解説記事2011年10月03日 【最新判決研究】 任意組合等から組合員が得る所得(損益)の計算方法(2011年10月3日号・№421)

最新判決研究
任意組合等から組合員が得る所得(損益)の計算方法

東京地裁平成21年(行ウ)第16号、平成23年2月4日判決
東京高裁平成23年(行コ)第89号、平成23年8月4日判決

 早稲田大学大学院教授 品川芳宣

一、事実

(1)本件は、X(原告、被控訴人)が、平成15年分から同17年分までの各所得税について、Xの出資先である任意組合等が行った株式等の売買等から生じた利益又は損失の額を所得税基本通達36・37共-20(以下「本件通達」という。)の(3)に定める方式(以下「純額方式」という。)により納付すべき税額等を計算して確定申告書を提出したところ、処分行政庁から、本件通達の(1)に定める方式(以下「総額方式」という。)により納付すべき税額等を計算すべきであるとする更正(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」といい、両処分を併せて以下「本件課税処分」という。)を受けたことから、国(被告、控訴人)に対し、本件課税処分の取消しを求めて本訴を提起したものである。
 ここにいう「任意組合等」とは、所得税基本通達36・37共19注書の定めにより、民法667条1項に規定する組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(以下「投資事業有限責任組合法」という。)3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約に関する法律3条1項に規定する有限責任事業組合契約により成立する組合並びに外国におけるこれらに類するものをいう。
(2)Xは、次に掲げる任意組合等(以下「本件各組合」という。)に出資する組合員である。
① 本件T組合 本組合は、民法667条1項に規定する任意組合であるが、国内外の未公開会社が発行する有価証券に投資を行い、そのキャピタルゲイン等の利益を得ることを目的とする。Xは、本件T組合の一般組合員である。
② 本件A1号組合 本組合は、投資事業有限責任組合法3条1項に規定する投資事業有限責任組合(以下「有限責任組合」という。)であるが、中小企業等の株式等の売買等を目的とする。Xは、本組合の有限責任組合員である。
③ 本件A2号組合 本組合も、本件A1号組合と同様、有限責任組合であり、その事業目的も同じである。Xは、本組合の有限責任組合員である。
 なお、本件T組合の業務執行組合員並びに本件A1号組合及び本件A2号組合の無限責任組合員は、Xに対し、暦年決算により、平成15年度、平成16年度及び平成17年度の各組合の利益又は損失の額をXの持分割合に応じて分割して計算する報告書(以下「本件各計算書」という。)を送付した。Xは、これに基づき、本件T組合の平成17年分についてのみ本件通達に基づく総額方式により所得金額としたが、その他は本件A1組合及びA2組合を含めて全て純額方式によった。

二、争点及び当事者の主張

1 争  点
(1)本件各更正の適法性
① Xが本件各組合から分配を受けた利益又は損失の額に係る所得金額等について、本件通達の
純額方式の適用が認められるか否か。
② 本件通達の純額方式の適用が認められる場合においても、分離課税の対象となる所得については、その他の所得と区分して計算されるべきか否か。
(2)本件各賦課決定の適法性  本件確定申告において過少申告したことにつき、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」が存するか。

2 国の主張 (1)任意組合等の組合事業から生じる損益の計算方法及びこれに対する課税方法等については、所得税法及び法人税法に何ら規定がないため、専ら解釈に委ねられているところ、所得税法の定める所得金額の計算方法は組合事業に係る取引による収入及び支出はそれが生ずる都度分配割合に従ってその構成員に帰属することを前提としていること、租税特別措置法(以下「措置法」という。)等が各種所得と区分して所得金額の計算及び税額の計算を行うとした所得(いわゆる分離課税の対象となる所得)があること等に照らすと、所得税法の解釈上、総額方式によることを原則とし、総額方式によることが事実上困難であるなど、総額方式によらないことにつき合理的な理由があると認められる場合に限り、中間方式又は純額方式によることを許容しているものと解される。
(2)本件において、Xは、本件各組合から、本件各計算書及び本件各組合の財務諸表等といったその組合事業から生じる損益を総額方式により計算することが十分可能な資料を受領しているから、上記で述べた本件通達の解釈上純額方式により計算をすることができる場合には該当せず、むしろ純額方式による計算を認めれば、所得税法上認められない所得の種類の転換及び損益通算がされることとなり、任意組合等を介さないで本件各組合と同じ事業を行った納税者との課税の公平を害し、課税上の弊害を生じることになるから、これを総額方式により計算することとした本件各更正は適法である。
(3)措置法に基づき分離課税の対象となる所得については、総合課税の対象となる所得と区分して所得金額及び税額を計算し、その所得金額の計算上生じた損失の金額は生じなかったものとみなされるから、当該損失の金額について、他の所得と通算することはできない。
 したがって、Xが本件各組合を通じて得た所得の計算を純額方式によることができるとしても、措置法等による損益通算の制限を潜脱する純額方式の適用は許されないから、各年分の所得のうち、株式等に係る譲渡所得等の金額は措置法の規定に基づく分離課税の対象となる所得としてその所得金額の計算をすべきである。
(4)民法上の組合は個々の組合員の共同事業体であり、組合が行った事業活動は、各組合員自身がその分配割合に応じて行った事業活動として観念される。そのため、組合が行った事業活動の全てをその分配割合に応じて各組合員に帰属させて税額計算を行うことが、民法上の組合の権利関係からみて適切であり、組合損益の計算方法としては総額方式こそが正当な計算方法である。
(5)本件通達は、措置法が規定する分離課鋭の対象となる所得についてまで、それを総合課税の対象となる所得と合算して計算することまで認めるとは記載していないから、Xは、所得税法及び措置法の解釈を誤ったか、あえて本件通達の文言を自己に有利に解釈して、本件各組合を通じて取得した損益につき純額方式による申告を行ったものであり、本件通達の存在を踏まえても、国税通則法上の「正当な理由」があるとは認められない。

3 Xの主張 (1)任意組合等の組合員が組合事業を通じて得た所得の計算方法について、所得税法及び法人税法に明文の規定がなく、その解釈に委ねられているところ、本件通達は、その文理上、総額方式を原則としつつ、その例外として、継続適用のみを要件として、中間方式(本件通達の(2)の方式)又は純額方式の選択を認めており、中間方式又は純額方式の選択に当たり、国主張の「課税上の弊害」を要件とはしていない。そして、任意組合等の組合財産が構成員の共有(合有)として団体法的観点から一定の制約を受けること、投資事業を行う任意組合等における担税力の源泉はその事業全体での所得を一体としてとらえることが担税力の実態に最も合致すること等に照らすと、純額法を許容する合理性があり、また、任意組合等の構成員の具体的態様が自ら業務執行に当たる者から業務執行に関与せず関心を持たない者まで様々である実態を併せ考慮すれば、所得税法は、本件通達の3方式のいずれも採り得るとする趣旨であると解すべきである。
(2)本件においては、①本件各組合の組合財産による投資等の業務執行はX以外の者が行っており、当該投資による損益は投資先のベンチャー企業の業績に左右されるものでこれを恣意的に操作することはできないこと、上記のような本件各組合の業務執行は異なる所得区分に属する利益又は損失の発生を予定していること、②本件各組合は、本件T組合の平成17年分を除き、純資産の増加がなく、平成15年から平成17年まで(ただし、本件T組合については平成15年及び平成16年)純額方式を継続適用していたことから、Xが本件各組合を通じて得た所得の計算について純額方式によったとしても、「課税上の弊害」があるとはいえない。
(3)純額方式によれば、組合事業から各種の所得が発生した場合には、結局組合段階で計算された利益又は損失をいずれか一の所得に配分すべきことになり、また、組合の決算において常に異なる区分の所得間で損益通算を行うことになるから、本件通達は、各種の所得が発生した場合に所得区分が変更になることや異なる区分の所得間で損益通算を行うことを予定しており、その所得に分離課税の対象となる所得が含まれているとしても、これをその他の所得と区分する必要はないというべきである。
(4)仮に本件各更正分が適法であったとしても、Xは、本件通達の文言に従って本件各申告をしたもので、国主張に係る本件通達の解釈に基づく申告を求めることは酷であったから、適法な過少申告加算税額を超える部分については、真に原告に責めに帰することができない客観的な事情にあり、なお、Xに過少申告加算税を付加することが不当又は酷になる場合として、国税通則法65条4項の「正当な理由」があるから、本件各賦課決定は、その限度で違法であるというべきである。

三、一審判決要旨

請求認容。
(1)民法667条等の規定によれば、任意組合は、法人格を有せず、組合財産が組合事業の経営という目的のために各組合員個人の他の財産と独立の存在を認められるとはいえ、法形式的には、権利義務の帰属主体になり得ないため、任意組合の行う個々の事業活動から生じた損益(以下「組合損益」という。)は、その組合員に帰属することになる。したがって、組合損益に対する課税についても、任意組合が法人税法上の「人格のない社団等(法人でない社団又は財団で代表者又は管理の定めがあるもの。」に含まれないと解される限り(法基通1-1-1、所基通2-5参照)、これに対する法人税としての課税はされず(法法4①参照)、その組合員に対する所得税又は法人税としての課税がされること(以下「構成員課税」という。)になる。
 そこで、本件のように、任意組合の組合員が法人ではなく個人である場合には、当該組合員は、組合損益に対する構成員課税として、所得税法により、所得税の納付義務を負うことになる(同法5、2①)から、以下、組合損益に対する構成員課税に関する所得税法上の解釈について検討する。
(2)所得税法は、任意組合の事業活動から生じる損益(組合損益)及び個々の組合員に帰属すべき損益の計算方法及びこれに対する課税方法等については何ら規定していないため、これらについては専ら解釈に委ねているものと考えられる。
 そこで、組合損益及び個々の組合員に帰属すべき損益の計算方法を検討するに、前記で指摘した任意組合の基本構造に加え、任意組合の組合員には、共同事業者として任意組合の業務執行をする者から単に利益の分配を期待する出資者にすぎない者まであり得ることをも併せ考慮すれば、まず、①組合財産が組合員の共有とされており、組合損益は、それが生ずるごとに実際の分配の有無を問わず(損益分配割合に応じて)各組合員に帰属すると考えられる点に着目して、総額方式(損益計算書、貸借対照表の各項目のすべてを各組合員に配分する方法)によることが考えられ、これが原則的、論理的な考え方ということができる。しかし、②任意組合が社団ではなく組合員間の共同事業を目的とする契約の形態を採り、その業務執行が組合契約に基づく各組合員の共同事業として行われるものであり、任意組合の組合財産が狭義の共有(民法249条以下)ではなくいわゆる合有とされ(したがって、その組合員各自が組合財産に対する自由な支配権を有しないという意味で、組合財産にある程度の独立性があると解されている。)、組合内部においては組合損益のうち利益は各組合員に分配し、損失は各組合員が分担することが予定され(同法674条はこれを前提としているものと解される。)、特に営利事業を主たる目的とする組合であれば、その存続中には、定期的に損益の計算をして利益があればその都度組合員がその分配を受けることを意図していることが通例であると解されること(この点からすると、任意組合が多数の組合員から出資を募って共同事業を行う場合においては、その出資者が単に利益の配分を期待する資本出資者という実態を持つ場合には、その業務から生じる利益の配分として個人組合員が当該組合から受ける所得は、出資・投資の対価として雑所得に該当するとも考えられる。)に着目すれば、純額方式(任意組合の利益金額や損失金額のみを各組合員に配分する方法)によることも考えられる。
 そうであるとすれば、組合損益及び個々の組合員に帰属すべき損益の計算方法としては、③上記のような総額方式と純額方式の中間の方式である中間方式(損益計算書の項目だけ各組合員に配分する方法)も含めた、以上の3つの方法のいずれもが所得税法上の解釈として許容されるものと解すべきである。
(3)これに対し、国は、①措置法が各種所得と区分して所得金額の計算及び税額の計算を行うとした一定の所得(いわゆる分離課税の対象となる所得)があり、②総額方式と純額方式とでは、適用される税率、損益通算の対象となる所得の範囲及び損失の繰越しの取扱いが異なること等からすると、所得税法の解釈上、総額方式によることを原則とし、総額方式によることが事実上困難であるなど、総額方式によらないことにつき合理的な理由があると認められる場合に限り、中間方式又は純額方式によることを許容しているものと解される旨主張する。
 確かに、任意組合の事業活動に国指摘に係る措置法の各規定が形式的に適用されるという前提に立ち、申告分離課税の対象となる所得が含まれている場合において、任意組合等の組合事業に係る組合員の利益等の額の計算方法を中間方式又は純額方式によることとすれば、形式的には、申告分離課税の対象となる所得を総合課税の対象となる所得として把握することになり、申告分離課税の対象となる所得部分について適用される税率、損益通算の対象となる所得の範囲及び損失の繰越しの取扱いが異なることになり得る。
 しかしながら、国の主張によっても、上記の場合において、「総額方式によることが事実上困難であるなど、総額方式によらないことにつき合理的な理由があると認められる」ときは、任意組合等の組合事業に係る組合員の利益等の額の計算方法を中間方式又は純額方式によることを許容し、国指摘に係る措置法の各規定を潜脱したものとは評価しないというのであるから、これらの各規定は、必ずしも形式的に適用されることを予定してはいないと解され、さらに、上記で指摘した任意組合の特殊性のほか、国指摘に係る措置法の各規定については任意組合等の組合事業に関する適用関係を明示した通達がないことをも併せ考慮すれば、上記の場合において、任意組合等の組合事業に係る組合員の利益等の額の計算方法を中間方式又は純額方式によったことをもって、直ちにこれらの各規定に反するとはいえないというべきである。
 そうすると、国指摘に係る措置法の各規定の存在から、直ちに国主張に係る所得税法の上記解釈を導くことはできず、国の上記主張は採用することができない。
(4)有限責任組合は、①事業者に対する投資事業を行うための組合契約によって成立する無限責任組合員及び有限責任組合員からなる組合であるが、②法人格は認められておらず、③組合の業務は、無限責任組合員が執行し、④その組合財産が総組合員の共有とされ、また、⑤当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資の価額に応じて定めるが、貸借対照表上の純資産額を超えて組合財産を分配することはできず、⑥無限責任組合員及び有限責任組合員が組合の債務を弁済する責任を負うとされており、その基本構造は、任意組合の基本構造と極めて類似している。
 以上のように、任意組合と有限責任組合との基本構造が類似しており、本件通達も有限責任組合の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額の計算方法を任意組合の組合員のそれと同一の取扱いとして定めていることに照らすと、上記で説示したことは、有限責任組合についても同様に当てはまるものと解される。
(5)本件通達は、任意組合等の組合事業に係る組合員の利益等の額は、組合事業に係る収入の額、支出の額、資産、負債等をその分配割合に応じて計算することを明らかにするとともに、その計算方法は、総額方式によることを原則とするが、この方法ではそれぞれの組合員ごとに組合の各勘定を分割しなければならないため、実際上困難な場合も生ずることから、継続適用を条件として中間方式及び純額方式によることも認めることとし、所得計算方法の簡便化を図ったものである。
 なお、①中間方式による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について非課税所得、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はあるが、引当金、準備金等に関する規定の適用はなく、②純額方式による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について、非課税所得、引当金、準備金、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく、各組合員にあん分される利益の額又は損失の額は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とするとされている。
 本件通達については、平成17年12月26日付け課個2-39ほかによる一部改正として、任意組合に関する従前の規律を投資事業有限責任組合法3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約等により成立する組合等にも拡張することとされたが、その余の点は実質約な改正がされておらず、上記改正の前後を通じて、本件通達による計算方法が課税実務の取扱いとして定着している。
(6)平成21年度所得税基本通達逐条解説には、本件通達の解説として、「なお、本通達は、専ら各組合員の所得計算が煩雑化することを緩和する見地から定められたものであることから、たとえ本通達の定める計算方法を継続適用している場合であっても、その結果が、各法令の規定等に反することとなるなど、課税上弊害があると認められる場合には、本通達の適用はないこととなる」との記述があるが、このような記述は、平成14年度所得税基本通達逐条解説及び平成19年度所得税基本通達逐条解説における本件通達の解説としては存在しなかった。
 なお、法人税基本通達14-1-2は、「法人が、組合事業に係る帰属損益額を各事業年度の益金の額又は損金の額に算入する場合には、総額方式により計算する。ただし、法人が中間方式又は純額方式により継続して各事業年度の益金の額又は損金の額に算入する金額を計算しているときは、多額の減価償却費の前倒し計上などの課税上弊害がない限り、これを認める。」旨定めている。また、法人の土地譲渡益に対する追加課税制度を定める措置法62条の3については、措置法(法人税関係)通達62の3(6)-1において「民法上の組合が土地等の譲渡をした場合には、当該土地等の譲渡に係る対価の額、原価の額及び経費の額は、各組合員の持分に応じ、それぞれ各組合員に対応する額を計算し、各組合員において措置法62条の3の規定を適用するものとする。」と定められている。
(7)以上によれば、本件通達は、任意組合等の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額の計算方法につき、総額方式によることを原則とし、例外的に、継続適用を条件として、中間方式及び純額方式によることも認めるものであり、このような計算方法の取扱いは、課税実務の取扱いとして定着しているところ、上記の計算方法がどうあるべきかについては、前記で説示したとおり、所得税法の規定の文言及び解釈により一義的に決まらないことに照らし、所得税法の解釈を踏まえて所得計算方法の簡便化を図ったものとして、合理性を有するものであるといえる。
 そして、本件通達は、その文言上、「その者が継続して次の(2)(注:中間方式)又は(3)(注:純額方式)の方法により計算している場合には、その計算を認めるものとする。」と明示的に定めている(法人税基本通達14-1-2のように「多額の減価償却費の前倒し計上などの課税上弊害がない限り」といった留保は一切されていない。)のであるから、上記認定に係る平成21年度所得税基本通達逐条解説における本件通達の解説の内容を考慮しても、任意組合等の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額の計算方法を中間方式又は純額方式によるためには、中間方式又は純額方式を継続適用していれば足り、少なくとも①総額方式による計算が困難であるなどの事情が存することや②総額方式により計算した各種所得の額に基づく所得税額が中間方式又は純額方式により計算した各種所得の額に基づく所得税額を超えないことは要しないと解すべきである(特に②の点を要件とすれば、中間方式又は純額方式による計算をしようとする納税者は、①の総額方式による計算が困難であるなどの事情がない限り、常に総額方式による計算と中間方式又は純額方式による計算のいずれも行わなければならないことになるが、このような事態は本件通達が所得税法の解釈を踏まえて所得計算方法の簡便化を図った趣旨に反するといわざるを得ない。)。
 そうすると、平成15年から平成17年までの間に、国の主張に係る「総額方式による計算が困難である特段の事情がある場合」又は「総額方式による計算が実際上困難とまでいえない場合であっても、納税者が総額方式と比較して簡易な計算方法である中間方式及び純額方式を選択しても、当該納税者の租税負担が軽減されることがないなど、課税上の公平を害さない(課税上の弊害が生じない)限度において」のみ認められるということを本件通達から読み取ることは、一般の納税義務者にとっては不可能であったといわざるを得ない。
(8)以上によれば、Xの平成15年分から平成17年分までの所得税の計算に当たり、本件各組合の事業に係る利益又は損失の額は、(総額方式による計算が可能であるが、これによらずに)純額方式による計算をし、これを雑所得に係る収入金額又は必要経費とすることができる。
 そこで、前記の当事者間に争いがない計算の基礎となる金額及び計算方法によれば、Xの平成15年分から平成17年分までの各所得金額及び納付すべき金額は、ほぼXの主張額となるので、それを上回る本件各更正は取り消されるべきである。
(9)本件各賦課決定は、本件各更正が取り消された範囲において取り消されるべきである。

四、控訴審判決要旨

控訴棄却(請求認容)。
(1)当裁判所も、本件各更正及び本件各賦課決定のうちXが取消しを求めている部分については、いずれもこれを取り消すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(2)国は、個々の組合員に属する組合損益の計算方法については、総額方式が原則であり、中間方式や純額方式は、例外的な計算方法にすぎないものであって、総額方式による計算が煩雑、困難であるなどの合理的な理由がないにもかかわらず、便宜的な方式を利用することは、これを許容した法の趣旨に反するものであるところ、Xは、総額方式による申告納税が可能であったにもかかわらず、純額方式による計算を行っており、このような場合に純額方式の適用ができないことが明らかであって、総額方式に従って組合損益の計算を行った本件各更正はいずれも適法というべきであると主張する。
 しかしながら、本件通達は、継続して中間方式や純額方式により計算している場合には、「その計算を認めるものとする」と定めており、継続適用を要件としているほかは特段の要件を定めていないものであって、本件通達に定めていない要件を、通達の改正をしないまま解釈により付加することは、租税法律主義の趣旨に抵触する。
(3)国は、中間方式又は純額方式を採用した納税者が、その後、特段の事情もないのに異なる方式を採用したときは、継続して計算をしている場合とはいえず、遡って例外的な方式である中間方式又は純額方式の適用が否定されるべきであるから、本件T組合の平成17年分につきX自らが総額方式に従って組合損益の計算を行った本件においては、それ以前に純額方式に従って損益計算した組合損益についても継続適用の要件を満たすか否かを見直す必要があり、本件では、Xは、本件通達が中間方式又は純額方式を採用する場合に要求される継続適用の要件も満たしていないから、純額方式によって組合損益の計算を行うことは許されないと主張する。
 しかしながら、本件T組合は平成12年分から平成16年分までの5年間純額方式により計算しているものであり、平成17年分につき継続適用が要件とされていない総額方式に変更したとしても、これによってその前の年度の継続適用の要件が遡って否定されるという解釈には合理的根拠がなく、国の上記主張は理由がない。
(4)国は、措置法37条の10が規定する損益通算の制限は、純額方式によって組合員の損益を計算する場合にも適用されると主張する。
 しかしながら、原判決の説示したとおり、本件通達が、複数の所得に区分されるものを単なる利益の額又は損失の額として算出しながら、なお従来の所得区分を維持して損益通算の制限が適用されるとする趣旨であると解することはできないから、国の上記主張も理由がない。

五、解説

はじめに
 本件は、任意組合等の組合員であるXが当該任意組合等から得た利益に係る所得税法上の所得金額の算定につき、所得税基本通達の定め(本件通達)の適用の是非が争われたものである。任意組合等と総称される民法上の任意組合及び投資事業有限責任組合法上の有限責任組合は、種々の投資の受皿となり、かつ、節税の手段となる事業体として近年特に重視されているのであるが、それをめぐる課税方法が必ずしも明確に整備されているわけではない。
 これらの各組合は、所得税基本通達及び法人税基本通達において「任意組合等」と称されている(所基通36・37共19注書、法基通14-1-1注書)ところであり、また、任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属、当該利益等の額の計算方法等についても、実務上、上記両通達の取扱い(所基通36・37共-19、同36・37共-19の2、同36・37共-20、法基通14-1-1、同14-1-1の2、同14-1-2)に依存している。
 このように、任意組合等に係る損益及び同組合員に係る所得の各計算が国税庁通達によって取り扱われていることについては、租税法律主義の見地から問題とされたり、あるいは、所得税基本通達と法人税基本通達の各取扱いの間に本件各判決も指摘するように若干の差異があることが問題とされることがある。しかし、それらの問題が法廷で争われるに至ったのは、本件各判決が初めてであるようである。
 本件では、Xの所得税に関し、上記問題が争われることになったのであるが、任意組合等をめぐる課税問題に一石を投じることになったものと評価し得る。以下、本稿では、それらの問題について論じることとする。

1 任意組合等とその組合員の損益・所得の計算方法 (1)所得税法においては、任意組合等の損益計算及びその組合員の所得計算の方法を直接定めた規定は存しない。しかし、そのことが直ちに租税法律主義における課税要件法定主義に反することを意味するわけではない。そのことは、法人税法においても同じである。
 所得税法においては、所得税の納税義務者を個人と法人に大別している(所法5)。後者(法人)については、所得税の納税義務は所得税の源泉徴収の対象となる所得の支払を受ける場合に限定される(所法5、7)。この場合の「法人」には、内国法人(所法2①六)及び外国法人(所法2①七)という法人格を有するもののほか、人格のない社団等(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう(所法2①八)。)も含まれる(所法4)。したがって、任意組合等については、人格のない社団等と認められない限り、「法人」として課税されることはない。
 他方、個人については、国内に住所(又は1年以上の居所)を有するか否かによって、居住者と非居住者に大別される(所法2①四、五)。居住者については、原則として、すべての所得について所得税が課税される(所法5①、7①一)が、その所得が10種類に区分される等所得税法等において具体的な課税方法が定められている(所法22以下)。
 かくして、居住者が任意組合等の事業活動から生じた利益(又は損失)を享受する場合には、当該任意組合等が法人に該当しない限り、その享受する利益(又は損失)を当該居住者が当該任意組合等の事業から直接取得したものとして前述の10種類の所得の一つとして認識することが予定されている。また、任意組合等については、民法等においてその損益計算方法や組合員に対する帰属方法が定められている(民法674等参照)。したがって、任意組合等の組合員の所得計算についても、民法等の規定と所得税法上の所得計算規定の解釈によって行えば足りることになる。
(2)しかしながら、このような解釈のみによっては、課税の統一ないし公平が図り難いというところから、国税庁通達の必要性と存在意義がある(注1)。そのため、所得税基本通達は、任意組合等に係る所得計算等について、次のように定めている(注2)。
(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属) 36・37共-19 任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(以下36・37共-20までにおいて「組合事業」という。)に係る利益の額又は損失の額は、当該任意組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。
 ただし、当該分配割合が各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合には、この限りではない。
(注)1 〈略〉
(注)2 分配割合とは、組合契約に定める損益分配の割合又は民法第674条《組合員の損益分配の割合》、投資事業有限責任組合契約に関する法律第16条《民法の準用》及び有限責任事業組合に関する法律第33条《組合員の損益分配の割合》の規定による損益分配の割合をいう。以下36・37共-20までにおいて同じ。
(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属の時期) 36・37共-19の2 任意組合等の組合員の組合事業に係る利益の額又は損失の額は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。
 ただし、組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期において計算し、かつ、当該組合員への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合には、当該任意組合等の計算期間を基として計算し、当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入するものとする。
(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の額の計算等) 36・37共-20 36・37共-19及び36・37共-19の2により任意組合等の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次の(1)の方法により計算する。ただし、その者が継続して次の(2)又は(3)の方法により計算している場合には、その計算を認めるものとする。
(1)当該組合事業に係る収入金額、支出金額、資産、負債等を、その分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
(2)当該組合事業に係る収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
   この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について非課税所得、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はあるが、引当金、準備金等に関する規定の適用はない。
(3)当該組合事業について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員にあん分する方法
   この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について、非課税所得、引当金、準備金、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく、各組合員にあん分される利益の額又は損失の額は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とする。」
(3)これらの取扱いについては、法人税についても同様である(法基通14-1-1、同14-1-1の2、同14-1-2参照)。しかし、法人税基本通達では、本件で問題となっている純額方式及び中間方式の適用については、「多額の減価償却費の前倒し計上などの課税上弊害がない限り、これを認める。」とする限定条項が明記されている。他方、所得税基本通達では、このような限定条項は明記されていないが、一審判決でも判示されているように、平成21年に至って、国税庁の担当者が、課税上弊害があると認められる場合には、純額方式及び中間方式の適用は認められない旨解説書において説明している(注3)。
 このような限定条項については、税務通達においてよく見受けられるところ、当該限定条項を含めて当該通達の取扱いが適用されるべきことであろうが、当該限定条項の存否(判断)については、それが法令の解釈に関わるだけに慎重にかつ客観的に行われるべきであろう(注4)。もっとも、通達本文ではなく、前述のような国税庁担当者の解説によって「課税上弊害がない」という限定条項を付することは、納税者に対して効力を有するものとは考えられない。そのような限定条項は、あくまでも通達の上で明らかにされてこそその効力が問題になるはずである。

2 本件における本件通達の適用 (1)本件において、Xは、本件各組合から受領した本件各計算書に基づいて、本件T組合については、平成15年分及び平成16年分について純額方式により、平成17年分について総額方式によって所得税額を計算し、本件A1・A2組合については、各年分とも純額方式によって所得金額を計算した、というものである。このように、Xが各組合又は各年分において所得金額の計算方式を使い分けているのは、全各年分について総額方式によって所得金額の計算が可能であるものの、本件通達の文言に抵触しないようにして自己に有利な計算方法を選択したことが容易に推察できる。そのため、国が主張するような理由(課税上の弊害)によって本件各更正が行われたことも窺える。
 これに対し、一審判決は、任意組合等の組合員に帰属すべき損益について所得の計算方法は専ら解釈に委ねられているとし、その解釈に係る本件通達等の取扱い(総額方式、純額方式、中間方式)に合理性が認められるとした上で、国が主張するような「納税者が総額方式と比較して簡易な計算方法である中間方式及び純額方式を選択しても、当該納税者の租税負担が軽減されることがないなど、課税上の公平を害さない(課税上の弊害が生じない)限度において」のみ認められることを本件通達から読み取ることを一般の納税者に強制することは困難である旨判示して、国の主張を排斥している。更に、控訴審判決は、一審判決を踏まえた上で、「本件通達に定めていない要件を、通達の改正をしないまま解釈により付加することは、租税法律主義の趣旨に抵触する。」と判示して、国の主張を排斥している。
(2)このような国の主張と本件各判決の考え方の対立は、所得税法の解釈適用の問題というよりも、むしろ本件通達の解釈適用の問題に帰しているように考えられる。確かに、Xは本件各組合からの損益について、本件T組合からの平成17年分についてのみ原則法の総額方式によって計算しているほかは、一応継続して簡便法である純額方式によって計算していることになる。このことは、本件通達がいう「その者が継続して次の(2)又は(3)の方法により計算している場合には、その計算を認めるものとする。」ことに文言上は合致することになる。
 この場合、本件通達には明記されていない「課税上弊害がある」という限定条項の強制については、納税者の予測可能性を侵害するばかりではなく、通達に反した課税処分ということで信義則の適用問題も惹起することになるので(注5)、その意味での違法性が生じるものと考えられる。また、控訴審判決が判示するような「……租税法律主義の趣旨に抵触する。」という判示については、確かに、租税法律主義の機能である予測可能性を害するという問題も惹起することになろうが、租税法律主義とは直接関係するわけではないので、やはり通達上の文言に反した課税処分ということで、信義則の適用問題として捕えるべきであろう。いずれにしても、本件課税処分は、通達の適用上問題があったと言える。また、「課税上弊害がある」という限定条項について、所得税基本通達と法人税基本通達との間で文言を異にしていること自体が問題であると言える(注6)。

3 組合課税と事業体課税論 (1)本件における任意組合等に対する課税問題を考察した場合には、組合課税における構成員課税をどの範囲まで認めるべきかという問題と任意組合等を人格のない社団等(法人)と認めて課税する余地があるのではないかという問題を惹起する。これらの問題は、表裏の関係にあり、近年注視されている事業体課税論に関係することになる。
 そこで、これらの問題に関して、二つの事例を紹介しておきたい。一つは、我が国の個人投資家がアメリカ・ニューヨーク州法に基づいて組成されたLLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)から得た利得につき、我が国においてもアメリカと同様に構成員課税が受けられるか否かが争われた事例である。この事件については、さいたま地裁平成19年5月16日判決(訟務月報54巻10号2537頁)(注7)及び東京高裁平成19年10月10日判決(訟務月報54巻10号2516頁)(注8)は、当該LLCは法人税法上の法人である「外国法人」に該当するから、我が国では構成員課税を受けることはできず、当該投資家が当該LLCから得た利得は所得税法上の配当所得に該当する旨判示している。
 なお、構成員課税については、投資による損益の課税時期を操作することも可能であるということで、我が国においても幅広く認めるべきであるという声は強い。本件で問題となった本件A1・A2組合も、その要望によって成立した投資事業有限責任組合法に基づいて設立されているものである。
(2)次に、民法等に基づいて設立された「組合」であっても、当該組合が人格のない社団等となる要件を充足している場合に、構成員課税よりも法人税課税を行うべきではないかという問題がある。特に、「組合」の組合員が極めて多数となり、当該組合の経済取引が複雑になると、各組合員に対する正確な損益分配を旨とする構成員課税が事実上不可能になる場合もあるので、むしろ法人税課税が妥当することも考えられる。この点に関し、本件の一審判決も、「任意組合が法人税法上の「人格のない社団等(法人でない社団又は財団で代表者又は管理の定めがあるもの。)に含まれないと解される限り」と判示し、民法上の任意組合であっても、人格のない社団等として法人税課税の対象となり得ることを示唆している。
 この点に関し、大阪地裁平成23年3月17日判決(平成20年(行ウ)第231号)(注9)では、非上場会社の従業員持株会がその規約によって民法上の組合として設立されたものであるが、その組合員が約7,000名にのぼることとその取引形態の実情から構成員課税が無理であることを事由に、当該従業員持株会を人格のない社団等として課税すべきか否かが争われている。この事件では、当該持株会を設立した当事者の原告が当該従業員持株会を人格のない社団等として認めるべき旨主張したのであるが、上記判決は、当該主張を排斥している。この問題が控訴審以降でどのように審理されるかが、注目されるところである。

4 本件賦課決定における「正当な理由」  本件においては、本件各更正が適法であっても、本件の過少申告において「正当な理由」があるとして、本件賦課決定についての固有の違法性も争われた。当該「正当な理由」は処分行政庁が通達の文言に反した課税処分を行ったというものである。結局、本件各判決とも、本件各更正が大部分違法となるということで、本件各賦課決定の大部分も取り消されることとなり、「正当な理由」と存否も審理されることはなかった。
 この問題に関しては、前記2において、本件各更正が本件通達の文言に反して行われたものと認められる場合には、場合によっては信義則の適用問題を惹起することを指摘した。しかし、信義則の適用については、租税法律主義の合法性の原則との関係から厳しく制限されるものと解されている。これに対し、「正当な理由」の存否については、国税通則法の解釈の問題であるから、一層弾力的に解釈して、本件各賦課決定の固有の違法事由とすることも考えられる(注10)。

5 本判決の意義と問題点 (1)以上のように、本件においては、任意組合等の組合員であるXが、当該任意組合等から得た利益を本件通達の文言に従い、各年分において同通達が定める純額方式又は総額方式を使い分けて適用して各年分の所得税の申告をしたことに対し、処分行政庁は、本件のような場合には課税上の弊害があるということで、各年分について純額方式による所得計算は認められないとする本件課税処分を行ったため、当該処分の適否(違法性)が争われたものである。
 本件各判決とも、前述のように、Xが本件通達の文言に従い、純額方式を使い分けて申告したとしても、当該通達の文言からみてやむを得ないところであるから、当該申告を否認する本件課税処分は違法である旨判示している。そのような判断については、本件通達の文言、あるいは本件通達と同様な規定を定めている法人税基本通達14-1-2において「課税上弊害がない限り」という限定条項を明記していることに対比すると、妥当であるものと考えられる。
 いずれにしても、本件については、任意組合等に関する課税処分の適否が初めて争われたと言えるだけに、本件各判決の重要性(意義)が指摘できる。
(2)次に、本件と本件各判決については、前述したように、幾つかの課税上の問題が存する。その中でも、任意組合等に対する課税は、事業体課税論の中核を占めるものであるから、その課税のあり方が再検討されることになろう。最も簡単なことは、任意組合等を利用した節税が過熱する中、少なくとも本件通達等が改正されることが予測される。例えば、本件通達に関しては、総額方式が可能である場合には、中間方式及び純額方式の利用ができないようにするとか、法人税基本通達のように「課税上弊害がない」という限定条項が設けられることも考えられる。
 また、任意組合等に対する課税は、現行では通達で取り扱われているが、リース取引課税がそうであったように、法令によって規制されることも考えられる。更には、任意組合等の規模が拡大し、あるいはその取引が複雑化してきた場合には、現行のような構成員課税が妥当であるか否かという問題(法人税課税の必要性)も惹起することになろう。
 最後に、任意組合等に対する課税がいわゆる通達課税として行われているところ、本件各判決においては、税務通達に関する法律論が必ずしも納得のあるものとも言い難い。それらの問題については、すでに指摘してきたところであるが、このような法律問題も一層検討されて然るべきであると考えられる。

(注1)税務通達の存在意義・法的性格等については、品川芳宣『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい、平成15年)参照。
(注2)この通達は、平成17年改正後のものであるが、本件係争年分の平成15年ないし平成16年においても実質的差異はない。
(注3)後藤昇ほか共著『平成21年度 所得税基本通達逐条解説』(大蔵財務協会、平成21年)383頁参照。
(注4)前出(注1)116頁参照。
(注5)前出(注1)142頁、品川芳宣「税法における信義則の適用について─その法的根拠と適用要件─」税務大学校論叢8号1頁等参照。
(注6)国税庁の通達の中には、同じような法令解釈であっても税目間の取扱いの中で文言を異にしている例が見受けられるが、本件を契機にそれらの見直しがあって然るべきである。
(注7)判例評釈として、品川芳宣・本誌2008年3月3日号16頁等参照。
(注8)判例評釈として、宮崎裕子・税研2009年9月号(最新租税判例60)87頁等参照。
(注9)判例評釈として、品川芳宣・本誌2011年6月6日号20頁等参照。
(注10)詳細については、品川芳宣『附帯税の事例研究 第3版』(財経詳報社、平成17年)107頁以下参照。

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