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解説記事2003年11月03日 【実務解説】 ストック・オプションは一時?給与?(2003年11月 3日号・№041)

実務解説

ストック・オプションは一時?給与?
納税者から相談されたときに

鳥飼総合法律事務所 弁護士 間瀬まゆ子



 海外親会社が発行したストック・オプションに係る課税関係を廻って、昨年11月の東京地裁民事3部(藤山雅行裁判長)の判決に続き、本年8月26日に東京地裁民事2部(市村陽典裁判長)が判決を下した。内容はいずれも、納税者の主張を認め、ストック・オプションの権利行使益を「一時所得」とするものであった。
 ところが、その判決に対しても国側が控訴し、未だ「給与所得」との主張を続けている。一連の裁判が決着するにはまだしばらくの時間を要する見通しである。
 となると、税務の実務家にとって問題となるのが、ストック・オプションを行使した納税者から相談を受けた際にどう対応するのかという点である。そこで、本稿では、海外法人が発行するストック・オプションに関して相談された場合に、専門家としてどう対応すればいいのかについて、幾つかの個別のケースを前提として述べる。なお、以下のいずれのケースについても、実際にご相談いただいた内容を元に、若干の修正を加えたものである。


ケース① 今年行使した分はどうやって申告すればいい?

相談内容

 今年、ストック・オプションを行使したので、来年には確定申告しなければならない。一時所得だという判決がいくつか出たようであるが、税務当局は今でも給与所得が正しいと言っていると聞いている。一時所得と給与所得、どちらで申告すればいいのか。

回答

 今後の確定判決が出るまで結論の見えないため、納税者にとっては悩ましいところである。まず、不服申立及び訴訟を提起することを前提とした場合、一時所得と給与所得のどちらで申告すべきであろうかについてであるが、結論としては、どちらでも争うことができるので、どちらの方法でも良いことになる。

 ただ、それぞれの方法にメリット・デメリットがあるので、相談を受けた専門家としてはそれを納税者に説明しなければならない。
 まず、一時所得で申告し、更正処分を受けてその取消を求める場合、メリット及びデメリットは下記のとおりである。給与所得で申告し、更正の請求をした後理由がない旨の通知処分を受けてこの取消を求める場合のメリット及びデメリットはこの逆になる。

 一時所得として申告した場合の加算税等のリスクを考え、最近では給与所得として申告する方法をとるケースが多いように思われる。ただ、実際のところ、加算税や延滞税が賦課されるのかは不透明である。というのは、税務職員の指導に従った場合ですら「正当な理由」がある等としてこれらを賦課しないのであるから、裁判所の判決に従った場合にも賦課しないという解釈が妥当であり、税務当局においても同様の解釈をする可能性があるからである。今後の税務当局の判断が注目される。
 次に、納税者本人が不服申立をする気はないという場合はどうすべきか。以前であれば、確実に加算税・延滞税を賦課されたので、やはり給与所得で申告するという納税者が多かった。しかし、上記のとおり、加算税・延滞税を賦課されるのか分からない状況では、必ずしも給与所得で申告する方が有利だと一概に言えない。最終的には、様々な可能性を話して、納税者本人に判断してもらうしかないと思われる。
 最後に、今後もし納税者が不服申立をするという判断をした場合、必ず、期限の管理に細心の注意を払うべきことを納税者に伝えて頂きたい。法定の期間を1日でも過ぎると、それまでやってきた手続がすべて無駄になってしまうからである。また、特に更正の請求の方法をとる場合に問題となるのであるが、更正をすべき理由がない旨の通知と相前後して増額更正処分がなされる場合がある。このような場合に、一方のみしか不服申立をしていないケースが散見されるが、将来訴訟になった後に争点を増やさないためにも、両方について不服申立の手続をとるべきである。


ケース② 平成14年分について給与所得として申告した税金は返ってくるのか

相談内容

 今年の3月に平成14年に行使したストック・オプションの利益をどう申告するかについて迷ったのだが、「今裁判で争っている人たちが勝った後2ヶ月以内に請求すれば私たちの税金も戻ってくる」と友人から聞いて給与所得として申告した。将来、一時所得という裁判が確定すれば、本当に私たちの税金も戻ってくるのか。

回答

1 後発的事由に基づく更正の請求

 相談者は、後発的事由に基づく更正の請求のうち、判決や和解により申告に係る税額等の計算の基礎となった事実に変動を生じた場合の更正の請求を言っているものと思われる(国税通則法23条2項1号)。確かに、このような場合には、そのような事由が生じた日の翌日から2ヶ月以内に限って更正の請求をすることが認められている。
 それでは、不服申立及び訴訟の手続をとっていない納税者についても、現在裁判所で争っている納税者について勝訴の判決が出た後2ヶ月以内に更正の請求することができるのであろうか。この点については、下級審が「法令解釈について判例により新判断が示された場合を後発的事由ということはできない」と判断した例があり、品川芳宣教授も本誌2003年2月3日号で、この判決がストック・オプション判決に関しても参考になると述べておられる。筆者自身も、文理解釈からして、本件のようなケースで後発的事由に基づく更正の請求が認められる考え方をとることは難しいと現段階では考えている。少なくとも、実務家として「この方法があるので不服申立及び訴訟の手続をとらなくてもよい」と断言することはできないであろう。

2 争う場合のリスクとコスト

 では、相談のケースについてはどのように対応すればよいか。まず、質問自体は「将来税金が戻ってくるのか」なので、後発的事由に基づく更正の請求や嘆願(後述)によって戻ってくる可能性がないわけではないものの、必ず戻ってくるという保証はないという回答になる。
 その上で、平成14年分所得税ということであり、平成15年11月現在でまだ通常の更正の請求が可能な状態であるので、更正の請求・不服申立・訴訟という一連の手続をとりうることについて知らせておく必要がある。この際、そのような手続をとる場合のリスクとコストについて説明するべきであろう。まず、コストとしては、不服申立及び訴訟を税理士又は弁護士等に委任した際に払う報酬と、印紙代等の訴訟費用があり、リスクとしては将来敗訴してしまった場合にこれらが戻ってこないということがある。その上で、現在進行している裁判の見通しにつき意見を求められる可能性が高いので、この点については皆さんそれぞれの見解を示して頂きたい。

3 注意点

 最後に、実際にあったケースを元に注意喚起をしておきたい。ある相談者が、専門家に依頼し更正の請求をしたものの、これに対して「更正をすべき理由がない旨の通知」が来たにもかかわらず不服申立をしなかったというケースがあった。相談者本人の談によると、「更正の請求さえしておけば大丈夫」との説明を専門家から受けたということである。このような誤解を与えないためにも、各手続を一つずつ、しかも所定の期限内に踏んでおくことが必要なことをきちんと説明しておくべきであろう。


ケース③ 平成12年分について給与所得として修正申告してしまった

相談内容

 米国親会社からもらったストック・オプションを、平成12年にはじめて行使した。最寄の税務署に行ってきいたところ、「一時所得として申告しなさい」と言われたのでそのとおりに申告した。ところが、半年後に呼び出され税務署に出向いたところ、担当の職員は、「一時所得というのは間違いでした。給与所得として修正申告してください」と言って、すでに金額を記載してある申告書を渡してきた。私はその職員のことばを信じてその申告書に署名してしまった。ところが、最近新聞で「一時所得」というのが正しいとする判決が出たことを知り、大変驚いている。今から不服申立をしたいのだが、どうすればいいか。

回答

1 不服申立は可能か

 更正の請求については、原則として、法定申告期限から1年以内に行なわなければならない。平成12年分所得税については平成14年3月をもって既にその期間を過ぎてしまっている。そうなると、もはや更正の請求をすることはできず、不服申立の道も閉ざされてしまっていることになる。

2 嘆願

 あとは、前述の後発的事由に基づく更正の請求と、減額更正の嘆願(又は請願)を検討する他ない。ここでは、後者の嘆願につき説明する。更正の請求や不服申立ができる期間を過ぎてしまうと、納税者が争う道は閉ざされてしまうが、その場合でも税務署長の方が減額更正をすることは可能である。そこで、そのような職権の発動を促すため、嘆願を行なうのである。ただ、税務署長が減額更正をすることができるのは、法定申告期限から5年の期間に限られる。平成12年分について言えば、平成18年3月15日を過ぎてしまうと減額更正される可能性がなくなることになる。また、期間内であっても、確実に減額更正してくれるという保証があるわけではない。というのは、税務署長が減額更正するかどうかは裁量の範囲内の事項であり、納税者においてこれを強制する手段はないからである。
 このとおり、嘆願をしたからといって確実に税金が戻ってくるわけではないのだが、嘆願に関して税理士に厳しい裁判例なども出ている以上、もし相談を受けた時点で上記の5年の期間が経過していないのならば嘆願の手続はとる必要があろう。

3 修正申告の錯誤無効

 納税者の立場からすると、「税務署に修正申告をさせられたのに、不服申立ができないというのはおかしい」と感じられるようであり、そういった声をよく耳にする。ただ、もちろん申告自体は納税者自らが行なうものであり、「処分」性がないから不服申立を起こすことはできない。

 納税者の言い分にいちばん近いのが、錯誤により申告が無効であるという主張であるように思う。この錯誤の主張について、一般論としては判例上も認められているものの、実は非常に厳しい条件が課されている。具体的には、「錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合」でなければ錯誤を主張できないとされている。このような要件を充たす場合はかなり限定的であろう。


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