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解説記事2010年06月07日 【ニュース特集】 金融商品取引法上の課徴金制度と近時の運用状況(2010年6月7日号・№357)

制度施行から丸5年、内部者取引事案が急増
金融商品取引法上の課徴金制度と近時の運用状況

 金融商品取引法上の課徴金制度は平成16年の証券取引法改正(平成16年法律第97号)により導入、翌17年4月に施行された。同年および平成18年の改正(平成17年法律第76号・平成18年法律第65号)では対象範囲が拡充。平成20年の金商法改正(平成20年6月13日法律第65号)では、さらなる対象範囲の拡充、課徴金額の水準の引上げ方向での見直し、加算・減算制度の導入など大幅な見直しが行われ、同年12月12日に施行されている。本稿は、施行後6年目を迎え、直近の改正法施行からも1年6月を経過しようとする金商法上の課徴金制度について、近時の運用状況を中心に紹介するものである。

「課徴金制度の一層の活用」で事件の増加傾向は定着  金商法上の課徴金制度は、証券取引等監視委員会の「課徴金・開示検査課」において対象となる違反行為の調査・検査を実施し、違反行為が認められた場合、内閣総理大臣・金融庁長官に対して課徴金納付命令の発出を求める勧告を行うもの。金融庁長官は審判手続開始の決定を行い、審判官が審判手続を経て作成した決定案に基づき、課徴金納付を命ずるか否かの決定を行う。
 証券監視委の現行体制下、中期的な活動方針としては「公正な市場の確立に向けて」(平成19年9月5日)が掲げられており、課徴金制度については重点施策の1つとしてその一層の活用が謳われ、(a)課徴金制度の特性を活かした迅速・効率的な調査の実施に努める、(b)課徴金制度の見直しに適切に対応していくと表明しているところである。
 (a)の観点からみた課徴金制度は、法令違反行為に対し、裁判に似た審判手続を経て行政処分として課徴金を課すものであり、刑事裁判と比べた場合、立証の程度が軽減され、迅速な対応が可能とされる。証券監視委の勧告に基づく事件の推移は図表1にまとめたとおりであり、制度が積極的に運用されている状況が窺える。
 平成17事務年度(平成17年7月1日~18年6月30日)から平成20事務年度(平成20年7月1日~21年6月30日)までの不公正取引関連、開示書類の虚偽記載関連を合わせた件数の推移は9件→14件→31件→32件。平成21年7月1日以降今年5月31日までの間は、不公正取引関連34件、開示書類の虚偽記載等関連6件と計40件。最近の増加傾向は定着したものといえる。全126件の個別事件については、今号20頁以下の一覧を参考とされたい。
 高額の課徴金が課された事件を掲げると、①IHIの虚偽記載:15億円余(一覧中54参照。以下同様)、②日興コーディアルグループの虚偽記載:5億円(16参照)、③アルデプロの虚偽記載:2億8千万円余(104参照)、④ビックカメラの虚偽記載:2億5千万円余(84参照)、⑤トラステックスホールディングスの虚偽記載:2億2千万円余(64参照)など。
 虚偽記載の場合の課徴金額の算定基礎に「発行者の時価総額」が用いられることもあって高額となるものであるが(図表2の④など参照)、図表1と照らし合わせた場合、平成18事務年度分に相当するのが上記②(日興コーディアルグループの虚偽記載を指す。以下同様)、19事務年度分に相当するのが①、20事務年度分に相当するのが④・⑤で、課徴金額の推移は個別事件ごとの影響が強く現れるものとなっている(③は平成21年7月1日以降の事件)。
 なお、一覧中80・85事件では審判廷での審理を行う「審判期日」が開催され、80は今年1月28日の結審後、3月16日に当初勧告どおりの課徴金納付を命ずる決定(本誌347号15頁参照)。
 85は3月17日に結審しており(348号13頁参照)、決定の帰趨が注視されるところである。
 しかしながら、全126件のうち、この2件を除き事実関係等を認める答弁書の提出があり、勧告どおりの課徴金額を課す決定がされている。
 また勧告後、1か月以内に課徴金納付命令が決定された事件は全126件中、110件(87.3%)にのぼっており(勧告後、68事件のように1か月後の応当日に決定されたものは1か月以内とカウント)、現行課徴金制度とその運用は、法令違反行為に対する迅速な対応を実現しているといえる。

【図表2】金商法上の課徴金制度の対象行為と課徴金額

対象行為
根拠条文
課徴金額
① 有価証券届出書(募集・売出し等の発行開示書類)等を提出せずに募集・売出し等を行い、有価証券を取得させ、売り付ける行為 172条※1 募集・売出総額の2.25%(株券等は4.5%)
② 虚偽の有価証券届出書(募集・売出しの発行開示書類)等により募集・売出し等を行い、有価証券を取得させ、売り付ける行為 172条の2※2 募集・売出総額の2.25%(株券等は4.5%)
③ 有価証券報告書(事業年度ごとの継続開示書類)等を提出しない行為 172条の3※3 前事業年度の監査報酬額(前事業年度の監査がない場合等は400万円)。四半期報告書・半期報告書の場合はその2分の1
④ 虚偽の有価証券報告書(事業年度ごとの継続開示書類)等を提出する行為※4 172条の4※5 600万円または発行者の時価総額の0.006%のいずれか大きい額。四半期報告書・半期報告書・臨時報告書等の場合はその2分の1
⑤ 公開買付開始公告を行わないで株券等の買付け等をする行為 172条の5※6 買付総額の25%
⑥ 虚偽の公開買付開始公告を行い、または虚偽の公開買付届出書等を提出する行為 172条の6※7 公開買付開始公告前日の終値に基づく買付株券等の時価合計額の25%
⑦ 大量保有報告書・変更報告書を提出しない行為 172条の7※8 提出期限翌日の終値に基づく対象株券等の発行者の時価総額の0.001%
⑧ 虚偽の大量保有報告書・変更報告書等を提出する行為 172条の8※9 提出日翌日の終値に基づく対象株券等の発行者の時価総額の0.001%
⑨ 特定証券情報の提供または公表がされていないのに特定勧誘等を行い、有価証券を取得させ、売り付ける行為 172条の9 募集・売出総額の2.25%(株券等は4.5%)
⑩ 虚偽の特定証券等情報を提供または公表して特定勧誘等を行い、有価証券を取得させ、売り付ける行為 172条の10 募集・売出総額の2.25%(株券等は4.5%)など
⑪ 虚偽の発行者等情報を提供または公表する行為 172条の11※10 600万円または発行者の時価総額の0.006%のいずれか大きい額など
⑫ 風説の流布・偽計 173条※11 違反行為(風説の流布・偽計)終了時までの売付け等(買付け等)の価額と違反行為後1月間の最安値(最高値)で評価した価額との差額
⑬ 相場操縦のうち仮想売買・馴合売買 174条※10 違反行為(仮想・馴合売買)終了時までの売付け等(買付け等)の価額と違反行為後1月間の最安値(最高値)で評価した価額との差額
⑭ 現実売買による相場操縦※12 174条の2※13 違反行為(現実売買による相場操縦)期間中の損益と、違反行為終了時までの売付け等(買付け等)の価額と違反行為後1月間の最安値(最高値)で評価した価額との差額の合計額
⑮ 相場操縦のうち違法な安定操作取引 174条の3※10 違反行為(違法な安定操作取引)に係る損益と、違反行為後1月間の平均価格と違反行為期間中の平均価格の差額に違反行為開始時における売付け等(買付け等)の数量を乗じた額との合計額
⑯ 内部者取引 175条※14 違反に係る売付け等(買付け等)(重要事実の公表前6か月以内に行われたものに限る)の価額と、重要事実公表後2週間の最安値(最高値)に当該売付け等(買付け等)の数量を乗じた額との差額

※1 平成20年12月12日以後に開始された募集・売出し等について適用。
※2 平成20年12月12日以後に提出された発行開示書類について適用、改正前の課徴金額は「募集・売出総額の1%(株券等は2%)」。
※3 平成20年12月12日以後に開始された事業年度に係る継続開示書類について適用。
※4 継続開示書類に係る虚偽記載は平成17年12月1日以降に提出された有価証券報告書等が対象。平成18年改正により四半期報告書が対象とされ、平成20年4月1日以後開始事業年度から適用。平成20年改正により「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」場合も含まれる。
※5 平成20年12月12日以後に開始された事業年度に係る継続開示書類について適用、改正前の課徴金額は「300万円または発行者の時価総額の0.003%のいずれか大きい額」(四半期報告書・半期報告書・臨時報告書等の場合はその2分の1)。平成18年11月30日までの提出分について、自発的に訂正報告書を提出しているなど一定の場合の課徴金額は「200万円または発行者の時価総額の0.002%のいずれか大きい額」。
※6 平成20年12月12日以後に行われた買付け等について適用。
※7 平成20年12月12日以後に行われた公開買付開始公告に係る公開買付けについて適用。
※8 平成20年12月12日以後に報告期限が到来するものについて適用。
※9 平成20年12月12日以後に提出されたものについて適用。
※10 平成20年12月12日以後に開始された違反行為について適用。
※11 平成20年12月12日以後に開始された違反行為について適用、改正前の課徴金額は「違反行為の終了後1か月以内の売付け等(買付け等)の価額と違反行為直前の価額との差額」。
※12 平成18年改正により顧客による「見せ玉」、証券会社の自己の計算における「見せ玉」による相場操縦が対象とされ、同年7月4日以後に開始された違反行為について適用。
※13 平成20年12月12日以後に開始された違反行為について適用、改正前の課徴金額は「違反行為期間中の損益と、違反行為への反対売買で違反行為終了後1か月以内に行われたものによる損益の合計額」。
※14 平成20年12月12日以降に行われた行為について適用、改正前の課徴金額は「違反に係る売付け等(買付け等)(重要事実の公表前6か月以内に行われたものに限る)の価額と、重要事実公表日の翌日の終値に当該売付け等(買付け等)の数量を乗じた額との差額」。
(出所) 証券監視委「証券取引等監視委員会の活動状況」(平成21年8月)に基づき編集部が作成。


公開買付開始公告の不実施で初勧告  課徴金制度の見直しに対する対応(前頁(b)参照)として興味深いのは、平成20年改正により対象行為として公開買付開始公告の不実施や公開買付届出書の虚偽記載、大量保有報告書の不提出や同報告書の虚偽記載(図表2の⑤~⑧参照)などが広く取り込まれたところ(実務的な対応・留意点を明らかにするものとして、中村聡・峯岸健太郎「金融商品取引法改正後の課徴金制度における実務上の留意点」本誌296号4頁参照)、改正法の施行約3か月後の買付けに係るEBANCO HOLDINGS LIMITED(本店:英領バージン諸島)による公開買付開始公告の不実施が勧告されたことであろう。
 この事件では、同社が、サハダイヤモンド(ジャスダック証券取引所上場)が発行した新株予約権証券を買い付けるにあたり、買付け後の株券等所有割合が97.38%となり、法定の除外事由もないことから公開買付けによらなければならなかったにもかかわらず公開買付開始公告をせずに当該買付けを行ったとし、当該新株予約権9,582個の買付総額3,000万円の25%相当額「750万円」が課徴金額とされ、勧告(一覧中92参照)。公開買付開始公告の不実施による勧告事案としては初めてのものとなる。
内部者取引では公開買付事案が大幅増  不公正取引関連の事件を個別にみると、平成21年7月1日~今年5月31日の不公正取引関連34件のうち(i)内部者取引が30件、(ii)現実売買による相場操縦が4件となっている。
 遡って平成17~20事務年度の推移は、
(i) 9件→9件→21件→18件
(ii) 0件→0件→0件→2件
となっており、内部者取引に係る事件が近時、大幅に増加していることがわかる。
 この状況については証券監視委も直近の年次公表で特に分析を加え、「重要事実別の勧告件数」の推移を示した。これによると、平成21年度(21年4月~3月)の全38件の重要事実は、①公開買付け:12件(20年4月~3月は全17件中3件。以下同様)、②会社更生・民事再生:8件(0件)、③その他の重要事実:6件(0件)、④株式等発行:4件(1件)、④バスケット条項:4件(0件)、⑥合併・株式交換:2件(3件)、⑥業績予想値の修正:2件(3件)、⑧業務提携:0件(7件)。公開買付事案の急増は、企業再編手段として利用しやすくなったこと、公開買付価額が公表時点の株価を大きく上回る設定が多いこと、内外の関係者が多いことを要因に掲げる。
 行為主体別の分析を行うなかでは、第一次情報受領者の急増とともに「高い職業倫理、企業情報の管理の徹底を求められる職業・役職の者による事案が見受けられた」と特徴を指摘。重要事実の情報管理のあり方が改めて問われている。




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