解説記事2003年09月29日 【対談】 財産評価基本通達の一部改正について第3回 各論(2)(188-3項から188-5項)(2003年9月29日号・№037)
対談
財産評価基本通達の一部改正について
第3回 各論(2)
(188-3項から188-5項)
筑波大学大学院教授 品川芳宣
公認会計士・税理士 緑川正博
司会 T&Amaster編集部 佐治俊夫
議決権数を0として計算するということ
司会:評価通達の188-3・188-4項では、評価会社が自己株式を有する場合、あるいは議決権を有しないこととされる株式を有する場合、議決権総数についてその株式数をゼロとして計算するという形で取扱いを明らかにしています。どういう趣旨でこのような取扱いとなったのでしょうか。
品川:これについては、以前は、発行済株式数から控除するということで、控除するというところに意義がありました。今回は、議決権数をゼロとして扱うことに留意するとなっています。だから、まあ、書かなくても当然そうなるという、これは先程の185項で、純資産の中から自己株式を除くということが当たり前だから、明文化しなかったということとのバランスで、留意すると一応してあるんですね。185項で書かなくて当たり前ではないかということであれば、ここでも敢えて留意すると書くまでもなかったということも考えられますが。一応、議決権数を総枠でカウントする場合に、従来から問題になっていた自己株式の取扱いとかあるいは親子会社の取扱いを通達として残したこと自体はそれでいいではないですか。
緑川:さっき、品川教授がおっしゃったように、自己株式を除くなんてことをカットしなければ、この通達もなかったと思いますが、カットしちゃったから留意してくれ、とわけのわからない話になっています。
種類株式がある場合の議決権数
司会:先程の185項の注2に記載されたことが188-5項(種類株式がある場合の議決権総数等)にあります。一部議決権株式については議決権総数に含めるという取扱いが明らかになっています。この取扱いについてどのようにお考えになっていらっしゃいますか。
品川:これはさっきからも何度か指摘してきましたが、今回の通達改正の中で一番わかりにくいところです。もともと従前の188-5項は、確か平成3年4月に当時の改正商法が施行されることに対応して、優先株等について議決権があったりなかったりするということに対処して、原則は議決権のない株式に関しては、それを控除して同族関係を判定するという前提を置きながら、しかし議決権のない株式が議決権がいつでも回復することがありうる、それを意図していろいろな同族株主の判定から逃れる操作が容易であるということをおもんぱかって、議決権のない株式を控除しない場合でも、同族株主に該当する場合には同族株主として扱うという但し書きを設けたものです。それは平成3年の商法改正に対応した処置だと考えているわけです。今回、種類株式という形で従来の優先株よりはるかに複雑でかつ操作が可能な、いわば妖怪のような株式が出現してきたわけで、なおさらこの取扱いに関してはいろいろな対応が必要だったと思います。しかし、個人的には、従前の188-5項をある程度モディファイしたような形になるのかな、というふうに予測していました。出てきた通達は要するに種類株式のうち株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数を含めるというものです。もともと数種の種類株式を、ここでわざわざ含めるということは、完全な無議決権株が、かつて商法改正ではそういう存在もある、永久無議決権株の存在も認めるという解説をされていたので、そういうのはもともと議決権がないのであるから、188-3とか188-4のような取扱いをひとつ入れるのかなという感じはしていました。それもない。そうすると、この完全無議決権株の存在は現実には、ある場合にはどうするかという問題と、「実際にはそういうものはないんだ。」・「全てが一部の議決権の制限株式だ。」ということで、種類株式は全てこの中に入ってくるということになっているようです。そうすると、課税時期において議決権がなければ、含めようがないようですね。「あらまし」の3 改正通達により難い場合の考え方では、その辺の説明もあって従前の取扱いに準じたような個別の評価方法もあり得るということは匂わしていますが、原則評価との関係がいまひとつわかりにくい。「あらまし」の解説も苦労されていて、結局は、租税回避まがいな行為があった場合には個別評価するんだということは匂わしています。個別評価をするぐらいであれば、前の通達のように利用封じのような規定を設けていた方が、納税者から見ればはるかにわかりやすかったのではないかと思われますが、いかがですかね。
緑川:それは冒頭言ったように、原則的な評価方法については何ら改正せず、特例的評価方法たる株式についてだけの改正であった。まず今回は、従前の188-5項というのがありましたけど、そこから完全無議決権株式というのが認められるようになったことにより、完全無議決権株式の評価はこうです、というのが出ると思っていたんです。ところが、完全無議決権株式の評価はこうです、ということは一切言わず、議決権の数に含めるか含めないか、これしか出ていません。逆に言ったら同族株主が所有する完全無議決権株式の評価は、という本来の原則的な評価は何ら触れていない。そこから議決権制限株式はというような形になってくるわけですが、代表的な完全無議決権株式の評価さえ決められていない評価通達の改正、ということになります。
「完全無議決権株式は、事実上存在しない。」という考え方があるのでは?── 品川
品川:聞くところによると、完全無議決権株式というのは、事実上は存在しないんだ、ということらしいんです。そうであれば、そういうことをもう少しきちんと説明していてもよさそうだと思います。従来の商法改正の解説とこの「あらまし」の関係が不明です。「あらまし」の方は税務の取扱いを明らかにすればよいわけですが、いまいち納税者にとっては非常にわかりにくい取扱いになっていると思います。わざわざ、「あらまし」では、改正通達により難い場合の考え方について、設例を設けて書いてあるわけです。ならば、こういうことがわかるように、前の通達であれば、それがわかるはずですね。その辺、わざわざ通達を改正してわかりにくくさせてしまったというのが非常に残念です。
緑川:通達を改正して評価通達6項の適用の余地を多くした、という読み方なんでしょう。ただ、「あらまし」の3 取引相場のない株式の評価(種類株式を発行している場合の議決権総数等)の1従来の取扱いのところに、③としまして商法の解釈上、株主全員の同意があれば、普通株式に転換できることなどから、という文言があります。確かに、実務的には全株主同意であれば、完全無議決権株式でも普通株式に転換できると思います。現実に登記も受け付けていると思いますね。そういったところまで加味するなら、やっぱり明確に書いて欲しかったです。それが前提だからこういう評価を定めました、というのならわかるのですが、従来の考え方を示しているだけなんです。今後どうしたかと言ったら、「あらまし」の2 通達改正の趣旨及び概要の最後になるのですが、「商法改正が行われたばかりであり、種類株式の使用実態が明らかでないから、その判定方法については財産評価基本通達で定めないこととすると。」ここまで書かれてしまいますと、定めなかったから評価通達6項を適用しますと宣言されたような話ですね。
品川:188-5項では、種類株式のうち株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権ですからね。極めて些細な重要事項でないことに議決権が行使できるものがあれば、とにかく議決権数の中に入れることになるのですかね。
緑川:全て。

公認会計士・税理士 緑川正博氏
品川:課税時期において全く議決権がない株式は当然課税時期において存在するわけですから、それはまあ入れようがないですね。議決権がゼロだから。だから、むしろこの188-5項は、従来の188-5項の但し書きを本書きにしてしまったようなところもあるわけですね。直接ではないですけどね。そういう意味でも、実際の種類株式の実態に対応した取扱いになっているかどうかちょっとまあ疑問で、「あらまし」の方と両方見て判断してくれということなんでしょう。実務的には非常に厄介なのかあるいはこれを奇貨としていろんな操作に絡むのか、まあそのへんは税理士さんの腕の見せ所かもしれません。
緑川:評価通達がきちんとしてないと実務がまわらない、という議論は結構多いわけです。しかし、それがその時その時の担当者によってどう捉えているかっていうことも、結構あるような感じがするんです。今回の担当者は踏み込まなかったなあとしか読めない。そこで、もう一つあるのは、ずーっとこの「あらまし」を読んでいくと、潜在的な会社の支配力という言葉を使っています。すなわち、将来予測ですよね。将来的にどう変わるかわからないから評価通達で個別的に定められない、という言い訳をされている感じなんです。だけど相続税法22条は取得の時における時価といって評価通達を維持してきたわけです。だから逆の問題で納税者が不利になる場合でも「いや22条はその時の時価です。」といって今まで斥けてきた側が、今回は「将来どうなるかわからないのだから、一律に定められないよ。」と言って、自ら22条を、いままで維持してきたものを逆に放棄したのかな。で、余計にその実務が複雑になってくるという気はしますね。
改正通達により難い場合の考え方
司会:今回の評価通達の「あらまし」には、3 取引相場のない株式の評価の3つ目の項目に「改正通達により難い場合の考え方」が明らかにされています。ここには、(1)普通株式の転換をして種類株式を発行している場合、(2)強制償還株式を発行している場合等には課税時期における会社の本来の会社の支配力が十分に図れないことが予想されるため、次のように判定すべきケースが出てくると思われる。このように記載されています。また昨年出された資産評価企画官からの情報では、上場会社が発行した非上場の無額面株式の評価ということで無議決権であり、配当優先が定められ、平成19年以降に利益による償却が予定されている償還株式については、特別な株式払込価額である利付社債の元本の評価方法に準じて評価する取扱いが明らかにされています。この通達により評価しがたい場合の考え方について教えていただきたいと思います。

筑波大学教授 品川芳宣氏
品川:それは問題が二つあるわけです。昨年のこの情報に関しては種類株式の一つの評価方法なんです。確か、その債券として評価するという情報が出されていると思います。それは168項の中でこの評価の区分を定めた方が望ましいわけで、ただ5項とか6項とかを持ち出すのではなくて、そういう区分を設ける必要もあると思います。
今回の種類株式の問題に関しても、一番の問題は種類株式の時価をどう評価するかということであったはずです。その評価方法が実態を調べなければ明らかにできないというのであれば、それはそれでそういう種類株式の区分があるということを168項でまず明らかにするか、あるいは178・179項の中で取引がない株式あるいは取引がない株式まがいの債券のようなものについて類似、純資産、配当還元以外の評価方法があり得ることを「頭出し」しておいたほうが非常に良かったのではないかと考えられます。それらがなくて全てこの「あらまし」の中で改正通達により難い、そういう場合には個別評価するというのは、納税者側からの予測可能性とか法的安定性からいったら非常に難しいと思います。納税者はその後二年三年経つと通達しか見ていないわけで、「あらまし」や何かがどういうふうに言ったかということはあまり納税者にとっても知る機会が少ないわけですから、なおさらのような感じはします。
将来的にわからないから個別評価というのは、22条(時価)の放棄では。── 緑川
緑川:たまたま、この(1)が普通株式への転換権を付して種類株式を発行している場合という設例(下記参照)があがっていて、その設例を見ているわけです。基本的にこういう設例の場合では、甲乙ともにいずれもが同族株主に該当するという説明をしています。逆に言いますと、さっき先生がおっしゃられた旧188の6の注書きの具体化みたいなものですね、いずれもが同族株主に該当しますというようになるんだと思うんです。問題は、いずれもが同族株主に該当するという場合、以前の復活する無議決権株式と今回と全く違うのは、もし相続といったとき、潜在的にこの場合乙が同族株主になるのであれば、残りの甲は潜在的に同族株主にならないんだから、それは例外的評価方法でいいだろうというところまでは書いていない。更に潜在的なところを判定する場合は、さっきの一株または1個じゃないですけど、現実は株数で見ますが潜在的なものはその議決権という個で見ますと、どっちで見ていくの。原則的評価額×株数又は個数というふうになるわけですが、そこをどう見るのか、このバランスが非常に取れていないという気がしています。だから、その179項という原則において目的を明確にしていない限り、この問題の解決にならないのではないでしょうか。ただ同族株主以外の株主等が取得した株式であるか否かを判定する場合だけにいずれか両方を見てください、といっているだけの話です。
品川:いずれにしても、188-5項というのは平成3年の通達改正で一応いろいろな株式に多様化してくる株式に一応対応するためにできた通達をその多様化が更に進んだら前の取扱いを引っ込めるという発想がよくわからないですね。
【普通株式への転換権を付して種類株式を発行している場合】 (国税庁HPより抜粋)
・普通株式の一単元の株式の数は100株とする。
・株主甲は、株主乙の同族関係者にならない。
・株主乙の所有する種類株式の一単元の株式の数は20株であり、種類株式1株につき、普通株式10株に転換する。
・「その他」は、株主甲又は株主乙の同族関係者にならない少数株主である。
【判定結果】
普通株式転換前の議決権の数により判定すれば、株主甲の議決権総数に占める議決権の数の割合が53.1%(=37.5%+15.6%)となるため、株主甲が同族株主となるが、普通株式転換後の議決権の数で判定すれば、株主乙の議決権総数に占める議決権の数の割合が51.1%(=8.5%+42.6%)となるため、株主甲が同族株主となる。したがって、この場合には、株主甲及び株主乙のいずれもが同族株主となる。
種類株式に対応すべき旧188-5項を廃止するというのは、わからない── 品川、緑川
緑川:あーそうですね。おっしゃるとおりですね。
品川:ますます必要になってくるはずなのに、ただそれをわざわざ前の取扱いを廃止して、そして「あらまし」のところで説明するというのは通達の発出方法としては明瞭性に欠けるのではないかと思います。
緑川:でも先生がおっしゃったように、今後のこの「あらまし」はわかりませんから。「あらまし」に対してこれがどういう理解をしていいのかも全く分からないです。改正前通達188-5を廃止して評価通達6項の適用可能性を増やした、というのが今回の改正の趣旨ですから、もう明確に言ってもらったほうが良かったですね。
品川:まあ、ちょっと皮肉的な言い方になるような気が・・・
緑川:そうだとすれば、その文言だけ残しておいてくれれば、ああまた何もやらなくなったんだなっていうだけで理解できますからね。
品川:でもこれは実際実務にも定着しているわけですから、定着している取扱いをひっくり返すということはよく理解できないですね。

《ちょっとひといき》「13年前の改正を思う」
品川先生と緑川先生は、平成2年8月の相続税財産評価に関する基本通達の改正の際に対談された、と聞いている。今から13年前のことである。
当時(平成2年)の評価通達の改正は、実務界を大きく揺さぶるものであった。バブル経済を背景にした現物資産(土地・株式等)の異常な高騰、各種節税策が横行する中で、評価通達の改正により、非上場株式の評価の適正化を図ったものである。
平成2年改正では、相続税評価額の操作が比較的容易な類似業種比準価額による評価が適用されない株式の区分(①株式保有特定会社の株式、②土地保有特定会社の株式、③開業後3年未満の会社等の株式)を設け、評価会社が有する株式等の純資産価額の計算において、評価差額に対する法人税額等相当額の控除をしないで計算することにした。
この改正により、実務界の相続税節税策は大半が再検討を余儀なくされ、あるいは、破綻した。当時、品川教授は、評価通達改正の責任者(国税庁資産評価企画官)であった。
バブル退治策として、平成2年改正は、「総量規制」・「3年しばり」と並ぶ特効薬となった。相続財産としての現物資産の優位性が激減し、現物資産の価格は下がってきた。
現物資産の価額の下落は、逆の意味で社会問題化してきた。物納等徴収の問題・不良債権の償却問題が顕在化し、企業再編成等の必要性が明らかとなってきた。お2人は、新たな問題に対しても、それぞれのお立場で積極的な対応・提言をされて今日に至っている。
財産評価基本通達の一部改正について
第3回 各論(2)
(188-3項から188-5項)
筑波大学大学院教授 品川芳宣
公認会計士・税理士 緑川正博
司会 T&Amaster編集部 佐治俊夫
議決権数を0として計算するということ
司会:評価通達の188-3・188-4項では、評価会社が自己株式を有する場合、あるいは議決権を有しないこととされる株式を有する場合、議決権総数についてその株式数をゼロとして計算するという形で取扱いを明らかにしています。どういう趣旨でこのような取扱いとなったのでしょうか。
品川:これについては、以前は、発行済株式数から控除するということで、控除するというところに意義がありました。今回は、議決権数をゼロとして扱うことに留意するとなっています。だから、まあ、書かなくても当然そうなるという、これは先程の185項で、純資産の中から自己株式を除くということが当たり前だから、明文化しなかったということとのバランスで、留意すると一応してあるんですね。185項で書かなくて当たり前ではないかということであれば、ここでも敢えて留意すると書くまでもなかったということも考えられますが。一応、議決権数を総枠でカウントする場合に、従来から問題になっていた自己株式の取扱いとかあるいは親子会社の取扱いを通達として残したこと自体はそれでいいではないですか。
緑川:さっき、品川教授がおっしゃったように、自己株式を除くなんてことをカットしなければ、この通達もなかったと思いますが、カットしちゃったから留意してくれ、とわけのわからない話になっています。
種類株式がある場合の議決権数
司会:先程の185項の注2に記載されたことが188-5項(種類株式がある場合の議決権総数等)にあります。一部議決権株式については議決権総数に含めるという取扱いが明らかになっています。この取扱いについてどのようにお考えになっていらっしゃいますか。
品川:これはさっきからも何度か指摘してきましたが、今回の通達改正の中で一番わかりにくいところです。もともと従前の188-5項は、確か平成3年4月に当時の改正商法が施行されることに対応して、優先株等について議決権があったりなかったりするということに対処して、原則は議決権のない株式に関しては、それを控除して同族関係を判定するという前提を置きながら、しかし議決権のない株式が議決権がいつでも回復することがありうる、それを意図していろいろな同族株主の判定から逃れる操作が容易であるということをおもんぱかって、議決権のない株式を控除しない場合でも、同族株主に該当する場合には同族株主として扱うという但し書きを設けたものです。それは平成3年の商法改正に対応した処置だと考えているわけです。今回、種類株式という形で従来の優先株よりはるかに複雑でかつ操作が可能な、いわば妖怪のような株式が出現してきたわけで、なおさらこの取扱いに関してはいろいろな対応が必要だったと思います。しかし、個人的には、従前の188-5項をある程度モディファイしたような形になるのかな、というふうに予測していました。出てきた通達は要するに種類株式のうち株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数を含めるというものです。もともと数種の種類株式を、ここでわざわざ含めるということは、完全な無議決権株が、かつて商法改正ではそういう存在もある、永久無議決権株の存在も認めるという解説をされていたので、そういうのはもともと議決権がないのであるから、188-3とか188-4のような取扱いをひとつ入れるのかなという感じはしていました。それもない。そうすると、この完全無議決権株の存在は現実には、ある場合にはどうするかという問題と、「実際にはそういうものはないんだ。」・「全てが一部の議決権の制限株式だ。」ということで、種類株式は全てこの中に入ってくるということになっているようです。そうすると、課税時期において議決権がなければ、含めようがないようですね。「あらまし」の3 改正通達により難い場合の考え方では、その辺の説明もあって従前の取扱いに準じたような個別の評価方法もあり得るということは匂わしていますが、原則評価との関係がいまひとつわかりにくい。「あらまし」の解説も苦労されていて、結局は、租税回避まがいな行為があった場合には個別評価するんだということは匂わしています。個別評価をするぐらいであれば、前の通達のように利用封じのような規定を設けていた方が、納税者から見ればはるかにわかりやすかったのではないかと思われますが、いかがですかね。
緑川:それは冒頭言ったように、原則的な評価方法については何ら改正せず、特例的評価方法たる株式についてだけの改正であった。まず今回は、従前の188-5項というのがありましたけど、そこから完全無議決権株式というのが認められるようになったことにより、完全無議決権株式の評価はこうです、というのが出ると思っていたんです。ところが、完全無議決権株式の評価はこうです、ということは一切言わず、議決権の数に含めるか含めないか、これしか出ていません。逆に言ったら同族株主が所有する完全無議決権株式の評価は、という本来の原則的な評価は何ら触れていない。そこから議決権制限株式はというような形になってくるわけですが、代表的な完全無議決権株式の評価さえ決められていない評価通達の改正、ということになります。
「完全無議決権株式は、事実上存在しない。」という考え方があるのでは?── 品川
品川:聞くところによると、完全無議決権株式というのは、事実上は存在しないんだ、ということらしいんです。そうであれば、そういうことをもう少しきちんと説明していてもよさそうだと思います。従来の商法改正の解説とこの「あらまし」の関係が不明です。「あらまし」の方は税務の取扱いを明らかにすればよいわけですが、いまいち納税者にとっては非常にわかりにくい取扱いになっていると思います。わざわざ、「あらまし」では、改正通達により難い場合の考え方について、設例を設けて書いてあるわけです。ならば、こういうことがわかるように、前の通達であれば、それがわかるはずですね。その辺、わざわざ通達を改正してわかりにくくさせてしまったというのが非常に残念です。
緑川:通達を改正して評価通達6項の適用の余地を多くした、という読み方なんでしょう。ただ、「あらまし」の3 取引相場のない株式の評価(種類株式を発行している場合の議決権総数等)の1従来の取扱いのところに、③としまして商法の解釈上、株主全員の同意があれば、普通株式に転換できることなどから、という文言があります。確かに、実務的には全株主同意であれば、完全無議決権株式でも普通株式に転換できると思います。現実に登記も受け付けていると思いますね。そういったところまで加味するなら、やっぱり明確に書いて欲しかったです。それが前提だからこういう評価を定めました、というのならわかるのですが、従来の考え方を示しているだけなんです。今後どうしたかと言ったら、「あらまし」の2 通達改正の趣旨及び概要の最後になるのですが、「商法改正が行われたばかりであり、種類株式の使用実態が明らかでないから、その判定方法については財産評価基本通達で定めないこととすると。」ここまで書かれてしまいますと、定めなかったから評価通達6項を適用しますと宣言されたような話ですね。
品川:188-5項では、種類株式のうち株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権ですからね。極めて些細な重要事項でないことに議決権が行使できるものがあれば、とにかく議決権数の中に入れることになるのですかね。
緑川:全て。

公認会計士・税理士 緑川正博氏
品川:課税時期において全く議決権がない株式は当然課税時期において存在するわけですから、それはまあ入れようがないですね。議決権がゼロだから。だから、むしろこの188-5項は、従来の188-5項の但し書きを本書きにしてしまったようなところもあるわけですね。直接ではないですけどね。そういう意味でも、実際の種類株式の実態に対応した取扱いになっているかどうかちょっとまあ疑問で、「あらまし」の方と両方見て判断してくれということなんでしょう。実務的には非常に厄介なのかあるいはこれを奇貨としていろんな操作に絡むのか、まあそのへんは税理士さんの腕の見せ所かもしれません。
緑川:評価通達がきちんとしてないと実務がまわらない、という議論は結構多いわけです。しかし、それがその時その時の担当者によってどう捉えているかっていうことも、結構あるような感じがするんです。今回の担当者は踏み込まなかったなあとしか読めない。そこで、もう一つあるのは、ずーっとこの「あらまし」を読んでいくと、潜在的な会社の支配力という言葉を使っています。すなわち、将来予測ですよね。将来的にどう変わるかわからないから評価通達で個別的に定められない、という言い訳をされている感じなんです。だけど相続税法22条は取得の時における時価といって評価通達を維持してきたわけです。だから逆の問題で納税者が不利になる場合でも「いや22条はその時の時価です。」といって今まで斥けてきた側が、今回は「将来どうなるかわからないのだから、一律に定められないよ。」と言って、自ら22条を、いままで維持してきたものを逆に放棄したのかな。で、余計にその実務が複雑になってくるという気はしますね。
改正通達により難い場合の考え方
司会:今回の評価通達の「あらまし」には、3 取引相場のない株式の評価の3つ目の項目に「改正通達により難い場合の考え方」が明らかにされています。ここには、(1)普通株式の転換をして種類株式を発行している場合、(2)強制償還株式を発行している場合等には課税時期における会社の本来の会社の支配力が十分に図れないことが予想されるため、次のように判定すべきケースが出てくると思われる。このように記載されています。また昨年出された資産評価企画官からの情報では、上場会社が発行した非上場の無額面株式の評価ということで無議決権であり、配当優先が定められ、平成19年以降に利益による償却が予定されている償還株式については、特別な株式払込価額である利付社債の元本の評価方法に準じて評価する取扱いが明らかにされています。この通達により評価しがたい場合の考え方について教えていただきたいと思います。

筑波大学教授 品川芳宣氏
品川:それは問題が二つあるわけです。昨年のこの情報に関しては種類株式の一つの評価方法なんです。確か、その債券として評価するという情報が出されていると思います。それは168項の中でこの評価の区分を定めた方が望ましいわけで、ただ5項とか6項とかを持ち出すのではなくて、そういう区分を設ける必要もあると思います。
今回の種類株式の問題に関しても、一番の問題は種類株式の時価をどう評価するかということであったはずです。その評価方法が実態を調べなければ明らかにできないというのであれば、それはそれでそういう種類株式の区分があるということを168項でまず明らかにするか、あるいは178・179項の中で取引がない株式あるいは取引がない株式まがいの債券のようなものについて類似、純資産、配当還元以外の評価方法があり得ることを「頭出し」しておいたほうが非常に良かったのではないかと考えられます。それらがなくて全てこの「あらまし」の中で改正通達により難い、そういう場合には個別評価するというのは、納税者側からの予測可能性とか法的安定性からいったら非常に難しいと思います。納税者はその後二年三年経つと通達しか見ていないわけで、「あらまし」や何かがどういうふうに言ったかということはあまり納税者にとっても知る機会が少ないわけですから、なおさらのような感じはします。
将来的にわからないから個別評価というのは、22条(時価)の放棄では。── 緑川
緑川:たまたま、この(1)が普通株式への転換権を付して種類株式を発行している場合という設例(下記参照)があがっていて、その設例を見ているわけです。基本的にこういう設例の場合では、甲乙ともにいずれもが同族株主に該当するという説明をしています。逆に言いますと、さっき先生がおっしゃられた旧188の6の注書きの具体化みたいなものですね、いずれもが同族株主に該当しますというようになるんだと思うんです。問題は、いずれもが同族株主に該当するという場合、以前の復活する無議決権株式と今回と全く違うのは、もし相続といったとき、潜在的にこの場合乙が同族株主になるのであれば、残りの甲は潜在的に同族株主にならないんだから、それは例外的評価方法でいいだろうというところまでは書いていない。更に潜在的なところを判定する場合は、さっきの一株または1個じゃないですけど、現実は株数で見ますが潜在的なものはその議決権という個で見ますと、どっちで見ていくの。原則的評価額×株数又は個数というふうになるわけですが、そこをどう見るのか、このバランスが非常に取れていないという気がしています。だから、その179項という原則において目的を明確にしていない限り、この問題の解決にならないのではないでしょうか。ただ同族株主以外の株主等が取得した株式であるか否かを判定する場合だけにいずれか両方を見てください、といっているだけの話です。
品川:いずれにしても、188-5項というのは平成3年の通達改正で一応いろいろな株式に多様化してくる株式に一応対応するためにできた通達をその多様化が更に進んだら前の取扱いを引っ込めるという発想がよくわからないですね。
【普通株式への転換権を付して種類株式を発行している場合】 (国税庁HPより抜粋)
・普通株式の一単元の株式の数は100株とする。
・株主甲は、株主乙の同族関係者にならない。
・株主乙の所有する種類株式の一単元の株式の数は20株であり、種類株式1株につき、普通株式10株に転換する。
・「その他」は、株主甲又は株主乙の同族関係者にならない少数株主である。
株式数等 株主 | | | | 主判定 | 転換後の 株式数 | | 主判定 | |||
| | | | | | |||||
| | 株 12,000 | % 60.0 | 個 120 | % 37.5 | | 株 12,000 | 個 120 | % 25.5 | |
| 1,000 | 5.0 | 50 | 15.6 | 10,000 | 100 | 21.3 | |||
| | 4,000 | 20.0 | 40 | 12.5 | | 4,000 | 40 | 8.5 | |
| 2,000 | 10.0 | 100 | 31.3 | 20,000 | 200 | 42.6 | |||
| | 1,000 | 5.0 | 10 | 3.1 | | 1,000 | 10 | 2.1 | |
| | 20,000 | 100.0 | 320 | 100.0 | 47,000 | 470 | 100.0 |
【判定結果】
普通株式転換前の議決権の数により判定すれば、株主甲の議決権総数に占める議決権の数の割合が53.1%(=37.5%+15.6%)となるため、株主甲が同族株主となるが、普通株式転換後の議決権の数で判定すれば、株主乙の議決権総数に占める議決権の数の割合が51.1%(=8.5%+42.6%)となるため、株主甲が同族株主となる。したがって、この場合には、株主甲及び株主乙のいずれもが同族株主となる。
種類株式に対応すべき旧188-5項を廃止するというのは、わからない── 品川、緑川
緑川:あーそうですね。おっしゃるとおりですね。
品川:ますます必要になってくるはずなのに、ただそれをわざわざ前の取扱いを廃止して、そして「あらまし」のところで説明するというのは通達の発出方法としては明瞭性に欠けるのではないかと思います。
緑川:でも先生がおっしゃったように、今後のこの「あらまし」はわかりませんから。「あらまし」に対してこれがどういう理解をしていいのかも全く分からないです。改正前通達188-5を廃止して評価通達6項の適用可能性を増やした、というのが今回の改正の趣旨ですから、もう明確に言ってもらったほうが良かったですね。
品川:まあ、ちょっと皮肉的な言い方になるような気が・・・
緑川:そうだとすれば、その文言だけ残しておいてくれれば、ああまた何もやらなくなったんだなっていうだけで理解できますからね。
品川:でもこれは実際実務にも定着しているわけですから、定着している取扱いをひっくり返すということはよく理解できないですね。

《ちょっとひといき》「13年前の改正を思う」
品川先生と緑川先生は、平成2年8月の相続税財産評価に関する基本通達の改正の際に対談された、と聞いている。今から13年前のことである。
当時(平成2年)の評価通達の改正は、実務界を大きく揺さぶるものであった。バブル経済を背景にした現物資産(土地・株式等)の異常な高騰、各種節税策が横行する中で、評価通達の改正により、非上場株式の評価の適正化を図ったものである。
平成2年改正では、相続税評価額の操作が比較的容易な類似業種比準価額による評価が適用されない株式の区分(①株式保有特定会社の株式、②土地保有特定会社の株式、③開業後3年未満の会社等の株式)を設け、評価会社が有する株式等の純資産価額の計算において、評価差額に対する法人税額等相当額の控除をしないで計算することにした。
この改正により、実務界の相続税節税策は大半が再検討を余儀なくされ、あるいは、破綻した。当時、品川教授は、評価通達改正の責任者(国税庁資産評価企画官)であった。
バブル退治策として、平成2年改正は、「総量規制」・「3年しばり」と並ぶ特効薬となった。相続財産としての現物資産の優位性が激減し、現物資産の価格は下がってきた。
現物資産の価額の下落は、逆の意味で社会問題化してきた。物納等徴収の問題・不良債権の償却問題が顕在化し、企業再編成等の必要性が明らかとなってきた。お2人は、新たな問題に対しても、それぞれのお立場で積極的な対応・提言をされて今日に至っている。
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