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解説記事2004年11月22日 【会計実務解説】 討議資料「財務会計の概念フレームワーク」の概要(2004年11月22日号・№091)

実 務 解 説
討議資料「財務会計の概念フレームワーク」の概要
(前)企業会計基準委員会 専門研究員 公認会計士 荻原正佳

はじめに

  企業会計基準委員会は、2004年7月2日に、基本概念ワーキング・グループの作成した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」を、今後の議論の素材とするために公表した。
 この討議資料は、IASB(国際会計基準審議会)やアメリカのFASB(財務会計基準審議会)などが明文化している、いわゆる概念フレームワークの日本版の「たたき台」と言えるもので、今後の基準設定への役立ちとともに、国際的な意見発信のための基盤としての役割も期待されている。
 筆者は基本概念ワーキング・グループに事務局メンバーとして参加しており、その立場から討議資料の概要を紹介するものであるが、内容の解釈にわたる部分については筆者の私見であり、基本概念ワーキング・グループの見解を示したものではないことをお断りしておく。また、本稿は討議資料の網羅的な解説ではないので、討議資料の内容の正確な理解のためには討議資料の原文をお読みいただきたい。

Ⅰ.討議資料の背景と基本的性格

1 概念フレームワークとは何か

 概念フレームワークとは、「首尾一貫した会計基準を導き出すために財務報告の基本目的および基本原理を整合的に規定した体系」と定義でき、いわば会計基準設定のための理論的拠り所といえるものである(脚注1)。
 アメリカでは、FASB(財務会計基準審議会)が創設直後の1973年に概念フレームワーク構築のプロジェクトに着手し、1978年に概念書(Statement of Financial Accounting Concepts)第1号を公表した後、1985年までに概念書第6号までを公表し、2000年に第7号を公表している。また、国際会計基準においては、1989年にIASC(国際会計基準委員会)(脚注2)が「財務諸表の作成・表示に関するフレームワーク」を公表し、基準開発に際しての理論的基礎としてきた。さらに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの各国で、会計基準設定主体が概念フレームワークを公表している。
 日本では、そのような形で明文化された概念フレームワークはこれまで存在しなかったが、国内の会計基準設定や会計実務の中で暗黙のうちに形成されてきた体系はあると考えられる。今回の討議資料は、現在の企業会計の基礎にある前提や概念を要約・整理したものであり、そのような暗黙的な体系を明文化する試みと言える面もある。

2 討議資料作成の経緯
 討議資料の「公表にあたって」で説明されているように、今回の討議資料は以下のような経緯で作成されたものである。
 企業会計基準委員会(以下、「委員会」)では、我が国の会計基準を開発・設定していくにあたり、いわゆる概念フレームワークを明文化する必要性が各方面から指摘されたのを受け、2003年1月に、外部の研究者を中心に一部の委員や事務局メンバーが加わる基本概念ワーキング・グループを組織して、基本概念を整理した研究レポートの公表に向けての検討を委託した。
 基本概念ワーキング・グループは、合計46回の会議で検討を重ねた成果を委員会に報告し、これを受けて、委員会は、それを今後の議論の素材とするために討議資料として公表することにつき、2004年6月22日開催の委員会で承認した。
 なお、その後に行われたシンポジウム等で外部から出されたコメント等を考慮し、特に理解が難しいとの指摘が多かった点や、誤解を生みやすいと判明した点等について9月24日付で表現上の修正が行われている。本稿での引用は、その修正後の文言によっている。

3 討議資料の性格と役割
 本討議資料は、委員会の委託を受けた基本概念ワーキング・グループの検討の成果を、委員会の責任において公表したものであるが、委員会ではその内容について公式の議論を行っておらず、委員会の公式見解を示したものではない。
 討議資料は、国内における将来の会計基準設定の指針を提供することとともに、海外の基準設定主体とのコミュニケーションの手段となるという役割も期待されている。概念フレームワークを明文化する必要性の指摘の中には、明文化された概念フレームワークがないために、海外に向かって日本の会計基準や日本がIASBの基準設定に関して表明する意見の理論的正当性を主張していくことに困難が生じているという認識に基づくものも多かった。その意味で、日本の会計基準とその基本的考え方の理論的基盤を海外に説明するための道具としての役割は、国内基準開発における役割とともに重要と考えられる。

4 討議資料の構成
 討議資料の構成は、FASBやIASBの概念フレームワークとほぼ同様の領域をカバーするものとなっている。具体的に内容を比較してみると下記の表のとおりである。
 下記の対応表では、FASBの概念書のうち第3号、第4号および第7号が欠けているが、第3号は廃止されて第6号に置き換えられており、第4号は非営利組織を対象としたものである。また、第7号「会計上の測定におけるキャッシュフロー情報と現在価値の使用」については、討議資料の「財務諸表における認識と測定」の中に一部対応する部分がある。したがって、討議資料はFASBの概念書の主要領域の大半を扱っていると言ってよい。
 各討議資料のテーマを概観しておくと、最初の「財務報告の目的」は、財務報告制度のあり方を検討する際の前提として、社会から財務報告制度に何が求められているのかを確認している。次の「会計情報の質的特性」は、その財務報告の目的を達成するに当たって、会計情報が備えるべき特性を論じたものである。その次の「財務諸表の構成要素」は、具体的には、資産・負債・純資産・収益・費用・純利益・包括利益を指しており、これらを特定して定義を与えることを通じて、財務報告の対象とすべき事象を明確化している。最後の「財務諸表における認識と測定」は、財務諸表の各種構成要素を財務諸表に計上するタイミングと、それらの構成要素に与えられる測定値の意味を記述している。


Ⅱ.各討議資料の概要

1 財務報告の目的

(1)ディスクロージャー制度と財務報告の目的
  討議資料「財務報告の目的」では、最初に、ディスクロージャー制度と財務報告の目的について述べている。ここでの議論は、企業経営者と投資家との間に情報の非対称性があるという基本認識から出発している。すなわち、企業の経営者の方が投資家よりも多くの情報を持っており、投資家には公表された情報しか与えられないという非対称性がある。企業に関する情報の中で公表される部分が少ないと、この非対称性が非常に大きくなる。
  ディスクロージャー制度は、その非対称性を緩和するために経営者による情報開示を促進することを目的としたものだと言える。そうした考え方に基づいて、討議資料では、経営者に開示が求められるのは投資のポジションとその成果に関する情報であり、特にその投資の成果をあらわす利益情報が重要であると述べている。利益情報が重要であるという意味は、企業価値の評価をする場合に、貸借対照表と損益計算書の両方を使って評価するということである。いわゆる資産・負債アプローチに関して、バランスシートだけで企業価値の評価ができるようにするのを理想とするような観念が一部にあるように見受けられるが、この討議資料では、損益計算書と貸借対照表の両方が相俟ってはじめて企業評価ができるという考え方に立っている。
(2)会計基準の役割
  次に、会計基準の役割について述べているが、要約すれば、経営者の側にも情報を自発的に開示する誘因は存在しているが、虚偽情報の排除や情報の等質性確保のために最小限のルールが必要だということである。
  前述の情報の非対称性に関して、経済学では中古車市場の話がよく引き合いに出される。中古車の中には、事故を起こしたような傷物も混じっており、それを見分ける材料がないと、買手は危険回避のため、すべて傷物だという前提で買いに来ることになり、傷物でない車を売ろうとしている売手は、適正な価格で売却できないおそれがある。したがって、むしろ傷物でないことを積極的に証明する情報を自分から開示するインセンティブがある。不都合な情報を隠すことへの誘因もあるが、適切な開示をしない者は何か弱みがあって隠していると見られることになる。このようなメカニズムにより、強制がなくても一定の情報を自発的に開示する誘因が経営者の側にも存在するが、虚偽情報排除と標準化のために、最小限のルールは必要であり、そのために会計基準という統一的なルールが存在するというのが、ここでの基本認識となっている。
(3)各当事者の役割
  第3に、各当事者の役割について述べている。ここでは、投資家の自己責任原則を前提とした、投資家、経営者、監査人の三者の役割を示している。企業価値の評価をするのはあくまで投資家の役割であって、経営者は投資家がそのような企業価値評価をするために必要な情報・事実の開示を行い、監査人はその会計情報に対して保証を付与する、という枠組みで整理されている。
  この考え方は、企業価値そのものを開示するような財務報告を理想とする考え方に対し、財務報告は投資家が企業価値を推定するための情報を提供するものであり、企業価値の推定値そのものの開示を目標とすべきではないという結論を導くことになる。
  なお、投資家のレベルに関して、討議資料では、一定以上の分析能力を持った(洗練された)投資家を情報の主要な受け手として想定している。これは、市場における情報仲介者の存在により、洗練されていない投資家にも会計情報が効率的に伝播すると考えられるからである。
(4)会計情報の副次的な利用
  最後に、会計情報の副次的な利用について述べている。会計情報の副次的な利用とは、会計情報が、前述のような投資家への情報提供という財務報告の目的以外に、企業関係者の間の私的契約を通じた利害調整や公的規制(商法による配当制限、税務申告制度、金融機関の自己資本比率規制など)に利用されることを指している。討議資料では、「会計情報が副次的な用途にも利用されている事実は、会計基準の設定・改廃する際の制約となることがある」と述べている。会計情報の副次的な利用者は、それぞれの目的に応じて、ディスクロージャー制度で開示される会計情報を加工・修正して利用するが、会計基準の設定・改廃がそれに関わるコストを増大させるなどの影響を及ぼすことがあるため、そのような影響に対する考慮も必要という考えを示したものと考えられる。

2 会計情報の質的特性
(1)意思決定有用性とそれを支える下位の特性
  討議資料「会計情報の質的特性」では、関係図で示しているように、「意思決定有用性」、すなわち、投資家の意思決定に役立つということを最上位の概念としている。財務報告の目的は、企業価値評価の基礎となる情報、つまり投資家が将来キャッシュフローを予測するのに役立つ企業成果等を開示することであり、この目的を達成するにあたって会計情報に求められる最も基本的な特性が意思決定有用性である。
  しかし、これだけでは具体性や操作性に欠け、将来の基準設定の指針として不十分であるため、これを支える下位の特性として、「意思決定との関連性」、「内的な整合性」、「信頼性」の3つを具体化して整理するとともに、それらの間の関係を記述している。
(2)意思決定との関連性
  意思決定の関連性とは、「会計情報が将来の投資の成果の予測に関する内容を含んでおり、企業価値の推定を通じて投資家による意思決定に積極的な影響を与えて貢献すること」と定義されている。
  意思決定との関連性を支えるものとして、「情報価値の存在」と「情報ニーズの充足」の2つの要素を挙げているが、「情報価値」とは、投資家の予測や行動が当該情報の入手によって改善されることをいう。情報価値の有無は実証研究等によって示されることになる。しかし、会計基準を設定する際には、まだ導入していない基準に基づく会計情報の情報価値は確認できないことも多い。そこで、厳密な意味での情報価値の存在が確認できなくても、投資家からの要求に応えるために会計基準の設定・改廃が行われることもある。このように、投資家からのニーズを情報価値を推定する材料として考えるという意味で、「情報ニーズの充足」を厳密な意味での「情報価値の存在」とは別の特性として取り上げている。
(3)内的な整合性
  内的な整合性とは、「ある会計情報が会計基準全体を支える基本的な考え方と矛盾しないルールに基づいて生み出されていること」と定義されている。内的な整合性を質的特性として掲げている点は、この討議資料(「会計情報の質的特性」)の最大の特徴といえる。
  会計基準は、少数の基礎概念に支えられた一つの体系をなしており、それが実際に利用されて定着している事実は、その体系のもとで有用な情報が提供されてきた証拠とみなすこともできる。特別な反証のないかぎり、その体系性を損なわない基準に依拠していることが、有用な会計情報の質的特性と考えられることになる。
  環境条件が大きく変化していない場合には、既存の会計基準の体系と整合的な会計基準は有用な情報を生み出すものと推定できるので、内的な整合性は会計基準を設定する際の判断規準として特に重要となる。他方、環境条件が大きく変化した場合には、旧来の環境条件に適合した会計基準との整合性を問うことの意味が失われるので、投資家の情報ニーズ等に照らして、新たな環境に適合する会計基準の体系を模索することとなる。
  討議資料において、内的な整合性に独立した地位を与えたのは、情報価値や情報ニーズを直接に確認できるケースが限られるとすれば、意思決定との関連性と信頼性だけでは有用な会計情報の特性を記述するのが難しいという考えによるものである。新たな会計基準による情報の価値が事前にはわからない場合、内的な整合性は情報価値を推定する補完的な役割を果たすことにもなる。
(4)信頼性
  信頼性とは、「会計情報が信頼に足る情報であること」と定義されている。
  信頼性を支える特性として、中立性、検証可能性、表現の忠実性が挙げられている。中立性は、一部の関係者の利害だけを偏重していないこと、検証可能性は、測定者の主観に左右されない事実に基づいていること、表現の忠実性は、事実と会計上の分類項目との対応関係が明確であること、と説明されている。
(5)海外との比較における特徴点
  討議資料「会計情報の質的特性」に関して海外との比較における特徴点としては、まず、前述のように、「内的な整合性」を意思決定有用性を支える3つの特性の1つとして明示していることが挙げられる。
  第二の特徴点として、比較可能性について記述していないという点がある。信頼性を支える特性として前述した表現の忠実性は、「同じものは同じように表現し、違うものは違うように表現する」ということであるが、それはまさしく比較可能性の本来的な意味と同じであり、比較可能性はこれに包摂されるのではないかという議論があった。また、比較可能性を強調しすぎると、会計事実の異質性を無視した会計処理の過度の画一化につながりかねないという懸念もあり、これらの議論を踏まえて、比較可能性を記述しないこととされたものである。海外の概念フレームワークで言及されている特性のうち、記述が省かれているものとして、このほかに、理解可能性、重要性、コストとベネフィットなどがあるが、これらについては自明であるためと説明されている。


3 財務諸表の構成要素
(1)財務諸表の構成要素
  討議資料「財務諸表の構成要素」では、7つの構成要素を特定して定義している。貸借対照表の構成要素として、資産・負債とそれらの差額である純資産、損益計算書の構成要素として、収益・費用とそれらの差額である純利益、さらに、これらに加えて包括利益が定義されている。
  純利益には従来どおりの独立した地位が与えられている。現時点までの実証研究の成果によると、包括利益の情報は純利益の情報を超えるだけの情報価値を有しているとはいえない。これに対し、純利益の情報は長期にわたって投資家に広く利用されており、その有用性を支持する経験的な証拠も確認されているからである。
  収益・費用の定義は、資産・負債の増減に直接結びつけるのではなく、純利益を定義して、収益と費用は純利益を増減される項目として定義するという構造になっている。包括利益は、純資産の期間差額として定義されている。
(2)貸借対照表における構成要素
  まず、貸借対照表における構成要素である資産と負債の定義であるが、基本的には、海外での定義と同様であり、いわゆる資産・負債アプローチで言っている定義と類似している。資産については「報告主体が支配している経済的資源」、負債については「その経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務」という形で定義している。いずれの定義にも「またはそれらの同等物」という文言が含まれている。
  純資産は、文字どおり資産と負債の差額であり、海外のフレームワークではこの差額は資本(equity)と定義されているが、今回の討議資料では、資本を純資産と区別している。討議資料の中では、純資産は資本とその他の要素に分けられ、資本とされるのはいわゆる払込資本(資本金と資本剰余金)や純利益の累積(利益剰余金)であり、それ以外の純資産は「その他の要素」となる。具体的には、少数株主持分、新株予約権、その他の包括利益の累積額、繰延収益などが「その他の要素」に含まれることになる。
  資本は純利益に対応し、純資産は包括利益に対応するという関係にある。
(3)損益計算書における構成要素
  損益計算書における構成要素は、純利益の概念を中心にして定義されている。純利益の定義(第9項)では、「特定期間の期末までに生じた純資産の変動額のうち」として、資産・負債の変動と関連づけているが、この定義の中でキーになっているのは「リスクから解放された企業活動の成果」という概念である。
  この「(投資の)リスクからの解放」の意味については、討議資料「財務諸表における認識と測定」の中でも補足説明が行われており、投資の目的にてらして不可逆的な成果が得られた状態を指すものと説明されている。事業投資については、事業のリスクに拘束されない資産を獲得したとき、言い換えれば、事業投資のプロジェクトから分離した独立の資産(キャッシュ)を獲得したとみなすことができるときに、リスクから解放されるものと考えられている。これは「実現」の概念と類似しているが、実現の意味については多様な解釈があり、討議資料では、混乱を避けるため「実現」という表現を使用しなかったとの説明がなされている。
  なお、第9項の純利益の定義における「純資産の変動額」の後のカッコ書きは、資本取引およびそれに準ずるものは除くという意味であり、「報告主体の所有者に帰属する部分」というのは、少数株主損益を除くという意味である。
  このような純利益の概念に基づいて、それを増減させる項目として収益と費用を定義する形になっている。なお、FASBの概念フレームワークでは、収益(revenues)と利得(gains)、費用(expenses)と損失(losses)をそれぞれ区別しているが、この討議資料では、それらを細分して独立の要素とみなければならないほどの根源的な相違があるとは考えられないとし、定義上の区別はしていない。
(4)包括利益
  包括利益は、「特定期間における純資産の変動額」のうち、資本取引およびそれに準ずる取引によらない部分という形で定義されている。ここでの定義では、少数株主損益も包括利益に含まれることになる。
  包括利益と純利益との関係は、次の式で説明できる(①と②を合わせて「その他の包括利益」と呼ぶこともある)。
純利益 = 包括利益 
      -①リスクから解放されていない部分 
      +②過年度に計上された包括利益のうち当期中に投資のリスクから解放された部分
      -③少数株主損益
 包括利益を構成要素の一つとしたのは、海外の概念フレームワークにおける概念との関係を説明しやすくするのが主目的であり、実際に包括利益を開示するかどうかは別問題である。アメリカでも、包括利益の概念自体は1980年代に公表された概念書で示されていたが、包括利益の開示が会計基準に採用されたのは1997年である。この例にも現れているように、概念フレームワークで包括利益の定義を行うことと包括利益の開示を要求することとは別個の問題である。
(5)海外との比較における特徴点
  財務諸表の構成要素について、海外との比較における最大の特徴点は、純利益を「リスクからの解放」という概念によって直接定義していることである。収益と費用は、この純利益の概念を用いて定義されている。
  資産・負債の定義については、海外の概念フレームワークと類似したものと考えられる。ただし、財務諸表の役割に適合するものに限るという記述が加えられており、財務諸表の構成要素は、あくまで財務諸表の持っている役割(すなわち、投資のポジションと成果の開示)を果たすものに限定される。いわゆる自己創設のれんは、この観点から資産には含まれないこととなる。
  前述のように、資本と純資産とを概念上区別していることも大きな特徴である。純利益と資本、純資産と包括利益がそれぞれ対応する関係になっている。

4 財務諸表における認識と測定
(1)財務諸表における認識と測定
  討議資料「財務諸表における認識と測定」は、測定について述べている部分が大半であるが、最初の方で「構成要素の認識に関する一般的な制約」について述べている。認識に関する部分は、財務諸表の構成要素の計上のタイミングを扱っており、測定の部分は、資産・負債・収益・費用の主な測定方法を扱っている。測定については、ストック価値の直接的な表現という観点と、投資の成果の計算手段という観点の両面から検討されている。
(2)資産・負債の測定
  資産の測定と負債の測定に関して、代表的な測定方法を、資産については5種類(取得原価、市場価格、割引価値、入金予定額、被投資企業の純資産に基づく額)、負債については4種類(支払予定額、現金受入額、割引価値、市場価格)、挙げている。これは、すべての測定方法を網羅しているということではない。現行の会計基準の中で実際に採用されている測定方法の中には、例えば、退職給付引当金のように簡単には説明しにくいものもある。この討議資料は、一般性のある代表的な測定方法を説明したものである。
(3)収益・費用の測定
  収益の測定と費用の測定については、どういうものに着目するかというので、それぞれ収益と費用を4つずつの測定方法を挙げている。そのうち3つについては収益と費用とで同様の内容(①交換、②市場価格の変動、③契約の部分的な履行)であるが、収益の方の4番目にある「被投資企業の活動成果」は、持分法投資損益などに適用される。また、費用の方の4番目の「利用の事実に着目」の代表例としては、減価償却がある。
(4)海外との比較における特徴点
  「財務諸表における認識と測定」に関して、海外の概念フレームワークとの比較における特徴点としては、次の点が挙げられる。
① 財務報告の目的との関係を明確化していること
② 資産・負債の測定値の意味づけを、ストックとしての評価という意味合いだけでなくて、利益計算の上からも検討して記述していること
③ 測定基準の混在(要するに原価と時価との混在)について、いずれかに統一するのがよいという前提ではなく、財務報告の目的との関連で必要があれば混在させるということをむしろ肯定的に説明していること
(以上)

脚注
1 企業財務制度研究会「概念フレームワークに関する研究」(2000年)の「はじめに」から引用。
2 2001年に機構改編によりIASB(国際会計基準審議会)となった。

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