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解説記事2014年04月07日 【ニュース特集】 出資持分のない医療法人への移行時の税務上の留意点(2014年4月7日号・№541)

医療法人に対する法人課税が生じる可能性も!?
出資持分のない医療法人への移行時の税務上の留意点

成26年度税制改正では、医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度が創設された。同制度は“医療法人版”の事業承継税制というよりも「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」へ移行する際の支援策といえるものだ(本誌534号4頁参照)。出資者の1人が出資持分の全部または一部を放棄した場合、他の出資者にみなし贈与課税が発生することになるが、最長で3年間の納税が猶予され、「出資持分のない医療法人」に移行することになれば猶予税額が免除されることになる。
 しかし、この場合、納税猶予期間中の医療法人に対する法人課税の取扱いは明らかにされていない。現行の規定では医療法人に対する法人課税が生じる可能性も否定できない。実務を行う上では、出資者の1人が出資持分を先行放棄することなく、出資者全員で放棄する必要がありそうだ。

将来的には「出資持分のない医療法人」への移行が必要
 平成26年度税制改正では医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度が創設された。同制度は、医療法人が厚生労働大臣の認定を受けるなどの一定の要件を満たした「認定医療法人」に該当することを前提に、「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」へ移行する途中に発生する相続税や贈与税を猶予するものである(参照)。

出資者等の納税額を猶予する制度  たとえば、贈与税の場合は、「出資持分のない医療法人」への移行中に、認定医療法人の持分を有する個人がその持分の全部または一部を放棄した場合において、その認定医療法人の持分を有する他の個人に対して贈与税が課される場合には、担保の提供を条件として、その贈与税が認定移行計画に記載された移行期限(最長3年間)まで納税猶予される(改正措置法70条の7の5①)。この猶予された贈与税額は、出資持分のない医療法人への移行計画に記載された移行期限までにすべての出資者がその持分を放棄した場合には免除されることになる(同条⑪)。
 逆にいえばすべての出資者がその持分を移行期限までに放棄しなければ免除されないことになる。また、受贈者が出資持分の払戻しなどを受けた場合には、納税猶予が取り消され、納付義務が発生する(同条⑤)。
出資持分のない医療法人への移行は進まず  そもそも「出資持分のある医療法人」とは、出資持分の払戻しや医療法人の解散に伴う残余財産の分配などを定款に定めた法人のこと。現在、医療法人の約85%とそのほとんどを占めている。
 この「出資持分のある医療法人」だが、医療法の改正により、平成19年4月以降は設立できないことになっている。従来の「出資持分のある医療法人」については、平成19年4月以降は自動的に「経過措置型医療法人」となり、いずれは「出資持分のない医療法人」に移行することとされている。
 しかし、当面は移行が猶予されていることに加え、差し迫ったデメリットもないため、「出資持分のない医療法人」への移行はほとんどなされていないのが実情だ。
医業の継続が困難になるケースも  とはいっても「出資持分のある医療法人」から「出資持分のない医療法人」への移行は、今後進むべき大きな方向性であることは間違いない。
 たとえば、「出資持分のある医療法人」の出資者の1人に相続が発生した場合には、その出資持分を評価し相続税が課税されることになるが、医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、過去に蓄積した剰余金が多額であることが多く、評価額はかなりの額にのぼることが想定される。この際、医療法人が相続人から出資持分の払戻請求を受けた場合、払い戻す財産がなければ医業を継続することが困難になってしまうわけだ。
 そこで、「出資持分のある医療法人」が、出資者の死亡、相続人等の出資持分の一部払い戻しと残りの出資持分の放棄等があっても、医療の継続に支障をきたすことがないよう、出資持分がなく相続税の課税対象外となる「出資持分のない医療法人」に移行することがいずれかの時点で必要になる。

平成20年度以後の出資持分放棄の場合の法人課税が不明確
 「出資持分のある医療法人」から「出資持分のない医療法人」に移行する場合には、出資者の全員が所有する持分を放棄することが必要になる。
 この場合の課税関係については、医療法人に対して、出資持分の放棄に伴う出資者の権利の消滅に係る経済的利益について、相続税法66条4項による贈与税が課税される場合があるものの、各出資者に対する贈与税や所得税は課税されず、医療法人に対する法人課税も生じない(今号8頁参照)。

Column 相続税法66条4項の贈与税が課税されるケースとは?
 「出資持分のある医療法人」から「出資持分のない医療法人」に移行する場合、相続税または贈与税の負担が不当に減少することになってしまうと医療法人を個人とみなして贈与税課税が行われることになる(相法66条④)。
 課税されない要件としては、①医療法人の運営組織が適正であること(運営適正要件および規模要件)、②同族親族等関係者が役員等の総数の3分の1以下であること、③医療法人関係者に対する特別利益供与が禁止されていること、④残余財産の帰属先が国、地方公共団体、公益法人等に限定されていること、⑤法令違反等の事実がないことが挙げられ、すべての要件を満たす場合には不当減少とはならず医療法人に対して贈与税の課税はされないこととされている(相令33条③)。

 ただし、出資者全員が出資持分を放棄するまでには相当の調整期間が必要になる。このため、移行期間(最長3年間)中の相続税・贈与税を免除することとしたものが、前述した「医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」である。
完全移行時のみ法人課税はなし  この「医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」だが、適用する上で1つ留意点がある。「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」に移行する際、出資者の1人が出資持分の先行放棄を行った場合における猶予期間中の医療法人に対する法人税の課税関係が明らかにされていないことだ。
 前述したとおり、「出資持分のある医療法人」から「出資持分のない医療法人」に移行した場合には、出資者全員が出資持分を放棄し、医療法人に対して移行の際に持分の全部または一部の払戻しをしなかったことにより生じる利益は、法人税法上課税されないこととされている(法令136条の4②)。これは平成20年度税制改正で規定されたもので、直前の資本金等の額に相当する金額については、資本金等の額を減少し(法令8条①十四)、同額の利益積立金額を増加させることに見直されている(法令9条①五)。
平成20年度改正前は資本等取引で課税なし  平成20年度税制改正前の取扱いでは、平成17年4月に厚生労働省からの国税庁への照会事例「出資持分の定めのある社団医療法人が特別医療法人に移行する場合の課税関係について(照会)」(医政発第0406002号)により、定款変更による出資持分の放棄に伴う課税関係が明らかにされていた。
 具体的には、出資者が出資持分を放棄しても①医療法人にあっては、「移行する場合にあっては、当該医療法人は、その資本金の全部を資本剰余金として経理する」こととされていること(医療法施行規則第30条の36第2項)、②資本金の経理に関する規定は、移行による資本金から資本剰余金への振替えが資本等取引であることを明確化する意味で設けられたものであり、税務上においても、資本金の全部が減少すると同時に資本積立金が増加するという資本等取引に該当すると考えられること―の理由から医療法人にあっては法人課税の問題は生じないと解されていた。
 しかし、「出資持分のない医療法人」に移行した場合に法人課税が生じないケースとは、完全移行した場合のみが想定されているため、出資者が1人だけ出資持分を先行放棄した場合には法令136条の4第2項の適用はない。また、医療法人における出資者の出資持分の放棄に係る課税関係については、平成20年度税制改正前の厚生労働省の国税庁への照会事例で述べた株式の消却と同様に考えて資本等取引であるため課税がされないとの考え方ではなく、移行した場合には出資持分の払戻益を益金算入せず、利益積立金額とすることで整理することとなった。もちろん、株式の消却は、平成18年度の会社法制定により廃止等されたことを受けた税制改正により、出資持分の放棄が資本等取引であるとの前提を失ったこともある。
 ただし、これまでは、出資者のうちの1人が出資持分を放棄するようなケースはほとんどなかっただけに大きな問題は生じていなかったものと思われる。

課税リスクあり、実務は全員での放棄が必要に
 しかし、平成26年度税制改正で創設された「医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」が創設されたことにより、医療法人が厚生労働大臣の認定を受け、出資者の1人が出資持分を先行放棄し、移行期間中に他の出資者と「出資持分のない医療法人」に移行する方向での協議を行うような場面も出てくるかもしれない。
 前述したように出資者の全員が出資持分を放棄すれば問題は生じないが、全員が放棄しないまま医療法人の決算期を迎えた場合には、法人課税しないとの規定がない以上、医療法人に対する法人課税が課せられるリスクも生じることになる。現時点では、財務省も法人課税が生じるか否かの見解を明らかにしていない。
 したがって、仮に認定医療法人の認定を受けたとしても、「出資持分のない医療法人」に移行する際は、出資者の1人が先行して出資持分の放棄をすることなく、「出資持分のない医療法人」への移行計画中に出資者全員で放棄するような実務を行っていく必要がありそうだ。

【参考】「持分なし医療法人」に移行する際に、出資者全員が出資持分の放棄を行った場合の課税関係
Q1「基金拠出型法人ではない持分なし医療法人」に移行する際に、出資者全員  が出資持分の放棄を行った場合の課税関係はどのようになるのか。
A1 この場合における課税関係は、以下のとおり。
1 各出資者に対する贈与税の課税関係(出資者全員が同時に放棄する場合)
  各出資者は何ら経済的利益を受けないため、贈与税は課税されない。
2 各出資者に対する所得税の課税関係
  各出資者に対して、所得税は課税されない。
3 医療法人に対する贈与税の課税関係
  医療法人に対して、出資持分(出資額部分+利益剰余金部分)の放棄に伴う出資者の権利の消滅に係る経済的利益について、贈与税が課税される場合がある(相続税法第66条第4項)。
4 医療法人に対する法人税の課税関係
  医療法人に対して、移行の際に持分の全部又は一部の払戻しをしなかったことにより生じる利益について、法人税は課税されない(法人税法施行令第136条の4第2項)。
(注)各出資者に対する贈与税の課税関係(出資者の1人が放棄する場合)
  残存出資者に対して、出資持分の放棄に伴う出資者の権利の消滅に係る経済的利益について、贈与税が課税される(相続税法第9条)。
(理由)
1 「基金拠出型法人ではない持分なし医療法人」に移行する際、出資者全員が、同時に出資持分の放棄を行うと、当該放棄に伴う出資者の権利の消滅に係る経済的利益は、結果として、医療法人に帰属することとなる。(各出資者間においては、出資持分の移動はない。)
2 出資持分の払戻しが行われないため、配当とみなされる額はなく、各出資者にはみなし配当課税の課税関係は生じない。
3 一方、医療法人の立場からすると、当該放棄に伴う出資者の権利の消滅に係る経済的利益を、各出資者から贈与により取得したものとみなされるため、相続税法第66条第4項の規定により贈与税が課税される場合がある。
4 また、持分あり医療法人は、出資者の退社時の出資払戻請求権又は解散時の残余財産分配請求権に応じる義務を負っているが、出資持分の放棄により、当該医療法人は、これらの義務を免れるという経済的利益が生じる。この経済的利益については、法人税法施行令第136条の4第2項の規定により、当該医療法人の益金の額に算入しないこととされているため、法人税は課税されない。
(注)出資者の1人が出資持分の放棄を行う場合には、当該放棄に伴う当該出資者の権利の消滅に係る経済的利益は、残存出資者に帰属することとなるため、出資持分の放棄をした当該出資者から残存出資者への贈与があったものとみなされる。
(出典:厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行に係る質疑応答集(Q&A)について」より)

Column 認定医療法人の認定制度は平成26年10月1日から3年間
 政府は2月12日に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」を国会に提出している。同法案には医療法の改正も含まれており、平成26年度税制改正により創設される「医療法人の持分に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」を適用する上で前提となる認定医療法人の認定要件などが定められている。
 認定医療法人の認定制度は施行日である平成26年10月1日から3年以内に限られている。このため、納税猶予制度の適用を受けるには、平成26年10月1日から平成29年9月30日までに認定医療法人の認定を受けておく必要がある。

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