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解説記事2006年12月25日 【制度解説】 新しい公開買付制度・大量保有報告制度と実務への影響(3)(2006年12月25日号・№192)

実務解説
新しい公開買付制度・大量保有報告制度と実務への影響(3)

 森・濱田松本法律事務所 弁護士 中村 聡/弁護士 久保田修平

Ⅰ はじめに


 今回は、前回(本誌191号12頁参照)に引き続き、各改正点の詳細および実務上のポイントについて検討する。
 具体的には、公開買付制度のうち全部買付義務および公開買付けの撤回・買付条件の変更の柔軟化、大量保有報告制度ならびに組織再編等における開示制度について触れることとする。
 なお、改正法の施行時期は前回において既に述べているとおりではあるが、内閣府令の附則において、各書類については一定の移行措置がとられている。

1. 大量保有報告制度に係る適用時期
 大量保有報告制度については、施行日前に大量保有報告書等の提出義務が生じた場合であっても、実際の大量保有報告書等の提出は旧法に基づき行う必要がある(証券取引法等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)附則10条)。
 また、施行日に既に提出がなされている大量保有報告書等や、上記施行日前に大量保有報告書等の提出義務が生じた場合で施行日以後に旧法に基づき提出された大量保有報告書等については、その後変更報告書を提出する場合に過去の履歴がスムーズに承継されるよう、新法に従って提出されたものとみなされる(改正法附則9条3項、11条)。これにより、たとえば、施行日前に取得した分に関しては旧法に基づく特例報告での大量保有報告書を提出することとなるが、施行日以後の取得については新法が適用される結果、新法に基づく一般報告または特例報告を旧法に基づく特例報告よりも前に提出しなければならないケースも存在する。
 この場合には、先に提出された新法に基づく一般報告または特例報告が、その後の変更報告書の提出にあたりベースとなるので留意が必要となる(改正法附則11条各項ただし書)。

2. 組織再編等における開示制度に係る適用時期
 組織再編等における開示制度に係る改正は、平成18年12月13日から施行されたため、臨時報告書については、すべて新法が適用されるが、有価証券報告書等については、発行者が提出する書類により適用される時期が異なる(発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令附則4条~7条)(図表1参照)。
 たとえば、3月末決算の上場会社の場合には、平成19年3月末に終了する事業年度に係る有価証券報告書から新法が適用され、当該有価証券報告書提出後に提出する有価証券届出書等から新法が適用される。

Ⅱ 公開買付規制に関するその他改正点

1. 全部買付義務
(1)全部買付義務が課される場合

 公開買付者が公開買付開始公告および公開買付届出書において買付予定数の上限を記載した場合には、その上限を超える応募株券等について買付義務を負わないが、新法では当該上限を設定することができる場合は、公開買付け後における株券等所有割合が3分の2未満の場合に限定されている(法27条の13第4項2号、施行令14条の2の2)。
 また、買付け等の後の株券等所有割合が3分の2以上となる場合には、次の場合を除き、対象者の発行するすべての株券等について、同一の公開買付手続により勧誘を行う必要がある(法27条の2第5項、施行令8条5項3号、他社株公開買付府令5条3項、5項)。
(a)当該株券等の勧誘が行われないことについて、当該株券等に係る種類株主総会の決議が行われている場合の当該株券等(他社株公開買付府令5条3項1号)、または
(b)当該株券等の所有者が25名未満である場合で、勧誘が行われないことについて、当該株券等に係るすべての所有者が同意し、その旨を記載した書面が提出されている場合における当該株券等(他社株公開買付府令5条3項2号)
 そして、「株券等」には、株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券等が含まれる(法27条の2第1項、施行令6条1項)。
 この結果、買付け等の後の株券等所有割合が3分の2以上となる場合については、公開買付けにおいて対象者の発行する原則としてすべての株券等について公開買付けの対象として勧誘し、かつ応募株券等の全部について買い付ける義務が生じることとなる。
(2)対象者が新株予約権を発行している場合
 たとえば、対象者がストック・オプション等の新株予約権を出している場合に、公開買付者が買付け等の後の株券等所有割合が3分の2以上となる対象者の普通株式を取得するときは、
① 公開買付者は対象者の発行するすべての株券等について同一の公開買付けにより勧誘を行う必要があるので、対象者の普通株式だけでなく、ストック・オプション等の新株予約権も原則として公開買付けの対象としなければならず、また、
② 公開買付者は上記全部買付義務を負うこととなるため、応募があった株券等のすべてを買い付けなければならない
こととなる。
 この場合、普通株式1株の公開買付価格とストック・オプション等の新株予約権1個の公開買付価格は、当該有価証券の内容が異なることから異なる価格となる場合もありうるが、その場合であっても、直ちに価格の均一性(施行令8条3項)に反するものではなく(平成18年12月13日付パブリックコメント結果の公表の際に示された「提出されたコメントの概要とコメントに対する金融庁の考え方」参照)、当該株券等の種類に応じた公開買付価格の価額の差について、換算の考え方等の内容を具体的に公開買付届出書の「算定の基礎」に記載する必要がある(他社株公開買付府令第2号様式(記載上の注意)(6)f)。
 具体的には、普通株式の公開買付価格に基づき、新株予約権の目的である株式の数、行使に際して出資される財産価額、行使条件等を勘案のうえ、新株予約権1個当たりの公開買付価格について決めることになると思われる。
 当該新株予約権が、ストック・オプションのように公開買付者が当該新株予約権を買い付けてもその後当該新株予約権を行使することができないような場合には、当該行使条件を踏まえて新株予約権の公開買付価格を決めることになろう。

2. 公開買付けの撤回
 従来、公開買付けの撤回は相当限定されていたが、新法では公開買付けの撤回事由が拡大された。
 具体的には、対象者だけではなくその子会社において、公開買付開始以降に、株式交換、株式移転、会社の分割等の業務・財産に関する重要な変更等が生じた場合に認められるほか(法27条の11第1項、施行令14条1項イ~ル等)、株式分割、株式・新株予約権の無償割当て・発行、自己株式の処分、既存株式に係る種類株主総会決議事項・役員選任権について異なる定めをすること、重要な財産の処分・譲渡、多額の借財が新たに撤回事由として認められた(施行令14条1項ヲ~ソ)。
 また、対象者が、公開買付開始時点において、
(a)いわゆる買収防衛策を導入している場合(当該公開買付け等の後に当該公開買付者の株券等所有割合を10%以上減少させることとなる新株発行等を行うことがある旨の決定を対象者の業務執行決定機関が行っており、かつ公表している場合(施行令14条1項2号イ、他社株公開買付府令26条2項)、または
(b)黄金株等を発行している場合で、その定めを変更しない旨の決定を行った場合(施行令14条1項2号ロ)
にも撤回することができる。
 たとえば、対象者が提出する意見表明報告書の「会社の支配に関する基本方針に係る対応方針」において、当該買収防衛策を発動する旨または撤回しない旨の決定の記載がなされた場合には(他社株公開買付府令第4号様式(記載上の注意)(6))、対象者が「当該決定を維持する旨の決定」を行ったとして、公開買付者は当該公開買付けを撤回することができることになると解される(施行令14条1項2号イ)。

3. 公開買付価格の引下げ等の条件変更
 公開買付価格の引下げは、旧法では認められていなかったが、当該公開買付期間中に、対象者による株式の分割や株式・新株予約権の無償割当てが行われる場合で、公開買付開始公告および公開買付届出書にあらかじめ記載をしたときは、図表2に掲げた算式に基づく下限を限度として、公開買付価格の引下げが認められることとなった(法27条の6第1項1号、施行令13条1項、他社株公開買付府令19条1項)。
 ただし、対象者が株式分割等の決定がなされただけでは価格を引き下げることはできず、その実行をすることが条件となるため、場合によって、公開買付者は公開買付期間を延長するなどの対応が必要となると思われる。

Ⅲ 大量保有報告制度に関する改正点

1. 特例報告制度の見直し
(1)特例報告の提出期限

 通常の大量保有報告書・変更報告書の提出期限が5営業日であるのに対し、機関投資家に認められている特例報告制度の提出期限は、旧法では原則3か月ごとに月初から15日以内であった。
 しかし、株券等保有割合に係る開示をより迅速に行い、投資者等に対して一層の透明性を確保するため、新法では特例報告制度が見直された(図表3参照)。

 具体的には、特例報告の提出期限は、
(a)各月の第2月曜日および第4月曜日(第5月曜日がある場合には、第5月曜日も追加)、または
(b)各月の15日および末日(これらの日が土日の場合にはその前の金曜日)
のうちから、内閣総理大臣に届出をした日(以下「基準日」という)から5営業日以内に提出することとなった(法27条の26第1項~3項、施行令14条の8の2第2項)。
 また、株券等保有割合が10%超である機関投資家が、10%を下回る取引を行った場合は、特例報告ではなく、5営業日以内の一般報告が適用されることとなる(法27条の26第2項3号、大量保有府令12条)。
(2)重要提案行為等
 特例報告制度が適用されない「発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為」(以下「重要提案行為等」という)とは、発行者またはその子会社に係る重要な財産の処分・譲受け、多額の借財、代表取締役の選定・解職、役員構成の重要な変更(数・任期の重要な変更を含む)、支配人その他の重要な使用人の選任・解任、支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止、組織再編、配当・資本金の増減に関する方針の重要な変更、上場廃止・上場、資本政策の重要な変更等に関する事項について、株主総会または役員(取締役・監査役に限られず、これらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む)に対して提案する行為である(法27条の26第1項、施行令14条の8の2第1項、大量保有府令16条の2)。
 機関投資家が、5%超保有した日(1%以上増加した日)以降最初に到来する基準日から5営業日後までに重要提案行為等を行う場合には、当該重要提案行為等の5営業日前までに「重要提案行為等」を行う予定である旨を記載した一般報告による大量保有報告書等の提出が義務付けられた(法27条の26第4項・5項、施行令14条の8の2第3項、大量保有府令8条および第1号様式(記載上の注意)(11)等)。
 重要提案行為等とは、上記のとおり相当広範な行為を規定しているが、重要提案行為等に該当するかどうかは、
① 提案内容が施行令14条の8の2第1項各号に該当する事項かどうか
② 発行者の事業活動に重要な変更を加える、または重大な影響を及ぼすことを目的とするかどうか
③ 「提案」かどうか
のすべての要件に該当するか否かという点から個別事案ごとに検討する必要があろう。
 なお、大量保有府令で軽微基準が定められることになっているが、施行日現在では定められていない(施行令14条の8の2第1項ただし書)。

2. その他の改正点
 大量保有報告制度に係るその他の改正点としては、貸株・借株取引等において、貸主および借主の双方において同一の株式について重複して株券等保有割合を計算する場合があるが、新法においては、共同保有者間においてかかる重複部分はネットアウトして株券等保有割合を計算することとなった(法27条の23第4項、施行令14条の6の2、大量保有府令第1号様式(記載上の注意)(12)l)。
 また、大量保有報告書等の記載事項も上記の点を含めて変更がなされ、たとえば、「当該株券等の発行者の発行する株券等に関する最近60日間の取得又は処分の状況」には、市場内取引・市場外取引に区別したうえで記載することが必要となった(大量保有府令第1号様式(記載上の注意)(13)a)。
 さらに、大量保有報告書の対象となる有価証券として投資法人の発行する「投資証券等」が加わっている(法27条の23第1項、施行令14条の4第1項3号)。
 なお、平成19年4月1日以降はEDINETによる大量保有報告書の提出が義務付けられた(法27条の30の2)。

Ⅳ 組織再編等における開示制度の充実

1. 臨時報告書

 新法においては、株式交換等の組織再編における臨時報告書等による開示制度についての見直しが行われた(開示府令19条2項6号の2等)。
(1)提出すべき場合
 まず、臨時報告書等において開示を行うべき場合が拡充され、提出会社の最近の事業年度末日の純資産額の10%以上(旧法では30%以上)または提出会社の最近の事業年度の売上高の3%以上(旧法では10%以上)となる株式交換等を行う場合には、臨時報告書の提出が必要となる(開示府令19条2項6号の2等)。
(2)提出時期
 臨時報告書の提出時期も、株式交換等が行われることが「当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合」となった(開示府令19条2項6号の2等)。
 当該提出時期の解釈については、今後の議論の集積が待たれるが、「当該提出会社の業務執行を決定する機関」とは、内部者取引規制における場合と同様に(法166条2項1号参照)、必ずしも会社法上の決定権限を有する機関ではなく、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことができる機関を指すものと考えられる。たとえば、ワンマン社長の場合には社長個人であろう。
 したがって、旧法の「株式交換に係る契約が締結された場合(これらの契約が締結されることが確実に見込まれ、かつ、その旨が公表された場合を含む。)」等に比べると、新法では開示を行うべきタイミングが早まる可能性がある。
(3)記載事項
 また、当該臨時報告書には、相手会社に係る最近3年間に終了した各事業年度の売上高・営業利益・経常利益・純利益、大株主の商号・名称・持株数割合、提出会社との間の資本関係・人的関係・取引関係、株式交換等の比率の算定根拠(第三者が当該比率の算定を行い、かつ、提出会社が当該算定を踏まえて比率を決定したときは、当該第三者の氏名等も記載する必要がある)、当該株式交換等の後の株式交換完全親会社等となる会社の商号、本店所在地、代表者の氏名、資本金、純資産の額、総資産の額等について記載する必要がある(開示府令19条2項6号の2等)。
 したがって、たとえば、臨時報告書を提出すべきときには、まだ株式交換契約等の内容までは決まっておらず、当該臨時報告書においては今後決定される旨の記載を行い、その後株式交換契約等の内容が固まった段階で、当該臨時報告書の訂正報告書を提出する(法24条の5第5項、7条)というケースも今後あるのではないかと思われる。

2. 有価証券届出書等
 新法では、有価証券届出書等の開示書類の記載事項についても拡充された(開示府令第2号様式等)。
 実務上重要な点としては、
① 「対処すべき課題」において、いわゆる買収防衛策を導入している会社については当該内容(開示府令第2号様式(記載上の注意)(32)等)
② 「ライツプランの内容」において、実際に新株予約権が発行されている場合には(いわゆる事前警告型として新株予約権がこの時点では発行されていない場合には記載の必要はない)その内容(開示府令第2号様式(記載上の注意)(38-3)等)
③ 「コーポレート・ガバナンスの状況」において、社外取締役・会計参与・社外監査役・会計監査人との間で責任限定契約を締結した場合にはその内容(開示府令第2号様式(記載上の注意)(52-2)a等)
④ 「提出会社の株式事務の概要」において、定款で単元未満株式の権利を制限している場合、または定款で株主提案権の行使期間について株主総会の日の8週間前を下回る期間と定めた場合には、それぞれの内容の注記(開示府令第2号様式(記載上の注意)(69)f、g)
等をそれぞれ記載することが必要となるので、その作成には留意が必要となる。(了)
(なかむら・さとし/くぼた・しゅうへい)

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