満たす読取り等によって作成したイメージデータはデータ容量が大きくなってしまう傾向にあり、その送信が制限される場合があった。
また、イメージデータのファイル形式はPDF形式とされていたことから、スマートフォンから送信する際に、カメラで撮影したJPEG形式(JPG形式)の画像データをPDF形式に変換するという手間が生じていた。
こうした状況を改善し、納税者利便の向上を図る観点から、次の見直しが行われた。
① 添付書面等記載事項等のスキャナ読取り等の要件の見直し
イメージデータを上記(1)①ロ並びに②ロ及びニのスキャナにより読み取る方法その他の方法により作成する際の階調の要件について、白色から黒色までの階調が256階調以上(グレースケール)であることとされた(国税オンライン化省令5②二)。
この改正により、「グレースケールであること」との要件を満たす読取り等によって作成したイメージデータは、カラーであるものよりもデータ容量を抑えることができるため、その送信が制限される場面は減少するものと考えられる。
② イメージデータのファイル形式の拡充
イメージデータを送信し、又は提出する場合におけるその送信又は提出に関するファイル形式に、JPEG形式及びJPG形式が追加された(令和7年国税庁告示第4号)。
この改正により、スマートフォンから送信する際に、カメラで撮影したJPEG形式(JPG形式)のまま画像データを送信することが可能となる。
(3)適用関係
① 上記(2)①の改正は、令和7年4月1日から施行されている(改正国税オンライン化省令附則)。
② 上記(2)②の改正は、令和10年1月1日から適用される(令和7年国税庁告示第4号前文)。
2 各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税及び各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税の創設等に伴う改正
(1)改正前の制度の概要
① 納税義務の成立時期
法人税及び地方法人税の納税義務は、事業年度の終了の時に成立することとされている(通法15②三)。ただし、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税及び特定基準法人税額に対する地方法人税の納税義務は、対象会計年度の終了の時に成立することとされている(旧通法15②三の二)。
② 納税証明書の証明事項
納税証明書は、国税に関する事項のうち納付すべき税額、所得の金額等を証明するものであり、法人税に関する事項として、法人の各事業年度の所得の金額、各対象会計年度の課税標準国際最低課税額等を証明するものとされている(通法123①、旧通令41①)。
(2)改正の内容
① 納税義務の成立時期の整備
各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税及び各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税並びに国際最低課税額等に係る特定基準法人税額に対する地方法人税及び国内最低課税額に係る特定基準法人税額に対する地方法人税の創設に伴い、これらの法人税及び地方法人税の納税義務は、対象会計年度の終了の時に成立することとされた(通法15②三の二)。
② 納税証明書の証明事項の整備
各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税及び各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税の創設に伴い、納税証明書において証明する法人税に関する事項の範囲に、法人の各対象会計年度の内国法人に係る課税標準国際最低課税残余額、内国法人に係る課税標準国内最低課税額、外国法人に係る課税標準国際最低課税残余額及び外国法人に係る課税標準国内最低課税額が追加された(通令41①三ロ)。
(3)適用関係
上記(2)の改正は、令和8年4月1日から施行される(改正法附則1三ニ、改正通令附則)。
三 事業性融資の推進等に関する法律の制定に伴う国税徴収法等の改正
Ⅰ 事業性融資の推進等に関する法律の制定の経緯
幅広い事業者に対し、その持続的な成長を促すような資金提供が実施されるためには、 金融機関等が不動産担保や経営者保証等に安易に依存するのではなく、事業者の実態や将来性を的確に理解し、その特性に着目した融資を行う必要があるが、政府においては、事業性に着目した融資の推進のために、これまでも様々な取組を行ってきており、特に近年、令和4年12月に「経営者保証改革プログラム」を、令和5年8月に「挑戦する中小企業応援パッケージ」を策定し、金融機関等に対して、事業性に着目した融資を促すことで、スタートアップの創業や円滑な事業承継、早期の事業再生を後押ししてきたところである。
しかしながら、事業者からは、不動産担保や経営者保証等がなければ資金を調達することが難しいといった課題が指摘されていた。
こうした指摘を踏まえ、「経済財政運営と改革の基本方針2023(令和5年6月16日閣議決定)」や「デフレ完全脱却のための総合経済対策(令和5年11月2日閣議決定)」では、知的財産・無形資産を含む事業全体を担保に金融機関等から資金を調達できる制度(事業成長担保権(仮称))の創設を目指すこととされており、金融機関等が事業者の事業そのものを評価し、成長資金の供給等に一層努めることが重要となっていた。
こうした課題を踏まえ、令和6年の第213回通常国会において提出された「事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号)」は、令和6年6月7日に参議院本会議で可決・成立し、同月14日に公布されている。
この事業性融資の推進等に関する法律においては、事業者が、不動産担保や経営者保証等によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるよう、事業性融資の推進に関し、「基本理念」、「国の責務」、「事業性融資推進本部」、「企業価値担保権」、「認定事業性融資推進支援機関」等について定められているが、このうち「企業価値担保権」については、有形資産に乏しいスタートアップや、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開を躊躇している事業者等の資金調達を円滑化するため、無形資産を含む事業全体を担保とする制度として創設されたものである。
また、事業性融資の推進等に関する法律の附則において、国税徴収法等が改正され、この「企業価値担保権」に対する国税の優先徴収権の制限に関する規定等が整備された。
以下では、この事業性融資の推進等に関する法律に定める企業価値担保権制度の概括的な内容、同法に係る国税債権に関連する事項及び同法の制定に伴う国税徴収法等の改正の内容を説明することとする。
事業性融資の推進等に関する法律は、不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存した融資慣行の是正及び会社の事業に必要な資金の調達等の円滑化を図るため、事業性融資の推進等に関し、基本理念、国の責務、基本方針の策定、企業価値担保権制度の創設、事業性融資推進支援業務を行う者の認定及び事業性融資推進本部の設置等について定めているが、概要は以下のとおりである。
Ⅱ 事業性融資の推進等に関する法律の概要
1 基本理念、国の責務及び基本方針
不動産を目的とする担保権又は個人を保証人とする保証契約等に依存しない会社の事業性に基づく融資(以下「事業性融資」という。)の推進に関し、その基本理念及び国の責務を定めるとともに、下記6の事業性融資推進本部において、事業性融資の推進に関する基本方針を策定することとされている(事業性融資推進法3~5)。
2 企業価値担保権
会社の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む。)は、その会社に対する特定被担保債権及び不特定被担保債権を担保するため、一体として、企業価値担保権の目的とすることができることとされている(事業性融資推進法7①)。
また、この企業価値担保権の得喪及び変更の効力要件は商業登記簿への登記とされ、抵当権その他の担保権との優先順位は、これらの担保権に係る登記、登録その他の対抗要件の具備と企業価値担保権に係る登記の前後によることとされている(事業性融資推進法15、16、18)。
なお、企業価値担保権が担保する債務について、個人を保証人とする保証契約等がある場合、債務者が虚偽の報告をした等の一定の要件を満たすときを除き、その個人を保証人とする保証契約等に係る権利は行使できないこととされている(事業性融資推進法12)。
3 企業価値担保権に関する信託契約及び信託業務
企業価値担保権を設定しようとする場合には、債務者は、自身を委託者、企業価値担保権に関する信託業務を営む者を受託者、その企業価値担保権の被担保債権者を受益者とする信託契約を締結しなければならないこととされている(事業性融資推進法6③、8)。
なお、企業価値担保権に関する信託業務は、免許制とされ、企業価値担保権の内容等に係る債務者への説明義務等を課すこととされている(事業性融資推進法32、40)。
また、この信託契約は、信託の目的が、上記の免許を受けた者が次に掲げる行為をするものであること等をその内容とするものでなければ、その効力を生じないこととされている(事業性融資推進法8②)。
① 企業価値担保権の管理及び処分をすること。
② 特定被担保債権者のために、企業価値担保権の実行手続において、配当可能額から下記③の不特定被担保債権留保額を控除した額を限度として金銭の配当を受け、その金銭の管理及び処分をすること。
③ 不特定被担保債権者のために、配当可能額に応じ、債務者について行われ、又は行われるべき清算手続又は破産手続の公正な実施に要すると見込まれる額として一定の額(不特定被担保債権留保額)の金銭の配当を受け、その金銭の管理及び処分をすること。
4 企業価値担保権の実行
特定被担保債権の期限が到来しても弁済されず、又は債務者が特定被担保債権の弁済を完了せずに解散(合併によるものを除く。)をしたときは、受託者は、全ての特定被担保債権者の指図により、企業価値担保権の実行その他の必要な措置をとらなければならないこととされ(事業性融資推進法61)、この企業価値担保権の実行は、企業価値担保権者の実行手続開始の申立てによってすることとされている(事業性融資推進法83①)。
なお、裁判所は、この実行手続開始の申立てがあった場合において、申立債権に係る企業価値担保権の存在等の証明があったときは、費用の予納がないときを除き、実行手続開始の決定をすることとされている(事業性融資推進法87①)。
また、企業価値担保権の目的である財産(以下「担保目的財産」という。)の換価は、裁判所の許可を得て、営業又は事業の譲渡によってすることとされているが(事業性融資推進法157①)、管財人は、必要があると認めるときは、担保目的財産に属する財産について、裁判所の許可を得て、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定による方法又は任意売却によって換価することができることとされている(事業性融資推進法157②)。
5 事業性融資推進支援業務を行う者の認定等
企業価値担保権の活用等を支援するため、事業性融資について高度な専門的知見を有し、事業者や金融機関等に対して助言・指導を行う機関の認定制度が導入されている(事業性融資推進法第4章)。
6 事業性融資推進本部
事業性融資を推進するため、金融担当大臣を本部長とし、法務大臣、財務大臣、農林水産大臣及び経済産業大臣等を本部員とする事業性融資推進本部を金融庁に設置することとされている(事業性融資推進法第5章)。
Ⅲ 事業性融資の推進等に関する法律に係る国税債権に関連する事項
1 企業価値担保権の実行手続開始前の国税の徴収について
企業価値担保権者は、事業性融資の推進等に関する法律の定めるところにより、担保目的財産について、他の債権者に先立って特定被担保債権及び不特定被担保債権に対する配当を受けることができることとされている(事業性融資推進法7②)。
他方で、企業価値担保権者は、担保目的財産に対する強制執行、担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。)、企業担保権の実行又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)のそれぞれの手続において、配当又は弁済金の交付を受けることができないこととされているため(事業性融資推進法7③)、企業価値担保権者は、事業性融資の推進等に関する法律に特別の定めを規定している企業価値担保権の実行手続以外のその各手続においては、他の債権者(租税等の請求権を有する者を含む。)に先立って配当を受けることができないこととなる。
これは、一般の無担保債権者や後順位担保権者等が個々の会社財産に対して強制執行や担保権の実行等をした場合に、その手続内で、会社の総財産という極めて広範な財産を担保の目的としている企業価値担保権者の優先弁済権を認めると、一般債権者等が十分に弁済を受けることができないことが想定されるため、強制執行等の手続においては企業価値担保権者の優先弁済権の行使を認めないことにより、一般債権者等を保護することとされたものである。
そのため、税務当局(租税等の請求権を有する者)においても、企業価値担保権の実行手続開始前においては、滞納処分を執行して担保目的財産から国税を徴収することができることとなる。なお、企業価値担保権により担保される債権は、国税滞納処分による換価代金等を配当すべき債権に含まれていない(徴法129①三)。
2 企業価値担保権の実行手続における国税の徴収について
企業価値担保権の実行手続開始後は、原則として、実行手続によらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができないこととされているため、滞納国税は、共益債権に該当するものを除き、企業価値担保権の実行手続において配当を受けることとなるが、具体的な国税の扱いについては、以下のとおりである。
(1)共益債権
共益債権とは、実行手続によらないで担保目的財産から随時弁済を受けることができる債権をいい(事業性融資推進法70⑥)、手続が開始されることによって管財人に管理処分権が移転し、事業を継続させる手続である会社更生手続を定める会社更生法等にも同様の仕組みがあるが、企業価値担保権の実行手続における共益債権は、次に掲げる請求権とされている(事業性融資推進法127)。なお、実行手続開始後に生じた国税が次の②に該当する場合には、共益債権になる。
① 配当債権者等の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
② 実行手続開始後の債務者の事業の経営並びに担保目的財産の管理及び処分に関する費用の請求権
③ 管財人の報酬及び申立人又は配当債権者が提起した配当債権についての異議訴訟の訴訟費用償還請求権
④ 債務者の業務及び財産に関し管財人が権限に基づいてした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
⑤ 事務管理又は不当利得により実行手続開始後に債務者に対して生じた請求権
⑥ 債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、実行手続開始後に生じたもの(上記①から⑤までに掲げるものを除く。)
また、債務者に対して実行手続開始前の原因に基づいて生じた源泉徴収に係る所得税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、石油石炭税、特別徴収に係る国際観光旅客税、地方消費税、申告納付の方法により徴収する道府県たばこ税(都たばこ税を含む。)及び市町村たばこ税(特別区たばこ税を含む。)並びに特別徴収義務者が徴収して納入すべき地方税の請求権についても、本来他の納税義務者が納税負担を負うものを預かっているという性質を有し、これらについては本来的に企業価値担保権者が担保価値として把握していなかったことを踏まえ、共益債権とされている(事業性融資推進法128)。
なお、これらの共益債権は、下記(2)の配当順位にかかわらず、配当債権に先立って、弁済することとされている(事業性融資推進法130①)。
(2)実行手続における国税の配当順位
この企業価値担保権の実行手続について、配当の順位は、事業性融資の推進等に関する法律及び民法、商法その他の法律の定める優先順位によることとされている(事業性融資推進法165①)。
なお、国税は、納税者の総財産について、国税徴収法第2章に「別段の定め」がある場合を除き、全ての公課その他の債権に先立って徴収することとされているため(徴法8)、基本的に、企業価値担保権の実行手続においても優先徴収されるが、企業価値担保権と国税の優先関係について、「別段の定め(国税徴収法第18条の2)」が設けられている(下記Ⅳ1参照)。
また、企業価値担保権の実行手続が行われた場合において、質権者等の他の担保権者が実行手続に配当参加したときは、「法定納期限等以前に設定された質権の優先」の規定(徴法15)等が、交付要求が競合したときは「交付要求先着手による国税の優先」の規定(徴法13)が、それぞれ適用される等、この企業価値担保権の実行手続の配当手続においても、その性質に反しない限りにおいては、国税徴収法第2章の規定が適用されることとなる。
(3)滞納処分の失効等
企業価値担保権の実行手続開始の決定があったときは、担保目的財産に対する強制執行等、企業担保権の実行、国税滞納処分(共益債権を徴収するためのものを除く。以下同じ。)等はすることができないこととされている(事業性融資推進法96①)。
また、担保目的財産に対して既にされている強制執行等の手続、企業担保権の実行の手続、国税滞納処分等は、その実行手続の関係においては、その効力を失うこととされている(事業性融資推進法96②)。
他方、裁判所は、債務者の事業の継続及び換価に支障を来さないと認めるときは、管財人若しくは租税等の請求権につき徴収の権限を有する者の申立てにより又は職権で、失効した国税滞納処分等の続行を命ずることができることとされている(事業性融資推進法96③)。
なお、配当債権又は配当外債権については、この実行手続開始後は、事業性融資の推進等に関する法律に特別の定めがある場合を除き、実行手続によらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができないこととされている(事業性融資推進法93①)。
(4)租税等の請求権の届出
一定の租税等の請求権を有する者は、遅滞なく、その租税等の請求権の額、原因及び担保権の内容並びにその租税等の請求権が上記(3)の失効した国税滞納処分による差押えに係るものである場合にはその差押えの年月日を裁判所に届け出なければならないこととされている(事業性融資推進法136①)。
なお、滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合には、税務署長は、執行機関に対し、滞納に係る国税につき、交付要求書により交付要求をしなければならないこととされているため(徴法82)、企業価値担保権の実行手続が行われた場合は、実務上、その交付要求とともに、上記の届出が行われることになるものと考えられる(下記Ⅳ2のとおり、企業価値担保権の実行手続は強制換価手続の範囲に含まれることとなる。)。
また、失効した国税滞納処分による差押えに係る租税等の請求権を有する者が、その租税等の請求権について、上記の届出をしたときは、企業価値担保権の実行手続の配当に関しては、その国税滞納処分による差押えの時に交付要求をしたものとみなすこととされている(事業性融資推進法136②)。
これは、国税徴収法上、「差押先着手主義」及び「交付要求先着手主義」が規定されているが、本来であれば「差押先着手主義」が適用される差押えに係る国税について、上記(3)のとおりその差押えが失効した場合についても他の国税又は地方税に対して優先して徴収することができることを維持する観点から、企業価値担保権の実行手続においてされた上記の届出(交付要求)について、それよりも前に差押えをしていた場合には、その差押えの時に国税徴収法に規定する交付要求をしたものとみなした上で、交付要求の先後において配当の順位を決することとされたものである。
Ⅳ 国税徴収法等の改正
1 法定納期限等以前に設定された企業価値担保権の優先等
(1)国税と他の債権との調整に関する制度の概要
国税は、納税者の総財産について、国税徴収法第2章に「別段の定め」がある場合を除き、全ての公課その他の債権に先立って徴収することとされている(徴法8)。
この「別段の定め」として、一定の質権又は抵当権に対する国税の優先徴収権の制限が定められているが、具体的には、納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に質権又は抵当権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その質権又は抵当権により担保される債権に次いで徴収することとされている(徴法15、16)。
この質権又は抵当権に対する国税の優先徴収権の制限については、質権者又は抵当権者の国税の予測可能性の理論に基づき定められているものであるが、質権者又は抵当権者が国税の存在を知り得た後にその債権額を増加させた場合には、これらの保護を与える必要がないことから、この質権及び抵当権の優先額の限度についても定められている。
具体的には、国税に先立つ質権又は抵当権により担保される債権の元本の金額は、その質権者又は抵当権者がその国税に係る差押え又は交付要求の通知を受けた時における債権額を限度とされている(徴法18①本文)。
(2)改正の内容
債務者の財産の上に存する質権又は抵当権等(以下「他の担保権」という。)と企業価値担保権とが競合する場合には、それらの優先権の順位は、他の担保権に係る登記、登録その他の対抗要件の具備と企業価値担保権に係る登記の前後によることとされている(事業性融資推進法18①)。
上記(1)のとおり、一定の質権及び抵当権については、国税の優先徴収権の制限が定められているが、この質権及び抵当権の国税の優先徴収権の制限の内容並びに事業性融資の推進等に関する法律における企業価値担保権と他の担保権の優先権の順位の扱いを踏まえ、企業価値担保権と国税の優先関係について、国税徴収法第2章に「別段の定め」を設けることとされた。
具体的には、納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に企業価値担保権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その企業価値担保権により担保される債権に次いで徴収することとされた(徴法18の2①)。
これは、他の担保権に対する国税の優先徴収権の制限に倣い、企業価値担保権者の国税の発生の予測可能性の理論に基づき定められたものである。
また、質権及び抵当権の扱いに倣い、企業価値担保権者が国税の存在を知り得た後にその債権額を増加させた場合における企業価値担保権の優先額の限度についても定めることとされた。
具体的には、国税に先立つ企業価値担保権により担保される特定被担保債権の元本の金額は、その企業価値担保権者がその国税に係る差押え又は交付要求の通知を受けた時における債権額を限度とされた(徴法18の2②本文)。ただし、その国税に優先する他の債権を有する者の権利を害することとなるときは、この限りでないこととされた(徴法18の2②ただし書)。
(3)適用関係
上記の改正は、事業性融資の推進等に関する法律の公布の日(令和6年6月14日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(事業性融資推進法附則1)。
2 強制換価手続の範囲の見直し
(1)改正前の制度の概要
強制換価手続については、債務者の任意の履行によらないで、公権力が介入して債務の履行を実行させる手続をいうものであるが、その範囲については、滞納処分(その例による処分を含む。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいうこととされている(旧徴法2十二、旧通法2十)。
なお、滞納者の財産につきこの強制換価手続が行われた場合には、税務署長は、執行機関に対し、滞納に係る国税につき、交付要求書により交付要求をしなければならないこととされている(徴法82①)。
(2)改正の内容
企業価値担保権の実行手続は、差し押さえられた財産全てを換価した上で、手続に参加する債権者に対して法定の順位に従って配当することを目的とする点で、強制執行等と同一の性質を有するものであり、債務者の任意の履行によらないで、公権力が介入して債務の履行を充実させる手続であることを踏まえ、「強制換価手続」の範囲に、企業価値担保権の実行手続が追加された(徴法2十二、通法2十)。
この改正により、滞納者の財産につきこの企業価値担保権の実行手続が行われた場合には、税務署長は、執行機関(裁判所)に対し、滞納に係る国税につき、交付要求書により交付要求をしなければならないこととされる(徴法82①)。
(3)適用関係
上記の改正は、事業性融資の推進等に関する法律の公布の日(令和6年6月14日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(事業性融資推進法附則1)。
四 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の制定に伴う国税通則法の改正
Ⅰ 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の制定の経緯
日本の企業の資金調達においては銀行貸出しを中心とした間接金融の役割が大きく、その際の担保としては不動産担保(抵当権)や個人保証が多用されてきた。他方で、特に中小企業やベンチャー企業・スタートアップ企業の中には不動産を有しないものもあること、企業の債務を個人で保証した者が過大な責任を負う場合があることなどから、多様な資金調達手法を整備し、不動産担保や個人保証に過度に依存しない資金調達方法を確立する必要性が指摘されていた。
そのような不動産担保や個人保証に依存しない資金調達手段としては、在庫、機械等の動産や売掛債権等の債権などを担保として活用することが考えられるところ、その担保化の方法として、実務上、動産については動産譲渡担保契約や所有権留保契約が、債権については債権譲渡担保契約が広く用いられてきた。
しかしながら、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関するルールは、明文の規定がなく専ら判例法理によって形成されており、判例の射程が必ずしも明確でない論点や判例がルールを示していない論点もあるため、法的安定性や予測可能性に欠ける面があることから、ルールの明文化・明確化が求められていた。
こうした社会情勢を踏まえ、「経済財政運営と改革の基本方針2024(令和6年6月21日閣議決定)」において、「不動産担保や個人保証に依存しない資金調達を促進するため、動産、債権その他の財産を目的とする譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法制化の準備を進める」こととされた。
これを受けて、令和7年の第217回国会において提出された「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」という。)」及び「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和7年法律第57号。以下「整備法」という。)」については、令和7年5月30日に参議院本会議で可決・成立し、同年6月6日に公布されている。
譲渡担保法においては、不動産担保や個人保証に依存しない資金調達を促進するため、動産、債権等を目的とする譲渡担保契約及び所有権留保契約の効力、譲渡担保権及び留保所有権の実行等について定めている。
また、整備法において、国税通則法が改正され、譲渡担保法の制定に伴う繰上請求事由の整備が行われた。
以下では、譲渡担保法の概要、譲渡担保法に係る国税債権に関連する事項及び国税通則法の改正の内容について説明することとする。
Ⅱ 譲渡担保法の概要
譲渡担保法は、不動産担保や個人保証に依存しない資金調達を促進するため、動産、債権等を目的とする譲渡担保契約及び所有権留保契約の効力、譲渡担保権及び留保所有権の実行等について定めているが、概要は以下のとおりである。
1 譲渡担保契約
(1)譲渡担保契約の効力
譲渡担保権者は、譲渡担保契約の目的である財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有することとされている(譲渡担保法3)。
なお、動産譲渡担保権設定者は、譲渡担保動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができることとされている(譲渡担保法29①)。
(2)譲渡担保権の実行等
① 動産譲渡担保権の実行等
イ 動産譲渡担保権の帰属清算方式による実行
動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった後に動産譲渡担保権者が動産譲渡担保権設定者に対して次に掲げる事項の通知(以下「帰属清算の通知」という。)をしたときは、その被担保債権は、帰属清算時に、帰属清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅することとされている(譲渡担保法60①)。
(イ)譲渡担保動産をもって被担保債権の弁済に充てること。
(ロ)帰属清算時における譲渡担保動産の見積価額及びその算定根拠
(ハ)帰属清算時における被担保債権の額
また、動産譲渡担保権者は、帰属清算時における譲渡担保動産の価額が帰属清算時における被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭を動産譲渡担保権設定者に支払わなければならないこととされている(譲渡担保法60④)。
ロ 動産譲渡担保権の処分清算方式による実行
動産譲渡担保権の被担保債権について不履行があった後に動産譲渡担保権者が第三者に対して譲渡担保動産の譲渡(以下「処分清算譲渡」という。)をしたときは、その被担保債権は、処分清算時に、処分清算時における譲渡担保動産の価額の限度において消滅することとされている(譲渡担保法61①)。
なお、動産譲渡担保権者は、処分清算譲渡をしたときは、遅滞なく、動産譲渡担保権設定者に対し、次に掲げる事項の通知(以下「処分清算譲渡の通知」という。)をしなければならないこととされている(譲渡担保法61②)。
(イ)処分清算譲渡をしたこと。
(ロ)処分清算時における譲渡担保動産の見積価額及びその算定根拠
(ハ)処分清算時における被担保債権の額
また、動産譲渡担保権者は、処分清算時における譲渡担保動産の価額が処分清算時における被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭を動産譲渡担保権設定者に支払わなければならないこととされている(譲渡担保法61⑤)。
ハ 動産譲渡担保権者による配当要求等及び動産競売の申立て
動産譲渡担保権者による配当要求及び動産譲渡担保権者に対する配当又は弁済金の交付並びに動産譲渡担保権者による担保権の実行としての競売の申立てについては、動産譲渡担保権を質権とみなして、民事執行法の規定を適用することとされている(譲渡担保法72)。
② 債権譲渡担保権の実行
イ 債権譲渡担保権者による債権の取立て
債権譲渡担保権者は、被担保債権について不履行があったときは、譲渡担保債権を直接に取り立てることができることとされている。この場合において、債権譲渡担保権者の受けた利益の価額が被担保債権の額を超えるときは、その差額に相当する金銭を債権譲渡担保権設定者に支払わなければならないこととされている(譲渡担保法92①)。
ロ 債権譲渡担保権の帰属清算方式又は処分清算方式による実行
上記①イの動産譲渡担保権の帰属清算方式による実行に関する規定及び上記①ロの動産譲渡担保権の処分清算方式による実行に関する規定は、債権譲渡担保権について準用することとされている(譲渡担保法93)。
③ その他の財産を目的とする譲渡担保権の実行
その他の財産を目的とする譲渡担保権の実行については、その性質に反しない限り、上記②の債権譲渡担保権の実行に関する規定を準用することとされている(譲渡担保法96①)。
2 所有権留保契約
上記1の譲渡担保契約に関する規定(動産譲渡担保契約に係る部分に限る。)は、留保所有権について準用することとされている(譲渡担保法111①)。
Ⅲ 譲渡担保法に係る国税債権に関連する事項
納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下Ⅲにおいて「譲渡担保財産」という。)があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができることとされている(徴法24①)。
また、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実を、その財産の売却決定の前日までに、証明した場合(第三者対抗要件を具備している場合)には、その譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができないこととされている(徴法24⑧)。
したがって、譲渡担保法上の譲渡担保契約の目的である財産についても、国税徴収法上の譲渡担保財産に該当するため、譲渡担保権者は、譲渡担保法の制定前と同様、上記のとおり、国税徴収法に基づき物的納税責任を負うこととなる場合がある。
なお、譲渡担保法には、上記Ⅱ1(2)①ハのとおり、動産譲渡担保権者による担保権の実行としての競売の申立てについて、明文の規定が設けられたが、この申立てに基づき競売が行われた場合には、滞納者(動産譲渡担保権者)の財産につき強制換価手続が行われた場合に該当するものとして、執行機関(裁判所)への交付要求(徴法82①)等、必要な徴収手続が行われることとなる。
Ⅳ 国税通則法の改正(繰上請求事由の整備)
1 改正前の制度の概要
税務署長は、次の(1)から(6)までのいずれかに該当する場合において、納付すべき税額の確定した国税((3)に該当する場合においては、その納める義務が信託財産責任負担債務であるものを除く。)でその納期限までに完納されないと認められるものがあるときは、その納期限を繰り上げ、その納付を請求すること(繰上請求)ができることとされている(旧通法38①)。
(1)納税者の財産につき強制換価手続が開始されたとき(仮登記担保の実行通知がされたときを含む。)。
(2)納税者が死亡した場合において、その相続人が限定承認をしたとき。
(3)法人である納税者が解散したとき。
(4)その納める義務が信託財産責任負担債務である国税に係る信託が終了したとき(信託の併合によって信託が終了した場合を除く。)。
(5)納税者が納税管理人を定めないでこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるとき。
(6)納税者が偽りその他不正の行為により国税を免れ、若しくは免れようとし、若しくは国税の還付を受け、若しくは受けようとしたと認められるとき、又は納税者が国税の滞納処分の執行を免れ、若しくは免れようとしたと認められるとき。
2 改正の内容
納税者の財産につき譲渡担保法に基づく帰属清算の通知又は処分清算譲渡の通知がされたときについては、上記1(1)の「納税者の財産につき強制換価手続が開始されたとき」と同様、納税者が債務不履行状態となっており、その財産を散逸させるおそれがあり、客観的にみて国税を保全する必要があると考えられることから、繰上請求の事由とされた。
具体的には、納税者の財産につき次に掲げる帰属清算の通知又は処分清算譲渡の通知がされ、その納税者の国税が納期限までに完納されないと認められる場合には、その納期限を繰り上げ、その納付を請求することができることとされた(通法38①一ロ)。
(1)動産譲渡担保権の帰属清算方式による実行のための帰属清算の通知(譲渡担保法60①)
(2)動産譲渡担保権の処分清算方式による実行に係る処分清算譲渡の通知(譲渡担保法61②)
(3)債権譲渡担保権の帰属清算方式による実行のための帰属清算の通知(譲渡担保法93において準用する譲渡担保法60①)
(4)債権譲渡担保権の処分清算方式による実行に係る処分清算譲渡の通知(譲渡担保法93において準用する譲渡担保法61②)
(5)その他の財産を目的とする譲渡担保権の帰属清算方式による実行のための帰属清算の通知(譲渡担保法96①において準用する譲渡担保法93において準用する譲渡担保法60①)
(6)その他の財産を目的とする譲渡担保権の処分清算方式による実行に係る処分清算譲渡の通知(譲渡担保法96①において準用する譲渡担保法93において準用する譲渡担保法61②)
(7)留保所有権の帰属清算方式による実行のための帰属清算の通知(譲渡担保法111①において準用する譲渡担保法60①)
(8)留保所有権の処分清算方式による実行に係る処分清算譲渡の通知(譲渡担保法111①において準用する譲渡担保法61②)
3 適用関係
上記2の改正は、譲渡担保法の施行の日から施行される(整備法附則)。
(注)譲渡担保法の施行の日は、公布の日(令和7年6月6日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされている(譲渡担保法附則1)。
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