解説記事2004年08月03日 【解説】 中小会社の法規制のあり方 第2回 中小会社の定義と中小会社の法理(2004年8月3日号・№077)
連載・解説
中小会社の法規制のあり方
第2回 中小会社の定義と中小会社の法理
筑波大学大学院教授 大野正道
Ⅰ 中小会社の法律上の定義
わが国の会社制度は、商法(明治32年法律48号)において、合名会社、合資会社および株式会社の3種の会社形態が定められており、有限会社法(昭和13年法律74号)で有限会社という会社形態が定められている。現在では、合名会社と合資会社は古くから存在している日本酒や醤油などの醸造会社の老舗に多く見られる様に新規に設立されることは珍しい。これに反して、株式会社と有限会社は、中小会社においても多数利用されており、それぞれ百万社を超えている。両会社形態とも法人格を具備しており、かつ、株主(株式会社)または社員(有限会社)には有限責任の特典が認められており、魅力ある会社形態となっている。すなわち、会社が倒産しても、株主や社員は原則として会社の負う債務を個人の財産で支払う責任を負わないのである。
本来、株式会社とは、上場会社を典型とする公開会社に適した会社形態であると説明されているが、実際には、ほとんどが非公開会社である中小会社によって利用されている会社形態である。そして、その株式は、多くの場合には縁戚関係のある一群の株主集団によって保有されている。有限会社も株式会社と事情は異ならない。これら株主集団または社員集団に親族関係(血族あるいは姻族)がある場合には、一般に、同族会社といっている。もっとも、同族会社という用語は慣用語であり、学術的に会社形態・会社制度を考察する際に使用されることは稀である。
合名会社、合資会社および有限会社は、それぞれの特質を説明するに際して、特別の困難さを感じないが、株式会社については、大会社と中小会社の2つの会社形態があるものとして別々に取り扱うのが便宜であると思う。既に使用しているように、上場会社・公開会社と非上場会社・非公開会社という区分を用いて検討するのも一案である。結局、商法という法律においては、株式会社形態について、その実質に則して明確に分離して定義することがなされていないのである。会社法における大小会社(公開・非公開)区分立法が未だ実現していないことが、この傾向に拍車をかけている。平成17年に予定されている商法改正に期待したいものである。
Ⅱ 株式会社と中小会社
このようにわが国の株式会社制度は、商法という単一の法律において、公開会社と非公開会社の2つの株式会社形態を許容しており、かつ、非公開会社に限定されている有限会社という会社形態も認めているので、極めて複雑な構造になっている。ここで整理すると、公開会社とは、株式会社であって株式の譲渡制限が定款で定められていない会社を意味し、非公開会社とは、株式会社であって株式の譲渡制限が定款に定められている株式会社(商法204条1項但書)および有限会社を意味するものと分類することが可能であろう。
そこで、前者の公開会社を「株式会社」、後者の非公開株式会社および有限会社を一括して「中小会社」と定義して、両形態の会社組織の差異について分析することが考えられる。私の勤務する筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻では、従来の会社法4単位の講義を「株式会社法」3単位、「中小会社法」2単位に分割し、それぞれ専任の教官が講義を担当している。他大学では考えられないまったく新しい試みであるが、平成2年の創設以来、既に16年目に入り多くの有能な人材を育成してきた。この「中小会社法」の講義を一貫して担当してきたのが私である。ただし、公開会社と非公開会社について、「株式会社法」と「中小会社法」の講義に分割し名称を付したのは、企業法学専攻の創設の中心となった故竹内昭夫東京大学名誉教授であり、現在もこの名称を使用し続けている。
中小会社について、既に言及した非公開会社とか閉鎖会社とかという用語を使用するという代案も考えられないわけではないが、本連載においては、便宜上もあって「中小会社」という用語を使用させていただきたい。すでに『中小会社法の研究』(平成9年10月 信山社)という学術論文集を上梓しており、この題名で引き続き改訂版を出したいと考えている。読者にとっても、非公開会社とか閉鎖会社というよりも、中小会社というほうが具体的にイメージしやすいというメリットが存在しているように思われる。
結局、中小会社という用語については、商法上(有限会社法上も)なんらの定義もなく、かつ、条文中においてもまったく使用されていないが、株式の譲渡制限が定款に定められている株式会社と有限会社を意味するものとして、本連載においては、『中小会社』の法律上の定義とする。また、この定義における中小会社について、企業組織上の検討を行う作業を『中小会社法』と総称することとする。一般に、『会社法』という名称の体系書は、その内容のほとんどが「株式会社」に関する説明に限られているが、将来的には「中小会社」に関する検討も必要になるであろう。本連載は、私の長年の研究成果にもとづいて、中小会社について解題するものであり、中小会社法の研究に刺激を与えることになれば幸いである。
Ⅲ 中小会社と準組合法理
1 社団法理の限界
わが国の商法は会社を営利社団法人と定義している(商法52条1項・54条1項)。そして、会社法学の通説、とりわけ鈴木竹雄博士は、会社における法律関係を「社団法理」で把握することを主張する(新版会社法〔全訂第5版〕8頁、平成6年、弘文堂)。
鈴木竹雄博士は次のように説かれている。
「法的形式の問題としては、構成員が相互の契約関係によって直接結合する団体を組合、構成員が団体との間の社員関係により団体を通じて間接的に結合する団体を社団と認めるべきである。組合においては、構成員が契約によって結合するため、各構成員の権利義務は他の全構成員に対する権利義務の形をとり、したがってまた、各構成員は団体の財産上に合有権者としての物権的持分をもっている。これに対して、社団においては、各構成員の権利義務は社員の地位(Mitgliedschaft)という団体に対する法律関係の内容となり、したがってまた、団体の財産も団体自身の所有に属し、構成員は単に観念的な持分を有するにすぎない。団体の構成員間の関係を処理する方法としては、いうまでもなく社団の方が組合よりもはるかに便宜であり、ことに多数の構成員からなる団体では、社団形式によらなければその処理はほとんど不可能である。これに対し少人数からなる団体は、組合形式によっても処理できるが、簡便な処理をしたければ、社団形式をとることも不可能ではない。会社のうちいわゆる人的会社は組合として取り扱いうる団体であるが、法は人的会社についても簡易な処理をすることとしてこれを社団と定めたのである。」(鈴木竹雄・『会社の社団性』商法研究Ⅱ3頁、昭和46年、有斐閣)。
すなわち、社団法理とは、会社における法律関係を会社と社員(株主)間の社員関係として整序し、その法律関係を簡明に規律しようとする学説である。例えば、甲株式会社にn人の社員(株主)が存在するとすれば、甲とn1、甲とn2・・・・という具合に甲とnnまでの合計n個の法律関係、すなわち社員関係が存在することになる。甲株式会社と社員(株主)間の法律関係の内容はまったく同質である。しかし、この社団法理は、典型的な株式会社とされている上場会社・公開会社については妥当であるとしても、中小会社において生ずる法律問題をうまく処理することができない。その理由は極めて単純なことであるが、中小会社(非公開株式会社・有限会社)は、社会学的実態からみて、社団ではないからである。むしろ、中小会社の実態を組合と把握する方が妥当な場合が多いのである。
したがって、中小会社の実態を組合類似のものと考えるべきである。実定法上もこのように理解すべき根拠が全くないわけではない。わが国の会社法(商法および有限会社法)は、前述のように、合名会社、合資会社、株式会社および有限会社の4つの会社形態をともに社団法人としているが、このうち合名会社と合資会社については、「会社ノ内部ノ関係ニ付テハ定款又ハ本法ニ別段ノ定ナキトキハ組合ニ関スル民法ノ規定ヲ準用ス(る)」旨を定めている(商法68条・147条)。このように、会社の内部関係を組合として取り扱うことには全く根拠がないわけではなく、実定法上も容認されていると思われる。
考えてみるに、社団法理では、会社と社員(株主)間の法律関係(社員関係)しか認められないので、株主間に紛争が生じた場合には、その解決に困ることになり、とりわけ中小会社における法律関係を処理することには全く適していない会社法理である。平成2年の会社法改正で、懸案であった1人会社の認容が実現し、中小会社の存在が法律上も認められることになったので、株主間の紛争を処理するためには、どうしても株主相互間に契約関係が存在すること、すなわち、民法上の組合に準じて会社の内部関係を処理することが必要となった。その意味では会社の社団性の理論には多くの疑念がわいてくる。
2 準組合法理の適用
もっとも、商法第68条の文言は、「組合ニ関スル民法ノ規定ヲ準用ス(る)」としているのであって、より正確には、会社の内部関係を組合に準じて規律する準組合法理(quasi-partnership doctorine)の適用を示唆していると解すべきであろう。単純な組合法理では、民法の組合と同様に、社員(組合員)相互間にのみ法律関係を認めるだけであって、会社と社員(組合員)間の法律関係(社員関係)の存在は認められない。例えば、乙株式会社にn人の社員(株主)が存在するとすれば、n1とn2、n1とn3……という具合にn人の社員から2名の組み合わせを作ること、すなわち、nC2=(n×(n-1))/2個の法律関係(組み合わせ)が生ずることになる。社員が5名であれば、(5×4)/2=10の社員相互間の法律関係が生ずるが、乙株式会社との社員関係は一切存在しないことになる。これが厳密な意味における組合法理である。
これに対して、準組合法理では、会社と社員間に社員関係を認めるとともに、社員(株主)相互間においても法律関係の存在を認めるという会社法理論である。例えば、丙株式会社にn人の社員(株主)が存在しているとすると、丙とn1、丙とn2……という具合にn個の社員関係が存在するとともに、nC2=(n×(n-1))/2の社員相互間(株主相互間)の法律関係が存在することになる。商法第52条1項(社団性の規定)の存在を前提にして、後に続く商法第68条を読解するならば、商法第68条の規定は、準組合法理を採用する趣旨を鮮明にしていると考えられる。商法第54条1項の定める「会社の法人性」に照らしても、単純な組合法理を示唆しているとは解しがたい。その意味では、中小会社はあくまでも株式会社・有限会社であって、法律上は民法上の組合ではない、と断ぜざるを得ない。社団性か組合性かをめぐって争われた商法第68条の規定の趣旨は、私見のように理解されるであろう。
Ⅳ 設立における合同行為説と契約説
このように中小会社における社員(株主)相互間に契約関係の存在を認めるためには、会社における基本的な法律関係を定める定款において、その契約関係の存在が認められなければならない。従来、中小会社の内部関係における組合に準ずる法律関係の存在が等閑視されてきた一因には、我が国の会社法学者の怠慢とともに、定款作成行為の法的性格を漫然と合同行為と理解してきた会社法学の通説にも責任の一端があると思う。
合同行為説は、定款作成行為における原始社員(発起人)の目的実現に対する平行的な行為の結果として定款の成立を基礎づけるが、その行為における各社員の同一方向の集積を認めつつも、社員相互間における法律関係の存在は否定する。はたして、通説が金科玉条のように信奉している会社設立における合同行為説は、中小会社に関する限りにおいて、事の実態を正確に反映しているのであろうか。
イギリス1985年会社法14条1項は、基本定款及び通常定款は、それが登記されたとき、各株主が署名捺印し、かつ、そのすべての規定を遵守する旨の条項を記載した場合と同一の範囲において、会社及び株主を拘束すると規定している。本条は、あたかも株主相互間で契約が締結されたかのように考えて、この契約に基づいて定款の拘束力を認めるものである。ただし、会社が独立の法人格を有する以上、会社と株主間(社員関係)においても契約としての法律関係が生じるのは当然である。
このように私会社の定款の効力について契約法的な理論構成がとられているのは、イギリス近代株式会社法の沿革が、19世紀中葉以降、組合が法人的特性ないし属性を漸次獲得してきた歴史といえるのであり、今日でも、株式会社法の基本構造において、依然として組合法的原理に多くを負っているからである。
この点について、小町谷操三博士は、『イギリス会社法概説』(52P)において、「会社は法人であり、社員と全く別個の存在を有するものであるから、会社の準則たる定款を、会社と社員および社員相互間の契約であると見るのは理論上明らかに矛盾である」と述べている。この見解は合同行為説を採用する通説からは当然の事柄を指摘したものであるが、契約説を採用するイギリス法の沿革を全く無視したものと評価できるであろう。(つづく)
中小会社の法規制のあり方
第2回 中小会社の定義と中小会社の法理
筑波大学大学院教授 大野正道
Ⅰ 中小会社の法律上の定義
わが国の会社制度は、商法(明治32年法律48号)において、合名会社、合資会社および株式会社の3種の会社形態が定められており、有限会社法(昭和13年法律74号)で有限会社という会社形態が定められている。現在では、合名会社と合資会社は古くから存在している日本酒や醤油などの醸造会社の老舗に多く見られる様に新規に設立されることは珍しい。これに反して、株式会社と有限会社は、中小会社においても多数利用されており、それぞれ百万社を超えている。両会社形態とも法人格を具備しており、かつ、株主(株式会社)または社員(有限会社)には有限責任の特典が認められており、魅力ある会社形態となっている。すなわち、会社が倒産しても、株主や社員は原則として会社の負う債務を個人の財産で支払う責任を負わないのである。
本来、株式会社とは、上場会社を典型とする公開会社に適した会社形態であると説明されているが、実際には、ほとんどが非公開会社である中小会社によって利用されている会社形態である。そして、その株式は、多くの場合には縁戚関係のある一群の株主集団によって保有されている。有限会社も株式会社と事情は異ならない。これら株主集団または社員集団に親族関係(血族あるいは姻族)がある場合には、一般に、同族会社といっている。もっとも、同族会社という用語は慣用語であり、学術的に会社形態・会社制度を考察する際に使用されることは稀である。
合名会社、合資会社および有限会社は、それぞれの特質を説明するに際して、特別の困難さを感じないが、株式会社については、大会社と中小会社の2つの会社形態があるものとして別々に取り扱うのが便宜であると思う。既に使用しているように、上場会社・公開会社と非上場会社・非公開会社という区分を用いて検討するのも一案である。結局、商法という法律においては、株式会社形態について、その実質に則して明確に分離して定義することがなされていないのである。会社法における大小会社(公開・非公開)区分立法が未だ実現していないことが、この傾向に拍車をかけている。平成17年に予定されている商法改正に期待したいものである。
Ⅱ 株式会社と中小会社
このようにわが国の株式会社制度は、商法という単一の法律において、公開会社と非公開会社の2つの株式会社形態を許容しており、かつ、非公開会社に限定されている有限会社という会社形態も認めているので、極めて複雑な構造になっている。ここで整理すると、公開会社とは、株式会社であって株式の譲渡制限が定款で定められていない会社を意味し、非公開会社とは、株式会社であって株式の譲渡制限が定款に定められている株式会社(商法204条1項但書)および有限会社を意味するものと分類することが可能であろう。
そこで、前者の公開会社を「株式会社」、後者の非公開株式会社および有限会社を一括して「中小会社」と定義して、両形態の会社組織の差異について分析することが考えられる。私の勤務する筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻では、従来の会社法4単位の講義を「株式会社法」3単位、「中小会社法」2単位に分割し、それぞれ専任の教官が講義を担当している。他大学では考えられないまったく新しい試みであるが、平成2年の創設以来、既に16年目に入り多くの有能な人材を育成してきた。この「中小会社法」の講義を一貫して担当してきたのが私である。ただし、公開会社と非公開会社について、「株式会社法」と「中小会社法」の講義に分割し名称を付したのは、企業法学専攻の創設の中心となった故竹内昭夫東京大学名誉教授であり、現在もこの名称を使用し続けている。
中小会社について、既に言及した非公開会社とか閉鎖会社とかという用語を使用するという代案も考えられないわけではないが、本連載においては、便宜上もあって「中小会社」という用語を使用させていただきたい。すでに『中小会社法の研究』(平成9年10月 信山社)という学術論文集を上梓しており、この題名で引き続き改訂版を出したいと考えている。読者にとっても、非公開会社とか閉鎖会社というよりも、中小会社というほうが具体的にイメージしやすいというメリットが存在しているように思われる。
結局、中小会社という用語については、商法上(有限会社法上も)なんらの定義もなく、かつ、条文中においてもまったく使用されていないが、株式の譲渡制限が定款に定められている株式会社と有限会社を意味するものとして、本連載においては、『中小会社』の法律上の定義とする。また、この定義における中小会社について、企業組織上の検討を行う作業を『中小会社法』と総称することとする。一般に、『会社法』という名称の体系書は、その内容のほとんどが「株式会社」に関する説明に限られているが、将来的には「中小会社」に関する検討も必要になるであろう。本連載は、私の長年の研究成果にもとづいて、中小会社について解題するものであり、中小会社法の研究に刺激を与えることになれば幸いである。
Ⅲ 中小会社と準組合法理
1 社団法理の限界
わが国の商法は会社を営利社団法人と定義している(商法52条1項・54条1項)。そして、会社法学の通説、とりわけ鈴木竹雄博士は、会社における法律関係を「社団法理」で把握することを主張する(新版会社法〔全訂第5版〕8頁、平成6年、弘文堂)。
鈴木竹雄博士は次のように説かれている。
「法的形式の問題としては、構成員が相互の契約関係によって直接結合する団体を組合、構成員が団体との間の社員関係により団体を通じて間接的に結合する団体を社団と認めるべきである。組合においては、構成員が契約によって結合するため、各構成員の権利義務は他の全構成員に対する権利義務の形をとり、したがってまた、各構成員は団体の財産上に合有権者としての物権的持分をもっている。これに対して、社団においては、各構成員の権利義務は社員の地位(Mitgliedschaft)という団体に対する法律関係の内容となり、したがってまた、団体の財産も団体自身の所有に属し、構成員は単に観念的な持分を有するにすぎない。団体の構成員間の関係を処理する方法としては、いうまでもなく社団の方が組合よりもはるかに便宜であり、ことに多数の構成員からなる団体では、社団形式によらなければその処理はほとんど不可能である。これに対し少人数からなる団体は、組合形式によっても処理できるが、簡便な処理をしたければ、社団形式をとることも不可能ではない。会社のうちいわゆる人的会社は組合として取り扱いうる団体であるが、法は人的会社についても簡易な処理をすることとしてこれを社団と定めたのである。」(鈴木竹雄・『会社の社団性』商法研究Ⅱ3頁、昭和46年、有斐閣)。
すなわち、社団法理とは、会社における法律関係を会社と社員(株主)間の社員関係として整序し、その法律関係を簡明に規律しようとする学説である。例えば、甲株式会社にn人の社員(株主)が存在するとすれば、甲とn1、甲とn2・・・・という具合に甲とnnまでの合計n個の法律関係、すなわち社員関係が存在することになる。甲株式会社と社員(株主)間の法律関係の内容はまったく同質である。しかし、この社団法理は、典型的な株式会社とされている上場会社・公開会社については妥当であるとしても、中小会社において生ずる法律問題をうまく処理することができない。その理由は極めて単純なことであるが、中小会社(非公開株式会社・有限会社)は、社会学的実態からみて、社団ではないからである。むしろ、中小会社の実態を組合と把握する方が妥当な場合が多いのである。
したがって、中小会社の実態を組合類似のものと考えるべきである。実定法上もこのように理解すべき根拠が全くないわけではない。わが国の会社法(商法および有限会社法)は、前述のように、合名会社、合資会社、株式会社および有限会社の4つの会社形態をともに社団法人としているが、このうち合名会社と合資会社については、「会社ノ内部ノ関係ニ付テハ定款又ハ本法ニ別段ノ定ナキトキハ組合ニ関スル民法ノ規定ヲ準用ス(る)」旨を定めている(商法68条・147条)。このように、会社の内部関係を組合として取り扱うことには全く根拠がないわけではなく、実定法上も容認されていると思われる。
考えてみるに、社団法理では、会社と社員(株主)間の法律関係(社員関係)しか認められないので、株主間に紛争が生じた場合には、その解決に困ることになり、とりわけ中小会社における法律関係を処理することには全く適していない会社法理である。平成2年の会社法改正で、懸案であった1人会社の認容が実現し、中小会社の存在が法律上も認められることになったので、株主間の紛争を処理するためには、どうしても株主相互間に契約関係が存在すること、すなわち、民法上の組合に準じて会社の内部関係を処理することが必要となった。その意味では会社の社団性の理論には多くの疑念がわいてくる。
2 準組合法理の適用
もっとも、商法第68条の文言は、「組合ニ関スル民法ノ規定ヲ準用ス(る)」としているのであって、より正確には、会社の内部関係を組合に準じて規律する準組合法理(quasi-partnership doctorine)の適用を示唆していると解すべきであろう。単純な組合法理では、民法の組合と同様に、社員(組合員)相互間にのみ法律関係を認めるだけであって、会社と社員(組合員)間の法律関係(社員関係)の存在は認められない。例えば、乙株式会社にn人の社員(株主)が存在するとすれば、n1とn2、n1とn3……という具合にn人の社員から2名の組み合わせを作ること、すなわち、nC2=(n×(n-1))/2個の法律関係(組み合わせ)が生ずることになる。社員が5名であれば、(5×4)/2=10の社員相互間の法律関係が生ずるが、乙株式会社との社員関係は一切存在しないことになる。これが厳密な意味における組合法理である。
これに対して、準組合法理では、会社と社員間に社員関係を認めるとともに、社員(株主)相互間においても法律関係の存在を認めるという会社法理論である。例えば、丙株式会社にn人の社員(株主)が存在しているとすると、丙とn1、丙とn2……という具合にn個の社員関係が存在するとともに、nC2=(n×(n-1))/2の社員相互間(株主相互間)の法律関係が存在することになる。商法第52条1項(社団性の規定)の存在を前提にして、後に続く商法第68条を読解するならば、商法第68条の規定は、準組合法理を採用する趣旨を鮮明にしていると考えられる。商法第54条1項の定める「会社の法人性」に照らしても、単純な組合法理を示唆しているとは解しがたい。その意味では、中小会社はあくまでも株式会社・有限会社であって、法律上は民法上の組合ではない、と断ぜざるを得ない。社団性か組合性かをめぐって争われた商法第68条の規定の趣旨は、私見のように理解されるであろう。
Ⅳ 設立における合同行為説と契約説
このように中小会社における社員(株主)相互間に契約関係の存在を認めるためには、会社における基本的な法律関係を定める定款において、その契約関係の存在が認められなければならない。従来、中小会社の内部関係における組合に準ずる法律関係の存在が等閑視されてきた一因には、我が国の会社法学者の怠慢とともに、定款作成行為の法的性格を漫然と合同行為と理解してきた会社法学の通説にも責任の一端があると思う。
合同行為説は、定款作成行為における原始社員(発起人)の目的実現に対する平行的な行為の結果として定款の成立を基礎づけるが、その行為における各社員の同一方向の集積を認めつつも、社員相互間における法律関係の存在は否定する。はたして、通説が金科玉条のように信奉している会社設立における合同行為説は、中小会社に関する限りにおいて、事の実態を正確に反映しているのであろうか。
イギリス1985年会社法14条1項は、基本定款及び通常定款は、それが登記されたとき、各株主が署名捺印し、かつ、そのすべての規定を遵守する旨の条項を記載した場合と同一の範囲において、会社及び株主を拘束すると規定している。本条は、あたかも株主相互間で契約が締結されたかのように考えて、この契約に基づいて定款の拘束力を認めるものである。ただし、会社が独立の法人格を有する以上、会社と株主間(社員関係)においても契約としての法律関係が生じるのは当然である。
このように私会社の定款の効力について契約法的な理論構成がとられているのは、イギリス近代株式会社法の沿革が、19世紀中葉以降、組合が法人的特性ないし属性を漸次獲得してきた歴史といえるのであり、今日でも、株式会社法の基本構造において、依然として組合法的原理に多くを負っているからである。
この点について、小町谷操三博士は、『イギリス会社法概説』(52P)において、「会社は法人であり、社員と全く別個の存在を有するものであるから、会社の準則たる定款を、会社と社員および社員相互間の契約であると見るのは理論上明らかに矛盾である」と述べている。この見解は合同行為説を採用する通説からは当然の事柄を指摘したものであるが、契約説を採用するイギリス法の沿革を全く無視したものと評価できるであろう。(つづく)
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