コラム2012年10月22日 【SCOPE】 外国事業体の法人該当性訴訟、バミューダLPSでも国側敗訴(2012年10月22日号・№472)
米国LPS訴訟の判断基準が他の事業体に波及
外国事業体の法人該当性訴訟、バミューダLPSでも国側敗訴
外国事業体の法人該当性を巡っては、東京地裁民事第2部の川神裕裁判長が米国デラウェア州LPSが法人に該当しないと判断したことが記憶に新しい(平成23年7月19日判決)。このほど、米国LPS訴訟で裁判長を務めた川神裁判長が、バミューダ法に基づき組成されたLPSについても、日本の租税法上、法人に該当しないとした注目すべき判断を示した(平成24年8月30日判決)。川神裁判長は、米国LPS訴訟と同じ判断基準(日本の法人と同様に損益の帰属主体であるか否かなど)を採用。国側が主張する判断基準(事業体が権利義務の帰属主体となり得るか否かなど)を斥け、バミューダLPSは法人に該当しないと結論付けている(国側は控訴)。外国事業体が日本の租税法上、法人に該当するか否かの判断基準は、国際税務の分野において重要な問題といえる。それだけに、米国LPS訴訟の控訴審と同様に、本事案の控訴審にも注目が集まる。
本件バミューダLPSは損益の帰属主体とは認められず 今回の事案は、英国領バミューダ諸島の法律により組成されたLPS(リミテッド・パートナーシップ)であり、かつ特例パートナーシップである原告が、日本の租税法上、法人に該当するか否かが争われていたもの。
課税当局は、原告が日本の租税法上、法人に該当すると判断したうえで、原告の本件事業年度(平成13年4月16日から同年12月31日)に関し、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金について、法人税の申告書を提出しなかったとして約9億円の法人税決定処分等を行っていた。この課税処分に対し、原告は法人税法上の納税義務者に該当せず、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金を受領した事実はないと主張。法人税決定処分等の取消し等を求めて訴訟を提起していた(当事者の主張は表1参照)。
東京地裁民事第2部の川神裕裁判長は、外国法令により組成された事業体が日本の租税法上、法人に該当するか否かについて、①外国法令によって法人格を付与する旨が規定されているか否か、②その事業体が日本の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものか否かを検討する必要があり、②の点が肯定される場合に限り、日本の租税法上の法人に該当すると解すべきであるとの判断基準を示した。なお、この判断基準は川神裁判長が米国LPS訴訟(平成23年7月19日判決)で示したものと同様のものだ。
川神裁判長は、本件バミューダLPSが法人に該当するか否かを巡り、前述の判断基準①については、本件事業年度のバミューダ法の規定内容によれば、特例パートナーシップに関して法人格を付与する旨の規定は存在しないと指摘。また、前述の判断基準②については、原告のような特例パートナーシップを通じた事業の損益は、法令および契約上各パートナーに直接帰属するとされ、原告自体に損益が帰属するものではないと認定した。
そのうえで川神裁判長は、本件バミューダLPSは、明らかに日本の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものということはできないとして、日本の租税法上、法人に該当しないと判断(表2参照)。課税当局が行った約9億円の法人税決定処分等を取り消す判決を言い渡している。
外国事業体の法人該当性訴訟、バミューダLPSでも国側敗訴
外国事業体の法人該当性を巡っては、東京地裁民事第2部の川神裕裁判長が米国デラウェア州LPSが法人に該当しないと判断したことが記憶に新しい(平成23年7月19日判決)。このほど、米国LPS訴訟で裁判長を務めた川神裁判長が、バミューダ法に基づき組成されたLPSについても、日本の租税法上、法人に該当しないとした注目すべき判断を示した(平成24年8月30日判決)。川神裁判長は、米国LPS訴訟と同じ判断基準(日本の法人と同様に損益の帰属主体であるか否かなど)を採用。国側が主張する判断基準(事業体が権利義務の帰属主体となり得るか否かなど)を斥け、バミューダLPSは法人に該当しないと結論付けている(国側は控訴)。外国事業体が日本の租税法上、法人に該当するか否かの判断基準は、国際税務の分野において重要な問題といえる。それだけに、米国LPS訴訟の控訴審と同様に、本事案の控訴審にも注目が集まる。
本件バミューダLPSは損益の帰属主体とは認められず 今回の事案は、英国領バミューダ諸島の法律により組成されたLPS(リミテッド・パートナーシップ)であり、かつ特例パートナーシップである原告が、日本の租税法上、法人に該当するか否かが争われていたもの。
課税当局は、原告が日本の租税法上、法人に該当すると判断したうえで、原告の本件事業年度(平成13年4月16日から同年12月31日)に関し、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金について、法人税の申告書を提出しなかったとして約9億円の法人税決定処分等を行っていた。この課税処分に対し、原告は法人税法上の納税義務者に該当せず、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金を受領した事実はないと主張。法人税決定処分等の取消し等を求めて訴訟を提起していた(当事者の主張は表1参照)。
【表1】当事者の主張(法人該当性の判断基準) |
原告側の主張 | 国側の主張 |
外国の事業体が日本の租税法上の外国法人として取り扱われるためには、①原則として外国法令により法人格を付与する旨を規定されていることが必要であるが、そうでないとしても、②実質的にみれば、明らかに日本の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものである場合には、日本の租税法上、外国法人として取り扱われることとなると解すべきである。 →本件バミューダLPSは日本の租税法上、法人に該当しない。 | 外国法令により組成された事業体が日本の租税法上の法人に該当するか否かは、①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否か、②その名において契約を締結し、その名において権利を取得し義務を負うなど独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か、③訴訟当事者となり得るか否かに基づき判断すべきである。 →本件バミューダLPSは日本の租税法上、法人に該当する。 |
川神裁判長は、本件バミューダLPSが法人に該当するか否かを巡り、前述の判断基準①については、本件事業年度のバミューダ法の規定内容によれば、特例パートナーシップに関して法人格を付与する旨の規定は存在しないと指摘。また、前述の判断基準②については、原告のような特例パートナーシップを通じた事業の損益は、法令および契約上各パートナーに直接帰属するとされ、原告自体に損益が帰属するものではないと認定した。
そのうえで川神裁判長は、本件バミューダLPSは、明らかに日本の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものということはできないとして、日本の租税法上、法人に該当しないと判断(表2参照)。課税当局が行った約9億円の法人税決定処分等を取り消す判決を言い渡している。
【表2】川神裁判長が示した法人該当性の判断基準と本件バミューダLPSへの当てはめ |
法人該当性の判断基準 | 本件バミューダLPSへの当てはめ |
① 外国法令の規定内容をその文言に従って形式的にみた場合に、その外国法令において事業体を法人とする(事業体に法人格を付与する)旨を規定されているかどうか。 | バミューダ法の規定内容によれば、1883年LPS法、1902年PS法および1992年EPS法上、特例パートナーシップに関して、法人格を付与する旨の規定は存在しない。なお、1902年PS法の2006年改正により、特例パートナーシップの選択により法人格を取得することが認められることとされたが、本件事業年度は上記の法律改正の前に終了しているから、改正後の条文が適用されることはなく、改正の前後を通じて原告は法人格の取得を選択していないため、上記の規定により原告が法人格を取得することはあり得ない。 |
② 経済的、実質的に見れば、明らかに我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうか。②の点が肯定される場合に限り、我が国の租税法上の法人に該当すると解するべきである。 | バミューダ法では、すべてのパートナーは事業などから生ずる利益につき等しく持分の権利を有し、パートナーシップが被った損失を等しく負担しなければならないと規定(1902年PS法24条(a))するなど、事業から生じる利益の割当てを個人が受領することが正にパートナーシップの本質である旨を規定している。そして、本件LPS契約では、損益は、各パートナーの持分割合に応じて各パートナーに比例配分されるものとすると規定している。 上記の各規定に照らすと、原告のような特例パートナーシップを通じた事業の損益は、法令および契約上各パートナーに直接帰属するとされ、すなわち原告自体に損益が帰属するものではないものと認められる。 |
↓ |
以上によれば、本件バミューダLPSは、バミューダ法の規定するその設立、組織、運営及び管理等の内容に着目して経済的、実質的に見ても、明らかに我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものということはできない。 →本件バミューダLPSは、日本の租税法上「法人」に該当せず。 |
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