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解説記事2007年07月23日 【ニュース特集】 新信託法の段階施行と関連改正の現状(2007年7月23日号・№220)

⇒本格施行まで約2か月!
施行に向けて改正政省令も相次ぎ公布
新信託法の段階施行と関連改正の現状

 新しい信託法(平成18年法律第108号)、信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第109号。以下「整備法」という)が昨年の12月8日、第165回臨時国会で成立し、12月15日に公布された。施行は原則として「公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、7月17日現在、この政令は定められていない。しかし、公布された日と同日、整備法の一部規定が施行されたほか、この7月9日には「新法信託」の関連規定が施行されている。今回のニュース特集では、ここに至るまでの状況と「9月ころ」と予定されている本格施行に向けた準備状況をまとめた(課税関係については本誌218号8・24頁等、会計整備については今号13頁等参照)。

新法の制定による全面改正とルールの合理化、「信託」の拡充  新信託法は、現行の信託法(大正11年4月21日法律第62号。以下「旧信託法」という)を全13章271か条に編み直し、全面的に改正するものである。旧信託法は大正11年(1922年)の制定後、翌12年に施行された「漢字カナ混じり」の全75か条の法律。信託に関する最も基本的な法律として、信託の定義や委託者・受託者・受益者の権利・義務などを定めてきたが、実質的な改正は実に80年以上にわたってなされてこなかった。
 新法の制定による今回の全面改正は、この間の社会・経済活動の多様化、信託自体の多様な利用形態に対応するもので、信託全般のルールの合理化を図るとともに信託の多様化に則して新類型の信託を導入(これらの概要について、寺本昌広ほか「新信託法および整備法における会社法改正の要点」本誌204号19頁参照)。併せて、表記の現代語化も行われた。
 整備法では、会社法・商法や不動産登記法、証券取引法等のほか、旧信託法とともに大正11年に制定、12年に施行されて以降「信託2法」としてわが国の信託制度上、信託の委託者・受益者の保護を図るために信託業を営む者等を規律してきた信託業法(平成16年法律第154号)に改正が加えられている。このほか、担保付社債信託法(明治38年法律第52号)、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和18年法律第43号)、投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年法律第198号)、貸付信託法(昭和27年法律第195号)など計63法律が改正された。
 旧信託法は、全12か条の「公益信託ニ関スル法律」(以下「公益信託法」という)として存続する(整備法1条)。新信託法258条1項に規定された「受益者の定めのない信託(目的信託)」のうち、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教其ノ他公益ヲ目的トスルモノニシテ次条ノ許可ヲ受ケタルモノ(以下公益信託ト謂フ)ニ付テハ本法ノ定ムル所ニ依ル」(公益信託法1条)とされており、新信託法の特則と位置付けられるものとなっている。
そもそも信託とは何か  信託とは、自らの信頼できる人に財産権の移転などの処分を行い、一定の目的(信託目的)に従って、「信頼できる人」がある人のために、その財産(信託財産)の管理・処分をすることをいう。
 ここで、財産権の移転などを行うのが「委託者」、信頼され財産を委ねられる人が「受託者」、その財産から収入を得るなどの利益を交付される“ある人”が「受益者」で(図1参照)、新信託法では、その2条に「信託」「委託者」等の定義を設けている。

 信託財産の種類に着目して従前の信託を区分すると、大きく「金銭の信託」「金銭以外の信託」の2種類に分けることができる。金銭の信託には、①金銭信託、②年金信託、③財産形成給付信託、④貸付信託、⑤投資信託、⑥金銭信託以外の金銭の信託が、金銭以外の信託には、①有価証券の信託、②金銭債権の信託、③動産の信託、④土地およびその定着物の信託、⑤土地およびその定着物の賃借権の信託、⑥包括信託、⑦その他の信託があり、これらの残高は約766.2兆円にも上る(平成19年5月末、信託協会調べ。資産管理のために他の信託銀行に再信託された財産元本235.6兆円を含む)。
新信託法の制定により……  新信託法の制定により、信託の対象財産として、積極財産である事業の信託(消極財産については財務引受けの形をとる)が可能となったほか、受益権の有価証券化を一般的に許容する受益証券発行信託が創設された。
 また、自己信託(委託者が自ら受託者となる信託を許容)、目的信託(受益者の定めのない信託を公益目的に限定せず、一般的に許容)、限定責任信託(受託者の履行責任の範囲が信託財産に限定される信託)が創設されている。
 さらに、現行の信託管理人(受益者が不特定または未存在の場合に限定し、受益者に代わってその権利を行使する者)は目的信託の場合にも選任されることとなり、受益者に代わって受託者を監視・監督する信託監督人、受益者に代わってその権利を行使する受益者代理人の制度が創設されている。

新信託法・整備法の段階施行と政省令の公布  新信託法・整備法の公布とその後の段階的な施行の関係を図2にまとめた。

 昨年の公布に合わせ、まず整備法の一部規定が施行されている(図中の①参照。会社法・商法の改正状況について、本誌195号22頁を参照されたい)。
 新信託法の施行は現在、「平成19年9月ころを予定」と明らかにされており、この時点で整備法の大半も施行される(③参照)。ただし、「社債、株式等の振替に関する法律」の一部改正の施行は残り、これは公布から5年内の政令で定める日が施行日とされている(⑤参照)。
「新法信託」は既に施行  整備法附則2号の規定と、7月4日に公布された「信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部の施行期日を定める政令」(平成19年政令第200号)により7月9日に施行されたのが、「新法信託」の関連規定である(図中の②参照。後掲・参考資料では、附則2号に掲げられる条項について全文収載している)。
 契約によってされた信託で新信託法の施行日前にその効力が生じたもの、遺言によってされた信託で施行日前に当該遺言がされたものについては、一部を除き、従前の例によるものとされているが(整備法2条)、これらにつき、信託行為の定めにより、または委託者・受託者および受益者の書面等による合意により、適用される法律を新信託法等とする旨の信託の変更をして、新法の規定の適用を受ける信託とすることができ、当該信託を「新法信託」という(整備法3条)。
 新法信託に関しては、整備法4条が「新法信託においては、新法の規定は、この法律に別段の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する」(同条1項)と定め、同条2項~4項および5条において「旧法信託が新法信託となった場合」の新旧規定の適用関係を規律している。
「自己信託」の施行など  新たに創設された自己信託は、新信託法附則2項により、「この法律の施行の日から起算して一年を経過する日までの間は、適用しない」とされている(図中の④参照)。
 これは、委託者と受託者が同一であるという自己信託が、委託者の債権者を害する目的で濫用されるのではないかといった危惧感から制度の趣旨・内容等の周知のため、経過措置が置かれたものだ。
 なお、目的信託については、信託法案の国会審議中、衆議院法務委員会で附則の修正が図られている。目的信託の濫用的な利用に対する懸念――あらゆる者が受託者としてこの制度を利用することへの危惧感――から、公益を目的とするものを除き、「別に法律で定める日までの間」受託者を限定し、「別に法律で定める日」は公益信託の見直しの状況等を踏まえて定めるものとされた。
政省令の公布状況  9月ころと予定される本格施行に向けて7月4日、①信託法施行令(平成19年政令第199号)、②信託法施行規則(平成19年法務省令第41号)、③信託計算規則(平成19年法務省令第42号)、④「法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則の一部を改正する省令」(平成19年法務省令第40号)がそろって公布された。①~③の詳細については、今号26頁以下を参照されたい(各政省令の位置付け等については、219号15頁参照)。
 7月13日には、⑤「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う法務省関係政令等の整備に関する政令」(平成19年政令第207号)、⑥「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う金融庁関係政令の整備に関する政令」(同第208号)が公布され、不動産登記令、信託業法施行令等が改正されているほか、⑦貸付信託法施行規則(平成19年内閣府令第47号)、⑧担保付社債信託法施行規則(同第48号)、⑨銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令(同第49号)等も公布されており、⑨では信託業法施行規則も改正された。
 いずれも「信託法の施行の日」に施行されるものであるが、今後、法務省関係省令だけをみても、限定責任信託登記規則(6月20日に案公示)、不動産登記規則等の一部を改正する省令(6月29日に案公示)が公布される見込み。新信託法の施行を控えた広範な改正状況には引き続き注意が必要である。


(新法の適用等)
第三条
 前条の規定によりなお従前の例によることとされる信託については、信託行為の定めにより、又は委託者、受託者及び受益者(第一条の規定による改正前の信託法(以下「旧信託法」という。)第八条第一項に規定する信託管理人が現に存する場合にあっては、当該信託管理人)の書面若しくは電磁的記録(新信託法第三条第三号に規定する電磁的記録をいう。)による合意によって適用される法律を新法(新信託法及びこの法律の規定による改正後の法律をいう。以下同じ。)とする旨の信託の変更をして、これを新法の規定の適用を受ける信託(以下「新法信託」という。)とすることができる。
2 委託者が現に存しない場合における前項の規定の適用については、同項中「委託者、受託者及び受益者」とあるのは、「受託者及び受益者」とする。
3 受益者が現に存しない場合(旧信託法第八条第一項に規定する信託管理人が現に存する場合を除く。)における第一項の規定の適用については、同項中「委託者、受託者及び受益者(第一条の規定による改正前の信託法(以下「旧信託法」という。)第八条第一項に規定する信託管理人が現に存する場合にあっては、当該信託管理人)」とあるのは、「委託者及び受託者」とする。
4 委託者及び受益者が現に存しない場合(旧信託法第八条第一項に規定する信託管理人が現に存する場合を除く。)には、第一項の規定は、適用しない。
第六条 旧法信託のうち、旧信託法第六十六条に規定する公益信託については、第三条の規定にかかわらず、主務官庁は、信託の本旨に反しない限り、適用される法律を新法とする旨の信託の変更を命じて、これを新法信託とすることができる。
2 (略)
(担保付社債信託法の一部改正に伴う経過措置)
第十一条
 (略)
2 施行日前に旧担保付社債信託法第二条第一項に規定する信託契約によってした信託については、担保付社債信託法第一条に規定する信託会社は、社債権者集会の決議によって適用される法律を新法とする旨の信託の変更をして、これを新法信託とすることができる。
3 旧担保付社債信託法第三十一条、第三十二条及び第三十四条の規定は、前項の規定により同項の信託を新法信託としようとする場合について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。
4 (略)
(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第十五条
 (略)
2 金融機関が前条の規定による改正前の金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下この項において「旧兼営法」という。)第五条ノ三第一項に規定する定型的信託契約に係る約款に基づく信託契約によって引受けをした信託については、金融機関は、第三条の規定にかかわらず、旧兼営法第五条ノ三の規定の例により、適用される法律を新法とする旨の当該約款の変更をして、これを新法信託とすることができる。
(投資信託及び投資法人に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第二十六条
 第二条の規定によりなお従前の例によることとされる施行日前に締結された投資信託契約に基づく投資信託については、前条の規定による改正前の投資信託及び投資法人に関する法律(以下この条において「旧投信法」という。)第三十条及び第三十条の二(これらの規定を旧投信法第四十九条の十一第一項において準用する場合を含む。)の規定の例により、適用される法律を新法とする旨の投資信託約款の変更をして、これを新法信託とすることができる。
2 (略)
(貸付信託法の一部改正に伴う経過措置)
第三十条
 (略)
2 前項の規定によりなお従前の例によることとされる貸付信託については、第三条の規定にかかわらず、旧貸付信託法第五条及び第六条の規定の例により、適用される法律を新法とする旨の信託約款の変更をして、これを新法信託とすることができる。
3 (略)
4 (略)
5 (略)
(資産の流動化に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第五十六条
 (略)
2 前項の規定によりなお従前の例によることとされる特定目的信託については、その受託信託会社等は、旧資産流動化法第二百六十九条から第二百七十二条までの規定の例により、適用される法律を新法とする旨の特定目的信託契約の変更をして、これを新法信託とすることができる。
3 (略)

<参考条文> いずれも信託法の施行日に施行される。
(旧信託法の一部改正に伴う経過措置)
第二条
 契約によってされた信託で信託法(平成十八年法律第号。以下「新信託法」という。)の施行の日(以下「施行日」という。)前にその効力が生じたものについては、信託財産に属する財産についての対抗要件に関する事項を除き、なお従前の例による。遺言によってされた信託で施行日前に当該遺言がされたものについても、同様とする。
(貸付信託法の一部改正に伴う経過措置)
第三十条
 施行日前に前条の規定による改正前の貸付信託法(次項において「旧貸付信託法」という。)第四条の承認を受けた信託約款に基づく信託契約によってした貸付信託については、第二条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 (上掲参照)
3 前項の規定により新法信託とされた貸付信託の受益証券については、前条の規定による改正後の貸付信託法(以下この条において「新貸付信託法」という。)第八条第四項及び第五項の規定にかかわらず、なお従前の例による。
(資産の流動化に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第五十六条
 施行日前に前条の規定による改正前の資産の流動化に関する法律(以下この条において「旧資産流動化法」という。)第二百二十五条第一項の規定による届出がされた特定目的信託契約に基づく特定目的信託については、第二条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 (上掲参照)
3 前項又は第三条の規定により新法信託とされた特定目的信託においては、新法信託とされる前に受託信託会社等が旧資産流動化法第二百七十一条第四項において準用する会社法第百十六条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告をした場合における当該通知又は公告がされた特定目的信託契約の変更に係る受益権の買取りの手続については、なお従前の例による。

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