解説記事2025年10月27日 未公開判決事例紹介 百貨店株式譲渡を巡る取締役らへの株主代表訴訟(2025年10月27日号・№1096)
未公開判決事例紹介
百貨店株式譲渡を巡る取締役らへの株主代表訴訟
東京地裁、取締役らの善管注意義務違反を認めず
本誌1093号40頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇セブン&アイ・ホールディングスの株主である原告が、同社が保有していたそごう・西武の株式を譲渡した際に、善管注意義務違反による任務懈怠があったなどとして、同社の取締役ら(被告)に1,094億円超の損害賠償を求めた株主代表訴訟(令和5年(ワ)第70262号)。東京地方裁判所(笹本哲朗裁判長)は令和7年4月17日、被告らに善管注意義務違反による任務懈怠があったとは認められないとし、原告の株主の請求を棄却した。
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告らは、補助参加人に対し、連帯して、1094億円及びこれに対する被告D1、被告D2、被告D3、被告D4、被告D5、被告D7、被告D8、被告D9、被告D10、被告D12、被告D13及び被告D14については令和5年6月16日から、被告D6及び被告D11については同月30日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、補助参加人の株主である原告が、補助参加人が保有していた株式会社そごう・西武(以下「対象会社」という。)の株式を譲渡したことについて、①その譲渡先においては対象会社が経営する百貨店「西武池袋本店」(以下「本件店舗」という。)のフロアの主要部分又は大部分に家電量販店を入居させることを企図しており、その場合には、家電量販店員としての技能や経験を持たない対象会社の多数の従業員がそのことを理由に解雇されることになるから、上記の株式譲渡を行うことは解雇権濫用法理の潜脱に当たり、また、当該株式譲渡契約は公序良俗に反するにもかかわらず、補助参加人の取締役であった被告らはその締結を承認したことから、被告らには法令違反による任務懈怠がある旨、②上記株式譲渡契約においては、補助参加人の義務として、本件店舗の敷地の賃貸人から使用目的の変更等についての承諾を取得することが定められていたことから、被告らは、その締結に先立ち、上記承諾を取得する見通しについて調査、分析及び検討を行うべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったため、補助参加人は上記株式譲渡契約の締結後に上記承諾を取得することができない事態に陥り、その結果、上記譲渡先から譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになり、これに応じて本件株式譲渡を実行せざるを得なくなったことから、被告らには善管注意義務違反による任務懈怠がある旨などを主張して、会社法847条3項に基づき、被告らに対し、同法423条1項の損害賠償として1094億円及びこれに対する訴状送達日の翌日から各支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金を補助参加人に対して支払うよう求める株主代表訴訟の事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)当事者等
ア 補助参加人
補助参加人は、コンビニエンスストア、総合スーパー、食品スーパー、百貨店等の各事業を中心とした企業グループの企画、管理、運営を事業内容とする株式会社である。補助参加人は、その発行する株式を東京証券取引所プライム市場に上場している。(甲3、4)
イ 被告ら
被告らは、令和4年5月26日から令和5年5月25日までの間、補助参加人の取締役を務めていた者である。
ウ 原告
原告は、下記(3)アの提訴請求日の6か月前から引き続き補助参加人の株式を有する株主である。(甲2)
エ 対象会社
対象会社は、百貨店業及びショッピングセンター、大規模商業施設の経営等を事業内容とする株式会社であり、百貨店である「西武池袋本店」(本件店舗)を含む10店舗の百貨店を経営していた。
令和4年11月11日当時、補助参加人が対象会社の発行済株式の全部を保有していた。(甲1)
(2)対象会社の株式譲渡に関する事実経過
ア 補助参加人は、令和4年11月11日、①×××× ×××× ×××× LLC(以下、同社と関連事業体を併せて「F社」という。)の関連事業体で特別目的会社である▲▲合同会社(以下「本件譲受会社」という。)との間で、補助参加人が保有する対象会社の発行済株式の全部を本件譲受会社に譲渡することを内容とする契約(以下、この契約を指して「本件株式譲渡契約」といい、当該株式譲渡を指して「本件株式譲渡」という。)を締結することについて、同日開催の補助参加人の取締役会で決議し、同日付けで本件株式譲渡契約を締結した旨、②譲渡価額は、企業価値2500億円に、対象会社及びその子会社の純有利子負債や運転資本に係る調整並びに補助参加人の子会社である株式会社セブンCSカードサービス(以下「セブンCS」という。)の支払配当に係る調整を行った上で、実際の譲渡価額を確定する予定である旨、③本件株式譲渡の実行日は令和5年2月1日を予定している旨などを公表した。(甲1)
イ 補助参加人は、本件株式譲渡契約に定める所定の条件の充足に向けて交渉を継続しており、公表している本件株式譲渡の実行日における実行を延期する見込みになったとして、令和5年1月24日には実行日を「同年3月中(予定)」と変更する旨を、同月30日には実行日を「完了次第お知らせする」と変更する旨を公表した。(甲37、38)
ウ 補助参加人は、令和5年8月31日、①対象会社の事業の継続及び雇用の継続に最大限配慮したリニューアルプランについてF社に要請した結果、対象会社の企業価値について300億円の減額を行い、F社との間で合意していた本件株式譲渡の実行の前提条件の一部を変更すること等、本件株式譲渡契約の規定の一部を変更する内容の覚書を締結すること並びに本件株式譲渡の実行日を同年9月1日とすることについて、同年8月31日開催の取締役会で決議し、同日付けで本件譲受会社との間で上記覚書を締結した旨、②本件株式譲渡契約における規定に基づき、補助参加人の連結子会社である株式会社セブン&アイ・フィナンシャルセンターが対象会社に対する貸付金の一部である約916億円を放棄することを決定した旨などを公表した。(甲30)
エ 補助参加人は、令和5年9月1日、①本件株式譲渡契約及び上記ウの覚書に定める所定の条件を充足したことを受けて、同日付けで本件株式譲渡の実行を完了した旨、②今後の見通しとして、本件株式譲渡の譲渡価額は、対象会社の企業価値2200億円に対し、対象会社及びその子会社の純有利子負債や運転資本に係る調整並びにセブンCSの全保有株式に係る調整を行った上で、最終的に確定されるものの、同日時点では8500万円と見込んでいる旨などを公表した。(甲31)
(3)本件訴訟の経過等
ア 原告は、令和5年3月29日付けで、補助参加人に対し、被告らに対する責任追及等の訴えを提起するよう請求した。(甲5)
イ 原告は、令和5年5月17日、本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
2 争点
(1)被告らの任務懈怠の有無(争点1)
(2)相当因果関係のある損害の額(争点2)
第3 当事者の主張
1 争点1(被告らの任務懈怠の有無)について
(原告の主張)
(1)法令違反による任務懈怠について
ア 本件株式譲渡の譲渡先である本件譲受会社は、本件店舗のフロアプランとして、フロアの大部分に家電量販店であるヨドバシカメラを出店する計画を立てていた。ところが、本件株式譲渡契約には、本件譲受会社の義務として、本件株式譲渡の実行(以下、このことを指して「クロージング」ということがある。)までの間、株式会社ヨドバシホールディングス(以下「ヨドバシHD」という。)及び対象会社との間で本件店舗のフロアプランについて誠実に協議する義務を負う旨の条項しか定められていなかった。そのため、本件譲受会社は、本件株式譲渡契約を締結した暁には、自らが負う上記義務(誠実協議義務)は果たしたものとして、本件店舗のフロアの大部分、少なくとも食料品売場、化粧品売場及びブランド品売場といった、百貨店の象徴である主要部分に家電量販店を出店させるという、本件店舗においておよそ百貨店事業を継続し得ないようなフロアプランを了承させようとすることが予測された。仮に本件店舗が家電量販店になってしまうと、家電量販店員としての技能や経験を持たない百貨店従業員がそのことを理由に多数解雇されることが合理的に予見された。このように、本件株式譲渡契約を締結することは、本件株式譲渡がなければ対象会社においてはなし得なかった同社従業員の解雇を本件株式譲渡を通じて実現することを決定することにほかならないから、解雇権濫用法理の潜脱に当たる。被告らとしても、そのような事態になることを明確に認識していた。したがって、被告らには、法令違反行為となる本件株式譲渡契約の締結を承認してはならないという義務があったにもかかわらず、被告らは、これを怠り、取締役会においてその承認をした。
イ 上記アのとおり、本件株式譲渡が実行された場合には、本件店舗のフロアの大部分又は主要部分が家電量販店に取って代わられることなどが予想され、その場合には、本件店舗では百貨店事業を継続できなくなることが予想された。そして、本件店舗は、売上高、立地、ブランド等の点で対象会社が経営する百貨店の中でも最も価値のある店舗であり、他の9店舗の存続は、本件店舗の存在に大きく依存していたところ、仮に本件店舗で百貨店事業を継続できなくなると、その影響を受けて、他の9店舗についても事業の継続が困難となることが予想された。このように、対象会社で百貨店事業を行うことができなくなると、これらの店舗の従業員を含め、対象会社の全ての従業員の雇用が失われることになることが合理的に予見された。本件株式譲渡は、このような事態等を生じさせるものであるから、本件株式譲渡契約は公序良俗に反するといえる。被告らとしても、そのような事態になることを明確に認識していた。したがって、被告らには、法令違反行為となる本件株式譲渡契約の締結を承認してはならないという義務があったにもかかわらず、被告らは、これを怠り、取締役会においてその承認をした。
ウ 上記ア及びイのとおり、被告らには法令違反による任務懈怠がある。
(2)善管注意義務違反による任務懈怠について
ア 本件店舗の敷地の賃貸借契約においては、本件株式譲渡のように敷地の使用目的に変更が生じる場合や、賃借人である法人の支配権に変更が生じる場合には、賃貸人の承諾を取得する必要がある旨が定められており、その承諾を得るためには、賃貸人の完全親会社である株式会社西武ホールディングス(以下、賃貸人及び同社を指して「本件地権者」という。)からの承諾を取得する必要があった。そして、本件株式譲渡契約には、補助参加人の義務として、本件地権者から上記承諾を取得する義務を負う旨の条項が定められており、この義務は、単なる努力義務にとどまらない法的義務とされていた。そのため、仮に本件地権者から上記承諾を取得することができない事態となれば、補助参加人は、本件譲受会社から、契約違反を理由に、本件株式譲渡の譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになり、補助参加人においてこれを受け入れざるを得なくなることが合理的に予見された。したがって、被告らには、上記義務を負うことになる本件株式譲渡契約の締結をするのに先立ち、本件地権者から上記承諾についての内諾を得ておくなど、本件地権者から上記承諾を取得する見通しについて、調査、分析及び検討を行うべき義務があった。それにもかかわらず、被告らは、これを怠り、取締役会において本件株式譲渡契約の締結を承認したことから、その意思決定の過程に著しく不合理な点があった。その結果、実際にも、補助参加人は、本件地権者から上記承諾を取得できない事態に陥り、本件譲受会社から、契約違反を理由に、本件株式譲渡の譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになり、結局、これに応じて本件株式譲渡を実行せざるを得なくなった。
イ 本件株式譲渡契約には、補助参加人の義務として、対象会社の労働組合(以下「本件労組」という。)から本件株式譲渡及び関連する取引についての理解を得られるよう最善の努力を行う義務を負う旨の条項が定められていた。しかし、本件株式譲渡契約が締結された当時、補助参加人は、本件労組から事前協議の申入れがされていたにもかかわらず、これをほとんど行おうとしないなど、上記義務を容易には履行できない状況にあった。したがって、被告らには、本件株式譲渡契約の締結に先立ち、本件労組からの理解を得る見通しについて、調査、分析及び検討を行うべき義務があった。それにもかかわらず、被告らは、これを怠り、取締役会において本件株式譲渡契約の締結を承認したことから、その意思決定の過程に著しく不合理な点があった。
ウ 上記ア及びイのとおり、被告らには善管注意義務違反による任務懈怠がある。
(被告ら及び補助参加人の主張)
(1)法令違反による任務懈怠について
ア 本件株式譲渡は、対象会社の株式の譲渡を目的とする行為であって、これ自体が解雇という法的効果を生じさせる行為ではないし、本件会社は対象会社の従業員の使用者でもないから、解雇権濫用法理が適用される余地はない。
イ 本件株式譲渡が実行された場合に、対象会社で百貨店事業を行うことができなくなるとか、対象会社の全ての従業員の雇用が失われることになるとはいえないから、本件株式譲渡契約が公序良俗に反するとはいえない。
ウ 上記ア及びイのとおり、本件株式譲渡契約を締結し、これを実行することが法令違反行為に当たるとはいえず、被告らに法令違反による任務懈怠はない。
(2)善管注意義務違反による任務懈怠について
本件株式譲渡のようなM&A取引を進めるに当たり、取引先、従業員等のステークホルダーとの関係を良好に保つために、いつ、いかなる対応をとるかについては、取締役の幅広い裁量に委ねられている。そして、本件株式譲渡のようなM&A取引においては、契約締結時においては不確定な要素や契約当事者によるコントロールができない事項が存在することもあることから、そのような事項に対応するために、契約締結からクロージングまでに一定の期間を設けた上で、クロージングについて一定の前提条件を付すという対応を講じることも一般に行われている。この場合、一方当事者がクロージングのための前提条件を満たすことができなかったとしても、例えば、①クロージングの時期を延期して前提条件を満たすよう努力する、②当事者間で交渉を行い、前提条件を変更した上でクロージングする、③クロージングをしない、といった対応をとることが想定されている。本件株式譲渡契約においても、本件地権者の承諾を取得することなどについては、補助参加人の努力義務とされ、また、クロージングのための前提条件とされていたにすぎないのであるから、仮に本件株式譲渡契約の締結後にその前提条件を達成できない状況になったとしても、補助参加人としては上記の対応をとることも可能であったのであり、本件譲受会社から契約違反を理由に譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになるとか、これに応じなければならなくなるということにはならない。したがって、本件株式譲渡契約の締結時において、本件地権者からの承諾を取得することなどについて、これをクロージングのための前提条件とするとの対応をしたとしても、そのことをもって、本件株式譲渡契約の締結を承認した被告らの意思決定の過程に著しく不合理な点があるということはできない。
以上のとおり、被告らに善管注意義務違反による任務懈怠はない。
2 争点2(相当因果関係のある損害の額)について
(原告の主張)
補助参加人は、履行が困難な義務を負担することになる本件株式譲渡契約を締結した結果、不利な条件で本件株式譲渡を実行せざるを得なくなった。すなわち、補助参加人は、少なくとも、本件株式譲渡の実行に当たり916億円の債権放棄をすること及び金銭的譲歩として譲渡価額を178億円減額することを求められ、これらについて承諾することを余儀なくされた。その合計額である1094億円は、被告らが本件株式譲渡契約の締結を承認しなければ生じなかったものであるから、被告らの任務懈怠と相当因果関係のある損害であるといえる。
(被告ら及び補助参加人の主張)
補助参加人は、対象会社が多額の有利子負債を抱える借入過多の状況下において、対象会社における雇用維持及び事業継続に配慮しつつ、追加的な損失の負担を回避するべく、債権放棄を行った。また、本件株式譲渡の譲渡価額は、本件株式譲渡の公表をして以降、譲渡先であるF社の下で期待されていた対象会社の成長投資が実行できない状況が続いていた状況等を踏まえ、社外の専門家の助言等も受けて決定したものであった(そもそも、原告が主張する譲渡価額の178億円の減額という点については、当初は本件株式譲渡と一連の取引として予定されていたセブンCSの株式の譲渡が対象範囲から除外されたこと等によって生じた変動が含まれている。)。このように、債権放棄や譲渡価額の決定は合理的な意思決定の下で行われたものであり、補助参加人が不利な条件で本件株式譲渡を実行せざるを得なくなったために生じたものであるとはいえないことから、債権放棄の金額や譲渡価額の当初の予定額との差額が原告主張の任務懈怠と相当因果関係のある損害であるとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)本件株式譲渡契約の内容等
被告らは、令和4年11月11日開催の補助参加人の取締役会において、本件株式譲渡契約の締結を承認することを決議し、同日、本件譲受会社との間で、本件株式譲渡契約を締結した。
本件株式譲渡契約の契約書は、英文で作成されているが、本件株式譲渡契約には、次の内容の条項が定められていた。
① 売主である補助参加人は、クロージングまでの間、対象会社をして、対象会社を賃借人とする本件店舗に関わる土地又は建物に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)の各相手方(本件地権者)から、
本件株式譲渡、
本件賃貸借契約に基づき必要とされる契約上の当事者としての地位及び権利義務を対象会社からその関係者若しくはヨドバシHD又はその子会社に譲渡すること並びに本件賃貸借契約の使用目的を「複合商業施設」に修正することについて、書面による合意を取得し、並びに買主である本件譲受会社から請求された場合、速やかに当該承諾の取得状況について共有するように商業的に合理的な努力を行うものとする。
② 補助参加人は、本件譲受会社による合理的な協力及び指示を条件として、クロージングまでの間、対象会社をして、本件労組に対し、本件株式譲渡及び本件譲受会社とヨドバシHD又はその関係会社との間の関連する取引について、補助参加人に事前相談をした上で、また、補助参加人による合理的な指示(本件労組に対する説明方法に関するものを含む。)に従い、説明するものとし、また、本件労組から本件株式譲渡及び関連する取引について理解を得られるよう、最善の努力を行うものとする。
(2)本件株式譲渡の実行時及び実行後の事情
ア F社は、令和5年8月31日、本件株式譲渡に係る取引において、F社は、カメラ・家電量販店であるヨドバシHDと連携し、複数の店舗にヨドバシカメラの新規出店の誘致を検討している旨、ヨドバシHDとの連携を通じて、対象会社の事業価値を最大化するだけでなく、池袋の旗艦店及び周辺コミュニティを再活性化させるビジネスシナジーを創出できると確信している旨、具体的には、池袋駅に隣接する本件店舗を含む複数の店舗に、ヨドバシHDとの連携を通じて、200億円以上の改装及び設備投資を行う予定である旨などのほか、日本法人の代表者のコメントとして、対象会社の事業継続を実現することに尽力し、最大限の雇用維持に向け、対象会社の経営陣を支援していく旨を公表した。(乙4)
イ 対象会社は、令和6年8月頃、本件店舗について特別な高揚感を与えられる百貨店を目指して、開店以来初めてとなる全面改装を行う旨、今後の予定として、令和7年に、地下1、2階及び地上3階に「デパ地下、コスメ」売場を開店し、地上1、2、4~6階に「フレグランス、宝飾、時計、ラグジュアリー」売場を開店し、地上7、8階に「ファッション、雑貨、催事場、アートサロン」売場を開店する予定である旨などを公表した。(乙9)
2 争点1(被告らの任務懈怠の有無)について
(1)法令違反による任務懈怠の有無について
ア 原告は、本件株式譲渡が実行されると、本件店舗のフロアの大部分又は主要部分に家電量販店が出店されることになり、本件店舗において百貨店事業を継続することができなくなることから、家電量販店員としての技能や経験を持たない百貨店従業員が多数解雇されることが合理的に予見された旨を主張し、本件株式譲渡契約を締結することは、対象会社においてはなし得なかった同社従業員の解雇を本件株式譲渡を通じて実現することを決定することにほかならないから、解雇権濫用法理の潜脱に当たると主張する。
しかし、補助参加人は本件株式譲渡において対象会社の株式を売却しただけであり、対象会社の従業員との間で雇用関係があるわけでもないから、そもそも解雇権濫用法理を適用する基礎をおよそ欠いている上、本件株式譲渡が実行された場合に本件店舗の従業員が多数解雇されることになることを認めるに足りる証拠もない。かえって、前記前提事実(2)及び前記1(2)アによれば、本件株式譲渡の譲渡先であるF社は、本件株式譲渡の実行時において、家電量販店であるヨドバシHDと連携し、本件店舗を含む対象会社の複数の店舗に家電量販店の新規出店を検討していたことが認められるものの、他方で、①F社は、その公表と併せて、これらの店舗に改装費用や設備投資として200億円以上の投資を行うことを予定している旨に加え、対象会社の事業継続の実現に尽力し、最大限の雇用維持に向けて、対象会社の経営陣を支援する用意がある旨を公表していること(前記1(2)ア)、②実際に、対象会社は、その後の令和6年8月頃に、本件店舗において百貨店事業を継続して行うことを前提に、本件店舗の全面改装を行い、令和7年には、食料品、化粧品及びブランド品等の売場を開店する予定である旨を公表していること(前記1(2)イ)が認められ、このような本件株式譲渡の実行時及び実行後の事情を踏まえると、本件株式譲渡契約を締結することが本件店舗の従業員を多数解雇するものであったと認めることはできない。
したがって、本件株式譲渡契約を締結することが解雇権濫用法理の潜脱に当たる旨をいう原告の上記主張は、採用することができない。
イ 原告は、本件株式譲渡が実行された場合には、本件店舗はもとより、本件店舗の存続に依存している他の店舗においても百貨店事業を継続することが困難となり、ひいては対象会社の全ての従業員の雇用が失われることになることが合理的に予見された旨を主張し、このような事態等を生じさせる本件株式譲渡契約は公序良俗に反するものであると主張する。
しかし、上記アで説示したとおり、そもそも、本件株式譲渡が実行された場合に本件店舗の従業員が多数解雇されることになるとは認めることができず、その他、本件株式譲渡契約が公序良俗に反していることを根拠付けるに足りる具体的事実を認めることはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 上記ア及びイのとおり、被告らに法令違反による任務懈怠があったとは認められない。
(2)善管注意義務違反による任務懈怠の有無について
ア(ア)原告は、補助参加人は、本件株式譲渡契約において、本件賃貸借契約の使用目的の変更等について本件地権者の承諾を取得するという、努力義務にとどまらない法的義務を負っており、仮に本件地権者の上記承諾を取得することができない事態となれば、本件譲受会社から、契約違反を理由に、本件株式譲渡の譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになり、補助参加人においてこれを受け入れざるを得なくなることが合理的に予見された旨を主張し、被告らには、このような義務を負うことになる本件株式譲渡契約の締結をするのに先立ち、本件地権者から上記承諾を取得する見通しについて、調査、分析及び検討を行うべき義務があったにもかかわらず、被告らは、これを怠り、取締役会において本件株式譲渡契約の締結を承認したことから、その意思決定の過程に著しく不合理な点があり、善管注意義務違反がある旨を主張する。
(イ)そこで検討するに、前記1(1)①のとおり、本件株式譲渡契約には、補助参加人において、クロージングまでの間、
対象会社をして、本件地権者から、
本件株式譲渡、
本件賃貸借契約上の当事者としての地位及び権利義務の移転並びに
本件賃貸借契約の使用目的の変更について、書面による承諾を取得し、
本件譲受会社から請求された場合には、速やかに当該承諾の取得状況について共有するように商業的に合理的な努力を行わなければならないとする旨の条項が定められていたことが認められる。そして、上記
の事項は、補助参加人に対し、対象会社をして本件地権者から上記承諾を取得するよう求めるものであるところ、上記承諾を得られるかどうかについては、対象会社や本件地権者の意向等に依存し、必ずしも補助参加人において左右できる事柄ではないことからすれば、上記条項中の「商業的に合理的な努力を行うものとする」との文言は、上記
の「・・・書面による承諾を取得し」という文言にも係るものと解釈するのが自然かつ合理的であって、このことからすると、対象会社をして本件地権者から上記承諾を取得することについては、補助参加人の努力義務であったと認められる。また、証拠(甲19、21、乙5)及び弁論の全趣旨によれば、株式譲渡に係る取引において、株式譲渡契約の締結時に不確実な要素がある場合には、当該要素に関してクロージングのための前提条件を付した上で、当該要素を残したまま株式譲渡契約の締結を行うことも一般的に行われているところ、本件株式譲渡契約において本件地権者から上記承諾を取得することは、クロージングのための前提条件とされていたことが認められる。このように、本件株式譲渡契約においては、補助参加人は、クロージングのための前提条件を満たすために、本件地権者から上記承諾を取得することができるよう努力義務を負っていたと認められるものの、それを超えて、本件地権者から上記承諾を取得することができなかった場合に、補助参加人に何らかの義務が生じることになるとか、不利益を課されることになることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件株式譲渡契約の締結時において、本件地権者から上記承諾を取得できなかった場合に、本件譲受会社から、契約違反を理由に本件株式譲渡の譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになり、補助参加人においてこれを受け入れざるを得ない状況に置かれることになるといったことを予見すべきであったとは認められない。
したがって、原告の上記主張は前提を欠いており、被告らに、本件株式譲渡契約を締結するのに先立って、本件地権者から上記承諾を取得する見通しについて調査等を行わなければならないという義務があったと認めることはできないから、その主張を採用することはできない。
(ウ)これに対し、原告は、本件地権者からの承諾料は当初10億円と見込んでいたのに、実際には108億円と、当初の見込み額を大きく上回る金額となったところ、努力義務にすぎない本件地権者からの承諾を取得するためにこれ程の金銭的負担をするとは考え難い旨を主張する。しかし、承諾料については、地権者との交渉の状況等の諸事情を勘案した上で合意に至るものであるから、たとえ原告の上記主張のように最終的に合意に至った承諾料が当初の見込み額よりも高額になったとしても、そのことが直ちに不自然であるとか不合埋であるということにはならず、そのことをもって補助参加人が努力義務にとどまらない法的義務を負っていたと推認することはできない。
また、原告は、①
補助参加人の役員会議の議事メモ(甲20)に、執行役員又は常務による本件株式譲渡に関する説明要旨として、「不動産の売却に伴い、池袋本店の地主である西武HDに譲渡承諾を得ることが補助参加人側の義務としてある。」との記載があること、
補助参加人の取締役会資料(甲19)には、本件株式譲渡の主要な取引条件として、本件労組からの理解を得ることについては努力義務であることが明記されている一方で、本件地権者から承諾を取得することについては、「西武HD及び個人地権者からの事前承諾取得」と記載され、努力義務とは記載されていないこと、②本件株式譲渡のスキームにおいては、本件地権者の承諾を得ることは資金調達のために不可欠な要件であったことから、本件地権者からの承諾を取得することが努力義務にとどまらない法的義務であったと主張する。しかし、上記①については、上記(イ)で説示したとおり、本件株式譲渡契約自体の前記1(1)①の条項の内容からすれば、対象会社をして本件地権者からの承諾を取得することは、補助参加人の努力義務であると解釈されるのであって、単に補助参加人の内部資料に上記
及び
のような記載があることが、この判断を左右する事情であるとはいえない。また、上記②については、仮に本件地権者からの承諾を取得することができなければ、本件株式譲渡のクロージングをすることができず、資金調達も行われないことになるにすぎないから、当該承諾の取得が資金調達に不可欠であることと、当該承諾の取得を努力義務とすることとが矛盾する関係にあるわけでもなく、上記(イ)の判断は左右されない。
イ 原告は、補助参加人は、本件株式譲渡契約において、本件労組から本件株式譲渡等についての理解を得られるよう最善の努力を行う義務を負っていたところ、本件株式譲渡契約が締結された当時、補助参加人において上記義務を容易には履行できない状況にあったのであるから、被告らには、その締結に先立ち、本件労組からの理解を得る見通しについて、調査、分析及び検討を行うべき義務があったにもかかわらず、被告らは、これを怠り、取締役会において本件株式譲渡契約の締結を承認したことから、その意思決定の過程に著しく不合理な点があり、善管注意義務違反がある旨を主張する。
しかし、前記1(1)②の文言のとおり、本件株式譲渡契約において、補助参加人は、対象会社をして本件労組から本件株式譲渡及び関連する取引について理解を得られるよう最善の努力を行うという努力義務を負っていたと認められるものの、それを超えて、本件労組からの理解を得るという結果が得られなかった場合に、補助参加人に何らかの義務が生じることになるとか、不利益が課されることになることを認めるに足りる証拠はない。そのため、本件株式譲渡契約の締結時において、上記のような結果が得られなかった場合に、本件譲受会社から、契約違反を理由に本件株式譲渡の譲渡価額の減額等の金銭的譲歩を求められることになり、補助参加人においてこれを受け入れざるを得ない状況に置かれることになるといったことを予見すべきであったとは認められない。
したがって、被告らに、本件株式譲渡契約を締結するのに先立って、本件労組からの理解を得る見通しについて調査等を行わなければならないという義務があったと認めることはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 上記ア及びイのとおり、被告らに善管注意義務違反による任務懈怠があったとは認められない。
第5 結論
以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
裁判官 泉地賢治
裁判長裁判官笹本哲朗及び裁判官松井馨太朗は、転補につき、署名押印することができない。
裁判官 泉地賢治
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