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解説記事2005年11月21日 【編集部解説】 航空機リース訴訟、課税庁が上告を断念!(2005年11月21日号・№139)

解説
航空機リース訴訟、課税庁が上告を断念!
課税当局は一般的否認規定の導入を否定するが?

text T&Amaster編集部 佐治俊夫


 国税庁は、11月11日、航空機リース訴訟の名古屋高裁での控訴棄却事件について、上告断念を発表した(本誌9頁参照)。航空機リース訴訟については、名古屋高裁の上記控訴審判決が取り付く島がないものであった(本誌No.138(2005.11.14)20頁参照)ため、課税庁の(上告への)対応が注目されていた。
 本誌記者は、上告断念を発表する4日前の11月7日に東京高裁で開かれた別件航空機リース訴訟の第一回口頭弁論を取材(傍聴)していた。静岡地裁での敗訴を受けた控訴人(課税庁)は、控訴審を争う姿勢を見せており、判決では4連敗(名古屋地裁・津地裁・静岡地裁・名古屋高裁)中の課税庁ではあったが、課税庁側の訴訟断念の最終判断は、少なくとも、東京高裁判決を待つものと感じていた。その意味で、課税庁の上告断念は、あっけない幕切れであった。
 航空機リース・スキームは、「レバレッジドリース」の代表的なものとして、税の実務家には商品が知られている。その商品の意義については、単に租税回避商品として、片付けられるものではない(本誌No.105(2005.3.7)14頁参照)が、課税庁は「租税回避スキーム」との認識を明言しており、航空機リース訴訟での課税庁の上告断念(敗北)は、「租税回避スキーム」への対応の再検討を迫られるものである。
 
1 立法的対応で勝負あった!

 航空機リース訴訟についての課税庁側の敗北には、いくつもの予兆があった。その代表的なものが、平成17年度税制改正における「民法組合等に係る損失規制」である(本誌No.093(2004.12.6)30頁参照)。訴訟(司法による解釈)で勝つ見込みが高ければ、行政の手を自ら制限しかねない立法的な対応は控えたであろうことから、立法当局を中心に、本件訴訟の行方を悲観的に受け止めていたことは容易に察せられた。しかも、「民法組合等に係る損失規制」は、初の司法判断である名古屋地裁判決(2004.10.28)直後には、検討が明るみにされていた。負けた場合の対応が先に立法的に対応されており、傍目には、課税庁としても負けを覚悟しているものとも窺えた。
 しかし、訴訟を断念できない状況であったことも確かである。同種の案件が各地で表面化してきたし、船舶リースなど類似のスキームが存在する。最高裁の判断を待っている映画フィルムリース訴訟もある。名古屋地裁の担当裁判長(加藤幸雄裁判長)は、第一次的に私法によって解釈することを一貫して判示しており、その後の判決も加藤裁判長の判断を引用したものとなっているが、映画フィルム訴訟の判示などからすれば、このような判断は必ずしも、全ての裁判官にあてはまるものではない。

2 議論の前提が異なる課税庁の追加主張

 形式的には民法上の組合として締結された契約を、利益配当契約として課税関係を処理することにはかなりの無理がある。これまでに判決言渡しのあった各地裁では、「不動産所得か雑所得か?」あるいは、「民法上の組合契約か否か?」という争点で、航空機リース訴訟は争われてきた。個人投資家が節税メリットを享受するためには、民法上の組合契約でなければ、その意思が実現できないものであり、民法上の組合契約書は、個人投資家の意思と合致するものであった。民法上の契約を否定することは、「処分証書の法理」からしても難しい。当事者の選択した法的手段・法的形式に基づく判断を重視する名古屋地裁(加藤裁判長)の下では尚更である。
 課税庁は、名古屋高裁での控訴審において、「被控訴人らは、本件航空機の所有権を取得していないし、また、実質的には本件航空機の代金を支払っていない。」と追加主張した。映画フィルムリース訴訟との共通点を意識した主張であり、名古屋地裁の「処分証書の法理」から映画フィルムリースの「契約無効(実質課税)」への争点の移行を意図するものであった。しかし、名古屋高裁は、この追加主張を課税庁の意図するとおりには受け止めていない。課税庁の主張は、原審での主張からすると唐突で、原審までの主張との整合性をとることが難しいものであった。原審(名古屋地裁)で「本件各業務執行会社が本件各航空機を単独所有しているというほかない。」との主張を行ってきたのに、控訴審(名古屋高裁)では、「航空機の所有権は民法上の組合にはなく、実質的には、本件航空機の購入元が所有し続け」と追加的に主張したのである。課税庁は追加調査の結果としているが、被控訴人からは課税庁の論理の破綻が指摘されていた。
 課税庁は類似点の多い映画フィルムリース訴訟をきっかけに、争点の変更を試みたが、映画フィルムが実質的には興行権という無形資産であるのに対し、航空機が有形資産であり、所有というものがみえやすかったこと、資金・権利が循環的であった映画フィルムに比して、航空機リーススキームは、各契約が民法上の組合との間で締結されていたこと、などが原因と想定されるが、名古屋高裁は上記の「追加の主張」を新しい争点とは受け止めていなかった。

3 課税庁を決断させた東京高裁の訴訟指揮!

 11月7日に、東京高裁で第1回口頭弁論が開かれた原審は、7月14日の静岡地裁判決である。
 静岡地裁では、平成17年1月の口頭弁論の終結後4月以上経過した5月23日に「原告らは、本件航空機の所有権を取得していないし、また、実質的には本件航空機の代金を支払っていない。」との主張・口頭弁論の再開申立てが行われた。しかし、口頭弁論の再開が認められなかったために、判決では、念のための検討として「原告らは本件航空機の所有権を有しているというべきである。」と判示されているにすぎない。このような状況から、東京高裁に係属された控訴審では、課税庁は、「原告らは、本件航空機の所有権を取得していない」とする主張を控訴審における主張の前提として、改めて陳述しようとした。
しかし、東京高裁第22民事部の石川善則裁判長は、「そんなに大事な主張であるならば、なぜ、原審の口頭弁論で主張しなかったのか?」・「控訴理由書で追加的に陳述すれば足りる主張ではないのか?」と控訴人代理人に問いかけ、課税庁の追加主張に対して疑問の姿勢を示した。控訴人(課税庁)は、東京高裁においても、追加主張が受け入れられることは難しいと感じたに違いない。課税庁は、航空機リース訴訟継続断念の最後の一押しを東京高裁の法廷から受け止めたのではないだろうか。

4 課税庁の租税回避スキーム対策はどうなるのか?

 上告断念により航空機リース訴訟については、課税処分が取消される。しかし、課税庁が航空機リース訴訟にかかるこれまでの司法判断を税務行政を執行する立場として受け止められるかは、別の問題である。名古屋地裁の判断では、「第一次的に私法によって規律されているから、その意味内容も、まず私法によって解釈されなければならない。」・「私的自治の原則ないし契約自由の原則が存在する以上、当該国民は、どのような法的手段、法的形式を用いるかについて、選択の自由を有するというべきである。このことは、他の法的手段、形式を選択すれば税負担を求められるのに、選択の結果、これを免れる場合であっても基本的には同様というべきである。」と判示している。このような判示からは、精巧な租税回避スキームについては、課税庁として、一旦容認した上で、立法的規制を行わねばならないことになる。最終的に司法の判断によるとしても、課税庁の判断として積極的に「課税の公平」を図ることが難しくなる。
 譬えは悪いかもしれないが、遡及立法禁止の原則の下では、課税庁に対して放たれた租税回避スキームの第1弾は、甘んじて受け止めねばならないことになる。課税庁が「租税回避スキーム」と認識する航空機リース訴訟で敗訴したことで、課税庁は「租税回避スキーム」に対する有効な対策の一つとして、同族会社等に限定されない一般的否認規定を創設することを検討するのではないかと考えられる(本誌No.118(2005.6.13)35頁参照)。

5 租税行政への信頼醸成が一般的否認規定創設の大前提

 課税庁は、航空機リース訴訟の上告断念にあたって、特段の対応は検討していないことを明らかにしている。平成17年度税制改正で立法的な対応を既に行っていることもあるが、本件の上告断念についても、「控訴審判決に上告理由が見当たらない。」とする説明から踏み出すものを見せてはいない。本誌の取材に対しても、「本件では航空機の所有権を有していない」とする課税庁の主張が裁判所に認められなかったもので、行為・計算の否認の問題とは捉えていないとの回答を示している。一般的否認規定の創設には、反対の声が多いのも十分に認識しているようである。
 また、仮に一般的否認規定の創設という動きが見られるとしても、課税庁に白紙委任状を与えるような性格のものではあってはならない。行為・計算の否認については、客観的な適用基準・説明責任・手続規定の遵守が条件になるであろう。
 例えば、評価通達の6項の適用について、国税庁長官の指示といった手続要件が、課税庁・司法のいずれによっても軽視されている現状では、納税者が租税回避スキームへの対応に、一般的否認規定の創設の必要性を受け入れたとしても、その運用に歯止めがかからないため、一般的否認規定の創設には大きな反対の声が上がるであろう。恣意的課税などと批判されることのない租税行政への信頼醸成が一般的否認規定の創設の大前提となる。

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