解説記事2026年04月20日 ニュース特集 相続税実務におけるよくある誤解 第7弾(2026年4月20日号・№1119)
ニュース特集
遺留分侵害額、代襲相続、物上保証、相続分譲渡、使用貸借を巡る重要論点
相続税実務におけるよくある誤解 第7弾
本特集では、相続税実務において判断を誤りやすく、かつ課税関係に大きな影響を及ぼし得る論点を取り上げ、裁決例・裁判例等を踏まえて検討する。
1つ目の事例では、受遺者が複数いる場合における遺留分侵害額の負担割合と、その負担のさせ方によって生じ得る相続税及び贈与税上の留意点を確認する。
2つ目の事例では、養子の「養子縁組前に生まれた子」が代襲相続人に該当するか否かについて、最近の最高裁判決も踏まえつつ整理する。
3つ目の事例では、物上保証について相続税法上の債務控除が認められるかという点を、保証債務との異同にも留意しながら検討する。
4つ目の事例では、共同相続人間で相続分の有償譲渡があった場合の課税関係について、譲渡人・譲受人それぞれの相続税の課税価格の考え方を整理する。
最後に5つ目の事例では、土地の貸借関係が賃貸借契約と使用貸借契約のいずれに当たるかについて、公租公課との比較における地代水準、契約の経緯、当事者間の関係等を踏まえた判断のポイントを検討する。
事例1
受遺者が複数いる場合における遺留分侵害額の負担割合
特定の受遺者が単独で負担した方が相続税上有利になるケースも
遺言により、被相続人と対立関係にあった相続人を遺贈の対象外とするといったケースは珍しくない。通常、当該相続人は遺贈を受けた他の相続人に対し遺留分侵害額請求を行うことになるが、遺贈を受けた相続人が複数いる場合、誰がどのような割合で遺留分侵害額を負担するかによって相続税の課税価格は変わってくる。
例えば、被相続人甲の相続人は「配偶者乙」「子A」「子B」の3名であり、甲は遺言により総遺産3億円の財産のうち1億円を乙に、2億円をAに遺贈していたとしよう。これに対しBは「本件遺贈により自己の遺留分を侵害された」として乙及びAに対して遺留分侵害額請求を行い、話し合いの結果、Bに3,000万円(以下、本件金銭債務)を支払うことで合意したとする(なお、本件金銭債務を誰が負担するのかを明らかにした覚書等は存在しないこととする)。
この場合、乙は相続税法19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)の適用により納付税額が零になるとすると、相続税負担の軽減を図る観点からは、本件金銭債務はAが“単独で”負担したものとして相続税の課税価格を計算した方が有利となるが、課税上問題は生じないのだろうか。
本来負担しなければならない遺留分侵害額は「みなし贈与」に
本事例のように遺留分権利者の遺留分を侵害している受遺者が複数いる場合にどのような割合で遺留分侵害額を負担するかについて民法1047条1項柱書は、受遺者の負担の上限を、その者が相続人である場合には、当該相続人が受けた遺贈の額から自らの遺留分の額を控除した額、すなわち遺留分超過額が限度となるとしている。また、遺留分侵害額請求をされる順序について民法1047条1項2号は、複数の受遺者がいる場合には、遺贈の目的の価額に応じて負担する旨定めている。
したがって、各共同相続人の相続税の課税価格は以下の通りとなる。
そして、Aが本件金銭債務を単独で負担していることから、乙が本来負担しなければならない400万円については「みなし贈与」の課税関係が生じることになると考えられるので留意したい。

事例2
養子の「養子縁組前に生まれた子」は代襲相続人になれるか
直系型、傍系型ともに代襲相続の対象外
一般に、養子の「養子縁組前に生まれた子」は代襲相続人になれないと理解されている。この点について、まず民法の規定を確認してみよう。
民法809条《嫡出子の身分の取得》により、養子は「縁組の日」から養親の嫡出子たる身分を取得することとされており、縁組の効力が出生まで遡ることはない。また、養子と養親の血族との間にはやはり「縁組の日」から相互に血族と同一の親族関係が生じることになるため(民法727)、養子縁組前に出生した養子の子と養親の間では、血族と同一の親族関係は生じない。
そして、民法887条《子及びその代襲者の相続権》2項は、被相続人の子が相続開始以前に死亡した場合又は欠格若しくは廃除によって相続権を失った場合には、その者の子(孫)が代襲相続人となり、この場合において代襲相続人となる者は「被相続人の直系卑属」に限られるとしている。この規定は、祖父母から孫への“直系型”の相続について、「養子縁組前に生まれた子」を明確に代襲相続の対象外としたものだが、叔父叔母から甥姪への“傍系型”の相続についても、最高裁令和6年11月12日判決は「代襲相続の対象外」との判断を下している。例えば、子供がいない夫婦甲・乙と養子縁組したAに、「養子縁組前」に生まれた子Xがいた場合において、甲より先にAが亡くなり、その後、甲が亡くなったときには、XはAの直系卑属ではあるものの、「養子縁組前」に出生した養子の子であるため、亡甲の直系卑属に該当せず、Aの代襲相続人とはならない。
被相続人との血族関係が鍵に
ただ、養子の「養子縁組前に生まれた子」であっても、代襲相続人となるケースもあるので留意したい。
例えば、夫婦甲・乙の間の子AはBと婚姻し、A・B間に子X1が出生した後に、Bが甲・乙の養子となった場合において(その養子縁組後にA・B間には子X2が出生)、甲より先にBが亡くなり、その後、甲が亡くなったという事例を考えてみよう。
上記の考え方に従えば、X1は亡Bの「養子縁組前」の子であるから、亡Bを通じて亡甲とは親族関係は生じないため、亡Bの代襲相続人にはなり得ないということになる。しかし、大阪高裁平成元年8月10日判決は本事例について、X1を亡Bの代襲相続人と認めている。大阪高裁は、民法887条2項ただし書が「被相続人の直系卑属でない者」を代襲相続人の範囲から排除した理由を「血統継続の思想を尊重するとともに、親族共同体的な観点から相続人の範囲を親族内の者に限定することが相当であると考えられたこと、とくに単身養子の場合において、縁組前の養子の子が他で生活していて養親とは何ら係わりがないにもかかわらず、これに代襲相続権を与えることは不合理であるからこれを排除する必要があったことによるものと思われる」とした上で、本事例の場合は、「X1はAを通じて被相続人甲の直系の孫であるから右条項の文言上において直接に違反するものではなく、また、被相続人との家族生活の上においては何ら差異のなかった姉妹が、亡Bと被相続人甲間の養子縁組届出の前に生まれたか後に生まれたかの一事によって、X1には相続権がなくX2にのみ相続権が生ずるとすることは極めて不合理である」と指摘、「衡平の観点からも、X1には被相続人甲の遺産に関し代襲相続権があると解するのが相当」との判断を示した。ちなみに、本件のような事例において、戸籍先例は、縁組前の養子の子に代襲相続権を認めている(昭和35年8月5日民事甲第1997号民事局第二課長回答)。
大阪高裁の判断は個別事案に関するものであり一般化できない面はあるとはいえ、子(X1)が被代襲者(B)ではなくその配偶者(A)を通じて被相続人(甲)と血族関係がある場合には代襲相続人と認められることもあり得るということを示した。代襲相続人に該当するか否かを判断するにあたっては、「養子の養子縁組前に生まれた子は代襲相続人になれない」という既成概念にとらわれることなく、十分な検討を心掛けたいところだ。
事例3
物上保証についての債務控除の可否
相続税法上の「確実と認められる」債務には該当せず
保証債務には、主債務者が主たる債務を履行すると保証人は債務を免れるという性質があるため、将来的に保証人が債務を履行することになるかどうかは確定していない。仮に保証人が債務を履行することになったとしても、その履行による損失は、主債務者に対する求償権の行使により填補されることが予定されている。したがって、保証債務は、債務控除の対象となる相続税法14条1項に規定する「確実と認められる」債務には原則として該当しないと解されている。
ただし、相続開始時において、主債務者が弁済不能の状態にあるため保証人が債務を履行しなければならないことが確実であり、しかも、履行後に求償権を行使しても損失の填補を受けることが不可能である場合には、例外的に保証債務も「確実と認められる」債務に該当すると解されている。また、連帯保証債務も保証債務の場合と同様に解されることになる。連帯保証債務には保証債務のような「補充性」はないが、主たる債務者に求償権を行使して自らの履行による損失を補填できることには変わりがないからだ。
物上保証は債務控除の対象外
一方で「物上保証」、例えば被相続人が他人の債務の担保のため所有する不動産に抵当権等を設定させている場合については、保証債務と同様に解してよいのか疑義がある。物上保証人は、保証債務を負う保証人とは異なり、債権者に対して自ら債務(履行責任)を負担するのではなく、担保物件を限度とする物的有限責任を負うにすぎないが、物上保証人が債務を代位弁済した場合(民法474)や担保権が実行された場合には、保証債務を負う保証人と同じく、債務者に対して求償権(民法351、372)を有することになるなど、物的有限責任である点を除いては、実質的に保証債務を負う保証人と同様の事情にあると解されている。しかし、不動産に抵当権が設定されていても、不動産の所有者が抵当権に係る債務の債務者となるわけではないことから、相続税の債務控除の対象にはなり得ないと考えられる。
相続開始時に抵当権の実行確実かつ求償による回復不可能なら控除可
ただし、相続開始時において当該抵当権の実行が確実であり、しかも求償することによってその回復が図れない場合には、債務者の弁済不能と認められる部分の金額を抵当権が設定されている不動産の価額から控除して評価することができると解されている(東京高裁平成12年7月26日判決、平成14年6月28日裁決)。
債務者が弁済不能の状態にあるか否かは、一般に、債務者が「破産、和議ないし民事再生、会社更生又は強制執行等」の手続開始を受け、もしくは「事業閉鎖、行方不明、刑の執行等」により債務超過の状態が相当期間継続しながらも、他者からの融資を受ける見込みがなく、再起の目途が立たないなどの事情により、事実上債権の回収ができない状況にあることが客観的に認められるか否かで判断することになる。
事例4
共同相続人間で相続分の有償譲渡があった場合の課税関係
相続分の譲渡に伴って授受される金員は代償分割における代償金と変わらず
共同相続人間で相続分の有償譲渡があった場合、①相続分譲渡人は譲渡所得の申告が必要か、②相続分譲渡人及び相続分譲受人の相続税の課税価格はどのように計算すればよいか、という疑問が生じる。
このうち②の疑問を検討する上で参考になるのが令和4年2月18日裁決だ。本裁決事例では、共同相続人が2人で、その一方が有する相続分の全部を他方に有償譲渡していたケースにおける相続税の課税価格が争点となった。
審判所はまず、相続分の譲渡について、「遺産分割と類似の機能を有するものであり、遺産分割と密接に関係するものということができ」るとした上で、相続分の譲渡に伴って授受される金員は、譲受人においては「相続分の譲渡を受けるためのものであり、これは相続による財産の取得に係る負担というべきものであって、その意味で代償分割における代償金と異なるところがないから、譲受人において、その金額を相続により取得した財産の価額から控除するのが相当である。」との判断を示した。
また、譲渡人においても「その譲渡の対象となる相続分は譲渡人が相続によって取得したものであるから、その譲渡に伴って収受する金員は自己の相続権に基因して取得したものといえる。」との考えを示し、「以上によれば、共同相続人間における相続分の譲渡に伴って、その譲渡人が譲受人から収受する金員は、相続税法第11条の2にいう『相続又は遺贈により取得した財産』に当たるというべきである。」と結論付けている。
譲渡人は譲渡所得の申告不要、相続税課税価格計算は代償分割と同様に
上記裁決に加え、共同相続人が3人(X、A、B)おり、一部分割後の未分割財産に係る相続分をBがXに有償譲渡した事案について東京地裁昭和62年10月26日判決(最高裁平成5年5月28日判決)は、各人の相続税の課税価格の計算を、上記裁決と同じく、代償分割があった場合と同様のやり方で行っている。
これらの裁決・判決を踏まえると、まず上記①の疑問については、相続分譲渡人が相続分の譲渡の対価として譲受人から取得した金員はあくまで「相続」により取得したものである以上、譲渡所得の申告は必要ないということになる。
譲渡人は加算、譲受人は控除して課税価格を算定
そして、相続分の譲渡によって授受される金員の性質は代償分割における代償金と異なることはないことから、相続分譲渡人の相続税の課税価格は、同人が相続により取得した現物の財産(相続税法3条の規定等により相続により取得したものとみなされる財産を含む。以下同)の価額に相続分の譲渡に伴って収受した金員の価額を加算した金額となる。一方、相続分譲受人の相続税の課税価格は、同人が相続により取得した現物の財産の価額から相続分の譲渡に伴って授与した金員の価額を控除した金額となる。
事例5
賃貸借契約か使用貸借契約かの判断の分岐点
使用貸借通達1では、地代が公租公課以下なら使用貸借契約に該当する旨規定
土地の貸借契約が賃貸借契約か使用貸借契約なのかによって、相続税評価額は変わる。賃貸借契約に基づくものであれば「貸宅地」として評価でき、また、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象となり得る。ただ、古くから親子等の間で貸し付けられている土地の中には、賃貸借契約、使用貸借契約のいずれに該当するのか判断に迷う。
実例として、被相続人が30数年前から子に対し建物の所有を目的として土地を貸し付けていたケースでは、貸し付けに当たり権利金等の授受はなく、また、賃貸借契約書も作成されていなかった。地代の年額は課税時期時点では本件土地の公租公課に相当する金額(以下、「公租公課額」)を上回っているものの、貸付当初から20数年間は公租公課額を下回っており、これまで一度も改定されていない。
まず、賃貸借契約であるか使用貸借契約であるかについて神戸地裁昭和62年6月24日判決は、土地の貸借関係が「賃貸借契約であるか使用貸借契約であるかは、その貸借が対価を伴うものであるかどうかにより決せられるべきものであり、交付された現金等が対価性を有するかどうかは、当事者の主観的な意図を無視はできないものの、これにとらわれることなく客観的に判断すべきである」旨判示している。これを踏まえ、賃貸借契約か使用貸借契約かは、権利金の有無、支払地代の水準、貸主と借主との関係、契約の経緯や趣旨を総合的に考慮して判断するものと解されている(令和元年9月17日公表裁決)。
使用貸借通達1では、土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものは使用貸借契約に該当する旨定めているものの、上記裁判例・裁決例からすると、同通達は、地代の水準が土地の公租公課に相当する金額を上回る場合には直ちに賃貸借契約に該当することまでを定めたものではないと解するのが相当ということになる。
学説・判例上、負担付でも使用貸借は成立
使用貸借が無償契約であることについて学説では、「贈与における場合と同じく、負担付であることを妨げないとされ、しかし、借主の負担が、使用収益に対する対価的意義を持たない程度たることを要する。」と解されている(遠藤浩編「基本法コンメンタール 債権各論Ⅰ(契約)」日本評論社、138頁)。また、最高裁は、借主が借用建物の固定資産税に加え、その建物と関係のない貸主の市民税等やその他の不動産の固定資産税を支払っているケースを「負担付使用貸借」と判示している(最高裁昭和41年10月27日判決)。
以上を踏まえると、上記事例の契約は、権利金なし、かつ公租公課額以下の負担で開始されたものであり、また、当事者は親子であることから、使用貸借契約に基づくものと考えるのが相当と言える。加えて、契約開始後に賃貸借契約に変更された事実(例えば「地代額の改定」や「賃貸借契約書の作成」など)がなく、また、契約を変更する理由も特段見当たらないことからも、当初使用貸借契約であったものが賃貸借契約に変更されたと判断するのも困難であるため、現在も使用貸借契約のままと考えることになろう。
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