解説記事2014年01月06日 【第2特集】 給与所得控除をめぐる課税強化の真相(2014年1月6日号・№529)
昭和49年改正からサラリーマン増税批判を経て
給与所得控除をめぐる課税強化の真相
昨年12月12日に決定した平成26年度与党税制改正大綱に給与所得控除の上限の引下げが明記された。給与所得控除の上限設定は平成24年度税制改正で実現したが、今回、更なる課税強化案が打ち出されたかたちだ。この給与所得控除の上限設定(引下げ)は、昭和49年改正での控除限度額廃止に端を発している。当時、政府税制調査会が給与所得控除の控除限度額の廃止を田中角栄総理に答申し、その後、給与所得控除が青天井となっていたからだ。
本特集では、平成24、26年度改正での給与所得控除の上限設定(引下げ)に至るまでの経緯を検証する。
平成24年度改正に続く給与所得控除の見直し
与党の平成26年度税制改正大綱が昨年12月12日に決定した。改正項目の中で特に唐突感があったのが給与所得控除の上限引下げだ。給与所得控除の上限設定(給与収入1,500万円超一律245万円)が実現したのが平成24年度改正。そのわずか2年後の平成26年度改正で給与収入1,200万円超一律230万円(平成28年分)、給与収入1,000万円超一律220万円(平成29年分~)へと上限額が引き下げられる方向だ(図1参照)。
給与所得控除を巡っては、昭和49年に控除限度額が廃止された歴史がある。
また、平成17年6月に当時の政府税調が取りまとめた「個人所得課税に関する論点整理」に給与所得控除の見直しが明記されたものの、サラリーマン増税批判を受けたことも記憶に新しい。
そこで、平成26年度税制改正大綱における給与所得控除の上限引下げに至るまでの経緯を確認していく。
昭和49年度税制改正答申の内容とは
給与所得控除の歴史をみると、大正2年に「勤労控除」が創設。昭和22年に総合所得税に一本化(分類所得税の廃止)され、控除限度額が設定されている。その後、昭和28年に「給与所得控除」に改称。昭和49年に最低控除保障額が設置され、控除限度額が廃止されている。
昭和49年改正当時、政府税制調査会による田中角栄総理への答申では、「現行の給与所得控除は、年収616万円を超えると一律76万円でいわゆる頭打ちとなっているが、……給与所得控除の場合には、勤務に伴う必要経費の概算控除と説明されているにもかかわらず、収入の増加に応じてなにがしかの経費が増加するという事実を反映した仕組みとなっていないのは理論的に不徹底であるとの批判がある。……給与所得控除の仕組みを基本的に見直すこの機会に、頭打ちを廃止することに踏切ってよいと考える」とされている。
こうして昭和49年改正で給与所得控除の控除限度額が廃止されて以降、平成24年度改正で上限が設定されるまで、給与所得控除は青天井となっていた。
1人オーナー課税導入→給与所得控除見直し論が再浮上
平成24年度改正での給与所得控除上限設定の契機となったのが、平成17年6月に政府税制調査会が取りまとめた「個人所得課税に係る論点整理」だ。
この論点整理では、給与所得控除の見直しによる課税強化の方向性が示されたが、「サラリーマン増税」との批判が集中し、平成18年度改正での給与所得控除見直しが難しくなった。そこで税制当局は、他の措置で給与所得控除に再び注目を集めることを狙った。それがいわゆる「1人オーナー課税制度(特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入)」の導入だ。この制度は、特殊支配同族会社において、業務主宰役員に対して支給する給与の額のうち法人段階と個人段階の経費の「二重控除」に相当する部分(給与所得控除相当部分)の金額について、法人段階で損金算入を制限するというもの(図2参照)。さらに、税制当局内には、1人オーナー課税制度の導入により、サラリーマン増税批判で困難になった給与所得控除の見直しに再チャレンジの機会を与え、給与所得控除の頭打ちにつなげること、あえて中小企業に向けた厳しい制度を打ち出し、その緩和を消費税率引上げの際の中小企業対策にするといった狙いもあった。
こうして導入された1人オーナー課税に対しては批判が噴出した。その批判は、たとえば、業務主宰役員の給与所得控除相当部分を法人段階で課税することには矛盾があり、少なくとも個人段階で税負担調整すべきといったものだ。そして、高額給与所得者の給与所得控除額に一定の限度額を定めるべきとの意見も出されることになる。
税制抜本改革の方向性で給与所得控除の上限調整
平成18年度改正で導入された1人オーナー課税は、民主党政権下における平成22年度改正で廃止された。しかし、税制当局の狙いどおり、1人オーナー課税の導入が、その後の給与所得控除の見直しにつながったと捉えることも可能だ。
平成19年11月に政府税制調査会が取りまとめた「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」には、「給与所得控除について控除額に上限が設けられていない仕組みを見直すことが適当である」と明記された。平成20年12月に政府が閣議決定した「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム」は、税制抜本改革の基本的な方向性として、給与所得控除の上限の調整を盛り込んでおり、平成21年度税制改正法附則104条(税制の抜本的改革に係る措置)3項1号にも同じ内容が規定された。
附則104条3項に規定された消費税率引上げを柱とする各税目の改革は、民自公の3党協議での調整を経て段階的に実現していくことになる。
抜本改革項目のうち、給与所得控除の上限設定についてみると、平成23年度税制改正法案に上限設定案が盛り込まれたものの、民自公3党協議により先送りされた。その後、平成24年度改正において給与収入1,500万円超一律245万円で頭打ちが実現。その際、政府は、給与所得控除に上限を設ける理由として、①給与所得者の必要経費が収入の増加に応じて必ずしも増加するとは考えられないこと、②主要国においても定額または上限が設けられていることを挙げている。
そして、昨年12月12日に与党が取りまとめた平成26年度与党税制改正大綱には、給与収入1,200万円超一律230万円(平成28年分)、給与収入1,000万円超一律220万円(平成29年分~)への上限額引下げが盛り込まれた。
なお、与党大綱は、給与所得控除について、中長期的には主要国並みの控除水準とすべく、漸次適正化のための見直しが必要であると指摘しており、今回の上限引下げを“当面の見直し”と位置付けている。
会社役員に対する課税強化案は傍流か
他方で、給与所得控除の見直しでは、「“役員給与”に係る給与所得控除縮減案」が浮沈を繰り返している。
平成22年度改正で1人オーナー課税が廃止される際、平成23年度改正において二重控除の問題を解消するための抜本的措置を講じる方針が示された。これを受けて、平成23年度改正法案には、一般の給与所得控除の上限設定のほか、役員給与に係る給与所得控除の縮減案が盛り込まれた。しかし、3党協議により先送りされ、平成24年度改正で実現したのは給与所得控除の上限設定のみ。役員給与に係る給与所得控除の縮減案は姿を消した(本誌435号40頁参照)。
また、平成26年度税制改正大綱策定に向けた与党内の議論においても、役員給与に係る給与所得控除の縮減案が浮上していたが、既報のとおり再び消滅している(図3参照)。
給与所得控除をめぐる課税強化の真相
昨年12月12日に決定した平成26年度与党税制改正大綱に給与所得控除の上限の引下げが明記された。給与所得控除の上限設定は平成24年度税制改正で実現したが、今回、更なる課税強化案が打ち出されたかたちだ。この給与所得控除の上限設定(引下げ)は、昭和49年改正での控除限度額廃止に端を発している。当時、政府税制調査会が給与所得控除の控除限度額の廃止を田中角栄総理に答申し、その後、給与所得控除が青天井となっていたからだ。
本特集では、平成24、26年度改正での給与所得控除の上限設定(引下げ)に至るまでの経緯を検証する。
平成24年度改正に続く給与所得控除の見直し
与党の平成26年度税制改正大綱が昨年12月12日に決定した。改正項目の中で特に唐突感があったのが給与所得控除の上限引下げだ。給与所得控除の上限設定(給与収入1,500万円超一律245万円)が実現したのが平成24年度改正。そのわずか2年後の平成26年度改正で給与収入1,200万円超一律230万円(平成28年分)、給与収入1,000万円超一律220万円(平成29年分~)へと上限額が引き下げられる方向だ(図1参照)。

給与所得控除を巡っては、昭和49年に控除限度額が廃止された歴史がある。
また、平成17年6月に当時の政府税調が取りまとめた「個人所得課税に関する論点整理」に給与所得控除の見直しが明記されたものの、サラリーマン増税批判を受けたことも記憶に新しい。
そこで、平成26年度税制改正大綱における給与所得控除の上限引下げに至るまでの経緯を確認していく。
昭和49年度税制改正答申の内容とは
給与所得控除の歴史をみると、大正2年に「勤労控除」が創設。昭和22年に総合所得税に一本化(分類所得税の廃止)され、控除限度額が設定されている。その後、昭和28年に「給与所得控除」に改称。昭和49年に最低控除保障額が設置され、控除限度額が廃止されている。
昭和49年改正当時、政府税制調査会による田中角栄総理への答申では、「現行の給与所得控除は、年収616万円を超えると一律76万円でいわゆる頭打ちとなっているが、……給与所得控除の場合には、勤務に伴う必要経費の概算控除と説明されているにもかかわらず、収入の増加に応じてなにがしかの経費が増加するという事実を反映した仕組みとなっていないのは理論的に不徹底であるとの批判がある。……給与所得控除の仕組みを基本的に見直すこの機会に、頭打ちを廃止することに踏切ってよいと考える」とされている。
こうして昭和49年改正で給与所得控除の控除限度額が廃止されて以降、平成24年度改正で上限が設定されるまで、給与所得控除は青天井となっていた。
1人オーナー課税導入→給与所得控除見直し論が再浮上
平成24年度改正での給与所得控除上限設定の契機となったのが、平成17年6月に政府税制調査会が取りまとめた「個人所得課税に係る論点整理」だ。
この論点整理では、給与所得控除の見直しによる課税強化の方向性が示されたが、「サラリーマン増税」との批判が集中し、平成18年度改正での給与所得控除見直しが難しくなった。そこで税制当局は、他の措置で給与所得控除に再び注目を集めることを狙った。それがいわゆる「1人オーナー課税制度(特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入)」の導入だ。この制度は、特殊支配同族会社において、業務主宰役員に対して支給する給与の額のうち法人段階と個人段階の経費の「二重控除」に相当する部分(給与所得控除相当部分)の金額について、法人段階で損金算入を制限するというもの(図2参照)。さらに、税制当局内には、1人オーナー課税制度の導入により、サラリーマン増税批判で困難になった給与所得控除の見直しに再チャレンジの機会を与え、給与所得控除の頭打ちにつなげること、あえて中小企業に向けた厳しい制度を打ち出し、その緩和を消費税率引上げの際の中小企業対策にするといった狙いもあった。

こうして導入された1人オーナー課税に対しては批判が噴出した。その批判は、たとえば、業務主宰役員の給与所得控除相当部分を法人段階で課税することには矛盾があり、少なくとも個人段階で税負担調整すべきといったものだ。そして、高額給与所得者の給与所得控除額に一定の限度額を定めるべきとの意見も出されることになる。
税制抜本改革の方向性で給与所得控除の上限調整
平成18年度改正で導入された1人オーナー課税は、民主党政権下における平成22年度改正で廃止された。しかし、税制当局の狙いどおり、1人オーナー課税の導入が、その後の給与所得控除の見直しにつながったと捉えることも可能だ。
平成19年11月に政府税制調査会が取りまとめた「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」には、「給与所得控除について控除額に上限が設けられていない仕組みを見直すことが適当である」と明記された。平成20年12月に政府が閣議決定した「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム」は、税制抜本改革の基本的な方向性として、給与所得控除の上限の調整を盛り込んでおり、平成21年度税制改正法附則104条(税制の抜本的改革に係る措置)3項1号にも同じ内容が規定された。
附則104条3項に規定された消費税率引上げを柱とする各税目の改革は、民自公の3党協議での調整を経て段階的に実現していくことになる。
抜本改革項目のうち、給与所得控除の上限設定についてみると、平成23年度税制改正法案に上限設定案が盛り込まれたものの、民自公3党協議により先送りされた。その後、平成24年度改正において給与収入1,500万円超一律245万円で頭打ちが実現。その際、政府は、給与所得控除に上限を設ける理由として、①給与所得者の必要経費が収入の増加に応じて必ずしも増加するとは考えられないこと、②主要国においても定額または上限が設けられていることを挙げている。
そして、昨年12月12日に与党が取りまとめた平成26年度与党税制改正大綱には、給与収入1,200万円超一律230万円(平成28年分)、給与収入1,000万円超一律220万円(平成29年分~)への上限額引下げが盛り込まれた。
なお、与党大綱は、給与所得控除について、中長期的には主要国並みの控除水準とすべく、漸次適正化のための見直しが必要であると指摘しており、今回の上限引下げを“当面の見直し”と位置付けている。
会社役員に対する課税強化案は傍流か
他方で、給与所得控除の見直しでは、「“役員給与”に係る給与所得控除縮減案」が浮沈を繰り返している。
平成22年度改正で1人オーナー課税が廃止される際、平成23年度改正において二重控除の問題を解消するための抜本的措置を講じる方針が示された。これを受けて、平成23年度改正法案には、一般の給与所得控除の上限設定のほか、役員給与に係る給与所得控除の縮減案が盛り込まれた。しかし、3党協議により先送りされ、平成24年度改正で実現したのは給与所得控除の上限設定のみ。役員給与に係る給与所得控除の縮減案は姿を消した(本誌435号40頁参照)。
また、平成26年度税制改正大綱策定に向けた与党内の議論においても、役員給与に係る給与所得控除の縮減案が浮上していたが、既報のとおり再び消滅している(図3参照)。

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