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解説記事2008年04月14日 【制度解説】 監査報酬の開示・監査人異動時の開示に係る内閣府令改正の要点(2008年4月14日号・№254)

実務解説
監査報酬の開示・監査人異動時の開示に係る内閣府令改正の要点

 前金融庁総務企画局企業開示課課長補佐 野崎 彰
 金融庁総務企画局企業開示課専門官 徳安亜矢

Ⅰ はじめに

 平成19年6月27日に公布された「公認会計士法等の一部を改正する法律」(平成19年法律第99号)(以下「改正法」といい、改正法による改正後の公認会計士法を「法」という)においては、会計監査の充実・強化を図り、企業開示に対する国民の信頼を確保していく観点から、①監査法人等における品質管理・ガバナンス・ディスクロージャーの強化、②監査人の独立性と地位の強化、③監査法人等に対する監督・責任の見直し等の措置が講じられ、技術的・細目的事項を定める関係政令・内閣府令(脚注1)について新設・改正が行われたところである(脚注2)(改正法の内容について、大来志郎・町田行人「会計監査の充実・強化に係る公認会計士法等の改正の要点」本誌222号20頁、関係政令・内閣府令の内容について、三橋葉子「改正公認会計士法の施行に伴う政府令整備の要点」251号23頁参照)。
 他方、平成18年12月に取りまとめられた金融審議会公認会計士制度部会報告(以下「制度部会報告」という)においては、監査人の独立性と地位の強化のための施策の一環として、改正法および関係政令・内閣府令により対応された事項に加え、監査報酬の開示および監査人異動時の開示について、充実・強化を図っていくことが提言されたところである。
 これを踏まえ、今般、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(平成20年内閣府令第10号)(以下「本府令」といい、本府令に基づく改正を「本改正」という。また、本改正による改正後の企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和48年大蔵省令第5号)を単に「開示府令」という)が、平成19年12月26日から本年1月28日までの意見公募手続(パブリック・コメント)を経て、本年3月28日に公布されている。
 本稿では、本改正のうち、においては監査報酬の開示に関する事項、においては監査人異動時の開示に関する事項、においては適用時期等について解説を加えることとする。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ 監査報酬の開示
 制度部会報告においては、財務書類の信頼性を高め、監査の質を確保する観点からは、どのような対価のもとでの監査を経て作成された財務書類であるかについて、企業が一層の説明責任を果たすことが求められると提言されている。
 かかる観点からは、被監査会社と監査法人等の双方において、情報開示の充実・強化を図っていくことが重要である。
 この点、たとえば監査法人による開示としては、改正法において、会計年度ごとに業務および財産の状況に関する説明書類の公衆縦覧が義務付けられ(法34条の16の3第1項)、施行規則において、被監査会社の数を含む監査証明業務の状況、社員の報酬決定に関する事項、直近2会計年度の売上高の総額(監査証明業務・非監査証明業務の内訳)などが説明書類の記載事項とされたところである(公認会計士法施行規則39条)。
 このように監査法人等側からの開示については、改正法および関係内閣府令において、監査報酬についての適切な情報の開示が求められることとなっている。
 これに対して、被監査会社による有価証券届出書および有価証券報告書(以下「有価証券報告書等」という)による監査報酬の開示については、従前は必ずしも明確に義務付けられていない(脚注3)、開示のベースが連結・単体など企業ごとに区々であり、比較可能性が乏しい等の問題点が指摘されてきたところである。
 これらの指摘を踏まえ、今般、開示府令の各様式および記載上の注意を改正し、次のような措置を講じたところである。

1.監査報酬の開示の義務付け  被監査会社による監査報酬の開示については、会社法上の事業報告においてすでに義務付けられていること、前述の有価証券報告書等における監査報酬の記載上の注意における例示的な開示が導入されて以降一定期間経過し、実務上も定着しつつあることに鑑み、有価証券報告書等において明確に義務付けることが適当と考えられる。
 このような考え方を踏まえ、表1に掲げた第2号様式(脚注4)におけるように、「第二部【企業情報】」第4の6を改め、現行の「(1)【コーポレート・ガバナンスの状況】」欄の次に「(2)【監査報酬の内容等】」欄を新設して、監査報酬の開示を明確に義務付けている。


2.開示のベースの統一  開示のベースについては、①最近2連結会計年度において、②提出会社およびその連結子会社が、③提出会社の財務書類・内部統制報告書について監査証明を行う公認会計士・監査法人に対して支払う報酬について、監査報酬と非監査報酬に区分して記載することとして、その開示ベースを統一し、監査報酬の比較可能な形式での開示を求めることとした(表1中の(2)①参照)。

3.記載内容  表1の記載内容については、次の内容の記載が求められている。
(1)監査公認会計士等に対する報酬の内容  「監査公認会計士等」とは、「財務書類監査公認会計士等」または「内部統制監査公認会計士等」をいう(開示府令19条2項9号の2参照)。
 財務書類監査公認会計士等とは、提出会社の財務計算に関する書類(脚注5)について金融商品取引法193条の2第1項に基づき監査証明を行う公認会計士(脚注6)もしくは監査法人をいい、また、内部統制監査公認会計士等とは、提出会社の内部統制報告書(脚注7)について、金融商品取引法193条の2第2項の規定により監査証明を行う公認会計士(脚注8)もしくは監査法人をいう。
 開示府令においては、提出会社および提出会社の連結子会社が、最近2連結会計年度において、提出会社の監査公認会計士等に対して支払った、または支払うべき報酬(脚注9)について、監査報酬と非監査報酬に区分して記載することが求められている(たとえば、第2号様式・記載上の注意(52-3)a)。
 これは、提出会社と連結子会社の監査公認会計士等が同一の場合には、連結子会社を含めた監査報酬の全体像が開示される必要があると考えられるため、監査公認会計士等に対する報酬
の内容の記載欄において報酬の開示が求められているものである。
 もっとも、提出会社と連結子会社の監査公認会計士等が異なる場合であっても、当該連結子会社が支払う監査公認会計士等に対する報酬については、必要に応じて表1中の②の「その他重要な報酬の内容」として開示されることになるものと考えられる。
(2)その他重要な報酬の内容  次に、(1)に述べた報酬のほか、提出会社の監査報酬等の内容として重要な報酬の内容の記載が求められる(表1中の(2)②参照)。
 このような重要な報酬の内容の例示として、様式上の記載上の注意においては、提出会社の連結子会社の財務書類について監査証明業務に相当すると認められる業務を行う者(監査公認会計士等と同一のネットワークに属する者に限る)に対して支払う報酬の内容が挙げられている(第2号様式・記載上の注意(52-3)b)。
 同一のネットワークとは、共通の名称を用いるなどして2以上の国においてその業務を行う公認会計士または監査法人および外国監査事務所等に属するものと定義されている。
 もっとも、当該事項はあくまで例示であり、その他の監査報酬の内容についても、その重要性に応じて記載が求められる。
(3)監査公認会計士等の提出会社に対する非監査業務の内容  監査公認会計士等の提出会社に対する非監査業務については、当該業務の内容も併せて開示することによって、全体として、監査公認会計士等が非監査報酬に依存する程度についての実態が明らかになると考えられる。
 このような点を踏まえ、当該非監査業務の内容の記載を求めるものである(表1中の(2)③参照)(第2号様式・記載上の注意(52-3)c)。
(4)監査報酬の決定方針  監査報酬の決定方針として、提出会社が監査公認会計士等に対して支払う報酬の額の決定に関する方針を定めているときは、当該方針の概要を記載することが求められている(表1中の(2)④参照)(第2号様式・記載上の注意(52-3)d)。
 このような事項の開示が求められているのは、提出会社の監査公認会計士等の報酬決定方針が監査人の独立性の観点から適切に決定され、また監査報酬が、監査日数、被監査会社の規模、体制等の要素を勘案して、適切に決定されることを担保する観点から開示対象としたものである。
 もっとも、会社法上も、監査報酬の決定方針の策定等は義務付けられておらず、監査報酬の決定方針の策定に関する実務上の浸透には一定の期間を要することが見込まれるため、被監査会社において監査報酬の決定方針を自主的に定めている場合にのみ、その旨およびその内容の開示を義務付けることとしたものである。

Ⅲ 監査人異動時の開示
 制度部会報告においては、監査人の交代については、監査人の独立性や地位が脅かされる形での交代を防止する等の観点から、交代が生じた際の情報開示についてその充実・強化を図っていくことが適当であり、交代があった旨に加えて交代の理由についても十分な開示を求めていくことが検討されるべきである、また、証券取引法上(現行法のもとにおいては金融商品取引法上)の臨時報告書やその後の有価証券報告書等においても上場会社以外の開示会社も含めて適切な開示が求められるべきであるとの提言がなされた。
 さらに、監査人の交代があった場合、監査人からも適時に開示がなされることが重要であり、監査人交代の際に会社と監査人との間に意見の不一致があった場合等においては、たとえば、会社が提出する臨時報告書等を通じて監査人から適切な開示が行われていくよう制度の整備が図られるべきであるとする提言もなされている。
 これらの指摘を踏まえ、今般、本改正において、開示府令19条2項に9号の2を追加し、監査人の異動時において臨時報告書の提出を義務付けることとしたものである。

1.臨時報告書の提出が必要となる場合  臨時報告書の提出が必要となる場合は、次のいずれかに該当する場合である(開示府令19条2項9号の2)。
① 提出会社において、監査公認会計士等の異動が当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合、または、
② 監査公認会計士等の異動が発生した場合(①の時点において臨時報告書を提出している場合を除く)
 なお、業務執行を決定する機関とは、監査公認会計士等の選任または終任につき最終決定権を有する機関だけではなく、実質的に会社の意思決定と同視できるような意思決定を行うことのできる機関で足り、選任または終任の事由や各会社における内部規定等の個別具体的な事情によって異なりうると解される。

2.異動の定義  開示府令において、異動とは、次のいずれかに該当する場合をいう(開示府令19条2項9号の2)(脚注10)。
① 財務書類監査公認会計士等であった者が財務書類監査公認会計士等でなくなること
② 財務書類監査公認会計士等でなかった者が財務書類監査公認会計士等になること
③ 内部統制監査公認会計士等であった者が内部統制監査公認会計士等でなくなること
④ 内部統制監査公認会計士等でなかった者が内部統制監査公認会計士等になること
 ただし、開示府令においては、有価証券報告書提出会社が上場等により内部統制報告書を初めて提出することになった場合であって、財務書類監査公認会計士等が内部統制監査公認会計士等を兼ねる場合については異動に該当しないことが規定されている。
 これは、このような内部統制監査公認会計士等の就任の場合は、財務書類について監査を行う公認会計士または監査法人が金融商品取引法上の要請により内部統制報告書についても監査することになったにすぎないものである(脚注11)。
 このため、監査人の交代について監査人の独立性や地位が脅かされる形での交代を防止するという制度の趣旨に鑑みると、このような内部統制監査公認会計士等の就任についてまで臨時報告書の提出を求める意義は乏しいと考えられることから、異動に該当しない旨を明確化したものである(脚注12)。

3.開示内容  監査公認会計士等の異動に該当する場合に開示が要求される事項は、表2に掲げたとおりである。


Ⅳ 施行期日および経過措置

1.施行期日
 本府令は平成20年4月1日から施行されている(本府令附則1条)。
 ただし、2に述べるような経過措置を講じている。

2.経過措置 (1)監査報酬の開示  監査報酬の開示については、次のとおりである(本府令附則2条2項)。
① 有価証券報告書の様式の改正は、平成20年4月1日以後に開始する事業年度に係る有価証券報告書について適用する。
② 有価証券届出書の様式の改正は、有価証券報告書の提出義務者については改正後の有価証券報告書を提出した日、それ以外の者については平成21年7月1日から適用される。
(2)監査人異動時の開示  監査人異動時の開示については、平成20年4月1日以後に開始する事業年度に係る財務書類に関する書類等の監査証明を行う監査公認会計士等の異動が当該提出会社により決定された場合または当該異動があった場合から適用され、施行日前に開始した事業年度に係る監査公認会計士等の異動については、適用されない(本府令附則2条1項)。
 適用関係については、を参考とされたい。
(のざき・あきら/とくやす・あや)



脚注
1 公認会計士法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成19年12月7日政令第356号)、公認会計士法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令(平成19年12月7日政令第357号)、公認会計士法の審判手続における参考人及び鑑定人の旅費及び手当に関する政令(平成19年12月7日政令第358号)、公認会計士法施行規則(平成19年12月7日内閣府令第81号)、公認会計士法の規定による課徴金に関する内閣府令(平成19年12月7日内閣府令第82号)、特定社員登録規則(平成19年12月7日内閣府令第83号)、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(平成19年12月7日内閣府令第84号)、有限責任監査法人供託金規則(平成19年12月7日内閣府・法務省令第8号)、外国監査法人等に関する内閣府令(平成20年3月14日内閣府令第9号)。
2 改正法および関係政令・内閣府令は、平成20年4月1日から施行されている。
3 改正前の開示府令では、様式(記載上の注意)において、コーポレート・ガバナンスの状況に関する事項の記載の例示として、監査報酬の内容(公認会計士法2条1項に規定する報酬とそれ以外の業務に基づく報酬に区分した内容)が掲げられていた。
4 表1は便宜上第2号様式を念頭に置いているものであり、その他の様式の記載例については別途各種様式の記載を参照されたい。
また、第7号様式、第7号の4様式、第8号様式および第9号様式においては、監査報酬の開示につき監査公認会計士等および公認会計士法1条の3第7項に基づく外国監査法人等を含めた外国監査公認会計士等を対象とする記載となっていることに留意されたい。
5 金融商品取引法193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類をいう。
6 公認会計士法16条の2第5項に規定する外国公認会計士を含む。
7 金融商品取引法24条の4の4第1項に規定する内部統制報告書をいう。
8 脚注6と同様である。
9 記載を要する監査公認会計士等に対する報酬の内容として、「監査証明業務に基づく報酬」については、各連結会計年度の財務計算に関する書類等の監査証明業務に係る報酬を記載することが想定されており、「非監査業務に基づく報酬」については、各連結会計年度において費用計上した金額を記載することが想定されている。
10 たとえば、既存の財務書類監査公認会計士等に加えて新たに財務書類監査公認会計士等が選任されて共同監査となる場合等必ずしも監査公認会計士等の辞任を伴わない場合においても開示が必要となることに留意を要する。
11 なお、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」および「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(平成19年2月15日・企業会計審議会)においては、「内部統制監査は、原則として、同一の監査人により、財務諸表監査と一体となって行われるものである。内部統制監査の過程で得られた監査証拠は、財務諸表監査の内部統制の評価における監査証拠として利用され、また、財務諸表監査の過程で得られた監査証拠も内部統制監査の証拠として利用されることがある。」と、原則として内部統制監査公認会計士等と財務諸表監査公認会計士等が同一となることを前提としている。
12 これに対して、有価証券報告書提出会社でなかった会社が、金融商品取引法上の規定に基づき、初めて有価証券届出書を提出すること等により、有価証券報告書提出会社になる場合においては、当該有価証券届出書等の一部である財務計算に関する書類について、公認会計士等により監査が要求されていることから、通常は臨時報告書の提出義務が発生する時点において財務書類監査公認会計士等に該当する者が選任されており、かかる場合において通常は「財務書類監査公認会計士等でなかった者が財務書類監査公認会計士等になること」に該当しないものと解釈することが可能なのではないかと考えられる。

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