コラム2008年04月28日 【Sammys Cafe】 株式の価格決定と裁判における算定(2008年4月28日号・№256)
コンプライアンスの秘訣を指南するみんなの会社法
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株式の価格決定と裁判における算定
by TMI総合法律事務所 弁護士 葉玉匡美
港区の一角に、ちっぽけなカフェがある。そこは、なぜか会社法に詳しいマスターが、悩み多き法務担当者に心休まるコーヒーを差し出す大人の隠れ家。
Welcome to SAMMYS Cafe
財務部長 休眠子会社を簡易合併したら、外国のファンドが株式買取請求権を行使してきたよ。いくらで買い取ればいいのかなぁ。
Sammy 部長の会社は、最近、株価がぐっと下がっていますから、相手は裁判所に価格決定の申立てをして高値で買い取らせるつもりかもしれません。難問です。
1 公正な価格
M&AやMBO等が活発になるに伴い、株式買取請求権を行使した少数株主等が裁判所に価格決定の申立てをすることが多くなりました。ときには、上場会社が子会社を簡易合併するときに市場よりも株式を高く売却する手段として申立てをすることもありますし、非上場化された会社の少数株主がスクイーズアウトされるときに申し立てることもあります。
会社法では、合併等によりシナジー効果がある場合には、それも織り込んだ「公正な価格」となりますし、逆に、合併等を原因として株価が下落した場合には、旧商法同様、合併等がなかったと仮定した場合の「公正な価格」が買取価格になりますから、株式買取請求権は、株主の投下資本回収手段として、それなりに魅力的です(もっとも、上場会社では合併等がなくても株価が騰落するため、その仮定を株価にどう反映させるかという点は難問ですが)。
また、簡易合併等では、合併等の決定後に株式を取得した者が株式買取請求権を行使することもあります。時価よりも平均株価の方が高いときに、平均株価で買い取らせて儲けるためですが、そのような株主は、合併等を知って取得しているわけですから、合併等により価格が下落していたとしても、合併等がないものと仮定した価格で公正な価格を算定すべきではありません。
その場合、株主が株式を取得した時期が合併等の公表前か後かで価格が異なることになりますが、株式買取請求権は、株主ごとに協議で決めるので、もともと株主間で価格が同一になることは保障されていませんし、複数の株主が価格決定の申立てをしたとしても、その審理は必要的に併合されるわけではなく、決定の効力も第三者に拡張しませんから、株主ごとに「何が公正な価格か」を考え、結果的に価格が異なることは法律上も予定されています。
結局、「公正な価格」は、会社の規模・性質や、株主が株式買取請求権を行使するに至った経緯等を踏まえて、裁判官が株主ごとに自由裁量で判断することになります。
2 株価の算定方式
裁判官の自由裁量とはいえ、実際の裁判では、会社と株主がそれぞれ株価の鑑定書を提出し、裁判官はその鑑定書を参考に「公正な価格」を決定します。上場株式は市場価格というベースがありますから、合併等の効力発生日の時価または効力発生日前(もしくは合併等の公表前)1~6か月間の加重平均株価とするのが通常です。このため、裁判の争点は、どの期間の株価を採用するのが最も合理的かという点に集約されます。
これに対し、非上場株式の場合は、純資産価額方式、類似業種比準方式、配当還元方式、DCF方式など様々な算定方式がありますから、裁判では、まず、どの算定方式を採用するかが問題となり、次に、算定の基礎資料としてどのような資料を採用するかなどが争点となり、最後に、裁判官が適当に調整するというプロセスをとります。
純資産価額方式は、資産と負債の差額を株式の価値とする方法ですから、資産保有会社や売上等と比べて非常に優良な資産を保有している会社等には向いていますが、たくさんのお得意様や有名なブランドを持っていても、それらを株価に反映させるのは難しく、継続的な事業の価値を把握するには不適当な方式です。
配当還元方式は、将来の配当額を現在価値に引き直して評価する方法です。配当額が適切に評価できるのならば、事業の価値を評価するための有効な算定方式ですが、配当を継続的に行っている会社でなければ適用することは困難です。また、実際の配当額は多数派株主の意思によって決定されるため、無配当または低配当により株価が恣意的に安価に設定される可能性もあります。このため、非公開会社の従業員持株会のように預貯金的な仕組みのなかで従業員が購入した株式や、上場会社の配当優先株等の評価には適していますが、一般的には使いづらい算定方式です。
このような理由から、事業継続を前提とした株価の算定には、類似業種比準方式(事業内容、企業規模等を参考に比較の対象とする上場企業を選択し、純資産額や純利益額を比較して、当該上場株式の株価との比較対照から株価を算定する方法)またはDCF方式(将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を見積もり、年次ごとに割引率を用いて求めた現在価値の総和を基礎として株価を求める方式)を用いることが多いのです。
3 算定の基礎資料
類似業種比準方式は、比較対照するのにふさわしい上場会社が複数あれば、客観的な株価の算定ができます。他方、株価算定の対象となる会社が再建中の会社であったり、事業の内容が特殊または多様で比較対照する上場会社の選定が難しい場合には、算定の信頼性が薄れます。また、株価に事業の将来の成長力やブランド価値を織り込むことは困難であり、客観的である反面、硬直的でもあります。
他方、DCF方式は、事業自体の価値を算定する方式として優れているため、裁判所も、最近はDCF方式を重視する傾向にあります。ただ、DCF方式の最大の難点は、将来のFCFの予測に恣意性が働きやすいということです。経営陣が、中期経営計画等を楽観的に作れば、実態以上に株式の価値が高くなり、逆に、経営者が将来のFCF予測を小さく見積もり、株価を低く抑えてしまうことも可能です。そのため、株主が将来のFCF予測について客観的資料を持っていない場合には、DCF方式による株価算定が株主の予測を大きく下回るリスクがあります。
また、非支配者ディスカウント(少数株式のみを購入する者は少ないということを理由とした値引き)や非流動性ディスカウント(非上場株式を購入する者は少ないということを理由とした値引き)等を施すかどうかも問題です。価格決定の申立ては、会社の合併等に反対する株主に適正な投下資本回収の機会を与えるための制度であり、売却先や売却時期を自由に選定できることを前提としたディスカウント率をそのまま施すのが適当ではない場合もあります。実際、カネボウ事件の地裁決定では、それらのディスカウントは採用しませんでしたが、事情によっては、ディスカウントした方が妥当な場合もあり、そのさじ加減は、今後の判例の積重ねによって相場観が形成されるものと思います。
財務部長 結局、株取引の経験もないような裁判官の胸先三寸で決まるって、なんだか怖いね。いっそ、裁判所に「なんとか鑑定団」の出張鑑定を呼んだらどうだろう。
Sammy 鑑定士が株券を虫眼鏡でみながら「いい仕事してますねえ」とか褒めてくれたら、当事者の心も和むでしょうね。鑑定もすぐに終わるからよいことづくめです。会社法の次期改正でぜひ実現してもらいましょう(笑)。
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