カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2007年01月29日 【編集部解説】 信託法の改正と信託税制の整備(2007年1月29日号・№196)

解説
信託法の改正と信託税制の整備

 text T&Amaster編集部 佐治俊夫


 改正信託法が平成18年12月8日に成立、同15日に公布された(施行は公布の日から1年6ヶ月以内)。信託法の改正では委託者自らが受託者となる信託(以下「自己信託」という)(施行は1年先送り)や事業部門を丸ごと信託できる「事業信託」、信託受益権を有価証券にすることができる「受益証券発行信託」などが可能となり、資金調達や事業再編の手段が多様化することとなった。
 また、平成19年度税制改正大綱では、改正信託法により信託の利用機会が大幅に拡大され、多様な信託の類型が可能となることから、これらについての税制上の対応(信託税制の整備)が行われている。現行の受益者課税(パススルー課税)を維持しつつ、①新たな類型の信託等に対応し、②信託を利用した租税回避への対応その他の措置が設けられる。
 信託制度のあらましを概観したうえで、「改正信託法」と「信託税制」を併せて読みながら、「信託税制」の内容を探ってみたい。

Ⅰ 信託ってどんな制度?

1.信託の意義

 改正信託法では、「「信託」とは、信託契約などにより、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。」と定義されている(信託法2条1項)。
 信託では、委託者が受託者に対して自己の財産権の移転その他の処分をし、信託目的に従って、受託者が受益者のために信託財産の管理、処分をすることになる。
 信託は個人の財産管理や遺産管理の手段として用いられたり、公益目的のために利用されることが想定されていたものだが、我が国においては、「貸付信託」・「金銭信託」・「投資信託」などにみられるように金融商品として活用されてきた実態が見受けられる。信託には、「信託財産」に独立性が与えられていること(「倒産隔離」が図れること)、信託受益権を分割して、投資家のニーズに合わせることができることなどの特徴があり、課税上の取扱い(信託税制)と相まって、金融商品あるいはビークルとしてのさまざまな活用が見込まれる。


2.信託の分類
 信託については、さまざまな分類が考えられる。その主なものをとりあげてみよう。
(1)自益信託・他益信託
 信託において、委託者が自ら受益者となるものを自益信託という。「貸付信託」・「投資信託」などの金融商品は、契約目的に定められた運用の結果は、委託者が受益者となって受け取ることが予定されている。
 第三者のための(第三者を受益者とする)信託を他益信託という。遺言信託などは、他益信託の一例である。
 改正信託法では、「委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。」と規定されている(164条)。自益信託は委託者=受益者であるため、いつでも信託契約を解除することができる。
 信託税制においては、自益信託は、信託設定時の課税関係は生じないものになるが、対価を得ていない他益信託は、信託設定時に委託者・受益者に対して、寄附金・受贈益などの課税関係が生じることになる。

(2)自己信託
 自己信託とは、委託者と受託者が同一のものである信託をいう。現行の信託法では、「委託者」と「受託者」は別々でなければならないが、改正信託法では、自己信託を「信託の方法」の1つとして規定した。自己信託には、委託者の債権者を害する目的での利用も懸念されるため、特段の規定が設けられるとともに、制度の趣旨や内容等の周知を図るため、自己信託については、改正信託法の施行の日からさらに1年間、施行が延期される。

(3)信託設定財産
 委託者が信託財産とする事故の財産の種類(金銭・有価証券・不動産など)によって信託財産を分類することができる。
 金融商品として信託が用いられる場合には、信託財産が金銭に限定される場合がほとんどということになる。
 信託財産が現物(有価証券・不動産など)の場合には、信託設定時・信託終了時の譲渡損益の取扱いの課税関係が生じることになる。
(4)信託行為
 改正信託法では、信託の方法として、①信託契約を締結する方法、②信託する旨の遺言をする方法、③自己信託(前記(2)参照)を規定している(3条)。
(5)受益者の特定
 改正信託法では、受益者の定めのない信託(いわゆる目的信託)は、有効に成立するものと規定しているが、①受託者に対する監視・監督権限を委託者に付与し、②信託の存続期間を20年までに限定するなど特段の規定を設けている。しかしながら、受益者の定めのない信託は、公益を目的とする者を除き、別に法律で定める日までの間、一定の法人以外の者を受託者とすることができないこととされている。
 受益者に対するパススルー課税の場合には、受益者の特定ができない信託については、課税できない事態が生ずることになり、課税関係の整備が必要となる。
(6)信託の目的
 現行の信託法は、「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他公益を目的とする信託はこれを公益信託とする。」と規定しており、公益信託に属さないすべての信託を私益信託という。
 公益信託は、受益者の定めのない信託(目的信託)であり、主務官庁の監督を受けるものと規定されていた。
(7)特定信託
 法人税法は投資信託法2条3項に規定する投資信託のうち一定のものおよび特定目的信託を特定信託とし、信託段階で法人税課税を行っている。すなわち、信託は、信託段階で法人税課税が行われる特定信託とそれ以外の信託に分類することができる。
 また、課税関係による分類では、信託課税の原則となる「信託財産を受益者が保有しているものとみて、信託収益の発生時に受益者に課税する方法」と、一般的な投資信託にみられる「信託収益が受益者に現実に分配された段階で初めて受益者に課税する方法」に分類することができる。

Ⅱ 改正信託法では何が変わったのか?

 現行の信託法は本則75条により構成されているが、改正信託法は本則271条の構成となっており、信託法は全面的に見直されている。改正信託法の提案理由は以下のとおりである。

改正信託法案 提案理由
社会経済情勢の変化にかんがみ、信託法制について、受託者の義務、受益者の権利等に関する規定を整備するほか、信託の併合及び分割、委託者が自ら受託者となる信託、受益証券発行信託、限定責任信託、受益者の定めのない信託等の新たな制度を導入するとともに、国民に理解しやすい法制とするためこれを現代用語の表記によるものとする必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

1.事業信託ができることに

 改正信託法では、限定責任信託(受託者の履行責任の範囲が信託財産に限定される信託)制度が創設されることで、事実上、受託者が信託設定に際して債務を引き受けることができるようになる。また、改正信託法では、信託財産責任負担債務(受託者が信託財産をもって履行する責任を負う債務)の範囲・取扱いなどを規定している。
 財産とそれに見合う債務をセットで信託できる仕組みが整えられ、当該信託に係る受託者の責任範囲が限定される仕組みが設けられたことで、事業を丸ごと信託できる事業信託ができることになる。

2.自己信託制度の導入
 現行信託法では、「委託者」と「受託者」が同一である信託は認められていなかったが、改正信託法は、信託の方法の1つとして、「自己の有する一定の財産の管理又は処分等を自らすべき旨の意思表示を一定の手続をもって行うこと(「自己信託」)」を規定している。
 自己信託を活用することで委託者はその信託財産を「倒産隔離」することができるようになるが、委託者の債権者を害する目的で自己信託が濫用されることがないように、改正信託法には、一定の措置が設けられている。
 さらに、制度の趣旨や内容等の周知を図るため、自己信託については、改正信託法の施行の日からさらに1年間、施行が延期される。

3.受益証券の有価証券化
 改正信託法では、個別法に基づいて限定的に認められていた受益権の有価証券化を一般的に許容することおよびその手続を規定している。

4.受益者の定めのない信託(目的信託)の容認
 改正信託法では、受益者の定めのない信託(目的信託)について、これを公益(祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他の公益)目的のものに限定することなく、一般的に許容することになる。受益者の定めのない信託が濫用的に利用されることがないように、①受託者に対する監視・監督権限を(受益者ではなく)委託者に付与することとし、信託の存続期間を20年までに限定するなどの措置が設けられている。
 さらに、受益者の定めのない信託は、公益を目的とするものを除き、別に法律で定める日までの間、当該信託に関する信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎および人的構成を有する者として政令で定める法人以外の者を受託者とすることができないことと経過措置に手当てされている。

Ⅲ 信託に対する現行税制

1.受益者が特定している場合

 その受益者がその信託財産を有するものとみなして課税する。

2.受益者が特定していない場合又は存在していない場合
 その信託財産に係る信託の委託者がその信託財産を有するものとみなして課税する。

3.合同運用信託、一般的な投資信託(証券投資信託など)
 信託収益が受益者に現実に分配された段階で課税する。

4.特定信託(特定目的信託など)
 信託段階において受託者を納税義務者として法人税を課税する。

Ⅳ 信託税制の整備

1.新たな類型の信託等への対応

① 受益証券発行信託
 イ 特定受益証券発行信託(受益証券発行信託のうち信託に係る未分配利益が信託の元本総額の25/1,000相当額以下であること等の要件を満たすものをいう。)については、その受益者に対し、信託収益が分配された時に、所得税又は法人税を課税する。
 ロ 個人受益者が受ける収益の分配は配当所得として、その受益証券の譲渡による所得は株式等に係る譲渡所得等として、所得税を課税する。
 ハ 特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託については、その受託者に対し、信託財産に係る所得について、当該受託者の固有財産にかかる所得とは区別して法人税を課税する。
 ニ 受益証券発行信託の受益証券を印紙税の課税対象に加える。


 不特定多数の者が「受益証券」を有することが可能となる受益証券発行信託について、未分配利益が信託の元本総額の2.5%以下であること等の要件を満たすもの(特定受益証券発行信託)については、現行の一般的な投資信託に対する課税関係に合わせることにしており、信託財産に係る収益は、受益者が信託収益を分配された時に課税される(上記Ⅲ3の分類)。また、個人受益者が受ける収益の分配は、配当所得(総合課税・20%源泉徴収・配当控除不適用)として課税される。
 特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託については、信託財産に係る所得について法人税が課税される(上記Ⅲ4の分類)。

② 受益者等の存在しない信託
 イ 受益者等の存在しない信託(遺言により設定された目的信託等をいう。)については、その受託者に対し、信託財産に係る所得について、当該受託者の固有財産に係る所得とは区別して法人税を課税する。この場合、信託の設定時に受託者に対しその信託財産の価額に相当する金額について受贈益課税を行う。
 ロ 受益者等の存在しない信託を設定した場合には、委託者においては信託財産の価額に相当する金額による譲渡があったものとする。
 ハ 受益者等の存在しない信託に受益者等が存することとなった場合には、当該受益者等の受益権の取得による受贈益について、所得税又は法人税を課税しない。
 ニ 受益者等の存在しない信託が終了した場合には、残余財産を取得した帰属権利者に対して所得税又は法人税を課税する。
 ホ 受益者等の存在しない信託を利用した相続税又は贈与税の租税回避に対しては、次の措置を講ずる。
  (イ)信託により適用される法人税率と相続等により適用される相続税率等の差を利用した租税回避については、受託者に相続税等(法人税等は控除)する。
  (ロ)受益者等が特定した時に、当該受益者等が委託者の孫等である場合には、当該受益者等に贈与税を課税する。
 ヘ 公益信託については、現行と同様の取扱いを維持する。


 改正信託法では、遺言によって信託がされた場合には、委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しないこととされている。遺言によって設定された受益者の存在しない信託に係る所得については、受益者が存在しないため、受益者課税を行うことができず、委託者も死亡しており、その地位が相続されないということで、委託者も存在しないことになる。信託税制では、受託者(信託財産)に対して法人税を行うこととした。
 受益者の存在しない信託は、委託者=受益者ではない(他益信託に該当する)ため、信託設定時の課税関係が生じることになるが、受益者は存在しないため受贈益課税を行うことができない。信託の設定時に受託者の信託財産について受贈益課税が行われる。また、委託者においては信託の設定時に譲渡があったものとする。
 受益者の存在しない信託は、受益者に代わって、信託財産について法人税課税が行われていることから、受益者等画損することとなった場合には、二重に課税しないということで、受益者等の受益権の取得による受贈益については所得税または法人税は課税されない。

③ 受益者連続型信託等
 イ 受益者連続型信託等については、設定時において受益者等に対して、委託者から受益権を遺贈等により取得したものとみなして相続税を課税する。
 ロ 次の受益者等以降の者に対しては、その直前の受益者等から遺贈等により受益権を取得したものと、その直前の受益者等は受益権を遺贈等したものと、それぞれみなして相続税等を課税する。


 受益者連続型信託とは、受益者の死など一定の場合に受益権が順次、移転する定めのある信託で、例えば、「Aの死亡後はBを受益者とし、Bの死亡後はCを受益者とする」旨の定めのある信託がこれに該当する。受益者Bの死亡により受益権は受益者Cに移転するが、改正信託法では委託者Aから受益者Cに移転したものと構成される(しかし、委託者Aは既に死亡しているため現行の相続税法では対応できない)。
 受益者Cに対する課税については、受益者Bから遺贈により取得したものとみなして相続税等を課税する。

2.信託を利用した租税回避への対応その他の信託課税の適正化措置
① 法人が委託者となる信託のうち、次に掲げるものについては、その受託者に対し、信託財産に係る所得について、当該受託者の固有財産に係る所得とは区別して法人税を課税する。
 イ 重要な事業の信託で、受益権の過半を委託者の株主に交付することが見込まれるもの(信託財産の種類がおおむね同一である場合等を除く。)
 ロ 長期(信託期間20年超)の自己信託等(主たる財産が耐用年数20年超の減価償却資産である場合等を除く。)
 ハ 損益分配の操作が可能である自己信託



② 信託損失に係る所得税の取扱い
 受益者段階課税(発生時課税)される信託の個人受益者等の当該信託に係る不動産所得の損失は、生じなかったものとみなし、損益通算等を制限する。
③ 信託損失に係る法人税の取扱い
 受益者段階課税(発生時課税)される信託の法人受益者等の信託損失のうち信託金額を超える部分の金額は、損金の額に算入しない。また、損失補てん契約等により信託期間終了までの間の累積損益が明らかに欠損とならない場合には、信託損失の全額を損金の額に算入しない。
④ 合同運用信託
 合同運用信託の範囲を適正化する。

3.その他

① 投資信託等の併合において、受益者が新たな信託の受益権以外の資産の交付を受けていない場合には、旧信託の受益権の譲渡損益の計上を繰延べる。
② その他所要の整備を行う。


 その他所要の整備では、受託者に信託に関する受益者別(委託者別)調書の提出義務を課すこととするほか、信託の計算書の記載事項を整備する。
 改正信託法において創設される限定責任信託の定めの登記等について、3万円等の登録免許税を課税するほか、消費税関係、国税通則法・国税徴収法関係などについても所要の規定を整備することになる。(さじ・としお)
〔編注〕21頁以下の図は、財務省作成資料を基に作成したものである。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索