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解説記事2007年09月17日 【会計基準等解説】 工事契約に関する会計基準(案)等について(2007年9月17日号・№227)

実務解説
工事契約に関する会計基準(案)等について

 企業会計基準委員会 専門研究員 吉田健太郎

1 はじめに
 企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」という)は、平成19年8月30日に、企業会計基準公開草案第20号「工事契約に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第25号「工事契約に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、両者をまとめて「本公開草案」という)を公表した。本公開草案は、工事契約にかかる工事収益及び工事原価に関し、施工者における会計処理と開示を定めるものであり、10月1日までコメントを募集している。本稿では、本公開草案のポイントを紹介するが、意見にわたる部分については筆者の私見であることを、あらかじめお断りしておく。

2 これまでの経緯  これまで我が国では、長期請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができるとされていた(企業会計原則注解(注7))。このため、同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる可能性があるとの問題点が指摘されていた。この問題点に対応するため、ASBJでは、工事契約に関する収益等の認識方法について、理論的な側面とともに、実務上の問題点についても幅広く検討を重ねてきたが、今般、本公開草案を公表し、幅広く意見を求めることとしたものである。

3 適用範囲  工事契約に係る会計基準及び同適用指針の適用範囲は、「工事契約」と受注制作のソフトウエアとなる。「工事契約」とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容等を顧客の指図に基づいて行うものをいう。請負契約であっても、もっぱらサービスの提供を目的とする取引や、工事を実施するという点で、外形上は工事契約に類似する契約であっても、工事に係る労働サービスの提供そのものを目的とするような契約には適用されないこととされている。
 なお、基本的な仕様や作業内容について顧客の指図に基づいて行う工事を適用対象としていることから、機械装置の製造であっても、標準品を製造するような場合(特定の顧客に対して供給するものでも、あらかじめ主要な部分について仕様の定まったものを量産する場合には、「標準品の製造」に含まれる)には、たとえ、その付随的な部分について顧客に一定の選択が認められているようなときであっても、適用範囲に含まれない。
 受注制作のソフトウエアの制作費については、「研究開発費等に係る会計基準(企業会計審議会平成10年3月)」四1において、請負工事の会計処理に準じて処理するとされていることから、このような取引についても契約の形態(請負契約の形態をとるか、あるいは準委任契約の形態をとるか等)を問わず、本公開草案の適用範囲に含めることとされた。

4 工事契約に係る認識の単位  工事契約に係る認識の単位は、工事契約において当事者が合意した取引の実質的な単位に基づく。したがって、工事契約に係る工事収益及び工事原価は、当該認識の単位ごとに、工事契約に係る認識基準(後述)を適用することにより、認識することとなる。工事契約の実質的な取引の単位が有する特徴は、施工者がその範囲の工事義務を履行することによって、施工者が、取引の相手方から対価に対する確定的な請求権を獲得すること(既に対価の一部又は全部を受け取っている場合には、その受け取った額について、確定的に保有する権限を獲得すること)とされている。なお、工事契約に関する契約書は当事者間で合意した実質的な取引の単位で作成されることが通常であるが、契約書が当事者間で合意した実質的な取引の単位を適切に反映していない場合には、これを反映するように複数の契約書を結合し、又は契約書の一部をもって、工事契約に係る認識の単位とする必要があるとされている。

5 工事契約に係る認識基準の識別  工事契約に係る認識基準の識別については、工事進行基準の適用要件を満たすか否かを検討し、適用要件を満たす場合には工事進行基準を、満たさない場合には工事完成基準を適用する。すなわち、工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準に基づいて工事収益及び工事原価を計上することとなる。
 「成果の確実性が認められる」ためには、決算日までの工事の進捗が最終的に対価に結びつき、工事収益総額、工事原価総額及びそのうち決算日までに成果として確実になった部分、すなわち工事進捗度について、信頼性をもって見積ることができる必要がある。(1)工事収益総額、(2)工事原価総額、(3)決算日における工事進捗度の各要素のうちのいずれかが信頼性をもって見積ることができない場合には、工事完成基準が適用されることとなる。

6 成果の確実性が認められる場合とは
(1)工事収益総額の信頼性をもった見積り
 信頼性をもって工事収益総額を見積るための前提条件として、当該工事が完成する確実性が高いことが必要である。このためには、施工者に当該工事を完成するに足りる十分な能力があり、かつ、工事の完成を妨げるような環境要因が存在しないことが必要となる。
 さらに、信頼性をもって工事収益総額を見積るためには、工事契約において当該工事についての対価の定め(対価の額についての定め並びに対価の決済条件及び決済方法についての定め)があることが必要である。
(2)工事原価総額の信頼性をもった見積り  工事原価は、原価計算基準に従って適正に算定されるが、信頼性をもって工事原価総額を見積るためには、工事原価の見積りが、実際に発生した工事原価と比較できる形で作成されており、工事原価の事前の見積りと実績を対比することにより、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われることが必要である。
(3)工事進捗度の信頼性をもった見積り  決算日における工事進捗度は、原価比例法等、当該工事契約における施工者の履行義務の全体との対比において、決算日における当該工事の履行の割合を合理的に反映する方法を用いてこれを見積るとされている。なお、原価比例法とは、決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって、決算日における工事進捗度とする方法をいう。決算日における工事進捗度の見積り方法として、原価比例法を採用している場合には、「(2)工事原価総額の信頼性をもった見積り」のための要件が満たされれば、通常、決算日における工事進捗度も信頼性をもって見積ることができるとされている。

7 工期との関係について  企業会計原則(注解7)においては、長期の請負工事について工事進行基準と工事完成基準の選択適用が可能としており、これまでは、工期が1年超の工事が、企業の選択によって工事進行基準の適用対象になり得ると解されてきた。しかし、工期が1年以下の工事契約であっても、会計期間をまたぐ工事に関しては工事進行基準を適用すべき場合があると考えられる。このため、本公開草案では、工事契約に関する認識基準を識別する上で、特に工期の長さには言及していない。
 しかし、工期がごく短いものは、通常、金額的な重要性が乏しいばかりでなく、工事契約としての性格にも乏しいケースが多いと考えられる。このような取引についてまで工事進行基準を適用して工事収益総額や工事原価総額の按分計算を行う必要はないと考えられることから、通常は工事完成基準が適用されるものと想定される。

8 成果の確実性の事後的な獲得及び喪失  工事進行基準の適用要件を満たさないことにより、工事完成基準を適用すべきと判断された工事契約については、その後、単に工事の進捗に伴って完成が近づいたために成果の確実性が相対的に増したということのみをもって、工事進行基準に変更することは原則として認められない。
 しかし、例えば、本来工事の着手に先立って定めるべき工事契約の基本的な事項(工事収益総額や仕事の内容等)の決定が遅れていたことで工事完成基準を適用している場合には、その後、工事契約の基本的な内容が決定される等、工事進行基準適用上の障害が取り除かれた時点から、工事進行基準を適用する。
 反対に、工事進行基準を適用していたものの、工事の途中で成果の確実性が失われた場合には、そのような事態が生じた時点以降は工事完成基準を適用する。この場合、それまでに計上した工事収益や工事原価についての事後的な修正は必要ないとされている。

9 工事進行基準の会計処理  工事進行基準が適用される場合には、工事契約にかかる工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上することになる。
 工事収益総額、工事原価総額又は決算日における工事進捗度の見積りが変更された場合には、その見積りの変更が行われた期に、その影響額を損益として処理する。
 なお、工事進行基準を適用した結果、工事の進行途上において計上される未収入額については、特段の定めがない限り、金銭債権に準じて取り扱うものとされている。

10 工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い  工事契約について、工事原価総額等(販売直接経費がある場合には、その見積額を含めた額)が当該工事契約における工事収益総額を超過する可能性が高い場合には、当該超過すると見込まれる額のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金として計上する。これは、工事契約に係る認識基準が工事進行基準、工事完成基準のいずれであるか、また、工事進捗の程度にかかわらず適用される。
 工事損失引当金の繰入額は売上原価に含め、当該工事損失引当金の残高は、貸借対照表の負債の部に計上される。

11 注記事項  工事契約に関しては、次の事項を注記しなければならないとされている。
① 当期に計上した工事収益及び工事原価の額を決定するために用いた工事契約に係る認識基準
② 決算日における工事進捗度を見積るために用いた方法
③ 当期の工事損失引当金繰入額
④ 工事損失引当金が計上されている工事契約について、未成工事支出金等の棚卸資産を計上している場合には、その旨、及び当該棚卸資産の額のうち、工事損失引当金に対応する額(ただし、該当する工事契約が複数存在する場合には、その合計額)
⑤ 平成21年4月1日以後開始する最初の事業年度の期首に存在する工事契約のすべてについて本公開草案を適用した場合、その旨及び過年度に対応する工事収益の額及び工事原価の額

12 適用時期等  平成21年4月1日以後開始する事業年度に着手する工事契約について適用される。ただし、本会計基準のうち、工事損失引当金に係る規定については、平成21年3月31日以前に開始する事業年度に着手した工事契約についても、平成21年4月1日以後開始する事業年度に工事損失が見込まれる場合には、適用されることになる。
 また、平成21年4月1日以後開始する最初の事業年度の期首に存在する工事契約のすべてについて、一律に会計基準を適用することもできるとされており、この場合には、過年度に対応する損益の修正額は、特別利益又は特別損失として計上されることになる(また、このほかに前記11⑤の注記も、別途必要になる点に留意が必要である)。
 なお、工事契約会計基準及び同適用指針の適用については、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされている。
(よしだ・けんたろう)

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