家族2025年04月10日 中国の離婚法制 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:伊藤朝日太郎

日本では、2024年に家族法の改正が行われました(本稿執筆時点では施行日未定)。
日本の現行家族法では離婚後は父母のどちらかが単独親権者となりますが、改正後は父母の「双方又は一方」が親権者となることになり、離婚後共同親権制度が導入されることになりました(なお改正後も、父母間のDVのおそれがある場合等による「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」は、単独親権しか認められません(民法819条7項))。
では、中国の離婚後の親権制度はどうなっているのでしょうか。
中国法では、そもそも「親権」という法概念を採用していません。もっとも、親の子に対する権利義務は親権とは別の形で定められています。
中国民法典(中華人民共和国民法典婚姻家庭編)1068条では、父母が未成年の子を教育及び保護する権利及び義務を有すると定めています。そして、中国民法1084条1項・2項では、父母と子との間の関係は、父母の離婚によって消滅するものではなく、離婚後も、父母は子どもに対して扶養・教育・保護の権利を有し、義務を負うものとされています。
このように、中国法では離婚後も父母双方が子どもに対する権利義務を負うのですが、これは離婚後に共同監護が行われることを必ずしも意味しません。むしろ、2歳未満の子どもは原則として母親が引き取るとされます。2歳以上の子どもの養育問題については父母双方の協議で決めますが、協議が整わない場合は、人民法院が未成年の子にとって最大の利益になるように具体的な事情を考慮して判決することになります。そして、8歳以上の子どもについては、子どもの意思を尊重しなければならないとされています(1084条3項)。
現行日本民法は、離婚後に父母のどちらかを親権者とすることのみを定め、父母のどちらを優先するか全く規定がありませんが、中国法は、2歳未満の子どもについては、母親が直接養育することが原則であると法律の明文で定めているという大きな違いがあります。また、8歳以上の子どもの意思を尊重する旨の明文規定があることも、日本と異なります。
このように、中国法では「親権」という制度はありませんが、離婚後も父母の子どもに対する扶養・教育・保護の権利義務が存続する点で、共同親権的な法制度になっているといえます。
他方で、離婚後に、子どもの直接養育者は父母のどちらかとなる(父母のどちらかが子を引き取る)ことが想定されており、子どもを引き取らなかった側の親が養育費の負担をすることは、現行日本法と大きく変わるものではないように思われます。
なお、中国法では、離婚は、①協議離婚、②訴訟離婚の2種類です。協議離婚とは、夫婦がともに離婚を望み、書面による離婚協議を成立させた場合に、婚姻登記機関に自ら離婚登記を申請することによって離婚が成立する(1076条1項)ものです。中国の離婚協議書には、子どもの養育、財産及び債務処理などの事項を明記しなければならず、日本の離婚届よりも相当詳細な内容を記載することになります。また、日本の協議離婚との最大の違いは、婚姻登記機関が、離婚申請の内容について職権で調査し、問題があれば離婚を認めないということです。また、婚姻登記機関が離婚届を受理してから30日以内であれば、一方が単独で離婚登記の撤回を申請できる制度(いわゆる離婚冷静期制度)も設けられています。
(2025年3月執筆)
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執筆者

伊藤 朝日太郎いとう あさひたろう
弁護士
略歴・経歴
1979年 滋賀県大津市で生まれる
2002年 同志社大学法学部卒業
2008年 早稲田大学大学院法務研究科卒業
2009年 弁護士登録(愛知県弁護士会)
2013年 第二東京弁護士会に登録替え
2022年 おおいずみ野の花法律事務所開業
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