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解説記事2003年11月10日 【実務解説】 包括外部監査に対する「通信簿」(2003年11月10日号・№042)

実務解説
包括外部監査に対する「通信簿」

弁護士 井上善雄

1.包括外部監査制度(地方自治法252条の27~38)の概要


 昭和22年5月3日施行された地方自治法(以下、「法」という)によって、監査委員によって行財政を監査する制度が始まった。行政から独立して財政・会計面を中心に適正な執行がなされているかを常に監査しうる組織で、その業務は、自治体に身分を属する監査委員と、監査委員を補助して監査作業を行う監査事務局等自治体職員によって行われ、監査委員には議員や自治体OB、地元有識者が就任している。しかし、監査委員監査は行政を是正する能力を発揮していないと市民の批判の対象となることもあった。
 これに対し、外部監査制度は、平成9年の法改正により同年11年4月実施された。外部監査は、住民・市民の立場に立って、政治的、精神的に独立した行政外部の監査人が自治体の監査を行おうというものである。地方自治体の「官官接待」「カラ出張」「裏金」などの社会問題が浮上し、透明かつ公正な行政と自浄能力を高めることが必要となり、平成9年2月の地方制度調査会の答申、同年3月の地方自治法改正法案による制度導入の国会提出、同年6月の公布というスピード実施であった。外部監査制度導入の意義は従来の監査委員による「内部監査」の不十分さに対し、これを改善しようというものである。監査委員監査制度は、数次の「改正」にもかかわらず、幾多の問題を残している。監査委員監査は、組織の内部に精通した者が行うことで不正や誤りを早期に発見するという建前も聞かれる。しかし、最大の問題は、既成行政組織に取り込まれ、独立性を失っていくことであろう。包括外部監査制度は、同じ監査人と連続3年(3回)を超えて契約できないよう定められている(法252条の36第3項)が、これは「独立性」の確保が目的である。平成14年度に外部監査人の交代が非常に多くなったのは、4年継続ができないためであった。
 現行法の包括外部監査は、法2条14項と15項の趣旨を達成するため、包括外部監査人の監査を受けるとともに監査の結果に関する報告の提出を受けることを内容とする(法252条の27第2項)。すなわち、包括外部監査により地方公共団体の事務の①真実性、②適法性、③有効性、④効率性、⑤経済性が問われることになる。
 この外部監査は合規性監査のみと考える意見もあるが、地方自治法の目的に添い、全法令的見地からの適法性の監査と、英国で採用されるVFM監査(Value For Money=人財投入に見合う価値があるか)、あるいは米国の3E監査-有効性(Effectiveness=住民福祉、公共目的への人財投入の適合性)・効率性(Efficiency=人財投入により最大限の効果をあげること)・経済性(Economy=最も少ない人財投入であること)-を含むものとして位置づけられるべきである。監査対象となる事件の選定は監査人が主体的に選定し、監査契約は一年度ごとに行われる(法252条の36第1項)。
 これに対し、個別外部監査と呼ばれるものがある。これは、首長・議会・住民からの個別請求に基づくものである(法252条の39~43)。


2.包括外部監査の実施状況

 平成11年度(1999年度)より全国47都道府県、12政令市、25中核市において包括外部監査がスタートした。平成12年度(2000年度)は、中核市2市、条例制定による5つの任意実施市区(以下、「条例市区」という)も含め、合計91自治体が実施し、平成13年度(2001年度)は、合計95自治体、平成14年度(2002年度)は、47都道府県、12政令市、31中核市、10条例市区の合計100自治体が実施している。
① 監査人(契約者)と補助者
  監査人の資格を見ると、14年度は、100自治体のうち、公認会計士、弁護士、税理士の資格を併せ持つ者が1名(山梨県)、公認会計士が87名、弁護士が5府県3中核市(大阪府・鳥取県・広島県・徳島県・高知県・新潟市・堺市・岡山市)の8名、税理士は1県1政令市1中核市(茨城県・京都市・宮崎市)の3名、行政実務精通者は、1中核市(秋田市=会計検査院OB)1名であった。また、監査人補助者は、総務省の調査によると、11年度が全86自治体559名中、弁護士23名、公認会計士429名、税理士17名、行政実務精通者6名、その他84名(会計士補、監査法人職員、大学教授・助教授、コンサルタント等)であり、14年度も各自治体の監査報告書を見る限り同様の傾向にある。
② 監査人の執務日数
  総務省調査によると、12年度の監査人の執務日数は、都道府県で4日(山梨県)~125日(愛知県)、平均53.5日、政令市で6.5日(名古屋市)~71日(千葉市)、平均33.6日、中核市では21日(豊田市)~146日(岐阜市)、平均42.6日、条例市区は16.5日(東京都文京区)~24日(岡山県倉敷市)、平均20日という。この時間計算方式は同一といえず、監査人補助者の執務日数を加える必要もある。
③ 監査人の報酬額
  14年度は、498万8550円(荒川区)~3528万円(東京都)であった。東京都は何事も規模が大きく、調査を始めると量も多くスタッフも多数必要ではあろう。一方、規模の小さい条例市区では、同じテーマでも量は少なく、また的を絞れば500万円程度でも有効な監査ができよう。
④ 監査対象事項
  14年度の監査対象選択は、別表(監査対象事項分類表)に分類した。上下水道など公営事業部門と環境事業部門が急増している。


3.“通信簿”の評価基準

 平成11年度の59自治体の外部監査について、私達は“通信簿”(「イエローブック」と名づけた)を作成し、公表した。専門家の作成した監査報告書が「採点」されたことについての意外性もあって、多方面から大きな反響があった。以来、継続して発行し、平成14年度は全100自治体、177テーマの監査報告書を「採点」し公表している。加えて、今回は13年度実施の95自治体に監査報告書への対応についてアンケート調査を行い、あわせて全265ページの“通信簿”をまとめた。“通信簿”による監査報告書のランク付けは、自治体そのものへの評価ではない。しかし、外部監査を担当する行政事務方では当事者になったような感覚での反応も多かった。評価への批判もあれば不満の声も聞いたが、全国的な調査が他にもなく今では他の自治体の状況を知るのに重宝されたり、「市民の視点」として参考にされるようにもなっている。
 また、監査人団体との意見交換も行っている。公認会計士協会とは11年度から、日弁連とは12年度から、いずれも14年度まで通して行っており、定着しつつある。
 報告書の評価は、市民に公表・提供された「包括外部監査結果報告書(以下、「監査報告書」という)」をもとに評価している。監査対象となった部局が非協力的であるなど、監査人の意思とは別に監査への「介入」や「支障」があっても市民は知り得ないので、公表されている範囲で判断した。
 評価にあたっては、評価班で統一的な評価基準を定め、地元オンブズマンの評価も参考にして担当班員が第一次的に評価した。評価班はそれを基にしつつ、他の監査報告書との相対比較、対象の難易度を含め、批判的に評価し、かつ各監査報告書を複数人が確認し、評価の客観化に努めた。1つの自治体の複数の個別テーマの監査報告については、個別テーマごとにA~Eの5段階評価をして、最終的にはその中で優れたものを尊重し、総合して評価した。
 私達の評価の視点ないし基準は、次のとおりである。
① 対象の選定は適切で監査結果は活用度があるか
i 具体的な目的根拠があって対象が選定されているか。
ii 監査テーマと結果が首長(自治体)が採用する有効性を持っているか。
iii 行政の改善の方向が具体化されているか。
② 監査が充実し、評価が適切であるか
i 新しい問題意識・発見があるか。
ii 適法性の監査について充実・適切であるか。
iii 3E監査について具体的な対象への適用とチェックがあるか。
iv テーマの数だけでなく質の高さがあるか。
v 行政結果の追認に終わっていないか。
③ 報告書・意見書は判りやすいか
i 市民が読んで判る記述になっているか。
ii 問題点や意見要点が明確に指摘されているか。
iii 専門用語などは解説・注釈があるか。
iv 表やデータが判りやすいものか。


 14年度総合評価のランク付けは次のとおりである。実施4年を経て全体の水準も向上したため、優れた監査報告書(A評価)には率直に賛辞を贈り、C評価のものを明確に平均レベルとして位置づけた。
A:優れた監査として評価に値する。
B:良い監査であるが、なお改善を希望し今後に期待する。
C:平均的レベルであるが不十分な点もあり、監査対象の選び方や監査方法・内容等を改善する必要がある。
D:外部監査として不十分であり、投じた費用に対し有益なものか疑問がある。
E:不可。外部監査として欠陥があり意義を認めがたい。


4.監査対象と評価の視点

① 監査対象と個別評価のポイント
  以下は、私達のテーマごとの評価ポイントで、外部監査人に注目して欲しい点である。
i.「税の賦課・徴収」
  このテーマで最低限クリアすべき要件としては、事務処理の適法性は当然として、その上に、a.個人情報保護の観点を含むシステム監査の視点、b.課税の公平の見地に立った課税漏れ防止手続の検証及び課税標準算定・賦課金額決定の適正手続の検証、c.賦課・徴収の適正かつ効率的執行の3点がある。
ii.「公有財産・物品管理(土地・建物・物品・基金)」
  「土地」は、単に遊休化していることを指摘するのみでは不十分で、現地を実際に確かめ、そこに至る政策立案の過程や責任の所在を分析する必要がある。
  「物品管理」は、台帳整備や棚卸点検の問題ついて検証を行っていないものは欠陥である。
  「基金」は、基金の趣旨、積立、保管・運用、取崩し、利用にわたる点検が必要だが、今後のあり方などの展望も必要である。
iii.「施設管理・運営」
  「収支不足」「赤字」の事実を指摘するだけでは不十分で、当該施設の企画段階に遡って収支見通しの問題の有無や、責任の所在を検証しなければならない。また、行政コスト計算を行う場合は、現在の運営コストだけでなく建設コストまで分析する必要がある。
iv.「契約・委託・土木建築」
  過去の事跡について契約(特に入札関係)に問題がなかったかを十分に検討しているか、監査意見でどこまで踏み込んだ提案をしているかが問われる。随意契約の部分が含まれていれば、「入札回避」がないかの調査・検証が必要で、談合排除のための具体的行動指針が監査意見に示されなければならない。委託先が第三セクターや外郭団体の場合には、実際にその委託先が業務を行う実態があるかという視点も欠かせない。
v.「貸付金・債権管理・資金管理・債務保証」
  「貸付金」の適法性の点検は不可欠で、返済の滞納は回収促進のための方策を組織・体制の点に踏み込んで具体的に提案しなければならない。貸付に関しては審査が甘くなる具体的原因を検証し、再発防止に役立てる必要がある。「貸付金」の性格によっては、政策目的に照らして貸付そのものの適法性・有効性も検証する必要がある。
  「債権管理」「資金管理」「債務保証」は、そもそもその対象、方法、手続として適法であるかも問題である。当初の審査から今日に至るまでの状況変化の把握、予期できるリスクであったかどうかなどを検証し、改善の方向を示すべきである。
vi.「補助金・負担金」
  「貸付金」よりもさらに明確に個別ケースでの公益性や政策目的への適合性がなければ意味のない分野だけに、有効性と適法性の検証が最大のポイントとなる。次いで公平性や透明性の検証が重要な要素である。これらも含めてチェックして初めて適法性の検証であるといえる。補助金の決定は、最も説明責任が問われるものの一つでもある。
vii.「出資団体・財政援助団体」(以下、「外郭団体」という)
  外郭団体の存在理由も公益・政策目的との整合性が最大のポイントである。外郭団体を多用する自治体のその根拠は機動性や効率性・経済性(独立採算制)であるが、それも公益・政策目的との整合性があった上でのことである。もうひとつは、本当に効率性・経済性を実現できているのかという点である。
  外郭団体への「債務保証」は「隠れた保証」や「損失補償」もなされたりするので、この点のチェックも必要である。外郭団体が議会や市民の目を覆うための「隠れ蓑」になってはいないか、外郭団体が不当に高額な委託費等を受け内部留保を行っていないか、外郭団体の取引先が第2の「天下り先」となっていないか、本来は許されないような再委託や競争入札を回避するために外郭団体が利用されていないか、また、大規模な事業展開を行う外郭団体の場合は、長期的な採算性が重要な視点であるし、採算が取れていない場合(このような場合が非常に多い)は、需要予測を含めどのような根拠で決定がなされたかがポイントとなる。
viii.「土地開発公社及び道路公社」
  設立趣旨目的に照らした上での適法性監査と3E監査がポイントである。「土地開発公社」の場合は、既にその役割を終えているという認識も必要であろう。
ix.「住宅事業」(公営住宅、住宅供給公社を含む)
  これについても、公共政策目的との整合性が重要であるが、住宅政策そのものが時代とともに変わってきているという認識があるかどうかが問われる。
x.「病院事業」
  公立病院は例外なく多額の累積赤字を抱えている上、民間との比較が容易なこともあって、経営分析には力が入っている。診療科別の損益分析、一般会計からの繰入金の分析、診療報酬の請求に関する分析、設備投資の生産性分析、医師・看護師の労働生産性分析そして公立病院としての意義の検討が必要である。
xi.「大学・試験研究機関」
  専門的学究分野としての期待と現実の財務運営に落差のあるテーマであり問題意識が重要である。
xii.「特別会計・公営事業」
  毎年コンスタントに選択されるテーマであり、「上下水道」「農業・工業用水」「電気・ガス事業」「競輪・競馬・競艇」「産業・地域振興・市場」「港湾・埋立」「農林」等の分野がある。
  公営事業も赤字のケースが多いが、それだけに3Eの視点が欠かせない。仮に赤字であっても必要な事業であれば費用対効果が厳密に分析されなければならない。この場合、代替可能な施策がないかも当然検討するべきである。
xiii. 以上の類型以外にも、「高齢者介護」「環境・ゴミ・清掃」「保健・福祉・国保」「警察・交通安全事業」「地方債」「地域振興政策評価」「人件費」「行政サービスコスト」「公営企業会計・特別会計の消費税」「学校給食」「保育事業」などが挙げられる。
  以上、全てのテーマに共通して言えることを、もう一度まとめておきたい。
i.「公金支出・需用費」の適法性はどんなテーマを扱っていても必ず関連してくる問題である。
ii. 意思形成過程及びその責任の所在の検証も欠かせない手続である。
iii. 改善のために付する意見は、具体的・実効的で、実行可能性のあるものでなければならない。
iv. 適法性についての検証は規程や要綱は見ても根拠法まで遡って検討し、法律の趣旨に基づき実質的観点から適法性の検証が厳格になされなければならない。
v. 3E監査・有効性監査は行政の本質や公共性・公益性の評価、過去の行政の選択の是非を問う困難な面があり、単なる政策の是非でなく政策を実行するための事前のアセスメントや代替案を含む政策選定の説明責任の点検といった方法もある。
vi. 有効性の視点は、監査人としては意見を表明しづらいが、行政側の建前だけの「公益性」に無批判に追従する(容認する)のでは価値を認めることはできない。現状や「必要悪」への安易な妥協は許されないが、従前の取扱いや慣例がなぜ生まれていたのか、今後も維持しなければいけないのかも踏まえた上で、行政当局の「建前」と行政の政治的状況などで行っていることとの落差や「本音」について独立した外部監査でこそなし得る点もあるはずである。
② 監査報告書・意見書の記載事項
  最低限押さえなければならない要点は、i.監査人の氏名と資格、ii.補助者の氏名と資格、iii.監査テーマとそれを選定した理由、iv. 監査の視点、v.監査範囲、vi.監査手続の手法、vii.監査期間と監査日数、viii.監査結果、問題点と改善を求める事項、ix.監査人の意見、x.利害関係等であり、これらは全て監査報告書自体に書くべきである。
  なお、報告書で自治体名、団体名、企業名や個人名を特定するかどうかについても議論がある。自治体名を匿名にするのはおかしい。個人名は情報公開制度の下でも一定保護されているし、一般私人の名前を敢えて監査報告書に記載する必要がある場合は少ないであろう。内容によっては信用不安を広めるとして匿名にする場合もあるようであるが、一定レベル以上の団体への公金援助について公に監査報告をしなければならない以上、顕名が原則であろう。
③ 対象テーマの深浅度・広狭度と難易について
  14年度も監査人によって、取り上げたテーマの数には1~5とバラツキがあった。この4年間を通じて言えることは、数が多いことが決して良質な監査にはつながらず、数が多くなれば、ひとつひとつのテーマとしては小さな問題や浅いものになる傾向がある。外郭団体や補助金等の場合は、是正すべき指摘事項や意見の視点・基準がはっきりしていれば、直接の対象団体以外にも応用できる。
④ 監査人が公認会計士の場合の課題
  14年度の外部監査では、全100自治体中88自治体で公認会計士が監査人に選任されている。これは、監査の専門家としての公認会計士に期待が寄せられた結果である。私達が問題としてきたのは最も重要な適法性の監査についてで、多くの公認会計士の監査人は補助者のスタッフを得て狭い意味での合規性に関しては手堅く監査を実施したとみられる。しかし、真の意味での適法性にまで踏み込んでいないケースがある。弁護士が監査人に選任された場合は、ほとんどの場合補助者に公認会計士を起用するが、その逆のケースでは、弁護士を補助者に起用してこの点を十分に検討させた例は少ない。また、総務省調査では、12年度の包括外部監査に従事した補助者の総数は580人で、弁護士29人、公認会計士439人、税理士22人、行政実務精通者9人、会計士補38人、監査法人職員27人、情報技術者3人、大学(助)教授5人、コンサルタント8人で、公認会計士、会計士補、監査法人職員を合計すると504人となり、補助者全体の約87%を占めている。日弁連の調査では、14年度に公認会計士の監査人の下で補助者となった弁護士は12名である(うち1名は2自治体)。弁護士が補助者となった例は34名であるが、うち22名は監査人が弁護士の場合であった。適法性監査が外部監査として必要不可欠である以上、適法性監査を厳しく行う方針を明確にし、能力のある弁護士や学者など法律専門家の補助者との積極的な連携を検討する必要がある。
  大手監査法人が組織的に対応した場合は、監査実務の一定の水準確保、他の自治体との比較の容易性、特定分野の専門家の補助者起用、経験の集積等の長所はあるが、逆に監査結果や意見で、継続的な関係を考慮したりして改善点をはっきり指摘しない、曖昧さ・弱さを残すといった傾向になれば短所である。コンサルティング的、経営助言的な側面からの監査に重点をおくことで、適法性監査の側面からの批判的視点が不十分になっている問題もあり、自治体の監査では対象となる自治体と監査人との間により一層強い緊張関係が要求される。助言的視点だけでなく、住民の視点に立った批判的視点とのバランスの取れた監査を行うことが必要である。この点で、現行法上、独立性の見地から監査人は監査法人でなく個人であることを要求していることを忘れてはならない。
⑤ 報酬について
  14年度の評価も、私達は報酬額の多寡による評価はしていない。報酬額は、監査内容と監査報告書の充実度により、安いとも言え高いとも言える。監査人から作業や労力の割には報酬が不足との声も聞くが(そうであれば率直に説明して欲しい)、専門家として尊敬され選ばれた者が十分な調査検討をする関係でいえば、プロフェッショナルとしてのボランティア精神を求めたい。


5.監査報告書の総合評価

① 評価結果(ランク付け)
  14年度の総合A評価は、大阪府・鳥取県・大分県・八王子市の合計4自治体のものであった。鳥取県は1テーマでA評価、大阪府・大分県は2テーマで個別A・Bの総合A、八王子市は2テーマで個別A・Cの総合A評価である。2テーマともA評価を取るというのは至難の業であり、2テーマを調査して、うち1つでも確実にA評価となった大阪府・大分県・八王子市の監査人には拍手を送る。特に、八王子市は同一監査人の3年連続A評価である。「立派」の一語である。
  大阪府は、福祉事業に的を絞り、両テーマともに詳細に具体的な検討を加えた上で問題点の指摘をしており、説得力がある。改善策も具体性があった。鳥取県は、企業局をテーマに選び、独立採算の建前と実質的な意思決定権の矛盾を詳しくとらえている点が出色である。改善策も大胆・詳細で具体的な提言を行っている。大分県は、「補助金の問題点」に監査人の問題意識が良く現れている。補助金の効果を数値で検証する試みや、問題があると思えば現地に赴いて検証する姿勢で一歩抜きん出たものが感じられた。八王子市は、公共用財産の維持管理にコストベネフィットの観点から切り込み、使用価値の低い施設に維持補修費をかける不合理を追及している。それも具体的実例を挙げて個別に検証しているために説得力あふれるものとなっている。業務委託に関する考察など目配りもきいている。
  総合B評価は、Aに一歩及ばずB評価となったが昨年までであればA評価になったであろう青森県・沖縄県・長崎市をはじめ、確実に外部監査としての模範となるものを有している。上記のほか、宮城県・千葉県・福井県・山梨県・三重県・和歌山県・福岡市・旭川市・相模原市・新潟市・豊田市・高知市の8県7市の合計15自治体のものであった。
  総合C評価は、26都道府県24市5区の合計55自治体のものであった。13年度に引き続き、全体のレベルは少しずつ高くなっている。
  総合D評価は、どの個別テーマの報告にもCレベルのものがないということである。7県15市の合計22自治体のものである。
  総合E評価は、埼玉県・高知県・宮崎県・秋田市のものであった。埼玉県は、どれも浅く内容が薄く、メスが全く入っていない。高知県は、そもそも監査の視点、対象選定に問題があり、メインの法的評価が不十分でお墨付きを与えたり、重要点での具体的追求がない。宮崎県は、予備調査の範囲の内容。秋田市もいずれも内容が乏しい。
② まとめ
  以上のとおり、各自治体の監査報告書を評価し、14年度は、A評価が4自治体、B評価が15自治体、C評価が55自治体、D評価が22自治体、E評価が4自治体と平均レベルのC評価に収束した格好である。
  外部監査実施4年間で、広範な対象テーマが監査対象に取り上げられた。そのテーマは一応分類したが、重複する分野にわたるものも多い。自治体が抱える問題領域は広く、今後の新課題は尽きない。既に取り上げられたテーマについては新視点を加え、先例の監査の成果に上乗せして取り組まれることが期待される。監査人の問題意識が極めて重要である。
  監査人が熱心に取り組んでも、結果として私達が拍手を送るようなものにならないことはある。「ツボにはまる」という言葉もあるように、狙いが成功する場合とそうでない場合もある。


6.包括外部監査結果の措置対応と活用

① 監査結果の活用
  外部監査は、監査報告書が提出され、公表されることによって終わるものではない。いかに鋭い監査が行われ、いかに住民にとって有益で有効な意見が監査報告書に提示されても、監査を受けた自治体の首長、議会、あるいは指摘された関係団体やその責任者が、監査の結果を真摯に受け止め、指摘された点について原因を究明し、監査意見に示された是正、改善提言を実際の行政に活かさなければ、外部監査制度は役に立たない。
② 監査結果にもとづく「措置」
  私達は、外部監査がその後の行政に活かされたかについて、13年度“通信簿”から調査を始めた。法252条の38第6項によれば、「監査結果の報告の提出を受けた長、対象団体、各種委員会またはその委員は、監査結果を参考として措置を講じたときは、その旨を監査委員に通知し、監査委員はこの通知事項を公表」しなければならないからである。
 その結果、12・13年度の調査で、過去11年度・12年度の監査結果に対する措置を公表していない自治体があることに驚いた。法的には、監査報告書の指摘事項や意見に対して、行政当局が逐一措置すべき義務はなく、行政・議会・関係団体の判断努力に委ねられている。しかし、監査結果が活かされなければ「行政責任」は果たせないし、市民への「説明責任」も果たすことができない。また、措置を講じても、比較的きめ細かい対応をした自治体と、形式的な対応しかしなかった自治体との差があった。監査対象となった担当部局や団体が監査報告に承服しがたい点があるならば、監査人からの指摘点に対しての「反論」「反応」があって然るべきである。
 自治体が指摘された点や意見に丁寧に対応しないのでは、監査人の労に報いるものではない。また、市民に対しての行政の説明責任を欠くものであり非難に値する。監査報告を受けた自治体は監査結果を真摯に受け止め、迅速かつ確実に改革を実行していく必要がある。


7.外部監査に対する自治体の姿勢

 14年度“通信簿”では、前記のとおり13年度に包括外部監査を実施した全95自治体に対しアンケート調査を行った。大方の自治体は私達の調査に非常に協力的であり、積極的に意見や感想を述べられた(その詳細は“通信簿”の中で紹介した)。
 また、インターネットを通じて各自治体のホームページから監査報告書そのものをダウンロードできる自治体や、真面目に請求すれば無料でコピーを送付してもらえる自治体も年々増えている。積極的に公開していこうという姿勢は良く、歓迎したい。しかし、外部監査の結果を活かしているかどうかは、また別の問題である。


8.外部監査の今後の課題

① 市民にわかる外部監査
  外部監査制度は、平成15年度(2003年度)で5年目であるが、まだ一部を除き監査委員とともに市民の関心から遠い存在にある。外部監査は「市民の眼」「納税者の眼」からの監査として一定の行財政のテーマに深くメスを入れるものである。監査報告書は具体的でわかりやすいものにし、市民の関心をも呼ぶ工夫が求められる。
② 監査人と補助者の選任
  監査人の選任は外部監査の役割を左右する重要な要素である。首長は、選任にあたって選任理由も発表すべきであろう。弁護士会、公認会計士協会、税理士会が自信を持って有能な監査人を推薦できることも必要であろう。監査人選考については、「選考委員会」を設置したり(豊島区)、公募方式を導入している自治体(文京区)もみられる。監査人選任が市民から理解されるために透明性を増し、合議化することも大切である。
③ 行政の措置義務の法定と説明責任
  現行法上、監査結果にもとづく措置は義務付けられておらず、措置が講じられないときは監査委員への通知も監査委員による措置結果の公表もなされないことになる。90日以内に第1次改善措置通知、1年以内に意見を含む全項目について詳細に対応・改善し、措置の有無についての通知を義務付けるべきである。対象部局がどうしても措置を講じられないというのであれば、措置を講じられない項目についてその理由と将来の見通し等を付して対応できない旨を通知し、監査委員はこれも公表すべきである。1年という期間は短すぎることはない。
④ 監査対象の範囲と内容
  行政監査は外部監査の対象とはされていないが、行政の適正・効率性が財務の適正・効率性にかかわっていたり、行政監査と財務監査を峻別しきれない場合が多い。監査人が行政実務に明るくなる努力は必要であるが、行政監査を担当できることも制度化すべきである。
⑤ 監査委員監査の改革と外部監査
  監査委員監査制度には、人選・事務局など人的組織と独立性に課題がある。議会選出監査委員は、歴史的には監査の外部独立性を企図していたが、今では首長の与党会派より選出されるポストとなり行政内部に取り込まれる傾向にある。監査事務局も自治体職員の回り持ち、配転職となって、外部性・独立性がないと批判される。また、監査委員が必ずしも専門的能力や十分な独立的基盤がなく、事務局主導の日常の定期的・形式的監査の処理で手一杯というところも多い。私達は、監査委員がまず本来の「光」と「力」を取り戻すべきと考える。
⑥ 外部監査と行財政改革
  財政がひっ迫し行財政改革が求められ、増税の前に無駄な出費や不合理な支出を少しでもなくすことがこれほどまで求められている時代はない。
  これまでの政治や行財政は、予算獲得や配分決定に熱心であった。しかし、それが「利権」につながっていた。予算の決定・執行・決算により、これからの行政にフィードバックし、検証手続によって税を未来に活かすという視点があまりにも不足していた。この点、監査委員監査も外部監査もまだまだ十分に機能しているとは言えず「弱体」である。監査を行政の事後修正だけでなく、積極的に「攻めの行政」に使うべきである。
 21世紀の自治体運営は予算決定の事前調査・評価の充実と執行途中と事後の評価という検査・検証の手法を強化活用していく以外に正しい進路は選べないであろう。


9.まとめ

 私達の通信簿は「辛口」である。監査人個人への評価ではないにしても、低い評価をされた監査人には了解しがたい点もあろう。しかし、監査人の内部的な努力・苦労はあっても私達には見えない。「素人」の眼で限られた時間内に膨大な報告書を短くまとめコメントする故の限界もある。このような通信簿であるが、「市民」に評価されるということで監査人や自治体も「気を配り」、内容の向上へのインセンティブとなっていると自負している。
 包括外部監査は、監査委員監査の弱点である「市民性(外部性)」と「専門性」を発揮し、監査人が自由なテーマと分析視点で対象を絞り、高度かつ総合的な監査を行い解決の方向を示すことにある。今後、地方分権や市町村合併が進む自治体にあって「説明のできる地方自治」への重要な役割が期待される。

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