解説記事2014年05月19日 【未公開裁決事例紹介】 同族会社の行為計算否認で貸倒損失の損金算入認めず(2014年5月19日号・№546)

未公開裁決事例紹介
同族会社の行為計算否認で貸倒損失の損金算入認めず
審判所、法人税の負担を不当に減少させたと判断

○請求人の事業に係る営業権の譲渡の有無、貸倒損失の損金算入の可否が争われた事案で、審判所が営業権の譲渡があったと認めず、貸倒損失の損金算入に対して同族会社の行為計算否認規定を適用した事例。

基礎事実  請求人は、昭和50年1月28日に、商号を×××、主たる目的を記帳整理および決算書類の調製受託等の業務(以下、これらの業務を総称して「会計業務」という)、×××を代表取締役として設立された同族会社であり、その後、平成11年8月20日に現在の商号に変更し、また、平成22年7月1日に、主たる目的を不動産賃貸業に変更した。
 なお、代表取締役には、×××の子である×××が平成6年3月30日に就任し、平成11年11月30日に退任した後、3名による交代を経て、平成16年3月31日に×××が就任し、平成22年7月1日に再び×××が就任した。
 X社は、平成6年4月20日に、商号を×××、主たる目的を会計業務として設立された同族会社であり、その後、商号を同年7月1日に×××に、平成10年1月16日に×××に変更し、平成22年7月1日に主たる目的から会計業務を削除し、さらに、同年9月3日に現在の商号に変更した後、同月6日の株主総会の決議により解散した。
 なお、X社の代表取締役には、設立以来、×××が就いており、同社の解散後は同人が代表清算人となっている。
 Y社(以下、X社と併せて「本件関係法人」という)は、平成22年3月9日に、商号を×××、主たる目的を不動産賃貸等の業務、×××を代表取締役として設立された同族会社であり、同年4月1日に、商号を現在の商号に、主たる目的を会計業務に、代表取締役を×××の子である×××にそれぞれ変更した。
 請求人とX社との間では、平成7年1月11日付で作成された譲渡契約書(以下「平成7年譲渡契約書」といい、平成7年譲渡契約書に係る契約を「平成7年譲渡契約」という)がある。また、平成22年6月30日付で作成された合意書(以下「平成22年6月合意書」といい、平成22年6月合意書に係る合意を「平成22年6月合意」という)がある。
 請求人とY社との間では、平成22年7月1日付の事業譲渡契約書(以下「本件事業譲渡契約書」といい、本件事業譲渡契約書に係る契約を「本件事業譲渡契約」という)がある。また、平成22年8月16日付で作成された合意書(以下「本件追加事業譲渡契約書」といい、本件追加事業譲渡契約書に係る契約を「本件追加事業譲渡契約」という)がある。
 請求人は、本件事業譲渡契約および本件追加事業譲渡契約に基づき営業権を譲渡したとして営業権譲渡益1,468,465,177円を収益に計上した。また、平成7年譲渡契約に基づくとされる営業収益手数料×××円(以下「本件受入手数料」という)を受領したとして同金額を受入手数料勘定に計上し、本件受入手数料から消費税および地方消費税(以下「消費税等」という)に相当する金額×××円(以下「本件消費税等相当額」という)を差し引いた金額×××円を収益に計上した。
 X社に対する貸付金23,097,675円(以下「本件貸付金」という)の全額が実質的に回収できないことが明らかになったとして、本件貸付金と同額の損失(以下「本件貸倒損失」という)を計上した。
 請求人は、本件事業譲渡契約に基づき請求人からY社に譲渡されたとする請求人の債務に係る各債権者のいずれに対しても、Y社が請求人から本件事業譲渡契約書に記載された債務を引き受けた旨を通知しておらず、また、請求人およびY社は、当該各債権者から当該債務引受の承諾を受けていない(以下、これら債権者から引受の承諾を受けていない債務を「本件引受未承諾債務」という)。
 本件更正処分に係る更正通知書には、平成22年6月合意書、本件事業譲渡契約書および本件追加事業譲渡契約書に基づく取引として経理処理した内容は事実とは認められないとして、請求人が計上した営業権譲渡益1,468,465,177円を法人税の所得金額から減算し、請求人からY社に移転したと認められる負債と資産との差額1,557,212,242円(以下「本件譲渡差額」という)を受贈益として所得金額に加算する旨などが記載されている。

争点および主張  本事案の主な争点は、(1)本件譲渡差額は、受贈益として本件事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入すべきか否か。(2)本件貸倒損失は、本件事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入できるか否か。当事者の主張は、のとおり。

【表】争点1について
原 処 分 庁 請 求 人
 次のとおり、会計業務はX社からY社に直接譲渡されていることから、請求人がX社の資産および負債を受け入れてY社に譲渡したとは認められない。また、本件譲渡差額は、受贈益に該当することから、本件更正処分は適法である。
(1)請求人は、平成22年6月合意に際して、X社から資産および負債の移転を受ける経理処理を行っており、当該資産および負債は、X社が行っていた会計業務に係る売掛金および従業員の未払給与等であることから、平成22年6月合意書は、当事者間において行う新たな事業譲渡を約する旨の契約書と認められる。しかしながら、請求人が会計業務を営む上で重要な財産の一つである顧客の引継ぎについて、顧問契約の変更を行わず、社名および売上代金の振込先口座をY社に変更した旨の周知に留めていることからすると、顧客は、平成22年6月合意により契約先が一旦請求人になったこと自体を知らなかったと認められ、また、請求人がX社から移転を受けた資産および負債をもって事業活動を行った事実も確認できない。したがって、平成22年6月合意によりX社から請求人に対して会計業務に係る事業譲渡があったとは認められない。
(2)次の理由から、Y社は、平成22年6月合意および本件事業譲渡契約を行う以前からX社の会計業務に係る事業を直接的から実体的に承継していたと認められる。
 イ 社名および売上代金の振込先口座をY社に変更した旨を顧客に周知し、また、会計業務に係る請求書の発行を、平成22年6月合意書の合意日とされる平成22年6月30日以前にY社名義で行っている。
 ロ 会計業務の顧客に対する挨拶状には、X社の社名がY社に変更になる旨記載されているものの、請求人に係る説明はない。
 ハ 平成22年6月18日付のX社の従業員に対する転籍の説明文書に請求人の名称がなく、従業員の引継ぎも社会保険関係の手続が請求人を経由することなく、X社からY社に対して行われた。
(3)X社の代表清算人である×××およびY社の代表取締役である×××は、請求人が会計業務を行うことは無理である旨申述しており、申述内容と上記(2)の事実を加味して経済的実態に即して判断すると、X社からY社に直接事業譲渡があったと判断するのが相当である。
 次のとおり、請求人からY社への事業譲渡は、本件事業譲渡契約および本件追加事業譲渡契約に基づき適正になされた取引であることは明白であり、原処分庁が認定するX社からY社に直接事業譲渡があったとする判断は事実と異なるものであり、本件更正処分は違法である。
(1)請求人は、Y社への事業譲渡を前提に、請求人がX社から会計業務に係る事業の返還を受けるため、平成22年6月合意により平成7年譲渡契約を解除し、顧客および従業員が請求人に帰属することを確認したものである。請求人のX社から資産および負債の移転を受ける経理処理は、合意締結により事業を継続できなくなったX社への貸付債権の返済に代えて、X社が保有する資産および負債の総額を受入れたものである。以上のことから、平成22年6月合意により顧客や従業員等の見えざる資産の移転を受けており、また、受入れたX社の資産などは、債務の返済により取得したものである。 したがって、請求人の経理処理は平成22年6月合意を反映したものであり、X社の資産および負債並びに顧客および従業員の受入れは存在した。
(2)原処分庁は、事業譲渡がX社からY社に直接されたとする理由として、原処分庁主張欄の(2)のイ、ロおよびハ並びに(3)の事実がある旨主張するが、当該事実は次の理由に基づくものであり、請求人からY社に対して事業譲渡があったことを否定する理由とはならない。
 イ 振込先口座の変更等については、顧問先における変更の準備期間を考慮したものであり、また、Y社名義の請求書発行は、用紙の在庫が不足したためであった。
 ロ 挨拶状については、最終的な事業承継主体であるY社自らが顧客に送付し顧問契約を引き継ぐ方法が、顧客に不安等を与えない方法であると判断した。
 ハ 転籍の説明文書および社会保険の手続については、請求人の社会保険の手続の簡便性から請求人を省略することは常識的対処であり、仮に請求人の手続が入ると実際の転籍日とY社での資格取得日が一致しないことになることから手続を簡略化し、請求人を含めた本件関係法人が従業員に転籍の説明をして同意を求めたものである。
(3)原処分庁は、平成22年6月合意書の日付より前に会計業務に係る事業がY社に直接譲渡されたとする一方で、X社およびY社のそれぞれの収益計上の対象期間と事業譲渡日における譲渡資産等の残高との関係を考慮せずに、平成22年6月合意の日の売掛金残高を本件更正処分の売掛金残高としており、これらは明らかに矛盾している。


【表】争点2について
原 処 分 庁 請 求 人
 次のとおり、本件貸付金は、実質的にその全額が回収できないことが明らかになったとは認められないことから、本件貸倒損失の計上は認められない。
 X社の平成22年9月6日現在および平成23年9月6日現在の貸借対照表には、それぞれ資産の部に未収入金3,261,016円および仮払税金21,000,000円、負債の部に請求人からの短期借入金23,097,675円および未払法人税等46,600円の記載があることから、本件事業年度終了の時点において、X社の原処分庁からの法人税の還付金×××円および消費税等の還付金×××円の還付が実行されていないとしても、X社には原処分庁に対する還付金債権が存在しており、金銭債権の全額が回収できないことが明らかになったとは認められない。また、還付が実行されていない法人税および消費税等について、X社の納付すべき国税に充当された旨の通知がされた時期は平成23年1月および平成24年11月であり、本件事業年度終了時点において、還付金の全額が回収できないことが明らかになったとは認められない。さらに、X社の国税債務については、本件事業年度終了時点において平成22年7月の更正処分等に対する審査請求が係属中であり、当該更正処分等に係る税額の納付もなく、当該更正処分等に係る税額が平成22年9月6日現在および平成23年9月6日現在の貸借対照表にも計上されていないことからして、X社は、確定した債務として認識していなかったものと認められ、また、還付が実行されていない金額が、当該更正処分等に係る税額に充当される認識もなく、還付金債権は存在していたと認識していたものと認められる。そうすると、本件事業年度において、本件貸付金の全額が回収できないと判断することはできない。
 次のとおり、本件貸付金は、実質的にその全額が回収できないことが明らかであり、本件貸倒損失の計上は認められるべきである。
 X社の有する債権は全て原処分庁に対する法人税および消費税等の還付金債権であるところ、X社は平成22年7月の更正処分等により、××以上の税額が課されており、徴収の猶予等の申立ても認められないことからすれば、X社は当該国税債務により多額の債務超過の状況となる以上、本件貸付金が回収不能と判断するのは自然な思考である。
 また、原処分庁は、本件事業年度終了時点においてX社の国税還付金債権の存在および充当通知の時期を理由に本件貸付金が全額回収不能であるとは認められないとするが、X社に国税還付金債権と国税債務の双方が存在し、国税還付金債権が原処分庁の国税債務への充当と請求人のX社に対する債権回収の原資とが競合する関係においては、国税還付金債権が請求人の債権回収の原資には成り得ないことは明らかである。
 さらに、X社は平成22年7月の更正処分により国税債務を認識し、その内容に納得がいかなかったために審査請求を行ったのであり、原処分庁が主張するように平成22年12月31日現在において審査請求が係属中であるからといって、X社に国税債務が確定したとの認識が無いことは有り得ない。X社の代表者は請求人と同一でかつ税理士の資格を有し、専門的知識と経験から国税還付金が国税債務に充当されることを予測でき、法人税の還付金×××円の充当通知書が平成23年1月27日にX社に届いていることから、請求人は本件事業年度の決算整理の過程で本件貸付金が回収不能であることは十分に判断できた。したがって、X社の財政状態を鑑みて、債権を回収する可能性はないと判断し、請求人が本件貸倒損失を損金の額に算入したことは、適正な経理処理である。

審判所の判断
(1)争点1について
 イ 法令解釈
(イ)法人税法22条2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡または役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とすると規定しているところ、無償で債務が移転したことにより生じる収益は受贈益として、益金の額に含まれるものと解される。
(ロ)営業権とは、法人税法上、明文の定義規定はないところ、一般的には、企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術等および特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係をいうと解するのが相当である。 
 ロ ×××の申述等  (略)
 ハ 認定事実  関係者の申述等、請求人提出資料、原処分関係資料および当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)平成22年6月合意書および本件事業譲渡契約書の作成に至る事情
 関係者の答述によれば、×××は、請求人の実質的代表者およびX社の代表取締役として、平成22年6月合意および本件事業譲渡契約の計画や決定を主導的に行ったものと認められるところ、×××は、会計業務に係る事業をX社から請求人を経由してY社に譲渡することとした理由について、X社への課税の回避、多額の負債を抱える請求人の債権者への債務の支払原資の確保並びに請求人および×××本人の破産を回避するためである旨一貫した申述等をしており、かかる説明に特段不自然不合理な点は認められないことから、×××の当該申述等は信用できるものと認められる。
 そうすると、請求人および本件関係法人には、会計業務に係る資産等を請求人を経由してY社に譲渡させる動機となるべき事情があったものと認められる。
(ロ)X社の平成22年6月30日における財務状況
 X社の平成22年1月1日から同年9月6日までの事業年度(以下「X社平成22年9月期」という)の総勘定元帳および補助元帳によれば、X社は、平成22年6月合意の直前において別表2(編注:略)のとおりの資産および負債を有していたが、当該合意と同日付で、請求人に対し資産および負債の大部分を移転し、その差額を請求人からの短期借入金と相殺したとする経理処理を行い、その結果、X社に残存する資産は仮払消費税12,029,381円および仮払税金21,000,000円、負債は請求人からの短期借入金23,097,675円および仮受消費税8,768,373円のみとなった。
(ハ)請求人の本件事業譲渡契約等に伴う経理処理
 請求人の本件事業年度の総勘定元帳および補助元帳によれば、請求人は、平成22年6月合意と同日付で、X社から資産および負債を移転されたとして、その差額を同社に対する貸付金と相殺し、同社に対する貸付金の残額である本件貸付金が貸倒れになったとして本件貸倒損失を計上した。また、請求人は、本件事業譲渡契約に基づき、平成22年6月30日現在で請求人が保有していた資産×××円および負債×××円(X社から移転されたとする資産および負債を含む)を同年7月1日にY社に譲渡したとする経理処理をし、その後、本件追加事業譲渡契約に基づき、現金9,235,418円、貸付金26,286,356円および短期借入金3,000,000円を譲渡金額に追加したとする経理処理をした。
(ニ)会計業務に係る従業員および顧問先
 平成22年6月合意前にX社において会計業務に従事していた同社の従業員は、平成22年7月1日以後はY社において引き続き会計業務に従事していた。また、平成22年6月合意前のX社における会計業務に係る顧問先は、当該合意および本件事業譲渡契約に基づき、平成22年7月1日にY社における会計業務の顧問先となった。
(ホ)本件事業譲渡契約の契約日前の会計業務の主体
 A 請求人は、設立以来、会計業務に係る事業を営んでいたが、平成7年に会計業務に係る顧問先との契約関係をX社に引き継ぎ、会計業務に従事していた従業員は平成13年12月までそのまま在籍させ、当該顧問先に係る会計業務をX社から受託していたが、平成14年1月に当該従業員全員をX社に転籍させ、X社は、平成22年6月まで自社の従業員を従事させて会計業務を営んでいた。
 B 本件事業譲渡契約の契約日を含む事業年度における会計業務に係る顧問料等について、X社は、X社平成22年9月期の1月から6月までの総勘定元帳の受入手数料勘定に計上しているが、請求人は、本件事業年度において当該顧問料等を計上していない。
 C 以上のことから、本件事業譲渡契約の目的とされる会計業務は、本件事業譲渡契約の契約日の直前までX社が営んでいたものと認められる。
(へ)請求人の経営内容
 A ×××の申述
 請求人の事業実態について、×××は、平成23年8月12日に、原処分庁所属の調査担当職員に対して、平成7年1月に顧客を譲渡した以降は複数の不動産の入居者から得た賃貸料収入のみとなり、これらの不動産も金融機関等からの借入金を返済するために売却を進めた結果、平成22年6月30日には不動産も1件となり、本件事業年度の賃貸料収入はなくなり、同年6月30日現在の未払金は×××円、長期借入金も×××円で、経営状況は平成7年1月以降も良好ではない旨申述しているところ、当審判所の調査の結果によっても、当該申述に反する事実は認められない。
 B 請求人の収益状況
(A)本件事業譲渡契約の契約日の前3事業年度
 請求人の本件事業譲渡契約の契約目の前3事業年度である平成19年1月1日から同年12月31日まで、平成20年1月1日から同年12月31日までおよび平成21年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成19年12月期」、「平成20年12月期」および「平成21年12月期」といい、これらを併せて「契約前3事業年度」という)の法人税の各確定申告書に添付された各損益計算書によれば、請求人は、契約前3事業年度において、売上高として受入手数料および賃貸料収入を計上している。なお、請求人は、受入手数料として、平成19年12月期は×××円、平成20年12月期は×××円、平成21年12月期は×××円を計上しており、平成19年12月期および平成20年12月期は全額が、平成21年12月期は不動産管理収入を除く×××円が、平成7年譲渡契約に基づくとされるX社から受け取った営業収益手数料である。
(B)本件事業年度
 請求人の本件事業譲渡契約の契約日を含む本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された損益計算書によれば、請求人は、本件事業年度において、売上高として受入手数料および貸付利息収入を計上しており、当該受入手数料のうち不動産管理収入を除く×××円が、契約前3事業年度と同様に平成7年譲渡契約に基づくとされるX社から受け取った営業収益手数料である。なお、請求人は、平成22年6月合意により平成7年譲渡契約を解除したことから、平成22年7月1日以降はX社から営業収益手数料を受け取ることができなくなった。また、契約前3事業年度において売上高として計上していた賃貸料収入は、金融機関等からの借入金を返済するため不動産の売却を進めた結果、本件事業年度において賃貸料収入はなくなった。
 C 請求人の財務状況
 平成21年12月期の決算報告書によれば、平成21年12月31日現在の貸借対照表上の資産の部の合計額は×××円であるのに対し、負債の部の合計額は×××円であり、同日時点で、請求人は×××円の債務超過の状況にあったものと認められる。
 D 請求人の経営状況
 請求人は、上記Bのとおり、契約前3事業年度および本件事業年度において、多額の受入手数料を売上高として計上しているところ、当該受入手数料は平成7年譲渡契約に基づくとされるX社から受け取った営業収益手数料であり、請求人は、当該営業収益手数料を除くと収益を得られるような事業を営んでいるとは認められず、さらに、上記AおよびCのとおり、請求人は多額の債務を有し債務超過の状況にあったことから、請求人の経営内容は厳しい状況にあったと認められる。
(ト)請求人における営業権の処理等
 ×××は、平成23年8月12日に、原処分庁所属の調査担当職員に対して、平成22年6月合意書に基づきX社から請求人に顧客および従業員を戻す際に、請求人からX社に対する金銭の支払はない旨申述しているところ、当該申述は当審判所の調査の結果によっても事実に反すると認めるに足りる証拠は認められないこと、及び平成22年6月30日付の経理処理においても、請求人が営業権として評価した資産を取得した会計上の処理を行っていないことから、請求人がX社から営業権と評価した資産を取得した事実は認められない。
 ニ 当てはめ (イ)請求人を経由した事業譲渡取引について
 請求人および本件関係法人においては、上記ハの(イ)のとおり、会計業務に係る資産等を請求人を経由してY社に譲渡させる動機となるべき事情があったものと認められるところ、このような事情を背景として平成22年6月合意書および本件事業譲渡契約書は作成されたものであり、事実、請求人および本件関係法人において平成22年6月合意および本件事業譲渡契約の内容に沿った経理処理や従業員の転籍および顧問先の引継ぎが行われていると認められるから、X社で行っていた会計業務に係る事業は請求人を経由してに譲渡されたものと認められる。
 そうすると、これら一連の行動は、その税法上の評価はともかくとして、特段不合理であるとか通常ではみられない異常なものということはできない上、平成22年6月合意書および本件事業譲渡契約書が内容虚偽のものであるとか、X社がY社に対して直接会計業務に係る事業を譲渡した事実を認めるに足りる証拠もない。
 したがって、X社の会計業務に係る事業は請求人を経由してY社に譲渡されたものと認められる。
(ロ)本件事業譲渡契約書に記載されている営業権の存否について
 上記(イ)のとおり、X社の会計業務に係る事業は請求人を経由してY社に譲渡されたものと認められるところ、本件事業譲渡契約に基づきY社が請求人から取得したとする営業権については、企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術等および特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係があると評価されるべき必要がある。
 しかしながら、①請求人の売上高の大部分は平成7年譲渡契約に基づくとされるX社から受け取った営業収益手数料であるところ、平成22年6月合意により請求人はX社から営業収益手数料を受け取ることができなくなったこと、②請求人は、賃貸料収入が得られたのは平成21年12月期までであり、また、本件事業譲渡契約の目的とされる会計業務は、本件事業譲渡契約の契約日の直前までX社が営んでいたことから、本件事業譲渡契約の時には収益を得られるような事業を営んでいなかったこと、③請求人は、多額の債務を有し債務超過の状況にあり、経営内容は厳しい状況にあったこと、④請求人がX社から営業権と評価した資産を取得した事実は認められないこと等を併せ考慮すると、請求人には、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係があるとは認められず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、請求人には営業権と評価できるような財産的価値を有する事実関係があったとは認められないから、請求人からY社に対して営業権が譲渡されたと認めることはできない。
(ハ)本件引受未承諾債務について
 請求人は、Y社が請求人から本件事業譲渡契約書に記載された債務を引き受けた旨を債権者に通知しておらず、また、請求人およびY社は、債権者から当該債務引受の承諾を受けていないことから、本件引受未承諾債務が請求人からY社に移転したものとは認められない。
(ニ)まとめ
 以上のことから、会計業務に係る事業がX社からY社に直接譲渡され、かつ、本件引受未承諾債務が請求人からY社に移転したことを前提とした本件譲渡差額は、その前提となる事実が認められないことから発生しておらず、受贈益も生じていないと認められる。
(2)争点2について
 イ 法令解釈
 法人税法132条1項は、税務署長は、同族会社等の行為または計算で、これを容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額または法人税の額を計算することができる旨規定している。そして、同族会社のある行為または計算が、当該規定の要件である「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、当該行為または計算が純経済人の行為として不自然、かつ不合理なものであって、それによって法人税の負担が減少したかどうかによって判断するのが相当である。
 ロ 当てはめ  請求人は、本件事業年度において本件関係法人であるX社に対する本件貸付金23,097,675円の全額が回収不能であるとして、本件貸倒損失を計上しているところ、本件貸倒損失を計上するに至った要因は、請求人は、X社が請求人に支払っていた営業収益手数料について、原処分庁から寄附金に該当するとして法人税の更正処分等を受けることが明らかになったため、これを回避するために、それまでX社で行っていた会計業務を、請求人を経由して新たに設立した本件関係法人であるY社に対し、X社の資産および負債を含め事業譲渡させた上、X社を解散させたことに基因するものと認められる。そして、平成22年7月1日以降は×××が請求人およびX社の両代表取締役を務めており、また、それ以前においても×××が請求人の実質的代表者として平成22年6月合意および本件事業譲渡契約の計画や決定を主導的に行ったことからすれば、請求人は、自ら本件貸倒損失が発生するような状況を作出したものというべきであり、このような状況を作出することができたのは、請求人およびX社が同族会社であって代表者を同じくする関係法人同士だから可能であったものと認められる。
 そうすると、同族会社である請求人が行ったこれら一連の行為は、非同族会社間では容易になし得ないような、純経済人として不自然・不合理な行為または計算に該当するというべきであり、本件貸倒損失を損金の額に算入することにより請求人の所得金額を減少させ法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる。
 したがって、本件貸倒損失は、法人税法132条1項の規定により本件事業年度の所得金額の計算上損金の顔に算入することはできないとするのが相当である。

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