解説記事2025年08月04日 SCOPE 外国子会社株式を信託譲渡も、信託の受益者として株式保有(2025年8月4日号・№1085)
CFC税制の適用を受ける「居住者」に該当
外国子会社株式を信託譲渡も、信託の受益者として株式保有
外国子会社合算税制(CFC税制)の適用において、信託契約により外国子会社株式を譲渡した場合、引き続き譲渡した者が信託の受益者として株式を保有することになるかが争点となった裁決で、国税不服審判所は、措置法40条の4(居住者の外国関係会社に係る所得の課税の特例)第1項4号の規定は、同条が明文で規定する各要件とは別に、株主としての権利の行使の可否や支配力の有無等が同条の適用又は適用除外の要件となるものとは解することができないとした上で、請求人は信託の受益者に該当し、信託財産である外国子会社株式を有するものとみなされることから、請求人及び請求人の親族から構成される同族株主グループが保有する株式の数は発行済株式総数の100分の10以上となり、請求人は「一の同族株主グループに属する居住者」(措置法40条の4①四)に該当するとの判断を示し、外国子会社合算税制を適用した原処分庁の処分を適法とした(東裁(所)令5第92号)。
請求人は信託契約により株主に該当せず、同族グループには属しないと主張
本件は、外国子会社合算税制の適用を巡り、請求人が「一の同族株主グループに属する居住者」(措置法40条の4①四)に該当するか否かが争われた事案である。原処分庁は、請求人の外国子会社合算税制における課税対象金額の計算に誤りがあるとして更正処分等を行ったが、請求人は、外国子会社合算税制の適用を受ける居住者に該当しないとして、更正の請求をしたものの、更正をすべき理由がない旨の通知処分が行われたため、審査請求に至ったものである。
請求人は、請求人の兄との間で、請求人を委託者兼受益者、請求人兄を受託者として、請求人が保有する外国子会社の株式を信託する旨の信託契約(表参照)を締結。請求人は、①外国子会社の株式を信託譲渡し株主ではないため、会計帳簿閲覧請求権等の共益権を行使することができず、自益権も十分に行使できない状況であること、②外国子会社合算税制は、外国子会社から剰余金の配当等を受け得る支配力を有している株主が、外国子会社に留保所得を蓄積しているところに租税回避があるとみて、留保所得を株主の所得に合算して課税するものであるところ、請求人は支配力を有していないことから、措置法40条の4第1項4号に規定する「一の同族株主グループに属する居住者」に該当しないなどと主張した。
【表】信託契約の概要
| ・請求人は、本件株式の管理及び処分を目的として信託し、請求人兄は、本件株式を信託財産としてこれを引き受ける。 ・請求人は、信託契約の締結日において、請求人兄に対し、本件株式を信託譲渡する。本件株式については、名義人を請求人兄とする。 ・請求人兄は、信託契約に従い、自己の財産に対するのと同一の注意義務をもって信託財産の管理を行う。 ・請求人兄は、本件株式の配当金その他の収益を、それらを収受する都度、請求人に支払うものとする。 ・請求人は、請求人兄の書面による事前の同意がない限り、請求人兄を受託者から解任することができない。 |
審判所、信託の受益者が信託財産を有する
審判所は、所得税法13条(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)1項は、信託の受益者は信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなす旨規定しているところ、措置法上、同項の規定を適用しないとする規定はないから、措置法40条の4第1項の規定の適用においても、所得税法13条1項の規定が適用され、信託の受益者が信託財産に属する資産を有するものとみなされるとの見解を示した。
株主ではないが、配当等の権利はあり
その上で審判所は、請求人は外国子会社の株式を請求人の兄に信託譲渡したため、同社の株主ではないものの、信託における受益者として、株式の配当金その他の収益を受領する権利を有し、株式に関する配当金を実際に請求人兄から受領したことも認められることからすれば、請求人は、受益者としての権利を有しているといえ、「信託の受益者」(所法13条①)に該当すると判断。よって、請求人は、信託の信託財産である外国子会社株式を有するものとみなされるとした。そして、本件株式を含む外国法人の株式は、請求人及びその親族(請求人兄、請求人父及びその配偶者)がすべてを保有しているから、請求人及び請求人の親族から構成される同族株主グループが保有する本件株式の数は発行済株式総数の100分の10以上となり、外国子会社は措置法40条の4第1項に規定する外国関係会社であるから、請求人は同項第4号に規定する「一の同族株主グループに属する居住者」に該当するとの判断を示した。
株主権利の行使の可否等は適用要件とならず
請求人は、外国子会社合算税制の立法経緯に照らせば、株主が外国子会社の共益権を行使することができず、自益権も十分に行使できない状況にある場合には「一の同族株主グループに属する居住者」にならないなどと主張したが、審判所は、措置法40条の4の規定は、居住者が法人の所得等に対する租税の負担がないか又は著しく低い国若しくは地域に設立した法人を利用して経済活動を行い、当該法人に所得を発生させることによって日本における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解されるから、その具体的な適用に当たっては、同条に規定する各要件に係る判断を通じてその目的の実現を図ることとしたものと解するのが相当であると指摘。同条が明文で規定する各要件とは別に、請求人の主張する株主としての権利の行使の可否や支配力の有無等が同様の適用又は適用除外の要件となるものとは解することができないとしている。
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