解説記事2010年12月20日 【「会社法制の見直し」と論点】 転換期の会社法改正審議に寄せて(2010年12月20日号・№383)
転換期の会社法改正審議に寄せて
中村・角田・松本法律事務所 弁護士 中村直人
会社法が施行されて5年近くが経過した。従前、商法を改正しても、その効果がどうであったかということを検証したためしはない。それは商法は、関係者の利害の中立的な調整が目的であったから、不都合があった箇所を是正した、というだけのスタンスであり、その経済的、社会的な効果を云々するというものではなかったからである。しかし、平成9年以降の改正は、基本的に経済の活性化、企業の効率性向上のために、できなかったことをできるようにしたり、手間がかかったことを簡素化するなどの改正を積み重ねたものである。その集大成が会社法であった。そうであれば、会社法の施行によって、どれだけの効果があったのか、検証する、という姿勢があって良いはずである。
会社法によって変わった点は沢山ある。使われている制度は何があるか、と考えると、まず一番目に付くのは、再編関係であろう。簡易手続の拡大や略式手続の創設、加えて、全部取得条項付株式によるスクイーズ・アウトなどの手続は、かなり利用されている。内部統制決議の義務化も一定の効果を果たしているように思われるし、代表訴訟の監査役対応の改正も実務に影響を及ぼしている。取締役の責任を原則過失責任化した改正は、一体どれだけ会社経営に影響を与えているのか分からない。
広まらなかったものとしては、機関設計の柔軟化はそれほど使われず、かえって面倒になっただけである。取締役会決議による剰余金の分配などもあまり広まらなかった。外国企業による三角合併などはほとんど利用されていない。
全体として、これらの改正によってどれだけ経済の効率化が進み、経済の発展に寄与したのか。一方で、現在、会社法改正に関する議論が始まっているが、その対象は企業統治と親子会社法制である。実は、どちらも会社法制定時に、改正事項から見送られた項目である。そのような難物しか改正事項は残っていなかった。それ以外の改正候補は、株式の買取請求制度や濫用的第三者割当増資対応など、いわば微調整である。
つまり、昨今の閉塞的な経済情勢にも拘わらず、それを打破する大きな改正の目玉はもうない。そこが平成9年以降の改正と違うところである。当時は、規制緩和によって経済を活性化し、法制度面で欧米へのキャッチアップができるということがスローガンであった。規制緩和はやり尽くしたのに現在の景気低迷があるとすれば、実は経済の中で会社法制度が果たす役割は意外に小さかったということか。
このように会社法の改正は、夢と期待を失いつつあるが、他方、現在の少子高齢化の中での長期的衰退を、新しい発展へと方向転換させるためには、日本の経済や社会制度を全面的に見直す必要があるはずである。その中で、ほんの1つのピースではあるが、会社法はどうあるべきか、人々の心に火を付ける仕組みは何かということも考えなければならない。人口の増加や、世界の中での競争力の獲得、女性の活躍や地域の活性化等に向けて、国民が一体となって前向きな気持ちになるような社会制度を構築するときではなかろうか。
中村・角田・松本法律事務所 弁護士 中村直人
会社法が施行されて5年近くが経過した。従前、商法を改正しても、その効果がどうであったかということを検証したためしはない。それは商法は、関係者の利害の中立的な調整が目的であったから、不都合があった箇所を是正した、というだけのスタンスであり、その経済的、社会的な効果を云々するというものではなかったからである。しかし、平成9年以降の改正は、基本的に経済の活性化、企業の効率性向上のために、できなかったことをできるようにしたり、手間がかかったことを簡素化するなどの改正を積み重ねたものである。その集大成が会社法であった。そうであれば、会社法の施行によって、どれだけの効果があったのか、検証する、という姿勢があって良いはずである。
会社法によって変わった点は沢山ある。使われている制度は何があるか、と考えると、まず一番目に付くのは、再編関係であろう。簡易手続の拡大や略式手続の創設、加えて、全部取得条項付株式によるスクイーズ・アウトなどの手続は、かなり利用されている。内部統制決議の義務化も一定の効果を果たしているように思われるし、代表訴訟の監査役対応の改正も実務に影響を及ぼしている。取締役の責任を原則過失責任化した改正は、一体どれだけ会社経営に影響を与えているのか分からない。
広まらなかったものとしては、機関設計の柔軟化はそれほど使われず、かえって面倒になっただけである。取締役会決議による剰余金の分配などもあまり広まらなかった。外国企業による三角合併などはほとんど利用されていない。
全体として、これらの改正によってどれだけ経済の効率化が進み、経済の発展に寄与したのか。一方で、現在、会社法改正に関する議論が始まっているが、その対象は企業統治と親子会社法制である。実は、どちらも会社法制定時に、改正事項から見送られた項目である。そのような難物しか改正事項は残っていなかった。それ以外の改正候補は、株式の買取請求制度や濫用的第三者割当増資対応など、いわば微調整である。
つまり、昨今の閉塞的な経済情勢にも拘わらず、それを打破する大きな改正の目玉はもうない。そこが平成9年以降の改正と違うところである。当時は、規制緩和によって経済を活性化し、法制度面で欧米へのキャッチアップができるということがスローガンであった。規制緩和はやり尽くしたのに現在の景気低迷があるとすれば、実は経済の中で会社法制度が果たす役割は意外に小さかったということか。
このように会社法の改正は、夢と期待を失いつつあるが、他方、現在の少子高齢化の中での長期的衰退を、新しい発展へと方向転換させるためには、日本の経済や社会制度を全面的に見直す必要があるはずである。その中で、ほんの1つのピースではあるが、会社法はどうあるべきか、人々の心に火を付ける仕組みは何かということも考えなければならない。人口の増加や、世界の中での競争力の獲得、女性の活躍や地域の活性化等に向けて、国民が一体となって前向きな気持ちになるような社会制度を構築するときではなかろうか。
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