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解説記事2006年09月25日 【実務解説】 本年6月総会の概況と次期総会への対応(下)(2006年9月25日号・№180)

実務解説
本年6月総会の概況と次期総会への対応(下)
 三菱UFJ信託銀行執行役員証券代行部長 中西敏和

Ⅱ 今後の課題と対応(承前)

3 情報開示の見直しとIT総会

(1)議決権行使比率の向上策
 すでに述べたとおり、相互持合い等によって賛成票がある程度見込める会社を除き、賛成票を得ることはもちろん議決権行使についても相当の努力を要するのが最近の傾向となっている(本稿(上)について、本誌178号16頁参照)(図表1参照)。

 集中日開催を外す会社が増えたのは、ここ数年に限れば、プロ株主の活動が沈静化したという消極的理由よりも、より多くの株主に総会への参加を求めたいという積極的な理由がまさっているものと思われる。
議決権行使比率について、仮に現状の書面投票制度だけでは限界があるとすれば、インターネットによる議決権行使(電子投票制度)の利用についても検討すべきであろう。
 会社法もこれを想定し、電子投票を認めた場合の問題点について、①電子投票を承諾した株主に対する書面の不送付、②書面投票と重複行使がされた場合の取扱いの明示等を法務省令で認めることによって利便性を高めている。
 運営面でも、パソコンだけでなく携帯電話の利用を認めることによって利便性を高める会社が増加している。携帯電話の飛躍的な普及を考慮すると検討する余地はある。
(2)賛成票の獲得
 議決権行使比率の向上は、外国人投資家の所有比率の高い会社を中心に、相当前から問題とされており、それなりの努力がなされてきている。ここ数年、それ以上に問題とされているのは、議決権行使の中身である。かつては「定足数さえ充たせば……」ということが当然のことのように捉えられてきた。しかし今では、賛成票をいかに高めるかという点にも注意が払われている。
 従来から外国人投資家が議決権行使について厳しい対応を示していたことが指摘されていたが、最近では国内機関投資家も厳しい対応を示すところが多い。受託者責任という観点から、予め議決権行使基準を示し、それに従って行使するといったところも少なくない。総じて議決権行使基準は保守的ともいえ、発行会社からみれば違和感を感じさせる事項もないではないが、壁は厚い。
 また、個人株主も、総会での発言に象徴されるとおり、かつてのように画一的に白紙委任してくれるわけではないというのが実情である。
 本年総会では、例年以上に、外国人投資家の議決権行使のアドバイザーであるISSや、企業年金連合会を始めとする機関投資家を、発行会社の担当者等が訪問するという光景が多くみられた。ただし、必ずしもすべてが功を奏したわけではないことは、総会で否決または事前の撤回を余儀なくされた会社が十数社に上ることからも明らかである。
 いずれにせよ、議案に対する会社の考えを十分理解してもらうことが必要である。
 機関投資家が画一的に議決権行使を行わざるを得ない理由の1つとして、短期間のうちに多くの会社の議案を吟味、投票行動を決定しなければならないということが考えられる。そのためには、早い時期からの対話とわかりやすい参考書類作りが必要といえる。要約を記載するとか、一般に求められる公表資料は予め記載するといったことが考えられる。
 ただ、いわゆる議決権行使基準として示された事項のなかには、発行会社にとって違和感を覚える事項もないではなく、機関投資家としても、自らの意見が会社に受け入れられるための説明が求められる。ただ単に反対票を機械的に投じるだけでは溝が深まるばかりである。
 結論として、今後は、取締役会で議案を決定する際、株主総会での成否をも含めて検討することが必要である。会社法が各社の自由な選択を認めたことからもわかるとおり、安易に他社との横並びを図るだけでは難しい場合もある。
(3)WEBの利用
 会社法は、招集通知(参考書類)、事業報告の記載を充実させるなど、定時株主総会での開示事項を増加させたが、その一方で、①同一総会に提供される他の資料に株主総会参考書類に記載すべき事項が表示されているときは、株主総会参考書類の記載の省略を認め、逆に招集通知・事業報告に記載すべき事項を株主総会参考書類に記載した場合には、当該事項の招集通知・事業報告への記載の省略を認め(会社法施行規則(以下「施行規則」という)73条3項、4項)、さらに、②WEB開示制度を導入した。
 すなわち、株主総会参考書類、事業報告、個別注記表および連結計算書類等、株主総会の招集通知とともに株主に提供すべき資料に表示すべき事項の一部をインターネットのホームページに掲載するとともに、当該ホームページのアドレスのみを株主に通知することによって、物理的な書面等による省略を認める制度である(施行規則94条、会社計算規則161条4項、162条4項等)。
 この制度を利用するには、定款の定めと、招集決定事項として定めることが要件となっているが、本年6月総会では多数の会社が定款に定めを設けており、次年度定時総会からの実施が見込まれる。
 開示事項の増加は、株主に説明材料を多くもたらす一方で、その取捨選択をいっそう困難にするという問題をもたらす。年々ページ数が増加し、通常の定型郵便物としても限界に達しているところから、WEB開示の利用は会社・株主双方にとって利便性を高めるものと思われるが、前述のとおり書面としてのわかり易さをよりいっそう求めるとともに、議決権行使に必要な事項については、要約を設けたり、補足説明資料を加えることによって、株主の利便性を高めることも検討すべきである。
 なお、本年総会ではほとんど利用例がみられなかったが、WEBを利用した招集通知発送後の修正が認められた。これまでの招集通知発送後の修正と同じく、議案の中身を大幅に変更するような修正が認められるものではないが、軽微な修正はこれで十分である。

4 計算書類等の会社法対応
 計算書類の作成・監査手続については、施行後に決算期が到来したものから順次、会社法の適用があるところから、本年5月決算会社から会社法のもとでの決算・監査手続が求められる。
 会社法においては、計算書類の内容の変更として「利益処分案」が廃止され、「株主資本等変動計算書」が導入されたが、これとともに、従来の営業報告書は計算書類から外れ、「事業報告」と名称を改めるとともに記載事項も一新された(図表2参照)。

 次年度定時総会からは、利益処分案が廃止されたことに伴い、従来、利益処分案に盛り込まれていた利益配当(会社によっては役員賞与も)をどのように取り扱うかということとともに、営業報告書に比較して記載事項の充実が図られた事業報告をどのように作成するかが問題となる。
 事業報告については、計算書類から外れたことに伴い、その作成・監査手続は、取締役(委員会設置会社の場合は執行役)が作成し、監査役会(委員会設置会社においては監査委員会)の監査を経て、取締役会で承認されるという、よりシンプルな形に改められた(会社法436条2項・3項)。
 事業報告の内容は、公開会社の場合、①株式会社の状況に関する重要な事項(計算書類およびその附属明細書ならびに連結計算書類の内容となる事項を除く)、②業務の適正を確保するための体制の整備についての決議等の内容の概要に加えて、③株式会社の現況に関する事項、④株式会社の会社役員に関する事項、⑤株式会社の株式に関する事項、⑥株式会社の新株予約権等に関する事項をその内容とし(施行規則118条・119条)、その具体的な記載事項は法務省令に定められている(施行規則120条以下)。
 実務的には、①業務の適正を確保するための体制、②会社役員の兼職に関する事項(他の法人等の代表者等である場合については施行規則121条3号、他の兼職状況については同条7号)が従来の附属明細書の記載事項から事業報告の記載事項に改められた点、③監査役等が解任・辞任について株主総会で意見を述べた場合の開示(施行規則121条6号ロ・ハ)、④財務・会計に関する相当程度の知見を有する監査役等についての開示(施行規則121条8号)、⑤従来、責任限定に関する措置を講じている会社にしか求められていなかった会社役員ごとの報酬等の総額(社外取締役・社外監査役についての区分)の開示(施行規則124条6号)、⑥社外役員に関する開示(兼任の状況、親族関係、社外役員の活動状況、不正行為に対する対応、責任限定契約の内容等)(施行規則124条)、⑦新株予約権等に関する開示範囲の拡大(施行規則123条)、⑧株式会社の支配に関する方針(基本方針を定めた場合のみ)(施行規則127条)等が問題となる。

5 役員報酬の見直し
 すでに述べたとおり、次年度定時総会からは利益処分案が計算書類から外れ、定時総会の付議事項からも外れる。利益処分案に記載されていた事項は剰余金の処分の1つとして、定時総会にかかわらず総会の普通決議事項となり、当該権限を取締役会に委任した会社は取締役会の付議事項となる。
 ただし、配当や役員賞与に限っていえば、そのために総会を開催するとは通常考えられないところから、従来どおり、定時総会に付議されることになろう。その際の議題の名称として、「剰余金の処分」がよいのか、一般に配当がその対象となるところから「剰余金の配当」とするのがよいのかは意見の分かれるところであろう。
 より切実な問題として、ここ数年、会計処理という観点から問題提起されていた役員賞与については、継続するかどうかという岐路に立たされている。
 「役員賞与支給の件」という形で付議できないこともないが、役員賞与について費用処理することを原則とする会計基準に合わせるように、会社法は、「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」として報酬と区別しない取扱いとしている。これとともに、ここ数年、役員退職慰労金を廃止する会社も徐々に増えている。
 本年は、利益処分案に役員賞与を盛り込んでいる会社が少なくなかったが、次年度定時総会では、この問題に終止符を打たねばならない。仮に両制度とも廃止するとすれば、賞与相当分や退職慰労金相当分をどのような形で支給するかが問題であり、現行報酬枠内で吸収できなければ、報酬額改定議案を付議せざるを得ない。
 その際に問題となるのは、ストック・オプション制度を導入するかどうかという点である。
 ストック・オプションについては、新株予約権の有利発行という形で処理されていたが、会社法上、これが非金銭報酬(361条1項3号)で、かつ確定金額報酬(同項1号)であることが明らかにされたところから(相澤哲・石井裕介「株主総会以外の機関〔上〕」旬刊「商事法務」1744号102頁参照)、本年総会でストック・オプションを役員に付与することを決議した会社については取扱いが分かれた(個別論点について、細川充・郡谷大輔「ストック・オプション議案等について会社法が求めるもの」本誌161号4頁参照)。
 実務にとっては、今後の役員報酬制度を考えるうえで重要な問題であり、税務の問題も含めて早急に検討を要する事項である。

6 敵対的買収防衛策の行方
 敵対的買収防衛については、具体的事例がマスコミ的な関心を高めたが、どのような敵対的買収防衛策が有効であるかということとともに株主の賛同を得られるかということを早急に検討する必要がある。
 株主にとって、もっぱら現経営陣の保身を目的とする買収防衛策が受け入れられないことは明らかであるが、突如として現れた敵対的買収者の意図も明確につかめぬまま、手をこまねいているのがよいとはいえない。もちろん、最終的に、会社が株主のものである以上、株主の軍配に委ねざるを得ないが、公開会社は、商品やサービスの提供、雇用、原材料の購入等を通じて、社会と広く関わりを持つところから、これら利害関係者に対する責任も無視することができない。
 また、企業年金連合会の議決権行使基準にあるように、買収防衛策がただちに「株主価値を高める買収や効率的な経営を阻害し、経営を阻害し、経営者の保身に利用されるおそれがある」とまで言い切ることには疑問があるとしても、その必要性について、株主に対する一定のアカウンタビリティーを負っていることは間違いないところである。
 そのためには、株主総会というスクリーンを通すことは避けて通れない問題といえる。ただし、承認された買収防衛策を発動するかは、高度な経営判断を要する事項であり、それが恣意的に行われないような工夫を必要とする点も重要である。

おわりに

 本年6月総会は、会社法施行後最初の総会ピークということと、ここ数年顕著とされた機関投資家の動きがいっそう活発化したことがあいまって総会の見通しを難しくしたものといえる。
 ただし、定款変更議案についての反省として指摘されているように、従来のようにあらゆる定款変更事項を一括して付議するのがよいのかどうか、賛否の帰趨が従来より難しくなっている現状のもとで、従来どおりの、多数の賛成票を背景にした、賛否の拍手・発声等による総会場での採決方法や、承認可決されることを前提とした総会決議通知を送付する方法がよいのかといった点につき、再考すべき会社も出始めた。
 いずれにしても、これまでの総会運営方法を覆すものであり、実務的には悩ましい問題である。(なかにし・としかず)

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