民事2025年09月21日 跳弾リスク、最高裁判断は 「現場萎縮」ハンター懸念 猟銃所持許可取り消し訴訟 提供:共同通信社

自治体の要請でヒグマ駆除のため発砲したことで、猟銃所持が許されなくなったハンターが処分を不服として起こした訴訟が、最高裁で審理中だ。処分を適法とした札幌高裁判決は、銃弾が石などに当たって軌道が変わる「跳弾」のリスクを重く見たが、ハンター側からは、跳弾の予測は難しく、現場を萎縮させるとの声も。今月、生活圏でも駆除に銃が使える「緊急銃猟」制度が始まった。クマ被害が相次ぐ中、司法判断が注目される。
判決によると、北海道猟友会の支部長だった池上治男(いけがみ・はるお)さん(76)は2018年8月、北海道砂川市の要請で出動し、約20メートル離れた場所から上り坂を背にしたヒグマに1回発砲し駆除。後方約70メートル以内には複数の建物があったが、同行の市職員や警察官は駆除後、異常がないことを確認した。
それでも道公安委員会は19年4月、「銃弾が当たる恐れがある建物に向けての発砲」が銃刀法違反に当たるとし、所持許可を取り消し。池上さんは不服として提訴した。
21年12月の札幌地裁判決は、発砲場所から建物の一部が見えるものの、銃弾が届く危険は「極めて抽象的、観念的」と判断。取り消しは裁量権の逸脱で違法だとした。
一方、札幌高裁は24年10月「斜面には草木や石があり、ヒグマを貫通後、跳弾することが容易に推認できた」と指摘。建物に届く恐れがあり警官らも危険にさらしたとし「同種違反の再発可能性がある」とまで言及、取り消しを適法とした。
「高裁判決は実態とかけ離れ、跳弾の危険性を過度に強調している」。池上さんの代理人で、自らもハンターの中村憲昭(なかむら・のりあき)弁護士は疑問を投げかける。大きな岩など明らかな障害物があったり、明確に地形が問題になったりする場合を除き、跳弾するかどうかの具体的な予測は難しいという。
今月、人の生活圏でも、自治体の判断でクマなどの駆除に発砲できる緊急銃猟制度が開始。警察庁は全国の警察へ「財産に危害が生じても、所持許可者への処分は原則、適当ではない」と通知したが、高裁判決もありハンター側の懸念は強い。道猟友会は、市町村が安全と判断しても、現場の状況によっては発砲しないよう支部に連絡した。
緊急銃猟のガイドラインでは、発砲者の前方に誰もいない状況までは不要とされるが、中村弁護士は「高裁判決に基づけば、前方に人や建物があれば発砲できない。駆除現場への萎縮効果は大きく、最高裁は速やかに是正すべきだ」と訴える。
最高裁は、跳弾の現実的な危険性をどう見極めるのか。各地でクマによる被害は後を絶たず、判断の影響は大きそうだ。
猟銃の所持許可
銃刀法の規定に基づき、居住する都道府県の公安委員会が、猟銃や空気銃について銃ごとに所持を許可する。違反があれば公安委は許可を取り消せる。実際に狩猟をするには、銃やわなといった手法に対応した狩猟免許を取得した上で、現地の都道府県への登録手続きが必要。免許があっても長年登録しておらず、猟に出ていない「ペーパーハンター」もいるとされる。
(2025/09/21)
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