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解説記事2014年11月03日 【税務マエストロ】 BEPSプロジェクトの進捗と税制改正への影響①(2014年11月3日号・№569)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
BEPSプロジェクトの進捗と税制改正への影響①
#124 品川克己
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(ディレクター)

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#125 個人事業者の消費税実務 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  BEPSプロジェクトとは、昨年(2013年)7月にOECD租税委員会が取りまとめた「税源浸食と利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)行動計画」をベースとして、現行の国際課税原則の問題点を洗い出そうとするものである。このプロジェクトは2015年までの計画が示されているが、さる9月16日に中間報告的な位置づけとして、一部のテーマについて「報告書」が公表された。この報告書では、早速いくつかの政策提言がなされており、今後、日本では毎年の税制改正に影響を及ぼすことになると考えられる。たとえば、すでに「国外配当の益金不算入制度」の見直しが税制調査会で議論の遡上に上がっているところである。

1 BEPS行動計画  BEPS行動計画は、2012年6月に、OECD租税委員会の中に立ち上げられたプロジェクトであるが、G20諸国(脚注1)からの支持も取り付けたことから、単にOECD内のプロジェクトではなく、主要国のほとんどが参加する世界的規模のプロジェクトという評価がなされている。このプロジェクトは、具体的には「近年、各国がリーマンショック後に財政状況を悪化させ、より多くの国民負担を求めている中で、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問題が顕在化している」(脚注2)という問題意識のもと、「各国が、二重非課税を排除し、実際に企業の経済活動の行われている場所での課税を十分に可能とするため、OECDは、行動計画の各項目について、2014年9月から2015年12月の間に、新たに国際的な税制の調和を図る方策を勧告することとしている」(脚注3)というものである(下線部筆者)。つまり、グローバルに事業展開を行う多国籍企業が租税回避を行っており、そのために各国の財政状況が悪化している。それゆえ租税回避をやめさせ、企業の経済活動が行われている国で十分な課税ができるような税制を世界的調和のもとで構築していこうという主張と考えられる。
 しかしながらこの問題意識には、根本的な問題点が存在している。たとえば、経済活動と所得の発生の関係、所得源泉(所得発生)の理由について何ら検討することもなく、ある1国で絶対的な納税額がないことを、「節税対策により税負担を軽減している」と決めつけている点が、きわめて扇動的な発信であるといえよう。納税が生じないのは、利益を隠しているわけではなく、課税に服する利益が生じていないためとも考えられる(少なくともそうしたケースが大半であろう)。税源浸食(Base Erosion)の原因は、節税対策によって所得が海外に移転している(見方によっては租税回避)からではなく、課税ベースとなる利益が発生していないことや、利益の発生起因である事業活動そのものが移転していることも大きな理由とも考えられる。その意味で、税源浸食(課税ベースの減少)を防止する税制は、別の見方をすれば、事業の海外移転、つまり海外事業展開を阻害する税制となる可能性があることも否めない。
 また、現状BEPSプロジェクトはOECD租税委員会という税制担当部局・課税部局のみで進められ、産業政策担当部局の意見、ポリシーが反映されない「欠席裁判」的なプロジェクトになってしまっている点も極めて問題であると言わざるを得ない。特に、日本全体の観点に立つと、対内投資促進・国内経済の活性化のために法人税率の引下げや特定の優遇措置の検討を進める一方で、税収確保を理由とした課税強化を進めることは、明らかに政策矛盾といえよう。租税回避防止に名を借りた課税強化ではなく、租税回避を防止しつつ、経済活動・経済交流を促進させる税制を構築していくことが、あるべき方向と考えられる。事業活動の海外展開と所得の隠ぺい・海外移転を明確に区別したうえで議論を進める必要があると考えられる。

2 公表された報告書と大臣談話  BEPSプロジェクトは、15の行動計画を設け、それぞれの期限を決めて議論が進んでいる。このうち、さる9月16日に、次の行動計画に係る「報告書」が公表された。
・行動計画1:電子経済の課税上の課題への対      処
・行動計画2:ハイブリッド・ミスマッチ取決      めの効果の無効化
・行動計画5:有害な税制上の慣行への対処
・行動計画6:租税条約の濫用防止
・行動計画8:移転価格ガイドライン第6章(無      形資産)の改正案
・行動計画13:移転価格文書化の再検討
・行動計画15:多国間協定の導入についての      提言
 これに合わせ、麻生財務大臣から次のように談話が発表されている。
1.昨年7月にOECD租税委員会が取りまとめた「税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画」をうけ、本日、最初の報告書が公表され、G20財務大臣・中央銀行総裁会議に提出された。これは、国際課税に関する国際的な協力の歴史において転機となる取組みである「BEPS行動計画」が着実に前進していることを示すものであり、歓迎する。
2.市場経済において、公平な競争条件を阻害するような国際的な脱税・租税回避に利用されうる税制の隙間や抜け穴をふさぎ、公正な企業活動を促進することは、各国経済の堅実な成長や、納税者の税制に対する信頼を確保する上で重要である。一方、一国による対応には限界があり、各国がこれに協調して取り組むことが不可欠である。
3.「BEPS行動計画」については、私もG20などの場で議論に積極的に関与してきており、日本はこれを強く支持している。今後、報告書に示された内容に適切に対応していくとともに、引き続き国際的な場における議論を先導していきたい。

3 国外配当益金不算入の見直し
(1)税制調査会の議論
 税制調査会においても、「BEPSプロジェクトを踏まえた我が国の国際課税見直し」として、BEPSの検討項目のいくつかが具体的に取り上げられ、すでに税制改正を見据えた議論が開始されている。特に、行動計画2(ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果の無効化)においては、他国の租税の取扱いに自国の租税の取扱いをリンクさせる国内法(リンキングルール)の導入及びその調整ルールについての提案が報告されている。より具体的には、平成26年4月4に提出された資料(際D3-5)において、「ハイブリッド・ミスマッチが生じないように、配当免税制度を採用している国は、支払者において損金算入となっている配当については、免税を与えないようにしなければならない。」と記されている点には留意する必要がある。
 我が国税制に対する直接的な影響としては、「外国子会社配当益金不算入制度の見直しの視点」(脚注4)として、「我が国の外国子会社(配当)益金不算入制度において、外国子会社から受ける配当について、現地で損金算入される配当も制度の対象とされており、こうした損金算入配当については二重非課税の問題が生じている。」「BEPSプロジェクトにおいて、二重非課税が生じないように、配当益金不算入制度を採用している国は、損金算入配当を益金不算入の対象外とするよう求められていることを踏まえ、我が国においても、損金算入配当を外国子会社配当益金不算入制度の対象外としてはどうか。」(脚注5)。と、すでに具体的な税制改正項目として挙げられているところである。
(2)問題点
 ① 政策趣旨との関係
 外国子会社配当益金不算入制度は、平成21年度税制改正において、それまでの二重課税排除の方法としての外国税額控除制度に代えて導入されたもので、海外の子会社から配当として日本国内に還流する利益が、設備投資、研究開発、雇用等幅広く多様な分野で我が国経済の活力向上のために用いられることを期待して導入されたものである。「平成21年度の税制改正に関する答申」においても、「我が国経済の活性化の観点から、我が国企業が海外市場で獲得する利益の国内還流に向けた環境整備が求められる中、企業が必要な時期に必要な金額だけ戻すことができることが重要である。(略)企業の配当政策の決定に対する中立性の観点に加え、適切な二重課税の排除を維持しつつ、制度を簡素化する観点も踏まえ、間接外国税額控除に代えて、外国子会社からの配当について親会社の益金不算入とすることが適当である。」とされている。
 このように、海外子会社配当の益金不算入制度は、単に二重課税排除ということのみでなく、制度の簡素化及び海外からの受取配当を非課税(益金不算入)とすることにより、配当による資金の国内還流を促進させることを制度趣旨としている。外国子会社配当益金不算入制度の見直しに当たっても、この制度趣旨を十分に認識すべきと考えられる。
 なお、税制調査会の資料では、イギリス、ドイツが損金算入配当を益金不算入の対象から除外していることが今回の見直しの理由のひとつとして挙げられているが、そもそもイギリス、ドイツが国外からの配当を益金不算入の対象としていた理由は主に二重課税の排除であり、我が国と政策趣旨がまったく異なる点に留意すべきである。
 ② 「二重非課税」論の問題点  BEPSプロジェクトにおいては「二重非課税」の概念が曖昧なまま議論が進められている。二重非課税と一般的な非課税の違いが曖昧であり、特に損金算入配当が受取側で益金不算入とされることにより「二重非課税」が生じていると捉えることは疑問でもある。
 受取配当については、一般的に、異なる法人間の同一所得に対する二重課税を排除するため益金不算入とされているところであるが、本来は「法人」及び「法人税」の性質の議論と切り離して考えることはできない問題である(脚注6)。仮に、法人税を配当受領者である株主に対する所得税と切り離して、独自の税と考えれば、そもそも支払側で法人税が課税されることと受取側で課税されることは全く別の次元の問題であり、これらを混同して必ずどちらかで課税を受けなければならないものと認識する必要はないのではないか。それぞれ、もともとの支払側の非課税措置と受取側の非課税措置が別個に存在しているのであり、これをリンクさせることの合理性は全く見いだせない。2法人間で二重非課税ととらえるのではなく、単に最初の法人が非課税とされているにすぎないと考えることもできよう。また、法人所得は、必ず課税を受けなければならないという前提であれば、これは二重非課税の問題ではなく、最初に適用を受けた優遇措置(非課税措置)の是非の問題ともいえよう。
 なお、損金算入とされる配当は支払者の法人税の計算に当たって損金算入されるだけであり、一般的には、支払に当たって源泉所得税が課税されるものである(受取者に対する課税)。少なくともこの文脈では、二重非課税という概念を用いることはできないものといえよう。
 ③ 税負担軽減(軽減税率)との関係  支払配当の損金算入は、法人税の負担軽減効果を目的の一つとしている。損金算入部分が非課税とされることにより、法人税の実効税率が引き下げられることとなるが、その意味では特例としての法人税の免税措置と異ならない。「二重非課税」という用語で、配当支払原資が法人税負担を負っていないことを問題視するのであれば、通常の非課税措置により免税とされた法人所得からの配当も同様に悪となってしまおう。法人税の免税を受けた法人利益からの配当と損金算入配当と区別する合理的な理由は見いだせない。
 また、支払配当の損金算入という制度そのものを問題視するのであれば、そもそも我が国にも同様の制度がある。仮に、何らかの対応が必要だとするのであれば、それは受取側の制度変更で対応する問題ではなく、支払側の制度変更により対処すべき問題であろう。
 ④ 投資形態変更のコスト  損金算入配当が海外子会社配当益金不算入制度の対象となることについては、これまで国税当局は明示的に認めてきている(脚注7)。特に、オーストラリアやブラジルといった具体例まで紹介され、各企業は配当の益金不算入を前提に投資計画を立て、事業を行っているものと考えられる。
 海外子会社配当益金不算入の見直しは、納税者に不利益を与える改正である。投資に当たって予定されたリターンが得られないのであれば、その計画を見直す必要が生じるが、たとえば「交際費の損金不算入」等の通常の損金項目についての改正とは異なり、投資形態(どういう法人形態とするか)の変更等、根本的な対応が求められ、容易に対応できる問題とは考えられない。
 「OECDでの議論を踏まえる」ということではなく、我が国のとった政策判断、その時の制度趣旨、さらには実社会に与える影響を十分に踏まえ、慎重に対処する必要がある問題と考えられる。

脚注
1 OECD非加盟国のG20メンバーは、中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ。
2 税制調査会「BEPSプロジェクトの進捗状況について」(平成26年4月4日、際D3-5)
3 同資料。
4 税制調査会「BEPSプロジェクトを踏まえた我が国の国際課税見直し」(平成26年4月24日、際D4-1)
5 同資料。
6 法人税を株主の所得税の前取りととらえるか、独自の税ととらえるかといった問題であり、いわゆる「法人擬制説」及び「法人実在説」の問題と関連づけて議論される。
7 国税庁ホームページにおける質疑応答事例「外国子会社配当益金不算入制度の対象となる剰余金の配当等の額の範囲について」。

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