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税務ニュース2003年01月19日 相続税軽減目的・転売予定を理由に通達評価を認めず 当局が納税者に「遺産分割のやり直し」を示唆?

相続税軽減目的・転売予定を理由に通達評価を認めず
当局が納税者に「遺産分割のやり直し」を示唆?


 平成15年1月上旬、複数の日刊紙において、静岡県清水市の著名企業S社の先代社長から現社長ら6人への相続に際して総額約23億円の相続税の申告漏れが名古屋国税局から指摘されたと報じられた。これらの報道によれば、共同相続人(6人)は修正申告に応じたが、一方で、過少申告加算税約1億3千万円の取消を求め静岡地裁に提訴している、という。「申告漏れ」が評価通達によらない財産評価(いわゆる総則6項の適用)によるものとの報道に関心をいだいた本誌では、現地に記者を派遣し、事件の真相に迫ったのでその内容をお伝えする。
 「申告漏れ」の主な内容は、先代(故人)が相続開始4月ほど前に取得した非上場株式(相続税評価額約19億円)に対して、課税当局が相続税の負担軽減を目的として、転売を予定して取得された財産であるとして取得価額(約40億円)での評価を求めたものである。
 当局の修正申告の慫慂(しょうよう)に応じない納税者に対して、課税当局は、遺産分割をやり直して修正申告した場合の税額を納税者に説明したとされている。相続税の通達では、遺産分割のやり直しは認めないとされており、このような修正申告の慫慂のあり方も争点となっている。このほか、この事件には、過少申告加算税が賦課されない「正当な理由」など、多くの税務上の争点が織り込まれている。



相続直前に借入金で地元会社の株式を取得



 被相続人Aは、平成5年5月23日に死亡(享年83歳)した。相続人は、Aの妻であるX1、そしてAの子であるX2、X3、X4、X5、X6の6名であった。
 相続に先立つこと4月ほど前の平成5年1月27日、Aは、地元の金融機関の依頼もあり、清水市内に広大な土地を有しているものの経営不振となっていたI社の全株式を仲介役の金融機関の融資により40億円余りの金額で取得した。I社の経営者はAの古くからの友人であり、Aは、地元の名士としての責任感やI社の所有する清水市内の土地の有効利用を検討してI社株式を取得したとされている。
 Aが金融機関からの融資について差し入れた約定書には、X2(S社の現社長)が連帯保証人となっており、将来S社グル-プ等に売却して、処分代金で返済すると書かれている。
 I社の株式の取引価格40億円余りは、I社が財産評価基本通達(以下「評価通達」)に基づく区分で土地保有特定会社に該当することから、評価通達が定める純資産価額方式により算定し、法人税基本通達9-1-14・所得税基本通達59-6に基づき、評価差額に対する法人税等相当額を控除しないで算定したものである(さらに、土地の相続税評価の斟酌率を考慮して補正したものである。)。
 I社株式は、すべてX2が相続により取得し、平成6年8月31日、S社グル-プの関係会社に42億円で売却され、金融機関への元利返済も行われた。



当局は、I社株式を一時的な財産と判断
 共同相続人は、遺産分割を行い、相続税の期限内申告書を共同相続人の連名で提出した。相続税の申告にあたっては、I社が土地保有特定会社に該当することから、I社株式を純資産価額方式で算定し、評価通達185・186-2に基づいて、評価差額に対する法人税額等相当額を控除した上で相続税評価額を算定した。その結果、I社株式の評価額は、総額で19億円余りとなった。I社の保有する土地の相続税評価額は40億円余り、帳簿価額は5億5千万円弱となっており、土地以外の分もあわせて、36億円余りの評価差額が算出されていた。当時、評価差額に対する法人税額等相当額は、評価差額の51%で計算上18億円を超えるものとなった。一方で、Aの地元金融機関からの借入金43億円余りが債務控除の対象となっている。
 名古屋国税局の職員による相続税調査が行われ、平成6年12月12日、X2を除く共同相続人が「修正申告書1」を提出し、X2は、平成7年1月17日「減額更正処分」を受けた。
 その後も被相続人Aの相続については、I社株式の評価も含めて問題点が残っているとして、名古屋国税局では、共同相続人に修正申告書の提出を慫慂していたが、共同相続人6名は、I社株式を取得価額で評価するという課税当局の意向には応ぜず、その他の修正を行った「修正申告書2」を平成7年12月に提出した。
 課税当局は、I社株式を取得価額で評価することについて、「I社株式の取得から売却までの経緯(取得から4月で相続となり、相続から1年3月で関連会社に売却されている。)に照らせば、相続税の負担軽減を目的として、転売を予定して取得されたものと認められるから、この価額を評価通達の定める純資産価額とすることは、評価通達総則6項《この通達の定めにより難い場合の評価》に定める『著しく不適当』な場合に当たるといわざるを得ず、取得価額とするのが合理的である。」と主張している。

修正申告に応じぬ納税者に、課税当局が遺産分割のやり直しを説明?
 訴状等の資料によれば、課税当局は更なる修正申告の慫慂を続けたが、納税者との話し合いの中で、このまま更正処分を行う場合には、納税額は15億円になるが、遺産を再分割して配偶者に対する軽減を適用すれば、修正申告による納付額は8億円程度ですむと、説明したとされている。
 この相続では、I社株式をX2が相続することになっており、I社株式の相続税評価額が大きく上がる(約19億円から約40億円へ)と、配偶者X1の相続財産取得割合が低下し、配偶者に対する相続税の税額軽減が最大限に適用することができないことになる。そこで、遺産分割のやり直しを行い、X2のI社株式以外の相続財産を減らし、X1の相続財産を増やすことで、配偶者に対する相続税の税額軽減規定を最大限に適用することが検討されたようだ。
 共同相続人6名は、当局の修正申告の慫慂に応じ平成8年7月5日、I社株式の評価を取得価額とする「修正申告書3」を提出した。「修正申告書3」では、当初の分割でのX2の相続取得財産をX1の相続財産とする遺産分割のやり直しが行われており、配偶者に対する税額軽減が最大限に適用されたものとなっている。
 平成8年7月9日、「修正申告2」「修正申告3」について、過少申告加算税の賦課決定処分が行われた。新聞報道による提訴とは過少申告加算税の賦課決定処分について、異議申立て手続き・審査請求の手続きを経て、静岡地裁に対して行われたものである。
 納税者サイドでは、「評価通達に従って申告していたのであるから、国税通則法65条(過少申告加算税)4項に規定する『正当な理由があると認められるものがある場合』に該当する。」と主張している。

修正申告の慫慂が強要にあたるとして、納税額の不当利得返還請求も
 修正申告の内容を争うのではなく、過少申告加算税の賦課決定処分についてのみ争っているわけではない。納税者サイドでは、度重なる修正申告の慫慂を修正申告の強要だと主張しており、共同相続人の一人X5は、当局職員が「遺産分割のやり直し」・「配偶者に対する税額軽減」をちらつかせ、修正申告を行わせたことは、詐欺的又は強迫的であるとして、「修正申告3」に係る納付税額について、国を相手取り不当利得返還請求をおこなっており、「過少申告加算税賦課決定処分取消請求事件」に併合されて審理されている。
 この点について、課税当局側は、「修正申告した場合の税額説明は、計算結果を説明したに過ぎない。(贈与として取扱うなどの)不利益処分は行っていない。」と反論しているが、相続税基本通達19の2-8(分割の意義)には、「当初の分割により共同相続人等に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は相続税法が規定する分割により取得したものとならない。」とされている。遺産分割のやり直しについては、相続税基本通達の内容を支持する判決例もあるだけに、慫慂のあり方としても争点となったわけである。
 新聞報道では、事件の概要しかつかめないものとなっているが、税務上の争点が数多く盛り込まれた注目すべき事件である。


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