解説記事2013年12月16日 【税務マエストロ】 近年の組織再編成税制の分かり難さの原因となっている改正項目(上)(2013年12月16日号・№527)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
近年の組織再編成税制の分かり難さの原因となっている改正項目(上)
#98 朝長英樹(税理士)
略歴 財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の抜本改正(平成12年)・組織再編成税制の創設(平成13年)・連結納税制度の創設(平成14年)などを主導。
税務大学校研究部において、事業体税制等を研究。平成18年7月に税務大学校教授を最後に退官。日本税制研究所 代表理事(平成19年3月~)、参議院客員調査員(平成19年9月~20年2月)、税理士法人アクト22代表社員(平成20年4月~23年3月)、登録政治資金監査人(平成20年9月~)、朝長英樹税理士事務所 所長(平成23年4月~)
次回のテーマ
#99 特定新規設立法人の事業者免税点制度の不適用制度
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
今回のテーマ 平成13年に創設された組織再編成税制は、非常に大部ではあるものの、理論的かつ体系的に出来ており、商法・会社法や企業会計において組織再編成に関する統一的な取扱いが出来ていない段階で、このような税制が創られたことは画期的である、と感じたことを記憶しています。
しかし、近年の組織再編成税制には、理論的に考えると疑問がある取扱いが見受けられるようになっており、「理論」や「体系」という言葉が似つかわしくないような印象を受けます。
現に、組織再編成税制に関する議論の場では、時々、「平成18年度税制改正から理論や考え方がよく分からなくなった」という声を耳にします。
近年の組織再編成税制の理論や体系が分かり難くなった原因が何かということを分かり易く整理してご教授願えませんでしょうか。
マエストロの解説 組織再編成税制の理論と体系が分かり難くなった主な原因となっていると考えられる改正項目を示すと、平成18年度税制改正によって行われた増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正と「資産調整勘定」の創設、平成22年度税制改正によって行われたみなし配当事由による株式譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額の益金又は損金不算入、「適格現物分配」の創設、分割型分割におけるみなし事業年度の廃止、無対価分割の適格判定の取扱いとなる。
これらの資本等取引や組織再編成に関する改正項目には、法人税の考え方や理論からすると、一部、疑問のある部分があり、これらが近年の組織再編成税制の理論と体系を分かり難くしているものと考えられる。
組織再編成税制は、平成13年度税制改正によって創設したものであるが、商法・会社法や企業会計において組織再編成に関する統一的な取扱いが示されていない中にあって、組織再編成に関する法人税法における取扱いを税の観点から理論的かつ体系的に示したものとなっていた。この点に関しては、異論はないものと考えられる。
しかし、現在の組織再編成税制に関しては、ご質問にもあるとおり、理論や体系が崩れて分かり難くなったという指摘が少なくない。
その原因は、いくつかの観点から分析が可能であるが、改正項目に着目して原因を探ってみると、平成18年度税制改正と平成22年度税制改正に行き着くこととなる。この両年度の改正において改正された項目で、現在の組織再編成税制の分かり難さの原因となっていると考えられる主なものは、冒頭に記したとおりである。
これらの項目の問題点を探ることは、単に近年の組織再編成税制の分かり難さの原因を知るというだけでなく、今後の組織再編成税制の在り方を考える上でも、非常に重要である。
1 平成18年度税制改正の改正項目で分かり難さの原因となっているもの
(1)増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正 組織再編成税制は、資本等取引税制を基礎として成り立っており、平成13年度税制改正においても、資本積立金額や利益積立金額に関する抜本改正を行った上で組織再編成税制が創られた。
これは、即ち、資本等取引税制の理論や体系が崩れると組織再編成税制の理論や体系にも影響が出てくる、ということを意味している。
近年の組織再編成税制の理論や体系の問題の発端とも言うべきものは、平成18年度税制改正における増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正である。
この改正は、法人税法施行令8条1項1号(増資の場合の資本金等の額の増加額)の規定を創設することによってなされたものである。この規定は、平成18年度税制改正後も現在と殆ど変っていないため、現在の規定を引用すると、次のとおりである。
この規定は、増資が行われた場合に増加させる資本金等の額に関する定めとなっている。
この規定によれば、金銭で増資の払込みを行った場合には「払い込まれた金銭の額」に相当する金額だけ資本金等の額を増加させればよく、金銭以外の資産で払込みを行った場合には「資産の価額」に相当する金額だけ資本金等の額を増加させなければならない、ということになる。
この「資産の価額」とは、改めて言うまでもないが、資産の時価を意味する。
すなわち、この規定は、金銭で増資の払込みをする場合には、時価取引をする必要はなく、金銭以外の資産で増資の払込みをする場合には時価取引をする必要がある、というものとなっているわけである。
この改正前は、資本等取引も、損益取引と同様に、時価によって取引を行うべきであるという考え方が採られていた。
組織再編成においては、資産・負債や株式の取引が行われるわけであるが、創設時の組織再編成税制は、これらの資産・負債や株式の取引が時価によって行われることを前提として、原則と特例の取扱いを定めるものとなっていたわけである。
この改正に関しては、改正の理由や考え方を明示したものは見受けられないが、『平成18年度税制改正の解説』(財務省)においては、次のとおり、この改正が会社法の取扱いに合わせたものであることを窺わせる記述が注記に存在する。
また、納税者の実務を考えてみると、このような改正を行えば、金銭で増資の払込みを行った場合にはその払込金額が時価と比べて低かったり高かったりするという指摘を受けないこととなるため、好都合ということにはなる。
このように、この改正に関しては、会社法における取扱いとの整合性や実務の事情からすると、首肯できる部分があるわけであるが、税制度の在り方としては、多分に疑問を残すものとなっている。
平成13年度税制改正によって創設した組織再編成税制は、資産・負債や株式の時価評価を広く採り入れた制度となっているわけであるが、これは、我が国においても、これらの時価評価を普段に行い得るようにすることで、組織再編成はもとより、営業権や知財等の企業の無形資産の取引を活発化させることが我が国の企業活動の活性化のために必須である、という観点に立って改正を行ったことによるものである。
法人税法の改正に当たっては、会社法の取扱いや実務の都合を考慮すべきことは当然であるが、法人税制の改正をどのような観点に立って行うのかということを確認し、法人税制として筋を通すべきところは筋を通すことが必要である。
(2)資産調整勘定の創設 平成18年度税制改正においては、周知のとおり、「負債調整勘定」とともに、「資産調整勘定」の仕組みが創設された。
この仕組みの創設理由に関しては、『平成18年度税制改正の解説』(財務省)において、次のように説明されている。
周知のとおり、従来から、法人税制においては、「のれん」に対応するものは「営業権」とされてきているため、上記のような理由によって「資産調整勘定」というようなものを設けるということになると、当然、「営業権」との関係をどのように整理するのかということが問題となる。この点は、非適格合併等における交付金額と時価純資産価額の差額として設けられた「資産調整勘定」の規定(法法62の8①)を見れば、明らかである。
しかし、この「資産調整勘定」の創設に際しては、次の『平成18年度税制改正の解説』(財務省)の説明からも分かるとおり、「営業権」との関係をどのように整理するのかという検討が行われておらず、「営業権」のうちの「独立した資産として取引される慣習」(法令123の10③)のないものと「資産調整勘定」とが重複する状態となっている。
また、規定上も、この「資産調整勘定」は「資産」であるのか否かということが明らかではなく、例えば、法人税法62条の8第9項1号(適格合併において引き継ぐ資産調整勘定及び負債調整勘定)において被合併法人の資産調整勘定の金額を合併法人に引き継ぐとしていることから、62条の2第1項(適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ)における「資産」には「資産調整勘定」が含まれないと解さざるを得ないが、合併法人の資本金等の額の増加額に関して定めた法人税法施行令8条1項5号(合併法人の資本金等の額の増加額)における「資産」には「資産調整勘定」が含まれると解さざるを得ない状態となっている。
確かに、この「資産調整勘定」は、「企業会計と比較的調和のとれた取扱いとなる」(同前366頁)ものであり、実務においても、差額概念として捉えれば、「営業権」のように、評価額の適正さが問題となる可能性が低くなり、好都合ということになることは、間違いない。
しかし、「資産調整勘定」のように「営業権」と重複することが明らかな仕組みを設けるということであれば、「営業権」の取扱いを再検討し、「営業権」と「資産調整勘定」との関係をどのように整理するのかということを検討することが、当然、必要となる。
このように、当然に必要となる検討を行わずして新たな仕組みを創るということになれば、制度が疑問のあるものとなることは避けられず、「制度が分かり難い」といった声が出ることとなるのも止むを得ない。
法人税制の改正は、法人税制としてどのような仕組みが適切であるのかということを追求して行うべきものである。
我が国においては、形のあるものに価値を認め、形のないものには価値を認めない、という傾向が顕著であり、米国などと比べると、事業価値評価において無形資産の評価額が非常に低すぎる、と言われている。
このような中にあっては、「営業権」やこれに類する無形資産の評価を行わなくても済むという税制を創るのではなく、これらの無形資産の評価を行わなければならないという税制を創った上で、さまざまな評価の試みを容認することを考慮するべきである。我が国の組織再編成税制は、創設後の数年間の国税庁の寛容な対応によって、広く利用されるようになり、我が国の企業の再生等に大きく貢献することとなったわけであるが、このような対応も含めて、対応策を考慮してよいものと考える。
2 平成22年度税制改正の改正項目で分かり難さの原因となっているもの
(1)みなし配当事由による株式譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額の益金又は損金不算入 平成22年度税制改正においては、完全支配関係法人間でみなし配当事由によって生ずる株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を益金又は損金不算入とする制度(法法61の2⑯)が創設されている。
この制度は、株式の譲渡を行って譲渡利益額又は譲渡損失額が生ずる場合であってもそれらを永久に益金又は損金に算入させないというものであり、かつて法人税制には存在したことのない制度である。
「所得」に課税をする税制においては、投資の全部又は一部が終了した場合にはその終了した投資によって生じたキャピタルゲインやキャピタルロスを計上させる必要があり、この点に異論はないはずである。この所得課税の原則を変えるということであれば、法人税における「所得」とはどのようなものかということを十分に議論し、原則を変える理由を明確にする必要がある。
しかし、この株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を益金又は損金不算入とする制度に関しては、その適用範囲が完全支配関係法人間に限られていることからも明らかなとおり、理論的にその妥当性を説明することが困難である。
また、この制度においては、株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を資本金等の額の増加額又は減少額として処理することとされているが(法令8①十九)、株主との取引がないにもかかわらず、資本金等の額を増加させたり減少させたりすることの妥当性を理論的に説明することも、困難である。
この制度が、租税回避防止の観点から設けられた事情は理解できるものの、この制度が防止しようとした行為は、本来は、みなし配当の益金不算入の仕組みの問題として対応するべきものであって、現に生じた株式の譲渡利益額又は譲渡損失額を益金又は損金に算入させないことによって対応するべきものではない、と考えられる。
みなし配当の益金不算入の仕組みの問題として対応するということであれば、株主との取引がないにもかかわらず資本金等の額を増加させたり減少させたりするといったことにもならない。
ところで、近年の組織再編成税制の分かり難さは、改正の内容に原因があるだけでなく、改正の理由の説明にも原因があると考えられる。近年の改正に関しては、そもそも改正の根拠に疑問があるという声が聞かれるものがある。
この制度に関しては、特に、次の引用部分について、「「手仕舞い型の組織再編成」という新たな概念を作ったのか?」「「手仕舞い」をするものは譲渡損益を計上するべきものではないのか!」「子会社株式の取得と自己株式の取得は全く異なる行為である!」「「組織再編成」や「資本金等の額」の捉え方を変えたのか?」というような声が多く聞かれた。
かつて、筆者も、法人税制の立法に携わり、改正の解説を起稿してきたが、特に、平成22年度税制改正の解説に関しては、意味を理解しかねる部分や疑問を感ずる部分などがいくつか存在する。
この記事に関するご意見・お問合せは ta@lotus21.co.jp にお寄せください。
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
近年の組織再編成税制の分かり難さの原因となっている改正項目(上)
#98 朝長英樹(税理士)
略歴 財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の抜本改正(平成12年)・組織再編成税制の創設(平成13年)・連結納税制度の創設(平成14年)などを主導。
税務大学校研究部において、事業体税制等を研究。平成18年7月に税務大学校教授を最後に退官。日本税制研究所 代表理事(平成19年3月~)、参議院客員調査員(平成19年9月~20年2月)、税理士法人アクト22代表社員(平成20年4月~23年3月)、登録政治資金監査人(平成20年9月~)、朝長英樹税理士事務所 所長(平成23年4月~)
次回のテーマ
#99 特定新規設立法人の事業者免税点制度の不適用制度
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
今回のテーマ 平成13年に創設された組織再編成税制は、非常に大部ではあるものの、理論的かつ体系的に出来ており、商法・会社法や企業会計において組織再編成に関する統一的な取扱いが出来ていない段階で、このような税制が創られたことは画期的である、と感じたことを記憶しています。
しかし、近年の組織再編成税制には、理論的に考えると疑問がある取扱いが見受けられるようになっており、「理論」や「体系」という言葉が似つかわしくないような印象を受けます。
現に、組織再編成税制に関する議論の場では、時々、「平成18年度税制改正から理論や考え方がよく分からなくなった」という声を耳にします。
近年の組織再編成税制の理論や体系が分かり難くなった原因が何かということを分かり易く整理してご教授願えませんでしょうか。
マエストロの解説 組織再編成税制の理論と体系が分かり難くなった主な原因となっていると考えられる改正項目を示すと、平成18年度税制改正によって行われた増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正と「資産調整勘定」の創設、平成22年度税制改正によって行われたみなし配当事由による株式譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額の益金又は損金不算入、「適格現物分配」の創設、分割型分割におけるみなし事業年度の廃止、無対価分割の適格判定の取扱いとなる。
これらの資本等取引や組織再編成に関する改正項目には、法人税の考え方や理論からすると、一部、疑問のある部分があり、これらが近年の組織再編成税制の理論と体系を分かり難くしているものと考えられる。
組織再編成税制は、平成13年度税制改正によって創設したものであるが、商法・会社法や企業会計において組織再編成に関する統一的な取扱いが示されていない中にあって、組織再編成に関する法人税法における取扱いを税の観点から理論的かつ体系的に示したものとなっていた。この点に関しては、異論はないものと考えられる。
しかし、現在の組織再編成税制に関しては、ご質問にもあるとおり、理論や体系が崩れて分かり難くなったという指摘が少なくない。
その原因は、いくつかの観点から分析が可能であるが、改正項目に着目して原因を探ってみると、平成18年度税制改正と平成22年度税制改正に行き着くこととなる。この両年度の改正において改正された項目で、現在の組織再編成税制の分かり難さの原因となっていると考えられる主なものは、冒頭に記したとおりである。
これらの項目の問題点を探ることは、単に近年の組織再編成税制の分かり難さの原因を知るというだけでなく、今後の組織再編成税制の在り方を考える上でも、非常に重要である。
1 平成18年度税制改正の改正項目で分かり難さの原因となっているもの
(1)増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正 組織再編成税制は、資本等取引税制を基礎として成り立っており、平成13年度税制改正においても、資本積立金額や利益積立金額に関する抜本改正を行った上で組織再編成税制が創られた。
これは、即ち、資本等取引税制の理論や体系が崩れると組織再編成税制の理論や体系にも影響が出てくる、ということを意味している。
近年の組織再編成税制の理論や体系の問題の発端とも言うべきものは、平成18年度税制改正における増資の場合の資本金等の額の増加額に関する改正である。
この改正は、法人税法施行令8条1項1号(増資の場合の資本金等の額の増加額)の規定を創設することによってなされたものである。この規定は、平成18年度税制改正後も現在と殆ど変っていないため、現在の規定を引用すると、次のとおりである。
一 株式(出資を含む。以下第十号までにおいて同じ。)の発行又は自己の株式の譲渡をした場合(次に掲げる場合を除く。)に払い込まれた金銭の額及び給付を受けた金銭以外の資産の価額その他の対価の額に相当する金額からその発行により増加した資本金の額又は出資金の額(法人の設立による株式の発行にあつては、その設立の時における資本金の額又は出資金の額)を減算した金額 イ~リ 省略 |
この規定によれば、金銭で増資の払込みを行った場合には「払い込まれた金銭の額」に相当する金額だけ資本金等の額を増加させればよく、金銭以外の資産で払込みを行った場合には「資産の価額」に相当する金額だけ資本金等の額を増加させなければならない、ということになる。
この「資産の価額」とは、改めて言うまでもないが、資産の時価を意味する。
すなわち、この規定は、金銭で増資の払込みをする場合には、時価取引をする必要はなく、金銭以外の資産で増資の払込みをする場合には時価取引をする必要がある、というものとなっているわけである。
この改正前は、資本等取引も、損益取引と同様に、時価によって取引を行うべきであるという考え方が採られていた。
組織再編成においては、資産・負債や株式の取引が行われるわけであるが、創設時の組織再編成税制は、これらの資産・負債や株式の取引が時価によって行われることを前提として、原則と特例の取扱いを定めるものとなっていたわけである。
この改正に関しては、改正の理由や考え方を明示したものは見受けられないが、『平成18年度税制改正の解説』(財務省)においては、次のとおり、この改正が会社法の取扱いに合わせたものであることを窺わせる記述が注記に存在する。
(注)会社法では、株式について発行価額という概念がなくなり、株主となる者が会社に対して払込み又は給付をした財産の額をもって増加する資本金の額及び資本準備金の額が決定されることとなりました。(248頁) |
このように、この改正に関しては、会社法における取扱いとの整合性や実務の事情からすると、首肯できる部分があるわけであるが、税制度の在り方としては、多分に疑問を残すものとなっている。
平成13年度税制改正によって創設した組織再編成税制は、資産・負債や株式の時価評価を広く採り入れた制度となっているわけであるが、これは、我が国においても、これらの時価評価を普段に行い得るようにすることで、組織再編成はもとより、営業権や知財等の企業の無形資産の取引を活発化させることが我が国の企業活動の活性化のために必須である、という観点に立って改正を行ったことによるものである。
法人税法の改正に当たっては、会社法の取扱いや実務の都合を考慮すべきことは当然であるが、法人税制の改正をどのような観点に立って行うのかということを確認し、法人税制として筋を通すべきところは筋を通すことが必要である。
(2)資産調整勘定の創設 平成18年度税制改正においては、周知のとおり、「負債調整勘定」とともに、「資産調整勘定」の仕組みが創設された。
この仕組みの創設理由に関しては、『平成18年度税制改正の解説』(財務省)において、次のように説明されている。
この企業結合会計基準等では、個々の資産や負債の取得価額については個別時価を付すとともに、これらの合計額と取得対価との間に生ずる差額を「(差額)のれん」として計上することとされています。 このような中で、これまでの非適格組織再編成や営業譲受けに係る実務的な取扱いの状況や上記の企業結合会計基準等における取扱いなどを勘案し、今回の税制改正において、非適格組織再編成や営業譲受けの場合の取扱いの明確化を図ることとされたものです。(366頁) |
しかし、この「資産調整勘定」の創設に際しては、次の『平成18年度税制改正の解説』(財務省)の説明からも分かるとおり、「営業権」との関係をどのように整理するのかという検討が行われておらず、「営業権」のうちの「独立した資産として取引される慣習」(法令123の10③)のないものと「資産調整勘定」とが重複する状態となっている。
なお、これによって営業権の一般的な概念を画したものではなく、あくまで、差額概念である資産調整勘定(あるいは差額負債調整勘定)を算定するためのものであるということに留意しておく必要があります。(367頁) |
確かに、この「資産調整勘定」は、「企業会計と比較的調和のとれた取扱いとなる」(同前366頁)ものであり、実務においても、差額概念として捉えれば、「営業権」のように、評価額の適正さが問題となる可能性が低くなり、好都合ということになることは、間違いない。
しかし、「資産調整勘定」のように「営業権」と重複することが明らかな仕組みを設けるということであれば、「営業権」の取扱いを再検討し、「営業権」と「資産調整勘定」との関係をどのように整理するのかということを検討することが、当然、必要となる。
このように、当然に必要となる検討を行わずして新たな仕組みを創るということになれば、制度が疑問のあるものとなることは避けられず、「制度が分かり難い」といった声が出ることとなるのも止むを得ない。
法人税制の改正は、法人税制としてどのような仕組みが適切であるのかということを追求して行うべきものである。
我が国においては、形のあるものに価値を認め、形のないものには価値を認めない、という傾向が顕著であり、米国などと比べると、事業価値評価において無形資産の評価額が非常に低すぎる、と言われている。
このような中にあっては、「営業権」やこれに類する無形資産の評価を行わなくても済むという税制を創るのではなく、これらの無形資産の評価を行わなければならないという税制を創った上で、さまざまな評価の試みを容認することを考慮するべきである。我が国の組織再編成税制は、創設後の数年間の国税庁の寛容な対応によって、広く利用されるようになり、我が国の企業の再生等に大きく貢献することとなったわけであるが、このような対応も含めて、対応策を考慮してよいものと考える。
2 平成22年度税制改正の改正項目で分かり難さの原因となっているもの
(1)みなし配当事由による株式譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額の益金又は損金不算入 平成22年度税制改正においては、完全支配関係法人間でみなし配当事由によって生ずる株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を益金又は損金不算入とする制度(法法61の2⑯)が創設されている。
この制度は、株式の譲渡を行って譲渡利益額又は譲渡損失額が生ずる場合であってもそれらを永久に益金又は損金に算入させないというものであり、かつて法人税制には存在したことのない制度である。
「所得」に課税をする税制においては、投資の全部又は一部が終了した場合にはその終了した投資によって生じたキャピタルゲインやキャピタルロスを計上させる必要があり、この点に異論はないはずである。この所得課税の原則を変えるということであれば、法人税における「所得」とはどのようなものかということを十分に議論し、原則を変える理由を明確にする必要がある。
しかし、この株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を益金又は損金不算入とする制度に関しては、その適用範囲が完全支配関係法人間に限られていることからも明らかなとおり、理論的にその妥当性を説明することが困難である。
また、この制度においては、株式の譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額を資本金等の額の増加額又は減少額として処理することとされているが(法令8①十九)、株主との取引がないにもかかわらず、資本金等の額を増加させたり減少させたりすることの妥当性を理論的に説明することも、困難である。
この制度が、租税回避防止の観点から設けられた事情は理解できるものの、この制度が防止しようとした行為は、本来は、みなし配当の益金不算入の仕組みの問題として対応するべきものであって、現に生じた株式の譲渡利益額又は譲渡損失額を益金又は損金に算入させないことによって対応するべきものではない、と考えられる。
みなし配当の益金不算入の仕組みの問題として対応するということであれば、株主との取引がないにもかかわらず資本金等の額を増加させたり減少させたりするといったことにもならない。
ところで、近年の組織再編成税制の分かり難さは、改正の内容に原因があるだけでなく、改正の理由の説明にも原因があると考えられる。近年の改正に関しては、そもそも改正の根拠に疑問があるという声が聞かれるものがある。
この制度に関しては、特に、次の引用部分について、「「手仕舞い型の組織再編成」という新たな概念を作ったのか?」「「手仕舞い」をするものは譲渡損益を計上するべきものではないのか!」「子会社株式の取得と自己株式の取得は全く異なる行為である!」「「組織再編成」や「資本金等の額」の捉え方を変えたのか?」というような声が多く聞かれた。
このように譲渡損益相当額を資本金等の額にチャージする理由については、次の点によります。 (イ)従前より株主の旧株の譲渡損益課税が行われない合併又は分割型分割で被合併法人又は分割法人の株主を合併法人又は分割承継法人とするもの、すなわち手仕舞い型の組織再編成において、実質的にその株主において旧株の譲渡損益相当額が資本金等の額にチャージされていたところ、みなし配当事由による発行法人株式の譲渡及び発行法人からの金銭等の取得も、これらに準ずる一種の手仕舞い型の取引であることから、これらと整合性をとる必要があること (ロ)他の者からの株式の取得による子法人化は、自己と子法人を一体としてみれば、一種の自己株式の取得に該当するが、旧株主に対して配当課税が行われていないので、それは資本金等の額を原資として取得したのと同様の課税が行われていたとも考えられるところ、子法人と一体化するのを機に後追い的に資本を調整するものであること(すなわち、親法人と子法人を一体的なものとして、資本をみようとするものともいえます。)(同前236頁) |
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