解説記事2005年08月29日 【ニュース特集】 資本の部が純資産の部に変更・貸借対照表の表示を見直し(2005年8月29日号・№128)
ASB・純資産の部の表示に関する会計基準案等を公表
資本の部が純資産の部に変更
貸借対照表の表示を見直し
企業会計基準委員会(ASB)は8月10日、企業会計基準公開草案第6号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第9号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(案)」を公表した(12頁参照)。10月11日まで意見募集した後、年内を目処に正式決定する予定だ。適用時期については、平成18年4月1日以後開始事業年度からとされているが、会社法施行日と異なる場合には見直すことも示唆している。今回の特集では、公開草案の概要をお伝えする。
純資産の部は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分
平成16年2月に公表されている企業会計基準公開草案第3号「ストック・オプション等に関する会計基準(案)」では、ストック・オプションを付与した場合には、従業員等からのサービスの取得に応じ、費用として会計処理することとされており、ストック・オプションに対応する金額の貸借対照表上の表示については、負債の部と資本の部の中間に独立した項目として計上することが提案されている。しかし、表示区分については、議論の多い部分であるため、同委員会では、貸借対照表表示検討専門委員会を設置し、検討してきたものである。また、平成9年の連結財務諸表原則の改訂など、資本の部に対する考え方の変更や中間区分の設定が行われる中、国際的な動向も含め、貸借対照表全体を見直す必要があるとの判断もあったようだ。
新株予約権などが変更
今回の公開草案で提案されている主な変更点は、①新株予約権、②少数株主持分、③繰延ヘッジ損益の表示区分であり、その他は名称の変更といえる。以下、概要をみると、まず、貸借対照表については、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権(及び少数株主持分)に区分することになる(右頁参照)。考え方としては、貸借対照表上、資産性又は負債性をもつものを資本の部又は負債の部に記載し、これらに該当しないものを資産と負債の差額として純資産の部に記載することとしている。このため、新株予約権や少数株主持分は純資産の部に区分して記載することになっている。
新株予約権については、従来、権利行使の有無が確定するまでの間、仮勘定として負債の部に計上することとされているが、返済義務のある負債ではないため、今回の取扱いとされている。また、少数株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属していない部分であり、返済義務のある負債でもなく、連結財務諸表における親会社株主に帰属するものではないため、負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示することとされている。しかし、公開草案では、国際的な動向に合わせ独立した中間区分を設けないこととしため、純資産の部に記載することになっている。
繰延ヘッジ損益については、従来、損益計算の観点から資産の部又は負債の部に計上されているが、資産性又は負債性を有しない項目については、純資産の部に記載するという考え方から純資産の部に計上することとされている。ただし、借受金や未決算勘定、割賦未実現利益、負ののれん、修繕引当金などについては、従来どおりの取扱いとしている。なお、繰延ヘッジ損益については、純資産の部に計上されることにより、税効果会計の対象となる。このため、繰延ヘッジ損益に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を控除して計上することが必要になる。
現行の会計基準等による場合との主な相違
現行と公開草案との比較
(※)(公開草案の)連結貸借対照表において、子会社の個別貸借対照表上、純資産の部に直接計上されている評価・換算差額等は、持分比率に基づき親会社持分割合と少数株主持分割合とに按分し、親会社持分割合は当該区分において少数株主持分割合は少数株主持分に含めて記載する。
株主資本はどうなる?
株主資本については、従来と同じく、資本金、資本準備金及び利益剰余金に区分する。
なお、新株予約権は、株主とは異なる新株予約権者との直接的な取引であること、少数株主持分は、親会社株主に帰属するものではないため、株主資本とは区別している。
また、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、為替勘定調整勘定などの評価・換算差額等は、払込資本でなく、かつ、未だ当期純利益に含められていないことから、株主資本以外の項目とされている。
加えて、個別貸借対照表上については、資本剰余金は、資本準備金及びその他資本剰余金に区分する。従来、その他資本剰余金については、資本金及び資本準備金の取崩によって生ずる剰余金や自己株式処分差益等が区分表示されていたが、8月30日にも公表される予定の株主資本等変動計算書(仮称)が作成されることになれば、当期の変動状況は把握することができるため、その他資本剰余金の内訳は示さなくてもよいことになっている。
また、利益剰余金は、利益準備金、任意積立金等及びその他利益剰余金に区分することになる。従来、利益剰余金は、利益準備金、任意積立金、当期未処分利益(当期未処理損失)に区分されていたが、会社法改正により、決算日後の利益処分に限らず、剰余金の配当が可能になるため、「当期未処分利益」に代えて「その他利益剰余金」として表示することになっている。
COLUMN
ROEの算定方法が変更に!?
今回の改正により、ROE(株主資本利益率)などの指標の算定方法も変更になりそうだ。ROEについては、当期純利益を、前期及び当期の株主資本の平均値で除したもの(下記参照)。株主資本を元に1年間でどれだけの利益を得ていたのかを見る企業の経営効率を測るための指標である。
ここでいう株主資本は、資本金、資本準備金、利益準備金及びその他剰余金で構成されている。逆に今回の改正によれば、株主資本からその他剰余金の部分が除かれることになる。このため、株主資本を使った指標については、見直される可能性が大きいわけだ。
企業会計基準委員会によれば、貸借対照表の表示が変更されることにより、ROEなどの指標の算定方法に影響を与えることは間違いないが、算定方法を変えるのかといった点はアナリストや投資家が行うものであるとのコメントを寄せている。
【計算式】
ROE(株主資本利益率)=当期純利益/{(前期末株主資本+当期末株主資本)/2}×100(%)
資本の部が純資産の部に変更
貸借対照表の表示を見直し
企業会計基準委員会(ASB)は8月10日、企業会計基準公開草案第6号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第9号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(案)」を公表した(12頁参照)。10月11日まで意見募集した後、年内を目処に正式決定する予定だ。適用時期については、平成18年4月1日以後開始事業年度からとされているが、会社法施行日と異なる場合には見直すことも示唆している。今回の特集では、公開草案の概要をお伝えする。
純資産の部は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分
平成16年2月に公表されている企業会計基準公開草案第3号「ストック・オプション等に関する会計基準(案)」では、ストック・オプションを付与した場合には、従業員等からのサービスの取得に応じ、費用として会計処理することとされており、ストック・オプションに対応する金額の貸借対照表上の表示については、負債の部と資本の部の中間に独立した項目として計上することが提案されている。しかし、表示区分については、議論の多い部分であるため、同委員会では、貸借対照表表示検討専門委員会を設置し、検討してきたものである。また、平成9年の連結財務諸表原則の改訂など、資本の部に対する考え方の変更や中間区分の設定が行われる中、国際的な動向も含め、貸借対照表全体を見直す必要があるとの判断もあったようだ。
新株予約権などが変更
今回の公開草案で提案されている主な変更点は、①新株予約権、②少数株主持分、③繰延ヘッジ損益の表示区分であり、その他は名称の変更といえる。以下、概要をみると、まず、貸借対照表については、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権(及び少数株主持分)に区分することになる(右頁参照)。考え方としては、貸借対照表上、資産性又は負債性をもつものを資本の部又は負債の部に記載し、これらに該当しないものを資産と負債の差額として純資産の部に記載することとしている。このため、新株予約権や少数株主持分は純資産の部に区分して記載することになっている。
新株予約権については、従来、権利行使の有無が確定するまでの間、仮勘定として負債の部に計上することとされているが、返済義務のある負債ではないため、今回の取扱いとされている。また、少数株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属していない部分であり、返済義務のある負債でもなく、連結財務諸表における親会社株主に帰属するものではないため、負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示することとされている。しかし、公開草案では、国際的な動向に合わせ独立した中間区分を設けないこととしため、純資産の部に記載することになっている。
繰延ヘッジ損益については、従来、損益計算の観点から資産の部又は負債の部に計上されているが、資産性又は負債性を有しない項目については、純資産の部に記載するという考え方から純資産の部に計上することとされている。ただし、借受金や未決算勘定、割賦未実現利益、負ののれん、修繕引当金などについては、従来どおりの取扱いとしている。なお、繰延ヘッジ損益については、純資産の部に計上されることにより、税効果会計の対象となる。このため、繰延ヘッジ損益に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を控除して計上することが必要になる。
現行の会計基準等による場合との主な相違
項目 | 現行 | 公開草案 |
(連結)貸借対照表の区分 | 資産の部、負債の部、(少数株主持分)及び資本の部に区分する | 資産の部、負債の部及び純資産の部に区分する |
(連結)貸借対照表の純資産の部(資本の部) | 資本の部は、資本金、資本剰余金、利益剰余金及びその他の項目に区分する | 純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権(及び少数株主持分)に区分する |
個別貸借対照表におけるその他資本剰余金の区分 | 資本金及び資本準備金減少差益や自己株式処分差益等その内容を示す科目で表示する | 内訳を表示しない |
個別貸借対照表における利益剰余金の区分 | 利益準備金、任意積立金及び当期未処分利益(当期未処理損失)に区分する | 利益準備金、任意積立金等及びその他利益剰余金に区分する |
繰延ヘッジ損益 (1)表示 | 資産の部又は負債の部 | 純資産の部の評価・換算差額等 |
(2)税効果 | 税効果を調整しない | 税効果を調整する |
(3)資本連結 | 親会社の子会社に対する投資と相殺消去される子会社の資本に含まれない | 親会社の子会社に対する投資と相殺消去される子会社の資本に含まれる |
新株予約権の表示 | 負債の部 | 純資産の部 |
少数株主持分の表示 | 負債の部と資本の部の中間における独立の項目 | 純資産の部 |
現行と公開草案との比較
(※)(公開草案の)連結貸借対照表において、子会社の個別貸借対照表上、純資産の部に直接計上されている評価・換算差額等は、持分比率に基づき親会社持分割合と少数株主持分割合とに按分し、親会社持分割合は当該区分において少数株主持分割合は少数株主持分に含めて記載する。
株主資本はどうなる?
株主資本については、従来と同じく、資本金、資本準備金及び利益剰余金に区分する。
なお、新株予約権は、株主とは異なる新株予約権者との直接的な取引であること、少数株主持分は、親会社株主に帰属するものではないため、株主資本とは区別している。
また、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、為替勘定調整勘定などの評価・換算差額等は、払込資本でなく、かつ、未だ当期純利益に含められていないことから、株主資本以外の項目とされている。
加えて、個別貸借対照表上については、資本剰余金は、資本準備金及びその他資本剰余金に区分する。従来、その他資本剰余金については、資本金及び資本準備金の取崩によって生ずる剰余金や自己株式処分差益等が区分表示されていたが、8月30日にも公表される予定の株主資本等変動計算書(仮称)が作成されることになれば、当期の変動状況は把握することができるため、その他資本剰余金の内訳は示さなくてもよいことになっている。
また、利益剰余金は、利益準備金、任意積立金等及びその他利益剰余金に区分することになる。従来、利益剰余金は、利益準備金、任意積立金、当期未処分利益(当期未処理損失)に区分されていたが、会社法改正により、決算日後の利益処分に限らず、剰余金の配当が可能になるため、「当期未処分利益」に代えて「その他利益剰余金」として表示することになっている。
COLUMN
ROEの算定方法が変更に!?
今回の改正により、ROE(株主資本利益率)などの指標の算定方法も変更になりそうだ。ROEについては、当期純利益を、前期及び当期の株主資本の平均値で除したもの(下記参照)。株主資本を元に1年間でどれだけの利益を得ていたのかを見る企業の経営効率を測るための指標である。
ここでいう株主資本は、資本金、資本準備金、利益準備金及びその他剰余金で構成されている。逆に今回の改正によれば、株主資本からその他剰余金の部分が除かれることになる。このため、株主資本を使った指標については、見直される可能性が大きいわけだ。
企業会計基準委員会によれば、貸借対照表の表示が変更されることにより、ROEなどの指標の算定方法に影響を与えることは間違いないが、算定方法を変えるのかといった点はアナリストや投資家が行うものであるとのコメントを寄せている。
【計算式】
ROE(株主資本利益率)=当期純利益/{(前期末株主資本+当期末株主資本)/2}×100(%)
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