解説記事2015年02月09日 【最新判決研究】 更生会社の過年度損失に係る更正の請求の可否(2015年2月9日号・№582)
最新判決研究
更生会社の過年度損失に係る更正の請求の可否
東京地裁平成25年10月30日判決(平成24年(行ウ)第212号)
東京高裁平成26年4月23日判決(平成25年(行コ)第399号)
筑波大学名誉教授・弁護士 品川芳宣
一、事実
(1)T更生会社は、消費者金融業等を目的とする株式会社であったが、平成22年10月31日に更生手続開始の決定を受けた後、平成24年3月1日に吸収分割をすることにより消費者金融業に関して有する権利義務を他の株式会社に承継させた。X(原告、控訴人)は、T更生会社の管財人に選任された。
T更生会社は、更生手続開始申立てをするまでの間、顧客との金銭消費賃借契約を締結し、利息制限法1条に規定する利率(以下「制限利率」という。)を超える部分を含む利息及び遅延損害金(以下「約定利息」といい、制限利率を超える部分を「制限超過利息」という。)の支払を受け、当該支払に係る収益の額を益金の額に算入し、平成10年3月期分ないし同16年3月期分の法人税の確定申告をしていた。
ところが、最高裁平成18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁(以下「最高裁平成18年判決」という。)が、平成18年改正前の貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定の適用を厳格に解する判断を示したため、T更生会社を含む貸金業者に対する過払金返還請求権の行使が急増し、T更生会社は、資金繰りが悪化し、平成22年9月28日、東京地方裁判所に対し、更生手続開始を申し立てた。
T更生会社は、平成22年4月1日から本件更生手続開始の日(同年10月31日)までの事業年度において、過年度制限超過利息等損失2兆2,469億円余、制限超過利息等損失1,761億円余等を含む約2兆8,000億円を特別損失として計上した。
(2)本件更生手続においては、制限利率に基づくいわゆる引直し計算により過払金返還請求権に係る債権を取得した顧客のうち約91万人が更生債権の届出をし、更生債権についての一般調査期間(平成23年5月2日から同月13日まで)の末日の経過により、総額約1兆3,800億円の過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定した。
東京地方裁判所は、同年10月31日、更生計画を認可する旨の決定をした(以下「本件更生計画」という。)。本件更生計画においては、①第1回弁済として、元本等更生債権の3.3%に相当する金額を更生計画を認可する旨の決定がされた日から1年を経過する日の属する日の末日までに支払い、②全ての更生債権等の額が確定するとともに、T更生会社が保有する全資産の換価・回収が完了し、弁済原資を確保することができた場合には、第2回弁済をし、当該弁済時に更生債権等の残額について免除を受け、③T更生会社は、本件更生計画を認可する旨の決定がされた後、Xが裁判所の許可を得て決定する日に解散する旨等が定められていた。
Xは、前記過払金返還請求権に係る債権(約1兆3,800億円)が更生債権として確定したことを前提に、国税通則法(以下「通則法」という。)23条2項1号に基づき、平成23年7月12日、平成10年3月期ないし同22年3月期(以下「本件各事業年度」という。)分法人税につき、総額2,374億6,470万円余の還付をするよう更正をすべき旨の請求(以下「本件各更正の請求」というう。)をした。これに対し、処分行政庁は、同年11月28日、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件各通知処分」という。)
をした。Xは、前審手続を経て、国(被告、被控訴人)に対し、本件各通知処分の取消しを求める本訴を提起した。
二、争点及び当事者の主張
1 争 点 (1)本件各更正の請求が通則法23条所定の要件を満たすか否か
(2)不当利息返還請求権の有無
2 Xの主張 (1)T更生会社は、本件更生計画において、更生計画の認可の決定がされた後のXが裁判所の許可を得て決定する日に解散するものとされたため、通常の企業とは異なり、継続企業の公準が妥当せず、また、本件更生手続の過程で発生する多額の欠損金について、欠損金の繰戻しや繰越しという継続企業に認められている課税調整により救済を受ける余地がないから、本件において、T更生会社の過年度所得の是正が否定された場合、制限超過利息を原資として支払われた法人税を国が永久に保持することになるところ、このような結論は、無効な制限超過利息について、本来返還されるべき過払債権者の犠牲の下に国が不当な利得を永久に保持することを認めるものであり、正義衡平の観念に著しく反する。
(2)T更生会社は、本件各事業年度において、収受した制限超過利息を有効なものとして益金の額に算入して課税所得の計算を行い、当該課税所得に基づき法人税を納税してきたところ、一般調査期間の満了日である平成23年5月13日の経過をもって、管財人が認否書において認めた更生債権である過払金返還請求権に係る債権の存在及び金額が、確定判決と同一の効力をもって確定したのであり、これによって、T更生会社が本件各事業年度に顧客から収受してきた無効な制限超過利息が当該顧客に対する貸金の元本に充当され、当該貸金の元本が消滅した後には顧客に返還すべき過払金となることが確定したから、通則法23条2項1号に該当することは明らかである。
(3)企業会計における前期損益修正は、一度確定した過年度の損益を遡及して修正することが困難なこと等から便宜的に採用された方法である。法人税基本通達2-2-16(以下「本件通達」という。)に示されているように、税務上も、企業は継続的に活動するという前提(継続企業の公準)に立った上で、当期の益金や損金と相殺することによって過去の年度の所得を是正するのと基本的に同じ効果が生じるという点に着目し、会計上の便宜的な処理(前期損益修正)を税務計画の場面において変更するまでもないとされてきたにすぎない。
(4)また、国税庁は、土地譲渡益重課税制度が適用された土地等の譲渡について、その後の事業年度において契約が解除された場合には、遡及して課税を訂正する是正がされる通達(租税特別措置法関係通達(法人税法編)63(6)-5(以下「措置法通達」という。))を定めている。
(5)企業会計原則において前期損益修正の処理が規定されているが、企業会計原則自体当然に企業会計上の法的拘束力を有する規範ではないし、会計上前期損益修正が行われる場合であっても、税務上も一律に当期の損益として取り扱わなければならない必然性はない。
(6)仮に、本件各更正の請求が否定されることとなれば、国は、本件各事業年度の還付金額の合計2,374億6,470万円余を所得課税の本質に反して、すなわち「法律上の原因」なく違法に保有し続けることになるから、民法703条に基づき、原告に返還する義務を負うというべきである。その理は、所得税の貸倒れに係る最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁(以下「最高裁昭和49年判決」という。)によって明らかにされている。
3 国の主張 (1)後発的事由に基づく更正の請求が認められるためには、通則法23条1項各号に定める事由に該当することが必要である。同項各号に掲げる申告に係る税額が過大等であることの理由となる課税標準等の額又は税額等の額の計算については、専ら法人税法等の各租税実体法が定めており、法人税法における課税所得等の計算の仕組みについてみると、継続的な企業として永続的な存在である法人の経済的活動を区切り、一定の期間を単位としている。よって、仮に同条2項各号に定める後発的事由が発生したとしても、それが同条1項に定める課税標準等又は税額等の額に変動を来さないのであれば、更正の請求は認められない。
(2)法人の場合には、企業会計上、継続企業の公準に従い、当期において生じた収益と、当期において生じた費用及び損失とを対応させて損益計算をしていることから、既往の事業年度に収益計上した売上高等について当期において契約の解除等がなされた場合には、その解除等がなされた部分に対応する金額について、当該売上高を収益計上した事業年度に遡及して修正するのではなく、解除等がなされた当期の事業年度の益金を減少させる損失として取り扱われることになる。
(3)措置法通達は、土地譲渡益重課税制度が個々の譲渡取引に対して非継続的な課税を行う制度であるところ、継続的に事業活動を行う場合の各事業年度の課税所得の計算とは異なることを定めたものである。
(4)通則法が更正の請求の手続を設けた趣旨に鑑みると、申告に係る税額が当初から過大であった場合にも、また、後発的事由により申告に係る税額が過大であることになった場合にも、その過大部分の修正は、原則として更正の請求によらなければならず、他の救済手続によることは許されないと解すべきであり、本件更正の請求について例外を認めなければならないような事情はない。
三、一審判決要旨
請求棄却。 (1)通則法23条2項に基づく更正の請求をする場合においても、その理由については、同条1項各号に掲げるもののいずれかに該当することが必要であるところ、同項1号は、①納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は②当該計算に誤りがあったことにより当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを掲げている。そして、上記①については、通則法が「国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め」たものであり、課税の実体的要件(課税標準、税率等)は法人税法等の各租税実体法が定めていることに照らし、本件においても、T更生会社の本件各事業年度の法人税に係る課税標準等若しくは税額等の計算が法人税法の規定に従っていなかったか否か等が問題となる。
(2)法人税法22条2項及び3項の収益の額及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って計算されるものとする旨を定めている(同条4項)。また、同項は、同法における所得の金額の計算に係る規定及び制度を簡素なものとすることを旨として設けられた規定であると解されるところ、「企業会計の基準」等の文言を用いず「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と規定していることにも照らすと、現に法人のした収益等の額の計算が、法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限りにおいては、法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)、法人が収益等の額の計算に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に該当するといえるか否かについては、上記に述べたところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものと解するのが相当である。
また、このような法人税法の定め等を前提とすると、同法は、法人が存続し成長することを目指して経営されるものであることに照らし、人為的に期間を区切って会計の計算をする必要があることを前提(いわゆる継続企業の前提)とした上、このようにして区切った期間である事業年度に帰属する収益と当該事業年度に帰属する費用又は損失とを対応させ、その差額をもって法人税の課税標準である所得の金額とするものとし、当該事業年度の収益又は費用若しくは損失については、当該事業年度に係る確定した決算に基づき、当該決算に基づき上記のように計算した所得の金額及びこれにつき計算した法人税の額が記載された確定申告書の提出により当該事業年度の法人税の額が確定されるとしているものと解するのが相当である。このことは、企業会計原則においては、過去の利益計算に修正の必要が生じた場合に、過去の財務諸表を修正することなく、要修正額をいわゆる前期損益修正として当期の特別損益項目に計上する方法を用いることが定められていること等によっても裏付けられるところであり、このことについて、法人が特定の事業年度において金銭の貸付けの取引に係る利息又は遅延損害金の債務の弁済として金銭の支払を受けた場合に関し、異なって解釈すべき根拠は見当たらない。
(3)以上に述べたところを前提とすれば、本件更生手続において、前提事実に述べたように平成23年5月13日の経過により過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したことに伴い、本件各事業年度において益金の額に算入されていた制限超過利息につきその支払が利息等の債務の弁済として私法上は無効なものであったというべきことを前提とする取扱いをすることとなることが確定したとしても、それについては、本件各事業年度の後である平成22年4月1日から本件更生手続の開始の日である同年10月31日までの事業年度の確定した決算に係る損益計算書に「特別損失」中の「過年度超過利息等損失」として2兆2,469億5,120万円余が計上されていること等を踏まえ、当該確定の事由が生じた日の属する事業年度において処理されることとなり、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の計算に遡及的に影響を及ぼすものとはいえず、当該事由をもって、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえないというべきであり、他に上記の認定判断を覆すに足りる証拠ないし事情等は格別見当たらない。
(4)Xは、更生手続においては継続企業の公準が妥当する通常企業とは全く異なる会計処理が制度化されているから、過年度所得の是正が認められるべきである旨主張する。
しかしながら、法人税法には更生会社につき一定の事項につき特別な取扱いをすることを定める規定がある(同法33条3項、59条等参照)一方で、同法、会社更生法及びそれらの関係法令上、清算することが予定されている更生会社や法人税法57条又は80条1項の規定の適用を受ける要件を満たさない更生会社につきXの主張するような過年度所得の是正に関する取扱いをすることを許容する旨を定めた規定は見当たらず、このような各種の規定の下において、更生計画で更生会社を清算することとされた等の一事をもって、同法22条4項に定める公正処理基準に該当する前期損益修正の処理と異なる処理をすべきものとはいい難いというべきであり、このことについて、当該更生計画において更正の請求につき更正をすべき理由があるとされた場合の還付金の取扱い等に関して定められたところのいかんによって左右されるものと解すべき根拠も見当たらない。
(5)Xは、①売上の過大計上の誤りが後に発見された場合や粉飾等による利益の過大計上があった場合に、当該計上があった事業年度に遡及して売上を減額する是正がされていること、②清算型又は再建型の倒産手続において実在性のない資産が把握され、かつ、その発生原因等が明らかである場合には、当該発生原因の生じた事業年度の欠損金額とすることができる旨の質疑応答事例があるところ、本件更生会社の約定貸付金は、制限超過利息が有効であることを前提としたものであり、上記の「実在性のない資産」に当たること、③土地譲渡益重課税制度が適用された土地等の譲渡について、その後の事業年度において契約が解除された場合には、遡及して課税を訂正することになっていること、④破産手続が開始した法人の破産管財人がした更正の請求について過年度所得の是正を肯定する裁決例もあること等に照らせば、法人税法上の課税調整による救済の余地が全くない本件更生会社については、過年度所得の是正は当然に肯定されるべきである旨主張する。
しかしながら、本件更生会社は、金銭の貸付けの取引に係る利息等の債務の弁済として本件各事業年度において現にされた制限超過利息を含む約定利息の支払を受けてこれに係る収益の額を益金の額に算入してきたというのであって、Xが指摘する上記①又は②の事例と本件とは事案を異にするものである。上記③の土地譲渡益重課税制度及び措置法通達については、同制度が、法人税法の課税の対象となる土地等の譲渡は当該法人においてそれが継続的にされるとは限らないため、当該課税の対象となった譲渡に係る契約が後の事業年度において解除されたときには、本来の計算に係る法人税の額とは別にその税額を計算して課する当該課税の性質上、遡及して計算しない限りその課税関係を是正することができないことから、そのようなときについては当該譲渡がされた事業年度の当該譲渡に係る譲渡利益金額に対する当該税額に限って通則法23条2項の規定による更正の請求をすることができると解釈する旨を明らかにしたものと認められるのであり、やはり本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。上記④の裁決例については、やはり本件とは事案を異にするものというべきである。
(6)前記に述べたところからすると、本件更生会社が納付した本件各事業年度の各法人税額について、本件全証拠によっても、Xが主張するように「法律上の原因」のないこと(民法703条)に該当する事由が存在するとは認め難いものというべきである。Xが指摘する最高裁昭和49年判決は、本件とは事案を異にする。
四、控訴審判決要旨
控訴棄却(請求棄却)。 (1)当裁判所も、Xの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、後記に当裁判所の補足的判断を加えるほかは、原判決の理由のとおりであるから、これを引用する。
(2)T更生会社は、本件更生手続において、会社分割によってその主たる事業である消費者金融事業をスポンサー企業に譲渡し、T更生会社自体は継続的に所得を計上する法人とはせずに清算業務を行い、解散することとしたものであり、その結果、前期損益修正による税務処理によって課税関係の調整を受ける余地がなくなったが、これは、T更生会社が上記のような更生計画を立てたことによる結果であるから、そのことをもって、T更生会社について、更生会社一般において特段の手当がされていない前期損益修正の処理と異なる処理を行うべき理由は見出し難いし、T更生会社により納付された法人税を国が保持し続けることが著しく公平に反し、不当利得としてその返還請求を認めるべきということはできない。
五、解説
はじめに かつて、「サラ金の雄」と称された武富士の経営者一族に課された巨額な贈与税決定処分(納付すべき税額1,157億円余)について、最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決(裁時1526号2頁)(注1)が、当該処分を全額取り消したことにより、武富士事件も一件落着したところでもあった。しかし、サラ金業界においては、本件で問題となった最高裁平成18年判決によって、巨額な過払金返還問題が生じることとなって、激震が走った。
武富士もその煽りを食って、本件で問題となっているように、更生会社となる憂き目を見ることになったが、かかる更生会社における過年度の所得に係る過払金返還金について、後発的事由に基づく更正の請求(通法23②)によって、当該過年度の所得金額から控除し得るか否かが、本件で問題となった。
このような問題は、課税関係において国に不当利得が生じた場合に、その返還手続として定められている更正の請求によって救済(還付)されるか否かにかかっているが、当該更正の請求制度に係る関係法令の解釈に問題があるが故に、容易に解決し難いものを抱えている。
よって、本稿においては、本件に即して、更正の請求制度の本旨とそれを定めている通則法と法人税法との関係を考案した上で、本件各判決の是非を検討することとする。
1 不当利得の返還と更正の請求 (1)申告納税制度の下では、納税者が税額等を過大に申告・納付したり、申告段階では適法であった税額等がその後の事由(貸倒れ等)によって結果的に過大となることがあるが、それらの過大納付等は、国に不当利得を生じさせることになる。
このような不当利得の返還に関し、先に引用した最高裁昭和49年判決(注2)は、所得税の雑所得として課税された利息損害金債権が後日貸倒れにより回収不能となった場合の不当利得の返還に関し、次のように判示している。
「課税庁自身による前記の是正手続(編注=減額更正)が講ぜられない限り納税者が先の課税処分に基づく租税の収納を甘受しなければならないとすることは、著しく不当であって、正義公平の原則にもとるものというべきである。それゆえ、このような場合には、課税庁による是正措置がなくても、課税庁又は国は、納税者に対し、その貸倒れにかかる金額の限度においてもはや当該課税処分の効力を主張することができないものとなり、したがって右課税処分に基づいて租税を徴収しえないことはもちろん、既に徴収したものは、法律上の原因を欠く利得としてこれを納税者に返還すべきものと解するのが相当である。」
このような最高裁判決は、貸金業に係る所得税の課税について課税段階で適法であったとしてもその後の当該貸金の貸倒れによって結果的に過大納付が生じ、当該過大納付額に係る不当利得の返還を要することを明確にしたものである。もっとも、このような不当利得の返還は、無制限に行われるわけではなく、更正の請求制度の枠の範囲において行われるべきとするのが判例の考え方(注3)である。そして、そのような制限が必要なことは、納税者の権利救済と租税法律関係の早期安定(租税収入の確保の要請)とのバランスを図るためであると解されている(注4)。
(2)ところで、更正の請求制度は、前述のように、申告納税制度において必然的に生じる納税者の過大納付とそれに伴う国の不当利得の返還手続として、申告納税制度と同時に導入され、かつ、納税者の権利救済を重視するために、その拡充が図られてきた(注5)。
すなわち、我が国が申告納税制度を導入したのは、昭和21年であるが、同時に更正の請求制度も導入された。そして、更正の請求の期限は、導入当時は法定申告期限から1月以内であったが、昭和41年には、2月以内に延長され、昭和45年に1年以内に延長され、更に、平成23年には、税務署長の更正決定の期間制限に合わせて5年以内に大幅に延長されることになった。
また、更正の請求の事由についても、昭和45年には、本件で問題になっている後発的事由に基づく更正の請求が通則法で認められることとなり、平成18年には、国税庁の通達に基づく課税処分が判決等によって否定された場合にはそれを事由とする更正の請求が認められることとなり、平成23年には、納税者にとって有利となる各種控除等の適用について確定(当初)申告要件等が廃止されることとなった。
更に、更正の請求の関係条項の解釈についても、納税者の権利救済を重視した判決(注6)も相次いでいる。
以上の不当利得と更正の請求制度との関係、更正の請求制度における納税者の権利救済の拡充、裁判所における関係条項の解釈傾向を考慮した場合には、本件において、更正の請求の容認を主位的に主張し、不当利得の返還を予備的に主張することには、無理があるように考えられる。けだし、更正の請求が否定されたら、その前提になっている不当利得の返還に戻る可能性はないのであるから、不当利得の法理を強調した上で、前述の更正の請求をめぐる納税者の権利救済重視の傾向を踏まえて、本件の更正の請求の正当性を強調すべきであったと考えられる。
2 更正の請求の事由(1項と2項の関係) (1)通則法23条1項は、「納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年(〈略〉)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(〈略〉)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。」と定め、その1号に、「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(〈略〉)が過大であるとき。」と定めている。
また、通則法23条2項は、「納税申告書を提出した者又は第25条(〈略〉)の規定による決定(〈略〉)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(〈略〉)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(〈略〉)をすることができる。」と定め、その1号に、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。 その確定した日の翌日から起算して2月以内」と定めている。
(2)これらの規定を本件の事実関係に照らして考察すると、次のことが指摘できる。T更生会社は、本件各事業年度中の平成19年3月期までは、法人税の所得金額の計算上、制限超過利息を含む約定利息を収益の額(益金の額)に算入して法人税を申告していたのであるが、そのこと自体は当時の法人税法上の解釈上適法であったのであるから、当該申告が違法であったとして、通則法23条1項に基づく更正の請求はできない。
しかし、T更生会社は、本件更生手続の一般調査期間末日(平成23年5月13日)の経過によって、総額1兆3,800億円の過払金返還請求権に係る更生債権(以下「本件更生債権」という。)が確定したため、当該確定を事由にして、通則法23条2項1号に基づく本件各更正の請求をしたものである。この場合、通則法の前記各条項の解釈上、次のことが問題となる。
一つは、本件更生債権の確定が通則法23条2項1号にいう「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)」に該当するか否かであり、二つは、当該確定によって、通則法23条1項1号による更正の請求ができるか否かである。前者については、本訴において全く検討されていないのである(そのことは、本件各判決とも、当該確定を「判決」に該当するものと判断したものと解される。)が、従前の裁判例においては多くの論争がある。しかし、本件では、当該「判決」の該当の有無が当事者間で争われているのではないので、当該論争の内容は別稿(注7)に譲ることとするが、本件更生債権の確定が通則法23条2項1号にいう「判決」に該当することを本件各判決が容認していることには、注目して置く必要がある。
後者の問題については、本件更生債権の確定が、通則法23条2項1号にいう「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎としたところと異なることが確定した」ことに該当するか否かであるが、その該非については、後述するように、法人税における所得金額計算の特質に関係する。
3 法人税法上の期間損益修正と更正の請求 (1)所得税及び法人税については、課税標準となる所得金額は、年又は事業年度を基礎として期間的に計算される。この場合、過年又は過年度の所得金額についての修正損が生じた時に、当該損失を当該過年又は過年度に遡及して修正すべきか(すなわち、更正の請求を認めるべきか)、当該修正損が生じた時の年又は事業年度の必要経費又は損金の額とすべきか、が問題となる。
この点について、所得税法は、事業所得等を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた貸倒損失、販売商品の返戻・値引による損失、違法所得等に係る経済的成果の喪失損等は当該損失が生じた年分の必要経費に算入することを原則とする(所法51②、所令141)が、廃業等によって当該必要経費算入時に対応する総収入金額等がなければ、当該総収入金額がある年分に遡及して控除することとし(所法63、64)、当該控除のための手続として更正の請求の特例(所法152)を設けている。
他方、法人税法は、法人税の課税標準の一つとして、「各事業年度の所得の金額」(法法21)を定め、当該は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」(法法22①)と定め、当該損金の額について、当該事業年度の収益に係る売上原価等及び当該事業年度の一般管理費等の費用と損失と定めている(法法22③)。次いで、法人税法22条4項は、「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と定めている。
以上のような所得税法と法人税法における所得金額の計算規定を対比すると、双方とも当該損失が生じた時の必要経費等として処理することを原則とするが、所得税法は、過年分の修正損失について更正の請求ができることを明記していることに対し、法人税法は、過年度分の修正損失についての更正の請求を明記していないので、通則法等の前記関係各項の解釈に委ねられることになる。
(2)この問題については、本件でも問題になっているように、本件通達が、「当該事業年度前の各事業年度(〈略〉)においてその収益の額を益金の額に算入した資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の取引について当該事業年度において契約の解除又は取消し、値引き、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する。」と定めている。
また、同じ国税庁の通達であっても、措置法通達は、土地の譲渡等がある場合の特別税率の適用につき、「譲渡利益金額につき特別税率が適用された土地等の譲渡について、その後の事業年度において契約が解除された場合(〈略〉)には、譲渡事業年度の当該譲渡に係る土地譲渡利益金額に対する税額について、通則法第23条第2項の規定による更正の請求ができる。」と定めている。
(3)前記本件通達の取扱いについては、国税庁の担当者は、「法人税における課税所得の計算は、いわゆる「継続企業の原則」に従い、当期において生じた収益と当期において生じた費用・損失とを対応させ、その差額概念として所得を測定するという建前になっている。」(注8)と説明している。このような考え方は、前記法人税法各規定の解釈として相応に理解できる。
しかしながら、この通達の論拠となる「継続企業の原則」が崩壊した場合に、本件のように結果的に課税すべきでなかったことから生じる国の不当利得をどう扱うべきかが問題となる(注9)。この問題については、前述した所得税法の規定では、特例として更正の請求を認めることによって解決している。また、法人税についても、前述の措置法通達において解決している。もっとも、そのことが、同じ法人税の取扱いの中で整合性を欠くことになる。この非整合性については、本訴で国も主張するように、継続企業としてではなく非継続的な課税であるからと言われるが、そうであれば、本件更生債権の確定のような継続企業における爾後の事業年度の収益に対応(控除)できない場合にも、前記措置法通達のような措置も必要となる。
ともあれ、本件通達の取扱いの是非をめぐる裁判例としては、横浜地裁昭和60年7月3日判決(行裁例集36巻7・8号1081頁)、東京高裁昭和61年11月11日判決(同37巻10・11号1334頁)及び最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決(税資159号65頁)(注10)がある。これらの判決は、収益事業(不動産販売業、出版業)を営む宗教法人が、販売した土地の売買代金の支払がないことを事由に当該売買契約を解除し、当該解除を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起してその旨の判決を得て、それに基づき国税通則法23条2項1号によって更正の請求をしたことにつき、当該判決が同号にいう「判決」に該当することを認めたものの、本訴における国との主張と同じ理由により、同条1項所定の実体的要件を欠くとして、当該更正の請求を否認している。
4 本件各更正の請求の可否 (1)本件においては、T更生会社が、最高裁平成18年判決によって巨額な過払金返還債務を抱え、平成22年10月に更生会社となり、平成23年5月13日の経過による本件更生債権の確定に基づいて、本件各更正の請求をしたというものである。この場合、本件更生債権の確定が国税通則法23条2項1号にいう「判決」に該当するか否かは、疑義のあるところであるが、本件各判決は、当該確定が当該判決に該当することを前提にして、同条1項1号の要件(実体的要件)を充足するか否かを審理している。
そして、一審判決は、前述のように、法人税法22条各項(特に、4項)等の規定が継続企業の原則(ゴーイング・コンサーン)に基づく所得金額の計算を前提にしているから、過年度の修正損は前期損益修正としてそれが生じた事業年度の特別損益項目として処理すべきとし、「このことについて、法人が特定の事業年度において金銭の貸付けの取引に係る利息又は遅延損害金の債務の弁済として金銭の支払を受けた場合に関し、異なって解釈すべき根拠は見当たらない。」と判示し、本件更生債権の確定等につき、「本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の計算に遡及的に影響を及ぼすものとはいえず、当該事由をもって、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえない。」と判示している。
次いで、一審判決は、更生会社において過年度損失の救済規定が不十分であることに関し、「法人税法には更生会社につき一定の事項につき特別な取扱いをすることを定める規定がある(同法33条3項、59条等参照)一方で、同法、会社更生法及びそれらの関係法令上、清算することが予定されている更生会社や法人税法57条又は80条1項の規定の適用を受ける要件を満たさない更生会社につきXの主張するような過年度所得の是正に関する取扱いをすることを許容する旨を定めた規定は見当たらず、このような各種の規定の下において、更生計画で更生会社を清算することとされた等の一事をもって、同法22条4項に定める公正処理基準に該当する前期損益修正の処理と異なる処理をすべきものとはいい難いというべきであり、このことについて、当該更生計画において更正の請求につき更正をすべき理由があるとされたとした場合の還付金の取扱い等に関して定められたところのいかんによって左右されるものと解すべき根拠も見当たらない。」と判示している。
更に、一審判決は、措置法通達との関係について、「課税の対象となる土地等の譲渡は当該法人においてそれが継続的にされるとは限らないため、当該課税の対象となった譲渡に係る契約が後の事業年度において解除されたときには、本来の計算に係る法人税の額とは別にその税額を計算して課する当該課税の性質上、遡及して計算しない限りその課税関係を是正することができないことから、租税特別措置法通達63(6)-5が、そのようなときについては当該譲渡がされた事業年度の当該譲渡に係る譲渡利益金額に対する当該税額に限って通則法23条2項の規定による更正の請求をすることができると解釈する旨を明らかにしたものと認められるものであり、やはり本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。」と判示している。
(2)以上の一審の判決の判示は、ほぼ国側の主張に沿ったものであるが、控訴審判決もそれを全面的に認容している。しかしながら、このような判示については、幾つかの問題点を指摘できる。
まず、一審判決は、企業会計上の一般原則であるゴーイング・コンサーンを前提として、法人税の所得金額の計算の原則を説くが、本件のように、ゴーイング・コンサーンの前提が崩壊した場合の対応について何ら説得的な判示をせず、また、企業会計原則等で前期損益修正項目がそれが生じた事業年度の特別損益項目として処理されていることを指摘するが、当該特別損益としての処理が、平成21年12月に制定された「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準委員会)において否定されていることについて何ら言及していない。
また、一審判決は、本件更生債権の確定につき、通則法23条1項1号にいう「法律の規定に従っていなかったこと」に該当しない旨を直接判示するが、本件各更正の請求は同法23条2項1号にいう「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の……当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」に該当する旨主張しているのであるから、当該主張に対応した判断が求められるはずである。
次いで、一審判決は、法人税法上、更生会社について本件のような更正の請求の制度は認められておらず、かつ、措置法通達の取扱いは土地譲渡について継続性が認められていないが故に、本件とは事案を異にする旨判示する。しかし、法人税法上、更生会社に対する更正の請求の特例が設けられていないが故に、通則法上の更正の請求に関する本則規定の適用が問題になるはずであるし、現に、国税庁も、法律上の明文の規定がなくても、いわゆる土地重課税について前述のような措置法通達を定めているところである。そして、同通達の趣旨である土地譲渡に継続性がないということは、本件のような更生会社の過年度損失についてもゴーイング・コンサーンの概念を適用できないことと共通しているはずである。
いずれにしても、本件においては、T更生会社は、本件各事業年度において制限超過利息に対する所得金額についても法人税額を納付しているところ、当該制限超過利息を返還せざるを得なくなったのであるから、当該法人税額相当額を納付する必要がなかったことになり、当該金額について国に不当利得が生じたものと考えられる。もちろん、T更生会社が、ゴーイング・コンサーンの下、当該返還額を返還が確定した事業年度の損金の額に算入して爾後の法人税額が控除し得ることであればその理も成り立つが、それが適わないのであるから、通則法の本則に照らして更正の請求を認めるべきであるとも考えられる(注11)。
5 本判決の意義と問題点 以上のように、本件は、大手消費者金融会社であったT更生会社が、最高裁平成18年判決の影響を受けて更生会社となり、本件更生債権の確定を事由として、本件各事業年度に収受した制限超過利息相当額に対応する法人税額の還付(減額更正)を求めて、更正の請求をしたことの是非が争われたものである。
法人税における後発的事由に基づく更正の請求については、既に述べたように、厳しく制限されているところであるが、本件のような更生会社に係る事案は初めてのことであるので、裁判所がどのような判断を下すか非常に注目されていた。しかし、本件各判決は、従前の国側の取扱いとその主張をほぼ認めたものであるため、従前指摘されてきた問題点について何らふれるところがなかった。その点では、説得力の欠く新鮮味のない判決ではある。
本件各判決の問題点については、既に、指摘したところであるが、最近の裁判例、例えば、東京地裁平成26年2月18日判決(平成24年(行ウ)第854号)(注12)及び東京高裁平成26年10月30日判決(平成26年(行コ)第99号)等では、実質的に国に不当利得が生じているにもかかわらず、関係条項を厳しくかつ形式的に適用して、後発的事由に基づく更正の請求を否認している。本件各判決も、その点では共通したところが見られる。ともあれ、更正の請求をめぐる裁判例では、関係条項を厳しく解するものと、弾力的に解するもの(注13)とに分かれているといえる。
(注1)この判決については、品川芳宣「重要租税判決の実務研究 第三版」(大蔵財務協会 平成26年)706頁等参照。
(注2)この判決の評釈については、芝池義一「租税判例百選 第2版」(別冊ジュリストNo.79)148頁等がある。
(注3)名古屋高裁昭和52年6月28日判決(訟務月報23巻7号1242頁)等参照。
(注4)盛岡地裁平成5年3月26日判決(税資194号1080頁)、東京地裁平成5年10月15日判決(同199号253頁)等参照。
(注5)更正の請求制度の沿革の詳細については、品川芳宣「国税通則法の実務研究 第6回」税理2014年3月号17頁、同「国税通則法の実務解説 第4回」租税研究2014年1月号117頁等参照。
(注6)東京地裁平成21年2月27日判決(判例タイムズ1355号123頁)、最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決(判例時報2056号46頁)等参照。
(注7)品川芳宣「国税通則法の実務研究 第7回」税理2014年4月号152頁等参照。
(注8)森文人「法人税基本通達逐条解説(第6版)」(税務研究会 平成23年)222頁。
(注9)品川芳宣「国税通則法の実務研究 第8回」税理2014年5月号104頁等参照。
(注10)品川芳宣「重要租税判決の実務研究 第3版」(大蔵財務協会 平成26年)606頁参照。
(注11)前出(注9)107頁等参照。
(注12)同判決の評釈については、品川芳宣・本誌2014年5月26日号14頁等参照。
(注13)前出(注6)の各判決参照。
更生会社の過年度損失に係る更正の請求の可否
東京地裁平成25年10月30日判決(平成24年(行ウ)第212号)
東京高裁平成26年4月23日判決(平成25年(行コ)第399号)
筑波大学名誉教授・弁護士 品川芳宣
一、事実
(1)T更生会社は、消費者金融業等を目的とする株式会社であったが、平成22年10月31日に更生手続開始の決定を受けた後、平成24年3月1日に吸収分割をすることにより消費者金融業に関して有する権利義務を他の株式会社に承継させた。X(原告、控訴人)は、T更生会社の管財人に選任された。
T更生会社は、更生手続開始申立てをするまでの間、顧客との金銭消費賃借契約を締結し、利息制限法1条に規定する利率(以下「制限利率」という。)を超える部分を含む利息及び遅延損害金(以下「約定利息」といい、制限利率を超える部分を「制限超過利息」という。)の支払を受け、当該支払に係る収益の額を益金の額に算入し、平成10年3月期分ないし同16年3月期分の法人税の確定申告をしていた。
ところが、最高裁平成18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁(以下「最高裁平成18年判決」という。)が、平成18年改正前の貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定の適用を厳格に解する判断を示したため、T更生会社を含む貸金業者に対する過払金返還請求権の行使が急増し、T更生会社は、資金繰りが悪化し、平成22年9月28日、東京地方裁判所に対し、更生手続開始を申し立てた。
T更生会社は、平成22年4月1日から本件更生手続開始の日(同年10月31日)までの事業年度において、過年度制限超過利息等損失2兆2,469億円余、制限超過利息等損失1,761億円余等を含む約2兆8,000億円を特別損失として計上した。
(2)本件更生手続においては、制限利率に基づくいわゆる引直し計算により過払金返還請求権に係る債権を取得した顧客のうち約91万人が更生債権の届出をし、更生債権についての一般調査期間(平成23年5月2日から同月13日まで)の末日の経過により、総額約1兆3,800億円の過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定した。
東京地方裁判所は、同年10月31日、更生計画を認可する旨の決定をした(以下「本件更生計画」という。)。本件更生計画においては、①第1回弁済として、元本等更生債権の3.3%に相当する金額を更生計画を認可する旨の決定がされた日から1年を経過する日の属する日の末日までに支払い、②全ての更生債権等の額が確定するとともに、T更生会社が保有する全資産の換価・回収が完了し、弁済原資を確保することができた場合には、第2回弁済をし、当該弁済時に更生債権等の残額について免除を受け、③T更生会社は、本件更生計画を認可する旨の決定がされた後、Xが裁判所の許可を得て決定する日に解散する旨等が定められていた。
Xは、前記過払金返還請求権に係る債権(約1兆3,800億円)が更生債権として確定したことを前提に、国税通則法(以下「通則法」という。)23条2項1号に基づき、平成23年7月12日、平成10年3月期ないし同22年3月期(以下「本件各事業年度」という。)分法人税につき、総額2,374億6,470万円余の還付をするよう更正をすべき旨の請求(以下「本件各更正の請求」というう。)をした。これに対し、処分行政庁は、同年11月28日、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件各通知処分」という。)
をした。Xは、前審手続を経て、国(被告、被控訴人)に対し、本件各通知処分の取消しを求める本訴を提起した。
二、争点及び当事者の主張
1 争 点 (1)本件各更正の請求が通則法23条所定の要件を満たすか否か
(2)不当利息返還請求権の有無
2 Xの主張 (1)T更生会社は、本件更生計画において、更生計画の認可の決定がされた後のXが裁判所の許可を得て決定する日に解散するものとされたため、通常の企業とは異なり、継続企業の公準が妥当せず、また、本件更生手続の過程で発生する多額の欠損金について、欠損金の繰戻しや繰越しという継続企業に認められている課税調整により救済を受ける余地がないから、本件において、T更生会社の過年度所得の是正が否定された場合、制限超過利息を原資として支払われた法人税を国が永久に保持することになるところ、このような結論は、無効な制限超過利息について、本来返還されるべき過払債権者の犠牲の下に国が不当な利得を永久に保持することを認めるものであり、正義衡平の観念に著しく反する。
(2)T更生会社は、本件各事業年度において、収受した制限超過利息を有効なものとして益金の額に算入して課税所得の計算を行い、当該課税所得に基づき法人税を納税してきたところ、一般調査期間の満了日である平成23年5月13日の経過をもって、管財人が認否書において認めた更生債権である過払金返還請求権に係る債権の存在及び金額が、確定判決と同一の効力をもって確定したのであり、これによって、T更生会社が本件各事業年度に顧客から収受してきた無効な制限超過利息が当該顧客に対する貸金の元本に充当され、当該貸金の元本が消滅した後には顧客に返還すべき過払金となることが確定したから、通則法23条2項1号に該当することは明らかである。
(3)企業会計における前期損益修正は、一度確定した過年度の損益を遡及して修正することが困難なこと等から便宜的に採用された方法である。法人税基本通達2-2-16(以下「本件通達」という。)に示されているように、税務上も、企業は継続的に活動するという前提(継続企業の公準)に立った上で、当期の益金や損金と相殺することによって過去の年度の所得を是正するのと基本的に同じ効果が生じるという点に着目し、会計上の便宜的な処理(前期損益修正)を税務計画の場面において変更するまでもないとされてきたにすぎない。
(4)また、国税庁は、土地譲渡益重課税制度が適用された土地等の譲渡について、その後の事業年度において契約が解除された場合には、遡及して課税を訂正する是正がされる通達(租税特別措置法関係通達(法人税法編)63(6)-5(以下「措置法通達」という。))を定めている。
(5)企業会計原則において前期損益修正の処理が規定されているが、企業会計原則自体当然に企業会計上の法的拘束力を有する規範ではないし、会計上前期損益修正が行われる場合であっても、税務上も一律に当期の損益として取り扱わなければならない必然性はない。
(6)仮に、本件各更正の請求が否定されることとなれば、国は、本件各事業年度の還付金額の合計2,374億6,470万円余を所得課税の本質に反して、すなわち「法律上の原因」なく違法に保有し続けることになるから、民法703条に基づき、原告に返還する義務を負うというべきである。その理は、所得税の貸倒れに係る最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁(以下「最高裁昭和49年判決」という。)によって明らかにされている。
3 国の主張 (1)後発的事由に基づく更正の請求が認められるためには、通則法23条1項各号に定める事由に該当することが必要である。同項各号に掲げる申告に係る税額が過大等であることの理由となる課税標準等の額又は税額等の額の計算については、専ら法人税法等の各租税実体法が定めており、法人税法における課税所得等の計算の仕組みについてみると、継続的な企業として永続的な存在である法人の経済的活動を区切り、一定の期間を単位としている。よって、仮に同条2項各号に定める後発的事由が発生したとしても、それが同条1項に定める課税標準等又は税額等の額に変動を来さないのであれば、更正の請求は認められない。
(2)法人の場合には、企業会計上、継続企業の公準に従い、当期において生じた収益と、当期において生じた費用及び損失とを対応させて損益計算をしていることから、既往の事業年度に収益計上した売上高等について当期において契約の解除等がなされた場合には、その解除等がなされた部分に対応する金額について、当該売上高を収益計上した事業年度に遡及して修正するのではなく、解除等がなされた当期の事業年度の益金を減少させる損失として取り扱われることになる。
(3)措置法通達は、土地譲渡益重課税制度が個々の譲渡取引に対して非継続的な課税を行う制度であるところ、継続的に事業活動を行う場合の各事業年度の課税所得の計算とは異なることを定めたものである。
(4)通則法が更正の請求の手続を設けた趣旨に鑑みると、申告に係る税額が当初から過大であった場合にも、また、後発的事由により申告に係る税額が過大であることになった場合にも、その過大部分の修正は、原則として更正の請求によらなければならず、他の救済手続によることは許されないと解すべきであり、本件更正の請求について例外を認めなければならないような事情はない。
三、一審判決要旨
請求棄却。 (1)通則法23条2項に基づく更正の請求をする場合においても、その理由については、同条1項各号に掲げるもののいずれかに該当することが必要であるところ、同項1号は、①納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は②当該計算に誤りがあったことにより当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを掲げている。そして、上記①については、通則法が「国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め」たものであり、課税の実体的要件(課税標準、税率等)は法人税法等の各租税実体法が定めていることに照らし、本件においても、T更生会社の本件各事業年度の法人税に係る課税標準等若しくは税額等の計算が法人税法の規定に従っていなかったか否か等が問題となる。
(2)法人税法22条2項及び3項の収益の額及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って計算されるものとする旨を定めている(同条4項)。また、同項は、同法における所得の金額の計算に係る規定及び制度を簡素なものとすることを旨として設けられた規定であると解されるところ、「企業会計の基準」等の文言を用いず「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と規定していることにも照らすと、現に法人のした収益等の額の計算が、法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限りにおいては、法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)、法人が収益等の額の計算に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に該当するといえるか否かについては、上記に述べたところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものと解するのが相当である。
また、このような法人税法の定め等を前提とすると、同法は、法人が存続し成長することを目指して経営されるものであることに照らし、人為的に期間を区切って会計の計算をする必要があることを前提(いわゆる継続企業の前提)とした上、このようにして区切った期間である事業年度に帰属する収益と当該事業年度に帰属する費用又は損失とを対応させ、その差額をもって法人税の課税標準である所得の金額とするものとし、当該事業年度の収益又は費用若しくは損失については、当該事業年度に係る確定した決算に基づき、当該決算に基づき上記のように計算した所得の金額及びこれにつき計算した法人税の額が記載された確定申告書の提出により当該事業年度の法人税の額が確定されるとしているものと解するのが相当である。このことは、企業会計原則においては、過去の利益計算に修正の必要が生じた場合に、過去の財務諸表を修正することなく、要修正額をいわゆる前期損益修正として当期の特別損益項目に計上する方法を用いることが定められていること等によっても裏付けられるところであり、このことについて、法人が特定の事業年度において金銭の貸付けの取引に係る利息又は遅延損害金の債務の弁済として金銭の支払を受けた場合に関し、異なって解釈すべき根拠は見当たらない。
(3)以上に述べたところを前提とすれば、本件更生手続において、前提事実に述べたように平成23年5月13日の経過により過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したことに伴い、本件各事業年度において益金の額に算入されていた制限超過利息につきその支払が利息等の債務の弁済として私法上は無効なものであったというべきことを前提とする取扱いをすることとなることが確定したとしても、それについては、本件各事業年度の後である平成22年4月1日から本件更生手続の開始の日である同年10月31日までの事業年度の確定した決算に係る損益計算書に「特別損失」中の「過年度超過利息等損失」として2兆2,469億5,120万円余が計上されていること等を踏まえ、当該確定の事由が生じた日の属する事業年度において処理されることとなり、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の計算に遡及的に影響を及ぼすものとはいえず、当該事由をもって、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえないというべきであり、他に上記の認定判断を覆すに足りる証拠ないし事情等は格別見当たらない。
(4)Xは、更生手続においては継続企業の公準が妥当する通常企業とは全く異なる会計処理が制度化されているから、過年度所得の是正が認められるべきである旨主張する。
しかしながら、法人税法には更生会社につき一定の事項につき特別な取扱いをすることを定める規定がある(同法33条3項、59条等参照)一方で、同法、会社更生法及びそれらの関係法令上、清算することが予定されている更生会社や法人税法57条又は80条1項の規定の適用を受ける要件を満たさない更生会社につきXの主張するような過年度所得の是正に関する取扱いをすることを許容する旨を定めた規定は見当たらず、このような各種の規定の下において、更生計画で更生会社を清算することとされた等の一事をもって、同法22条4項に定める公正処理基準に該当する前期損益修正の処理と異なる処理をすべきものとはいい難いというべきであり、このことについて、当該更生計画において更正の請求につき更正をすべき理由があるとされた場合の還付金の取扱い等に関して定められたところのいかんによって左右されるものと解すべき根拠も見当たらない。
(5)Xは、①売上の過大計上の誤りが後に発見された場合や粉飾等による利益の過大計上があった場合に、当該計上があった事業年度に遡及して売上を減額する是正がされていること、②清算型又は再建型の倒産手続において実在性のない資産が把握され、かつ、その発生原因等が明らかである場合には、当該発生原因の生じた事業年度の欠損金額とすることができる旨の質疑応答事例があるところ、本件更生会社の約定貸付金は、制限超過利息が有効であることを前提としたものであり、上記の「実在性のない資産」に当たること、③土地譲渡益重課税制度が適用された土地等の譲渡について、その後の事業年度において契約が解除された場合には、遡及して課税を訂正することになっていること、④破産手続が開始した法人の破産管財人がした更正の請求について過年度所得の是正を肯定する裁決例もあること等に照らせば、法人税法上の課税調整による救済の余地が全くない本件更生会社については、過年度所得の是正は当然に肯定されるべきである旨主張する。
しかしながら、本件更生会社は、金銭の貸付けの取引に係る利息等の債務の弁済として本件各事業年度において現にされた制限超過利息を含む約定利息の支払を受けてこれに係る収益の額を益金の額に算入してきたというのであって、Xが指摘する上記①又は②の事例と本件とは事案を異にするものである。上記③の土地譲渡益重課税制度及び措置法通達については、同制度が、法人税法の課税の対象となる土地等の譲渡は当該法人においてそれが継続的にされるとは限らないため、当該課税の対象となった譲渡に係る契約が後の事業年度において解除されたときには、本来の計算に係る法人税の額とは別にその税額を計算して課する当該課税の性質上、遡及して計算しない限りその課税関係を是正することができないことから、そのようなときについては当該譲渡がされた事業年度の当該譲渡に係る譲渡利益金額に対する当該税額に限って通則法23条2項の規定による更正の請求をすることができると解釈する旨を明らかにしたものと認められるのであり、やはり本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。上記④の裁決例については、やはり本件とは事案を異にするものというべきである。
(6)前記に述べたところからすると、本件更生会社が納付した本件各事業年度の各法人税額について、本件全証拠によっても、Xが主張するように「法律上の原因」のないこと(民法703条)に該当する事由が存在するとは認め難いものというべきである。Xが指摘する最高裁昭和49年判決は、本件とは事案を異にする。
四、控訴審判決要旨
控訴棄却(請求棄却)。 (1)当裁判所も、Xの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、後記に当裁判所の補足的判断を加えるほかは、原判決の理由のとおりであるから、これを引用する。
(2)T更生会社は、本件更生手続において、会社分割によってその主たる事業である消費者金融事業をスポンサー企業に譲渡し、T更生会社自体は継続的に所得を計上する法人とはせずに清算業務を行い、解散することとしたものであり、その結果、前期損益修正による税務処理によって課税関係の調整を受ける余地がなくなったが、これは、T更生会社が上記のような更生計画を立てたことによる結果であるから、そのことをもって、T更生会社について、更生会社一般において特段の手当がされていない前期損益修正の処理と異なる処理を行うべき理由は見出し難いし、T更生会社により納付された法人税を国が保持し続けることが著しく公平に反し、不当利得としてその返還請求を認めるべきということはできない。
五、解説
はじめに かつて、「サラ金の雄」と称された武富士の経営者一族に課された巨額な贈与税決定処分(納付すべき税額1,157億円余)について、最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決(裁時1526号2頁)(注1)が、当該処分を全額取り消したことにより、武富士事件も一件落着したところでもあった。しかし、サラ金業界においては、本件で問題となった最高裁平成18年判決によって、巨額な過払金返還問題が生じることとなって、激震が走った。
武富士もその煽りを食って、本件で問題となっているように、更生会社となる憂き目を見ることになったが、かかる更生会社における過年度の所得に係る過払金返還金について、後発的事由に基づく更正の請求(通法23②)によって、当該過年度の所得金額から控除し得るか否かが、本件で問題となった。
このような問題は、課税関係において国に不当利得が生じた場合に、その返還手続として定められている更正の請求によって救済(還付)されるか否かにかかっているが、当該更正の請求制度に係る関係法令の解釈に問題があるが故に、容易に解決し難いものを抱えている。
よって、本稿においては、本件に即して、更正の請求制度の本旨とそれを定めている通則法と法人税法との関係を考案した上で、本件各判決の是非を検討することとする。
1 不当利得の返還と更正の請求 (1)申告納税制度の下では、納税者が税額等を過大に申告・納付したり、申告段階では適法であった税額等がその後の事由(貸倒れ等)によって結果的に過大となることがあるが、それらの過大納付等は、国に不当利得を生じさせることになる。
このような不当利得の返還に関し、先に引用した最高裁昭和49年判決(注2)は、所得税の雑所得として課税された利息損害金債権が後日貸倒れにより回収不能となった場合の不当利得の返還に関し、次のように判示している。
「課税庁自身による前記の是正手続(編注=減額更正)が講ぜられない限り納税者が先の課税処分に基づく租税の収納を甘受しなければならないとすることは、著しく不当であって、正義公平の原則にもとるものというべきである。それゆえ、このような場合には、課税庁による是正措置がなくても、課税庁又は国は、納税者に対し、その貸倒れにかかる金額の限度においてもはや当該課税処分の効力を主張することができないものとなり、したがって右課税処分に基づいて租税を徴収しえないことはもちろん、既に徴収したものは、法律上の原因を欠く利得としてこれを納税者に返還すべきものと解するのが相当である。」
このような最高裁判決は、貸金業に係る所得税の課税について課税段階で適法であったとしてもその後の当該貸金の貸倒れによって結果的に過大納付が生じ、当該過大納付額に係る不当利得の返還を要することを明確にしたものである。もっとも、このような不当利得の返還は、無制限に行われるわけではなく、更正の請求制度の枠の範囲において行われるべきとするのが判例の考え方(注3)である。そして、そのような制限が必要なことは、納税者の権利救済と租税法律関係の早期安定(租税収入の確保の要請)とのバランスを図るためであると解されている(注4)。
(2)ところで、更正の請求制度は、前述のように、申告納税制度において必然的に生じる納税者の過大納付とそれに伴う国の不当利得の返還手続として、申告納税制度と同時に導入され、かつ、納税者の権利救済を重視するために、その拡充が図られてきた(注5)。
すなわち、我が国が申告納税制度を導入したのは、昭和21年であるが、同時に更正の請求制度も導入された。そして、更正の請求の期限は、導入当時は法定申告期限から1月以内であったが、昭和41年には、2月以内に延長され、昭和45年に1年以内に延長され、更に、平成23年には、税務署長の更正決定の期間制限に合わせて5年以内に大幅に延長されることになった。
また、更正の請求の事由についても、昭和45年には、本件で問題になっている後発的事由に基づく更正の請求が通則法で認められることとなり、平成18年には、国税庁の通達に基づく課税処分が判決等によって否定された場合にはそれを事由とする更正の請求が認められることとなり、平成23年には、納税者にとって有利となる各種控除等の適用について確定(当初)申告要件等が廃止されることとなった。
更に、更正の請求の関係条項の解釈についても、納税者の権利救済を重視した判決(注6)も相次いでいる。
以上の不当利得と更正の請求制度との関係、更正の請求制度における納税者の権利救済の拡充、裁判所における関係条項の解釈傾向を考慮した場合には、本件において、更正の請求の容認を主位的に主張し、不当利得の返還を予備的に主張することには、無理があるように考えられる。けだし、更正の請求が否定されたら、その前提になっている不当利得の返還に戻る可能性はないのであるから、不当利得の法理を強調した上で、前述の更正の請求をめぐる納税者の権利救済重視の傾向を踏まえて、本件の更正の請求の正当性を強調すべきであったと考えられる。
2 更正の請求の事由(1項と2項の関係) (1)通則法23条1項は、「納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年(〈略〉)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(〈略〉)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。」と定め、その1号に、「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(〈略〉)が過大であるとき。」と定めている。
また、通則法23条2項は、「納税申告書を提出した者又は第25条(〈略〉)の規定による決定(〈略〉)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(〈略〉)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(〈略〉)をすることができる。」と定め、その1号に、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。 その確定した日の翌日から起算して2月以内」と定めている。
(2)これらの規定を本件の事実関係に照らして考察すると、次のことが指摘できる。T更生会社は、本件各事業年度中の平成19年3月期までは、法人税の所得金額の計算上、制限超過利息を含む約定利息を収益の額(益金の額)に算入して法人税を申告していたのであるが、そのこと自体は当時の法人税法上の解釈上適法であったのであるから、当該申告が違法であったとして、通則法23条1項に基づく更正の請求はできない。
しかし、T更生会社は、本件更生手続の一般調査期間末日(平成23年5月13日)の経過によって、総額1兆3,800億円の過払金返還請求権に係る更生債権(以下「本件更生債権」という。)が確定したため、当該確定を事由にして、通則法23条2項1号に基づく本件各更正の請求をしたものである。この場合、通則法の前記各条項の解釈上、次のことが問題となる。
一つは、本件更生債権の確定が通則法23条2項1号にいう「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)」に該当するか否かであり、二つは、当該確定によって、通則法23条1項1号による更正の請求ができるか否かである。前者については、本訴において全く検討されていないのである(そのことは、本件各判決とも、当該確定を「判決」に該当するものと判断したものと解される。)が、従前の裁判例においては多くの論争がある。しかし、本件では、当該「判決」の該当の有無が当事者間で争われているのではないので、当該論争の内容は別稿(注7)に譲ることとするが、本件更生債権の確定が通則法23条2項1号にいう「判決」に該当することを本件各判決が容認していることには、注目して置く必要がある。
後者の問題については、本件更生債権の確定が、通則法23条2項1号にいう「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎としたところと異なることが確定した」ことに該当するか否かであるが、その該非については、後述するように、法人税における所得金額計算の特質に関係する。
3 法人税法上の期間損益修正と更正の請求 (1)所得税及び法人税については、課税標準となる所得金額は、年又は事業年度を基礎として期間的に計算される。この場合、過年又は過年度の所得金額についての修正損が生じた時に、当該損失を当該過年又は過年度に遡及して修正すべきか(すなわち、更正の請求を認めるべきか)、当該修正損が生じた時の年又は事業年度の必要経費又は損金の額とすべきか、が問題となる。
この点について、所得税法は、事業所得等を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた貸倒損失、販売商品の返戻・値引による損失、違法所得等に係る経済的成果の喪失損等は当該損失が生じた年分の必要経費に算入することを原則とする(所法51②、所令141)が、廃業等によって当該必要経費算入時に対応する総収入金額等がなければ、当該総収入金額がある年分に遡及して控除することとし(所法63、64)、当該控除のための手続として更正の請求の特例(所法152)を設けている。
他方、法人税法は、法人税の課税標準の一つとして、「各事業年度の所得の金額」(法法21)を定め、当該は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」(法法22①)と定め、当該損金の額について、当該事業年度の収益に係る売上原価等及び当該事業年度の一般管理費等の費用と損失と定めている(法法22③)。次いで、法人税法22条4項は、「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と定めている。
以上のような所得税法と法人税法における所得金額の計算規定を対比すると、双方とも当該損失が生じた時の必要経費等として処理することを原則とするが、所得税法は、過年分の修正損失について更正の請求ができることを明記していることに対し、法人税法は、過年度分の修正損失についての更正の請求を明記していないので、通則法等の前記関係各項の解釈に委ねられることになる。
(2)この問題については、本件でも問題になっているように、本件通達が、「当該事業年度前の各事業年度(〈略〉)においてその収益の額を益金の額に算入した資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の取引について当該事業年度において契約の解除又は取消し、値引き、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する。」と定めている。
また、同じ国税庁の通達であっても、措置法通達は、土地の譲渡等がある場合の特別税率の適用につき、「譲渡利益金額につき特別税率が適用された土地等の譲渡について、その後の事業年度において契約が解除された場合(〈略〉)には、譲渡事業年度の当該譲渡に係る土地譲渡利益金額に対する税額について、通則法第23条第2項の規定による更正の請求ができる。」と定めている。
(3)前記本件通達の取扱いについては、国税庁の担当者は、「法人税における課税所得の計算は、いわゆる「継続企業の原則」に従い、当期において生じた収益と当期において生じた費用・損失とを対応させ、その差額概念として所得を測定するという建前になっている。」(注8)と説明している。このような考え方は、前記法人税法各規定の解釈として相応に理解できる。
しかしながら、この通達の論拠となる「継続企業の原則」が崩壊した場合に、本件のように結果的に課税すべきでなかったことから生じる国の不当利得をどう扱うべきかが問題となる(注9)。この問題については、前述した所得税法の規定では、特例として更正の請求を認めることによって解決している。また、法人税についても、前述の措置法通達において解決している。もっとも、そのことが、同じ法人税の取扱いの中で整合性を欠くことになる。この非整合性については、本訴で国も主張するように、継続企業としてではなく非継続的な課税であるからと言われるが、そうであれば、本件更生債権の確定のような継続企業における爾後の事業年度の収益に対応(控除)できない場合にも、前記措置法通達のような措置も必要となる。
ともあれ、本件通達の取扱いの是非をめぐる裁判例としては、横浜地裁昭和60年7月3日判決(行裁例集36巻7・8号1081頁)、東京高裁昭和61年11月11日判決(同37巻10・11号1334頁)及び最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決(税資159号65頁)(注10)がある。これらの判決は、収益事業(不動産販売業、出版業)を営む宗教法人が、販売した土地の売買代金の支払がないことを事由に当該売買契約を解除し、当該解除を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起してその旨の判決を得て、それに基づき国税通則法23条2項1号によって更正の請求をしたことにつき、当該判決が同号にいう「判決」に該当することを認めたものの、本訴における国との主張と同じ理由により、同条1項所定の実体的要件を欠くとして、当該更正の請求を否認している。
4 本件各更正の請求の可否 (1)本件においては、T更生会社が、最高裁平成18年判決によって巨額な過払金返還債務を抱え、平成22年10月に更生会社となり、平成23年5月13日の経過による本件更生債権の確定に基づいて、本件各更正の請求をしたというものである。この場合、本件更生債権の確定が国税通則法23条2項1号にいう「判決」に該当するか否かは、疑義のあるところであるが、本件各判決は、当該確定が当該判決に該当することを前提にして、同条1項1号の要件(実体的要件)を充足するか否かを審理している。
そして、一審判決は、前述のように、法人税法22条各項(特に、4項)等の規定が継続企業の原則(ゴーイング・コンサーン)に基づく所得金額の計算を前提にしているから、過年度の修正損は前期損益修正としてそれが生じた事業年度の特別損益項目として処理すべきとし、「このことについて、法人が特定の事業年度において金銭の貸付けの取引に係る利息又は遅延損害金の債務の弁済として金銭の支払を受けた場合に関し、異なって解釈すべき根拠は見当たらない。」と判示し、本件更生債権の確定等につき、「本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の計算に遡及的に影響を及ぼすものとはいえず、当該事由をもって、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえない。」と判示している。
次いで、一審判決は、更生会社において過年度損失の救済規定が不十分であることに関し、「法人税法には更生会社につき一定の事項につき特別な取扱いをすることを定める規定がある(同法33条3項、59条等参照)一方で、同法、会社更生法及びそれらの関係法令上、清算することが予定されている更生会社や法人税法57条又は80条1項の規定の適用を受ける要件を満たさない更生会社につきXの主張するような過年度所得の是正に関する取扱いをすることを許容する旨を定めた規定は見当たらず、このような各種の規定の下において、更生計画で更生会社を清算することとされた等の一事をもって、同法22条4項に定める公正処理基準に該当する前期損益修正の処理と異なる処理をすべきものとはいい難いというべきであり、このことについて、当該更生計画において更正の請求につき更正をすべき理由があるとされたとした場合の還付金の取扱い等に関して定められたところのいかんによって左右されるものと解すべき根拠も見当たらない。」と判示している。
更に、一審判決は、措置法通達との関係について、「課税の対象となる土地等の譲渡は当該法人においてそれが継続的にされるとは限らないため、当該課税の対象となった譲渡に係る契約が後の事業年度において解除されたときには、本来の計算に係る法人税の額とは別にその税額を計算して課する当該課税の性質上、遡及して計算しない限りその課税関係を是正することができないことから、租税特別措置法通達63(6)-5が、そのようなときについては当該譲渡がされた事業年度の当該譲渡に係る譲渡利益金額に対する当該税額に限って通則法23条2項の規定による更正の請求をすることができると解釈する旨を明らかにしたものと認められるものであり、やはり本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。」と判示している。
(2)以上の一審の判決の判示は、ほぼ国側の主張に沿ったものであるが、控訴審判決もそれを全面的に認容している。しかしながら、このような判示については、幾つかの問題点を指摘できる。
まず、一審判決は、企業会計上の一般原則であるゴーイング・コンサーンを前提として、法人税の所得金額の計算の原則を説くが、本件のように、ゴーイング・コンサーンの前提が崩壊した場合の対応について何ら説得的な判示をせず、また、企業会計原則等で前期損益修正項目がそれが生じた事業年度の特別損益項目として処理されていることを指摘するが、当該特別損益としての処理が、平成21年12月に制定された「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準委員会)において否定されていることについて何ら言及していない。
また、一審判決は、本件更生債権の確定につき、通則法23条1項1号にいう「法律の規定に従っていなかったこと」に該当しない旨を直接判示するが、本件各更正の請求は同法23条2項1号にいう「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の……当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」に該当する旨主張しているのであるから、当該主張に対応した判断が求められるはずである。
次いで、一審判決は、法人税法上、更生会社について本件のような更正の請求の制度は認められておらず、かつ、措置法通達の取扱いは土地譲渡について継続性が認められていないが故に、本件とは事案を異にする旨判示する。しかし、法人税法上、更生会社に対する更正の請求の特例が設けられていないが故に、通則法上の更正の請求に関する本則規定の適用が問題になるはずであるし、現に、国税庁も、法律上の明文の規定がなくても、いわゆる土地重課税について前述のような措置法通達を定めているところである。そして、同通達の趣旨である土地譲渡に継続性がないということは、本件のような更生会社の過年度損失についてもゴーイング・コンサーンの概念を適用できないことと共通しているはずである。
いずれにしても、本件においては、T更生会社は、本件各事業年度において制限超過利息に対する所得金額についても法人税額を納付しているところ、当該制限超過利息を返還せざるを得なくなったのであるから、当該法人税額相当額を納付する必要がなかったことになり、当該金額について国に不当利得が生じたものと考えられる。もちろん、T更生会社が、ゴーイング・コンサーンの下、当該返還額を返還が確定した事業年度の損金の額に算入して爾後の法人税額が控除し得ることであればその理も成り立つが、それが適わないのであるから、通則法の本則に照らして更正の請求を認めるべきであるとも考えられる(注11)。
5 本判決の意義と問題点 以上のように、本件は、大手消費者金融会社であったT更生会社が、最高裁平成18年判決の影響を受けて更生会社となり、本件更生債権の確定を事由として、本件各事業年度に収受した制限超過利息相当額に対応する法人税額の還付(減額更正)を求めて、更正の請求をしたことの是非が争われたものである。
法人税における後発的事由に基づく更正の請求については、既に述べたように、厳しく制限されているところであるが、本件のような更生会社に係る事案は初めてのことであるので、裁判所がどのような判断を下すか非常に注目されていた。しかし、本件各判決は、従前の国側の取扱いとその主張をほぼ認めたものであるため、従前指摘されてきた問題点について何らふれるところがなかった。その点では、説得力の欠く新鮮味のない判決ではある。
本件各判決の問題点については、既に、指摘したところであるが、最近の裁判例、例えば、東京地裁平成26年2月18日判決(平成24年(行ウ)第854号)(注12)及び東京高裁平成26年10月30日判決(平成26年(行コ)第99号)等では、実質的に国に不当利得が生じているにもかかわらず、関係条項を厳しくかつ形式的に適用して、後発的事由に基づく更正の請求を否認している。本件各判決も、その点では共通したところが見られる。ともあれ、更正の請求をめぐる裁判例では、関係条項を厳しく解するものと、弾力的に解するもの(注13)とに分かれているといえる。
(注1)この判決については、品川芳宣「重要租税判決の実務研究 第三版」(大蔵財務協会 平成26年)706頁等参照。
(注2)この判決の評釈については、芝池義一「租税判例百選 第2版」(別冊ジュリストNo.79)148頁等がある。
(注3)名古屋高裁昭和52年6月28日判決(訟務月報23巻7号1242頁)等参照。
(注4)盛岡地裁平成5年3月26日判決(税資194号1080頁)、東京地裁平成5年10月15日判決(同199号253頁)等参照。
(注5)更正の請求制度の沿革の詳細については、品川芳宣「国税通則法の実務研究 第6回」税理2014年3月号17頁、同「国税通則法の実務解説 第4回」租税研究2014年1月号117頁等参照。
(注6)東京地裁平成21年2月27日判決(判例タイムズ1355号123頁)、最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決(判例時報2056号46頁)等参照。
(注7)品川芳宣「国税通則法の実務研究 第7回」税理2014年4月号152頁等参照。
(注8)森文人「法人税基本通達逐条解説(第6版)」(税務研究会 平成23年)222頁。
(注9)品川芳宣「国税通則法の実務研究 第8回」税理2014年5月号104頁等参照。
(注10)品川芳宣「重要租税判決の実務研究 第3版」(大蔵財務協会 平成26年)606頁参照。
(注11)前出(注9)107頁等参照。
(注12)同判決の評釈については、品川芳宣・本誌2014年5月26日号14頁等参照。
(注13)前出(注6)の各判決参照。
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