カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2009年11月09日 【制度解説】 規制緩和措置等のための金商業等府令等の改正の要点(2009年11月9日号・№329)

解説
規制緩和措置等のための金商業等府令等の改正の要点

 金融庁総務企画局市場課市場機能強化法令準備室総括補佐 高橋洋明
 金融庁総務企画局市場課市場機能強化法令準備室専門官 森口 倫

Ⅰ.はじめに

 金融庁は、平成21年6月19日に「金融商品取引業等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」「投資信託及び投資法人に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令」「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」「金融商品取引法等に関する留意事項について(金融商品取引法等ガイドライン)」の案を公表し、同年7月21日までのパブリック・コメント手続を経て、平成21年9月9日、これらの改正内閣府令等を公布し、即日施行した。
 本改正内閣府令等の主な内容は、次のとおりである。
① 損失補填の事故確認について、金融商品取引業協会の確認により財務局の確認を代替できることとする。
② 登録金融機関における証券取引に係る総合口座貸越を一定の要件のもとで可能とする。
③ 投資信託の運用報告書等の電子交付につき、5年間、投資家の請求に応じて交付する態勢を整えれば、常にホームページに掲載することを不要とする方式を可能とする。
④ 契約締結前交付書面における認定投資者保護団体に係る記載事項について、加盟しているすべての団体ではなく、契約を締結しようとする取引に関し、対象事業者となっている団体を記載することとする。
⑤ 有価証券または金銭の受渡しを伴わない取引に係る取引残高報告書の交付を不要とする。
⑥ 従業員持株会を通じた株式所有スキームの金融商品取引法等における取扱いを明確化する。
 本稿では、各改正事項に沿って本改正内閣府令等の概要を説明する。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解である。

Ⅱ.損失補填の事故確認の見直し
 金融商品取引法(以下「法」という)39条1項は、金融商品取引業者の顧客に対する損失補填を禁じているが、同条3項は、その禁止の例外として損失が事故に起因するものであることにつき当局の確認(いわゆる「事故確認」)を受けている場合その他内閣府令で定める場合に、損失を補填することを可能としている。
 この規定を受け、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という)119条においては、
・金融商品取引業協会または認定投資者保護団体の斡旋による和解
・弁護士または司法書士が顧客を代理している和解であって、損失が1,000万円(司法書士の場合、140万円)を超えないもの
等については、財務局の確認を要せずに損失補填ができることが規定されている。
 しかしながら、顧客と金融商品取引業者の間に争いのない事故に関しては、争いの存在を前提とする「和解」に該当せず、投資家が事故による損失の補填を受けるためにあらかじめ財務局の確認を受ける必要があった。
 そこで、改正内閣府令においては、金融商品取引業協会内の弁護士または司法書士を含む委員会により事故による損失に争いがないことを確認した場合であって、損失が1,000万円(司法書士のみからなる委員会の場合、140万円)を超えないものについては、財務局の確認を金融商品取引業協会内の委員会の確認で代えることができることとしている(金商業等府令119条1項9号)。

Ⅲ.登録金融機関における証券取引に係る総合口座貸越
 法44条の2第1項1号は、金融商品取引業者等が信用取引以外の方法による金銭の貸付けその他信用の供与をすることを条件として有価証券の売買の受託等をする行為を禁じており、金商業等府令148条は、かかる禁止の例外として、一定の要件のもとでクレジットカードによる決済を想定した規定を設けている。
 ところで、登録金融機関による有価証券の売買の受託等においては、口座残高のわずかな不足によって取引が不成立になる事態が指摘されており、総合口座貸越による証券取引を可能とすることで、かかる事態を回避し、もって顧客の利便性の向上を図ることが適当であると考えられる。
 他方で、過当投機の抑制や、過剰与信を防止して利用者保護を図る観点から、無限定にこれを認めることは相当ではないと考えられる。
 以上の考え方を踏まえ、改正内閣府令においては、
の各要件を満たす場合に限り、登録金融機関の総合口座貸越による証券取引を可能としている(金商業等府令149条の2)。

Ⅳ.投資信託の運用報告書等の電子交付の方法の追加
 平成20年12月に公表された金融審議会金融分科会第一部会ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告書は、「現行制度上、運用報告書の電磁的交付の方法には、目論見書の電子交付のような、書面交付後5年間投資家の請求に応じて電子メール等により交付することができる態勢を整えれば、常にホームページに掲載することは不要である旨の規定がない。この点、運用報告書についても同様な方式を認めることが適当である」と指摘していた。
 このような指摘を受けて、改正内閣府令では、投資信託の運用報告書においても、顧客の閲覧に供した後5年間、投資家の請求に応じて電子メール等により交付することができる態勢を整えれば、常にホームページに掲載することを不要としている(投資信託及び投資法人に関する法律施行規則11条2項3号)。
 また、投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」という)5条ただし書は、目論見書に投資信託約款の内容が記載されている場合には投資信託約款の交付を免除しており、目論見書と投資信託約款は電子交付の方法においても等しく取り扱われるべきものと考えられる。
 したがって、投資信託約款についても目論見書の電子交付と同様の取扱いとするための措置を講じている。

Ⅴ.契約締結前交付書面における認定投資者保護団体に係る記載事項の見直し
 従来、金融商品取引業者は、契約締結前交付書面において、当該業者が対象事業者となっている認定投資者保護団体を記載する義務があり、当該業者が複数の団体に加盟している場合、加盟している団体をすべて記載する必要があるとされていた。
 しかしながら、たとえば、第一種金融商品取引業および第二種金融商品取引業を行っている金融商品取引業者が、第一種金融商品取引業に係る金融商品取引契約の契約締結前交付書面において、第二種金融商品取引業に係る認定投資者保護団体を記載することまでは必ずしも必要とは考えられず、顧客と締結する金融商品取引契約を認定業務の対象とする認定投資者保護団体の名称を記載すれば、当該顧客の保護にとって十分なものと考えられる。
 そこで、改正内閣府令において、契約締結前交付書面に記載すべき認定投資者保護団体の名称については、顧客と締結する金融商品取引契約を認定業務の対象とする認定投資者保護団体に限るものとしている。また、契約締結前交付書面に係る金融商品取引法の規定を準用する他の業法についても、同様の措置を講じている(銀行法施行規則14条の11の27第1項17号等)。
 なお、本改正に関しては、1年間の経過措置規定を設け、従前の規制に従って対象事業者となっている認定投資者保護団体をすべて記載している書面についても、本改正の施行後1年間、使用できるものとしている。

Ⅵ.有価証券または金銭の受渡しを伴わない取引に係る取引残高報告書の取扱い
 金融商品取引業者が顧客との間で媒介に係る金融商品取引契約を締結した場合等、有価証券または金銭の受渡しを伴わない取引においては、有価証券または金銭の残高が生じず、このような場合に取引残高報告書の交付を義務付ける必要性は薄いと考えられるため、取引残高報告書の交付を不要としている(金商業等府令111条5号)(脚注1)。

Ⅶ.従業員持株会を通じた株式所有スキームの取扱いの明確化

1.対象となるスキームと問題の所在
 近年、一般に従業員等の福利厚生を主目的として、信託などのビークルが、①導入企業からの拠出金や金融機関からの借入れ等を利用して、導入企業株式を(市場での買付けや新株発行等によって)一括して取得し、②当該株式を一定のルールのもとで従業員や退職者に付与ないし売却するスキームが導入され始めている。
 すでに、従業員が自社の株式を取得する仕組みとしては、従業員持株会による方法が存するところ、かかるスキームにおいては、
・ビークルで一括して株式を取得することを可能とすることにより、特に従業員持株会による買付けによった場合の流動性の低い市場での高値掴みや買付株式数の不足といったデメリットを避け、安定的な株式の取得を可能にすること
・ビークルが保有する導入企業株式の値上がり益を従業員に帰属させ、従業員に対して中長期的な株価上昇へのインセンティブを与えることで、従業員の勤労意欲の向上につながること
・ビークルが保有する導入企業株式の議決権行使が、経営者候補者の資質や経営の長期的要請等に精通している従業員の意向に沿って行使されることにより、ガバナンス向上につながること
といったメリットが存することが指摘されている。
 他方で、これらのスキームのうち導入例が比較的多い、ビークルが従業員持株会に対して継続して導入企業株式を売却するスキーム(従業員持株会を通じた株式所有スキーム。参照)については、
・ビークルが新株を取得することが、法2条8項6号の引受業に該当するか
・従業員がスキームから配分を受ける権利が、法2条2項5号の集団投資スキーム持分に該当するか
・スキームにおけるビークルの組成が、投信法7条で禁止される有価証券投資を主目的とする信託契約に該当するか
に関し、法律上の取扱いが不明確となっていた。

 そこで、従業員持株会についてすでに金融商品取引法等において一定の規制の対象外とされていることも踏まえ、従業員持株会を通じた株式所有スキームについて、従業員持株会と同様に、従業員の福利厚生に資するものであって、金融商品取引法等の規制の対象としなくても投資家である従業員の保護のため支障を生ずることがないものについて、一定の適用除外を設ける等の手当てを行うこととしたものである。

2.引受業からの適用除外要件  従業員持株会を通じた株式所有スキームにおいて、ビークルが新株発行等により導入企業の株式を取得する場合、当該株式を従業員持株会に取得させることを目的としてこれを取得していることから、ビークルが「有価証券の引受け」を行う者として、金融商品取引法上の引受業に係る規制を受けるおそれがある。
 そこで、次のすべての要件を満たすスキームに関しては、引受業に係る規制の対象としなくても投資家である従業員の保護のため支障を生ずることがないものとして、引受業に係る規制の適用を除外することとしている(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令16条1項7号の2)。
 これらの要件は、従業員持株会がすでに金融商品取引法等において一定の規制の対象外とされていることも踏まえ、ビークルが福利厚生の範囲内かつ従業員持株会の目的を実現する限りにおいて適用除外を認めようとするものである。
 したがって、たとえば、導入企業の給付の額が福利厚生費と認めるには多額であり、従業員持株会の買付数量の見込みに比してビークルの保有することとなる株式が著しく多い場合等、従業員の福利厚生のためと認められないものは、要件③に反する可能性が高いと考えられる。

3.その他の論点に係る措置  スキームにおいて、ビークルの株式譲渡益等を従業員に配分することを予定している場合、実質的に従業員がスキーム全体に対して出資しているものと捉え、従業員が有する権利が集団投資スキーム持分に該当すると解する余地がある。
 仮に集団投資スキームに該当するとした場合、スキームの持分の募集および財産の運用について金融商品取引法上の業規制が課せられることとなり、スキームの活用を阻害するおそれがあると考えられる。
 また、投信法7条は、投信法に基づく証券投資信託によらない、主として有価証券への投資として信託財産を運用する信託契約(受益権を分割して複数の者に取得させるもの)を禁止しており、スキームにおけるビークルの組成は、同条に抵触すると解する余地がある。
 他方、前述の引受業に係る適用除外要件のすべてを満たすスキームについては、従業員持株会と同様に、従業員の福利厚生に資するものであって、金融商品取引法等の規制の対象としなくても投資家である従業員の保護のため支障を生ずることがないと考えられることから、「金融商品取引法等に関する留意事項について(金融商品取引法等ガイドライン)」において、集団投資スキームに該当せず、投信法7条に抵触しないこと(脚注2)を明確化することとしている。
(たかはし・ひろあき/もりぐち・りん)


脚注
1 なお、一般に金融商品取引業者等と顧客との間のデリバティブ取引においては、決済時に金銭の受払いが予定されていることから、「金銭の受渡し」を伴う取引として、取引残高報告書の交付が必要となるものと考えられる。
2 金融商品取引法等ガイドラインにおいては、従来の従業員持株会についても、投信法7条に抵触しないとする解釈を確認している。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索