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解説記事2008年07月07日 【実務解説】 吸収合併における抱合株式の処理について(2008年7月7日号・№265)

実務解説
吸収合併における抱合株式の処理について

 T&Amaster編集部   佐治俊夫

 本誌263号のニュース特集「企業再編税制の改正と『包括否認規定』の最新動向」で取り上げているように、平成20年度税制改正では、「合併等により交付する株式に1に満たない端数がある場合の所得計算」「共同事業を行うための適格合併等における株式の継続保有要件」「全部取得条項付種類株式の取得決議と有価証券の簿価譲渡等」などの取扱いに見直しが行われています。
 上記ニュース特集においては、三角合併を例に、「三角合併に伴って、合併法人に(被合併法人株式の対価として)合併親法人株式が割り当てられることになる。」として、説明を行っています。この点に関して、「三角合併においても、会社法の規定により、合併法人に対し、合併親法人の株式が割り当てられることはない」ことは会社法749条1項3号から明らかです。
 三角合併は、被合併法人の株主に対して交付する合併対価が親法人株式であるものの、合併法人と被合併法人の吸収合併にほかなりません。したがって、会社法749条1項3号により、合併法人には合併対価(三角合併の場合では親法人株式)の交付はなされないことになります。当該ニュース特集は企業再編税制の改正動向をお伝えすることを主眼としたものではありますが、吸収合併についての会社法制に誤解を生じさせるものであり、慎んで訂正申し上げます。
 一方、合併法人が合併前に保有している被合併法人の株式(以下「抱合株式」といいます)については、法人税法が「当該合併による株式の割当て又は当該株式以外の資産の交付をしなかつた場合においても、政令で定めるところにより当該合併法人が株式割当等(当該合併による当該株式の割当て又は当該資産の交付をいう。)を受けたものとみなして、みなし配当の規定を適用する。」(法人税法24条2項)旨を規定しており、会社法と法人税法との間で調整を要する事項になります。本稿では、吸収合併における抱合株式の取扱いを検討します。


Ⅰ.会社法では抱合株式への合併対価(合併新株)の交付が不可能に

1 吸収合併では認められないが
 会社法は、吸収合併について、「会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。」と定義しています(会社法2条27号)。いわゆる「三角合併」とは、合併等対価の柔軟化に伴い容認された形態であり、被合併法人の株主に、合併の対価として、合併法人の親会社の株式を用いる場合のことをいうものですから、合併法人と被合併法人の合併という観点からは、まさに吸収合併における1つの(特異な)形態ということになります。
 会社法は、吸収合併の手続において、消滅会社(被合併法人)の株主のうち、消滅会社および存続会社(合併法人)に対しては、合併対価の交付はなされないものと規定(会社法749条1項3号)しています。そのため、抱合株式には合併対価の交付はなされません。三角合併においても、三角合併における被合併法人の株主に対して交付される親会社株式は合併対価そのものであり、三角合併について特段の規定が設けられていないことから、合併法人への親会社株式の交付もなされないことになります。

2 株式交換であれば完全子会社にも割当て  会社法は、株式交換について、「株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう。」と定義しています(会社法2条31号)。株式交換では、完全子会社となる会社の有する完全子会社株式がすべて完全親会社に移転し、完全子会社の株主は、完全親会社株式の割当てを受けて、完全親会社の株主となります。消滅する会社はありません(このような特徴を生かした三角株式交換がシティグループと日興コーディアルグループで行われています)。
 株式交換では、株式交換完全親会社に対して株式交換対価の交付はなされないものと規定(会社法768条1項3号)していますが、株式交換完全子会社に対しては何らの規定を設けていません。立案担当者は、「完全子会社(自己株式を有している場合・買取請求の対象となった株式を含む)に対しては交換対価の交付がなされることとなる(会社法768条1項3号)。」と解説しています(郡谷大輔・和久友子編著『会社法の計算詳解』(中央経済社)506頁参照)。


Ⅱ.吸収合併が行われた場合の抱合株式の会社法・会計上の処理
 企業会計においては(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針では)、企業結合について、会計基準(企業結合に係る会計基準・企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針)上の経済的実態から、①取得(企業結合会計基準三2)、②持分の結合(企業結合会計基準三3)、③共同支配企業の形成(企業結合会計基準三3(7))、④共通支配下の取引等(企業結合会計基準三4)に区分を行ったうえで、会計処理を規定しています。
 会計基準には、取得と判定された場合にはパーチェス法、持分の結合と判定された場合には持分プーリング法によって会計処理することなどが定められています。
 企業会計基準委員会が平成18年12月22日に公表した「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」では、共通支配下の取引等に関する会計処理について、子会社と孫会社の合併の会計処理(子会社が吸収合併存続会社となる場合)、子会社と他の子会社の合併の会計処理(抱合株式の会計処理)などで改正が行われていますが、適用指針の改正内容を受けて、同日、会社計算規則を改正する省令が公布されるというように、会計基準と会社計算規則の内容は、規定ぶりは異なるものの、実質的な内容において一体なものとなっています。
 会社計算規則では、企業会計上の会計処理を前提に、吸収合併については、のれんの計上と吸収合併存続会社の株主資本について、規定を設けています。
 会社計算規則に規定された各区分に応じた抱合株式の処理は次のようになります。
(1)吸収型再編対象財産の全部の取得原価を時価で評価する場合(取得とされる吸収合併の場合⇒パーチェス法を適用する場合)  抱合株式は、取得の対価として考慮されます(計規12条2項1号、58条2項1号)。
(2)一般の共通支配下関係にある場合((3)の場合を除く)  増加する資本金等の額から抱合株式の帳簿価額を減額します(計規13条1項、58条2項2号)。
(3)共通支配下の取引等のうち親子会社等の合併の場合  親会社と子会社、子会社と孫会社などの吸収合併の場合には、抱合株式の帳簿価額と、この持分に対応する被合併法人の純資産価額との差額は、損益として処理します(計規14条5項、58条2項3号、58条2項4号)。
(4)その他の場合(逆取得・共同支配企業の形成)  増加する資本金等の額から抱合株式の帳簿価額を減額します(計規58条2項5号)。
(5)資本金等も引き継ぐ場合等(持分の結合の場合⇒持分プーリング法を適用する場合)  抱合株式の帳簿価額を資本剰余金から減額します(計規59条)。

Ⅲ.吸収合併が行われた場合の抱合株式の法人税法における処理
 法人税法では、抱合株式に対しても合併対価(合併新株等)が割り当てられ、その後に消却が行われたものとみなした取扱いを行います(法人税法24条2項)。
 法人税法は、合併等による資産等の移転について、時価による譲渡をしたものとして課税すること(法人税法62条)を原則としていますが、一定の要件を満たす適格合併等に該当する場合には、帳簿価額による引継ぎをしたものとして譲渡損益の計上が繰り延べられます(法人税法62条の2)。適格合併と被適格合併では、合併時の税務上の処理が変わってきます。
(1)適格合併の場合  適格合併の場合には、合併法人(存続会社)は、被合併法人(消滅会社)から、資産および負債の当該合併に係る最終事業年度の帳簿価額により引継ぎをしたものとされます(法人税法62条の2第1項)。また、適格合併における合併法人の資本金等の額の増加額は、移転資産等の簿価純資産価額から利益積立金額として引き継いだ額を控除した額となります。
 抱合株式に対して合併対価が割り当てられたものとみなしても、みなし配当や譲渡損益の認識は行われず、その後の消却において、資本金等の額が減少することになるため、適格合併が行われた場合には、抱合株式の帳簿価額が、資本金等の額から減額されることになります。
(2)非適格合併の場合  非適格合併の場合には、被合併法人の資産等が時価で合併法人に譲渡したものとされ、また、被合併法人の利益積立金額は合併法人に引き継がれないことから、被合併法人の株主には、みなし配当と被合併法人株式の譲渡損益が発生します。
 抱合株式に対して、みなし配当と譲渡損益を計算し、その結果、合併新株が割り当てられたものとみなされたものの帳簿価額について、消却により、資本金等の額から減額されることになります。
(3)非適格格合併の場合の会計と法人税との調整  会社法・会計においては、抱合株式については、帳簿価額により、資本剰余金から減額するなどの処理が行われることになりますが、非適格合併ではみなし配当を認識した上で消却を行うこととみなすことで、別表五(一)での調整が必要になります。

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