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解説記事2020年06月22日 未公開判決事例紹介 青色申告承認取消しを巡る税理士賠償責任事件(2020年6月22日号・№839)

未公開判決事例紹介
青色申告承認取消しを巡る税理士賠償責任事件
税理士の申告期限後の申告は会社も同意と判断

 本誌838号40頁で紹介した税理士賠償責任事件の判決全文について、仮名処理した上で紹介する。

○原告(会社)が、被告である税理士が提出期限内に確定申告書を税務署に提出しなかったことで青色申告の承認の取消しを受け、6264万2000円の損害を被ったとして損害賠償を求めた事件。東京地方裁判所(小川理津子裁判長)は、原告の請求を斥ける判決を下した。東京地裁は、原告と被告との間で、青色申告の承認が取り消されることを認識した上で、決算の赤字額を減らすために棚卸資産の修正を加えた決算書を作成し、申告期限後に申告を行うことが合意されたと認めることが合理的であると判断した(令和元年12月23日、棄却)。

主  文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 被告は、原告に対し、6264万2000円及びこれに対する平成29年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が税理士である被告に対して税務署への確定申告を含む決算業務を委任したところ、被告が、提出期限内に確定申告書を税務署に提出しなかったことによって、原告は、青色申告の承認の取消しを受け、その結果として合計6264万2000円の損害を被ったと主張して、被告に対し、委任契約の債務不履行に基づく損害賠償請求として、前記金額の金員及びこれに対する平成29年10月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
(1)当事者等
ア 原告は、自動車部品の製造、販売、金型の製造、販売等を目的とする株式会社である(甲1)。
  平成27年4月当時、原告の代表取締役はX(以下「X」という。)、監査役はI(以下「I」という。)であり、Xの息子であるM(以下「M」という。)は専務として、Xの娘であるK(以下「K」といい、X、M、K及びIの4名を併せて以下「原告役員ら」という。)は会計担当者として、それぞれ原告の経営に関わっていた(甲1、16〜18)。
イ 被告は、税理士である。
(2)委任契約の成立
 Xは、平成26年の年末頃、第三者から被告を紹介され、原告は、その頃、被告に対し、平成26年3月1日から平成27年2月28日までの事業年度(以下「本件決算期」という。)について、決算書及び確定申告書の作成並びに税務申告業務を依頼し、被告との間で同業務に関する委任契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(3)申告期限の徒過
 原告の本件決算期に関する確定申告書の提出期限は、平成27年4月末日であった(以下「本件申告期限」という。)。
 被告は、同月28日、同日までに原告から提供を受けた資料に基づく決算書を一旦完成させた。同日作成された決算書の税引前当期純損失額は1488万4956円であったが、同決算書の内容には更なる修正の必要があり、原告及び被告は、遅くとも本件申告期限までには、そのことを認識していた。
 被告は、本件申告期限後である同年5月21日、税引前当期純損失額を183万2468円とする決算書(乙1)を添付して申告をした。
 原告は、平成25年3月1日から平成26年2月28日までの事業年度(以下「前年決算期」という。)の申告の際にも、その中告期限を徒過していたため、申告期限を2年連続徒過したことにより、本件決算期以後の青色申告の承認の取消しを受けた(甲5)。
2 争点
(1)被告が本件申告期限までに申告をしなかったことは、本件契約の債務不履行に当たるか。
(2)損害の発生及びその額
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告が本件申告期限までに申告をしなかったことは、本件契約の債務不履行に当たるか。)について
(原告の主張)

ア 被告は、税務申告に関する専門家であり、原告が前年決算期にも申告期限を徒過したことを認識していたのであるから、本件契約上、本件申告期限までに申告をすべき契約上の義務を負っていたところ、平成27年4月28日頃には、決算書の概要を完成させていたにもかかわらず、本件申告期限までに申告を行わなかった。
イ 同月28日時点で作成されていた決算書及び申告書は、その時点で被告が所持していた帳簿等に基づいて作成されたのであるから、同申告書に基づき一旦申告をし、その後、棚卸資産について修正の必要が生じたとしても、修正申告をすれば足りるものであり、Mは、被告に対し、電子申告により少なくとも暫定的に本件申告期限内に申告を行い、必要があれば修正申告を行うよう求めていた。
ウ したがって、被告が本件契約上の義務に違反して本件申告期限を徒過させたことにより、原告は、青色申告の承認の取消しを受けて損害を被ったものであるから、被告は、原告に対し、債務不履行によって生じた損害を賠償すべき義務を負う。
(被告の主張)
ア 原告は、本件決算期当時、経営状態が非常に悪かったが、平成27年3月1日から平成28年2月28日までの事業年度(以下「翌年決算期」という。)中には、経営状態が改善する見込みがあると考えていたことから、事業を継続させるために、本件決算期の業績を良く見せて当時融資を受けていたT信用組合O支店(以下「T信組」という。)から再度の返済条件の変更を得なければならない状況にあった。
  被告は、本件申告期限の当日である平成27年4月30日、原告事務所において、原告役員らと面談(以下「本件面談」という。)を行った際、原告役員らは、被告が同月28日に作成した本件決算期の決算書及び申告書の内容が1400万円ほどの赤字であったことから、決算申告の承認に強く難色を示し、I及びMは、既に被告に示したもののほかに棚卸資産があることを述べた。このため、被告は、決算書等を修正する必要があると考え、原告役員らに対し、追加分の棚卸資産について確認できる資料を示すよう求め、棚卸額の修正のみであれば、即時に処理をして同日中に申告書を提出して青色申告の承認の取消しを回避できることを説明したが、原告役員らは、同日中に、資料を示すことはできず、Xは、被告に対し、決算書の赤字額を減らすことができるのであれば、本件申告期限を徒過することもやむを得ない旨を述べたものである。
  以上によれば、原告と被告は、本件契約に基づく確定申告については、本件申告期限を徒過して申告することを合意したものであるから、被告が本件申告期限内に申告を行わなかったことについて、被告の債務不履行は存在しない。
イ 税理士は、独立公正の立場で、法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを職務とするものであり、故意に真正の事実に反して税務代理をするなどした場合には、懲戒処分を受けることもある(税理士法1条、45条、46条)。
  したがって、被告は、税理士として、真正でないと判明している内容で申告を行うことはできないから、同年4月30日に一旦現状で申告をし、後に修正申告を行うという対応をすることはできなかった。また、修正申告によって修正されるのは税金についての申告内容であり、既に確定した本件決算期の決算書は修正されないところ、原告は、マイナス1400万円ほどの赤字で当期の決算を確定させることを承諾していないから、修正申告をすることはできなかった。
(原告の反論)
 平成27年4月30日に被告が原告を訪問した事実はなく、本件面談は存在しない。原告は、青色申告を継続するため、本件申告期限までに申告を行うことを強く希望していた。
(2)争点(2)(損害の発生及びその額)について
(原告の主張)

 原告が、青色申告の承認の取消しを受けたことにより被った損害額は、以下のア、イの合計である6264万2000円を下らない。
ア 青色申告の取消しに伴う過剰な課税負担 4666万6000円
 原告は、翌年決算期の決算において1億2517万3533円の損失を計上したが、その後は収益構造の改善により黒字となることが見込まれていたところ、青色申告の場合、繰越損失を計上することが認められるので、翌年決算期の損失をその次年度以降に繰越損失として計上することにより節税メリットを受けられるはずであり、翌年決算期以降の3年間で納税することとなる法人税等の合計額として4687万9000円を見込んでいたところ、翌年決算期に計上した経常赤字を順次消化した場合に見込んでいた納税額は21万3000円であった。
 したがって、原告が、法人税納付義務を過剰に負担することとなった4666万6000円(4687万9000円から21万3000円を差し引いた差額)は、被告の債務不履行によって原告が被った損害である。
イ 本社工場等の賃料相当額 1597万6000円
 原告は、平成27年8月20日、株式会社D物産(以下「D」という。)に対し、原告本社工場等として利用していた不動産(以下「本件不動産」という。)を資金繰りのために所有権移転したが、翌年決算期の決算後には、株式会社S(以下「S」という。)から2億円の融資を受けて、本件不動産を買い戻すことを予定していたところ、青色申告の承認を取り消されたことが原因で、Sからの融資を受けられなかった。
 したがって、原告が、平成29年3月から平成30年2月までにDに対して支払った賃料年額2397万6000円から、買戻しのための融資金の金利相当額年額800万円(2億円の4%)を差し引いた1597万6000円は、被告の債務不履行によって原告が被った損害である。
(被告の主張)
 損害については争う。
ア 原告による課税所得額の推計は全く根拠を欠くものである。
  また、法人事業税及び地方法人特別税については翌期又は当期に損金算入できるから、その部分については、税額軽減効果を生じるはずである。
イ そもそも、本件不動産のうちの一件は、XからDに対して所有権が移転したものであり、かつ、原告ではなく株式会社Yが賃料を負担しているものであるから、原告の損害とはなり得ない。また、青色申告の承認を得ているかどうかが融資実行の可否に直接影響したとは考えがたい。
  また、消費税分は損害とはいえず、賃料は経費として損金計上できることから、それによる税額軽減効果も考慮されるべきである。
第3 争点に対する判断
1 認定事実

 前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)Kは、平成27年4月27日(月)午後2時22分頃、被告税理士事務所の職員に宛てて、「先日、メールにて依頼されておりました件をFAX致します」との送信状を付して、「棚卸結果表」及び「棚卸一覧表」等の資料をFAXで送信した(乙5の1、5の2)。
(2)被告は、平成27年4月28日までに、原告に対し、本件決算期の決算書(貸借対照表及び損益計算書)を交付し、同日(火)午後6時31分、Mに対し、「木曜日がF製作所さんの申告期限となりますが、①このままでOKか②木曜日にサインを頂く時間の調整をしたいです。」、「因みにお伺いできるとすれば木曜日の午後2時以降となります。」との内容のショートメッセージを送信した(甲6の1、乙7、27)。
(3)被告は、同年4月28日午後7時38分から同日午後8時26分にかけて、原告から受領していた資料に基づいて、本件決算期の確定申告書の作成作業を行い、同日までに、決算書及び確定申告書を完成させた(前提事実(3)、乙6、27、以下、この時点における決算書及び税務申告書をそれぞれ「4月決算書」及び「4月申告書」という。)。
(4)原告は、少なくとも、同年4月28日に印刷された申告書等一式に含まれる書類である「次期中間申告税額の試算表」と題する書面を被告から受領した(甲3、乙27)
(5)被告は、連休明けの同年5月7日、原告に対し、被告が作成した原告の総勘定元帳を宅配便で送付した(甲13の1、13の2、乙25の1〜25の3、27)
(6)原告は、同年5月7日(木)午後5時56分、被告税理士事務所の職員に宛てて、「お世話になっております。4月30日にお会いした際に、得意先別集計表の方は、IよりZ先生に説明してあるそうです。」とワープロで印字された記載があり、担当者欄が空白のFAX送信状(以下「本件送信状」という。)を添付した「得意先別集計表」及び「棚卸一覧表」をFAXで送信した(乙26の1、26の2)。
  また、原告は、同月8日午後2時46分、被告に対し、同月7日にFAXで送信した「得意先別集計表」及び「棚卸一覧表」にそれぞれ手書きで原価を書き加えたものを送信した(乙8の1、8の2)。
(7)原告は、当時融資を受けていたT信組から追加融資を受けるために、同年2月頃、T信組から紹介された株式会社G経営(以下「G」という。)に対して、財務調査、事業調査及び経営計画策定を依頼していた(争いなし)。
  M、K及びIは、同年5月1日(金)、Gと打合せを行った。
  Gは、上記打ち合わせの結果を踏まえて、原告に対して確認したい事項を取りまとめた書面を作成し、原告に対し、同書面等を添付したメールを送信した。
  同書面中には、回答期限は、「5月8日(金)とさせて頂ければと思います。」との記載、原告の決算書及び申告書について、「確定版が完成次第、頂戴できればと思います。連休明けに、いつごろ完成するかを教えてください。」との記載、本件決算期の決算の内容のうち、「償却資産推移」について、「頂いた弥生会計のデータが決算と一致していないため確認出来ませんでした。」との記載がされていた(乙10の1、10の2)。
(8)被告は、同年4月28日午後8時26分以降、作業をしていなかった原告の本件決算期の確定申告書について、同年5月12日午後9時8分から同日午後9時33分にかけて作成作業を行い、本件決算期の確定申告書を完成させた(乙6、9)。
2 争点(1)(被告が本件申告期限までに申告をしなかったことは、本件契約の債務不履行に当たるか。)について
(1)原告と被告の間で、被告が暫定的に作成した4月決算書について、本件申告期限直前に修正が必要になった事実には争いがないところ、原告は、被告に対し、本件申告期限前に、本件申告期限までに一旦申告をした上で、修正申告をするよう指示をしたから、被告は、本件契約に基づき、本件申告期限までに申告をすべき義務があった旨主張し、被告は、本件面談において、原告との間で、決算の赤字額を減らすために棚卸資産の修正を加えた決算書を作成し、本件申告期限後に申告を行うことが合意されたのであり、修正申告の指示を受けたことはないし、真正でないと判明している内容で申告をすることはできないと主張する。
(2)そこで、原告が、被告に対し、本件申告期限前に一旦申告し、その後、修正申告をするよう指示した事実があったか否かについて検討する。
ア Mは、証人尋問において、本件申告期限前に被告と最後に会ったのは平成27年4月27日午後2時頃であり、その際、被告から事前に示されていた4月決算書について確認をしたが、その後、Iから、在庫が残っていたので棚卸資産の修正が必要になったと指摘を受けたため、被告に電話をかけ、修正を指示すると共に、一度申告した上で修正申告をしてもらいたい旨を伝えたと証言する。なお、原告代表者は、本人尋問において、同年4月30日に被告と面談したことはないと述べるものの、原告の経営についてはMに、経理についてはKに任せており、被告と2回目に会った時にも、決算の承認をするような話はなかったし、被告に対して、本件申告期限を過ぎないように述べたこともないと供述している。
  これに対し、被告は、陳述書(乙27)及び本人尋問において、平成27年4月30日原告事務所を訪問して本件面談を実施し、原告役員らに対し、4月決算書を示したが、マイナス1488万円ほどの赤字決算であったことに原告役員らから難色を示され、Iから4月決算書の棚卸資産の金額が少なすぎる、他にも棚卸資産として計上できる在庫があるはずだが、工場長が休暇中なので直ちに在庫を確認することができない、それ以外にも利益を増やすことができないか総勘定元帳を精査してみたいとの話が出た、被告は、原告役員らに対し、青色申告承認取消しのデメリットを説明した上、本件申告期限までに申告をしないことの確認を求めたところ、原告代表者から仕方ないとの発言があった、その後、同年5月7日、被告は、原告に宛てて、原告から要求されていた総勘定元帳を送付し、同日夕方、原告から、「得意先別集計表」及び「棚卸一覧表」をファックスで受領したが、同資料では原価額が分からなかったので、同月8日午前中に原価額が分かる資料を要求したところ、同日午後、手書きで原価額が加筆された資料が送付されてきた、同月12日、原告に対し、元帳の精査による追加の修正がないことを確認して、決算書・申告書を完成させた、同月20日、原告役員らに同行してT信組に赴いたが、T信組からは追加の融資を断られた、同月21月、Mから修正後の決算書で申告することの了承を受けて申告したなどと述べる。
イ 先ず、Mの上記ア記載の証言については、原告は、当初、Mが被告からのショートメッセージを受けて、被告との間で暫定的に期限内の申告を行い、必要に応じて修正申告を行う旨の確認をしたと主張していたところ(原告第5準備書面)、Mの陳述書(甲17)には、Mは、同月27日、来社したIから棚卸資産の訂正を指摘され、その場で被告に電話をして、本件期限内の申告と棚卸資産の訂正を指示したのであり、同月28日のショートメッセージを確認したことはない旨の記載をし、さらに、証人尋問では、上記のとおり、同月27日に被告と面談し、その後に被告に電話をかけたなどと証言して、その供述を更に変遷させている。
  このようにMの変遷を繰り返していること自体が、その供述の信用性に欠けるものである上、被告は、同月27日午後2時頃の時点では、まだ棚卸在庫に関する資料が揃っていなかったため(前記1(1))、4月決算書及び4月申告書を完成させておらず、その時点でこれらの書類を原告に示すことはできなかったこと、現に、原告が所持している申告書に含まれる書面(甲3)は、被告において同月28日に印刷したものであること、原告が同月27日の時点で棚卸資産の修正を指示していたのであれば、原告は本件期限内の申告に固執していたのであるから、被告との間で、平日であった同月28日及び同月30日中に棚卸資産の訂正に関する何らかのやりとりされていることが合理的であるのに、そのような事情は何ら窺えないことに照らすと、Mの証言は不合理であるといわざるを得ない。
  しかも、税理士は、故意に真正の事実に反して税務書類の作成をしたときは、2年以内の業務停止又は業務禁止の処分を受ける可能性があるのであるから(税理士法45条1項)、追加の棚卸在庫があると原告から知らされたにもかかわらず、これを含めないまま一旦申告書を提出することは被告自身の税理士としての地位を危うくする行為であるから、仮に、Mが、被告に対し、上記のような依頼をしたのであれば、原告役員らと被告との間で、何らかのやり取りがあってしかるべきところ、Mは、上記の依頼をした際の被告とのやり取りについては、何ら具体的な供述をしていない。
  そうすると、同月27日以降、被告に電話をかけ、4月決算書についての修正を指示すると共に、一度申告した上で修正申告をしてもらいたい旨を伝えたとのMの証言は直ちに採用することができない。
ウ 次に、被告の上記ア記載の供述について検討する。
(ア)税理士は、決算の申告を行うに当たっては、最後に自ら依頼者と面談をして、決算内容について説明の上、署名押印をもらうのが一般的であり(争いなし)、被告は同月28日頃までに4月決算書及び4月申告書を完成させ(前記1(3))、同日、Mに対し、本件申告期限当日である同月30日に面談し、サインをもらいたいと連絡していることに鑑みれば(前記1(2))、特段の事情がない限り、同月29日から本件申告期限である同月30日までの間に、原告役員らと被告の間で、決算書及び申告書について最終確認するための面談がされたと認めるのが合理的である。
  そして、被告のスケジュール表に、同年4月30日(木)の午後2時半から午後5時まで原告を訪問する予定が記載されていること(乙16)、被告が税理士法41条に基づいて作成した「平成26年度法人税・地方税申告書作成業務に係る受件簿」のうち、「8.納税者との連絡(確認)」の「納税額連絡日」欄に「平成27年4月28日」と、「納付書」の欄に「手渡し(平成27年4月30日)」と記入されていること(乙19)に加えて、原告も、被告に対し、同日に面談したことを前提とする記載内容の本件送信状を送付していること(前記1(6))からすれば、同年4月30日、原告の事務所を訪問し、本件面談を行ったとの被告の供述は信用できるというべきである。
  なお、原告は、本件送信状について、担当者名の記載がないことや、証拠提出された時期を理由に、その信用性に疑いがあると主張するが、本件送信状の記載内容は、添付された「得意先別集計表」及び「棚卸一覧表」の送信状として合理的であるし、同月7日にこれらの資料が送信された経緯及び同月8日には手書きで原価が加筆された「得意先別集計表」及び「棚卸一覧表」が送信された経緯に関する被告の供述も合理的であることからすれば、本件送信状が偽造されたものであるとは認められない。また、原告は、本件面談がなかったことの証拠として、同年4月20日及び同月23日には「会計士」と記載され、同月30日の欄には、「給料日&支払日」とのみ記載がされたKが使用していた卓上カレンダーの4月分(甲19)を提出するが、同カレンダーには何ら予定が記載されていない日がほとんどであるところ、その中には明らかに私的な予定と思われる記載もあるから、原告におけるKの業務の予定が漏れなく記載されていたとは認め難く、同カレンダーに本件面談の記載がないことは上記認定を左右するに足りるものとはいえない。
(イ)以上のとおり、被告は、平成27年4月30日、原告役員らと本件面談をして、4月決算書及び4月申告書について確認したと認められる。
  そして、原告は、その翌日である同年5月1日、Gに対し、申告書が確定してないとの認識を示し(前記1(7))、同月7日及び同月8日、被告に対し、棚卸資産の資料を送り(前記1(6))、被告は、同月12日、同資料に基づいて確定申告書を修正し(前記1(8))、その結果、原告の決算書の税引前当期純損失額は1488万4956円から183万2468円に圧縮された(前提事実(3))との経緯からすれば、原告と被告との間で、本件面談において、本件申告期限後に4月決算書を修正すべきことが協議されたものと認められる。これに加えて、原告は、当時、T信金から追加融資を受けようとしており(前記1(7))、決算書上の赤字額を圧縮する必要があったこと、被告において、真正と異なる内容であることを認識しながら本件申告期限までに申告をすることを了承したとは考えられないことからすれば、原告と被告との間で、青色申告の承認が取り消されることを認識した上で、決算の赤字額を減らすために棚卸資産の修正を加えた決算書を作成し、本件申告期限後に申告を行うことが合意されたと認めるのが合理的であり、原告が、被告に対し、本件申告期限前に一旦申告し、その後、修正申告をするよう指示した事実があったとは認められない。
(3)以上によれば、被告が期限内に申告をしなかったことは、本件面談における原告との間の合意に基づくものであって、被告の債務不履行とは認められない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官 小川理津子
   裁判官 木村 匡彦
   裁判官 山田 裕貴

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