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解説記事2007年10月22日 【制度解説】 組織体制の変更に伴う上場諸規則の体系整備とプログラム2007への対応(2007年10月22日号・№231)

解説
組織体制の変更に伴う上場諸規則の体系整備とプログラム2007への対応

 東京証券取引所上場部企画担当調査役 木村芳彦

Ⅰ はじめに

 東京証券取引所(以下「東証」という)では、今秋、自主規制機能強化に向けた組織体制の変更に併せて上場諸規則全体の体系を見直すとともに、本年4月に公表した「上場制度総合整備プログラム2007」(以下「プログラム2007」という)に掲げる「直ちに実施する事項」(第1次実施事項)を中心として、株主・投資者の保護および尊重を図りつつ、流通市場の機能を適切に発揮させ、上場会社の企業価値および国際競争力の向上を支援する観点から、企業行動に係る制度整備、市場制度の整備および上場規則の実効性確保に向けた制度整備等を図ることを予定している(脚注1)。
 そこで本稿では、今般の上場諸規則の体系整備についての要点・特徴について解説するとともに、併せて制度整備を行うプログラム2007に係る対応の一部を紹介することとしたい。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ 上場規則の体系整備

1.概 要
 現行の上場規則は図表1に示すとおり、その改正に金融庁の認可を要する規則(以下「認可規則」という)として、業務規程の一部である有価証券上場規程があり、その別添として株券上場審査基準(以下「審査基準」という)などの株券に関する各種認可規則が位置付けられている。また、この範囲外のものについては、認可規則のなかに有価証券の種類ごとに有価証券上場規程の特例を設けている。さらに、金融庁への届出で改正が可能な規則(以下「届出規則」という)として、認可規則に関する詳細を定めた、各々の取扱い規則を別途定めている。
 これらの規定は、制定後かなりの年月を経ているため、規定の構造自体が複雑化してしまっており、また使われている用語の定義が別の規則でなされているなど、利用者にとってわかりにくいものになっているという指摘があった。

 また、本年9月の金融商品取引法の施行を受け、東証グループでは自主規制機能の強化および透明性の確保の観点から、東京証券取引所自主規制法人(以下「自主規制法人」という)を設立し、上場規則においても、自主規制業務のうち「有価証券の上場及び上場廃止に関する業務」ならびに「上場有価証券の発行者が行う当該発行者に係る情報の開示に関する審査及び上場有価証券の発行者に対する処分その他の措置に関する業務」を自主規制法人に委託することができる旨を明らかにするとともに、東証と自主規制法人との規則の作成、変更および廃止に関する業務区分を明確にする必要があった。
 そこで、今回の改正において上場規則の体系を大幅に見直すこととした。

2.新しい上場規則の特徴
(1)全体の構成
 新しい上場規則の全体像については図表2を参照されたい。今回の体系整備では、認可規則として全部改正を行った有価証券上場規程(以下、改正後の同規程を「新規程」という)、届出規則として新設する有価証券上場規程施行規則(以下「施行規則」という)とガイドラインという大きく3つの体系に整理している。

 このうちガイドラインについては、自主規制法人が東証の上場規則に則り業務を遂行するときに必要となる細目であるため、同法人が管轄するものではあるが、規則体系上は上場規則と関連付けして位置付けることとしている。
 まず、規則全体の構成について、従来は有価証券上場規程とその特例という形で、有価証券の種類ごとに規則を規定・分類してきたが、新しい上場規則では、規則のなかに新しく編を設け、有価証券の種類ごとに独立した構成とすることで、新規程として一本化し、特例を廃止している。新規程の内規である施行規則も同様である。
 これは、たとえば内国株券の新規上場申請を行う場合に、従来は新規上場の基準については審査基準のなかに規定されている一方、新規上場申請に必要な書類等の手続については有価証券上場規程に規定されているなど、複雑になっていた体系をよりわかりやすくするためのものである。
 この際、条文番号については、法令では最初から通番を振ることが通例であるが、上場規則の利用者は新規上場であればその基準のみを、上場廃止基準であればその基準のみを検索するのが通常であろうから、編や章など内容的にまとまりのあるところで条文番号の百の桁を繰り上げることにより、条文番号をよりわかりやすいものとすることとした(脚注2)。条文番号をみただけでも、編や章の内容を想起しやすいともいえよう(脚注3)。
 また、新規程とその内規である取扱い規則との間の、個々の条文同士の対応関係について、従来は個々の条文にその関連付けが直接明示されておらず、物理的に左右で対照する形に編集しないと、取扱い規則に定めがあるのかないのかがわかりにくい体系であったため、今回、法律の仕組みと同様に、新規程の詳細をその内規である施行規則で定める場合には、新規程の個々の条文において「施行規則で定める」旨を明示することとし、条文間の関係を明確にすることとした。
 その他、これまで同じ規則のなかに混在していた本則市場とマザーズにおける新規上場や上場廃止の取扱いについて、節により完全に分離して定めることとし、その適用関係をより明確にするなどの対応を図ることとしている。
(2)定義規定の新設  今回の改正では、これまで要望の多かった「定義規定」を新規程の最初の編に設けて用語の整理を行い(新規程2条)、上場規則内での適用関係をより明確なものとしている。
 法令においては、定義規定は当該法令の基本となる定義から順番に配置していることが通例であるが、新しい規定では利用者の利便性の観点から、あいうえお順に配置することとした。
 また、法令では、用語が重要な意義を有する場合あるいはその用語の用いられる回数が比較的多い場合にのみ定義のための独立した条文において規定することが通例であるが、やはり利用者の利便性の観点から、特に位置的に離れている条文で用いられている定義については、その頻度が必ずしも多くないものであっても、できるだけ定義規定において規定することとした。
 なお、今回定義規定を設けるにあたり、従来の有価証券上場規程で扱われていた株券(脚注4)、優先出資証券および外国株預託証券に、この改正で新たに規定される外国株信託受益証券(いわゆるJDR)を加えたものを「株券等」と呼ぶこととした(新規程2条18号)。
 株券等は、新たな定義では内国株券等と外国株券等に分けられる。「内国株券等」とは、内国株券および優先出資証券の総称である(新規程2条79号)。また、「外国株券等」とは、外国株券、外国株預託証券および外国株信託受益証券(脚注5)の総称である(新規程2条7号)。
(3)自主規制業務の委託等  今般の東証の組織体制の変更に伴う上場規則の見直しによって、新規上場、上場管理や上場廃止に関して実質的な判断を伴う部分について、その実質的な判断要素を記載したガイドラインを新たに策定するとともに、その作成、変更および廃止に関する業務を自主規制法人に対して委託することとしている。
 この点について、それらの業務を含む当該自主規制法人への上場関係の委託業務全般に関し、自主規制法人が行う審査、調査および報告または資料の提出の請求等に応じなければならない旨を上場規則に明記することとし(新規程3条)、その委託関係が上場規則上でも明らかになるよう手当てを行っている。
 なお、新たに策定するガイドラインは、上場審査等に関するガイドライン(以下「審査ガイドライン」という)と上場管理等に関するガイドライン(以下「管理ガイドライン」という)の2つに分かれるが、前者は新規上場審査、一部指定の審査および上場市場の変更審査に関して従来から「実質審査」と呼ばれる審査の詳細な取扱い規則の範囲を網羅したものであり(脚注6)、後者は会社情報の開示に係る審査、実効性の確保に係る審査および上場廃止に係る審査についての実質的な判断要素を示したものとなっている(脚注7)。

Ⅲ 上場制度総合整備プログラム2007に基づく対応
 次に、プログラム2007に係る対応に基づき改正となる内容について、その主なものを紹介する。本改正は、東証で昨年9月に設置した「上場制度整備懇談会」(座長:神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授)における上場制度の現状と整備の方向性についての議論を踏まえて、本年3月に中間報告という形で提言いただいた内容に基づき、昨年から策定を開始した「上場制度総合整備プログラム」をアップデートする形で本年4月にプログラム2007として取りまとめ(脚注8)、これに沿って対応を図ったものである。

1.企業行動に係る制度整備
(1)企業行動規範の制定
① 概 要
 東証では、上場会社の企業行動に対する規律付けとしては、会社情報の適時適切な開示の履行義務を中心としてきた。しかし近年、世界的なレベルでの競争激化を背景として、会社法その他の法令等における自由化や規制緩和が進んだ結果、企業活動の自由度が格段に高まり、このような環境変化の影響から、市場機能の発揮を阻害するような企業行動、株主・投資者保護に悖るような企業行動が散見されるようになってきた。
 他方、諸外国の証券取引所では、たとえばニューヨーク証券取引所のカンパニーマニュアルの第3章「コーポレート・レスポンシビリティー」やロンドン証券取引所の「コンバインド・コード」にみられるように、それぞれ上場会社の企業行動に一定の規律付けを行うための行動規範を制定することで、市場開設者として市場に対する信頼を維持しようと努めている。
 そこで東証では、昨今の環境の変化と諸外国の例を踏まえて、市場機能の発揮と株主・投資者保護の観点から企業に適切な対応を求める事項を「企業行動規範」としてまとめ、上場規則のなかに制定することとした(新規程第2編第4章第4節)(脚注9)。
② 構 成  適時開示義務を除いて東証がこれまで上場会社の企業行動について一定のお願いをしてきたものとしては、従来の要請事項と規範的要素を含む上場規則があるので、それらを今回制定する企業行動規範に取り込んで再整理するとともに、新たに「総則」「株式等に関する事項」「機関等に関する事項」の3つの項目を付加している(図表3参照)。

 今回新設する項目としては、まず総則として、流通市場の機能と株主の権利の尊重に関する規定がある(新規程432条)。これは企業行動規範全体の通則であり、精神規定としての位置付けである。
 次に、株式関連としては、MSCB等(脚注10)の発行に係る尊重義務を設けている(新規程435条)(脚注11)。これは、本年5月の日本証券業協会における理事会決議により、上場会社が証券会社にMSCB等を割り当てる場合に証券会社に適用されるようになった規制と同様の規制を、上場会社が証券会社を通さずに直接ファンド等に割り当てるケースにも適用できるようにしようとする趣旨であり、上場会社に対して流通市場への配慮と株主の権利の尊重を求めるものである(脚注12)。
 機関関連としては、監査役会または委員会および会計監査人の設置をすべての上場内国株券の発行者に求め(新規程439条)、併せて有価証券報告書に記載される財務諸表等の監査証明等を行う公認会計士等について、会社法によって独立性が強化された会社法上の会計監査人と同一人を選任し、独立性を高めるよう努めることを求める(新規程440条)。
 さらに、書面による議決権行使を定めることについても明示した(新規程436条)。
 その他、上場内国会社に対して、業務の適正を確保するために必要な体制、すなわち内部統制システムの整備に関する機関決定を行うべき旨について義務付けている(新規程441条)。
 これら機関関連の項目は、特にマザーズの上場会社を中心として、会社法上の大会社等に該当しないために会社法上義務付けられていない会社があることから(脚注13)、コーポレート・ガバナンスに係る基本的な事項について、上場会社にふさわしい体制整備を求めるという趣旨のものである。
③ 企業行動規範に違反した場合の対応  図表3では、企業行動規範に違反した場合の東証の対応についても示している。
 ●と◎の項目では公表措置を実施することが可能である点が共通していることからもわかるように、上場会社が企業行動規範に違反した場合には、公表措置によって実効性の確保を図ることを原則としている(新規程508条2項)。
 ただし、○の項目は、従来から公表措置の対象外である要請事項と、今回新設した規範のなかでも精神規定である総則であり、これらについては公表措置の対象から除いている。
 ●の項目は公表措置の前に勧告を行うことができるが、これは従来からそうであったものに加え、今回新設の株式関連・機関関連の項目についても公表措置の前に勧告ができるように整備している(新規程508条1項)。
 なお、機関関連の項目のうち、定款の変更や株主総会での決議が必要な監査役会等の設置および会計監査人の公認会計士等としての選任については、施行日より1年間の猶予期間を設けることとした(新規程付則4条)。
(2)種類株式の発行等に関する取扱い  東証では、昨年3月に買収防衛策の導入等について上場制度を整備しており、株主の権利の不当な制限を行った場合を上場廃止基準に加えている(株券上場廃止基準(以下「廃止基準」という)2条1項17号、新規程601条17号)。
 当該基準については、上場会社による拒否権付種類株式、いわゆる黄金株などの発行を始めとする3つの類型が例として掲げられていたが(廃止基準の取扱い1.(14)、施行規則601条12項)、上場制度整備懇談会の中間報告を受け、東証として、上場会社の種類株式の取扱いについてより明確なスタンスを明示していく観点から、「株主の権利の内容及び行使が不当に制限されていると当取引所が認めた場合」に、次の2つの類型を加えている。なお、次のいずれの行為についても、拒否権付種類株式の発行の場合と同様に、会社の事業目的その他の条件に照らして株主および投資者の利益を侵害するおそれの大小によって上場廃止基準への該当性を判断するという仕組みとしている(管理ガイドラインⅣ6.7.)。
a 上場株券等について、株主総会において議決権を行使することができる事項のうち取締役の過半数の選解任その他の重要な事項について制限のある種類の株券等への変更に係る決議または決定(施行規則601条12項1号d)
b 上場株券等より議決権の多い株式(脚注14)の発行に係る決議または決定(施行規則601条12項1号e)
 東証では、従来から適法性の観点だけでなく投資者保護の観点から上場会社としての適格性を求めている。現行、拒否権付種類株式の発行等を「株主の権利内容及びその行使の不当な制限」として上場廃止の審査対象としているが、今回の改正は、当該拒否権付種類株式の発行等と実質的に同様の効果をもたらす行為について同様の取扱いをしようとするものであって、「株主の権利内容及びその行使の不当な制限」にあたらない場合にまで、買収防衛その他の目的による種類株式の発行自体を制限しようとする趣旨のものではない。

2.実効性の確保に向けた制度整備
(1)特設注意市場銘柄の指定
 上場規則の実効性を確保するための手段としては、現在は改善報告書の徴求(上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(以下「適時開示規則」という)22条、新規程502条)や有価証券報告書等の「虚偽記載」に係る注意勧告(適時開示規則24条、新規程507条)に加え、前述した公表措置等が主流であり、上場廃止には至らないものの、改善報告書の徴求よりも強力な対応が必要と思われる場合の手段がないことが問題として指摘されていた。
 これに対して、上場制度整備懇談会では制裁金の制度や問題銘柄専用の市場区分管理等が提案されたが、今回はプログラム2007の第1次実施事項として整理されている後者について、まずは制度化を図ることとした。
 従来、有価証券報告書等に「虚偽記載」を行うなど上場廃止のおそれが生じた場合には、当該事象について重大性の審査を行い、その結果、「重大性あり」と判断されれば上場廃止となるが(廃止基準2条1項11号a、新規程601条11号a)、「重大性なし」と判断された場合は、現在の枠組みでは特段の措置をとる制度とはなっておらず、その差が大きすぎるという問題があった。
 そこで、「重大性なし」と判断された場合においても、内部管理体制等の状況の確認を行い、改善の必要性が高いと判断された場合には、今回新設する「特設注意市場銘柄」に指定し、継続的な管理を行うこととした(新規程501条1項)。この銘柄指定は、上場会社に対して内部管理体制等の改善を促すと同時に、投資者に対してこのような状況をわかりやすく周知するものとして考えている。
 特設注意市場銘柄に指定された上場会社については、当該指定から1年ごとに内部管理体制確認書(脚注15)の提出を求め、その内容等に照らして、特段の問題が認められなければ指定を解除することとした(新規程501条2項、3項)。
 また、当該確認書の提出が3回目となる場合で、引き続き問題が認められる場合には上場廃止となる枠組みとなっている(施行規則601条9項4号)。
(2)監理ポストおよび整理ポストの呼称の見直し  現在、上場廃止基準に該当するおそれがある銘柄については、その事実を投資者に周知させ、投資者がこれに対応する措置がとれるよう、当該銘柄を「監理ポスト」に割り当て、監理ポストにおいて売買を行わせることにしている(監理ポスト及び整理ポストに関する規則6条)。同様の趣旨から、上場廃止基準に該当し上場廃止が決定した銘柄については、投資者が整理売買を行うことができるよう、「整理ポスト」に割り当て、整理ポストにおいて原則として1か月間売買を行わせた後に上場廃止することとしている(同規則6条、廃止基準の取扱い6.(2))。
 この監理ポスト、整理ポストという呼称は、上場廃止のおそれがある銘柄や上場廃止が決定した銘柄について、その事実を知らずに売買することがないよう、かつて存在した立会場において一般の銘柄とは別の場所を設けて売買を行ったことに由来しているが、立会場が姿を消した現在においては、もはや「ポスト」という考え方は実体のないものとなっていた。加えて、監理ポストには、たとえば、有価証券報告書等に「虚偽記載」を行い、当該事象に係る重大性の審査がどのような結果となるのか不明確な状態、いわば審査期間にあるという状況と、決算発表で債務超過の基準等に該当したことは明らかであるものの有価証券報告書による最終確認を待っているような、いわば形式的な確認期間にあるという状況の2通りのケースがあるが、現在は両者を同様に「監理ポスト割当て」と表示するため、その性格がわかりづらくなっている。
 そこで、前者を「監理銘柄(審査中)」、後者を「監理銘柄(確認中)」に指定すると称することとして、各銘柄の状況をわかりやすく周知できるよう見直しを行った(新規程610条、施行規則605条)。これに併せて、整理ポスト割当てを行う銘柄についても、「整理銘柄」に指定すると称することとする(新規程611条)。
 なお、各種システムの対応および実務上の周知期間等を考慮し、一連の新規則が施行した後しばらくの間は、従来の「監理ポスト」「整理ポスト」という名称を継続して使用する予定であり(新規程付則8条)、来年初め頃を念頭に実際の呼称変更を行いたいと考えている。

3.市場制度の整備-流動性基準の見直し(脚注16)-
(1)株主数基準の見直し
 従来は、上場株式数の増加に応じて上場基準上の所要株主数が逓増する仕組みを採用していたが、一方で投資単位や売買高の水準による優遇措置を設けるなどの対応を図っており(審査基準4条1項2号b、上場株券の市場第一部銘柄指定基準(以下「一部指定基準」という)3条1項2号b、上場株券の市場第一部銘柄から市場第二部銘柄への指定替え基準(以下「指定替え基準」という)2条1項2号、廃止基準2条1項2号b)、その適用を受ける会社が多数にのぼるようになった結果、基準が複雑化して趣旨がわかりづらくなり、基準としての本来の意味も不明確になりつつあった。
 そこで今回、本来の流動性基準という趣旨に照らして、逓増方式の基準を改め、それぞれの基準において一律の数を求めることとした(図表4参照)。

 具体的な一律の数の水準の設定については、現在も優遇措置により多くの銘柄にとって現行テーブルの最低ラインの株主数が基準として適用されている現状に鑑みて、現行テーブルの最低人数が一律の人数となっている(新規程205条1号、308条1号、311条1項1号、601条1号)。
(2)少数特定者持株比率基準の見直し  次に、少数特定者持株比率基準の見直しについてであるが、現在は、主に大株主上位10名の所有する株式を少数特定者持株と称して固定的な株式とみなし、たとえばその割合が上場株式数の75%以下であることを上場維持の要件として求めている(廃止基準2条1項2号a(a))。しかし、最近では上位10名のなかにカストディアンやファンド等の、固定的とはいえないような株主が入ってくることが多くなっており、次第に実態に合わなくなってきていることが指摘されていた。
 そこで、今回の改正では、主に上場株式数の10%以上を保有する株主が所有する株式を固定的な株式とみなすこととし(脚注17)、それ以外の株式を「流通株式」と定義したうえで(新規程2条96号、施行規則8条)、これまでの少数特定者持株比率の基準に替えて、流通株式比率(脚注18)の基準を導入することとした(図表4参照)。
 この基準に関する水準の設定について、たとえば上場廃止基準では、一般株主にできる限り流通の場を提供していくために、流通株式比率が5%未満となるような極端に分布が偏ったケースに上場廃止にすることとした(新規程601条2号c)。
(3)流通株式数・流通株式時価総額基準の新設  従来は、流動性基準の1つとして一定数の上場株式数を求めていたが(審査基準4条1項1号、一部指定基準3条1項1号、指定替え基準2条1項1号、廃止基準2条1項1号)、純粋に流動性を確保する観点からは、むしろ一定の流通株式数を求めることが適当であると考えられるため、これまでの上場株式数基準に替えて流通株式数基準を導入することとした。
 上場株式数は、通常は会社の意思に関係なく減少しないので、これまでの上場株式数の基準では、審査基準と廃止基準との間、あるいは一部指定基準と指定替え基準との間では差を設けずに同じ水準を求めていたが(脚注19)、流通株式数は会社の意思と関係なしに減少することがあるため、水準の設定にあたってはこれらの基準の間に一定の乖離が必要となる。そのうえで、流通株式数は一般に上場株式数の半分程度であることが多いので、それらを考慮のうえ、従来求めていた上場株式数の水準の半分を求めることとし(脚注20)、これまでと同程度の流動性を確保することとした(図表4参照。新規程205条2号a、308条2号a(a)、311条1項2号a、601条2号a)。
 さらに今回、流通株式数を流動性基準の中核として導入することに伴い、流通株式数が一定数あっても、投資単位が極端に低い銘柄では、数千万円といった金額の注文で株価が大きく変動するといった弊害が生じる可能性があるため、このような流通株式数基準の欠点を補強するための基準として、流通株式の時価総額についても一定程度の水準を求めることとしている。
 水準の設定にあたっては、流通株式数が上場株式数の半分程度であることが多いことを考慮し、流通株式数基準と同様、従来の上場時価総額の基準の半分の水準を求めることとした(脚注21)(図表4参照。新規程205条2号b、308条2号a(b)、311条1項2号b、601条2号b)。
 なお、流通株式時価総額の導入に伴い、類似の基準として既に存在している上場時価総額基準の見直しが問題となるが、上場時価総額基準については、銘柄の流動性ではなく上場会社に対する市場の評価の観点から上場適格性を判断する趣旨の基準であるため、流動株式時価総額基準の導入後も引き続き残すこととした(新規程205条3号、308条4号、311条1項4号、601条4号a)。

Ⅳ おわりに
 本稿では、東証の組織体制の変更に伴う上場諸規則の大幅な体系見直しおよびプログラム2007に基づく主な改正内容について、その概要を紹介したが、当該内容について東証では10月下旬から11月にかけて全国主要都市において改めて上場会社説明会を開催する予定であるので、是非ご参加いただきたい22。
 なお、今回の改正はあくまで本プログラムに掲げる第1次実施事項を中心とした対応に過ぎない。東証では、今後も引き続きマーケットの機能を一層高めていく観点から、本プログラムに掲げる第2次実施事項を始めとして、適時適確なアクションを採っていきたいと考えている。
(きむら・よしひこ)

脚注
1 今回の上場諸規則の改正については、金融庁の認可を前提として11月1日の施行が見込まれている。
2 なお、このような条文番号の振り方は、海外の上場規則では珍しいものではない。たとえばNYSE Company Manualでは、Section3の条文は312.03というように百の桁がsectionを表している。また、イギリスのListing Ruleも9.3.11というような条文の定め方をしている。
3 たとえば、第2編第2章「新規上場」が第201条~、第3章「市場区分変更等」が第301条~、第4章「上場管理」が第401条~、第5章「実効性の確保」が第501条~、第6章「上場廃止」が第601条~となっている。
4 従来は、株券は外国株券を含めて規定していた(有価証券上場規程2条2項)。
5 外国株預託証券および外国株信託受益証券を併せて「外国株預託証券等」と総称することとした(新規程2条13号)。
6 たとえば、本則市場の新規上場審査については、企業の継続性および収益性の観点、企業経営の健全性の観点、企業のコーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性の観点、企業内容等の開示の適正性に関する審査の観点などが記述されている(審査ガイドラインⅡ)。
7 たとえば、実効性の確保に係る審査では、改善報告書の徴求、虚偽記載に関する注意勧告、投資単位の引下げ等に係る勧告などに加えて、今回新設される特設注意市場銘柄の指定等について、上場廃止に係る審査では、不適当な合併等、虚偽記載または不適正意見等、上場契約違反等などについて、それぞれの審査の判断要素が記述されている(管理ガイドラインⅢ、Ⅳ)。
8 その概要について、下村昌作「上場制度総合整備プログラム2007の概要と今後の方針」本誌210号22頁参照。
9 制定の背景等を仔細に述べるものとして、下村昌作「企業行動規範の制定に向けた制度要綱の公表と制定趣旨」本誌219号20頁参照。
10 MSCB等の定義については施行規則411条。
11 これに併せて上場規則では、MSCB等の転換または行使の状況に関する開示義務を規定した(新規程410条)。
12 具体的には、上場会社がMSCB等を買い受けようとする者と締結する契約において、新株予約権等の転換または行使をしようとする日を含む暦月において当該転換または行使により取得することとなる株券等の数が当該MSCB等の発行の払込日時点における上場株券等の数の10%を越える場合には、当該10%を超える部分に係る新株予約権等の転換または行使を行うことができない旨等の内容を定めることをいう(施行規則436条)。なお、内藤友則「MSCB等の発行および開示ならびに第三者割当増資等の開示に関する留意点」本誌218号14頁参照。
13 たとえば、監査役設置会社のうち大会社に義務付けられている監査役会の設置は、マザーズの上場会社のうち23.6%では行われていない(東証「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2007」22頁参照)。
14 取締役の選解任その他の重要な事項について株主総会において1個の議決権を行使することができる数の株式に係る剰余金の配当請求権その他の経済的利益を受ける権利の価額等が上場株券等より低い株式をいう。
15 新規上場申請の際に提出する「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」に準じた書面をいう(施行規則501条)。
16 本稿では紙幅の関係で、本則市場(市場第1部・第2部)における基準に限定して記述しているが、併せてマザーズにおいても流動性基準に係る対応を図っている。たとえば、新規上場や上場廃止基準に流通株式比率基準等を新設するが、その水準については若干異なる部分がある(新規程212条1号、2号、同603条1号、2号)。
17 この10%という数字は、金融商品取引法上の「主要株主」の水準を意識したものである。主要株主であれば短期売買利益の返還請求の対象となるので、通常、流動的な株式とは考えにくいからである(金商法164条)。なお、米国でも10%以上を保有する株主が所有する株式等を固定株式として扱っている(NYSE Company Manual§102.01)。
18 上場株式に占める流通株式の比率をいう。
19 新規上場および上場廃止については4,000単位、一部指定および指定替えについては2万単位としていた。
20 たとえば上場廃止基準では、従来求めていた上場株式数の水準(4,000単位)の半分である2,000単位としている。
21 たとえば上場廃止基準では、従来求めていた上場株式時価総額の水準(10億円)の半分である5億円としている。
22 説明会への参加については、http://www.tse.or.jp/learning/seminar/jyojyo/new-tdnet/index.html参照。なお、今回の規則改正を踏まえた上場関係規則集についても11月に発刊する予定で準備を進めている。詳細については近日中に東証ホームページ(http://www.tse.or.jp/)等でご案内させていただく。

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