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コラム2008年10月20日 【Sammys Cafe】 インサイダー取引と「軽微基準」の見直し(2008年10月20日号・№279)

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インサイダー取引と「軽微基準」の見直し

by TMI総合法律事務所 弁護士 葉玉匡美
港区の一角に、ちっぽけなカフェがある。そこは、なぜか会社法に詳しいマスターが、悩み多き法務担当者に心休まるコーヒーを差し出す大人の隠れ家。 Welcome to SAMMYS Cafe

ホームレス中年 ウウッ! いきなり親がやってきて、「解散」っていってきたよ。
Sammy 中学生じゃあるまいし、あなたも上場企業のグループ会社にお勤めなんですから、そんなに慌てることないでしょう。
ホームレス中年 いや、解散されるのはウチの会社なんだよ。

1 重要事実と軽微基準

 インサイダー取引は、未公表の重要事実を知った会社関係者等が、重要事実の発生後から公表の前までに、重要事実を知りながら、株券等の売買等を行った場合に成立します(金融商品取引法166条)。
 「重要事実」は166条に列挙されており(その発生時期について、本誌224号40頁参照)、いわゆる上場会社とその子会社に関する①決定事実(株式の発行、資本金の額の減少、自己株式、剰余金の配当、合併等の組織再編、解散等)、②発生事実(災害に起因する損害または業務遂行の過程で生じた損害、主要株主の異動、特定有価証券の上場の廃止または登録の取消しの原因となる事実等)、③決算情報、④バスケット条項に分類されます。
 このうち決定事実と発生事実については、投資家の判断に及ぼす影響が軽微なものについて「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(平成19年内閣府令第59号)で軽微基準が定められており、この軽微基準に該当するものについては、それを知って取引したとしてもインサイダー取引には該当しません。
 さて、この内閣府令についてこれまで最も批判されていたのは、「子会社の解散」について軽微基準が設けられていなかったことでした。上場会社自身の解散に軽微基準が設けられないのは当然ですが、子会社は重要な子会社から幽霊子会社まで様々であり、解散しても業績にまったくインパクトを与えない子会社もたくさんありますから、軽微基準を設けていなかったのは不備といわれても仕方ありません。
 しかも、いわゆるコマツ事件では、この子会社の解散を重要事実としてインサイダー取引の成立を認め、課徴金を課したものですから、経済界に衝撃が走り、子会社の解散について軽微基準を設けるべきであるという規制改革要望が出されました。
 そこで、金融庁は本年9月19日に「平成20年金融商品取引法等の一部改正に係る政令案・内閣府令案等の公表について」というパブリック・コメントのなかで「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」に子会社の軽微基準を織り込んだ案も一緒に公表し、改正する方針であることを明らかにしました(276号18頁参照)。

2 子会社の解散の軽微基準

 当該パブリック・コメント案では、子会社の解散による上場会社等の属する企業集団の資産の減少額が当該企業集団の最近事業年度の末日における純資産額の100分の30に相当する額未満であると見込まれ、かつ、当該解散の予定日の属する当該企業集団の事業年度および翌事業年度の各事業年度においていずれも当該解散による当該企業集団の売上高の減少額が当該企業集団の最近事業年度の売上高の100分の10に相当する額未満であると見込まれることが軽微基準とされています。
 子会社を解散した場合、親会社には残余財産の分配が行われます(子会社の資産を現物のまま分配することも可能です)から、子会社の解散により「企業集団の資産」の減少が生ずることは、連結決算が適切に行われている限り、それほど心配しなくてよいのではないかと思います。
 もっとも、解散に伴い子会社の資産売却損が出た場合等は、解散による「企業集団の資産」が減少したものと解するのでしょうから、連結純資産額が少額の会社が多額の含み損を持つ子会社を解散する場合は、気をつけなければならないでしょう。
 また、連結売上高の10%という基準は、相当大きな子会社の解散でなければ軽微基準を超えることがないようにも思いますが、大規模子会社の事業の主要部分を別の会社に会社分割等で承継させた後に、その子会社を解散する場合等に分割後の売上をベースに判断するのかどうかという点は注意深く判断した方がよさそうです。
 ただ、この子会社の軽微基準が施行されれば、ほとんどの子会社の解散は重要事実ではなくなると予想されますから、上場企業の子会社の管理をしている部署の方は、インサイダー取引のリスクから相当程度解放されることになるはずです。

3 売買等の適用除外

 もっとも、インサイダー取引の規制で改善すべき点は「重要事実」の問題だけではありません。行為者が利益を得るつもりがまったくなく、インサイダー取引をしているという自覚のないまま、インサイダー取引をしてしまう「うっかりインサイダー」は、むしろ上場企業のなかで通常の経済行為として行われていることが「売買等」に該当することから起こっています。
 たとえば、上場企業が自己株式を取得する行為は「売買等」に該当することとされていますが、自己株式の取得は、株主平等の原則に配慮しながら行われる資本取引であり、しかも、上場企業が取得した自己株式を処分する場合には、新株発行と同様の手続を取る必要があるのですから、売買によって不当な利益を得ることはできません。
 内閣府令は、一定の場合に自己株式の取得について適用除外規定を設けていますが、自己株式の取得の決定以外の重要事実を知る者が自己株式の取得を行った場合には適用除外されませんし、売主側も適用除外されないので、インサイダー取引のリスクを完全に回避するには不十分です。
 昨今の大幅な株価下落のなかで、上場企業が株価の維持のための自己株式の買取りを行うためには、法律の規定に基づく自己株式の取得については「売買等」に該当しないよう改正すべきです。
 そのほか、ストック・オプションの行使後の株式の売却、役員持株会・従業員持株会への加入、担保権の実行による株式の売却も、すべてインサイダー取引の対象とされており、うっかりインサイダーが起こりやすい行為です。現状では適用除外されていないので、細心の注意を払うしかないですが、金融庁が適切な適用除外措置を設けるよう強く望まれるところです。

Sammy ああっ、私はあなたの親会社の株を持っているのに。売れなくなっちゃったじゃないですか!?
ホームレス中年 少しは私の心配をしてくださいよ。このままじゃ、私の家庭も「解散」になっちゃいそうなんですから……。

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