解説記事2013年06月17日 【ニュース特集】 組織再編における消費税率引上げの影響(2013年6月17日号・№503)
課税資産の譲渡等の認識時期次第で税率が変わるケースも
組織再編における消費税率引上げの影響
来年4月1日に消費税率引上げを控える中、経過措置や消費税率引上げ日をまたぐ取引に関心が集まっているが、組織再編においても資産の異動が消費税上の「課税資産の譲渡等」に該当する場合があり、その時期をいつと認識するのかによって、消費税率の選択の問題が生じ得る。
そこで本特集では、組織再編の種類ごとに消費税の課税関係を整理しつつ、組織再編に伴う資産の異動が課税資産の譲渡等に該当する場合における消費税の「課税時点」を検討する。
合併、分割、株式交換・移転、現物分配は「課税資産の譲渡等」に該当せず
まず、合併、分割、株式交換・移転、現物分配、現物出資、さらに事業譲渡について、消費税の課税関係を整理してみよう(次頁表1参照)。
合併においては、吸収分割・新設合併を問わず、合併により消滅する会社の権利義務は全て合併後に存続する会社に承継(包括承継)されることになる(会社法2条二十七、二十八)。
そして、消費税法上は、資産の譲渡等の範囲から「包括承継」が除かれているため(消法2条①八、消令2条①四)、合併による資産の異動は、当該合併が税制適格か非適格を問わず、消費税上の資産の譲渡には当たらないことになる(すなわち「不課税」)。
これは会社分割も同様。会社分割(吸収分割、新設分割)は、会社の権利義務を全て承継させる合併とは異なり、事業の「全部または一部」を他の会社に承継させる制度であるが(会社法2条二十九、三十)、会社分割の対象となる「事業」は一体として機能するものであり、会社分割に際し当該事業に係る権利義務を個々に移転させることは不要のため、会社分割もやはり「包括承継」に該当し、会社分割に伴う資産の異動は消費税上「不課税」となる。
次に株式交換・移転では、完全子法人の旧株主は、完全子法人株式の代わりに完全親法人株式を取得する。これは、旧株主にとっては「完全子法人株式の譲渡」ということになる(税制適格か非適格かは問わない)。もっとも、消費税法上、有価証券の譲渡は非課税であるため(消法6条①、別表1二)、新旧どちらの消費税率を選択するかといった問題は生じない(ただし、課税売上割合には大きな影響が出ることがあるので要注意)。
一方、消費税上の課税資産の譲渡等に該当し得るのが事業譲渡と現物出資だ。
まず事業譲渡においては、譲渡される事業に係る一切の資産、負債のうち、消費税の課税資産のみが消費税の課税対象とされることになる。例えば、事業譲渡に係る資産・負債が上記のようなものであった場合、8億5千万円(建物2億円+機械装置1億円+商品5千万円+営業権5億円)が課税対象となる。
また、現物出資においては、現物出資した資産が消費税の課税対象となる資産(例えば建物や自動車)である場合には、当該現物出資は、課税資産の譲渡等に該当することになる。
現物資産の移転という点では「現物分配」も現物出資に類似しているが、現物分配はあくまで「配当」であり、消費税の課税要件である「資産の譲渡等」には該当しないため、消費税上は「不課税」となる。
課税資産の譲渡等の時期は「引渡し日」or「効力発生日」
では、事業譲渡や現物出資に係る課税資産の譲渡等の時期はいつになるのだろうか。
消費税法上、事業譲渡や現物出資の対象となることが多い棚卸資産、固定資産に関する課税資産の譲渡等の時期は表2のとおりとなっている。
消費税法基本通達の規定を踏まえれば、事業譲渡、現物出資とも、課税資産の譲渡等の時期は「引渡し日」、すなわち、原則として相手方において使用収益ができることとなった日等ということになる。
ただし、固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合には、固定資産の譲渡に関する契約の「効力発生の日」を資産の譲渡の時期とすることができるため(消基通9-1-13)、事業譲渡や現物出資の対象となった資産が「建物」等である場合には(土地は非課税のため以下考慮しない)、「譲渡に関する契約の効力発生の日」を資産の譲渡の時期とすることができると考えられる。
この効力発生日とは、事業譲渡においては、契約に委ねられている。ただ、当該事業譲渡が①(譲渡会社にとって)事業の全部または重要な一部の譲渡、②(譲受会社にとって)他の会社の事業の全部の譲受――である場合には、効力発生日の「前日」までに株主総会の特別決議が必要となる(会社法467条①)。そして、判例・通説では、仮に当該決議がなければ、取引は「無効」になるとされている。
一方、現物出資においては、現物出資をする者(募集株式の引受人)は、払込期日または払込期間内に現物出資財産全部の給付をしなければならないとされており(会社法208条②。これが行なわれないと引受人は失権する(会社法208条⑤))、払込期日までに現物出資財産全部の給付が行なわれることによって、払込期日に(払込期間を定めた場合は払込の日に)おいて新株発行の効力が生じるため(会社法209条)、払込み期日(または払込の日)が「効力発生日」となろう。
したがって、事業譲渡や現物出資の効力発生日が「税率引上げ前」、事業譲渡や現物出資に係る資産の使用収益ができることとなった日等が「税率引上げ後」となっている場合、事業者が効力発生の日を「引渡し日」としていれば、旧税率が適用されることになる。
ただし、上述のとおり、「引渡し日=効力発生日」とできるのは建物等に限られることから、例えば自動車を現物出資した場合には、「使用収益ができることとなった日」等が課税資産の譲渡等の時期となり、新税率が適用されることになる。
なお、現物出資が税制適格である場合、法人税法上の譲渡対価は「帳簿価額」となるが、消費税の課税標準はあくまで「当該現物出資により取得する株式の取得時の時価」となるので注意したい(消令45条②三)。
組織再編における消費税率引上げの影響
来年4月1日に消費税率引上げを控える中、経過措置や消費税率引上げ日をまたぐ取引に関心が集まっているが、組織再編においても資産の異動が消費税上の「課税資産の譲渡等」に該当する場合があり、その時期をいつと認識するのかによって、消費税率の選択の問題が生じ得る。
そこで本特集では、組織再編の種類ごとに消費税の課税関係を整理しつつ、組織再編に伴う資産の異動が課税資産の譲渡等に該当する場合における消費税の「課税時点」を検討する。
合併、分割、株式交換・移転、現物分配は「課税資産の譲渡等」に該当せず
まず、合併、分割、株式交換・移転、現物分配、現物出資、さらに事業譲渡について、消費税の課税関係を整理してみよう(次頁表1参照)。
合併においては、吸収分割・新設合併を問わず、合併により消滅する会社の権利義務は全て合併後に存続する会社に承継(包括承継)されることになる(会社法2条二十七、二十八)。
そして、消費税法上は、資産の譲渡等の範囲から「包括承継」が除かれているため(消法2条①八、消令2条①四)、合併による資産の異動は、当該合併が税制適格か非適格を問わず、消費税上の資産の譲渡には当たらないことになる(すなわち「不課税」)。
これは会社分割も同様。会社分割(吸収分割、新設分割)は、会社の権利義務を全て承継させる合併とは異なり、事業の「全部または一部」を他の会社に承継させる制度であるが(会社法2条二十九、三十)、会社分割の対象となる「事業」は一体として機能するものであり、会社分割に際し当該事業に係る権利義務を個々に移転させることは不要のため、会社分割もやはり「包括承継」に該当し、会社分割に伴う資産の異動は消費税上「不課税」となる。
次に株式交換・移転では、完全子法人の旧株主は、完全子法人株式の代わりに完全親法人株式を取得する。これは、旧株主にとっては「完全子法人株式の譲渡」ということになる(税制適格か非適格かは問わない)。もっとも、消費税法上、有価証券の譲渡は非課税であるため(消法6条①、別表1二)、新旧どちらの消費税率を選択するかといった問題は生じない(ただし、課税売上割合には大きな影響が出ることがあるので要注意)。
一方、消費税上の課税資産の譲渡等に該当し得るのが事業譲渡と現物出資だ。
まず事業譲渡においては、譲渡される事業に係る一切の資産、負債のうち、消費税の課税資産のみが消費税の課税対象とされることになる。例えば、事業譲渡に係る資産・負債が上記のようなものであった場合、8億5千万円(建物2億円+機械装置1億円+商品5千万円+営業権5億円)が課税対象となる。
また、現物出資においては、現物出資した資産が消費税の課税対象となる資産(例えば建物や自動車)である場合には、当該現物出資は、課税資産の譲渡等に該当することになる。
現物資産の移転という点では「現物分配」も現物出資に類似しているが、現物分配はあくまで「配当」であり、消費税の課税要件である「資産の譲渡等」には該当しないため、消費税上は「不課税」となる。
課税資産の譲渡等の時期は「引渡し日」or「効力発生日」
では、事業譲渡や現物出資に係る課税資産の譲渡等の時期はいつになるのだろうか。
消費税法上、事業譲渡や現物出資の対象となることが多い棚卸資産、固定資産に関する課税資産の譲渡等の時期は表2のとおりとなっている。
【表2】「棚卸資産」および「固定資産」の譲渡等の時期 |
課税資産の種類 | 譲渡等の時期 | 判定方法 |
棚卸資産 | 引渡し日 (消基通9-1-1) | 出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日など。ただし、棚卸資産が「土地又は土地の上に存する権利」であり、その引渡しの日が不明な場合には、次に掲げる日のうちいずれか早い日。 (1)代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日 (2)所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日(以上、消基通9-1-2) |
固定資産 | 引渡し日 (消基通9-1-13) | 基本的に上記消費税基本通達9-1-2と同じ(消基通9-1-13により消基通9-1-2を準用)。ただし、固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合には、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日とすることも可(消基通9-1-13)。 |
消費税法基本通達の規定を踏まえれば、事業譲渡、現物出資とも、課税資産の譲渡等の時期は「引渡し日」、すなわち、原則として相手方において使用収益ができることとなった日等ということになる。
ただし、固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合には、固定資産の譲渡に関する契約の「効力発生の日」を資産の譲渡の時期とすることができるため(消基通9-1-13)、事業譲渡や現物出資の対象となった資産が「建物」等である場合には(土地は非課税のため以下考慮しない)、「譲渡に関する契約の効力発生の日」を資産の譲渡の時期とすることができると考えられる。
この効力発生日とは、事業譲渡においては、契約に委ねられている。ただ、当該事業譲渡が①(譲渡会社にとって)事業の全部または重要な一部の譲渡、②(譲受会社にとって)他の会社の事業の全部の譲受――である場合には、効力発生日の「前日」までに株主総会の特別決議が必要となる(会社法467条①)。そして、判例・通説では、仮に当該決議がなければ、取引は「無効」になるとされている。
一方、現物出資においては、現物出資をする者(募集株式の引受人)は、払込期日または払込期間内に現物出資財産全部の給付をしなければならないとされており(会社法208条②。これが行なわれないと引受人は失権する(会社法208条⑤))、払込期日までに現物出資財産全部の給付が行なわれることによって、払込期日に(払込期間を定めた場合は払込の日に)おいて新株発行の効力が生じるため(会社法209条)、払込み期日(または払込の日)が「効力発生日」となろう。
したがって、事業譲渡や現物出資の効力発生日が「税率引上げ前」、事業譲渡や現物出資に係る資産の使用収益ができることとなった日等が「税率引上げ後」となっている場合、事業者が効力発生の日を「引渡し日」としていれば、旧税率が適用されることになる。
ただし、上述のとおり、「引渡し日=効力発生日」とできるのは建物等に限られることから、例えば自動車を現物出資した場合には、「使用収益ができることとなった日」等が課税資産の譲渡等の時期となり、新税率が適用されることになる。
なお、現物出資が税制適格である場合、法人税法上の譲渡対価は「帳簿価額」となるが、消費税の課税標準はあくまで「当該現物出資により取得する株式の取得時の時価」となるので注意したい(消令45条②三)。
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