解説記事2003年01月06日 【最新判決研究】 海外送金により贈与した場合の財産の所在地(2003年1月6日号・№1)
最新判決研究
海外送金により贈与した場合の財産の所在地
一審:東京地裁 平成13年(行ウ)第231号、平成14年4月18日判決
二審:東京高裁 平成14年(行コ)第142号、平成14年9月18日判決
税理士 松岡章夫
事案の概要
相続税・贈与税の非居住者に対する特例納税義務者が創設された平成12年改正前の贈与税の課税財産の範囲を巡り争われたものである。平成9年に国内に居住する親から海外に居住する子の口座に対して外国為替による海外送金がなされた場合の贈与財産が国内財産に該当するかが争点となっていた。
一審の東京地裁(藤山雅行裁判長)は、送金以前の贈与契約の成立を国側の立証不十分により否定し、海外送金については、仕向銀行に対する預金払戻し請求権として国外財産に認定し、納税者の請求を認容していた。
これに対し、東京高裁(新村正人裁判長)は、制限納税義務者が海外送金により取得した財産を国内財産の取得と認定し、一審判決を取り消し、納税者の請求を棄却する逆転判決を行った。
事実
1. 本件は、平成9年9月9日に死亡したA(以下「A」という。)に係る相続税に関し、平成11年7月9日、X(原告、被控訴人)及びB(以下「B」という。)が、BがAから送金を受けた金員を相続税の課税価格に算入していたのは誤りであった旨の更正の請求をしたところ、Y税務署長(被告、控訴人)は、平成11年8月27日、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたため、Xがその取消しを求めるものである。
2. 前提となる事実
(1)X及びB(以下「Xら」という。)は、Aの子である。Bは、昭和61年3月19日、アメリカ合衆国籍を取得したため、日本国籍を喪失した。平成3年5月1日以降は同国ジョージア州に住所を定めている。
(2)Aは、平成9年2月4日、H銀行国分寺支店から日本円に換算して1,000万円を、同月5日、D銀行国分寺支店から1,017万円をアメリカ合衆国のWachovia Bank Of Georgia East Marietta BranchのB名義の預金口座に外国為替により電信送金した(以下4日付の送金を「本件送金1」、5日付の送金を「本件送金2」、両者を併せて「本件各送金」という。)。AとBとの間において、本件各送金に係る贈与契約に関する書面は残されていない。
(3)Aは、平成9年2月5日に遺言公正証書(平成8年12月3日にも遺言公正証書があるため、以下「変更遺言」という。)を作成した。変更遺言には、「この遺言の変更はすでにBには相当額の生前贈与をなしたこと、その他諸般の事情を考慮してなすものであるからこの内容に異議をとなえることなく、この遺言に従うことを強く希望する。」と記載されていた。
(4)Aは、平成9年9月9日、死亡した。同人の相続人は、X及びBであった。
(5)Xらは、平成10年7月7日、相続税の申告書を提出した(以下「本件申告」という。)。Xらは、本件申告において、本件各送金に係る金員を被相続人からの贈与による取得であるとして、相続税法第19条に基づき、相続税の課税価格に加算していた。
(6)Xらは、平成11年7月9日、Yに対し、本件各送金に係る金員を相続税の課税価格に加算したことは誤りであるとして、更正の請求をした。Yは、平成11年8月27日、更正をすべき理由がない旨通知する本件通知処分をした。
(7)Xらは、平成11年10月27日、Yに対し、異議申立てをしたが、Yは、平成12年3月2日、Xに対しては異議申立てを棄却、Bに対しては異議申立てを却下する旨の決定をした。
(8) Xは、平成12年3月31日、東京国税不服審判所長に対し、審査請求をした。東京国税不服審判所長は、平成13年5月29日、審査請求を棄却する旨の裁決をした。
争点と当事者の主張
争点
相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合、その者が日本に住所を有しないときは、日本国内にある財産を取得した場合にのみ当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算することができるとされていることから、本件でBが日本国内にある財産を取得したといえるかどうかが争点である。
Y税務署長の主張
本件送金2がされた日である平成9年2月5日付のAの変更遺言の中に、Bに対し相当額の生前贈与をした旨の記載があり、他に相当額の生前贈与がされた形跡がなく、この変更遺言の生前贈与とは、本件各送金を指すというべきである。本件各送金に係る贈与契約は、現金の贈与契約であり、変更遺言がされた平成9年2月5日以前に成立していたものであって、Aは、当該贈与契約に基づいて同人が本邦において所持していた邦貨を外貨と交換し、H銀行又はD銀行から外国為替による電信送金によってBに送金したものである。
相続税法第10条第4項は、財産の所在の判定は、贈与により取得した時の現況によるとしているが、「贈与に因り取得した時」について定める法の規定はないため、民法の贈与契約の規定により、書面によらないものであっても贈与契約成立の時と解すべきである(民法第549条)。したがって、本件における贈与契約成立の時は、平成9年2月5日以前と思料され、その当時における本件各送金に係る金員の現況は、本邦に所在する現金であって、電信送金自体は贈与契約の履行行為にすぎないから、Bが贈与により取得した財産は、電信送金契約の法的性質のいかんにかかわらず、相続税法の施行地である本邦にある財産として、相続税の課税価格に加算すべきである。
X相続人の主張
本件各送金は、外国為替による電信送金の方法によるものであるところ、電信送金においては、送金依頼人と電信送金契約を締結した送金取組銀行(仕向銀行)は、支払銀行に対して支払指図を行うが、支払銀行は、これに応じて直ちに受取人に支払をなすものではなく、当該指図が真正であること、支払資金の決済が確実であること等を確認し、受取人に直接支払う場合又は支払銀行における受取人の預金口座に入金する場合のいずれにおいても、支払の停止などがないか、支払を請求した受取人は正当な受取人かなどを確認した後に支払に応じ又は口座への入金手続を行う。したがって、受取人が電信送金に係る金員を取得するのは、支払銀行における受取人の預金口座に入金する場合は、当該入金手続の完了時であり、そうでない場合は、受取人が支払銀行に支払を請求し、実際に支払がされたときである。
そして、電信送金は、送金された金員が受取人に支払われ、又は支払銀行の受取人名義の預金口座に入金されるまでは、送金人は仕向銀行を通じて支払銀行に対し支払を停止する旨指示できるとされていることからすると、贈与の履行が電信送金によりされた場合の履行の終了は、支払銀行から受取人に金員が支払われたとき又は支払銀行が受取人の預金口座に金員を入金したときである。
以上からすると、Bが本件各送金により取得した財産は、支払銀行に対する預金払戻請求権であり、本邦に所在する財産ではないから、相続税の課税価格に加算されるべきではない。
この点につき、Yは、Bは贈与契約成立時に本邦に所在する現金を取得した旨主張する。しかし、AとBとの間に、本件各送金とは別に贈与契約が締結されたことはなく、本件における贈与はいわゆる現実贈与であり、Aがその意思により、一方的にBに送金したものである。したがって、本件各送金が現実にされる前に本邦に所在するA所有の現金を取得した旨解する余地はない。仮に、本件各送金前にAとBとの間で贈与契約が存在したとしても、金銭の所有権は原則として占有の移転に従って移転するものであり、現実の占有を有しないBが本邦に所在する現金を取得することはできないし、Aも、各仕向銀行に対して預金払戻請求権を有していたにすぎず、当該預金に相当する現金を所有していたわけではない。したがって、Yの主張は失当である。
一審判決要旨
請求認容(納税者勝訴)
国内財産か否か
Yは、BがAからの贈与により取得した財産は、Aが本邦で所有していた現金である旨主張する。しかるに、本件においては、受贈者であるBは本邦に居住していなかったため、Aが本邦で所有していた現金がBに直接交付されることはなく、同人に対して外国為替による海外送金がされたのであるから、AからBに対し本邦に所在する現金が贈与されたといえるのは、本件各送金以前に、AとBとの間で、本件各送金の原資に当たる邦貨に関する贈与契約が成立しており、その履行のために本件各送金手続が執られた場合に限られるというほかない(このような場合以外には、送金がされても、外国為替による海外送金の性質上、Bは仕向銀行に対する支払請求権を有するにすぎず、送金の対象となっている金員について、直接所有権を取得するものではない。)。
贈与契約の成立と立証責任
本件各送金以前にAとBとの間の贈与契約に関する書面は残されていないから、本件各送金以前に、AとBとの間で贈与契約が成立していたとすれば、それは口頭によるものであったことになるが、Yは、AとBとの間の贈与契約は、平成9年2月5日以前に成立していたものと思料される旨主張するのみであって、それを裏付ける立証は何らできていない。
そうすると、本件において、本件各送金に係る金員が相続税の課税価格に加算されるためには、AとBとの間で本件各送金に係る贈与契約が本件各送金以前に成立していたことが必要であり、本件各送金以前の贈与契約の成立は、相続税の課税根拠事実に当たるというべきである。したがって、この点に関する主張立証責任はYが負担すると解すべきところ、Yは自己の主張を裏付ける立証ができていないのであるから、本件各送金の手段である外国為替による電信送金の法律構成いかんにかかわらず、BがAから本件各送金により本邦に所在する財産を取得したものと認めることはできないというべきである。
BがAから贈与を受けた財産は、取得した時点において本邦に所在する財産であったとは認められず、相続税の課税価格に加算されるべきものではない。
平成12年改正との関連
なお、平成12年の税制改正により租税特別措置法第69条が改正されたが、このことは、従前の相続税法に立法上の不備があったことを意味すると同時に、少なくとも、日本国籍を有する者については、租税回避行為を防止することができるようになったものと評価することができる。
二審判決要旨
原判決取り消し(国側勝訴)
立証責任について
AとBとの間において本件各送金に先だって贈与契約が成立していたか否かの立証責任についてみると、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟にあっては、申告により確定した税額等を納税者に有利に変更することを求めるのであるから、納税者において、確定した申告書の記載が真実と異なることにつき立証責任を負うものと解するのが相当である。
Xは、AとBとの間に特段の贈与契約が締結された事実はなくAが一方的にBに本件各送金をしたにすぎない旨主張するに止まり、本件各送金についてのAの意思、送金を受けたBの意思その他贈与の成立時期等について何ら具体的な立証をしていない。
贈与契約は成立しているか
Bがアメリカで生活しているとはいえ、親子の間であればこそ連絡を取るのは簡単で、電話でひとこと送金の趣旨と金額を伝えれば足りること、本件各送金は高額であり、相続に関連する重要な問題であるから事前に何の説明もなしにいきなり送金されるということは考えにくいこと、変更遺言にいう「相当額の生前贈与」とは本件各送金に係る金員の贈与を指すものとみることができること等からすると、本件各送金に先だってAからBに対し電話その他の方法により本件各送金をすることを連絡するとともに贈与であることの説明をしたとみるのが自然であり、一方、Bにおいて異存のあろうはずもなく謝意を表したことも十分あり得るところである。したがって、両者間に各送金額の金銭について贈与契約が成立したと考えるのが合理的である。
国内財産か否か
本件各送金に先だってAとBとの間で、本件各送金の原資に当たる邦貨による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し、その履行のために本件各送金手続が執られたとみることができ、Bは贈与契約締結時にAが日本国内に有していた金銭の贈与を受けたものということができる。
もっとも、この贈与は書面によるものではなく、租税実務上書面によらない贈与についてはその課税時期を履行の時としている。
しかし、本件のようにアメリカに在住する者に金銭の贈与を約束しその履行として電子送金の手続をとった場合は、受贈者の預金口座に入金されるのはいわば時間の問題で、送金された金銭は贈与者の手を離れ事実上その支配下にない状態になったということができる。法的、観念的にはなお贈与を取り消す余地はあり、電信送金手続上送金依頼人が支払停止の指示をすることも可能であるが、電信送金をする者の通常の意思としてはその手続を了した時に贈与に係る金銭は自己の支配下を離れ受贈者がこれを受け取るのを待つというものであると考えられる。そうすると、贈与者が送金の手続を了した時に受贈者の贈与を受ける権利は確定的になったものということができる。履行という概念は権利の確定との関連で相対的にとらえるべきものであって、金銭の贈与の場合に受贈者の権利が確定したというためには、完全な履行があったこと、すなわち受贈者が当該金銭を現実に入手したことまで要するものではないというべきである。このように解することは前記租税実務に反するものではないと考えられる。
被控訴人は電信送金の法的性質に基づいて贈与の時期を争うが、電信送金の法的性質いかんによって「財産を取得した時」の解釈が変わるものではない。
結論
財産の取得時とは、契約締結時をいうものと解すべきであり、仮にそうでなくても日本国内の前記各銀行において電信送金による送金手続を了した時ということができる。いずれにしてもBは本邦に所在した財産を取得したというべきである。
解説
贈与財産は何か、贈与の時期はいつか
相続税法第1条の2第2号は次のように規定している。
「贈与に因りこの法律の施行地にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないものは、この法律により、贈与税を納める義務がある。」
ここでいう「この法律の施行地にある財産」については、まず相続税法第10条第1項において、各財産ごとに所在の判定する場所を規定している。そして、同条第4項において「財産の所在の判定は、当該財産を相続、遺贈又は贈与に因り取得した時の現況による。」と規定している。
したがって、本件は、財産を贈与により取得した時はいつなのかが最大のポイントとなる。
民法第549条によると、「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し相手方が受諾を為すに因りて其効力を生ず」とある。一方、同法第550条によると、「書面に依らざる贈与は各当事者之を取消すことを得但履行の終わりたる部分に付ては此限に在らず」とある。
これらを受けて、国税庁では、財産取得の時期の原則については、「贈与による財産取得の時期は、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時」としている(相基通1・1の共-7)。
本件の贈与については、遺言の中で、生前贈与をした旨の記載があるだけで、これを贈与契約と呼ぶことはできない。したがって、書面によらない贈与ということになる。前述の国税庁通達によれば、贈与による財産取得の時期は、その履行の時となる。
この国税庁通達は、裁判例でも支持されている(注1)ので、この通達の考え方に沿って検討していく。Yは、相続税法第1条の2と同法第10条にいう「財産を取得した時」は、必ずしも同じ時を用いなくてもよいとしているが、疑問である。
そこで、本件贈与の履行の時はいつなのであるかについて、本件の一連の行為を確認してみる。
<1> Aは、日本で所持していた邦貨を日本の銀行(仕向銀行)において、アメリカの銀行(支払銀行)のB名義の預金口座へ振り込むよう送金依頼した。
<2> 仕向銀行は、支払銀行に対して支払指図を行う。
<3> 支払銀行は、当該指図が真正であること、支払資金の決済が確実であること等を確認する。
<4> その後、支払銀行は、受取人の口座へ入金の手続をする。
Xが主張するように、贈与の履行の終了は、確かに<4>のときであろう。しかし、履行の時とは、<1>から<4>のいずれをもって、そういうのであろうか。逆に履行の開始は、<1>のときともいえる。<1>から<4>の一連の流れ全体をもって、履行のときといえるのではないだろうか。<1>を履行の時ととらえれば、確かに日本にある現金といえ、相続税法第10条第1項第1号により、日本に所在する国内財産として、課税対象となろう。
それでは、<4>を履行のときととらえた場合はどうであろうか。Xが主張する「預金払戻請求権」が贈与された財産として考えて、相続税法第10条をながめていくと、第1項各号には該当するものがない。したがって、第3項にいきつき、当該財産の所在については贈与者の住所の所在によることになり、「日本に所在する」ことになるのではないだろうか。
結果として、履行のときを<1>ととらえても、<4>ととらえても国内財産ということになる。
贈与契約の認定は必要か
本件贈与は、Xが主張するように、現実贈与と考えられる。現実贈与とは、動産の贈与などにみられる、贈与契約と目的物の交付が同じになされる贈与をいう(注2)。
これは、まさしく、相続税法第9条にいうところのみなし贈与に該当するのではないだろうか。同条は「対価を支払わないで、利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与に因り取得したものとみなす。」とある。
したがって、贈与契約の有無にかかわらず、BがAから利益を受けたことは明確なのではないだろうか。ことさらに贈与契約があったか否かを認定する意味がないように思える。
立証責任について
租税確定処分の取消を求める訴訟において、課税要件事実について納税者と租税行政庁のいずれかが客観的立証責任を負うかについては、二つの見解が基本的に対立しているといわれている(注3)。
第一の見解は、行政行為の公定力を根拠として、処分が違法であることについてはXが全面的に立証責任を負うとする考え方である。第二の見解は、租税確定処分の取消を求める訴訟が、債務不存在確認訴訟と実質を同じくすることに着目して、この場合にも民事訴訟の通説である法律要件説に従って立証責任が配分されるべきであるとする考え方である。この見解によれば、権利発生要件たる事実については、租税債権者である国または地方公共団体が立証責任を負い、権利障害要件たる事実および権利消滅要件たる事実については、租税債務者たる納税者が立証責任を負うことになる。
本件では、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟であり、いずれの見解によっても納税者が立証責任を負うとした二審は肯定できる。
平成12年改正との関係
本件の事案を平成12年改正後の法律にあてはめてみると、Bは日本国籍を有していないので、国内財産だけが課税対象となり、本件と同じく国内財産か否かで課税対象が異なることになる。
一審は、平成12年改正前の相続税法に立法上の不備があったことを意味すると判示している。そうだとすると、非居住者に対して、きわめて単純と思える海外送金というものまで、非課税となっていたということになる。当時の課税実務では、少なくとも海外送金した場合は「国内財産」としていた(注4)ことから、逆に他の当時の納税者との不公平感が残るのではないだろうか。
結論
海外送金の電信送金契約の法的性質により、財産を取得した時の解釈が変わらないとした二審判決は支持できる。
Bが自己の預金口座のお金が増えているという利益を受けていることは明白であり、相続税法第9条にいうみなし贈与に該当するという観点からのアプローチもありえたのではと思う。
いずれにしても日本に居住する親から、海外に居住する子の海外の銀行口座へお金を振り込むという行為は国内財産の贈与と考えられ、こうした考え方が一般の納税者の感覚とも合致しているのではないか。
(注1)尾崎三郎編『相続税法基本通達逐条解説』大蔵財務協会 P40-41(2000.5)
(注2)金子宏『租税法(第8版増補版)』弘文堂、P722-723(2002.4)
(注3)基本法コメンタール債権各論(第三版) 日本評論社P59-60(1988.6)
(注4)島田昌夫編『税務相談事例集』大蔵財務協会P381(1997.6)
税理士 松岡章夫(まつおかあきお)
早稲田大学商学部卒業後、国税専門官として東京国税局入局。藤沢税務署・京橋税務署の資産税部門、大蔵省理財局、東京国税局税務相談室を経て、平成5年3月国税庁資料調査課を最後に退職。平成7年8月税理士事務所開設。
現在神田神保町にて、松岡章夫税理士事務所所長。他に、東京地方裁判所所属民事調停委員、東京税理士会研修部委員、日本税務会計学会会計部門委員などを歴任。
平成5年4月から筑波大学大学院で吉牟田教授に学び、「相続税法のタックスヘイブン税制の構築について」が「日税研究賞」受賞。
海外送金により贈与した場合の財産の所在地
一審:東京地裁 平成13年(行ウ)第231号、平成14年4月18日判決
二審:東京高裁 平成14年(行コ)第142号、平成14年9月18日判決
税理士 松岡章夫
事案の概要
相続税・贈与税の非居住者に対する特例納税義務者が創設された平成12年改正前の贈与税の課税財産の範囲を巡り争われたものである。平成9年に国内に居住する親から海外に居住する子の口座に対して外国為替による海外送金がなされた場合の贈与財産が国内財産に該当するかが争点となっていた。
一審の東京地裁(藤山雅行裁判長)は、送金以前の贈与契約の成立を国側の立証不十分により否定し、海外送金については、仕向銀行に対する預金払戻し請求権として国外財産に認定し、納税者の請求を認容していた。
これに対し、東京高裁(新村正人裁判長)は、制限納税義務者が海外送金により取得した財産を国内財産の取得と認定し、一審判決を取り消し、納税者の請求を棄却する逆転判決を行った。
事実
1. 本件は、平成9年9月9日に死亡したA(以下「A」という。)に係る相続税に関し、平成11年7月9日、X(原告、被控訴人)及びB(以下「B」という。)が、BがAから送金を受けた金員を相続税の課税価格に算入していたのは誤りであった旨の更正の請求をしたところ、Y税務署長(被告、控訴人)は、平成11年8月27日、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたため、Xがその取消しを求めるものである。
2. 前提となる事実
(1)X及びB(以下「Xら」という。)は、Aの子である。Bは、昭和61年3月19日、アメリカ合衆国籍を取得したため、日本国籍を喪失した。平成3年5月1日以降は同国ジョージア州に住所を定めている。
(2)Aは、平成9年2月4日、H銀行国分寺支店から日本円に換算して1,000万円を、同月5日、D銀行国分寺支店から1,017万円をアメリカ合衆国のWachovia Bank Of Georgia East Marietta BranchのB名義の預金口座に外国為替により電信送金した(以下4日付の送金を「本件送金1」、5日付の送金を「本件送金2」、両者を併せて「本件各送金」という。)。AとBとの間において、本件各送金に係る贈与契約に関する書面は残されていない。
(3)Aは、平成9年2月5日に遺言公正証書(平成8年12月3日にも遺言公正証書があるため、以下「変更遺言」という。)を作成した。変更遺言には、「この遺言の変更はすでにBには相当額の生前贈与をなしたこと、その他諸般の事情を考慮してなすものであるからこの内容に異議をとなえることなく、この遺言に従うことを強く希望する。」と記載されていた。
(4)Aは、平成9年9月9日、死亡した。同人の相続人は、X及びBであった。
(5)Xらは、平成10年7月7日、相続税の申告書を提出した(以下「本件申告」という。)。Xらは、本件申告において、本件各送金に係る金員を被相続人からの贈与による取得であるとして、相続税法第19条に基づき、相続税の課税価格に加算していた。
(6)Xらは、平成11年7月9日、Yに対し、本件各送金に係る金員を相続税の課税価格に加算したことは誤りであるとして、更正の請求をした。Yは、平成11年8月27日、更正をすべき理由がない旨通知する本件通知処分をした。
(7)Xらは、平成11年10月27日、Yに対し、異議申立てをしたが、Yは、平成12年3月2日、Xに対しては異議申立てを棄却、Bに対しては異議申立てを却下する旨の決定をした。
(8) Xは、平成12年3月31日、東京国税不服審判所長に対し、審査請求をした。東京国税不服審判所長は、平成13年5月29日、審査請求を棄却する旨の裁決をした。
争点と当事者の主張
争点
相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合、その者が日本に住所を有しないときは、日本国内にある財産を取得した場合にのみ当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算することができるとされていることから、本件でBが日本国内にある財産を取得したといえるかどうかが争点である。
Y税務署長の主張
本件送金2がされた日である平成9年2月5日付のAの変更遺言の中に、Bに対し相当額の生前贈与をした旨の記載があり、他に相当額の生前贈与がされた形跡がなく、この変更遺言の生前贈与とは、本件各送金を指すというべきである。本件各送金に係る贈与契約は、現金の贈与契約であり、変更遺言がされた平成9年2月5日以前に成立していたものであって、Aは、当該贈与契約に基づいて同人が本邦において所持していた邦貨を外貨と交換し、H銀行又はD銀行から外国為替による電信送金によってBに送金したものである。
相続税法第10条第4項は、財産の所在の判定は、贈与により取得した時の現況によるとしているが、「贈与に因り取得した時」について定める法の規定はないため、民法の贈与契約の規定により、書面によらないものであっても贈与契約成立の時と解すべきである(民法第549条)。したがって、本件における贈与契約成立の時は、平成9年2月5日以前と思料され、その当時における本件各送金に係る金員の現況は、本邦に所在する現金であって、電信送金自体は贈与契約の履行行為にすぎないから、Bが贈与により取得した財産は、電信送金契約の法的性質のいかんにかかわらず、相続税法の施行地である本邦にある財産として、相続税の課税価格に加算すべきである。
X相続人の主張
本件各送金は、外国為替による電信送金の方法によるものであるところ、電信送金においては、送金依頼人と電信送金契約を締結した送金取組銀行(仕向銀行)は、支払銀行に対して支払指図を行うが、支払銀行は、これに応じて直ちに受取人に支払をなすものではなく、当該指図が真正であること、支払資金の決済が確実であること等を確認し、受取人に直接支払う場合又は支払銀行における受取人の預金口座に入金する場合のいずれにおいても、支払の停止などがないか、支払を請求した受取人は正当な受取人かなどを確認した後に支払に応じ又は口座への入金手続を行う。したがって、受取人が電信送金に係る金員を取得するのは、支払銀行における受取人の預金口座に入金する場合は、当該入金手続の完了時であり、そうでない場合は、受取人が支払銀行に支払を請求し、実際に支払がされたときである。
そして、電信送金は、送金された金員が受取人に支払われ、又は支払銀行の受取人名義の預金口座に入金されるまでは、送金人は仕向銀行を通じて支払銀行に対し支払を停止する旨指示できるとされていることからすると、贈与の履行が電信送金によりされた場合の履行の終了は、支払銀行から受取人に金員が支払われたとき又は支払銀行が受取人の預金口座に金員を入金したときである。
以上からすると、Bが本件各送金により取得した財産は、支払銀行に対する預金払戻請求権であり、本邦に所在する財産ではないから、相続税の課税価格に加算されるべきではない。
この点につき、Yは、Bは贈与契約成立時に本邦に所在する現金を取得した旨主張する。しかし、AとBとの間に、本件各送金とは別に贈与契約が締結されたことはなく、本件における贈与はいわゆる現実贈与であり、Aがその意思により、一方的にBに送金したものである。したがって、本件各送金が現実にされる前に本邦に所在するA所有の現金を取得した旨解する余地はない。仮に、本件各送金前にAとBとの間で贈与契約が存在したとしても、金銭の所有権は原則として占有の移転に従って移転するものであり、現実の占有を有しないBが本邦に所在する現金を取得することはできないし、Aも、各仕向銀行に対して預金払戻請求権を有していたにすぎず、当該預金に相当する現金を所有していたわけではない。したがって、Yの主張は失当である。
一審判決要旨
請求認容(納税者勝訴)
国内財産か否か
Yは、BがAからの贈与により取得した財産は、Aが本邦で所有していた現金である旨主張する。しかるに、本件においては、受贈者であるBは本邦に居住していなかったため、Aが本邦で所有していた現金がBに直接交付されることはなく、同人に対して外国為替による海外送金がされたのであるから、AからBに対し本邦に所在する現金が贈与されたといえるのは、本件各送金以前に、AとBとの間で、本件各送金の原資に当たる邦貨に関する贈与契約が成立しており、その履行のために本件各送金手続が執られた場合に限られるというほかない(このような場合以外には、送金がされても、外国為替による海外送金の性質上、Bは仕向銀行に対する支払請求権を有するにすぎず、送金の対象となっている金員について、直接所有権を取得するものではない。)。
贈与契約の成立と立証責任
本件各送金以前にAとBとの間の贈与契約に関する書面は残されていないから、本件各送金以前に、AとBとの間で贈与契約が成立していたとすれば、それは口頭によるものであったことになるが、Yは、AとBとの間の贈与契約は、平成9年2月5日以前に成立していたものと思料される旨主張するのみであって、それを裏付ける立証は何らできていない。
そうすると、本件において、本件各送金に係る金員が相続税の課税価格に加算されるためには、AとBとの間で本件各送金に係る贈与契約が本件各送金以前に成立していたことが必要であり、本件各送金以前の贈与契約の成立は、相続税の課税根拠事実に当たるというべきである。したがって、この点に関する主張立証責任はYが負担すると解すべきところ、Yは自己の主張を裏付ける立証ができていないのであるから、本件各送金の手段である外国為替による電信送金の法律構成いかんにかかわらず、BがAから本件各送金により本邦に所在する財産を取得したものと認めることはできないというべきである。
BがAから贈与を受けた財産は、取得した時点において本邦に所在する財産であったとは認められず、相続税の課税価格に加算されるべきものではない。
平成12年改正との関連
なお、平成12年の税制改正により租税特別措置法第69条が改正されたが、このことは、従前の相続税法に立法上の不備があったことを意味すると同時に、少なくとも、日本国籍を有する者については、租税回避行為を防止することができるようになったものと評価することができる。
二審判決要旨
原判決取り消し(国側勝訴)
立証責任について
AとBとの間において本件各送金に先だって贈与契約が成立していたか否かの立証責任についてみると、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟にあっては、申告により確定した税額等を納税者に有利に変更することを求めるのであるから、納税者において、確定した申告書の記載が真実と異なることにつき立証責任を負うものと解するのが相当である。
Xは、AとBとの間に特段の贈与契約が締結された事実はなくAが一方的にBに本件各送金をしたにすぎない旨主張するに止まり、本件各送金についてのAの意思、送金を受けたBの意思その他贈与の成立時期等について何ら具体的な立証をしていない。
贈与契約は成立しているか
Bがアメリカで生活しているとはいえ、親子の間であればこそ連絡を取るのは簡単で、電話でひとこと送金の趣旨と金額を伝えれば足りること、本件各送金は高額であり、相続に関連する重要な問題であるから事前に何の説明もなしにいきなり送金されるということは考えにくいこと、変更遺言にいう「相当額の生前贈与」とは本件各送金に係る金員の贈与を指すものとみることができること等からすると、本件各送金に先だってAからBに対し電話その他の方法により本件各送金をすることを連絡するとともに贈与であることの説明をしたとみるのが自然であり、一方、Bにおいて異存のあろうはずもなく謝意を表したことも十分あり得るところである。したがって、両者間に各送金額の金銭について贈与契約が成立したと考えるのが合理的である。
国内財産か否か
本件各送金に先だってAとBとの間で、本件各送金の原資に当たる邦貨による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し、その履行のために本件各送金手続が執られたとみることができ、Bは贈与契約締結時にAが日本国内に有していた金銭の贈与を受けたものということができる。
もっとも、この贈与は書面によるものではなく、租税実務上書面によらない贈与についてはその課税時期を履行の時としている。
しかし、本件のようにアメリカに在住する者に金銭の贈与を約束しその履行として電子送金の手続をとった場合は、受贈者の預金口座に入金されるのはいわば時間の問題で、送金された金銭は贈与者の手を離れ事実上その支配下にない状態になったということができる。法的、観念的にはなお贈与を取り消す余地はあり、電信送金手続上送金依頼人が支払停止の指示をすることも可能であるが、電信送金をする者の通常の意思としてはその手続を了した時に贈与に係る金銭は自己の支配下を離れ受贈者がこれを受け取るのを待つというものであると考えられる。そうすると、贈与者が送金の手続を了した時に受贈者の贈与を受ける権利は確定的になったものということができる。履行という概念は権利の確定との関連で相対的にとらえるべきものであって、金銭の贈与の場合に受贈者の権利が確定したというためには、完全な履行があったこと、すなわち受贈者が当該金銭を現実に入手したことまで要するものではないというべきである。このように解することは前記租税実務に反するものではないと考えられる。
被控訴人は電信送金の法的性質に基づいて贈与の時期を争うが、電信送金の法的性質いかんによって「財産を取得した時」の解釈が変わるものではない。
結論
財産の取得時とは、契約締結時をいうものと解すべきであり、仮にそうでなくても日本国内の前記各銀行において電信送金による送金手続を了した時ということができる。いずれにしてもBは本邦に所在した財産を取得したというべきである。
解説
贈与財産は何か、贈与の時期はいつか
相続税法第1条の2第2号は次のように規定している。
「贈与に因りこの法律の施行地にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないものは、この法律により、贈与税を納める義務がある。」
ここでいう「この法律の施行地にある財産」については、まず相続税法第10条第1項において、各財産ごとに所在の判定する場所を規定している。そして、同条第4項において「財産の所在の判定は、当該財産を相続、遺贈又は贈与に因り取得した時の現況による。」と規定している。
したがって、本件は、財産を贈与により取得した時はいつなのかが最大のポイントとなる。
民法第549条によると、「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し相手方が受諾を為すに因りて其効力を生ず」とある。一方、同法第550条によると、「書面に依らざる贈与は各当事者之を取消すことを得但履行の終わりたる部分に付ては此限に在らず」とある。
これらを受けて、国税庁では、財産取得の時期の原則については、「贈与による財産取得の時期は、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時」としている(相基通1・1の共-7)。
本件の贈与については、遺言の中で、生前贈与をした旨の記載があるだけで、これを贈与契約と呼ぶことはできない。したがって、書面によらない贈与ということになる。前述の国税庁通達によれば、贈与による財産取得の時期は、その履行の時となる。
この国税庁通達は、裁判例でも支持されている(注1)ので、この通達の考え方に沿って検討していく。Yは、相続税法第1条の2と同法第10条にいう「財産を取得した時」は、必ずしも同じ時を用いなくてもよいとしているが、疑問である。
そこで、本件贈与の履行の時はいつなのであるかについて、本件の一連の行為を確認してみる。
<1> Aは、日本で所持していた邦貨を日本の銀行(仕向銀行)において、アメリカの銀行(支払銀行)のB名義の預金口座へ振り込むよう送金依頼した。
<2> 仕向銀行は、支払銀行に対して支払指図を行う。
<3> 支払銀行は、当該指図が真正であること、支払資金の決済が確実であること等を確認する。
<4> その後、支払銀行は、受取人の口座へ入金の手続をする。
Xが主張するように、贈与の履行の終了は、確かに<4>のときであろう。しかし、履行の時とは、<1>から<4>のいずれをもって、そういうのであろうか。逆に履行の開始は、<1>のときともいえる。<1>から<4>の一連の流れ全体をもって、履行のときといえるのではないだろうか。<1>を履行の時ととらえれば、確かに日本にある現金といえ、相続税法第10条第1項第1号により、日本に所在する国内財産として、課税対象となろう。
それでは、<4>を履行のときととらえた場合はどうであろうか。Xが主張する「預金払戻請求権」が贈与された財産として考えて、相続税法第10条をながめていくと、第1項各号には該当するものがない。したがって、第3項にいきつき、当該財産の所在については贈与者の住所の所在によることになり、「日本に所在する」ことになるのではないだろうか。
結果として、履行のときを<1>ととらえても、<4>ととらえても国内財産ということになる。
贈与契約の認定は必要か
本件贈与は、Xが主張するように、現実贈与と考えられる。現実贈与とは、動産の贈与などにみられる、贈与契約と目的物の交付が同じになされる贈与をいう(注2)。
これは、まさしく、相続税法第9条にいうところのみなし贈与に該当するのではないだろうか。同条は「対価を支払わないで、利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与に因り取得したものとみなす。」とある。
したがって、贈与契約の有無にかかわらず、BがAから利益を受けたことは明確なのではないだろうか。ことさらに贈与契約があったか否かを認定する意味がないように思える。
立証責任について
租税確定処分の取消を求める訴訟において、課税要件事実について納税者と租税行政庁のいずれかが客観的立証責任を負うかについては、二つの見解が基本的に対立しているといわれている(注3)。
第一の見解は、行政行為の公定力を根拠として、処分が違法であることについてはXが全面的に立証責任を負うとする考え方である。第二の見解は、租税確定処分の取消を求める訴訟が、債務不存在確認訴訟と実質を同じくすることに着目して、この場合にも民事訴訟の通説である法律要件説に従って立証責任が配分されるべきであるとする考え方である。この見解によれば、権利発生要件たる事実については、租税債権者である国または地方公共団体が立証責任を負い、権利障害要件たる事実および権利消滅要件たる事実については、租税債務者たる納税者が立証責任を負うことになる。
本件では、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟であり、いずれの見解によっても納税者が立証責任を負うとした二審は肯定できる。
平成12年改正との関係
本件の事案を平成12年改正後の法律にあてはめてみると、Bは日本国籍を有していないので、国内財産だけが課税対象となり、本件と同じく国内財産か否かで課税対象が異なることになる。
一審は、平成12年改正前の相続税法に立法上の不備があったことを意味すると判示している。そうだとすると、非居住者に対して、きわめて単純と思える海外送金というものまで、非課税となっていたということになる。当時の課税実務では、少なくとも海外送金した場合は「国内財産」としていた(注4)ことから、逆に他の当時の納税者との不公平感が残るのではないだろうか。
結論
海外送金の電信送金契約の法的性質により、財産を取得した時の解釈が変わらないとした二審判決は支持できる。
Bが自己の預金口座のお金が増えているという利益を受けていることは明白であり、相続税法第9条にいうみなし贈与に該当するという観点からのアプローチもありえたのではと思う。
いずれにしても日本に居住する親から、海外に居住する子の海外の銀行口座へお金を振り込むという行為は国内財産の贈与と考えられ、こうした考え方が一般の納税者の感覚とも合致しているのではないか。
(注1)尾崎三郎編『相続税法基本通達逐条解説』大蔵財務協会 P40-41(2000.5)
(注2)金子宏『租税法(第8版増補版)』弘文堂、P722-723(2002.4)
(注3)基本法コメンタール債権各論(第三版) 日本評論社P59-60(1988.6)
(注4)島田昌夫編『税務相談事例集』大蔵財務協会P381(1997.6)
税理士 松岡章夫(まつおかあきお)
早稲田大学商学部卒業後、国税専門官として東京国税局入局。藤沢税務署・京橋税務署の資産税部門、大蔵省理財局、東京国税局税務相談室を経て、平成5年3月国税庁資料調査課を最後に退職。平成7年8月税理士事務所開設。
現在神田神保町にて、松岡章夫税理士事務所所長。他に、東京地方裁判所所属民事調停委員、東京税理士会研修部委員、日本税務会計学会会計部門委員などを歴任。
平成5年4月から筑波大学大学院で吉牟田教授に学び、「相続税法のタックスヘイブン税制の構築について」が「日税研究賞」受賞。
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