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コラム2008年06月30日 【編集部レポート】 ライブドア有報虚偽記載事件と金商法21条の2の適用(2008年6月30日号・№264)

ライブドア有報虚偽記載事件と金商法21条の2の適用
東京地裁、ライブドアに95億円余の支払いを命じる

 東京地裁民事第15部(阿部潤裁判長)は6月13日、ライブドアホールディングス(旧商号・ライブドア)の平成16年9月期の第9期有価証券報告書または平成17年9月期の第10期半期報告書に虚偽記載等がされていたとの公表により同社株式の株価が急落して損害を被ったとし、複数の機関投資家が金融商品取引法21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)に基づき損害賠償を求めていた訴訟で、原告の請求を一部認容し、ライブドアHDに対して95億4,400万円余の支払いを命じる判決を言い渡した。同規定に基づく損害賠償請求を認めた初めての事例とみられる。

事件の主な関係者  事件の主な関係者をにまとめた。原告はいずれもいわゆる機関投資家として、信託5社にあっては年金基金等と信託契約を締結し、信託財産の管理・運用等に係る受託者・再受託者としてライブドア株式に投資していたもので(原告⑤については、バークレイズ・グローバル・インベスター信託銀行から受託者たる地位の譲渡を受けて信託財産を承継したものを含む場合がある)、原告の相違および原告への委託者の相違により提起された7つの事件につき併せて判断された恰好となっている。
 各事件ごとの請求金額を合わせると総額は108億8,145万4,494円にものぼる。東京地裁の認容額は95億4,457万5,096円である。
 裁判所の認定事実によると、原告らは平成17年5月25日から平成18年1月13日までの間にライブドア株式に投資してこれを取得、1月17日から31日にかけてこれを売却した。


ライブドア側の動き  一方のライブドアは、積極的に合併・買収を展開、株式分割による株価の上昇を図るなどして企業規模を急速に拡大させ、ライブドアグループを形成していったところ、なかでも最高経営責任者(CEO)Hは、ライブドア株式の時価総額を増大させるため、経常利益の増大を図ることに強い関心を抱いていた。
 インターネット関連業務の業績の増大には限界があることから、ライブドア、Hおよび最高財務責任者(CFO)Mらは共謀のうえ、さらに、企業買収の際の株式交換を利用してライブドア株式を高値で売り抜けて利益を得たうえ、それをライブドアの売上に計上して経常利益を増大させることとし、その過程に投資事業組合を介在させて、ライブドア、HおよびMらの関与を発覚しにくくするとともに企業会計処理等による規制を免れようと企て、結果、平成16年5月20日、同社取締役会における承認に基づき、同年3月中間期連結経常利益が21億2,000万円であるとし、同年9月期の連結業績予想を連結経常利益50億円に上方修正する内容の中間決算短信(連結)を公表した。
 しかしながら、通期の連結経常利益50億円を達成するには経常利益が約21億円不足している。ライブドア、HおよびMらは、既に買収済みであったが同期の連結対象に含めていなかったA社・B社の2社に対する架空の売上を計上し、予想値の達成を企て、結果、平成16年11月18日の取締役会で、同年9月期の連結経常利益を50億3,421万1,000円とする連結損益計算書等が承認された(ライブドア株式の売却益計上、上記2社への架空売上計上がなかった場合、連結経常損失が3億1,278万円程度発生するところだった)。
 また、ライブドア、HおよびMらは共謀して、ライブドアファイナンス(以下「LDF」という)が平成16年6月に投資事業組合名義で買収した出版業等を営むM社について、M社の企業価値を過大に評価した株式交換比率でバリュークリックジャパン(以下「VCJ」という。その後、ライブドアマーケティング)の完全子会社とする旨の株式交換を公表するとともに、VCJ株式を100分割する旨も公表し、さらに、架空売上を計上するなどして虚偽の業績を発表することにより、VCJの株価を維持上昇させ、株式交換により実質的にLDFが投資事業組合名義で取得するVCJの株式を売却し、その売却益を連結売上に計上するなどして利益を得ようと企て、結果、同年10月25日、株式交換比率の決定過程において虚偽の内容を含む事実の発表を行い、11月12日、VCJについて経常損失および当期純損失が発生していたにもかかわらず、平成16年12月期第3四半期において前年同期比で増収増益を達成、前年中間期以来の完全黒字化への転換を果たした旨の虚偽の内容を含む事実を発表。
 ライブドアは平成16年12月27日、経常利益を50億3,421万1,000円と記載した内容虚偽の連結損益計算書を掲載した本件有価証券報告書を関東財務局長に提出(公衆縦覧期間は同日から5年間)。また、平成17年6月27日には、VCJの株式売却益約6億9,000万円を連結売上に含めるなどした本件半期報告書を提出した(公衆縦覧期間は同日から3年間)。

事件の主な争点と金商法21条の2  事件の争点を表1にまとめた。主に金融商品取引法21条の2が焦点となっており(表2参照)、判決ではおおむね争点順に判断が示される。

【表1】事件の主な争点

(1) 本件有価証券報告書および本件半期報告書の虚偽記載等の有無
 ア 本件有価証券報告書および本件半期報告書の「重要な事項」について虚偽記載があるかどうか。
 イ 本件有価証券報告書に「重要な事項」あるいは「重要な事実」の記載欠缺があるかどうか(上場廃止に該当する事由が「重要事項」あるいは「重要な事実」に該当するかどうか。上場廃止のリスクを記載する義務があるかどうか)。
(2) 本件有価証券報告書および本件半期報告書の虚偽記載等の公表の有無
 ア 公表の主体は誰か(検察官を含むかどうか)。
 イ どの程度の事実がどのようにして伝達された場合に「公表」があったといえるかどうか(一部の事実の伝達は「公表」といえるかどうか。最初の事実の伝達が「公表」といえるかどうか)。
 ウ 本件において、本件有価証券報告書および本件半期報告書の虚偽記載等の事実が公表されたかどうか。公表されたとすればそれはいつか。
(3) 損害賠償請求権の成否
 有価証券報告書の虚偽記載等と原告らのライブドア株式の取得との間に因果関係の存在が必要かどうか。
(4) 損 害 額
 ア 推定される損害はいくらになるか。
 イ 損益相殺は認められるかどうか。
 ウ 虚偽記載等以外による値下がりがあったかどうか。それはどの程度か。


【表2】金融商品取引法21条の2と争点との関係

金商法21条の2条文(下線は編集部)
対応する争点
(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
第二十一条の二
 第二十五条第一項各号(第五号及び第九号を除く。)に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第十二号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第二十四条の七第一項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第十九条第一項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。


→(1)ア
→(1)イ







 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。 →(2)ア、イ、ウ
→(2)ウ


→(3)、(4)ア

 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第二十五条第一項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。 →(2)ア


→(2)イ

 第二項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。


 前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。

→(4)ウ



 金商法21条の2は、平成15年12月24日に取りまとめられた金融審議会金融分科会第一部会報告「市場機能を中核とする金融システムに向けて」における「3市場監視機能・体制の強化」の項目中、「課徴金制度の導入」とともに「民事責任規定の見直し」としてなされた提言を踏まえ、平成16年の証券取引法改正(平成16年法律第97号による)により新設された規定である。第一部会報告では、「証券取引法違反に対する民事訴訟を通じた責任追及があまり行われていないのは、そもそも不実開示などの違反行為が発見されにくいことに加え、原告による損害額の立証が事実上困難である」といった問題意識のもと、「例えば、重要な不実開示がある場合について、不実開示を行った者と投資家との間で実質的な立証の負担のバランスを図るため、損害額を推定する規定を設けるなど一定の立法上の措置を設けることが望ましい」という提言がなされている。
 この規定の最も大きな意義は、同条2項の損害・損害額と因果関係の推定規定にあり、投資家の損害等は「虚偽記載等の事実の公表」「公表日前一年以内の当該有価証券の取得・所有」といった一定の要件を充たせば認められることとなる。立証責任は大幅に軽減されており、立法者の意思どおり民事責任追及は格段に遂行しやすいものとなろう。同項を含めた立法趣旨が判決でも端的に説明されているので、次のとおり紹介しておく(なお、本事件が本改正施行直後の事件であったことが末尾に付記されている)。
上記の規定(編注・金商法21条の2)によって、投資判断の重要な資料である有価証券報告書等に虚偽記載等がある場合には、それによって損害を被った投資者が取得すべき損害賠償請求権のうち、類型的に生ずるものと認められる損害で、類型的に因果関係があると認められる損害については、違法性が重大であること、投資者による故意又は過失の立証が困難であること、発行市場における民事責任(18条)との平仄などから、一般の不法行為の特則として有価証券報告書等の提出者に無過失責任を課した上、損害の有無及び因果関係の立証が困難であることなどを考慮して、投資家保護のために、因果関係及び損害額を推定して(21条の2第2項)、その立証を軽減することとした。その一方で、衡平を図るために、有価証券報告書等の提出者において、虚偽記載等以外による値下り部分を立証することによって損害額の減免を認め(同第4項)、その立証ができない場合であっても、さらに裁判所による裁量的減免を認めること(同第5項)とした(そして、この21条の2の規定は、平成16年12月1日から施行されたから(上記平成16年法律第97号の附則1条3号)、同月27日に提出された本件有価証券報告書の虚偽記載等に基づく本件各損害賠償請求事件に適用されることになる。)。

本件有価証券報告書等の虚偽記載の有無  それでは、各争点についてどのような判断が示されたのかを、おおむね争点の順に紹介していくこととする。
 まず、争点(1)ア表1参照。以下同様)に関しては、表3のように述べられ、本件有価証券報告書についてのみ「重要な事項」に係る虚偽記載があるものとされた。

【表3】本件有価証券報告書・本件半期報告書の虚偽記載等の有無

 前記認定事実によれば、被告は、本件有価証券報告書に掲載された連結財務諸表に、売上計上が認められないライブドア株式の売却益約37億6699万円を売上として計上するとともに、A社に対する架空売上7億円及びB社に対する架空売上8億8000万円を計上しているのであるから、本件有価証券報告書の「重要な事項」について虚偽記載があるものというべきである。
 被告は、本件半期報告書に掲載された連結財務諸表に、連結子会社であるVCJの株式の売却益約6億9000万円を計上したことはこれを自認しているが、それが虚偽記載になることを争っているところ、原告らは、売上計上できないVCJの株式の売却益を計上したと主張するのみで、具体的に何に対するどのような売却益がどのように会計処理されたのかについては何らの主張もせず、立証もしない(なお、……。)。
 したがって、本件半期報告書の虚偽記載は、これを認めるに十分ではない。
 また、争点(1)イについて、原告は、有価証券報告書に「記載すべき重要な事項」「誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載」(金商法21条の2第1項)が上場廃止の原因事実を意味するところ、東証の上場廃止基準と照らして、①本件有価証券報告書に虚偽記載があること、あるいは虚偽記載があるとされるおそれがあること、または②M社の買収を巡る偽計・風説の流布に該当する事実があることあるいはそれに該当するおそれがあること、③そのために上場廃止のリスクがあることなどを有価証券報告書の「業績等の概要」「対処すべき課題」または「事業のリスク」欄に記載すべきであったと主張したが、阿部裁判長は表4のように述べて、これを斥けている。
 そのうえで、ライブドアの損害賠償義務について、単に「前記のとおり、本件有価証券報告書に掲載された連結財務諸表には、……『重要な事項』についての虚偽の記載があることから、被告は、原告らに対し、本件有価証券報告書の上記記載が虚偽であることによって、原告らが被った損害を賠償する義務がある(金商法21条の2第1項)」と判断するものである。

【表4】本件有価証券報告書の「重要な事項」「重要な事実」の記載欠缺の有無

 上記金商法21条の2第1項は、有価証券報告書の記載事項のうち、投資判断に重大な影響を与える事項についての不実の開示をした場合(積極的開示)に、有価証券報告書の提出者等に損害賠償責任を負担させることとするが、不実開示という作為のみを対象とするだけでは十分ではないことから、不実の開示をしていないが、開示義務があるにもかかわらず、投資判断に重大な影響を与える事項を開示しない不作為がある場合(消極的開示)や、一定の事実が開示されているものの、その開示が投資者に誤解を招くような場合(不完全開示)にも、投資者に対して不実開示があるのと同様の損害を与えるものとして、それと同様に損害賠償責任を課すこととしたものである。
 ところで、有価証券報告書には、当該会社の商号、……その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載すべきものとされ(金商法24条)、開示府令(9条、15条)がその記載事項を定めているところ、……上場廃止のリスクの記載がそれに含まれるものとは明記されていない。さらに、「事業等のリスク」欄には、「……投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項について一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること」とされているものの、どのような事項についてどの程度の記載をすべきかについては明確に規定されておらず、金融庁(旧大蔵省)が公表した「企業内容等の開示に関する留意事項について」(平成11年4月旧大蔵省金融企画局による企業内容等開示ガイドライン)の個別ガイドラインにおいても、……上場廃止のリスクの記載例は挙げられておらず、……このように、上場廃止の原因があることが、一般的に投資者の投資判断に重大な影響を与えるものであるとしても、上記開示府令上、そのような上場廃止のリスクを記載すべき具体的な義務を見出すことはできない。もっとも、上場廃止の原因に関する事実が既に開示されている場合には、誤解を生じさせないための記載が義務付けられることがあるものと解されるが、M社の買収を巡る偽計・風説の流布に関する事実は、本件有価証券報告書を提出する段階においては、市場に知られていた事実ではなかったのであるから、誤解を生じさせないために必要な事実を記載すべき義務も発生していなかったものというべきである。原告らは、上場廃止のリスクがある旨の記載をした実例があることを指摘するが、その殆どが上場廃止の原因に関する情報が既に開示されていたり、市場に公表されていたものと認められるから(編注・証拠略)、本件に当てはまるような実例とはいえない。
 そして、金商法21条の2第1項の上記のような趣旨からすれば、本件有価証券報告書には虚偽記載が存在する以上、それと同様の事実について消極的開示である不記載を重ねて問題にする余地はないというべきであるから、被告には、本件有価証券報告書に虚偽記載があることあるいは虚偽記載とされるおそれがあることを記載すべき義務もない。

本件有価証券報告書の虚偽記載等の公表の有無  争点(2)に係る本件有価証券報告書の「公表」については、とりわけ詳細な事実認定がなされるとともに(表5参照)、当該公表の「主体」「方法」「公表時期」の各々につき仔細な判断が示されている(表6参照)。

【表5】「公表」を巡る事実認定(要旨を収載)

捜査当局
メディアによる報道
ライブドアの対応
平成18年1月16日夜
・東京地検・証券監視委(SESC)、旧証取法違反の容疑で強制捜査に着手、ライブドア本社およびHの自宅等を捜索
平成18年1月23日
・同容疑でH・Mらを逮捕
平成18年2月13日
・SESCの告発を受け、東京地検はライブドア、VCJ、H、Mらを同法違反(偽計・風説の流布)の罪で公訴提起
平成18年3月14日
・ライブドア、H、Mらを同法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で公訴提起
平成18年1月16日
・在京テレビ各局の夕刻のニュースで「強制捜査を行う方針を固めた旨」、午後6時台からのニュースで「家宅捜索が開始された旨」を報道。午後8時54分ころからのニュースで「VCJの経常利益等粉飾の事実やM社買収に係る事実」が一斉に報じられ、情報源が東京地検または同地検特捜部である旨に言及
平成18年1月17日
・C新聞ネット版で午前1時ころ、D新聞ネット版で午前3時ころ、VCJが株価を上げる目的で虚偽の発表をし、平成16年12月期第3四半期の売上・経常利益等の水増しをした決算短信を発表した風説の流布に係る事実を、捜査当局が情報源であることを示して報道
・日刊新聞各紙の朝刊で東京地検等が16日、強制捜査に着手したことを具体的容疑内容とともに報道。夕刊においても詳報
平成18年1月18日
・D新聞ネット版で午前3時ころ、ライブドアが平成16年9月期決算で実際には10億円の赤字であったにもかかわらず、14億円の経常黒字に粉飾していた旨を、特捜部も同様の事実を把握しているとみられることを付記して報道
・D新聞朝刊でネット版と同様の報道。E新聞夕刊で特捜部が有価証券報告書虚偽記載の容疑でライブドアの捜査を開始した旨とともに経理操作判明を報道
平成18年1月19日
・F新聞朝刊で特捜部等が有価証券報告書虚偽記載の容疑で捜査を進めている旨、および具体的粉飾額・手口を報道。E新聞朝刊で特捜部の動きとともに粉飾手口を詳報など
平成18年1月20日
・E新聞朝刊で偽計取引の全容が19日明らかになったと報道
平成18年9月25日
・G新聞特別取材班の著作に係る書籍が出版(同年1月16日午後8時すぎころ、東京地検幹部らが記者クラブ所属の記者らに対し事件の説明を行ったとする記述あり)
平成18年1月17日
・ホームページ上で強制捜査を受けた旨などを発表
平成18年1月18日
・ホームページ上でライブドアの平成16年9月期決算が粉飾である疑いがあるという報道があった旨を発表
平成18年1月19日
・ホームページ上で「社内調査に関するお知らせ」とし、ライブドア・VCJにおいて17日から関係事実の調査、把握に努めているが、多数の資料が押収されたため事実解明が困難であるとし、その時点における調査結果を発表(VCJが株式交換契約を締結した際にM社の全株式を保有していた投資事業組合をライブドアのグループ会社として連結決算に組み入れることは妥当ではないとの判断をしたことなどを発表)
平成18年1月20日
・ホームページ上でライブドア・VCJによる「社内調査に関する経過報告」とし、東証から18日、両社の虚偽記載の有無等について書面で適切な開示をするよう要請を受けたこと、粉飾決算との報道について関連資料が不十分なため、公表できる段階にない旨などを発表
平成18年1月23日
・ホームページ上で東証から21日付で開示注意銘柄に指定された旨を発表
平成18年2月7日
・ホームページ上で「社内調査に関するお知らせ」とし、強制捜査の被疑事実を詳細に発表
平成18年2月16日
・ライブドア、VCJ、H、Mらが13日、偽計・風説の流布により公訴提起された旨を発表
平成18年3月22日
・ライブドア、H、Mらが3月14日、有価証券報告書虚偽記載により公訴提起された旨を発表

 


【表6】本件有価証券報告書の虚偽記載等の公表の主体、方法および公表時期

 金商法21条の2第3項は、公表の主体を「業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者」と定めている。これは、有価証券報告書等の虚偽記載等を訂正する情報を受けて、投資者が投資判断を行うことによって適正な市場価額が形成されることを期待する趣旨であるから、投資者にとって類型的に信頼できる訂正情報を獲得しそれを証券市場に提供し得る者、すなわち、法令上、報告聴取、検査、調査等の権限を有する者をいうものと解するのが相当である。
 ……上記条項の「公表」は、有価証券報告書等の虚偽記載等による市場価額への影響を排除して、適正な市場価額を回復させる機能を有するものであるから、投資者にとって信頼できる訂正情報を提供できる者であれば足り、必ずしも一定の処分や指示を行う権限を有する者に限定する理由はない。
 そして、検察官は、公益の代表者である独任制の機関であって(検察庁法4条)、有価証券報告書の虚偽記載等の犯罪について、強制処分を含む捜査を行う権限を有しており(同法6条、刑事訴訟法191条、197条、198条等)、捜査によって訂正情報を獲得し、それを市場に提供し得る者といえるから、上記「公表」の主体と認められるというべきである。
 次に、「公表」の方法については、「多数の者の知り得る状態に置く措置」をとることとされ、その方法には何ら制限がないから、一般に広く報道されることを前提として、報道機関に事実を伝達することは「公表」に当たるものと解される。
 したがって、検察官が、司法記者クラブに加盟する複数の報道機関の記者らに対し、それが一般に報道されることを前提として、便宜供与の一環として公式に一定の捜査情報を伝達することは、「公表」に当たるものとして妨げないというべきである。
 本件においては、……東京地検の検察官が、……どのような事実を説明したかについては、……直接的証拠は存在しない。
 ……前記認定によれば、……東京地検の検察官が、同日(編注・平成18年1月16日)夜、司法記者クラブに加盟する報道機関の記者らに対し、それが広く報道されることを前提に、旧証取法違反容疑で強制捜査に着手したことに関して、VCJは、株価を引き上げる目的で、経済的合理性がない株式交換比率による株式交換によってM社を買収するとともに、平成16年11月の第3四半期の決算短信において傘下企業の売上約1億円を付け替えることで水増しをして虚偽の公表をしたという偽計・風説の流布の容疑がある旨を伝達したものと推認することができる。
 そして、前記認定のように、……東京地検の検察官が、平成18年1月18日、司法記者クラブに加盟する報道機関の記者らに対し、それが広く報道されることを前提に、被告が平成16年9月期決算において、A社及びB社の預金等を付け替えることで、約14億円の経常黒字を粉飾した有価証券報告書の虚偽記載の容疑がある旨の伝達をしたものと推認することができるというべきである。
 そして、東京地検の検察官において、平成18年1月18日ころ、……有価証券報告書の虚偽記載の容疑がある旨を伝達したことは、本件有価証券報告書の虚偽記載の事実を「公表」したものと評価することができるというべきである。
 この点について、原告らは、遅くとも、平成18年1月17日未明までに、本件有価証券報告書の虚偽記載の事実が「公表」されたと主張するが、前記認定によれば、そのころまでに、東京地検の検察官から伝達された事実は、偽計・風説の流布の容疑として、VCJが、平成16年11月の第3四半期の決算短信において参加企業の売上約1億円を付け替えることで売上を水増しをして虚偽の発表をしたという事実にすぎない。もっとも、被告の連結子会社であるVCJが約1億円の架空売上を計上すれば、結局、被告の本件有価証券報告書に添付された連結損益計算書にも約1億円の架空売上が計上されていることにはなるが、検察官による上記事実の伝達は、本件有価証券報告書の虚偽記載とは何ら結びつけられてはいない以上、上記事実の伝達だけでは本件有価証券報告書の虚偽記載の「公表」があったものと評価することはできないというべきである。
 また、この点について、被告は、上記事実の伝達は、本件有価証券報告書の虚偽記載の一部にすぎず、そのような事実をもって本件有価証券報告書の虚偽記載が公表されたものとはいえないと主張する。確かに、本件有価証券報告書の虚偽記載の内容は、最終的には、……になっており、上記の伝達された事実はその一部であることは明らかである。しかしながら、A社及びB社に対する架空売上の計上は、自社株式の売却益の計上と並ぶ本件有価証券報告書の虚偽記載を構成する重要な要素であるから、その重要な要素である事実、しかも、概ね正確な事実が伝達された以上、市場における適正な市場価額の形成が期待できる状況になったものとして、本件有価証券報告書の虚偽記載が伝達されたと評価することは妨げられないものというべきである。被告は、有価証券報告書等の内容を修正する開示が複数回される場合には、提出者である企業のインセンティブも考慮して当初の開示をもって「公表」とすべきではないと主張するが、金商法21条の2第3項の「公表」の主体は、有価証券報告書の提出者である企業に限られておらず、金商法は、公表によって正確な情報が市場に提供されて可及的速やかに適正な市場価額が形成されることを期待しているものといえるから、企業の情報開示に関するインセンティブのみを過大に重視することは相当ではない。その上、市場は、一部の情報であっても、即座に反応をし、最終の開示がされるころには、既に株価は急落していることが通例であるから、最終の開示を「公表」とすると、実際上は、投資者に対して損害推定の規定を適用する途を閉ざすことになりかねないが、それでは、……同第2項が設けられた立法趣旨が没却されるものといわなければならない。

 原告が、金商法21条の2第1項に基づき損害賠償請求を行い、その損害額について同条2項による損害の推定を主張し、「それを超える損害については何らの主張もせず、立証もしない」ため、裁判所が、東京地検などの強制捜査が着手された平成18年1月16日から、原告らがライブドア株式を売却した最も遅い日である同月31日までに同項にいう「公表」があったかどうかについて検討を加えることとなったためである。
 同時期、東証においては平成18年1月23日、上場廃止基準に該当するおそれがあるとしてライブドアおよびVCJ株式を監理ポストに割り当てることを決定。3月13日には、有価証券報告書等に虚偽記載を行い、かつ、その影響が重大であると認めた場合(株券上場廃止基準2条の2第1項5号、2条1項11号)および公益・投資者保護のため上場廃止を適当と認めた場合(同項18号)に該当するとして両株式を4月14日付で上場廃止とすることを決定している。
 金商法21条の2第2項の規定ぶりからもわかるように、原告の損害額算定に直接関わってくるのが「公表日」である。
 判決は、表6のように、まず検察官による記者らへの捜査情報伝達を同条3項の要件に合致するものと認定した後(上段および中段1枠目参照)、その際にどのような事実が「公表」されたのかを検討していく(中段2枠目参照)。
 ここでは、①偽計・風説の流布に係る被疑事実と、②本件有価証券報告書の虚偽記載に係る被疑事実とを峻別し、①を平成18年1月16日夜、②を同年1月18日と「推認」できるとしたうえで、結論として「1月18日」を公表日と認定したものである(下段1段落目参照)。
 なお、公表日に関し、「1月17日未明までに」としていた原告らの主張については、上記の認定に基づき、この時点では偽計・風説の流布に係る被疑事実の公表があったのみであるとして斥けられている(下段2段落目参照)。
 また、ライブドアの主張に基づき、争点(2)イにおける「一部の事実の伝達は『公表』といえるか」「最初の事実の伝達が『公表』といえるか」について判断。前者・後者とも「適正な市場価額の形成」が可能となった状況を捉え、いずれも肯定している(下段3段落目参照)。

推定損害額の算定  このような事実認定・判断が示された後、争点(4)に係る判断へと至る。
 表7の上段が「金商法21条の2第2項により推定される損害」について、下段が「金商法21条の2第5項に基づく裁量による相当な減額」についてである。
 後者については、①公表された事実のうち、B社に対する架空売上以外の偽計・風説の流布の事実が公表されたことが「株価急落の要因の一つであることは否定でき」ず、②Hらライブドアの役員が偽計・風説の流布の容疑で逮捕されたこと、フジテレビからの提携解消の方針が報じられたこと、東証が監理ポストに割り当てたことなども「株価下落の要因であるものと推認することができる」などと「諸要因」を掲げている。
 判決はさらに、「取得について支払った額と処分価額との差額(金商法22条の2第1項、19条1項)」を検討。この金額と「推定損害額から3割を減額」した額のうち、少ない額を原告らに関する認容額とした。
 なお、争点(4)イについては、ライブドアによる損益相殺の主張を「(編注・原告らの利益は)被告の本件有価証券報告書の虚偽記載とは全く関係な」いものとして認めていない。
 また原告らは、弁護士費用についても損害として請求していたが、判決は、金商法19条1項が取得について支払った額から処分価額を控除した額を損害賠償の上限と定め、同法21条の2第1項および2項もそれを前提とするものと解されるとし、弁護士費用の加算を認めなかった。

【表7】推定損害額の算定など

 ……上記のとおり、本件有価証券報告書の虚偽記載の公表日は、平成18年1月18日であるから、1株当たりの推定損害額は、公表日前1か月間(平成17年12月19日から平成18年1月17日)の平均株価720円と公表日後1か月間(同月19日から同年2月17日)の平均株価135円の差額である585円となる。
 したがって、原告ら及びバークレイズの推定損害額は、次のとおりとなる(ただし、公表日以前の同年1月17日に売却処分された原告X1信託銀行の○○○○株、原告X2信託銀行の××××株、……はその対象から除かれる。)。(編注・以下略)
 一般に上場株式の株価の変動には、種々の要因が影響していることから、ライブドア株式の株価の急落にどのような要因が影響しているのかを明らかにすることには困難を伴う……それらの諸要因による株価下落の程度がどの程度であるかを立証することは著しく困難である。
 そこで、当裁判所は、それらの諸要因の株価形成における重要性の程度、ライブドア株式の変動状況等本件に表れた一切の事情をしん酌して、裁量によって、本件有価証券報告書の虚偽記載以外の事情により生じた株価の値下がりを3割程度と見て、原告らの上記推定損害額から3割を減額するのが相当であると判断する。

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