カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

コラム2015年02月23日 【税理士損害賠償訴訟判決紹介】 特定資産の買換特例を巡り税理士が一部敗訴した事件(2015年2月23日号・№583)

税理士損害賠償訴訟判決紹介
特定資産の買換特例を巡り税理士が一部敗訴した事件
修正申告を怠った税理士に約90万円の賠償命令

○個人の特定資産の買換特例に関する買換資産を取得期限までに取得できなかった場合に必要とされる修正申告書の提出を怠った税理士に対し、過少申告加算税・延滞税相当額(約90万円)の損害賠償が命じられた事件(本誌522号40頁で紹介)。本件では、原告が代表取締役を務める原告会社の法人税の買換特例に係る修正申告についても、税理士に対して税賠訴訟が提起されていたが、こちらは税理士が勝訴する結果となった。

事案の概要  原告らは、不動産を売却した際、税理士である被告に対し、原告会社の法人税及び原告Bの所得税に関し、租税特別措置法が定める事業用資産の買換えの特例の利用を依頼したが、原告らが買換資産の取得指定期間までに買換資産を取得せず、確定申告時に当該売却に係る不動産の譲渡益を申告しなかったため、それぞれ修正申告が必要となり、過少申告加算税、延滞税等を賦課された。本件は、原告会社については、被告が原告会社に対し、取得期限までに買換資産を取得しなければならないこと等を十分に説明しなかったとして、税務顧問契約上及び税務代理契約上の説明義務を怠った債務不履行に基づき、原告Bについては、買換資産を取得せず修正申告が必要であったのに、被告が修正申告を怠った債務不履行に基づき、原告らが、被告に対し、上記各修正申告の結果生じた過少申告加算税、延滞税等相当の損害の賠償を請求する事案である。

前提事実
(1)当事者等
ア 原告会社は、不動産の賃貸管理業等を行っている株式会社である(事業年度は5月1日から翌年4月30日)。原告Bは、原告会社の代表取締役である。
イ 被告は、元税務署職員であり、退職後××税理士会××支部所属の税理士となり、原告会社との間で、平成15年頃、税務顧問契約を締結し、平成21年4月末日まで税務相談、税務代理業務を受任し、原告Bとの間では、確定申告書の作成、申告代行業務を受任していた。
(2)事業用資産の買換えの特例 ア 法人税
  法人が、特定の資産を譲渡して、当該譲渡の日の属する事業年度の翌事業年度開始日から1年以内に、特定の資産(以下「買換資産」という。)を取得し、かつ、当該取得の日から1年以内に、当該買換資産を当該法人の特定の事業の用に供する見込みであるときは、資産の譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる(租税特別措置法65条の8第1項、7項、9項及び12項、法人税法22条参照)。買換資産を取得すべき期間(以下「取得指定期間」という。)は、特別の事情があるときは、譲渡の日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から3年以内で税務署長が認定した日まで延長することができる(租税特別措置法65条の8第1項参照)。
イ 所得税
 個人が、その所有する事業用の土地建物等を譲渡した場合において、当該譲渡の日の属する年の翌年中(やむを得ない事情がある場合で、税務署長の承認を受けたときは、当該翌年の12月31日後2年以内において税務署長の認定した日までの期間)に、特定の資産(買換資産)を取得する見込みであり、かつ、当該取得の日から1年以内に、当該買換資産を特定地域内において当該個人の事業の用に供する見込みであるときは、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることできる(租税特別措置法37条1項、4項参照)。
(3)原告会社の事業用不動産の売却と買換えの特例の利用 ア 原告会社及びC(以下「C」という。)は、平成17年4月27日、××県○○市に所在する原告会社所有の事業用建物を含む不動産を売却代金8億3316万円で売却した<証拠略>。
イ 原告会社は、顧問税理士である被告に対し、上記アの建物等売却に伴い、法人税について、事業用資産の買換えの特例を受けることを希望し、買換資産を取得する予定があることを伝えた。被告は、これを受けて、平成18年6月29日、上記アの譲渡につき、××税務署長に対して、特定の資産の譲渡に伴う特別勘定(特別勘定金額2億2000万円余)を設けた旨を記載した原告会社の確定申告書を提出した<証拠略>。
  併せて、被告は、同日受付の「特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書」を提出し、これに基づき、原告会社の買換資産の取得指定期間は、平成21年4月30日まで延長された<証拠略>。
ウ 被告は、平成21年4月30日、××税務署長に対して、再度、上記取得指定期間を平成23年4月30日まで延長する旨の申請をした<証拠略>。
エ 原告会社は、平成21年7月頃、××税務署から取得指定期間の再延長は認められない旨の連絡を受け、修正申告をする必要があったところ、平成22年4月28日、D税理士(以下「D税理士」という。)に依頼して、原告会社が平成21年4月30日付けで原告B所有の××所在の土地建物を買換資産として取得したものとして修正申告をした<証拠略>。
  しかし、上記土地建物の取得価額(実額)が高額でなかったため、上記修正申告においては、上記特別勘定金額のうち1億円余が所得として計上されることとなり、その結果、原告会社には、2632万円の法人税をはじめ、法人都民税、法人事業税が新たに賦課されることとなった<証拠略>。
オ さらに、原告会社は、上記修正申告により、上記法人税のほか、過少申告加算税392万3000円、延滞税54万7900円、法人事業税・都民税(延滞金・加算金)52万7400円を賦課され、平成22年7月29日までにこれらをいずれも納付した<証拠略>。
  また、原告会社は、上記修正申告の税理士費用180万円をD税理士に支払った<証拠略>。
(4)原告Bの買換え特例の利用 ア 原告Bは、平成19年6月18日、個人で所有する事業用の土地を5500万円で売却した<証拠略>。
イ 原告Bは、上記土地売却による譲渡益について、所得税に関する買換えの特例を受けることを希望し、被告は、その希望に沿って、原告のために確定申告をした。この場合における買換資産の取得期限は、平成20年12月31日であった。
ウ 原告Bは、同日までに買換資産を取得しなかったため、平成21年4月30日までに平成19年分の所得税について修正申告をする必要があったところ(租税特別措置法37条の2第2項2号参照)、被告は、同日までに修正申告をせず、原告Bは、平成22年4月28日に修正申告をした<証拠略>。原告Bは、上記修正申告により、過少申告加算税63万4000円及び延滞税26万9600円を賦課され、同年6月及び8月にこれらを納付した<証拠略>。
  また、原告Bは、上記修正申告を依頼したD税理士に対して、税理士費用21万円を支払った。
(5)原告らは、平成22年11月11日、被告に対し、上記(3)オ及び(4)ウの過少申告加算税等の賦課により、原告会社は679万8300円、原告Bは111万3600円の損害を被ったとして、これらの支払を請求した<証拠略>。

争点及び争点に関する当事者の主張
(1)原告会社に対する責任
 ア 原告会社の主張
(ア)平成18年6月29日付け取得指定期間の延長承認申請に関する説明義務違反
  税理士である被告は、平成18年6月29日付け取得指定期間の延長承認申請書を提出した際、原告会社に対して、取得指定期間内に買換資産を取得しなければならないこと、取得しない場合は譲渡益について多額の課税がなされること、取得指定期間内に買換資産を取得した場合であっても、取得価格が取得見込み価格を下回っている場合にはその差額に法人税、法人事業税、法人都民税を賦課されるので、その場合は納税資金の準備が必要であることを具体的に説明する義務、及び取得指定期間内に買換資産を取得するよう促す義務があったが、これらを怠った。
(イ)平成21年4月30日付けで再度、取得指定期間の延長承認申請をした際の説明義務違反
  被告が、平成21年4月30日の時点で、原告会社に対し、再度の延長承認申請が認められないことを説明していれば、原告会社は、原告B所有の個人資産について直ちに売買契約をし、同年4月決算の確定申告(申告期限は同年6月30日)までに、買換資産を取得していたとして申告することが可能であったが、被告は、法律上認められる余地のない再度の取得指定期間の延長承認申請をすることで、原告会社をして取得指定期間の再延長がなされるものと誤解させ、原告会社に修正申告を余儀なくさせた。
  したがって、被告は、平成21年4月30日時点で、原告会社に対し、再度の取得指定期間の延長承認申請は認められない旨説明すべき義務を負っていたのに、これを怠った。
(ウ)(イ)が承認されなかったことについての説明義務違反
  被告は、再度の延長承認申請が認められる可能性がないとの認識を有していたのであるから、原告会社又は後任の税理士に対して、再度の延長承認申請が認められない場合の事後処理を連絡すべき義務があったが、これを怠った。
 イ 被告の主張 (ア)平成18年6月29日付け取得指定期間の延長承認申請に関する説明義務違反
  被告は、原告Bから、原告会社の買換資産の取得に時間がかかることを告げられ、平成18年6月29日、取得指定期間の延長申請を行い、さらに、平成19年4月、原告Bから、買換資産を変更し入れ替えて欲しいとの申し出を受け、税務署の担当者と交渉し、買換資産を変更するべく、同月付の期間延長承認申請を税務署長に提出した。被告は、税務署の指導により、平成20年に、平成19年4月にした上記申請を取り下げ、平成18年6月29日にした申請の買換資産を差し替えることにより、買換資産を入れ替えた。被告は、原告Bに、原告会社の買換資産の変更につき、税務署との交渉内容や過程を説明し、原告Bはこれを理解していた。被告は、原告Bに対して、原告会社の取得指定期間が迫っていること、同期間内に買換資産を取得するよう再三注意喚起し、取得しなければ法人税、法人事業税、法人都民税等約9000万円以上の納税が必要になること、取得指定期間内に買換資産を取得した場合であっても、相当額の税が課税されることを平成18年から平成21年にかけて、毎年申告書を提出する時期には説明していた。譲渡益のうち課税される金額は、買換資産の実額によっても変化するため、具体的な数字を示して説明することになじまないところ、被告は、上記のとおり、確定申告をする際に、原告会社に対して、買換資産を取得した場合に必要となる納税額の概算や、買換資産を取得した場合には納税額が安くなることを説明している。
  さらに、原告Bは、以前に個人所有の事業用不動産を売却した際に、買換えの特例を利用し、買換資産は原則として1年以内に取得しなければならないことを認識していたのであり、平成17年、18年に、被告から買換期限の存在についての説明を受けていたことは明らかである。
  原告Bは、所得税に関する買換えの特例について理解している状態であったから、原告Bに対して上記のように説明すれば、原告会社に対する法人税における買換えの特例の説明として十分であった。
(イ)平成21年4月30日付け再度の延長承認申請をした際の説明義務違反
  被告は、原告会社の要望に基づいて、再度の延長承認申請をやむを得ず行ったに過ぎず、その際、原告Bに対して、取得指定期間の3年を超える延長申請は認められない可能性があることを十分に説明した。再度の延長申請が認められなかった場合の具体的な処理については、原告会社が新しい税理士に相談すれば足りることであるから、被告は、原告会社に対して、再度の延長申請が認められなかった場合の具体的処理については説明していなかったが、その場合には、新しい税理士において原告会社の修正申告を行うことを検討してもらう必要がある旨説明した。
  さらに、原告Bは、平成14年度に、所得税に関する買換えの特例を利用しようとしたが、買換資産を取得せずに修正申告した経験があり、仮に被告の助言がなくても、原告会社が買換えできなかった場合に修正申告が必要であることは認識、理解していた。
  また、原告会社は、平成19年4月になって、被告に対して、Cが共有持分を有する××の土地を取得したいので、同土地を買換資産の第3順位から第1順位に繰り上げて、さらに第2順位にCが共有持分を有する××の土地を加えるよう、買換資産の入替えを要望した。これは、原告会社がCに対して有する債権の代物弁済として××の土地を取得することを目的として行われたものであった。
  原告会社は、被告の再三の注意喚起・説得にもかかわらず、自らの都合により買換資産の取得を行わなかっただけである。
(ウ)(イ)が承認されなかったことについての説明義務違反
  被告は、平成21年5月頃、税務署から再延長申請が承認されなかった旨の連絡を受けたことはなく、平成22年7月頃に税務署から「結果として納得できる形で済ませた。」との連絡があったのみであるから、被告には、平成21年6月末までに再度の延長申請が認められなかったとの認識はないため、原告会社に対する説明義務は生じない。
(2)原告Bに対する責任
 ア 原告の主張
 被告は、原告Bが、取得指定期間である平成20年12月31日までに買換資産を取得していなかったため、平成19年分所得税(不動産の譲渡所得)について、税務申告代行契約上、平成21年4月末日までに、買換資産を取得しなかったものとして修正申告すべき義務があったのに、これを怠った。
 イ 被告の主張  被告が、原告Bに対して、税務申告代行契約に基づき、上記修正申告義務があったこと、これを失念し修正申告をしなかったことは認める。
(3)原告らの損害
 ア 原告らの主張
(ア)原告会社の損害
  原告会社は、修正申告をした結果、過少申告加算税392万3000円、延滞税54万7900円、法人事業税・都民税52万7400円を賦課されるとともに、修正申告を依頼した税理士に180万円を支払った。したがって、原告会社は、合計679万8300円の損害を被った。
(イ)原告Bの損害
  原告Bは、修正申告の結果、過少申告加算税63万4000円、延滞税26万9600円を賦課されるとともに、修正申告を依頼した税理士に21万円を支払った。したがって、原告Bは、合計111万3600円の損害を被った。
(ウ)原告会社は、平成21年7月当時、納税資金を準備していなかったが、これは、被告が納税資金の準備を指導助言しなかったためである。したがって、被告の債務不履行と原告らの上記(ア)(イ)の損害との間に因果関係があることは明らかである。
 イ 被告の主張 (ア)原告会社の損害
  仮に、被告に再延長申請が認められないことについての説明義務違反が認められたとしても、原告会社は、平成21年4月ないし6月当時、本税を納めるための納税資金がなかったのであるから、被告の説明の有無にかかわらず、本税を納めることができず、過少申告加算税や延滞税は発生したというべきである。したがって、被告の行為によって、原告会社の損害が発生したとは認められない。
  また、原告会社が主張する税理士費用180万円については、原告会社が修正申告をする際に支出することが当然予定されているものであるから、被告による善管注意義務違反が認められたとしても、上記税理士費用との相当因果関係は認められない。
(イ)原告Bの損害
  原告Bが平成21年4月末日までの修正申告をしなかったことによって、過少申告加算税63万4000円及び延滞税26万9600円が課税され、合計90万3600円の損害が発生したことは認める。しかし、原告Bが修正申告手続に要した税理士費用21万円は、被告が原告Bの依頼を受けて修正申告手続を行った場合においても発生する費用であり、被告が原告Bの修正申告を失念したことと相当因果関係のある損害とは認められない。
(4)相殺及び(5)過失相殺 (略)

裁判所の判断
1 認定事実
(1)被告は、平成15年夏ごろ、原告会社との間で、同年5月以降の会計期分につき、税務顧問契約を締結し、以後、会計顧問報酬及び記帳代行報酬として年額84万円を受領していた。被告は、原告Bとの間では、税務顧問契約を締結せず、確定申告手続のみ受任し、確定申告手数料を受領していた。<証拠略> (2)原告Bは、平成14年に個人所有の事業用不動産を売却し、事業用資産の買換えの特例を利用していたところ、この取得期限は平成15年12月末であった。被告は、同月中旬頃に、原告Bと年末調整の打合せをした際、原告Bが買換資産を取得していなかったことから、特例の期限が同月末までであること、期限延長の申出が可能であることを教示した。しかし、原告Bは、上記買換資産を取得しなかったため、被告は、平成16年3月に原告Bの平成14年分所得税について修正申告をした。<証拠略> (3)原告会社は、平成17年4月27日、××に所有していた借地権付き事業用建物を売却し、同年5月中旬頃、被告に対して、事業用資産の買換えの特例の利用を要請した。
 原告Bは、上記特例における買換資産の候補として、①××の原告B所有の土地(以下「不動産①」という。)、②不動産①の土地上の原告B所有の建物(以下「不動産②」という。)、③××の原告B所有の土地(以下「不動産③」という。)及び④Cが共有持分を有する××の土地(以下「不動産④」という。)を買換資産として欲しい旨要望した。被告は、平成18年6月29日、買換資産の明細書に不動産①から④を記載した上で、期間延長承認申請書を××税務署長に対して提出した。<証拠略> (4)原告会社は、Cに対して、1億数千万円の債権を有していたところ、同債権に対する代物弁済として、いずれもCが共有持分を有する上記不動産④及び××の別の土地(以下「不動産⑤」という。)を取得することが可能であると考えていた。そこで、原告会社は、平成19年4月中旬、被告に対して、買換資産の候補として不動産⑤を加えることを要望した。
 被告は、その際、原告Bに対し、買換えの特例においては原則的に買換資産の変更は認められないことを説明したが、原告Bから強く希望されたため、××税務署との間で、買換資産の入替えを交渉することとなった。そして、被告は、原告Bに対し、入替えを希望することを書面に記載して交付してほしい旨説明した。
 原告Bは、この説明を受けて、買換資産の変更を申し入れる旨の手書きのメモ<証拠略>を作成して被告に交付した。上記メモには、「代替資産について変更をお願いします」「昨年6月申告書提出時に於ては私が所有ビルを買替資産に予定して居りましたが昨年5月に当社が関係していますCに相続が発生し××建設時に保証金として差入した残金一億数千万円の返還が不能になる恐れが生じましたので相続を整理して残地について当社が買取ることに成りましたので変更をお願いする次第です」と記載されている。<証拠略> (5)被告は、平成19年4月26日、××税務署長に対し、買換資産として不動産④と⑤を記載した取得指定期間の延長承認申請書を上記メモとともに提出し、受理された。
 しかし、平成20年春頃、××税務署から、その方法では買換資産を入れ替えることはできない旨の指摘を受けて、被告は、××税務署と交渉を継続し、その結果、平成19年4月26日提出の期間延長承認申請書を取下げるとともに、従前提出していた期間延長承認申請書を差し替え、また、確定申告書付表を差替えるよう指示を受けた。そこで、被告は、従前提出していた平成18年6月29日受付の設定期間延長承認申請書を、買換資産として不動産④⑤のみを記載した新しい申請書に差し替えた。
 さらに、既に提出していた平成18年度の決算報告書の付表である「特定の資産の譲渡に伴う特別勘定を設けた場合の取得予定資産の明細表」として、「取得予定資産の明細」欄に不動産④及び⑤を記載したものを追加で綴じ込んだが、従前から添付されていた付表(買換資産として不動産①ないし④が記載されている付表)を抜き取らなかった。<証拠略> (6)被告は、平成21年3月、原告Bに対して、法人税の買換えの特例の取得指定期間が迫っていることを指摘し、買換資産の取得の見通しを確認したところ、原告Bは、取得は進んでいないため見通しとしては難しい旨回答した。被告は、同年4月27日に、原告Bに対して、買換資産の取得の進捗を確認したところ、期限までの取得は難しい旨説明を受けたことから、××税務署に対策を相談することにした。被告は、××税務署から、認められる可能性は低いものの再度の延長承認申請書を出したらどうかとの示唆を受けた。
 被告は、同月30日に、原告Bに対して、「念のため再延長の申請書を提出するが、再延長申請は認められない可能性がある」旨説明した上で、同日付けの延長承認申請書への署名押印を求め、××税務署長に対し設定期間延長承認申請書を提出した。上記申請書には、買換資産として不動産④及び⑤が掲げられ、「設定期間の延長を必要とする理由」として「①取得しようとする資産の所有者(登記名義人)および相続人が複雑であること、②会社債権を確保するための方策として最適であること」と記載されている。<証拠略> (7)被告は、平成21年3月頃、原告Bに対して、原告会社との顧問契約を解約したいこと、同年4月期の決算申告は担当しないことを申し出た。その際、被告は、原告Bに対して、原告会社が買換えの特例を利用していることについては、他の税理士に相談するよう指導したが、同年の確定申告期限までに買換えができなかった場合の具体的な処理については何も説明しなかった。被告は、同年6月4月、原告会社の事務所を訪問し、原告会社の会計資料を持参して、原告会社との税務顧問契約を解約する旨伝えた。<証拠略> (8)D税理士は、平成21年6月中旬頃、原告Bから確定申告につき相談を受け、原告会社の決算資料を確認したところ、原告会社が買換えの特例を利用していることを把握したため、原告Bに対して、買換えの特例の利用の有無を確認した。原告Bは、D税理士に対し、買換えの特例を利用していることを告げて、××税務署長による同年4月30日付けの受付印が押された上記(6)の再度の延長承認申請書を見せたところ、D税理士は、同申請書を見て、原告会社の買換えの特例の利用期間が法文上予定された期間を経過していることを認識し、××税務署がこのような通常あり得ない受付処理をしたのは、被告が税務署のOBであり、税務署に対して影響力を持っているためであると考えた。
 D税理士は、買換えの特例の利用があり、確定申告までの期間も限られていることから、原告会社からの依頼を一旦断ったものの、原告Bから、とりあえず決算申告を済ませてほしい旨依頼され、決算申告のみを受任した。
 D税理士は、原告Bに対して、上記の再度の延長承認申請が通常あり得ない申請であることを説明し、後で調べるよう指導し、同年6月30日の決算申告においては、買換えの特例について棚上げし、これに触れない形で申告を了した。<証拠略> (9)D税理士は、平成21年7月23日、××税務署から、原告会社については買換えの特例の取得指定期間の延長が認められないため、同年4月期決算の修正申告を改めて出すよう指示する旨の連絡を受け、直ちに、原告Bに連絡した。原告会社は、同年7月30日、D税理士との間で、税務顧問契約を締結し、修正申告の準備を開始した。D税理士が、原告会社が持参した資料にて買換資産を確認したところ、原告会社の平成18年4月30日の決算報告書には13表がなく、別表に付表があって不動産④及び⑤を買換資産としており、平成19年4月の同報告書には13表のみが付いていて買換資産は判明せず、平成20年4月の同報告書には13表も別表も付いていなかった。
 D税理士は、同年8月24日、××税務署の担当者と面談し、原告会社の修正申告について相談したところ、担当者は、当初、買換資産に建物はないと回答していたが、××税務署が保管していた平成18年の原告会社の決算報告書の13表には不動産①及び②が記載され、取得予定期間が平成19年4月30日になっていた。D税理士は、原告会社が、仮に買換えの特例を利用する場合、原告Bの所有する不動産①及び②を買換資産として認めてもらえるかを確認し、担当者から、認めるので、平成21年4月30日付けで売買契約書を作成して提出するよう指導された。
 これを受けて、D税理士は、直ちに、原告Bに不動産①及び②を同日に取得したことにする方法を提案し、原告Bはそれに同意し、原告会社は、売主を原告B、買主を原告会社とする売買契約書を作成して、××税務署に提出した。<証拠略> (10)原告会社は、直ちに上記の方法に基づく修正申告をすることなく、平成22年4月28日に至って、ようやく不動産①及び②を買換資産とする修正申告をし、同年7月29日までの間に、法人税2632万円、法人都民税551万8000円、法人事業税887万7000円、譲渡税過少申告加算税392万3000円、法人税の延滞税54万7900円、法人事業税都民税の延滞金52万7400円を納税した。このように修正申告及び納税が遅れたのは、原告会社において、少なくとも平成21年6月から平成22年4月30日までの間、上記納税のための資金を準備することができない状態であったためであり、原告会社は、同日に至り、××から融資を受けたことから、その資金により納税することができた。<証拠略> 2 原告会社の請求について
(1)
税理士は、税務に関する専門家として、独立公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼に応え、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものである(税理士法1条)。税理士は税務の専門家であるから、依頼者から税務に関する相談を受けたときは、税務に関する法令、実務に関する専門的知識に基づいて、依頼者の依頼の趣旨に則り、適切な助言や指導を行う義務がある。そして、税理士である被告は、原告会社との間で、税務顧問契約を締結し、決算の方針の決定、決算書類及び確定申告書類の作成に関して助言と指導を行ってきた者であるから、原告会社の行う確定申告について、税務に関する法令、実務に関する専門的知識に基づいて、原告会社が損害を被ることのないように指導及び助言をする義務がある。
(2)本件において、原告会社は、被告の上記指導及び助言義務違反として、次のないしの説明義務違反を主張するため、以下検討する。
 ア 平成18年6月29日付け取得指定期間の延長承認申請に関する説明義務違反について (ア)原告会社は、被告が、原告会社に対して、買換えの特例の利用について、買換えの期限が決まっていること、取得指定期間内に買換資産を取得しなければ、多額の課税がなされること、取得指定期間内に買換資産を取得した場合であっても、取得価格が取得見込み価格を下回っている場合にはその差額に法人税、法人事業税、法人都民税を課税されるので、その場合は納税資金の準備が必要であることを具体的に説明する義務、及び取得指定期間内に買換資産を取得するよう促す義務があった旨主張する。
(イ)そこで検討するに、まず、前記認定事実(3)から(5)のとおり、本件では、平成18年6月に取得指定期間の延長申請がされ、その後、買換資産が入れ替えられており、特に、買換資産の入替えは、税理士である被告において資産の選定ができるものではなく、原告会社、すなわち原告Bの希望によってされた入替えであると認められる。原告Bは、不動産事業者として複数の不動産を所有し、一定の売買経験が有り、経営者として不動産売買に関する税務の基本的な知識(不動産の譲渡益が発生すれば、それが法人の益金として課税対象となることの理解)を有していることに加え、平成14年度に個人所有の事業用資産の買換えの特例の利用を試みた経験があるので、これと法人税法上の買換えの特例とは、その仕組みが類似していることからすれば、原告Bは、法人税の納税額の詳細な計算方法に関する理解がなかったとしても、買換えの特例の仕組みとして、それが事業用資産の譲渡益に対する納税を、一定期限内で買換えを実行することにより、一定期間繰り延べる特例であることは理解しており、買換えの期限が決まっていて、譲渡益に応じた納税義務があることを認識していたものと認められる。だからこそ、原告Bは、被告に対し、取得指定期間の延長申請をするよう希望し、譲渡益を踏まえた納税額が買換えにより有利になるように、買換資産を入れ替えたものと考えられる。以上からすると、原告会社は、買換えの特例の利用について、買換えの期限が決まっていること、取得指定期間内に買換資産を取得しなければ、多額の課税がなされること、取得指定期間内に買換資産を取得した場合であっても、取得価格が取得見込み価格を下回っている場合にはその差額に法人税、法人事業税、法人都民税を課税されるので、その場合は納税資金の準備が必要であることを理解していたと認められる。
(ウ)そして、通常の経営者にとって、確定申告における納税額は極めて重要な事項で、重大な関心が払われるものであるから、原告会社を経営する原告Bは、買換えの特例の適用がない場合の納税額についても重大な関心を持っていたことは否定し難い。原告会社は、平成17年度に事業用不動産を売却して、譲渡益が発生したため、それにつき買換えの特例を利用したのであるから、買換えが実現できなかった場合の納税額について、平成18年の決算以降、どの程度納税額が発生するか重大な関心を抱くはずであるし、原告Bも、いつまでに買換資産を取得する必要があるのかを被告に質問したことは認めているところ<証拠略>、原告会社は、平成20年度の確定申告に至るまで、被告との税務顧問契約を継続していることから、被告が原告Bからの質問を全く取り合わなかったとも考え難い。
  そうすると、被告の供述<証拠略>のとおり、被告は、平成18年度の決算の際に、買換えの特例が適用されなかった場合の納税について概算額は示した上で説明していたと認めることができる。
(エ)原告は、買換えの特例を利用した場合における具体的な納税金額についても説明すべきであると主張するが、本件では複数の買換資産を予定し、またその入替えもあったから、買換えの特例を利用した場合の納税額については、買換資産により異なるので確定的な説明に馴染まず、原告会社の不動産譲渡益についての納税額が一番多くなる納税額(買換えの特例を適用しなかった場合についての納税額)の概要について説明をしていれば、納税に関する顧問税理士の助言指導の内容として十分である。納税資金の準備それ自体は、依頼者の責任の範疇であるから、税理士は納税資金の準備について指導しなかったとしても、税理士としての善管注意義務違反になるとはいえない。そして、被告は、買換えの特例を利用しなかった場合の納税額については、上記(ウ)のとおり、原告会社に対して説明したことが認められる以上、原告会社が平成21年6月時点で納税準備をしていなかったことについて、被告の説明義務違反があるとは認められない。
(オ)以上により、原告会社が主張する上記(ア)の説明義務違反の事実は認められない。
 イ 平成21年4月30日付け再度の延長承認申請をした際の説明義務違反について (ア)原告会社は、被告が、法律上認められる余地のない再度の延長承認申請をし、原告会社をして、取得指定期間の再延長がなされるものと誤解させ、その結果、原告会社は平成21年4月決算の確定申告において、平成18年4月期決算期の修正申告をすることができなかったのであるから、被告は、原告会社に対して、再度の取得指定期間の延長承認申請は認められない旨説明すべき義務があり、これを怠ったと主張する。
(イ)しかし、前記認定事実(6)のとおり、被告は、平成21年4月30日に、原告Bに対して、念のため再延長の申請書を提出するが、再延長承認申請は認められない可能性があること、認められない場合は修正申告が必要であり、新しい税理士に相談するよう説明していたことが認められ、原告会社の上記主張はその前提として被告から再延長承認申請が認められない可能性があることの説明がなかったとする点で前提が異なり、採用することができない。
(ウ)この点につき、原告Bは、原告会社の資産の買換えについて、再度の延長承認申請が認められない可能性があるとの説明は受けていないと供述する。しかし、証人Dの証言によれば、D税理士は、平成21年6月中旬頃に、原告Bから同月末日期限の確定申告についての相談を受け、原告会社の資料から買換えの特例を利用していることや、同年4月30日付けの取得指定期間の延長承認申請書は実務上あり得ないものであることを認識し、その旨原告Bに説明したことが認められるところ、その説明の際、原告Bが特に驚いた反応を明確に示したり、期間の再延長が認められると信頼しているような発言をしたりしていた事情は認められない。上記のような原告Bの態度は、被告が、平成21年4月30日付け延長承認申請書を作成する際に、原告Bに対して、再延長は認められない可能性があることを説明していたことに沿うものである。また、原告Bは、本人尋問において、一方で、再延長が認められたと信じていた旨供述するが、他方で、再延長が認められたに違いないという認識はなかったとか、再延長の申請をすること自体を認識していなかったと供述する部分もあり<証拠略>、取得指定期間が再延長されたか否かという重要な点について供述に一貫しない点が認められる。したがって、再度の延長承認申請が認められない可能性があるとの説明を受けていないとする原告Bの上記供述は信用することができない。
(エ)以上によれば、原告会社が主張する上記(ア)の説明義務違反の事実は認められない。
 ウ 再度の延長承認申請が認められなかったことについての説明義務違反について (ア)原告会社は、平成21年4月末日決算の確定申告において、被告が、再度の延長承認申請が認められる可能性がないとの認識を有していた以上、原告会社又は後任の税理士に対して、再度の延長承認申請が認められない場合の確定申告後の具体的処理を指導、連絡すべき義務があったが、これを怠った旨主張する。
(イ)しかし、前記認定事実(6)及び(7)のとおり、被告は、原告Bに対して、取得指定期間の再度の延長承認申請が認められない可能性があること及び修正申告が必要となるので、その場合は新しい税理士に相談するよう説明したことが認められる。そして、前記認定事実(8)のとおり、原告Bは、D税理士に平成21年6月末日期限の確定申告について相談し、D税理士は原告会社が買換えの特例を利用していること、取得指定期間である平成21年4月30日が経過していることを認識し、同日付けの延長承認申請書は通常あり得ない書面である旨を原告Bに指摘したことが認められる。そうすると、原告会社は、被告が税務顧問を辞任した後、新しい税理士の指導の下、買換えの特例への対応を含めた確定申告の対応が可能な状況になったといえるから、それ以上に、税務顧問を辞任した被告が原告会社の買換えの特例の利用について何らかの事後処理を助言、指導すべき義務があったとは認められない。
  よって、原告主張の上記(ア)の説明義務違反を認めることはできない。
 エ 因果関係について  上記ないしのとおり、被告の原告会社に対する説明義務違反は認められないところ、仮に、被告に何らかの善管注意義務違反があったとしても、前記認定事実(10)のとおり、原告会社は、原告B個人が所有する不動産①及び②を取得することによって買換えの特例による利益を享受することが可能であったものの、平成21年6月頃から平成22年4月30日までの間は、法人税、法人事業税等を納税する資金を準備することができない状態であったことが認められる。したがって、原告会社は、平成21年6月末日の確定申告期限までに、原告B個人が所有する不動産①及び②を取得する方法や、何も取得せずに平成17年度に発生した譲渡益を申告する方法を採用することが極めて困難であり、そのような方法によらずに再度の延長承認申請に期待をかけざるを得ない状況であったということができる。そうすると、譲渡益にかかる法人税等を納税できる財務状態にない原告会社にとっては、平成22年4月28日付けの修正申告により賦課された過少申告加算税及び延滞税は、被告による指導及び助言が不適切だったか否かにかかわらず、発生していた蓋然性が高いといわざるを得ない。
 したがって、上記各税の賦課金額に相当する損害と被告の善管注意義務違反との間には、相当因果関係があると認めることができない。
  以上のとおり、被告の原告会社に対する損害賠償責任は認められない。
3 原告Bの請求について
(1)
被告は、原告Bの修正申告を失念したことを認めていることから、被告は、原告Bに対して、債務不履行に基づき、修正申告を行うことにより賦課された過少申告加算税63万4000円及び延滞税26万9600円の合計90万3600円に相当する損害賠償金を支払う義務を負う。
(2)他方で、原告Bの事業用不動産譲渡に関する譲渡益の修正申告に伴う税理士費用は、被告が債務を履行する場合にも予定される費用であったといえるので、修正申告に要した税理士費用21万円に相当する損害については、上記(1)の債務不履行との間の相当因果関係を認めることができない。

結  論  よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求は、原告Bの請求のうち90万3600円及びこれに対する原告Bの被告に対する請求の日の翌日である平成22年11月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、原告Bのその余の請求及び原告会社の請求は、理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する(東京地方裁判所民事第17部・平成25年9月9日判決)。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索